STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7953.132 コルサント、司法軍装備計画部
最初に机へ出された艦隊表には、三つの合計があった。
契約を履行した数、軍が受領した数、当日の配置へ使える数。シーアが表題を確かめていると、ヴァントは納入記録を開き、最後の受領印を示した。
「プロクラメイターは第三次契約まで履行済み。一四二隻が納入されている。別に、四四隻が建造中だ」
「建造分の工程も見せてください」
「次の頁だ。資材と予算をどこまで契約したかも載せてある」
シーアが配置の欄へ表示を送ると、何隻かの名が灰色になった。整備に入っている艦と、乗員の訓練を続けている艦だった。その一隻を開き、出動可能になる予定日を自分の資料へ移した。
次の資料は、レンディリから届いていた。
ドレッドノート級、クラス750改修。八六隻。
その下に、ドレッドノート-RMUの一八二隻があった。ハイパードライブの換装を行った、それ以前の改修群だった。シーアが個艦の一覧を開くと、レンディリの担当者が通信越しに説明した。
『改修を終えた艦は、古い区分から抜いてあります。個艦番号で照合済みです』
「この二つ以外の稼働艦は」
『七八〇〇年以前に建造された艦だけで、四〇〇隻以上が残っています。所属を移したものもあるので、今回の集計範囲に合う番号を照合中です』
シーアは古い艦の頁へ進んだ。百五十年以上前に建造され、その後も修理を重ね、今なお地方の任務へ出ている船だった。更新の遅れを表す注記が並んでいたが、同じ欄には次の出航予定もあった。
「この艦、次の巡察も入っていますね」
シーアは出航予定を付けたまま、その行を現役の欄に残した。
シーアはさらに下へ表示を送った。
そこにも、ドレッドノートの一覧があった。
先ほどまでと違い、艦長と次の任務の欄がない。保管を担当する機関と、その機関が報告した資産番号だけが続いている。幾つかには直近の点検記録があったが、長い間、移管と会計処理だけが繰り返されているものもあった。
「これは、何隻使えるんですか」
『その質問には、この一覧では答えられません』
レンディリの担当者は言った。
『機関を外した艦もあります。前の復帰案は、見積もりを出したところで止まっていますね。工事の承認は来ていません』
リンドが机へ近づき、シーアの横に立った。納入記録には手を触れず、下に続く保管艦の一覧を拡大した。
「相手に出すのは、こちらだ」
シーアは顔を上げた。
「削減の対象に?」
「新しい艦を減らせば、そのまま任務を減らすことになる。今使っていない艦を手放して、向こうが今使っている艦と、これから造る艦を制限できれば、それに越したことはない」
リンドはレンディリの担当者へ、復帰と改修の見込みを個艦ごとに整理するよう求めた。保管艦の総数を読み上げることはしなかった。まず、共和国が実際に何を廃棄すると約束できるかを確かめる必要があった。
シーアは保管艦の頁を手元へ移した。午前中には、艦隊表の最後に付いた、任務を考える時には使えない数字だった。それが、次の会談へ持っていく資料になった。
*
C.R.C. 7953.145 コルサント、産業委員会執務区画
スカリフの新しい基本計画には、シーアの知らない修正が加わっていた。
初回交渉からの帰還後、彼はDS計画を棚上げしたまま、産業委員会の設計資料保全事業へスカリフを加える案を最高議長へ売り込んでいた。軌道に残るM3185と既存の調査を使い、機密の設計原本を収める中央保管棟、研究と設計支援、試験・試作の区画を整える。艦隊基地として再開できなくても、共和国が維持し続ける施設を先に置くつもりだった。
議長府は候補地の評価を求め、比較と現地との協議を経て、計画は政府の実施部門へ渡されていた。
事業監理官マレナ・キールは、中央棟の配置を変えた理由を説明した。機密媒体の保管庫を通常の通信から分離することと、技術者が資料を使う区画との動線を分けるためだった。シーアが意見を述べる前に、彼女は次の工程表を出した。
「ここから先の設計と施工は、こちらで引き受けます。旧DSの資産を使う部分について、追加の確認をお願いすることはあります」
「現地の調整は、タリ・エン次長へ?」
「ええ。新しい用地と港湾使用の契約は、政府の担当者同士で進めています。次の調査団へ、あなたが同行する必要はありません」
シーアは少し黙り、受け取った修正図を机へ戻した。技術者の常駐も、定期的な輸送も始まる。自分が欲しかった変化だったが、その一つずつを彼が決める事業ではなくなっていた。
「軍事上の設備に関係する変更は、交渉団にも知らせてください。第一期に含めないと説明したものが、途中で加われば困ります」
「それは承知しています。逆に、こちらの施設について新しい約束をする時は、先に実施部門へ照会してください」
キールは連絡先を渡した。シーア個人の回線ではなく、担当部署の窓口が並んでいた。
その日の夕方、彼はスカリフの資料を引継ぎ済みへ移した。建設が始まる時には報告が来る。来なければ自分で確かめようと考えかけ、まずは正式な進捗報告を待つことにした。
机の中央へ戻したのは、ドレッドノートの保管艦一覧だった。
*
C.R.C. 7953.152 司法省、軍事評価会議
保安委員会から来た担当者は、相手側の艦艇数を一つの数字では説明しなかった。
政府の艦隊、企業の保安部門、共同契約に入った武装商船。既に連合側の指揮へ組み込まれたものも、動員時に提供する契約だけを結んだものもある。企業名を変えたため同じ船が別の一覧に現れ、まだ所属を確定できない政府の船が、双方の資料に載っていた。
「現在の推定範囲は、総勢一万から数十万隻です。艦艇と武装商船を含みます」
担当者が述べると、軍の幕僚が紙から顔を上げた。
「随分幅があるな」
「艦籍が確認でき、連合側へ提供される根拠もある群と、企業の動員網まで含めた群では、対象が異なります。下の値を全部、常備の戦闘艦と見なすこともできません」
上の見積もりには、護衛用の武装を持つ輸送船や、軍用へ改装できる船腹が含まれていた。担当者が確実に追えている群だけを表示すると、多くの印が消えた。それでも、既知の企業の航路に沿って、司法軍の拠点の間を埋めるように船が残った。
次の図には、造船設備と改装設備、機関と兵装の供給、船を運用する企業の動員計画が示された。
「軍用船舶の建造、改装、動員へ振り向けられる生産力は、共和国の五倍以上と評価しています」
ハロルドが、比較の前提を訊いた。担当者は、平時の総生産額ではなく、各政府と企業が動員へ使えると見積もった能力だと説明した。すべての船台で同じ大きさの艦を造れるわけではない。だが、既存の船を武装し、修理し、補助任務へ回す能力まで含めれば、新型主力艦の建造だけを見ていては足りなかった。
シーアは、前の頁へ戻った。一度、百隻を保管へ移させたとしても、次の年にそれ以上の艦が引き渡されれば、比率は変わらないどころか悪くなるかもしれない。
「今ある数だけを減らしても、戻される」
リンドが言った。
「こちらが欲しいのは、解体した船の写真ではない。相手の常備戦力が増えず、決めた地域へ置けず、保管した分を勝手に戻せない状態だ」
「生産設備そのものを止める要求は、持っていけますか」
ベイルは参加する企業の一覧へ目を落とし、交渉団に窓口を持つ者を探した。
「最初の要求が工場の閉鎖では、この人たちは席にも着かないでしょう。まず、造った艦をどこへ出すのか話してもらいたい。既存の艦を戻す時にも、同じ一覧で追えるようにできますか」
そこで、保有の総枠とは別に、常備として動かせる数を制限する案が置かれた。新造艦が完成しても上限が自動的に増えるわけではない。引き渡す前に空きがあるかを確かめ、交代させた艦を別会社へ売って同じ任務へ戻すこともできない条件だった。
シーアは、共和国側の建造工程を新しい枠の下へ移した。未納の行がいくつも続いていた。
「うちの後続契約も、この枠へ入れるのですか」
「当然だ」
ハロルドは答えた。
「残す艦と、これから要る艦を並べてくれ。捨てた数だけ新造してよいと書けば、向こうの工場にも同じ許可を出すことになる」
シーアは保管艦の合計を出しかけた画面を閉じ、これから引き渡される艦の工程を開いた。
*
C.R.C. 7953.165 コルサント管区、艦艇保管泊地
作業艇の窓から見たドレッドノートには、明かりがなかった。
係留設備から補助の電力を受けている艦には、点検用の灯りが見えた。そうでない船体は、近づくまで輪郭を見分けにくい。艦首から艦尾へ並ぶ外板の色が違い、隣の艦では、兵装のあった場所が覆われていた。
泊地の管理官は、シーアとレンディリの調査員を、点検のために開いた一隻へ案内した。空気を入れているのは入口から続く区画だけだった。閉鎖された通路の向こうに、持ち出せなかった備品がまとめられている。
「現役の最終記録は、こちらです」
管理官は艦の履歴を出した。最後に大きな改修を受けた年と、乗員が下りた年が並んでいる。その後は保管費が計上され、管轄が変わるたび、新しい台帳へ艦名が移されていた。
「動かす計画はありませんか」
「こちらには来ていません。ただ、廃艦の命令もありません」
調査員は、使える部品を取り出した記録を確かめた。一部は、今も稼働する旧型艦を支えていた。全部を無価値な廃材として処分すれば、その供給も失う。
別の一隻は、以前に復帰改修の候補へ挙げられていた。費用が折り合わず実施されていないが、船体を使って新しい設備を載せる余地はあるという。クラス750改修へ回すための予備候補も、この種の保管艦から選ばれていた。
『復帰させるつもりがない、というのは現在の予算の話です。船体を壊せば、将来の選択もなくなります』
調査員の言葉を、シーアは書き留めた。
机上の一覧にしかない一隻も見つかった。既に練習用の固定施設へ転用され、艦としては使わないことになっていたが、元の保管艦籍から削られていなかった。別の番号には、同じ船体の旧登録が残っている。
「これも、削減に入れますか」
管理官が尋ねると、シーアは首を振った。
「帳簿の訂正として処理してください。今から廃棄する艦の数には入れません」
管理官は頷き、担当の会計へ送る欄を開いた。シーアは資料から数字を削った。交渉のために来たのに、提示できる保有数を自分で減らしている。その分が虚構なら、残しても相手へ渡せるものは増えなかった。
作業艇へ戻る頃には、現物の照合が必要な番号がさらに増えていた。ここだけで調べ終えることはできず、他の保管拠点へも同じ確認を依頼している。
レンディリの調査員は、用途の決まらない船体を使った復帰案と、完全に手放す場合の影響を分けて送ると約束した。シーアはその説明を聞きながら、暗い艦列へ目を戻した。
艦隊としては、ここから一隻も出ていない。それでも、何もない場所ではなかった。
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C.R.C. 7953.179 コルサント、交渉団準備会合
最初の提出案は、保管ドレッドノートのうち二百四十隻を、段階的に処分するというものだった。
各拠点で現物と処分権を確認した第一群だった。固定施設へ転用された艦と重複登録を除き、現在の任務表に名のある艦には手を付けていない。原案では、相手に求める現役運用からの削減も二百四十隻となっていた。
「二百四十隻を退役させる、と発表するのか」
ハロルドは名簿を読みながら訊いた。
「復帰改修を取り消し、戦闘艦として戻せないように処分します。相手の確認員にも立ち会ってもらいます」
シーアが答えた。
「その代わりに、向こうの常備艦の上限を下げたい。新造が続いても、運用できる数は同じ上限へ収める案です」
「向こうが、同じように倉庫の古い船を二百四十隻出してきたら?」
シーアは、共和国側の処分日と相手側の常備上限を同じ工程表に載せた。保管艦をいくら並べられても、向こうの現役運用枠が下がらなければ、こちらの次の処分には進まない案だった。アウレリアンはその条件を読み、付表にも残すよう求めた。
「永久に失う船と、一〇〇日間使わない船を交換するということか」
軍の担当者が言った。
「復帰させる予定のない船から選んでいます」
「今のところは、だ。七一号のような艦が増えれば、新造だけで足りるか。保管船体を改修する余地を残しておく方がよいという意見もある」
シーアは、レンディリの評価を説明した。候補のすべてが新型の代わりになるわけではない。復帰できる艦にも費用と設備が要り、そのために稼働中の艦の改修が遅れる。一方で、一度手放せば戻れないことも認めた。
「それを、相手にも価値として認めさせます。こちらが使う予定はないから何も失わない、では交渉になりません」
リンドは二百四十隻の欄を閉じ、相手へ求める数字の方を指した。
「最初から、これで連合全体の艦隊を半分にできるとは考えるな。申告と命令の権限が揃った群を選び、そこへ上限を掛ける。対象を広げる交渉は、その後も続く」
ベイルは、共和国側の削減が相手の履行と結び付く日程にするよう求めた。先に全艦を処分し、後は善意の回答を待つ形にはしない。シーアは三つの段階へ分けた日程を出した。各段階で、相手が常備から外した艦と、維持している上限を確認してから、次の処分へ進む。
中央向けの未納分は、既存の契約計画として登録することになった。シーアは建造番号と引渡し予定を付け、次の契約を追加する際の手続きを法務担当へ確かめた。
ヴェネターとマエルストロームの試験艦にも、所在と艤装状態を記す行が作られた。部隊への引渡し欄は空いていた。採用試験の進捗に合わせ、そこを更新していく。
シーアは署名のためではなく、本国の提示条件を確認するために、その一覧をもう一度読んだ。欲しい艦をすべて例外へ置き、いらない船だけを捨てるという最初の案から、随分多くのものが加わっていた。
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C.R.C. 7953.197 ラクサス・セカンダス
ヴェルンは、共和国が提出した二百四十隻の表を、最後の頁まで読んだ。
それから現役艦の表を横へ並べ、削減案と照合した。クラス750、RMU、任務を続ける旧型群。どの行にも処分対象の印は付いていなかった。
「この二百四十隻には、乗員がいませんね」
「保管中です」
リンドが答えた。
「我々がその再生と武装運用を放棄する。その見返りに、そちらが常備から外す艦を求めています」
「こちらには、今日も護衛している船を出せと言っている」
ヴェルンは一隻の履歴を表示した。共和国側が過去に行った復帰調査の要約だった。公開を認めた範囲で、申告に添付していたものだった。
「この艦は、十数年、工事の承認を受けていない。明日任務へ戻る可能性のない船です。これと、同じ一隻を交換するのですか」
シーアは、その艦についてレンディリが出した復帰の見積書を差し出した。使える船体と、改めて取り付ける機器が記されている。
「この復帰案を取り消します。処分にも立ち会ってもらう。民間への転売も禁じる。そこまで引き受けます」
続けて示した相手側の案には、対象艦を保管泊地へ移す工程があった。船体は残せるが、合意期間中の常備上限を超える運用や、別の契約への再投入を禁じていた。
相手側の企業担当者は、それなら全艦を保管へ移した日から維持費を誰が払うのかと尋ねた。政府の代表も、護衛が減った分を別の船で補う必要があると言った。
「代わりは、どの艦ですか」
シーアが訊くと、政府の代表は隣の企業担当者へ向き直った。受託先はまだ決まっていないらしかった。
「護衛を引き継ぐ艦も、残る枠へ入れてください。契約先が決まったら、名前を出していただきたい」
企業担当者は、共和国こそ新しい艦へ置き換えるつもりではないかと反論した。プロクラメイターの四四隻が表示され、さらに試験艦の項目が開かれる。
「こちらに建造能力を使うなと言いながら、そちらは受領を続ける。古い船を捨てるための協定ですか」
シーアは、反射的に否定しなかった。古い保管艦を手放し、新しい艦の整備を続けたい。それがこちらの目的の一つだった。
「中央向けの未納分も、この一覧に出しています。そちらの工程表をください。引渡し先も確認したい」
「七一号もですか」
「含みます」
ヴェルンは彼を見た。前回、共和国側が突然立場を変えた理由について、直接の説明は受けていない。それでも、今回は寸法の欄を空欄にしておくことはできなかった。
「こちらにも、引渡し前の計画を含めた枠を求める権利があります」
「中央向けの工程も、この附属書に入れます。予定を変えた場合の通告も求めてください」
リンドが話を引き取り、今の全銀河的な上限を、その場で決めることはできないと認めた。大型艦の分類も、企業の指揮関係も、まだ不十分だった。ただし、既に現物と権限を確認できる艦群については、先に限度を設けられる。
シンはそこで、参加政府と企業の一部が用意した登録案を出した。ほかの政府を代表して約束するものではない。今回の合意へ艦を出す権限と、保管に必要な費用を負担する者が揃った範囲だった。
その表に、九百六十隻という数字があった。
軍用フリゲート、デストロイヤー、巡洋艦のうち、双方で艦級群を確認したものを登録している。武装商船を含む一万から数十万という推計を、そのまま縮めた数字ではなかった。未参加の企業艦隊も、分類の決まらない大型艦も、この表の外に残っていた。
「この群について、常備運用の上限を詰める用意があります」
シンが言った。
「こちらも、共和国の保管艦を、存在するだけで害がないものとは考えていません。再改修の権利を放棄するなら、それは確認する」
ヴェルンは共和国側の表の余白へ、復帰不可と書いた。それから企業担当者を振り返り、保管へ回す場合に解除しなければならない契約を出すよう求めた。
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C.R.C. 7953.204 ラクサス・セカンダス
最初の対案では、分離側が保管へ移す艦に、既に長期修理中のものが多く含まれていた。
シーアは受け取った整備記録を、基準日の常備運用表と照らし合わせた。名簿にはいるが、数か月前から工場へ入ったままの艦がある。その一隻を減らす代わりに、新造艦を受け入れる余地を残すという。
「これでは、常備の上限は下がっても、実際に任務へ出る数は増えます」
シーアが指摘すると、ヴェルンは共和国の二百四十隻を表示した。
「あなた方は、最初から任務へ出ない船を出しています」
「処分の条項を読んでください。こちらの船体は、その泊地から二度と艦隊へ戻せません」
「読んでいます。その条件で、こちらに何隻を戻せと?」
会議はそこで昼の休憩を越えた。シーアは食事を取るため控室へ戻ったが、リンドは先に企業側の代表と会っていた。現役艦を保管へ回せば、乗員の雇用と保安契約に変更が要る。艦を持つ会社には、金を払ってでも維持したい任務と、利益の出ない契約から離れたい事情の両方があった。
午後、共和国側は永久処分二百四十隻に対し、相手の常備運用枠を百二十隻減らす案を出した。
九百六十から、八百四十へ。
保管へ移す百二十隻は、それとは別の上限へ収める。艦級群ごとの内訳を維持し、小型艦を多数外したことにして大型艦の枠を増やすことは認めない。基準日前から復帰の見込みがない艦を、実際の運用減少として数える扱いも除く。
ヴェルンは、その案を本国へ送った。翌日には、同じ数なら受け入れられないという回答が来た。二日後、別の登録艦を保管へ回す案が提出され、共和国側でも、処分予定の艦を一部入れ替えることになった。
分離側が求めたのは、艦名の抹消だけではなかった。処分対象を民間へ売り、そこで武装させ直すことを禁じる。地方政府へ譲ったというだけで、共和国側の動員から外した扱いにしない。復帰改修の計画も取り消す。部品取りに使う分は事前に記録し、別の船体と組み合わせて一隻を復活させるための保管にはしない。
シーアは、その条件を軍の補給担当へ送った。旧式の稼働艦へ出す部品の一部が減るという回答が来る。別の保管艦から取ればよい、と書きかけて止めた。その別の艦も、全体の申告から消えるわけではない。
彼は必要な予備部品の補充費を、処分の費用へ加えた。保管艦を捨てれば維持費を丸ごと節約できるという、最初の説明から数字が変わった。
翌朝の会合で、ヴェルンは修正された費用を見て、共和国側にも代償があると認めた。だが、それを理由に相手の百二十隻を百隻へ減らす案が出ると、リンドは応じなかった。
「百二十隻は下げません。こちらの補充費は、本国へ持ち帰ります」
リンドが相手の案を返すと、シーアは補給部への再照会を起こした。復帰の見積もりを作った技師たちに、今度は残す艦の部品をどこから取るか調べてもらう必要があった。
*
新造艦の扱いで、会議はもう一度止まった。
保管へ移した百二十隻をそのまま残し、別の造船所で完成した艦を新しい企業へ渡す。その会社が同じ護衛を引き受ければ、元の登録群だけは上限を守れてしまう。シーアは、以前の軍縮制度で所属欄が変わった艦の資料を出し、所有名義と実際の指揮を別々に申告するよう求めた。
「この艦隊へ入らなければ、どこへ売ってもよいという案ではありません。供給契約や指揮関係を変えた時も、移動先を記す必要があります」
「連合へ参加していない企業の帳簿まで、我々が強制して出せるとは限りません」
シンが答えた。
リンドは、直前まで同じ政府の命令で動いていた艦の記録を、シンの前へ置いた。
「売った後は、誰が命令を出すのですか。次の契約も示してください」
法務担当者がその質問を申告書式へ加えた。買い手の名に加え、引渡し後に命令を受ける先を記す。運用から離れたことを確認できるまでは、元の登録群に残る案だった。
製造元の担当者は、注文済みの艦を完成させるなという意味かと訊いた。ベイルは、工場をすべて閉じる案ではないと答えた。
「完成予定と買い手を出してください。枠が空いていれば引き渡せるようにしましょう。軍へ加わる時点を、双方で確認する必要があります」
「共和国の四四隻には、初めから席を用意するのですね」
ヴェルンはプロクラメイターの表を指した。
「一八六隻の計画として登録します。建造番号は固定し、追加の契約をここへ継ぎ足すことは認めない。その条件です」
シーアは答えた。
「その全艦が就役した後で、さらに建造する場合は?」
「新しい計画として通告し、適用される枠について協議します。今回捨てる旧式艦の数が、そのまま新型艦の追加枠になる案にはしていません」
ヴェルンは、処分によって生じる枠をそのまま新型艦へ振り替えられないことを明記させた。シーアは、その条文を本国へ説明する箇所にも印を付けた。
試験艦の記録には装備と活動範囲を付けた。現役部隊へ渡す際は区分を変更し、配備先の地域枠にも算入する。シーアは試験担当部署へ、更新を送る窓口を伝えた。
大型艦の全体枠は、なお残った。七一号もマンデイターIIも、異なる大きさの艦を単純に一隻ずつ交換する表には収まらなかった。対象の能力を確認するための資料と査察の条件は、次の会期まで協議を続けることになった。
シーアは、相手が今後何を造れるかの見通しを、本国へ送る評価から削らなかった。今回の署名者の外にも、造船所と武装商船は大量に残っている。五倍以上と見積もられた動員生産力を、この一つの合意で消せるわけではない。
それでも、九百六十隻の群について、次に造った船を無条件に足せなくなる。現役から外した船を、名義だけ変えて戻すことも争えるようになる。相手がそれを守るかを、初めて資料と現物で確かめる権利ができようとしていた。
*
C.R.C. 7953.218 ラクサス・セカンダス
文書の表題は、艦隊保有と配備に関する第一段階暫定取決めとなった。
署名欄には、初回の登録と履行に参加する政府・企業が並んだ。適用期間は二二四日から三二三日までの一〇〇日間。次の期間の上限と、参加者を増やすための会合も日程に組み込まれた。
共和国は、指定した保管ドレッドノート二百四十隻を、八十隻ずつの三段階で戦闘艦として永久処分する。分離側は九百六十隻の登録群から、四十隻ずつ、合わせて百二十隻を現役運用から外し、管理された保管へ移す。最終段階の常備運用上限は八百四十隻となる。
双方とも、各段階で何が現役に残り、何が保管され、何が処分されたかを申告する。共和国側の処分を先にすべて終え、相手の報告を後から待つ日程ではなかった。次の段階へ進む前に、先の履行を確認する条件が付いていた。
完成予定と引渡し先を事前に登録し、部隊へ加える時には枠へ算入する。所属、指揮、売却、契約の変更も通告する。保管艦の名義を替えて同じ任務へ戻す抜け道を塞ぐ条項には、企業側の署名も付いた。
地域別の附属書で引揚げを求めた三隻は、保管へ回す百二十隻に含めた。指定された補給地点の一つを縮小し、同じ能力を別の艦や航空部隊へ移して戻さない。共和国も移動整備ユニット一基を区域外へ出し、指定施設での艦隊支援能力の増強を止める。
スカリフの第一期事業には、実施部門が回答した設備一覧を添付した。研究・設計と機密保管の範囲を示し、軍艦の補給・修理能力を加える際には、改めて通告と協議を求める。シーアは確認の窓口に、現地の工事監理官の名を記した。
署名前、ベイルは共和国側の保管艦処分が、期間の終了後も取り消せないことを再確認した。
「延長できなければ、相手は保管した艦を戻せる。我々の処分した艦は戻らない。そのことを、政府も議会も承知した案ですね」
リンドが、本国の承認を示した。
「承知しています。相手の不履行には後続段階を止められますが、終えた処分を取り戻すことはできません」
シーアは机上の名簿を見た。これから百日の間に、新しい艦の試験と建造は続く。相手より少ない産業力で何を間に合わせ、次の制限へつなげられるか。その見通しを誤れば、手放した船体だけが戻ってこない結果にもなる。
シンも、参加政府の承認と企業側の実施責任を確認した。相手にとっては、共和国が長く蓄積してきた旧式艦を、二度と再生させない実績になる。自分たちの艦は保有したまま、乗員と運用費の負担を一定期間減らせる。すべての企業に同じ利益があるわけではなかったが、署名した者たちは、その条件を選んでいた。
文書が交換されると、撮影機が二人の手元へ向いた。
シーアは後ろの席で、自分の資料を閉じた。表紙に載っている削減数は、共和国の方が大きかった。
*
C.R.C. 7953.226 コルサント、共和国元老院
報道局の見出しには、共和国が二百四十隻の軍艦を削減するという文字が出ていた。
アウレリアンはその映像を閉じ、対象艦の名簿を説明員へ渡した。画面には保管泊地ごとの艦名が並ぶ。ロジンは報道の見出しを消させず、二つの表示を指した。
「この発表で、今夜から巡察が減ると思われる。誰がこの見出しを説明するのですか」
「対象艦と所在を、公表文へ添付しています。現在の任務表に変更はありません」
説明員は答えた。
「相手側も、現役運用から百二十隻を外します。艦級ごとの内訳と実施の日程は、別紙の通りです」
ヴェッロは二百四十隻の最初の頁を見た。
「取り外した部品は、どこへ送りましたか。受領した部署の署名を付けてください。それから、この名簿を最後に点検した者も呼んでいただきたい」
ハロルドは、取り消す復帰改修の見積書を読んだ。継続するクラス750の工事からは外れているが、その先の候補にはなっていた船体だった。工事費と設備の割当てを新造艦へ回した場合の工程を、次の資料として求めた。
モスマは処分する艦を選んだ者の名を確かめ、相手側へ入る確認員の名簿を引き寄せた。
「確認員の所見は、選定した部署を経由せず委員会へ送ってください。こちらから直接、説明を求められるように」
アウレリアンが提出先を確認すると、モスマはその連絡先を書き込んだ資料を補佐官へ渡した。
会議の最後、ヴェッロは次の申告期限を読み上げ、相手の動員組織が今回の対象群だけではないことを確認した。
「以上の履行報告を求めます。その上で、分離主義同盟滅ぶべし、と申し上げる」
離れた席で笑いが起きた。隣の議員は、今度もその結びかと首を振ったが、ロジンの近くからは拍手があった。
アウレリアンは採決の結果を補佐官へ渡した。承認された廃棄費が支払われる日を確かめ、各保管泊地へ通知するよう頼んだ。
*
C.R.C. 7953.239 共和国保管泊地
最初の八十隻を処分する準備は、予定より遅れていた。
相手側の四十隻のうち、一隻について、保管へ移したという通告と、現地で使っていた運用記録が合わなかった。船は確かに指定泊地へ入っていたが、護衛契約の解除が完了しておらず、代わりの船を出せない場合には呼び戻せるという条項が残っていた。
共和国の確認員は、その一隻を履行済みと数えなかった。相手側は、現在動いていないことに違いはないと説明したが、リンドは、上限の外へ移したまま即座に戻せる艦を作ることになると反論した。
その間、シーアは共和国側の処分準備を確かめていた。技師たちは点検と物品の引渡しを進めていたが、最終の処分を始める段階には進んでいなかった。相手の履行を待つために手を止める日も、泊地の費用は掛かる。
「ここまで準備したのに、出せないのですか」
管理官に訊かれ、シーアは本国から来た回答を示した。
「確認できるまでは、この段階で止めます。あちらの船が着いたというだけでは、合意した条件になっていません」
以前なら、使っていない艦の処分を数日早めても変わらないと考えたかもしれない。だが、次の段階へ進めるかどうかが、相手に契約を変えさせるために残っている手段だった。
ヴェルンから連絡が来たのは翌日の午後だった。対象艦を呼び戻せる条項を解消し、別の任務へ移す場合にも上限へ算入することを、運用会社が正式に受け入れたという。文書だけでなく、実施する部署へ命令が届いたことも確かめられた。
「四十隻目の扱いを訂正しました」
彼女は回線越しに言った。
「次は、そちらの八十隻です」
シーアは報告をリンドへ送り、許可が来てから管理官へ引き渡した。
処分は、艦名を表から削るだけでは終わらなかった。事前の確認を受けた物品を搬出し、戦闘艦として復帰できない状態へ移す作業を、相手側の確認員も見届ける。残る船体の用途と移動先も記録に残った。
作業灯に照らされたドレッドノートは、離れた場所からなら、まだ艦に見えた。シーアが乗り込んだ通路も、外から見ただけではなくなったと分からない。それでも、復帰案の対象からは外され、レンディリの技師が示した将来の改修候補にも戻らなかった。
確認員が最後の欄へ署名すると、共和国側の担当者が同じ記録を保存した。
最初の八十隻と、相手側の四十隻。
その段階の履行が認められ、次の群の準備が始まった。
*
C.R.C. 7953.263 コルサント、司法軍装備計画部
スカリフから、工事の写真が届いた。
仮囲いと、基礎を掘る機械と、環境管理装置を運ぶ台車が写っていた。キールの報告には現地採用の訓練予定が付いている。M3185は建設輸送を支援し、領域ステーションとしての工事は棚上げされたままだった。
シーアは監理官とタリ・エンへ返信し、写真を保存した。次の調査団の編成に、自分の名はなかった。現地の職員が工事を続けてくれるなら、その方がよかった。
机の中央では、第一群の履行報告を開いていた。共和国側の八十隻が永久処分され、相手側では四十隻が現役運用を離れた。登録群の常備上限は九百二十隻へ下がった。次の確認では、残る二段階の対象艦を追う。
ヴァントが更新した任務表を持ってきた。入渠する旧型艦と、改修を終えて戻る艦の順番を確かめる。シーアが席を空けると、彼は説明の前に、昨日の表を脇へ並べた。
今夜出る艦の名は、変わっていなかった。
「向こうの護衛は、どこが減った?」
ヴァントに訊かれ、シーアは相手側の運用記録を開いた。契約を終えたもの、残る艦へ任務を集めたもの。次の確認班に、寄港記録も調べてもらう手配をした。
二人で入渠予定を直していると、議長府から連絡が入った。シーアはヴァントに断り、奥の通信席へ移った。
ターキンは、挨拶を短く済ませた。
『中央向けの契約を履行した後も、造船所を止めたくない。次の会合には、地方向けの供給案を出す。君にも評価してもらう』
「地方の防衛艦隊へ、ですか」
『そうだ。購入でき、運用できる政府を選ぶ。候補は送っておく』
端末へ会合の通知が入り、その下に予備資料が続いた。シーアは、軍務上の評価として求められる範囲を確かめた。中央軍向けに登録した契約の変更はないと、ターキンは答えた。
『詳細は会合で話す。この案を、まだラクサスへ持っていく段階ではない』
通話が終わってからも、シーアは通信席に座っていた。画面には、追加生産と将来の納入枠について説明する企業の名が並んでいた。廃棄する船体を選んだばかりの自分に、今度は新造艦の買い手を調べろと言っている。
候補政府の一覧を開いた。
その一つに、首脳交代のニュースを見たばかりのセクターがあった。