STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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無害通行

C.R.C. 7953.274 コルサント、最高議長府

 

 地方艦隊の計画は、司法軍の調達資料とは別の封筒に入っていた。

 

 シーアは表紙を読み、納入先の欄へ目を移した。セクターの防衛当局、複数の星系が共同で設けた軍務庁、政府の出資する調達機関。装備計画部で使っている部隊の番号はなかった。その代わり、先週まで金融保証について照会していた政府の名が、購入希望者として並んでいる。

 

「プロクラメイターの四四隻を、こちらへ振り向けるのですか」

 

「いいえ。共和国との契約分は、そのまま履行します」

 

 カースは中央向けの工程を画面に残し、その後ろへ追加生産の欄を広げた。部材の調達から最終検査まで線が続き、購入希望者の名が途中へ書き込まれている。

 

「増設した設備を使えば、中央向け契約の数量を越えて建造できます。受注のない期間も同じ人員を雇っておくわけにはいきませんから、次の顧客を今からまとめたいのです」

 

 シーアは工程の末尾を見た。追加分の納入先には、まだ署名がない。

 

「正式な発注をいただければ、部材を押さえられます。今は、買ってくださる方をまとめたいのです」

 

 カースは微かに笑った。地方向けの希望をすべて引き受ければ、機器によっては中央向けの後続計画と競合する。使える船台だけを数えた生産見通しではなく、機関と兵装を供給する企業の回答も添えられていた。

 

 ヴェネターの欄には、引渡しの日付がなかった。採用試験の結果と初期建造の条件を確定してから、地方向けの納入枠を予約する案だった。航空隊を持つ政府には関心を示す者がいたが、船体だけ買えば運用できるとは、提案書にも書かれていない。乗員の教育、基地の整備、機材と部品の契約が別紙になっていた。

 

 シーアは購入者の一覧へ戻った。以前から司法軍へ協力してきた政府もあれば、つい最近まで拠出金を留保し、共同巡察への参加を拒んでいたところもある。後者の代表者は変わっていた。新しい政府が協定を見直し、防衛予算を増やすと表明している。

 

「申請してきた政府を、全部載せているわけではありませんね」

 

 ターキンは否定しなかった。

 

「財政と運用能力を確認している。引き渡しても動かせない相手へ、保証を付けるわけにはいかん」

 

「中央との協力についても?」

 

「それも選定の条件だ」

 

 机の奥で、パルパティーンが説明を聞いていた。最高議長は一つの政府の調達案を開き、旧式艦を退役させた後の巡察計画を確かめた。

 

「地方が自分たちの航路を守れるようになれば、司法軍が同じ場所へ張り付く必要は減る。君が外縁で必要だと言っていた部隊を、別のところへ回せるかもしれないね」

 

「その効果はあります」

 

 シーアは、地方政府が引き受けると申し出ている航路を見た。定期の護衛を任せられれば、司法軍の巡察を組み直せる。評価の欄にその可能性を書き、共同任務の付属資料を開いた。

 

「共同任務へ何を提供する約束なのか、協定案を見せてください。ラクサスで必ず訊かれます」

 

「日常の指揮は地方政府が執る。中央の艦艇を、名前だけ替えて送る計画ではない」

 

 ターキンは契約案の該当箇所を示した。購入代金を負担し、乗員を集め、艦長を任命するのは各政府だった。一方、共同任務への提供条件と、戦時の協議を行う仕組みは、まだ付属協定として検討されていた。

 

「拒否する余地は、どこに残りますか」

 

 シーアが訊くと、ターキンは彼を見た。

 

「協定に書く義務は果たしてもらう。それ以上の要請は、その政府と話をつける」

 

 ターキンは付属協定の担当者を示した。シーアが確認先を書き留めている間にも、購入政府の一覧は画面に残っていた。協力を断りそうな政府の名は、そこには見つからなかった。

 

 パルパティーンは二人の間へ資料を戻した。

 

「条約との関係は、法務と軍務の双方で評価してほしい。だが、交渉が終わるまで、地方政府も造船所も何も決めずに待つことはできない。まず、どこまで進められるかを示してくれたまえ」

 

 シーアは了承した。計画を評価する仕事を渡されたことで、自分が起案したわけではないという距離も、少し失われたように感じた。

 

 *

 

 レンディリの提案は、その後に出された。

 

 事業開発の担当者は、クラス750とRMUの改修表を最初に開いた。既存艦を維持する仕事は続くが、先の年ほど予定欄が薄くなる。その下へ、契約造船所の設備と雇用の表が重ねられた。

 

「保管艦の処分に反対するために来たのではありません。復帰改修の候補が減る以上、その先の受注を示していただきたいのです」

 

 シーアは、処分の候補から外した船体について、同じ会社の技術者と話したことを思い出した。あの技術者は艦ごとの状態を説明した。目の前の担当者が示しているのは、会社として残す仕事だった。

 

 卓上に新しい艦の立体像が現れた。

 

 楔形の船体に兵装と上部構造がまとまり、艦橋が後方へ高く載っていた。プロクラメイターを見慣れた目にも別の設計だと分かった。シーアは、前方から船腹へ表示を回し、搭載艇の出入りする区画と砲座の配置を確かめた。

 

 プロヴォケーター級スター・デストロイヤー。

 

「新造艦を必要とする政府へ、当社からはこちらを提案します。旧型艦の設備をそのまま使えるとは申しませんが、運用移行と基地の改修を合わせて示すことはできます」

 

「地方防衛用に、仕様を変えるのですか」

 

「要求は比較します。ただ、政府ごとに別の艦を設計すれば、数をまとめる利点は失われます。共通にできるところを先に決めたい」

 

 担当者は、量産に必要な発注と試験工程を出した。完成した艦を今日売る話ではなかった。それでも、旧型艦を預かって直す以外の選択肢が、ここにあった。

 

 続いて、もう一つの表題が表示された。

 

 ヴィクター・イニシアチブ。

 

 こちらには、完成形の外観図がなかった。クアットとレンディリの名が並び、要求の整理、技術の提供範囲、試験と建造の分担が記されている。

 

「共同開発を提案しています。中央軍向けと地方艦隊向けの要求を比べ、共通の計画にまとめるものです」

 

 シーアがカースを見ると、理事は、まだ分担を確定したわけではないと断った。

 

「二社の名を並べれば、試験が半分で済むわけではありません。部品を共通にする範囲も、図面を提供する条件も、協議が必要です」

 

「別々に新型を造るより、早くなりますか」

 

「要求を増やし続けなければ、その可能性はあります」

 

 カースの返答に、レンディリの担当者も頷いた。どちらかが他方の既存艦を売る計画ではない。共同で成立させた設計を、複数の造船所で建てられるようにする。そのための設備投資と契約を、政府がまとめる案だった。

 

 参加候補の工場一覧には、連合側との取引が多い企業も含まれていた。共和国の案件を持っている一方、共同融資と地方の艦隊計画へ設備を提供しようとしていたところもある。

 

「この会社は、どちらの側へ艦を出すか、まだ決めていないはずです」

 

 シーアが指摘すると、レンディリの担当者は、そのためにも次の受注が必要だと答えた。

 

「来期の注文をこちらから出せなければ、その船台には別の顧客の船が載ります。契約造船所も、人を遊ばせてはおけません」

 

 ターキンは、造船所の位置と受注の一覧を並べた。

 

「工場が向こうの契約だけで動くようになってから、忠誠を求めても遅い。こちらで造り、こちらへ納める仕事を作る」

 

 シーアは新型艦の図へ戻った。性能と価格だけを比較する場ではなかった。どの船体を採るかによって、次の年、どの工場が共和国の仕事を続けているかまで変わる。

 

 会議が終わる前に、地方向け供給計画の評価担当へ彼の名が入った。軍の追加発注としてではなく、政府の支援する防衛近代化事業への軍務上の意見を求めるという扱いだった。

 

 シーアは受領を返し、ラクサスへ持っていく資料とは別に保存した。まだ相手へ渡すことを認められた計画ではなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7953.276 共和国保安委員会

 

 リヴィアが受け取った地方艦隊の一覧には、議長府で使ったものとは違う注記が付いていた。

 

 長く中央との協力を続けている政府には、既存の協定と予算の評価がある。最近方針を変えた二つのセクターには、別の記録への参照が付いていた。通常の金融分析に配布される資料ではなく、第二室内で閲覧を認められた報告だった。

 

 彼女は一方を開いた。前の政府首班が死亡する前の日付で、後継体制の人事案が作成されている。その時には候補だった者が、今は防衛予算へ署名していた。別のセクターでは、協調を拒んでいた評議員を排除した後の、意思決定の移管が記されていた。

 

 軍務庁からの回答には、以前からいる参謀の署名があった。艦の購入条件を細かく問い返し、共同任務の協定にはまだ同意していない。地元議会からは、防衛費の増額へ反対する意見書も出ていた。リヴィアは新政府の確約に添えて、それらの回答を机へ並べた。

 

 主任が机の向かいへ来て、購入保証の回答を確かめた。

 

「防衛当局の担当者は、旧政権の時に決まった者です」

 

 リヴィアは一つの欄を示した。

 

「軍務庁が、共同任務の条項に署名していません。艦の購入手続きは進めています」

 

「資金の評価には、どう響く」

 

「返済能力はあります。こちらの注記を残します」

 

 リヴィアは、軍務庁の承認待ちと書いた行を示した。

 

 主任は注記を読み、財政評価とともに提出するよう指示した。

 

 リヴィアは通常の配布先へ出す報告を開いた。政権交代後の政策変更、防衛予算、造船契約の見通し。前任者の死より前に作られた人事案への参照は、そこには付かなかった。

 

 軍務上の評価を受け取る者に、シーアの名があった。

 

 リヴィアは配布する添付資料を確かめた。財政の評価、軍務庁の回答、購入予定。後継体制の人事案は第二室の保管記録へ戻し、机に残った報告へ署名した。

 

 *

 

C.R.C. 7953.284 コルサント管区、司法軍試験宙域

 

 ヴェネターの格納庫では、帰還した機体が、次に出る編隊の脇を通っていた。

 

 シーアは航空指揮艦橋の観測席で、発進と収容の表示を見ていた。試験用の配線が壁の一部を覆い、量産艦では置かれない計測器が通路へ張り出している。乗員だけでなく、設計側の技師と軍の評価員が、それぞれの記録を取っていた。

 

 最初の課目は順調だった。帰還機を受け入れた後にも、次の機体を甲板へ送る作業が続いている。シーアは、広く取った区画と追加した管制席に人がいるのを見て、図面で説明していた能力が実際に動いていることを、ようやく実感した。

 

 課目の後半で、模擬敵が位置を変えた。

 

 艦指揮艦橋は、砲戦に使う針路を変更した。同じ時刻、航空側では、予定外の帰還機を先に収容するため、既定の機動を維持してほしいと連絡を始めていた。どちらの画面にも必要な情報は出ている。しかし、その情報を受けた責任者が何を優先しようとしているかは、相手へまだ届いていなかった。

 

 照会と回答が行き交う間に、次の編隊の発進が保留された。帰還機は安全に収容できたが、攻撃隊は予定の時刻に揃わなかった。演習上の僚艦が砲撃を始めた時、航空側は、まだ次の進路を待っていた。

 

 試験終了後、二つの艦橋の記録を同じ時間軸へ置くと、何が起きたかはよく分かった。

 

「通信の伝送自体には、今回、異常はありません」

 

 技術員が説明した。

 

「両側とも、ここで受信しています。次の指示が出たのは、この時刻です」

 

 シーアは、艦長と航空側の責任者がそれぞれ話し始めた箇所を指した。

 

「ここでは、航空側はもう収容へ切り替えようとしているんですね」

 

 技術員が頷き、艦指揮側の音声も重ねた。二つの声が、同時に異なる指示を出していた。シーアは片方ずつ聞き直し、当直を替えて行った前回の記録も開いた。同じ箇所に印が付いていた。

 

 設計側は、艦長の近くへ航空の調整席を置く案を出していた。しかし、その士官が詳しい状況を確かめるため、元の艦橋へ聞き直す仕事は残る。根本から配置を変えれば、既に製作を始めた上部構造と機器配置へ影響が出た。

 

「いま変更すれば、現在の納入予定には間に合いません」

 

 カースが工程表を示した。

 

 試験主任は、共通表示と専任の調整席、航空と砲戦が重なる場合の運用要領を改めて試すと述べた。欠点をなくす案ではなかったが、初期艦を受け入れるために改善できる範囲はあった。

 

 シーアはその報告へ意見を書いた。現設計での試験を続け、残る制約を受入れ部隊へ明示する。一方、将来の指揮区画は、マンデイターの大型艦橋を基礎に、艦と航空運用の責任者が同じ場所で調整できる構成を求める。

 

「高くしたいという話では、なくなりましたね」

 

 カースに言われ、シーアは少し笑った。

 

「高いのは、今でも好きです。ただ、そこから誰と話せるかの方が大事でした」

 

 試験場から戻る前に、マエルストロームの試験航行の記録も見せられた。こちらも実艦が完成し、機関、砲術、艦隊行動の採用試験を進めている。一つずつ確認する段階から、負荷を重ねて使う段階へ入り、継続試験後の点検と修正に時間を取られていた。

 

 カースは、さらに別の工程表を短く示した。二基の反応炉を備える砲戦艦、テクターだった。前方の砲戦用反応炉を持つ先行設計の試作艦は、七九五五年に完成させる見込みだという。

 

「もう一方は?」

 

 シーアが隣の図を見た。前方反応炉の区画が、格納庫へ置き換えられていた。

 

「同じ基礎から出す汎用型です。まず砲戦艦を成立させ、その設計を使います。こちらは、まだ要求をまとめているところですが」

 

 インペレーターという表題の上に、マンデイターを思わせる大きな艦橋が描かれていた。シーアは、その内部へ今日の所見を反映できるか照会することにした。納入間近のヴェネターを全部作り直す話ではない。いま間に合わない変更を、次も間に合わなくする必要はなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7953.296 ラクサス・セカンダス

 

 会談が再開すると、ヴェルンは共和国の地方艦隊計画を示す資料を出した。

 

 出所は保安委員会の非公開文書ではなかった。購入を希望する政府が議会へ提出した予算案と、メーカーが照会を受けたことを認めた発表だった。中央政府から保証を受けるための審議は、すべてを秘密にしたままでは進められない。

 

「こちらの建造予定へ、引渡し先まで書けと要求していますね」

 

 ヴェルンは、プロクラメイターの追加生産という文言を拡大した。

 

「共和国側の一八六隻という登録は、この計画が進んでも変わらないのですか」

 

「中央向けの登録分は動かしません。追加発注です」

 

 シーアが答えると、彼女は別の資料を重ねた。共和国側が、企業の所属を移した分離側艦艇も、同じ政府が動かしているなら計数へ残すと要求した会議記録だった。

 

「私が尋ねているのは、代金を払う者ではありません」

 

 シーアは返事をする前に、公開を認められた回答を手元で確認した。

 

「購入する政府が日常の指揮を執ります。共同任務への提供については、協定案を検討しています。その内容によって、申告する関係も変わります」

 

「共同任務へ使うつもりで造るのに、協定が未完成だから、まだ数えられない?」

 

「未完成だから説明しなくてよいとは言っていません。こちらからも、対象政府と契約の見通しを出すよう求めています」

 

 ヴェルンは紙を引き寄せた。その返事が、完成艦の増加を止める約束になっていないことは明らかだった。

 

「コルサントでは、その計画を評価する側にいるのですね」

 

「軍務上の意見を出しています」

 

「次の会期には、あなたが本国へ出した運用評価も示してください。中央が何隻を使えると見ているのか、そこを聞きたい」

 

 シーアは頷いた。数日前、自分が議長府で尋ねたことを、今度は向かい側から聞かれていた。

 

 リンドは、計画段階から通告する項目を双方で増やす案を出した。艦数、納期、購入主体、運用する者、共同任務へ入れる場合の権限。今すぐ支配できる艦だけを数えて、動員の約束を後で付けることは、どちらにも認めない方向だった。

 

 その場で全政府の回答が揃うわけではなかった。共和国側の法務担当者は持ち帰り事項を記し、ベイルは、地方政府が独自に軍備を持つ権利を否定するものではないと確認した。

 

「その権利を、こちらの政府についても同じように扱っていただきます」

 

 シンが答えた。

 

「そのために協議しています」

 

 ベイルは言い、軍事附属書の次の議題へ移った。

 

 第二段階の確認では、分離側が保管へ回す四十隻のうち、十二隻の現地確認が残っていた。共和国側でも、次の八十隻の処分準備が進んでいる。期限だけで済ませず、現物と指揮系統を確認するという約束が、今度も適用された。

 

 確認班は複数の泊地へ分かれていた。シーアは届いた照合結果をまとめ、追加の資料を相手へ求めた。《アシュアランス》はラクサスの指定泊地で、代表団の通信と輸送を支援していた。

 

 別の会合では、通常任務の艦が既存の航路を通過する条件を詰めていた。基地の保安区域と、商船も使う交通管制域を分ける。現地指揮官の都度判断だけで、出港を承認された艦の経路を変えないという要求だった。

 

 相手側は、通過を名目に演習や長時間の滞在を行わないよう求めた。艦載機を発進させず、経路を外れて軍事的な活動をせず、届け出た目的で航行を続ける。その範囲で軍艦の通過も妨げない文面が整っていった。

 

 文書では、それを無害通行と呼んでいた。対象となる経路を付表に載せ、現地政府が管制と警備の指揮系統へ実施を命じる。主権と恒久駐留についての協議は、文官団の議題に残っていた。

 

 二九八日、最初の付表が交換された。艦の出港予定に関係する部分は、現地へ通知された。シーアは各政府からの受領をまとめ、軍の連絡先へ送った。それから、まだ回答の来ない建造計画の一覧へ戻った。

 

 *

 

C.R.C. 7953.301 メタローン軌道

 

 艦長のオーレン・ケイドが艦橋へ入った時、窓の向こうには、雲に霞む工業都市の灯りが見えていた。

 

 メタローン。ミッド・リム、タルシーン・セクター、銀河平面座標R-8。周辺の輸送路へつながる域内航路の出入口には、商船の識別表示が幾つも重なっている。惑星の地表には分離主義同盟の基地が置かれていたが、地方政府が以前から認めていた港の利用と、司法軍の通過は継続していた。

 

 地表の基地から上がる同盟の艇は、軍用の泊地へ向かった。司法軍が使う軌道補給所では、共和国の契約を続ける船渠職員が働いていた。地元政府の独立宣言の後にも、彼らは次の部品を発注し、到着した船を受け入れていた。

 

 プロクラメイター級《アダマント》は、その港で補給を終えたところだった。

 

 交換用の部品と医療資材を受け取り、次の巡察へ向かう。ケイドの命令書には担当する航路と、引き継ぐ艦の合流予定が記されていた。

 

「出港の承認、変更なし。付表の経路と一致しています」

 

 当直士官が報告した。ケイドは航路図を見て、基地の保安区域と、艦が通る回廊の間を確かめた。針路を変えて基地へ寄る予定はなく、艦載機の発進も行わない。途中の交通が変わった場合の確認先も示されていた。

 

 後部の機器区画では、エリン・タヴが受け取った部品を棚へ収めていた。取り替えた機器の古い方は、帰投後に工廠へ渡す予定だった。彼女は部品番号を読み上げ、同僚が端末へ入力するのを待ってから、収納棚の扉を閉めた。

 

「これで、当直へ戻れますね」

 

「古い方の記録も付けてから」

 

 上席の技術員に言われ、タヴはもう一度端末を開いた。次の寄港まで、足りなかった部品を毎日確かめる仕事はなくなる。彼女はその日の勤務が終わる時刻を見て、出港後には食堂へ行けそうだと思った。

 

 艦が補給所を離れると、貨物船を通すために一度姿勢を変え、その後、指定された回廊へ入った。沿岸の基地から小型艇が上がり、別の高度を進む輸送船へ向かっている。艦橋では通常の航行監視を続けていた。

 

「基地側の泊地から、レキューザント級が出ています」

 

 担当者が表示を拡大した。艦名は《ディスピュート》。基地当局の指示で周辺の警備へ就いている艦だった。ケイドは進路を確認させたが、それだけで非常配置は命じなかった。

 

 最初の通信は、目的地と航行の目的を尋ねるものだった。

 

 通信員は、通報した出港経路と星系を離れる予定を送った。次の巡察の細かな位置まで相手へ知らせる必要はない。現地管制が受領した番号を付け、定められた通過であると回答した。

 

 相手は受領を返した。その後も、《アダマント》と同じ方向へ進んでいた。

 

 *

 

 艦橋の当直が交代し始めた頃、要求の内容が変わった。

 

『共和国艦は、基地周辺から退去せよ。以後、当方の指示する経路を使用するものとする』

 

 ケイドは航海担当者を見た。相手の示した経路は、出港時に渡されたものとは違っていた。基地へ入るなというだけでなく、広い交通管制域の外まで退くよう求めている。

 

「変更通知は来ているか」

 

「ありません。管制へ確認します」

 

 港の管制官は、先に承認した経路が有効だと答えた。警備艦には、同じ通過計画が送られているという。通信員がその回答を《ディスピュート》へ伝えると、基地防衛のための現地指揮官の判断が優先すると返ってきた。

 

「では、管制から警備側へ確認してくれ。こちらは、承認された出港経路を通っている」

 

 管制官は基地へ連絡すると答えた。やがて回線を切り替える音が入り、確認を続けているので待ってほしいと返ってきた。通信員は基地の回線を開いたまま、次の返答を待った。

 

 《ディスピュート》は後方へ回り込み、速度を合わせた。外部映像には、細長い艦首が大きく映り始めていた。

 

「接近しています」

 

 ケイドは代替の経路を確認させた。移れば安全なのか、そちらへ出る時に商船の交通と競合しないか。それを知らずに命じられた方向へ転じれば、次には別の危険を作ることになる。

 

 退けば要求を認めたと発表されるだろう、とケイドは思った。しかし、航行権を守るために衝突せよとは命じられていない。回避に使える空間を確認させ、安全上必要なら現在の針路を離れると当直へ伝えた。

 

「安全な間隔を取るよう通告。こちらの運動予定を送れ」

 

 通信員が呼び掛けた。相手からは、退去要求への服従を待っているという返事があった。

 

 艦内へ接近の警告が流れた。交代に来ていた士官は移動をやめ、空いた席で身体を固定した。後部区画でも、タヴたちが作業を中止して壁際の席へ向かった。棚は閉めてあり、荷物を直すために戻る者はいなかった。

 

 《ディスピュート》の艦首は、映像の中でさらに大きくなっていた。

 

「間隔、縮小継続。後方左舷」

 

「接近を中止せよ。衝突の危険がある」

 

 ケイドは警告を繰り返させ、自艦に回避の運動を命じた。推進の配分が変わり、艦の針路が徐々にずれる。相手も同じ側へ寄せていた。航海担当者が報告を続ける間に、二つの船体を示す輪郭が重なりかけた。

 

 床から、鈍い振動が上がった。

 

 続いて、構造を伝わる長い軋みが来た。ケイドの身体が拘束帯へ押し付けられ、卓の隅にあった記録板が滑り落ちる。艦尾の映像で防護場の光が歪み、その向こうから外装板が剥がれた。

 

 二隻は同じ方向へ進みながら接触していた。《ディスピュート》の艦首側が《アダマント》の左舷艦尾へ食い込み、張り出した機器を押し倒す。固定部から剥がれた外板がめくれ、後方へ散っていった。

 

「後部三番区画、圧力低下。補助給電を遮断します」

 

「隔壁閉鎖。主機への影響を確認。離隔を続けろ」

 

 砲術科から指示を求める報告が来た。ケイドは発砲を保留させ、相手の兵装を監視させた。艦尾の損傷報告と、離隔のための操艦に関する声が重なった。

 

 後部通路で、タヴは壁へ肩を打ち付けた。片手で掴んだ取っ手が滑り、床へ膝をついたところへ、もう一度短い衝撃が来た。腕を動かそうとして息が詰まり、反対の手で肩を押さえる。隣の区画で、誰かが倒れた者の名を呼んでいた。

 

 軋む音が止まった。

 

 艦橋の映像に、二隻の間の空間が戻った。金属片が流れ、相手の艦首からも破片が離れている。自艦の後方監視装置の一つは応答を失い、別の映像が呼び出された。

 

 ケイドは相手がさらに離れることを確かめ、応急班の報告を待った。圧力を失った区画に取り残された者はいなかった。外部の配管と給電、通信設備の一部が使えなくなり、推進器区画の周辺にも点検が必要だった。

 

「負傷者、確認できたのは四名です。うち一名、意識がありません。医療員が付き添っています」

 

 艦長は人数を復唱した。次の報告を待つ間に、相手から通信が来た。

 

『共和国艦の急な針路変更により接触が発生した。本艦は基地防衛のための監視を行っていた』

 

 通信員が途中で顔を上げた。ケイドは手を上げ、最後まで受信させた。

 

「本艦は衝突を避けるために運動した。これ以上接近するな。離隔を維持せよ」

 

 彼は答え、記録を保存させた。それから副長へ、次の巡察を中止すると告げた。補給を終えた艦は、任務へ出る代わりに、損傷を調べられる待機場所を探し始めた。

 

 *

 

C.R.C. 7953.301 ラクサス・セカンダス

 

 シーアの前には、十二隻の保管艦の確認日程が出ていた。

 

 現地の班から、最初の五隻に相違はなかったと報告が来ている。残る艦では、退役した指揮系統の記録と、船を所有する会社の契約を照合する予定だった。ヴェルンは運用責任者が応じる時刻を伝え、次の文書へ手を伸ばした。

 

 その時、リンドの背後へ連絡員が来た。

 

 武官団長は渡された端末を読み、短い休憩を求めた。シーアにも来るよう言い、二人で控室へ移る。扉が閉まると、連絡員は、現地司令部を通じて緊急報告が来たと説明した。

 

「メタローンで、プロクラメイター級《アダマント》が損傷しました。分離側の警備艦が後方から接近し、艦尾へ接触したとのことです」

 

 シーアは表示された艦籍番号を見た。納入記録にも配置表にも載っている。だが、艦長にも、そこにいる乗員にも会ったことはなかった。

 

「発砲は」

 

「双方とも、報告されていません。負傷者四名。艦は航行できますが、予定の巡察を取り消しています。ハイパースペース航行の可否は確認中です」

 

 リンドは位置と経路を出させた。ラクサス周辺の図が閉じられ、離れた星系の惑星と軌道施設が現れた。現地政府が受け入れた出港通報と、艦長の最初の報告が並ぶ。艦が自分で記録した航跡の全体は、まだ送信を受けている途中だった。

 

「相手の艦名は」

 

「《ディスピュート》。レキューザント級です。基地側は、共和国艦の運動が接触の原因だと説明しています」

 

 シーアは自分の端末で登録群を検索した。相手艦は、保管へ移す百二十隻ではなく、常備に残る側の一覧にあった。所有者と契約の発注者は書かれている。いま、その艦へ具体的に何を命じたかは、この表にはなかった。

 

 ベイルが来るまでに、医療搬送を求めていることが伝わった。彼はまず、現地の受入れが得られているか確かめさせた。

 

「当日の回線を、こちらの会議へつなぎ直させてはいけない。現地で使えている窓口は、そのまま使わせてください。必要な承認が止まった時に、こちらから働きかける」

 

 連絡員は了承した。負傷者の氏名が届き、シーアは医療搬送を待つ者の欄へ移った。先ほどの速報から状態が更新され、現地の医療班が処置を続けていた。

 

 再開した会議で、リンドは事故の概要と記録保全の要求を伝えた。相手側にも連絡が入り始めていたが、基地の説明と艦の損傷を伝える情報がまだ混じっていた。ヴェルンは管轄の軍務機関へ確認すると答えた。

 

「いま、この艦へ接近をやめろと命じられるのは誰ですか」

 

 シーアは登録表を表示した。

 

「その連絡先を、現地司令部へ送ってください」

 

 ヴェルンは基地側の番号を連絡員へ示した。最初の呼出しには応答がなく、もう一つの回線を開かせた。

 

 シーアが席へ戻ると、事故の報告の隣に、先ほど受け取った五隻の確認結果が残っていた。現地の確認班は、予定どおり次の船へ移るという。彼はその受領も返した。

 

 *

 

C.R.C. 7953.302 メタローン、軌道修理区画

 

 医療艇が離れていくのを、ケイドは格納庫の出入口から見送った。

 

 四名の負傷者のうち二名を、地元の病院へ送った。意識を失っていた機関科の乗員は、艦内で呼び掛けに反応するようになっていたが、検査のために移す必要がある。港側の医療担当者は、艦の所属を理由に断らなかった。現地で勤務していた共和国の連絡官が、費用と身分の扱いを確認し、同乗していた。

 

 民間の船渠から、空いた区画を使えるという回答が来た。軍艦の修理に要る追加許可も申請したとある。ケイドはそこへ移り、地元で調達できる部品の一覧を主任技師へ渡した。

 

 ケイドは命令を待つ間、自艦でできる点検を進めさせた。相手の修理艇を無条件に入れることもできない。見せる必要のない装置は保護し、損傷の確認に必要な部分は開ける。その調整にも人が要った。

 

 医療区画へ行くと、タヴはベッドに座り、固定された腕を前へ置いていた。服の袖が切られ、反対の手で家族へ連絡を送っている。艦長が来たことに気づくと姿勢を正そうとしたので、ケイドはそのままでよいと言った。

 

「家には、話せたか」

 

「はい。こちらのニュースも見られるそうです。ただの接触だと言っていたので、あまり心配していなかったんですが」

 

 彼女は肩の固定具を見た。

 

「写真を送ったら、今度は父から何度も連絡が来てしまって」

 

 ケイドは頷いた。端末には、家族から来た新しい連絡が点いていた。

 

「当直は代わりを組む。治療の指示に従ってくれ」

 

「補給の記録が、まだ——」

 

「引き継がせる」

 

 タヴは返事をし、端末を膝へ戻した。ケイドは次のベッドも見てから区画を出た。通路には、昨日使うはずだった巡察の資料を片付ける職員がいた。次の港へ、寄港できないという通知は出してある。

 

 艦長室へ戻ると、本部から詳細な経過を求める照会が届いていた。ラクサスの交渉団にも記録を送るという。ケイドは艦の原記録を保存させ、最初の接近から回避、接触、その後の対応まで、同じ基準時刻で出すよう命じた。

 

 自分に不利に読めるかもしれない回避運動も含めた。そこを除けば、なぜ艦がその位置へ動いたかを、別の者の説明へ預けることになる。

 

 *

 

C.R.C. 7953.305 ラクサス・セカンダス

 

 会場には、メタローンの基地当局へつながる回線が設けられていた。

 

 相手側が出した最初の図では、交通管制域全体が基地周辺として一色に塗られていた。ベイルは合意した付表を開き、経路を重ねるよう頼んだ。保安区域の外を抜ける航路が表示されると、そこにあった現地政府の承認を読み上げた。

 

 共和国側の記録が再生された。航路の受領、経路変更を求める通信、間隔の縮小を知らせる警告。映像の中でレキューザントの艦首が大きくなり、シーアは、艦長が回避を命じる直前で止めた。

 

「この時点で、既に接近は続いています。ここから先の回避運動だけを、接触の原因として説明することはできません」

 

 シーアは衝撃の少し前まで記録を戻した。何度も聞いた警告の後に、途中で切れる声がある。その次には、もう区画閉鎖の報告が始まっていた。

 

 基地側の担当者は、共和国艦が軍事施設の近くを継続して使うことへ懸念があったと述べた。《アダマント》だけでなく、これまで通過した艦の記録も示される。しかし、そこに記された航行のいずれも、今回承認された経路を無効とする事前の通知にはなっていなかった。

 

「通過を認めない方針なら、協議で変更を求めるべきです。出港を承認した後、艦を後方から追い立てる方法で変えることは認められません」

 

 ベイルが言った。

 

「接触を命じたわけではありません」

 

 画面の担当者が言い終えてから、リンドが口を開いた。

 

「では、命じた内容を見せてください。当日の指示です」

 

 基地の任務命令には、継続的な監視により退去を促すと記されていた。安全な離隔に関する既存の規則は残っているが、その日の艦内で何を判断したかは、提出された資料だけでは追い切れない。共和国側は当直記録と航行記録の追加を求め、相手は検討すると答えた。

 

 リンドは、その返答で会議を終えなかった。

 

「今日の警備から外してください。代わる艦の通行条件も、ここで確認します」

 

 求めたのは、《ディスピュート》を当面の回廊警備から外し、代わる艦へ合意済みの通行条件を命じることだった。《アダマント》の医療と修理に必要な受入れも、責任の決着とは切り離す。地元政府と管制には、現在有効な航路を確認し、変更がある場合にどこから通知するかを明示させる。

 

 ヴェルンは基地の担当者へ、命令を受ける部署と、実際に艦へ伝える者を尋ねた。

 

「警備を命じることができた系統で、交代も命じてください。企業との契約は、こちらでも確認します」

 

 シンは担当機関との調整に入り、ベイルは本国へ要求した措置を送った。シーアは、その説明へ付ける記録を揃えた。

 

 翌日、警備艦の交代命令が届いた。《ディスピュート》を回廊警備から外す署名があり、代わる艦の受領も付いていた。シーアはそれを現地へ送り、艦首の点検で戻るという従来の通知に追加した。

 

 《アダマント》の修理許可も下り、船渠から作業開始の報告が来た。費用負担の照会には回答がなく、抗議書の受領通知とともに、次の会議へ持ち越された。

 

 *

 

 会議が終わった後、ヴェルンは廊下でシーアを呼び止めた。

 

「負傷者のうち、病院へ移した方はどうなりましたか」

 

「二名とも、治療を受けています。意識を失っていた方も会話はできるそうです。艦へ戻れる時期までは聞いていません」

 

 彼女は頷き、持っていた資料を脇へ抱えた。

 

「現地では、協定を守る必要がないという説明も出ています。共和国が地方艦隊を使って軍備を増やすなら、こちらだけ制限を受けるべきではないと」

 

「それを、《アダマント》の艦長にも説明できますか」

 

 ヴェルンは口を閉じた。抱えていた資料の端を揃え直してから、答えた。

 

「説明する相手なら、こちらにもいます」

 

 彼女は窓際へ寄り、通りかかった職員を先に行かせた。

 

「あなたの本国でも、今度の事故を理由に、早く地方へ艦を渡せと言っているでしょう。こちらでは、その計画を理由に警備を強めろと言う。一度に全部を止める権限は、私にはありません」

 

 シーアは、本国から届いた供給計画の照会を思い出した。新型艦の納入を急げという意見が、事故の速報のすぐ後に加わっていた。返そうとした言葉を飲み込み、ヴェルンの方へ向き直った。

 

「今朝も、共同任務の協定を出すよう督促しました。船台の話ばかり、先に進んでいます」

 

「求めたものが、そのまま出てくるのですか」

 

「まだ、全部は来ていません」

 

 彼女はそれ以上訊かなかった。連絡員が呼びに来ると、二人はそれぞれの控室へ戻った。

 

 控室へ戻ると、第二段階の保管確認が進んでいるという連絡が来ていた。メタローンの事件とは別の場所で、確認員が艦へ乗り、乗員の退去と契約の変更を調べている。予定していた十二隻のうち、一隻だけ、運用記録の追加を待っていた。

 

 同じ端末に、本国からの意見書もあった。事故の説明と賠償に進展がない限り、共和国側の次の八十隻を処分すべきではないというものだった。

 

 リンドは確認班の報告へ署名した。本国の意見書には、政府判断を求める転送先を付けた。

 

「現地の確認は、このまま続けろ。停止命令が来たら、私が伝える」

 

 ベイルは事故への要求を続けながら、確認済みの履行には対応するよう本国へ説明した。相手が現役から外した船を戻す理由まで、こちらで作るべきではないという判断だった。

 

 追加資料が届き、残る一隻も確認を終えた。政府から履行を続ける方針が伝えられ、第二群八十隻の処分が進められた。複数の保管拠点から、完了の記録が順に戻ってくる。

 

 一六〇隻の永久処分と、八十隻の現役運用停止。登録群の常備上限は、八百八十隻となった。

 

 シーアは履行報告を送信した。直後にメタローンから医療の続報が届き、開いた画面が負傷者の氏名へ切り替わった。彼は軍の医療連絡先を呼び出し、地上の病院から来た要望を伝えた。

 

 *

 

C.R.C. 7953.314 コルサント、共和国元老院

 

 アウレリアンが委員会へ持ってきたのは、メタローンの現地司令部と司法省から届いた説明だった。

 

 弟は現場にいない。私的な通信で彼の見聞を確かめれば済む事件ではなかった。委員会に必要な資料は正式な経路で要求し、公開できる部分を確認した上で、《アダマント》の艦尾の画像を出した。

 

 損傷した外装と、取り外して調べる設備に印が付いていた。航行に支障がなくなる時期はまだ確定せず、予定していた巡察は他の部隊が一部を引き受けている。実施できなかった寄港も残っていた。

 

「これが、約束を守って通過した結果なのですか」

 

 ロジンは相手側の説明にある接触という語を読み上げ、次に負傷者の数を確かめた。

 

「共和国の艦が通るだけで、背後から追い立てられる。各セクターが自分の船を持ちたいと言うのは当然です。中央の審議が終わるまで、彼らを待たせるべきではありません」

 

 地方向けの供給計画を急ぐという発言には、前より多くの賛同があった。アウレリアンは担当者に最初の納入時期を尋ね、回答を聞いてから、縮小された巡察の日程を示した。

 

「この期間を、誰が引き受けますか」

 

 担当者は装備の計画書を閉じ、運用局から届いた資料を開いた。

 

 モスマは、地方軍向け契約の付属協定を表示するよう求めた。

 

「共同任務への派遣を、誰が決める条文ですか」

 

「地方自治を認めろと言いながら、地方が艦を買えば中央軍と同じように扱うのですか」

 

 ロジンが反論した。

 

「その条文を見せてください」

 

 軍の説明員は画面を送ったが、該当する箇所は調整中となっていた。モスマはその頁を保存し、回答する政府部門と提出日を訊いた。

 

 ヴェッロは、通過を認めた文書と警備の命令を開き、署名者を順に読み上げた。艦長への聴取に加え、この命令を出した基地当局の説明も要求した。

 

 軍備制限の実施表を受け取ると、確認員の署名を指で追い、提出済みの束へ戻した。それから、修理費の見積書を机の中央へ引き寄せた。

 

「費用負担の照会先はどこですか。いつまでに回答を求めていますか」

 

 説明員が部署名を答えると、ヴェッロは日付の欄を示し、期限を付けるよう求めた。その後で、いつもの言葉を添えた。

 

「分離主義同盟滅ぶべし」

 

 今度は、笑った者が少なかった。画面には、《アダマント》の壊れた艦尾が残っていた。

 

 会議の後、アウレリアンは軍務機関へ、負傷者の家族への連絡と医療移送に必要な費用が確保されているか照会した。それから弟へ、議会で何が要求され、どの計画の審議が早められたかを送った。

 

 *

 

C.R.C. 7953.319 メタローン、軌道修理区画

 

 新しい外装板を取り付ける前に、ケイドは主任技師と損傷の記録を確かめた。

 

 後から機器を戻せば、外から見える傷の多くは隠れる。どこまでが接触で損傷し、その後に何を外したかを、順に残しておく必要があった。艦内の時間を使う仕事だったが、ケイドは急がせるだけにはしなかった。

 

 地上へ送った乗員の一人は、治療を続けるため共和国側の病院へ移れる見通しが立っていた。もう一人は経過を見ており、当直表には戻せない。タヴも腕を固定したままだった。自分でできる記録の仕事を求めてきたが、医療班は長時間の勤務を認めなかった。

 

 副長が新しい当直表を持ってきた。欄の一つが空いている。ケイドは、その下へ代わりの要員を要求するよう書いた。

 

「補充を一人請求しろ。医療班に復帰を急がせるな」

 

 彼は署名し、続けて試験航行の条件を読んだ。主機と推進器区画の検査は進み、機動試験を終えれば後方の工廠へ自力で移れる見込みだった。航海担当者が、工廠までの経路を添えていた。

 

 港の管制から、試験に使う経路が届いた。署名のある文書と、基地側が受領したことを示す回答が付いている。副長は両方を確かめ、警備艦の位置を調べさせた。

 

「次も監視されます」

 

「されるだろう」

 

 ケイドは答えた。

 

「見張りを増やせ。近づいてきたら、前の距離まで待つな。回避できる方を常に空けておけ」

 

 副長は了承し、次の当直への説明を始めた。ケイドは試験の予定を署名して返した。

 

 *

 

C.R.C. 7953.323 ラクサス・セカンダス

 

 最後の履行報告が届いた時、シーアは会場の窓際で、本国への説明案を読んでいた。

 

 第三群の四十隻については複数の班が並行して確認し、残っていた照会にも回答が来た。共和国側の最後の八十隻も、各保管拠点で処分の最終確認を受けていた。

 

 二百四十隻と百二十隻。登録群の常備運用上限は、八百四十隻となった。

 

 参加者は、上限と保管状態を短期間維持する延長に同意した。未参加の政府と企業を加える協議も日程に残り、七一号については再び追加資料が求められた。共和国側の処分台帳には、戻すことのできない船体の名が並んでいた。

 

 シーアは数値を更新し、会場の担当者へ確認を返した。別の窓では、地方艦隊向けの供給計画が進んでいた。

 

 中央向け契約とは別のプロクラメイターの追加生産枠。採用試験と初期建造を待つヴェネター。要求の比較に入ったプロヴォケーターと、共同設計の準備を進めるヴィクター・イニシアチブ。購入希望の政府が一つ増え、新しい保証条件を求めるところもあった。

 

 完成艦の引渡しは、まだ一隻も報告されていない。それでも、来年どの顧客のために工場を動かすかは決まり始めている。

 

 シーアは購入政府の一覧を照会へ添えた。納入数の空欄には回答する担当者を付け、共同任務の協定案を求める箇所に印を付けた。

 

 リンドが資料を受け取り、本国へ戻す文面を読んだ。

 

「配備される前から、相手は疑うだろう」

 

「こちらも、七一号が完成するまで待つつもりはありませんでした」

 

 シーアは答えた。

 

「この政府には、もう共同任務の条項があります。署名する前に、こちらにも見せてもらいたいんです」

 

 リンドは該当する行を読み、意見を残したまま送るよう指示した。シーアは、返答を受ける窓口に武官団の連絡先を加えた。

 

 午後には《アダマント》の続報が来た。試験航行を終え、後方の工廠へ向かうことが認められたという。自力航行は可能、原任務への復帰は保留。負傷者については、それぞれの治療と移送の予定が付いていた。

 

 添付の写真では、艦尾に新しい外装板が取り付けられていた。以前の塗装より明るく、その周囲だけ継ぎ目がよく分かった。シーアは最初に送られた損傷画像と並べ、修理が進んだ箇所を確認した。

 

 写真の端に作業員が写っていた。大きな外装板と並ぶと小さく、顔は見えなかった。シーアは撮影した日時を確かめ、進捗報告へ添えた。

 

 窓の外から、芝を刈る機械の音が聞こえた。給仕が夕方の茶を置き、明日の会合のため卓を空けたいと言った。シーアは資料を手元へ寄せた。

 

 兄へ、履行の完了と事故調査の進捗を別々に送った。エレナには、次の帰還予定は変わっていないと知らせる。自分が乗る《アシュアランス》は、ラクサスの泊地で通常の支援を続けていた。

 

 最後に、地方艦隊へ供給する艦の教育要件を開いた。近接時の判断と航行協定の取扱いを、試験へ含める意見を加えた。艦を渡して、その艦長が何を任され、何を命じられていないかを、受領した政府へ確認する項目も付ける。

 

 送信する直前、メタローンからもう一件、運航の更新が届いた。《アダマント》が担当するはずだった次の巡察は、代わる艦を出せないため、一部の日程を取り消したままだった。

 

 シーアは取り消された日程を航路図へ反映した。復旧を知らせるため選んだ艦尾の写真を、その後ろへ送る。最初の画面には、巡察の抜けた区間が残った。

 

 首席代表の事務所へ回線をつなぎ、翌日の説明資料を送った。

 

「明日は、この航路から話します」

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