STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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協定

C.R.C. 7954.045 ラクサス・セカンダス

 

 シンが口を閉じても、誰も席を立たなかった。

 

 画面の男は、切り取られた飛行服の袖から包帯を出し、撮影者の少し横を見ていた。シーアは軍籍資料と顔を見比べ、記録員が画像を受領したことを確かめた。部屋の奥で、停止していた筆記の音が戻った。

 

「本人と話をさせてください」

 

 ベイルが言った。

 

「それから、共和国の医療員を送ります。受入れ先を、今ここで決めたい」

 

 シンは持参した委任状を開いた。収容記録を開示する決定の後に、外交団が医療面会を調整する権限が記されている。帰還まで約束できる文書ではなかったが、前日まで出されなかった扉を開けるには足りた。

 

 彼は基地の連絡将校を呼び出した。将校は患者が軍事保安部門の管理下にあると答え、確認のため待つよう求めた。シンは回線を閉じさせなかった。受け取った決定の番号を読み上げ、患者を診ている医療責任者へつなぐよう命じた。

 

 待っている間に、ヴェルンは《クワイタンス》の乗員名簿を卓へ広げた。三十四名の生存者と、三名の死者。病院へ運ばれた者には搬送先が付いていた。

 

「こちらから出す医療員も、明日動けます」

 

 ベイルは連絡員を呼び、スルイス・ヴァンの受入れ当局へ氏名を送らせた。シーアが開いた予定表には、まだ艦隊申告の会合が並んでいる。夜のうちに必要なものだけを残すと、翌朝の欄へ医療面会が入った。

 

 ようやく回線に出た基地の医療員は、ダーンの右腕を固定していること、意識は清明で、自分で食事を取れていることを説明した。外から送る薬が必要かと訊かれ、処置の記録を用意すると答えた。

 

「本人は、共和国が生存を確認したと知っていますか」

 

 シーアの質問に、医療員は一度、画面の外を見た。

 

『誰が、どこまで説明したかは確認していません』

 

「伝えてください。家族にも、これから知らせます」

 

 医療員が頷いた。ベイルは現地の共和国連絡官へ、本人の確認と家族への通知を任せた。ラクサスの会議場から、眠っている家族へいきなり軍人が電話する手配にはしなかった。

 

 その夜の会合は、翌日の面会者と、返答する者の名を揃えて終わった。椅子を引いたシンは、否定した書面を自分の資料へ戻した。破棄を求めることも、記録から取り下げることもしなかった。

 

 シーアは控室へ移り、情報局へ受領を返した。生存を知らせた現地の者への追加照会は止め、今後の健康状態は正式な医療回線で確認すると伝える。

 

 連絡官はそれを記録し、送信先を確かめた。礼を言って回線を閉じようとしたシーアは、前日の廊下で受けた注意を思い出した。

 

「現地の協力者は、無事ですか」

 

 相手はすぐには答えなかった。

 

「確認しています。新しい照会を出す時は、こちらにも写しをお願いします」

 

 シーアは了承し、送信済みの文書をもう一度添えた。

 

 *

 

C.R.C. 7954.046 ラクサス・セカンダス

 

 最初に出された映像では、《リゾルヴ》のターボレーザーがミュニファスントのシールドへ命中していた。

 

 同盟側の説明員は、その画面を止め、続けてケイト・ニモーディアで燃える偵察機を映した。共和国が二つの地域で同時に軍事行動を行ったという説明だった。基地が脅威に対応するのは当然であり、拿捕された艦と乗員は速やかに返還されるべきだと述べた。

 

 リンドは再生の開始位置を指した。

 

「そこからでは足りない。航空隊の記録を出す」

 

 Z-95の風防越しに、《クワイタンス》から離れるヴァルチャーが映った。警告が鳴り、ハーデンが散開を命じる。最初のレーザーが編隊へ入ったところで、リンドは再生を止めた。

 

 画像の隅にある時刻を、シーアが経過表へ移した。共和国の航空隊が応射し、ミュニファスントが対空砲を撃ち、それからドレッドノートの主砲が開く。中止を要求した通信も、同じ欄へ付いた。

 

「貴国の偵察機は、それ以前に出ていた」

 

 ヴェルンは、今度はRC-160の経路を表示した。

 

 シーアは命令書を開示できる範囲へ切り替えた。日付は〇四〇日。出発もスルイス・ヴァンの最初の射撃より早かった。誰かが拿捕の報を聞き、報復のために発進させたという案内文が、説明員の端末から消された。

 

「前から決めていたのですね」

 

「はい。共和国の命令による飛行です」

 

 ベイルが答えた。

 

「今回の艦と同じ計画だったかも調べていただきます」

 

 同盟側の法務担当者が求め、共和国側は命令系統を確認すると応じた。シーアは、二つの部隊が別々の地域司令部に属していることだけで、政策上のつながりまで否定する文面には署名できなかった。

 

 続いて、ケイト・ニモーディアの対空部隊が警戒を強めた時刻を確かめた。発信者と命令の時刻は提出されたが、スルイス・ヴァンの戦闘を基地がいつ知ったかについては、記録が欠けていた。基地の広報発表が出た時刻だけが、前回の説明表に入っていた。

 

「この時刻に、まだ撃墜していなかったのですか」

 

 シーアが訊くと、基地側の担当者は、発表前に撃墜していたと答えた。

 

「では、砲の記録をください。発表の時刻は、こちらへ移します」

 

 担当者は新しい照会を受け取った。表の上では、偵察機の通信が途絶えた位置と、地上から提出された撃墜地点が重なっていた。正確な前後を揃えても、そこへ共和国が偵察機を送り込んだ事実は残った。

 

 シンは、基地上空の飛行を再開しない保証を求めた。リンドは本国へ諮る期間と区域を尋ね、地図を拡大した。コロニーズを横切るクェラー・ランの交通が細い線で流れ、その脇にダーンが調べていた施設がある。共和国に近い場所だから自由に飛べるとは、誰も言わなかった。

 

 会合を終える前、ベイルは双方の草案から、生存者の返還前に相手の攻撃を非難する声明へ署名させる箇所を外すよう求めた。

 

「政府への要求は、私が持ち帰ります。本人へ渡した文書も、写しを出してください」

 

 シーアは医療面会の時刻を確認した。今日も、スルイス・ヴァンとケイト・ニモーディアには、飛び出せる機体と乗員が待っていた。

 

 *

 

C.R.C. 7954.047 ケイト・ニモーディア、基地診療棟

 

 ダーンは、扉が開く前にベッドから起きた。

 

 昨日、共和国が生存を確認したと告げられていた。面会に来る者がいるとも。朝食の皿が運ばれた後は、廊下に足音がするたび、入口を見ていた。

 

 入ってきた医療員は、彼が普段使う診療施設の記録を持っていた。認識番号を読み、負傷前に治療を受けていた箇所を確かめる。ダーンは答えながら、隣に立つ連絡官の胸の標章を見ていた。

 

「御家族へは、生存の連絡が済んでいます」

 

 連絡官が言った。

 

「ここにいると伝わったんですね」

 

「ええ。奥様には、今日、話せるよう待っていただいています」

 

 ダーンは、固定された腕を医療員へ預けた。骨折した箇所を確かめるため、まだここで検査が要る。長い移動は可能だが、出発前の診察と、到着後に引き継ぐ医療班が必要だと説明された。

 

 基地の監督士官が、部屋の端から近づいた。

 

「許可されているのは、身元の確認と診察です」

 

 連絡官は家族通信の項目が入った許可書を出した。士官が持っていた版には、その行がなかった。彼は当直へ確認すると言って出ていった。

 

 医療員は診察を続けた。ダーンは黙って答え、足元に置かれた通信端末を何度も見た。基地の担当者が戻るまで、連絡官も椅子を離れなかった。

 

 ようやく承認が届いた。士官は入口へ退き、画面に呼出しの表示が出た。

 

 妻は、自宅ではなく、共和国の連絡所にいた。後ろの壁と椅子を見て、ダーンは、彼女も自分のために知らない役所を行き来していたのだと気づいた。

 

『あなたなのね』

 

「ああ」

 

 妻は片手で口元を押さえ、それから腕を見せてほしいと言った。彼が身をずらすと、端末を支えていた医療員が角度を変えてくれた。

 

「治療は受けてる。歩けるよ」

 

『寝てる?』

 

「少しは」

 

 強がって返事をしようとしても、妻はいつもどおりの質問をした。娘は姉のところへ預けてある。学校へ迎えに行く人も決めている。制服を着た者が訪ねてきた時、最初は家の部屋を間違えたのかと思ったという。

 

 ダーンは聞いていた。未帰還を告げる訪問を、訓練で説明されたことはある。その扉を妻が開ける場面を、飛行の前に考えたことはなかった。

 

『いつ出られるの』

 

 彼は連絡官を見た。相手は、日付を決める協議が続いていると答えた。妻はそれを聞いて頷き、次の通信ができる時刻を書き留めた。

 

『仕事で行ったんでしょう』

 

「ああ。命令を受けた」

 

『では、帰るところまで面倒を見てもらって』

 

 妻の声が少し強くなった。連絡官は黙って聞き、次に来る時の担当者を名乗った。

 

 通話が終わると、ダーンは端末の消えた画面を見ていた。食事を持ってきた職員へ、冷めた皿を下げずに置いてほしいと頼む。医療員が鞄を片付けている間に、彼は残していたパンを食べ始めた。

 

 *

 

C.R.C. 7954.048 ケイト・ニモーディア

 

 タヴォ・シェルの通行証は、三度目にも赤い表示を返した。

 

 診療棟へ入る納入業者と機材を扱う仕事を、十年以上続けていた。扉の警備員も彼を知っている。それでも、その朝は端末を返さず、ここで待つように言った。

 

 荷物を抱えた別の職員が後ろへ並んだ。タヴォは場所を空け、内側で扉が閉まるのを見た。少しして、見慣れない士官が来た。

 

「四一日と四三日の勤務について、確認します」

 

 タヴォは、自分が運んだ物品のことかと尋ねた。士官は歩き始めてから、負傷者の収容を誰が知っていたか調べていると答えた。

 

 案内された部屋には、勤務表があった。タヴォの名の近くにも幾つか印が付き、他の者が座った跡のある椅子が並んでいた。昼に家へ戻るつもりだったと告げると、終わる時刻は分からないと言われた。

 

「妻に、遅れると伝えてもいいでしょうか」

 

「こちらから連絡します」

 

 士官は通信機を机へ置くよう求めた。タヴォは従い、端の割れた保護ケースが上になるよう、そっと置いた。画面には、帰りに食材を買ってほしいという妻の連絡が残っていた。

 

 *

 

 コルサントでリヴィアが受け取った報告には、通行権限の停止と聴取が始まったことが記されていた。

 

 ケイト・ニモーディアの現地駐在員は、協力者との連絡を取れていなかった。同じ職場の複数の者が調べられており、相手が誰を疑っているかも分からない。保安委員会には、保護と今後の対応について判断を求める文書が来ていた。

 

 第二室へ回されたのは、現地で使う人員と既存の活動に関わる承認だった。リヴィアは必要な部分だけ閲覧し、シーアが外交照会で医療棟を挙げたという記録を見つけた。名を隠しただけでは守れないと、情報局の連絡官が注意した経緯も付いている。

 

 主任は、現地で人を動かす案を認めなかった。

 

「ほかの要員にも調査が及ぶ。今は所在を確かめる」

 

「その確認に使う者も、現地にいます」

 

 リヴィアは文書の下を示した。続報を求めるだけでも、誰かが動かなければならない。主任は読み直し、新たな接触を求める指示も止めた。

 

 承認欄には、保留と入った。

 

 リヴィアは、保護の要請に回答がなかったことにはしないよう、判断した責任者と時刻を記した。家族に対する支援の扱いも尋ねたが、それで本人をあの部屋から出せるわけではなかった。

 

 卓の向こうで、ダーンへ医療員が面会できたという速報が配布された。リヴィアもその報告を受け取り、机の端へ置いた。

 

 保留の文書を送信すると、現地から短い受領が返った。次に来るはずだった協力者本人からの情報は、その日も届かなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7954.049 スルイス・ヴァン、軍用港

 

 サイル・ドレムは、乗員の名前が呼ばれるたびに顔を上げた。

 

 負傷者への面会を終えた同盟の連絡官が、病院から戻ってきていた。三十四名の生存者を確認し、家族へ知らせるための情報を集める。艦長は自分の番を後に回し、話すのが苦手な機関員を先へ座らせた。

 

「契約が切れたら、帰りの運賃は出ますか」

 

 機関員が尋ねた。共和国の兵が立つ部屋で、連絡官は会社の回答を開いた。拿捕された艦の乗員をどこで受け入れるか、まだ雇用側の通知は出ていなかった。

 

「そこも、帰還の手配に含めて確認します」

 

「私は、この艦を動かす仕事で来たんです。止まっている期間まで賃金が出るか、分からないと言われました」

 

 ドレムは連絡官へ乗艦契約の控えを取り寄せるよう求めた。機関員は彼を見て頷き、家族の宛先を紙へ書いた。手が震え、途中で文字を一つ書き直した。

 

 後から入ってきた共和国の司法官は、艦長へ追加の聴取を求めた。ヴァルチャーの発進命令には、ドレムの認証が残っていた。射撃が始まる前に、どの指示が艦内へ出ていたかを確かめるという。

 

「航空側の記録を、私にも見せてほしい」

 

「確認できた部分を示します」

 

 司法官は端末を置いた。ドレムは通信の音声を聞き、自分が発進を命じた箇所を認めた。続いて流れた攻撃中止の要求に、唇を結んだ。共和国の記録員は、返答がなかった時間も飛ばさずに再生した。

 

 画面には、レーザーを避けるZ-95が写っていた。ドレムが視線を外しても、音声は続いた。彼は終わるのを待ち、供述の訂正箇所を伝えた。

 

 聴取が済むと、艦長は乗員の名簿をもう一度広げた。

 

「部下は先に帰してくれ。私への質問が残るなら、私が答える」

 

 司法官は、その意向を代表団へ送ると答えた。ドレムは頭を下げず、受領の時刻を訊いた。連絡官が紙の端へ書き込むのを見てから、自分の家族の連絡先を出した。

 

 *

 

 航空基地では、リナが食堂の壁面表示を消した。

 

 拿捕したミュニファスントの映像が、昼から繰り返されていた。ターボレーザーが船体へ入ると、取材を受けた誰かが司法軍の勇気を称える。音を聞くたび、リナは顔を上げてしまう。目の前の皿は、まだ半分以上残っていた。

 

 ハーデンが杖を机へ立て掛け、向かいに座った。脚を伸ばせるよう、隣の椅子を空ける。彼は消えた表示へ一度目をやったが、再び点けろとは言わなかった。

 

「戻すそうだ」

 

「乗員ですか」

 

「ああ。条件を詰めている」

 

 リナは食器を置いた。相手が帰れば、自分たちも待機を解かれるかもしれない。そう考えた直後に、テムの機体が爆発したところを思い出した。

 

「私は、見送りには行きたくありません」

 

「勤務がなければ、行かなくていい」

 

 ハーデンはそう言い、自分の食事に手を付けた。食堂へ入ってきた整備員たちが、いつもテムが使っていた席へ座った。誰もそこを空けるようには言わず、リナも、今度は顔を戻して食べ始めた。

 

 *

 

C.R.C. 7954.049 コルサント、共和国元老院

 

 議事記録の時刻が訂正されたのは、採決の前だった。

 

 アウレリアンが出した原記録では、RC-160は砲戦が始まる前に出発していた。作戦命令書は前日のものだった。軍の説明員が読み上げると、拿捕に対する偵察飛行だと述べた前の説明には、訂正の注記が入った。

 

「では、最初から、その場所を飛ぶつもりだった」

 

 コロニーズの議員が言った。

 

「クェラー・ランを使う商船から、進入条件が変わったと連絡が来ています。我々の船が足止めされた時、誰に確かめればよいのですか」

 

 説明員は連絡先を示し、偵察の飛行計画については非公開会合で回答すると告げた。ロジンは、申告に応じない基地を調べた軍人を、違反者のように扱うべきではないと反論した。

 

 モスマは帰還協定の案へ目を移していた。

 

「本人へ署名させる声明は、除かれましたか」

 

「除くよう要求しています。飛行停止を受け入れる場合は、政府と軍務機関から部隊へ命令します」

 

 彼女は頷き、次に、帰還後の診療と家族の移動に必要な費用を確かめた。

 

 ヴェッロは、拿捕艦の現状を尋ねた。装備の調査と、乗員に対する聴取がどこまで進んだかを聞き、司法機関が残す証拠を示させる。艦長を含む全員の帰還へ同意する案だと分かると、しばらく文書を読んだ。

 

「聴取を受ける者を、帰還先の政府が出す。こちらにも同じ義務を付けるのですね」

 

「はい」

 

「では、その署名を取ってください」

 

 隣の議員が、三十四人を一人のために帰すのかと言った。ヴェッロはダーンの任務命令へ目を戻した。

 

「この者には、誰が出発を命じたのです。まだ帰投の報告を受けていないのでしょう」

 

 説明員が頷くと、彼は事務の担当者へ、本人が戻るまでの措置に賛成すると伝えた。その日は、結びの言葉を付けずに座った。

 

 *

 

C.R.C. 7954.050 ラクサス・セカンダス

 

 交渉の卓に、船体を曳航する見積書が出された。

 

 《クワイタンス》の所有者が求めた帰還案だった。乗員を艦へ戻し、必要な修理を終えて出港させる。地上へ降ろした搭載ドロイドと兵装、記録も合わせて引き渡すよう記されていた。

 

 スルイス・ヴァンの港は、共和国との接続を維持した軍用港だった。艦を置いたまま乗員だけ引き取れば、資産を放棄したと扱われるのではないか。会社の代理人は、その懸念を繰り返した。

 

 リンドは見積書の工程を読んだ。

 

「開始日が空欄だ」

 

「技術者を入れなければ、作業を確定できません」

 

「入るための申請は受け取っています。本人の身元と、使う機材を返してください」

 

 代理人は別の紙を出し、政府の保安承認が残っていると答えた。ヴェルンがその紙を受け取り、相手の後ろにいた担当者を呼んだ。シーアはやり取りを聞きながら、乗員用の輸送船を手配した場合の案を、机の空いたところへ置いた。

 

「こちらは、医療設備の確認まで済んでいます」

 

 代理人はそれを見たが、すぐに手を伸ばさなかった。

 

「艦長が任意で船を捨てた、と記録されては困ります」

 

 ベイルは法務担当者を呼び、その一文を文案へ入れさせた。乗員が帰還しても、艦の所有者が返還の要求を撤回したとは扱わない。共和国側も、拿捕と調査に関する主張を維持する。艦は現在の港で保全し、次の協議が済むまで売却、廃棄、実戦への投入を行わない。

 

 代理人は最後の部分を読み、記録装置も保全の対象に含めるよう求めた。共和国の技術者が調査で機材を外した時には、作業を記録する。RC-160の残骸についても、保管場所を示し、破損と調査で変わった箇所を残す案になった。

 

 軍の調査担当からは、帰還前に聴取を続けたい乗員の一覧が来ていた。シーアは現地へ回線を開き、各人に必要な時間を確かめた。全員を留める理由にはならず、優先した項目を終える日が決められた。

 

 ドレムについても、帰還者の名簿へ残した。後の質問は同盟政府が受け、本人への聴取と回答を手配する。ダーンの任務について、共和国が引き受ける義務も同じ文書に記された。

 

 ただ、同盟側の軍事保安部門は、偵察を止める条件がなければダーンを出さないと主張していた。シンが持ち帰った案では、ケイト・ニモーディア一帯の軍事情報収集を無期限に禁止することになっている。

 

 リンドは、地図へ範囲を示すよう求めた。線は基地の上空からクェラー・ラン沿いの交通へ広がり、周辺の政府の領域もかすめていた。

 

「この線では、私の委任を越える。対象を今回の基地と付属施設へ戻してください」

 

 修正と照会が続いた。共和国が受け入れるのは、指定した基地周辺での航空偵察の一時停止だった。機種を替えて同じ飛行を続けることも認めない。相手側は帰還便を妨げず、期間内に追加の戦闘部隊を通過帯へ前進させない。スルイス・ヴァンでも、返還要求を名目とする艦艇の接近を止め、共和国側が緊急に出した一部の待機部隊を戻す。

 

 条件を読むたび、当日の当直へ誰が命じるかを確かめた。シンは、軍事保安部門の送還承認だけでなく、ダーンのいる基地へ出す実施命令の写しも求めた。

 

「本部の決定は届いているはずです」

 

 連絡将校が答えると、シンは、自分が否定の回答を受け取った日付を読み上げた。

 

「今度は、誰が受け取ったかまで付けてください」

 

 将校は回線を保留し、やがて基地の当直責任者を呼び出した。ヴェルンはその顔と名を記録し、共和国側の連絡員にも見せた。

 

 *

 

 夜、本国から最終の訓令が届いた。

 

 シーアは、署名後に行う三十日間の措置を、運用担当者と読み合わせた。帰還する者を当該区域の軍事任務へ再投入しない。偵察の停止と、二つの帰還経路の安全を確保する。いずれも政府が所属部隊へ命じるもので、負傷した本人が出頭のたびに保証する文案にはしなかった。

 

 共和国側の情報部門には、失う観測機会への不満があった。基地の工事は続くのだから、短い飛行停止でも損失が生じる。リンドはその評価を削らず、政府が引き受ける条件に付けた。

 

 同盟の軍務機関にも、艦と装備を残して人員だけ戻すことへの異議があった。シンは返還要求を取り下げていないと説明し、調査と財産の協議を行う日程を確定した。会社の代理人は、帰還者を受け入れる港と、そこからの移動費に署名した。

 

 翌日の早朝、ベイルとシンは、帰還協定を交換した。

 

 撮影機は入れなかった。先に本人と家族へ知らせ、両地の準備が整ってから公表する。シーアは写しを現地へ送り、返ってきた受領を読み上げた。

 

 スルイス・ヴァンの医療責任者は、三十四名のうち担架を使う者の席を確かめていた。ケイト・ニモーディアでは、受け入れる艇を基地の医療員が迎える。別々の惑星へ出す二つの便を、同じ交換地点へ集める必要はなかった。双方の立会人が現地で本人を確かめ、合同の席へ受領を戻す。

 

 四つの回線が動き続けていた。地上の天候、艇の不具合、患者の容態で予定が変われば、次の者へ知らせなければならない。今夜の担当者が休む時にも、同じ窓口が応じられるよう、交代表へ名前が加わっていった。

 

 シーアが席を立つと、ヴェルンが彼のカップを指した。

 

「それ、もう飲まない方がいいと思います」

 

 底に薄い膜が張っていた。シーアはカップを持ち上げ、いつ淹れたものだったか考えてから、給仕の台へ戻した。

 

「新しいものをもらってきます。そちらも?」

 

「ええ。今度は、温かいうちに」

 

 彼が二つのカップを持って戻るまで、ヴェルンは次の通信を受けていた。声を聞き取ろうと顔を寄せる仕草は、昨日と変わらない。それでも、彼女が話しているのは、帰還者を運ぶ車の台数だった。

 

 *

 

C.R.C. 7954.052 保安委員会情報収集艦《リスナー》

 

 最初に戻ったのは、港の連絡艇の定期便だった。

 

 ネサ・レルは、通常の発着枠へ戻すという通知を聞き、前日の予定へ重ねた。軍人だけを運ぶために増やした便が減り、基地の交代職員と民間の作業員が同じ艇へ乗る予定になっていた。

 

 別の泊地では、中断していた機器の点検を再開すると連絡していた。上陸者を全員呼び戻した艦の一つから、当直外の人員について、指定された時間だけ上陸を認める指示が出た。

 

「ここ、もう一度聞かせて」

 

 ネサは、受信した時刻と艦の識別を確認した。暗号化された軍務回線は引き続き使われている。しかし、港側の仕事は変わり始めていた。彼女は確認した二つの群について、即時出港の準備から一部の勤務が戻されたと報告した。

 

 艦長が来た時にも、分析員は次の記録を開いていた。まだ一度も休憩へ出ていない者がいるのを見て、艦長は交代表を指した。

 

「先に、そちらの組を寝かせろ」

 

「最後の受領だけ待っています」

 

「次の組に渡せ」

 

 ネサは隣へ座る交代者に経過を説明し、自分の認証を外した。受信機の音は止まらず、別の者が回線を選び始める。廊下へ出ると、食堂から温かい料理の匂いが来た。

 

 艦内時計を見て、彼女はようやく、今がどの食事の時刻か確かめた。

 

 *

 

C.R.C. 7954.053 ケイト・ニモーディア

 

 ダーンが部屋を出る時、警備兵は両手を前へ出せとは言わなかった。

 

 私物を入れた袋は共和国の連絡官が持ち、医療員がその隣へ付いた。基地側の士官は必要な書類を先に運ばせ、本人には廊下を歩く速さを合わせた。

 

 窓のそばを通ると、雲の上へ出た都市が見えた。橋を渡る車が列になり、建物の間を小さな艇が行き交っている。基地の上空ばかり見ていた任務の日には、あの車に誰が乗っているかを考えなかった。今は、どれかに乗れば、この部屋へ戻らずに済むのだと思った。

 

 指定の着陸場には、医療輸送艇が降りていた。

 

 外周にドロイド兵が立ち、タラップの前では双方の担当者が待っている。ダーンは機体の標章を見つけ、歩みを速めかけた。医療員に呼び止められ、足を止める。

 

 まず、本人の名と認識番号が読まれた。彼は答え、診療記録が引き継がれるのを待った。共和国側の受入れ担当者が顔を上げ、近づいてきた。

 

「ここから、私たちが付き添います」

 

 その言葉を聞いても、ダーンはすぐには動かなかった。基地の士官が一歩退くと、タラップまでの道が空いた。彼はそこを歩き、機内へ入った。

 

 座席には、腕を楽に置けるよう布が用意されていた。連絡官が袋を棚へ固定し、医療員が診察の続きを始める。扉が閉まる前に、ダーンは基地の方を見た。

 

 迎撃機は飛び立たなかった。

 

 輸送艇は予定の経路へ上昇した。雲が窓を覆った時、ダーンは座席の縁を強く掴んだ。機体が揺れると、あの時と同じ音が来る気がした。隣の医療員が何も言わずに座り、彼が手を緩めるまで待っていた。

 

 前方から、指定空域を出たという報告が届いた。

 

 ダーンは口元を覆っていた手を下ろし、今から家へ連絡してもよいか尋ねた。

 

 *

 

 スルイス・ヴァンでは、三十四人を呼ぶ声が格納庫に響いていた。

 

 ドレムは隊列の外へ立ち、乗員が一人ずつ輸送船へ上がるのを見ていた。負傷者は先に載せられ、亡くなった三人の引渡しも済んでいる。最後に、あの機関員が自分の名を呼ばれた。荷物を抱え直し、艦長へ振り返る。

 

「着いてから、まだ集まるんですか」

 

「会社の者が来る。私も話をする」

 

 機関員は頷き、タラップへ向かった。

 

 共和国の司法官が、残る質問を政府の窓口へ送ると告げた。ドレムは自分の連絡先を確かめ、書面を受け取った。帰還先での聴取を求められていることも、隠さず乗員へ説明していた。

 

 港の外には、《クワイタンス》が残っていた。

 

 艦首の補修跡は、前からあったものだった。その近くに、新しい砲弾の傷が重なっている。ドレムはしばらく船体を見てから、受入れ担当者へ自分の名を答えた。

 

 輸送船の客室では、部下が空けていた席へ座った。操縦を始めるために艦橋へ呼ぶ声はなく、扉を閉めるのも、出港を報告するのも他の者だった。彼は膝の上に置いた名簿を一度開き、三十四の受領を確かめて閉じた。

 

 その船を上空で見張っていたのは、リナとは別の当直だった。

 

 リナは格納庫で機体の点検を手伝い、出港の報告を壁の放送で聞いた。隣にいた整備員は作業を止めず、留め具の締まりを確かめるよう言った。彼女は手を伸ばし、言われた部分を指で押した。

 

 夕方、継続待機していた一組へ、宿舎に戻るよう命令が出た。リナの名も呼ばれた。即応の機体は残り、次の当直が席へ入る。

 

 彼女はヘルメットを袋へ収め、母に連絡した。帰省の日付はまだ伝えられなかったが、今夜は途中で呼ばれるかもしれないと、最初に断る必要がなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7954.054 ラクサス・セカンダス

 

 朝の会議で、ベイルは二つの受領書を読んだ。

 

 ダーンは共和国の医療管理へ移り、《クワイタンス》の生存乗員と遺体は同盟側が引き取った。家族への通知も、それぞれの連絡担当が終えていた。

 

 シンは、飛行停止と帰還者の扱いを命じた政府の文書を渡した。リンドも共和国側の実施命令を出し、現地の部隊が受け取ったことを確認した。

 

 会議の後、庭側の扉が開けられた。暑さを避けるため閉じていた内扉も開き、職員が椅子を動かして風を通した。入口の警備は残っていたが、車に待機させられていた運転手たちは、ようやく交代の食事へ出られるようになった。

 

 シーアが通信室へ戻ると、見慣れない士官が席に座っていた。

 

 司法省から派遣された常任の連絡官だった。軍の運用局との回線を試し、現地から来た問い合わせを受け取っている。隣には同盟側の担当者が入り、二人の間に今週の当直表が置かれていた。

 

 帰還に使った合同窓口を維持する方針は、両政府から承認されていた。恒久的な人員と予算の審議を待つ間、今ある要員を交代させながら引き継ぐ。事故、救難、拘束者の照会に加え、査察の移動と、艦艇の申告に対する質問もここで受ける。

 

 最初に置かれた書類は、《クワイタンス》へ立ち入る技術者の申請だった。船体と残る機材の確認には、まだ現地の仕事が続く。連絡官は責任者を調べ、相手側の担当者と同じ受付番号を付けた。

 

 ヴェルンはその横へ、共和国の地方艦隊に関する照会を置いた。

 

「こちらも、受付をお願いします」

 

 彼女が言うと、シーアは持っていた付属協定の写しを出した。本国から公開を認められた部分で、前の会期には空欄だった共同任務の条項が埋まっている。

 

 ヴェルンは数行読み、見覚えのある書込みを指した。

 

「これは、あなたの意見ですか」

 

「はい。実際に提供を求める部署まで出すよう、追記しました」

 

「この政府からは、違う説明を受けています」

 

 彼女は該当する頁へ付箋を貼り、次の会合の議題に入れるよう連絡官へ頼んだ。連絡官が日程を確認している間に、シーアは自分が受けていた案件を引き継いだ。

 

 《リスナー》からの定時報告には、一部の群で待機の規模が縮小されたことが記されていた。共和国側でも、前へ送るため用意していた補助艦のうち一隻を、元の任務へ戻していた。シーアは、その変更で再開できる寄港を運用局へ確かめた。

 

 自分の端末へ通信が入った時、彼は時計を見た。次の会議まで、まだ時間がある。

 

 エレナは劇場の控室にいた。衣装を運ぶ者が後ろを通り、彼女は少し横へ避けてから、回線をつなぎ直した。

 

『今日は、顔が見られるのね』

 

「うん。二つとも着いた」

 

『ニュースで見た。今朝も、同じ場面を流していたわ』

 

 シーアは頷いた。画面には帰還する人々が映り、報道員は合意を説明する。その背後で、受け取る者が署名し、医療員が担架を持ち直していた。彼が何日も待っていたのは、あの動きだった。

 

「帰ったら、劇を観に行きたい」

 

『今度は、途中で資料を開かないでね』

 

「前も、ずっと見てたよ」

 

『幕が下りた途端に開いたでしょう』

 

 彼は笑った。反論はできなかった。

 

 隣の通信席で新しい呼出し音が鳴った。シーアは一度そちらを見たが、常任の連絡官が受け、必要な担当者へ回していた。

 

『呼ばれた?』

 

「大丈夫。続けて」

 

 エレナは、次の演目について話し始めた。シーアは端末を机へ立て、椅子へ座り直した。

 

 *

 

C.R.C. 7954.058 共和国の受入れ基地

 

 ダーンは、広報の担当者が用意した椅子へは座らなかった。

 

 帰還者への短い取材を求められたが、先に家族と会うと答えた。付き添いの士官も、その予定で来ていると告げた。担当者は少し慌てて機材を退け、通路を空けた。

 

 検査と聴取の予定は、胸の袋に入っていた。まだ飛行任務へ戻れず、腕の治療も続く。右手を無理に使わないよう、医療員から何度も言われていた。

 

 曲がり角の先に妻がいた。

 

 彼女は立ち上がり、娘の手を引いて近づいた。途中で手を離された娘が走りかけ、父の腕を見て足を緩める。ダーンは屈み、左手を出した。

 

「ここなら、大丈夫だ」

 

 娘が胸へ飛び込んできた。彼は片腕で抱き、肩へ当たらないよう身体を傾けた。髪が顎に触れ、家で使っている石鹸の匂いがした。

 

 妻はすぐ横まで来ていたが、しばらく言葉を出さなかった。彼の頬と腕を見てから、左肩へ手を置いた。

 

「迎えに来たわ」

 

「ありがとう」

 

 ダーンはそう答えた。ほかにも言いたいことはあったが、娘が顔を上げ、持ってきた絵を見せ始めた。紙は何度も畳まれ、端が柔らかくなっていた。家の前に三人が並び、窓には、娘が世話をしている鉢植えまで描いてあった。

 

「こっちが、お父さん」

 

 彼女が指で示した。一本の腕が妙に長かった。

 

「長く描いたんだな」

 

「手をつなぐから」

 

 ダーンは絵を妻に預け、娘の手を取った。妻は彼の私物の袋を持ち、基地の外へ向く。

 

 出口へ近づくと、戸外の話し声が聞こえた。家族を迎える車が並び、荷物を運ぶ者が道を空けてくれた。

 

「帰ろう」

 

 ダーンが言うと、娘は握った手を引いた。彼は妻と歩調を合わせ、開いた扉の向こうへ出た。

 

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