STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
翌朝、シーアは朝食を済ませると、父の執務室へ向かった。
アルドレンはすでに机についていた。開かれた報告書の脇に端末が置かれ、壁面の表示板には今日の予定が並んでいる。シーアが机の前で待っていると、父は読んでいた箇所を確かめてから顔を上げた。
「どうした」
「お願いがある」
「聞こう」
シーアは少しだけ背筋を伸ばした。
「クアットに行きたい。船を見に」
アルドレンは手元の報告書を置いた。
「昨日の会議で、造船の仕事にも興味が湧いたか」
「船を見たいだけだよ」
「それだけか」
「プリーターも、プロキュエーターもあるんだよ。マンデイターも見たい。それから、造ってるところも」
言いながら、ほかに見たいものがなかったか考える。造船環そのものもそうだし、機関を組み立てているところも見てみたかった。父はその様子を眺め、わずかに口元を緩めた。
「随分と具体的だな」
「クアットなんだから」
それで十分な説明だと思った。アルドレンは表示板の予定を一つ開き、しばらく確かめていた。
「船の都合はつけられそうだ。日取りは先方と合わせよう」
「行っていい?」
「ただし、見学は一日だ」
明るくなりかけた顔が止まった。
「二日」
「一日」
「全部見られないよ」
「全部を見る約束はしていない」
シーアは父を見た。アルドレンは待っている。しばらくして、先に目を伏せたのはシーアだった。
「……一日」
「案内の指示に従うこと。許可のない場所には入らない。セレナと護衛から勝手に離れるのも駄目だ。向こうはお前が帰ったあとも仕事をするんだからな」
「分かってる」
「それから、これは公王家の視察ではない。お前が船を見に行くだけだ。何を説明されても、契約の約束はするな」
「僕、八歳だよ」
「八歳の公子に将来の顧客としての価値がないと思うほど、クアット・ドライブ・ヤードは甘くない」
シーアは少し考えた。
「営業される?」
「間違いなく」
「船を見せてもらえるならいいよ」
アルドレンは小さく笑った。
「その調子なら、向こうも案内のしがいがあるだろう」
扉の近くで待っていたセレナが、静かに視線を逸らした。シーアは何か言い返しかけたが、それより先に確かめたいことがあった。
「マンデイター、本当に見られるかな」
「それはクアットに聞け。セレナ、先方との調整を頼む」
「承知いたしました」
「僕が聞いてもいい?」
「まず、御案内してくださる方を決めていただきます。その方にお伝えしましょう」
セレナは端末を取り出し、希望する見学先を書き留め始めた。シーアはさっそくその隣へ寄った。
執務室を出る頃には、どの船から見るかで頭がいっぱいになっていた。プリーターからにするか、最初にマンデイターを見るか。船体の中へ入れるなら、機関区画にも行きたい。
「殿下。一日ですからね」
セレナに念を押され、シーアは振り返った。
「一日は長いよ」
セレナは、書き留めたばかりの見学先をもう一度見直した。
⸻
C.R.C. 7943.103
クアット星系 / M-10、クアット・セクター。クアット・トレード・ルート。
クアットへ近づくにつれて、惑星が見えなくなった。
青と白の球体は、確かにその向こうにある。けれど、窓の前を横切る造船施設があまりにも多かった。遠くからは一続きの構造物に見えたものが、距離の縮まるにつれて船渠や組立棟、資材集積区、居住区に分かれていく。その間を交通路が結び、何本もの係留塔が宇宙へ突き出していた。
細部が見えるようになっても、全体はつかめなかった。人工物の帯は惑星の縁に沿って延々と続き、窓の端へ消えている。都市を細長く引き延ばして、クアットを取り巻かせたようだった。
シーアは窓へ身を寄せた。額が触れそうになったところで、後ろからセレナに肩を引かれる。
「もうすぐ着きます。お座りください」
「分かってる」
返事をしながらも、目は外へ向いたままだった。骨組みだけの船体の隣に、船首の外板を張り終えた艦がある。その奥では曳船に囲まれたクルーザーが、ゆっくりと向きを変えていた。
護衛艇が来賓用ドックへ進入すると、船渠の列が窓の向こうへ遠ざかり、代わりに明るい誘導灯が見えてきた。シーアはようやく座席へ戻った。
「セレナ。一日で足りると思う?」
「御覧になりたいものを全部、ということでしたら難しいでしょうね」
「じゃあ、二日あれば」
「お父上とのお約束は一日です」
到着してからもう一度頼めば何とかなるかもしれない、という期待は消えた。
ドックでは、ヴェリオン・カースが一行を待っていた。挨拶を交わすと、笑みを含んだ声で言った。
「お待ちしておりました、殿下。本日だけでも、十分にお楽しみいただけると思います」
「全部見ると、どのくらいかかるの?」
「ご成人になるかもしれませんな。その頃には新しい船渠が増えておりますから、続きを御案内することになります」
シーアは真面目に考えかけ、それから笑った。
「それじゃ終わらないじゃないか」
「私どもとしては、そうあってほしいものです」
カースはクアット・ドライブ・ヤードの対外事業部門で役員を務めていた。サーティネイニアン・オービタル・ワークスとの技術提携にも関わり、公王家との付き合いもある。私的な見学とはいえ、その家の第三公子を迎えるにあたって、案内を現場任せにはしなかったようだ。
シーアはさっそく、いちばん気になっていたことを尋ねた。
「プリーターは見られる?」
「新造中の艦を御案内します。プロキュエーターは近代化改装中のものを。マンデイターも、よく見える場所を予定しております」
聞こうとしていたことを先に答えられ、シーアは満足して頷いた。
「じゃあ、行こう」
「その前に、見学中の注意を伺います」
セレナに呼び止められ、踏み出しかけた足を戻す。
「……はい」
カースは急かすこともなく、来賓区画の入口へ二人を案内した。
⸻
造船環の中を移動するたびに、船へ乗り直す必要はなかった。
来賓区画から高速軌道線へ乗り込むと、列車はほとんど加速を感じさせないまま速度を上げた。窓の向こうを工場の外壁が流れ、その切れ目から艦艇やクアットの青い大気が見える。
隣には資材運搬線が何本も並んでいた。装甲板を載せた無人貨車が分岐へ入り、別の線では大きな機関ブロックが列車と並んで進んでいる。貨物区画を通り抜けると、搬入された容器を行き先ごとに振り分ける設備が見えた。
「あれも、ほかの星から来たの?」
「ええ。ここで製造するものもありますが、すべてではありません」
カースが車内の表示板を操作すると、クアットを中心に無数の線が伸びた。装甲材、電子機器、生命維持装置、兵装、機関部品。項目を切り替えるたびに、結ばれる星系が変わっていく。
シーアは窓と表示板を見比べた。
「この線が止まったら、船も造れなくなる?」
「すぐに止まるとは限りません。在庫もありますし、ほかから調達できるものもあります。ただ、こちらの部品が届かなければ、それを組み込む作業は待つことになります」
カースが一本の線を選ぶと、その先に部品の立体図が現れた。機関の一部らしかった。窓の外を運ばれていく塊の中にも、似た形をしたものがある。
「造船所が空いてても?」
「部品のないところへ技師を何人集めても、取り付けはできませんからな」
シーアは、その部品が運ばれてくる星系の名を読もうと顔を近づけた。知らない名前だった。
「船を造るのって、造船所だけじゃないんだ」
「船は最後にここで一隻になります。しかし、それまでには随分多くの星を通ってきます」
列車が減速を始めた。最初の見学先は、新造船台ではなく改装区画だった。
展望通路の向こうで、巨大な船体が船渠へ固定されていた。外板を剥がされた機関区画には整備用の足場が組まれ、取り外された部品が搬出を待っている。その脇を、新しい配電設備を積んだ作業台が移動していた。
「プロキュエーター級です」
シーアは通路の手すりへ寄った。完成した姿は知っているが、腹の中を開かれた艦を見るのは初めてだった。
「古い船なんだよね。こんなに外しても、まだ使えるの?」
「船体には余裕があります。使える部分を残して、機関や装備を更新しているのです」
説明用の表示に船体断面が現れた。残す部分と交換する部分が色分けされ、反応炉、火器管制、通信設備へ順に印がつく。外から見えている工事は、艦全体の一部にすぎなかった。
「新しく造るより安い?」
「この艦については、改装を選ぶだけの理由があります。傷み方によっては、新造をお勧めすることもありますよ」
「じゃあ、一隻ずつ調べてみないと分からないんだ」
「造船とは、そういうものです」
カースが頷く。その横で、シーアは剥き出しになった船体を眺めた。あの大きな骨組みの中へ、新しいものが少しずつ収まっていく。工事が終われば、また宇宙へ出ていくのだ。
「百年経っても使えるの?」
「必要な整備を続ければ、それ以上でも」
「船って長生きなんだ」
「王家ほどではありませんが」
セレナが小さく笑った。シーアはもう一度艦を見上げてから、二人の後に続いた。
次の区画へ向かう途中、窓の前を塞いでいた構造物が途切れた。その向こうに、巨大な楔が宇宙へ突き出していた。
「プリーターだ」
シーアが先に言ったので、カースは紹介しようとしていた口を閉じた。
新造中の艦だった。外板の一部は周囲と色が違い、船体には作業用の足場が残っている。それでも、艦首へ向かって鋭く絞られた形ははっきりと分かった。固定されて動いていないのに、前へ進んでいく姿を想像しやすかった。
「速いんだよね」
「この規模の艦としては」
「強いのも知ってる」
「何と戦わせるかによりますが」
シーアは少しだけ口を尖らせた。
「そういう言い方、お父様もする」
「では、私も安心して申し上げられますな」
カースは艦の周囲にある施設を指しながら、整備や出動の準備について説明した。先ほどのプロキュエーターと比べ、遠方へ展開する際にも扱いやすいという。シーアは頷きながら聞いていたが、目は艦体から離れなかった。
「これ、いいね」
「どのあたりがお気に召しましたか」
「すぐ行けるところ。着いたら、ちゃんと強いし」
カースは相槌を打ち、端末に短く書き込んだ。シーアがそれに気づく前に、窓の外へまた新しい船渠が現れた。
⸻
マンデイターは、造船環から少し離れたところにいた。
シーアはしばらく何も言わなかった。先ほどまで見ていた艦には、船渠や作業施設が寄り添っていた。この艦の周囲には空間がある。それなのに、行き交うクルーザーや輸送船があまりにも小さく、かえって大きさをつかみにくかった。
窓際へ近づき、ようやく艦体の細部を追い始める。並んだ砲塔や張り出した構造物の上に、ひときわ高い艦橋が立っていた。
「あの艦橋、好き」
「最初に御覧になるのは、そちらですか」
「砲塔も好きだよ。でも、あれがあると船の形がよく分かる」
シーアは指で艦橋を示し、そこから艦首までをたどった。
「それに、偉そう」
隣のセレナが顔を向ける。
「褒めておられるのですか?」
「褒めてる。あれが来たら、みんな見ると思う」
カースも窓の向こうを見た。
「味方なら、心強いでしょうな」
「敵だったら怖いよ。見ただけで、戦うのをやめるかもしれない」
少なくとも、自分ならあの艦に向かっていきたくはなかった。シーアは艦橋の高さを確かめるように、もう一度視線を上げた。
「カースさん。司法軍には、どうしてこういう船が少ないの?」
「艦そのものの価格に加えて、維持にも相応の費用がかかります。置いておく施設も、人員も必要ですから」
「でも、造れないわけじゃないよね」
「御覧の通りです。ただ、私どもが造れることと、司法軍が注文することは別です」
シーアは頷き、マンデイターを見つめた。サーティネイニアンの基地にいたドレッドノートも大きかったが、これとは比べものにならない。こんな船を一隻置くには、基地の方もずっと大きくしなければならないのだろう。
「司法軍って、あちこちに行くんだよね。共和国は広いから」
「ええ」
「だったら、一隻でもいろんなことができる方がいいと思う」
カースが黙って待っていたので、シーアは続けた。
「すぐ来られて、遠くまで行けて、長く帰らなくてもよくて。戦闘機も兵隊も載せておく。シャトルも、助ける船もいるし、壊れた船を少し直せたらいい」
「かなり大きくなりそうですな」
「マンデイターよりは小さくていいよ」
「それでも、十分に大きな船になります」
シーアは少し考えた。全部が必要なのかは分からない。けれど、遠くまで行ったあとで何かが足りなくなったら、取りに戻るだけでも時間がかかる。
「着いてから、また別の船を待たなきゃいけないのは困るでしょう。共和国の船が来たら、そこに共和国が来たって分かればいい」
口にしてから、首を傾げた。
「……その星も、共和国なんだけど」
サーティネイニアンには司法軍の基地がある。船が外へ出たからといって、故郷が共和国でなくなるわけではない。言いたかったのは、そういうことではなかった。
シーアはしばらく言葉を探し、マンデイターからカースへ顔を向けた。
「共和国が、ちゃんとそこまで来られる船」
カースは端末へ目を落とした。それまで書き留めていた即応性や長期独立行動、艦載機、兵員、救難能力といった項目の下に、その言葉を加える。
「変?」
「いいえ。殿下がどう使いたいのかは、よく分かります」
「でも、高そう」
「非常に」
シーアは少し困った。父の机に積まれていた予算資料が頭に浮かんだ。
「病院、いっぱい建つ?」
「相当数、建てられるでしょうな」
「じゃあ、駄目かな」
カースはすぐに否定しなかった。
「何にいくら使うかを決めるのは、設計者ではありません。私どもは、求められた仕事のできる船と、その費用をお示しします」
シーアは窓の外へ目を戻した。マンデイターの艦橋は、やはり格好よかった。それに値段の話まで加わると、好きだから欲しいというだけでは済まなくなる。
しばらく眺めてから、端末を持ち上げた。
「ここから撮ってもいい?」
「ええ。そのためにも、こちらへ御案内しました」
カースの返事を聞くと、シーアはさっそく撮影を始めた。
⸻
研究区画へ向かう前に、カースは来賓向けの展示室へ立ち寄った。
完成した艦の模型に交じって、検討中の構想を紹介する展示があった。シーアが足を止めたのは、内部構造の一部を透かして見せた、三角形に近い大型艦の模型の前だった。
「これ、反応炉が二つあるの?」
艦体中央に主反応炉があり、その前方にも別の反応炉が収まっていた。シーアが二つを指すと、カースは模型の説明表示を開いた。
「前方の反応炉を、砲戦用に分ける案です。兵装と推進に必要な出力を、どのように確保するかを研究しています」
「撃ってる時も、ちゃんと走れるように?」
「そのための構成ですね」
シーアは模型の横へ回った。船体に対して、格納庫らしい部分が小さい。
「戦闘機は、あまり載せないんだ」
「砲戦を重視した艦ですから。そのあたりは、これから会っていただく技師の方が詳しいでしょう」
ここに展示してある模型は撮影してよいが、研究室では指示に従ってほしい、とカースが付け加えた。シーアは頷き、反応炉の配置が分かる角度から一枚撮った。
案内された研究室には、展示室のような飾り気はなかった。机の上に設計資料が広げられ、数人の技師が投影された船体断面を囲んでいる。中央にいた男は、来客に気づくと作業を止めた。
「ブリセックス技師。サーティネイニアン公王家のアレクシアール殿下です」
カースの紹介を受けて、男が立ち上がる。
「ウォレックス・ブリセックスです。ようこそ」
シーアは姿勢を正して挨拶を返した。その間も、技師の背後に浮かぶ図面が気になっていた。中央の大きな反応炉と、前寄りのもう一つ。先ほど見た模型と似ている。
「さっきの船だ」
「模型を御覧になりましたか」
「カースさんに見せてもらった。反応炉を分けて、撃ってる時も走れるようにするんでしょう」
ブリセックスはカースを見た。
「もう説明したのか」
「展示してある範囲だけです。将来性のある顧客ですので」
「僕、八歳だよ」
シーアが言うと、ブリセックスは笑った。
「それなら、我々より将来がありますな」
カースが端末を操作すると、設計画面の片隅に見学中のメモが届いた。ブリセックスは目を通し、いくつかの項目を確かめてから、シーアへ向き直った。
「いろいろ積みたいようですね」
「その船には、あんまり積まないんだよね」
シーアは図面の格納庫を指した。
「戦闘機を増やすなら、もっと大きくしないと。シャトルもいるし、兵隊や、救助する船も」
「それを全部載せるには、船体の使い方から考え直すことになります」
「大きいのに?」
「この中は空ではありませんからな」
ブリセックスが断面図を拡大した。格納庫を広げたい場所には、別の設備が入っていた。シーアは顔を近づけたが、すべてが何なのかまでは分からなかった。
「殿下は、一隻でいろいろな仕事をさせたい。こちらは、砲戦に必要なものを優先しています」
技師はメモのうち、即応性と攻撃力に関する項目を選んだ。模型の前で話した内容は、砲戦時の推進出力維持という言葉に整理されていた。
「戦闘機は?」
「別の船に任せます。兵員の輸送や救難も、そちらを主な仕事にする船が必要です」
「じゃあ、僕が言った船じゃない」
「その通りです」
あっさり認められて、シーアは技師を見た。ブリセックスは船体図の艦首を示す。
「これは、前へ出て敵の船を撃つ船です。それを、とても上手にやらせたい」
「それだけにするの?」
「ほかのものを足すことで、その仕事ができなくなっては困りますからな」
シーアは少し不満だったが、もう一度図面を眺めた。自分なら載せたいものの場所に、砲や、その砲を使うための設備が入っている。ブリセックスにとっては、そちらが必要なのだろう。
「でも、速い方がいいのは同じだよね」
「ええ。戦いたい相手に追いつけなければ、この砲も役に立ちません」
「撃ってる間に遅くなるのも困る」
ブリセックスが頷くと、シーアは少し機嫌を直した。船体の上部へ目を移し、今度は艦橋の位置を探す。
「艦橋は、高くしないの?」
「高い方がお好きですか」
「マンデイターみたいなのがいい。遠くからでも、来たって分かるから」
ブリセックスは隣の画面に、別の外形案を呼び出した。楔形の艦体の上に、高い艦橋が載っている。
シーアはすぐにそちらへ寄った。
「あるじゃないか」
「以前から検討している案です」
「こっちの方が好き」
ブリセックスは二つの図面を見比べた。高い艦橋と楔形の船体を組み合わせる構想は、いくつもある将来案の一つだった。技術的に形にできることと、注文を受けて建造へ進めることの間には、まだ距離がある。
カースのメモには、マンデイター級に通じる象徴性、とあった。その下に、少年の言葉がそのまま残されている。
共和国が、ちゃんとそこまで来られる船。
ブリセックスはその項目も残した。少年の望む艦と、自分が研究している艦は同じではない。それでも、どんな姿の船を好み、その船に何を期待するのかは、聞いておいて損のない話だった。
「完成したら、見せてくれる?」
シーアは高い艦橋の図面を見たまま尋ねた。
「いつになるか、分かりませんよ」
「いいよ。できた時で」
「では、その時には御招待しましょう」
「約束だよ」
ブリセックスが頷く。シーアは満足した様子で図面へ目を戻したが、しばらくすると、やはり気になったらしい。
「でも、どのくらいかかると思う?」
「それも、まだ分かりませんな」
「またそれ」
ブリセックスは笑った。
「造船とは、そういうものです」
「カースさんと同じこと言う」
「同じ会社ですから」
⸻
その日の帰路、シーアは端末に収めた画像を順番に開いていた。
横から見たマンデイター。斜め前から見たマンデイター。造船環と一緒に写したものもある。プリーターの建造中の姿と、機関区画を開いたプロキュエーターが続き、最後に二つの反応炉を備えた研究艦の模型が現れた。ブリセックスの設計図は撮影できなかったので、そちらは記憶に頼るしかない。
「結局、何が一番よろしかったのですか?」
隣からセレナに尋ねられ、シーアは迷わず答えた。
「マンデイター」
それから、端末の画像を何枚か前に戻した。
「でも、プリーターもよかった」
「一番が増えましたね」
「違う船なんだから、仕方ないだろ」
セレナは笑い、帰りに渡された資料をまとめ始めた。シーアは端末から顔を上げ、窓の外を見た。
クアットの造船環が遠ざかっていく。細かく分かれていた工場も船渠も、再び一続きの帯になりつつあった。あの中を、今も資材を載せた貨車が走っているはずだ。知らない星から来た部品が降ろされ、古い船の機関が交換され、新しい船の外板が張られている。
シーアは改装中のプロキュエーターを思い出した。船は完成したあとも、ああして造船所へ戻ってくる。新しく造る船だけでなく、帰ってきた船の場所も、人も、部品も用意しなければならない。
司法軍の基地にあった整備予定の意味が、以前より少し分かる気がした。
それでも、遠くへ行く船には、やはりいろいろ積んでおきたかった。ブリセックスの船にも別の役目があるのは分かったが、自分が欲しいのは、遠くまで行って、着いた先でも仕事のできる船だった。
そこまで考えたところで、端末の画面が暗くなった。触れて表示を戻し、マンデイターの画像を開く。
シーアは艦橋を拡大した。
「やっぱり、ここが格好いい」
「よく撮れていますね」
「セレナ、こっちも見て。少し前から撮った方」
「そちらは、先ほども拝見しました」
シーアは構わず端末を傾けた。造船環を背にした巨大艦が、画面の中に収まっている。艦橋は、縮小された姿でもすぐに見つかった。
「共和国が、ちゃんとそこまで来られる船」
小さく口にすると、セレナが顔を向けた。けれど、シーアは何かを説明しようとしているわけではなかった。次の画像を開き、今度は艦首の形を確かめている。
セレナは声をかけず、持ち帰る資料を鞄へ収めた。その言葉だけは、父親へ伝える時にも忘れないだろうと思った。
⸻
研究区画では、ブリセックスが再び設計画面に向かっていた。
カースから届いたメモの大半は、そのまま別の欄へ移してある。艦載機や兵員、救難能力については、それらを必要とする艦を考える時に役立つだろう。
今の研究に重ねられるものは、限られていた。
必要な場所へ速やかに進出すること。砲戦中も推進に必要な出力を保つこと。戦列の先頭に出て、敵艦と渡り合えること。それらに加え、遠くからでも見分けられる艦の姿について、カースの所感が残っていた。
ブリセックスは高い艦橋を備えた外形案を開き、その隣に、二つの反応炉を収めた船体断面を並べた。
しばらく画面を見比べてから、いくつかの線を引き直した。