STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7955.088 クワット、クワット・ドライブ・ヤーズ本社
式典の後の食事会は、予定より長引いた。
ヴェリオン・カースは、三度目の乾杯が終わったところで席を立った。役員たちは、船台を離れた灰色の艦の話を続けている。調達担当者が艦名の意味をもう一度説明し、誰かが、新しい時代という言葉を繰り返していた。カースは笑顔で会釈し、執務室へ戻った。
机の端末に、ロサナから連絡が来ていた。
ロサナ・ヘヴィ・エンジニアリング。クワット本星から遠く離れた、系列の生産拠点だった。そこから届く報告は、普段なら工程表と費用の数字だけで済む。今日の文書には、一行だけの件名が付いていた。
《最終顧客による受領確認》
カースは椅子に座り、文書を開いた。
第一次納入分、十二隻。所定の座標にて、顧客の代理人が受領を確認した。残る船体も、予定どおり順次引き渡す。
座標の欄には、星系の名があった。カミーノ。
九年前、この発注を受けた時、最終顧客の名は伏せられていた。求められたのは、兵員と車両を大量に運び、惑星へ直接降ろせる大型艦だった。ハイパードライブはClass 1.0以下でよいという要求に対し、カースはプロクラメイター級の0.6をそのまま使う設計を出した。主船体の骨組みも、艦首構造も、降着装置も、あの艦から持ってきた。
その前の年、十歳だった少年が、カースに言ったことがある。戦闘も、航空も、兵員の輸送も、救難も、一隻でこなす船を。共和国はここまで来られます、と見せる船を。翌年の新年会で、少年はプロクラメイターのカタログを受け取り、目を輝かせていた。同じ月に、カースはこの設計に取り掛かった。
受領確認の下に、艦級の名が記されていた。顧客が付けた名だった。
アクラメイター。
カースは代金の記録を呼び出した。九年間、一度も遅れたことのない支払いだった。発注の時から、代理人の名は変わっていない。ティラナス。どこの誰なのか、カースは一度も確かめなかった。確かめる必要がないほど、金は正確に届いた。
窓の外では、祝賀の灯りが造船所の構造物を照らしていた。灰色の艦は、もう見えない位置まで離れている。
その艦の寸法を、カースは九か月前、ラクサスへ出した。記載のないものを、戦力もないものとして計算はできない。あの青年が卓でそう言い、そのために法務から三日間恨まれた。
カミーノの十二隻は、ラクサスの附属書の、どの欄にも入っていなかった。
共和国の艦ではない。少なくとも、共和国の艦として登録されたことは一度もない。誰の艦なのかを、カースは知らなかった。ただ、どの艦から骨組みを取ったのかは知っていた。
彼は受領確認に承認の印を付け、ロサナへ返した。
あの青年に知らせるべきかを、少しだけ考えた。顧客の秘密だった。九年間、守ってきたものだった。明日、灰色のうちに撮った写真を送ると約束している。送るのは、その写真だけにしようと決めた。
*
C.R.C. 7955.090 コルサント、金融・経済分析総局第二室
報告は、朝の最初の配布に入っていた。
ラクサスの軌道港にいる現地の者からだった。リヴィアは認証を入れ、本文を開いた。
連合軍最高司令官の座乗艦、〇八九日の夜、ラクサス軌道を出港。随伴艦二隻。跳躍前の針路と、港の管制へ出された通告から推定される目的地は、アウター・リムのアルカニス・セクター、銀河平面座標R-16。
ジオノーシス。
リヴィアは、机の横に積んだ綴りを引き寄せた。第二室が一年以上追ってきた記録だった。テクノ・ユニオンの取引、ジオノーシスの鋳造所へ入る原料、出ていく部品。申告された生産量に比べ、消費している電力が大きすぎる。連合の保有枠の計数に、一度も現れたことのない数だった。
ラクサスの卓で、あの人たちが括弧を一つずつ閉じていた間にも、この数字は増え続けていた。
別の報告が重なった。企業連合の要人を乗せた船が、ここ数日、複数の星系から同じ方角へ向かっている。通商連合、テクノ・ユニオン、銀行グループ。昨日の伯爵の出席を受けて、ラクサスの会場からも、連合の随員が一部引き揚げていた。
主任は、報告を読むと短く言った。
「やはり、ジオノーシスだ」
そう言う声に、驚きはなかった。リヴィアも驚かなかった。
「上へ上げますか」
「もう上がっている」
主任は端末を示した。配布の記録によれば、同じ報告は第二室へ届くより先に、別の宛先へ送られていた。宛先の番号は、保安委員会の系列のものではなかった。
リヴィアはその番号を見た。見たことがあった。
二日前、彼女の閲覧区分に一件の決裁の写しが配布されていた。ケイト・ニモーディアの協力者K-4。保護の要請を取り下げ、状態を「終結」とする。その決裁に付いていた番号と、先頭の記号が同じだった。
あの時は、主任の判断だと思っていた。保留の欄に判断者と時刻を書き残したのは自分で、終結にしたのは主任だと。
リヴィアは主任の顔を見た。主任は、次の報告へ目を移していた。
彼女はK-4の綴りを開いた。保留の理由を記した欄は、消されずに残っていた。読む者がいなくても、書いたことは消えない。そう思って書いた欄だった。今、その欄を読んでいるのは、書いた自分だけだった。
端末に私用の通知が入った。
《ラクサスを出た。首都には明後日》
シーアからだった。《アシュアランス》は、今頃ハイパースペースの中にいる。昨日、式典の広間で何があったかは、第二室の報告で先に知っていた。グリーヴァスが彼を何と呼んだかも、現地の者が書いてきていた。
リヴィアは返信欄を開いた。
《おかえり。着いたら、お茶にしましょう》
送ってから、ジオノーシスの綴りへ戻った。彼が帰ってくる首都で、自分がこれから何をするのかを、彼女はまだ知らなかった。知らされる順番が、自分より上の番号で決まっていることだけは、知っていた。
*
C.R.C. 7955.101 コルサント、ジェダイ聖堂
オビ=ワン・ケノービは、昇降機の扉が閉まる前に、弟子を待った。
アナキンは廊下の端から走ってきた。息を整えるふりもせず、扉の内側へ滑り込む。十九になった若者は、背がもう師と変わらなかった。
「遅れていません」
「まだ、何も言っていない」
昇降機が下り始めた。
今朝、元老院議員パドメ・アミダラの船が、コルサントの着陸場で爆破された。囮の護衛が一人死に、議員本人は無事だった。彼女は、共和国軍の創設を定める法案に反対する側の中心にいる。ラクサスの交渉が決裂したと伝えられてから、その法案の採決は急に前倒しされていた。
最高議長は、議員の護衛にジェダイを付けるよう求めた。評議会は、オビ=ワンとアナキンを指名した。
「十年ぶりです」
アナキンが言った。オビ=ワンは、それが誰のことを言っているのか、訊かなくても分かった。
「護衛だ。それ以上のことはしない」
「分かっています」
分かっていない声だった。オビ=ワンは、それ以上言わなかった。
聖堂を出て、元老院区画へ向かう車の中で、公共表示が目に入った。
ラクサスから戻った交渉団の映像だった。首席代表のオーガナ議員が記者に囲まれている。その後ろを、銀髪の佐官が通り過ぎた。撮影機が彼を追いかけ、画面の下に名前が出た。
「シーアだ」
アナキンが身を乗り出した。さっきまでの落ち着かなさとは違う顔だった。
「戻ったんですね。ラクサスにいる間、ほとんど返事が来なかった」
「向こうも忙しかったのだろう」
「番組には出てたのに。模型の艦橋が傾いてたから、そう送ったんです。直した、とだけ返ってきました」
オビ=ワンは、少し笑った。二人らしいやり取りだと思った。
六年前、聖堂の整備区画で、十三歳のアナキンと十四歳の公子が、訓練用のエアスピーダーを直していた。どちらも袖を黒くして、制御器の感度を何度も調整していた。保存された設定の名前の欄には、アナキン用、と入っている。あの設定は、今も整備区画の記録に残っているはずだった。
その後も、二人は会うたびに船の話をした。模型の艦隊の遊びに誘われ、アナキンが命令の順序を覚えられずに盤面を何度も戻した日のことを、オビ=ワンは本人から聞いている。
「痩せたな、あいつ」
アナキンが画面を見たまま言った。
「落ち着いたら、連絡してみればいい」
「そうします。……前に、婚約者がいるって話してました。家同士で決まったって」
「そうか」
「会いたい時に会うのに、誰の許可も要らないんですよね。婚約者なら」
オビ=ワンは弟子の横顔を見た。アナキンは、画面から目を離していなかった。
「彼にも、彼なりの許可が要るだろう。公王家の人間だ」
「それでも、会えます」
オビ=ワンは、それ以上言わなかった。弟子が本当は誰のことを話しているのかは、分かっていた。
画面が切り替わり、ラクサスの会場の外観が映った。決裂を伝える見出しが流れる。連合側の出席者の中に、ドゥークー伯爵の名があった。かつての、師の師だった。
あの公子の顔を、オビ=ワンが最初に見たのは、十一年前のエリアドゥだった。まだ十歳にもならない子供だった。セスウェナ・ホールの天井から襲撃者が落ちてきた時、師と並んで剣を振るいながら、オビ=ワンは客席の端にいた少年の意識が、一瞬、フォースを通じて別の何かへ向くのを感じた。
確信は持てなかった。だから、評議会には報告しなかった。聖堂の整備区画で、アナキンと並んで制御器を覗き込む少年を見た時にも、同じものは感じなかった。オビ=ワンは、そのことに少し安心した覚えがある。
あの日、師クワイ=ガンは、エリアドゥの事件の背後に名前のない手があると言った。コールでもハヴァックでもない何か。一年後、師はナブーで死に、その手の正体は分からないままになった。
フォースが曇っている。この半年、評議会で誰もが口にするようになった言葉だった。先が見えない。何かが隠れている。その曇りの中に、十一年前に感じたものと同じ手触りがあるような気がした。
「マスター?」
「何でもない」
車が元老院区画の着陸場へ降りた。二人は議員の住居がある建物へ入り、昇降機に乗った。
アナキンが、落ち着きなく衣の襟を直していた。オビ=ワンは、それを見ないふりをした。
「緊張しているのか」
「していません」
昇降機の表示が、上の階へ進んでいく。
オビ=ワンは、さっきの画面のことを、もう考えていなかった。これから守る議員のこと、爆破を指示した者のこと、弟子の落ち着かない手元のこと。考えることは、ほかにいくらでもあった。
扉が開いた。