STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
先制
クローン戦争編
第一話 先制
C.R.C. 7955.127 ケルシス星系
回線は発進してから一度も開いていなかった。
マイ・トレンのBTL-Bは環の影の中を飛んでいた。左右に氷と岩の粒が流れていく。巨大なガス惑星を巻く環の、内側の薄い隙間だった。訓練で飛んだ小惑星帯より、ずっと細かく、ずっと速い。操縦桿を握る指に汗が溜まり、手袋の中で冷えていく。
通信封鎖。発進前の説明で、スコードロン長はその言葉を三度繰り返した。泊地の索敵は惑星と環の影に遮られている。だが、電波は影を回り込む。声を出せば、見つかる。目標が見えるまで、誰も喋らない。
前を飛ぶ機体の推進光だけが頼りだった。
自分の後ろにも同じ光が続いているはずだった。《レゾナンス》から出た二十四機と、《ヴァンガード》から出た二十四機。四十八機のBTL-Bが声を出さずに、惑星の影を回り込んでいる。
第一波は十分前に先へ行っていた。V-19とZ-95の戦闘機隊だった。泊地の哨戒機と索敵の中継局を潰し、ヴァルチャーを空へ引きずり出す。第二波のBTL-Bが着く頃には、泊地の上の空が少しでも空いているように。
惑星の縁の向こうで、小さな光が瞬いていた。音はなかった。第一波がもう撃ち合っている。
環の粒が一つ、シールドの縁に当たった。小さな光が散った。
マイは息を止めた。回線は黙ったままだった。誰も何も言わなかった。
三か月前、マイはカリダの士官学校で、長距離編隊航法の最後の課目を受けていた。その途中で地上演習に出され、出港の前日に呼び戻された。課目の評価はまだ付いていない。
ジオノーシスでは、ジェダイに率いられたクローンが降下したと聞いていた。カミーノで作られた兵士たちだという。マイは自分で志願して士官学校へ入った。父は反対し、母は泣いた。それでも、この星系の上を飛んでいるのは、自分で選んだからだった。そのことをなぜか今、思い出していた。
通信機が短く一度だけ鳴った。
声ではなかった。符号だった。発進前に渡された表の中の、一文字。
B。
マイは膝の上の目標表を見た。第一目標表、泊地の戦闘艦。第二目標表、燃料艦と整備施設と格納庫。目標表Bは発進前の説明で、スコードロン長が「たぶん使わない」と言ったものだった。
前の機体が一度、翼を小さく振った。了解の合図だった。
目標が変わった理由を誰も説明しなかった。説明できる回線は閉じていた。
マイは照準装置の電源を入れ、目標表Bの頁を開いた。惑星の縁まであと三十秒だった。
*
C.R.C. 7955.124 アナクセス、共和国艦隊支援基地
ジオノーシスの報せは、アナクセスへの跳躍の途中で届いていた。
共和国の軍がジオノーシスで連合軍と交戦し、惑星の地表から連合の指導者たちを退けた。カミーノから運ばれたクローン部隊が、ジェダイに率いられて降下した。多数のジェダイが死んだ。戦闘は共和国の勝利とされていた。
戦争が始まっていた。誰が最初に撃ったのかをもう誰も問わない戦争だった。
TF-35の五隻には、クローンは一人も乗っていなかった。乗員は全員が旧司法軍とカリダ防衛艦隊から来た、クローンではない者たちだった。アナキンへ送った文にはまだ返事がなかった。
跳躍を抜けると、見慣れた星図が窓の外に広がった。
アナクセスの青い縁。軌道の造船区の灯り。基地の管制域の外縁。二年間、ラクサスの卓で数字として見てきた場所だった。実物を見るのは初めてだった。
「連合艦、三隻。外縁の北側、離隔位置の内側です」
索敵担当が告げた。レキューザント級が二隻、ミュニファスント級が一隻。その先頭の艦に、識別が重なった。
《ヴィジル》。
「こちらの到着を確認した模様。三隻とも針路を変えています」
外部映像の中で、長い艦首がゆっくり向きを変えた。二年間、基地の外縁を回り続けた艦だった。五隻の新しい艦影を前に、今度は外縁ではなく、星系の外へ向かって加速していく。
「追いますか」
ハービンジャーの艦長代理、コルヴェンが訊いた。本来の艦長が着任するまで、試験運用の責任者として艦を預かっている司法佐官だった。
「追わない」
シーアは答えた。
「あの三隻は戻る場所へ戻る。それを見ていてください。どの方角へ跳ぶか」
《ヴィジル》たちは星系の外縁で跳躍した。索敵担当がその方位を記録した。
通信が入った。
『ハービンジャー、こちら《ノースウィンド》。ヘイン』
画面に艦長の顔が映った。ラクサスの卓で、何度も報告書の署名として見てきた名前の持ち主は、思っていたより年配だった。顎に無精髭があり、目の下が暗かった。
『八時間でした』
ヘインは言った。
『特定事態行動の計画では、十二時間と聞いていた。そちらの出港は八時間後だったと』
「はい」
『何かあったんですか』
「来られる数を二年間数えてきましたから」
ヘインはしばらく黙っていた。それから、画面の向こうで小さく頷いた。
『あなたが、ラクサスの佐官か』
「今は代将だそうです」
『助かった』
ヘインはそれだけ言った。報告書の末尾に添えられていたのと、同じ言葉だった。
*
作戦会議はハービンジャーの司令部区画で開かれた。
卓の周りに五隻の艦長とヘインが座った。支援基地の航空隊からは、ナディ・フェルという操縦士が、隊長の代理として来ていた。Z-95の飛行服のまま、壁際に立っている。リラは技術区画の記録を持って、卓の端に座っていた。
「《ヴィジル》の跳躍方位です」
シーアは星図を表示した。アナクセスから、アンテメリディアン・セクターの外縁へ向かって、一本の線が伸びた。
「この方角には二年間、同じ艦の補給船が行き来していました。ラクサスの交渉で、《ヴィジル》は『連絡対象との会合を待つ』と何度も説明していた。その連絡対象の補給船は毎回、この方角から来て、この方角へ帰っていった」
ヘインが身を乗り出した。
「私の艦の記録だ」
「はい。全部、読ませていただきました」
シーアは線の先を拡大した。
ケルシス星系。アウター・リム、アンテメリディアン・セクター、銀河平面座標R-8。アナクセス連絡線の中継宙域から、名前のない支線を経て入る、無人のガス巨星系だった。巨大な惑星の周りに環があり、その内側の衛星の軌道に、泊地の灯りがある。ガス巨星と幾つもの衛星、そして環の質量が重なり合い、泊地の周りには重力の影が深く落ちていた。大型艦がそこから直ちにハイパースペースへ入れる安全な離脱回廊は、北と南に二本しかない。
「ここに連合の泊地があります。係留ステーションと整備施設、燃料の集積所。アナクセスを攻めるための、前進泊地です」
特定事態行動第三号が命じているのは、アナクセスの防衛だった。その防衛のために、基地の外の星系で敵を撃ってよいのか。カリダを出る前に、シーアは統合作戦本部へ照会を送っていた。跳躍の途中で追加訓令が届いている。
シーアはその文面を卓へ表示した。
アナクセスへの直接脅威を構成する戦力について、集結地を含む無力化を許可する。
「ケルシスへの攻撃はこの訓令に基づきます」
シーアは推定の戦力を表示した。
「ルクレハルク級、一隻。プロヴィデンス級、二隻。レキューザント級、五隻。ミュニファスント級、六隻以上。燃料艦と輸送艦が少なくとも十隻。ただし、この数字は三日前のものです」
卓の周りが静かになった。
「正面から当たれば、負けます」
ディムが言った。《レゾナンス》の艦長は、ヴェネターの飛行甲板の配置図を手元に開いていた。
「集結を終えた後なら、そうです。集結の途中なら、違います。燃料艦から補給を受けている間、艦はシールドを落とし、機関を低く保っています。泊地の中で動けない」
シーアは攻撃の順序を表示した。
「航空攻撃は二波に分けます。第一波は戦闘機。V-19とZ-95で、泊地の哨戒機と索敵の中継局を潰し、上がってくるヴァルチャーを相手にする。十分遅れて、第二波のBTL-B。ヴェネターは惑星の反対側へ小跳躍で入り、両波とも通信を封鎖したまま、環の内側を通って接近する」
「目標は」
サンスが訊いた。
「目標表を二つ用意します」
シーアは二枚の表を並べた。
「A表は泊地の戦闘艦。補給中で動けない艦から。B表は燃料艦、整備施設、係留ステーションの格納庫。艦ではなく、艦を動かすためのもの」
「Bはいつ使うんです」
「情報が古かった時に」
シーアは答えた。
「三日あれば、艦は動けます。向こうが先にこちらに気づいて、主力を逃がしていたら、残っているのは補給の途中で動けなかった艦と、燃料艦と、施設です。その時は艦を追わない。泊地そのものを使えなくする」
ディムはしばらく二枚の表を見ていた。
「うちのBTL-Bの操縦士は、半分がカリダを今年出たばかりです。長距離の編隊航法は訓練課程の最後の課目でした。地上に出ていた者を、出港の前日に呼び戻したばかりです」
「知っています。呼び戻したのは僕です」
ディムは苦笑のような顔をした。
「では、責任も取っていただけるんでしょうね」
「取ります」
シーアは次の頁を開いた。
「砲戦群は泊地には入りません」
トーリンが眉を上げた。
「ハービンジャーと《ノースウィンド》は、北の回廊の出口。《アシュアランス》は、南の回廊の出口。空襲が始まれば、動ける艦は補給管を切って、外へ逃げようとする。環の上下へ逃げることはできます。ただ、それ以外の方向へ出れば、重力の影を抜けるまで何時間も通常航行を続けなければならない。その間に航空隊の二度目の攻撃が届く。すぐに跳びたい艦は二本の回廊を使うしかない。そこで待ちます」
「泊地の中の損傷艦は」
「航空隊に任せます。動けない艦はアナクセスへ来られない。環の外へ出てこられる艦は、アナクセスへも来られる艦です。砲戦群が撃つのはそれだけ」
トーリンはしばらくシーアを見ていた。
「ラクサスでずっとそういう数え方をしていたのか」
「はい」
「分かった」
「《ヴェリタス》は、発進点に残り、ヴェネター二隻の護衛に付く。BTL-Bを出した後、ヴェネターは帰投機を収容し終えるまで、飛行甲板を開いたまま待つことになる。その間が一番弱い」
「後方の護衛、ですね」
マドックが言った。《ヴェリタス》の艦長はしばらく黙っていた。それから、小さく頷いた。
「若い乗員にはちょうどいいかもしれません」
会議の最後に壁際のフェルが手を挙げた。
「支援基地の航空隊からもZ-95を出せます。第一波に四機。残りは帰投の護衛に」
「距離が足りますか」
「帰りの途中までなら。迎えに行きます」
シーアはフェルの顔を見た。スルイス・ヴァンで同僚を失った飛行隊の話を、ラクサスで何度も読んだ。この操縦士も、あの放送を基地の格納庫で見ていたのかもしれない。
「お願いします」
*
C.R.C. 7955.127 ケルシス星系、北の離脱回廊
ハービンジャーは環の外で待っていた。
窓の外にガス巨星の縁が大きく弧を描いていた。その手前を環が一本の薄い帯になって横切っている。帯の切れ目から伸びる北の離脱回廊は、ここから見ると細い暗がりにしか見えなかった。衛星と環の重力が打ち消し合う、細長い空白だった。《ノースウィンド》の古い艦影が少し後ろに控えている。南の回廊の外には、《アシュアランス》がいるはずだった。
通信封鎖は砲戦群にも掛かっていた。こちらから発信するものは何もない。受信だけを続けている。
第一波の回線が開いたのは予定より二分早かった。
『第一波、泊地上空。哨戒機、三機撃墜。中継局、一つ破壊。ヴァルチャー、二十七。空中で十一、格納架の上で十六。発進口を一つ塞いだ。上がってくる数は予想より少ない』
V-19の編隊長の声だった。続けて、別の声が重なった。
『泊地を視認。……ルクレハルク、いない』
艦橋の空気が、止まった。
『繰り返す。ルクレハルク、確認できず。プロヴィデンス、一隻のみ。レキューザント、三隻。ミュニファスント、四隻。燃料艦と輸送艦、多数。係留ステーションに補給管が繋がっている。……空いた係留点が幾つもある』
情報担当の士官が推定の表を更新した。ルクレハルク一隻、プロヴィデンス一隻、レキューザント二隻、ミュニファスント二隻以上。三日前の表にあって、今の泊地にない艦だった。
「主力の一部は先に出ています」
情報担当が言った。
「こちらの動きに、気づいていたのかもしれません。昨夜のうちに」
コルヴェンがシーアの方を向いた。
「作戦を中止しますか。第二波はまだ間に合います」
シーアは更新された表を見ていた。
空いた係留点。燃料艦。係留ステーション。泊地に残っているのは補給の途中で動けなかった艦と、艦を動かすためのものだった。
「中止しない」
シーアは言った。
「主力がいないなら、主力が戻ってこられる場所をなくす」
コルヴェンは何も言わずに頷いた。
「第二波へ。目標表、B」
通信士官が符号を一度だけ送った。声ではなく、一文字だけ。泊地の索敵は第一波が潰しかけている。それでも、長く喋るわけにはいかなかった。
シーアは表の数字を見直した。何隻を沈めるかではない。この泊地から、今後、何隻を出せるか。それを、零にする。
ラクサスで二年間、数えてきた。今この場所へ何隻来られるか。その数を減らすために、今日は艦ではなく港を撃つ。
*
惑星の縁を越えると、泊地が現れた。
マイは息を止めた。
空が既に燃えていた。第一波のV-19とZ-95が、ヴァルチャーの群れを追い回している。赤い光条と緑の光条が泊地の上で縦横に交差していた。哨戒機だったらしい残骸が、衛星の軌道の上を回っている。係留ステーションの外壁に並んだ格納架の上で、翼を畳んだままのヴァルチャーが何機も焼けていた。発進口の一つが崩れた構造材で塞がれている。第一波が先にここを通っていったのだ。
その下に泊地があった。
環の内側の衛星の軌道に、長い係留ステーションが浮かんでいた。そこから何本もの補給管が伸び、艦と燃料艦を繋いでいる。レキューザントとミュニファスントが、ステーションの脇に並んでいた。プロヴィデンスが一隻。係留点の幾つかは空いていた。
巨大な円環はどこにもなかった。
目標表Bの意味がようやく分かった。
回線が初めて開いた。
『通信封鎖、解除。目標表B。第一小隊、ステーションの格納庫。第二小隊、燃料艦。艦は後回しだ。続け』
スコードロン長の機体が機首を下げた。
マイはその後を追った。係留ステーションの側面が、風防いっぱいに広がっていく。側面に格納口の列が見えた。一つが開いていた。中で何かが動いていた。
ヴァルチャーだった。発進の準備をしている。
『今だ。撃て』
マイは引き金を引いた。
プロトン魚雷が機体の下から離れ、青い尾を引いて格納口へ吸い込まれていった。一発目、二発目。機体が軽くなった。マイは操縦桿を引き、ステーションの上を越えた。
後ろで、光が膨らんだ。
振り返る余裕はなかった。後方監視の画面に、格納口から噴き出す炎が映っていた。その炎の中から、発進しかけていたヴァルチャーが、ばらばらになって飛び散っていた。
『格納口、命中。第二目標へ』
回線の中で声が重なり始めた。
燃料艦が一隻、爆発した。補給管を伝って、ステーションの一角に火が走った。隣の燃料艦にも火が移った。泊地の中に連鎖するように光が広がっていく。
ステーションの対空砲火が遅れて上がり始めた。
赤い光条がマイの機体の周りを走った。シールドの縁が一度白く弾け、警報が鳴った。右隣の機体が光条の中に入った。
機体が膨らんで、消えた。
名前を呼ぶ声が回線に入った。マイはそれが誰の機体だったか、分からなかった。分からないまま、スコードロン長の後を追って、泊地の外側へ抜けた。
眼下で係留されていた艦が、次々に補給管を切り離し始めていた。燃える管がステーションから垂れ下がって回っている。機関の光を上げた艦が泊地の外へ向かって動き出した。北へ。南へ。
第二小隊の誰かが回線に短く報告を入れた。
『プロヴィデンス一隻、艦尾に命中。火災。ただし、航行は続けている』
『全機、離脱。帰投経路へ。遅れるな。逃げる艦は放っておけ。外で待っている』
マイは推進剤の残量を見た。計算より、少なかった。環の中を飛んだ時に、姿勢を直しすぎたのだ。帰りの経路の半分で、足りなくなるかもしれない。
*
「泊地から、艦が出てきます」
索敵担当が告げた。
「北の回廊へ向かう艦、レキューザント二隻、ミュニファスント一隻。その後ろに輸送艦が五隻と、護衛のプロヴィデンス一隻。南の回廊へ、レキューザント一隻とミュニファスント二隻」
シーアは表示を見た。
補給管を切り、燃える泊地を捨てて、動ける艦だけが外へ出ようとしている。すぐに跳躍へ入れる回廊は二本しかない。
「砲戦群、通信封鎖解除。目標の優先順位を送る」
シーアは三隻への回線に言った。
「回廊を抜けて、跳躍に入ろうとする艦から。北はハービンジャーと《ノースウィンド》。南は《アシュアランス》」
『《アシュアランス》、了解。南の出口で待つ』
トーリンの声が短く返った。
『《ノースウィンド》、了解。……二年ぶりにこちらから撃てる』
ヘインの古いドレッドノートが、ハービンジャーの後ろから横へ出た。
北の回廊の暗がりに、最初の艦影が現れた。
レキューザントだった。環の粒を押し分けるようにして、長い艦首が回廊を抜けてくる。機関の光は強かった。回廊の出口を抜ければ、すぐに跳躍へ入るつもりだろう。
ハービンジャーの艦橋では、コルヴェンが砲術士官の方を向いていた。
「重イオン砲、先頭のレキューザント。機関区画。跳躍を止める」
「重イオン砲、指向」
艦橋の床の下で、何かが低く唸った。
リラが技術区画の席で表示を見ていた。艦首側の反応炉の負荷が見る間に上がっていく。
「前部反応炉、出力上昇。砲への配分、九割。規定値内」
リラの声は落ち着いていた。
艦首側のその反応炉は、ヴェネターが一基で艦全体を賄っているのと同じ型だった。ハービンジャーでは、推進もシールドも、船体の奥に収まった主反応炉が引き受ける。だから、前部の一基はほとんど全部を砲へ回せた。艦全体の出力はヴェネターの二倍半に近い。そのうちヴェネター一隻分を、撃つためだけに使える艦だった。
「撃て」
コルヴェンが命じた。
上部構造の両舷に一基ずつ据えられた、二連装の重イオン砲だった。ハービンジャーの両舷から、青白い光が放たれた。
重イオン砲の弾は、レキューザントの艦尾へ吸い込まれるように届いた。回廊を抜けたばかりで上げきれていなかったシールドが、青い網のような光に包まれて崩れた。機関の光が明滅してから消えた。跳躍に入ろうとしていた艦は回廊の出口で、そのままの姿勢で漂い始めた。
「機関停止。跳躍不能」
「主砲、斉射」
上部構造の両舷に並んだ砲塔が、一斉に旋回した。
片舷六基、両舷で十二基の二連装重ターボレーザー。今までどの艦にも載ったことのない新型の砲塔だった。前方へ砲戦するために、左右の砲塔はどちらも艦首の前へ射界を揃えられる。十二基、二十四門が同じ目標に向いた。
光が環の暗がりを塗り潰した。
一度の斉射だった。太い光条の束がレキューザントの船体中央へ集まり、装甲を貫いて反対側へ抜けた。長い艦体が光の入った場所から二つに折れた。前半分と後半分が、別々の方向へ回転しながら離れていく。その間から、炎と破片の雲が噴き出した。
艦橋が一瞬静かになった。
『……今のは何だ』
《ノースウィンド》から、ヘインの声がした。二年間、あの艦型の艦を見張り続けた艦長だった。その艦型が目の前で一度の光で折れていた。
プレゼントだ、と議長は言った。君が形を決めた艦橋だ、と。その艦橋の下に、何が収まっているのか。この艦が何をするための艦なのか。議長はどこまで知っていたのだろう。
たぶん、全部だ、とシーアは思った。
「次」
コルヴェンが言った。艦長代理の声は平らだった。
シーアは何も言わなかった。目標の順番はもう渡してある。どの砲をいつ撃つかはこの艦の艦長の仕事だった。司令官の声が艦橋に響けば、誰の命令なのかが一瞬曖昧になる。それだけは避けたかった。
二隻目のレキューザントが、折れた艦の残骸を避けて回廊を抜けてきた。重イオン砲がその機関を止め、主砲の斉射が処置した。ミュニファスントは、《ノースウィンド》の古い砲が追った。一発ごとの光は、ハービンジャーのそれよりずっと細かった。だが、途切れなかった。細長い船体が回廊の縁の粒の雲の中で折れた。
南からも報告が入った。
『《アシュアランス》。南の回廊、レキューザント一隻、ミュニファスント一隻、処置。もう一隻のミュニファスントは、回廊の手前で引き返した。泊地の中へ戻った』
「追わなくていい。泊地の中の艦は出てこなければ、どこへも来られない」
『了解』
*
北の回廊の暗がりに、輸送艦の列が見えた。
五隻の、丸みを帯びた船体だった。武装はほとんどない。泊地の燃料と部品と人員を積めるだけ積んで、補給管を切ってきたのだろう。その列の後ろに、プロヴィデンスが一隻付いていた。
「プロヴィデンス、識別。《コンヴィクション》」
索敵担当が告げた。
「艦尾に火災の跡があります。第二波が当てた艦です。……それでも、付いてきている」
輸送艦の列が回廊の出口へ向かって加速した。先に出た三隻の残骸がまだ出口の近くを漂っている。そこを抜ければ、跳躍に入れる。
その時、《コンヴィクション》が、列から離れた。
艦首をこちらへ向けた。
「プロヴィデンス、反転。本艦へ向かってきます。……主砲、指向を確認」
「輸送艦を逃がすつもりだ」
コルヴェンが言った。
シーアは窓の外の艦影を見た。自分が盾になれば、後ろの五隻が回廊を抜ける時間が稼げる。プロヴィデンスの艦長は、それを計算して艦首を回したのだ。
「ハービンジャーはプロヴィデンスを」
シーアは言った。
「《ノースウィンド》、輸送艦の先頭を。止められる分だけでいい」
『《ノースウィンド》、了解』
《コンヴィクション》が、撃った。
プロヴィデンスの主砲の光が、ハービンジャーの前部シールドに叩き込まれた。艦橋の窓の外が白く弾けた。続けて二発、三発。今までの艦とは違った。狙いが正確で間隔が詰まっていた。
「前部シールド、負荷上昇。……まだ持ちます」
「重イオン砲、機関区画」
「撃て」
ハービンジャーの重イオン砲が、青白い光を放った。プロヴィデンスのシールドが青い網に包まれ、機関の光が一度明滅した。艦の加速が止まった。
それでも、《コンヴィクション》は撃ち続けた。
機関を止められても砲は生きていた。プロヴィデンスの舷側の砲座が、次々にハービンジャーへ光を送ってくる。一発が上部構造の縁をかすめた。艦橋の床が一度大きく揺れた。
「右舷、上部構造に被弾。損害、軽微。……主反応炉、余裕あり。シールドへの配分、上げます」
「主砲、斉射」
二十四門の光が、《コンヴィクション》の艦首へ集まった。
プロヴィデンスの艦首が砕けた。前部の構造が光の中に崩れ、破片が雲になって噴き出した。艦橋のあったあたりが黒く抉れていた。
《コンヴィクション》は、まだ撃っていた。
「艦橋を失っても撃ってきます。……副指揮所から、でしょう」
砲術士官の声が少し掠れていた。
砕けた艦首の後ろから、生き残った砲座が、ハービンジャーへ光を送り続けていた。狙いは、さっきほど正確ではなかった。だが、止まらなかった。その間に輸送艦の列が、残骸の脇を抜けて回廊の出口へ向かっていく。
《ノースウィンド》の砲が先頭の輸送艦を捉えた。一隻が火を噴いて止まった。残りの四隻はその脇を抜けていった。
「予備の火器管制に、切り替えが来ています」
リラの声が少しだけ速くなった。
「今の被弾で主火器管制の一部が応答していません。予備に切り替えます。未試験です」
「使えるか」
「使ってみないと、分かりません」
コルヴェンは一瞬だけシーアの方を見た。シーアは何も言わなかった。艦長代理はすぐに視線を戻した。
「使え」
「了解」
リラが指を動かした。砲術士官の表示が一度途切れ、別の書式で戻ってきた。照準の円がわずかに遅れて目標に重なった。
「予備火器管制、稼働。照準、遅延あり。〇・四秒」
「そのまま撃て」
ハービンジャーが斉射した。
二十四門の光が、《コンヴィクション》の船体中央へ入った。今度はどこも残らなかった。プロヴィデンスの艦体が内側から光り、ゆっくりと裂けていった。最後まで撃ち続けていた砲座が、一つずつ暗くなった。
「……当たりました」
リラが言った。自分でも少し驚いた声だった。
艦橋の誰もすぐには口を開かなかった。
回廊の出口の向こうで、四隻の輸送艦が次々に星の光を引き伸ばしていった。
「輸送艦、四隻、跳躍」
索敵担当が告げた。
「追いますか」
コルヴェンが訊いた。
「追わない」
シーアは答えた。
「あの艦は自分の役目を果たした」
窓の外で、《コンヴィクション》の残骸が環の光を受けて回っていた。機関を止められ、艦橋を失い、それでも撃つのをやめなかった艦だった。後ろの五隻のうち四隻をその艦は逃がした。
シーアはしばらくそれを見ていた。
数えることと、折ることの間には一度の斉射しかなかった。レキューザントなら。この艦は違った。
*
惑星の反対側では、《ヴェリタス》が二隻のヴェネターの前に出ていた。
ケン・マドックは艦橋の窓から、飛行甲板へ戻り始めた機体の列を見ていた。《レゾナンス》と《ヴァンガード》は、帰投機を収容するために速度を落とし、長い飛行甲板を開いている。損傷した機体が一機ずつ、慎重に降りていく。空母が一番弱い時間だった。
そのために、《ヴェリタス》はここにいた。
「跳躍反応。至近」
索敵担当の声が裏返った。今年カリダを出たばかりの少尉だった。
「ミュニファスント一隻。……ヴァルチャー、十機前後。惑星の向こうから、小跳躍で回り込んできたようです」
帰投機を追ってきたのか、発進点を割り出したのか。どちらでも、同じことだった。
「前へ出る。ヴェネターとの間に入れ」
マドックは言った。声は自分でも驚くほど落ち着いていた。
プロヴォケイターの艦首がゆっくりと敵の方へ向いた。艦首に密に並んだ砲座が一斉に動き始める。レンディリが、艦隊の前へ出て殴り合うために設計した艦だった。
「照準、合わせます。……合いません。もう一度」
砲術士官の手が表示の上で震えていた。マドックはその背中の後ろに立った。
「急がなくていい。正確に合わせろ。向こうも、こちらが見えている」
「……合いました」
「撃て」
《ヴェリタス》の艦首から、光条が走った。
最初の斉射は、ミュニファスントの艦首をかすめただけだった。二度目は艦腹に当たった。三度目で細長い船体の中央から炎が噴いた。
その間にヴァルチャーが《レゾナンス》の飛行甲板へ向かって降下していた。
「対空、ヴァルチャーへ。甲板に近づけるな」
《ヴェリタス》の舷側の砲座が翼を開いたドロイド戦闘機を追った。一機が砕け、もう一機が方向を変えた。三機目は、《レゾナンス》の飛行甲板の縁をかすめ、甲板の外で爆発した。帰投中のBTL-Bが一機、爆風に煽られて姿勢を崩し、それでも甲板へ降りた。
ミュニファスントが四度目の斉射で折れた。
残ったヴァルチャーは母艦を失って、ばらばらに散っていった。ヴェネターの対空砲火と、甲板から緊急に上がった戦闘機が、それを一機ずつ追っていく。
「ミュニファスント、撃破。……ヴェネター二隻、損害なし」
索敵担当の少尉が報告の途中で息を吸い直した。
「本艦、右舷に一発。負傷、二名。軽傷です」
マドックは報告を受け取り、TF-35の回線を開いた。
「《ヴェリタス》、交戦。ミュニファスント一隻、撃破。ヴェネター、損害なし。本艦、軽微」
少しして、ハービンジャーから返事が来た。
『了解。……出た後のこと、保証してもらえましたね』
代将の声だった。マドックは、カリダの会議室で自分が言ったことを思い出した。出られます。出た後のことは保証できません。
「今日のところは」
マドックは答え、回線を閉じた。艦橋の若い乗員たちが、まだ持ち場の表示を見つめていた。誰も今の交戦のことを口にしなかった。口にすれば、手が震え出しそうだった。
*
泊地は、燃えていた。
回廊を逆にたどって環の内側へ入ると、窓の外に炎の帯が広がっていた。係留ステーションの半分が崩れ、切れた補給管が何本も回転している。燃料艦の残骸が漂い、その間を引き返した一隻のミュニファスントが、機関の光を落としたまま浮かんでいた。動く気配はなかった。
情報担当の士官が泊地の状況をまとめて読み上げた。
「燃料艦、七隻喪失。燃料の集積能力、七割以上を喪失。主係留設備、使用不能。係留ステーションの格納庫、大半が使用不能。整備区画、大破。……残った設備だけでは、大型艦の艦隊へ同時に補給することはできません」
「前進泊地としての能力は」
シーアが訊いた。
「当面、ありません」
シーアは窓の外の崩れたステーションを見ていた。
沈めた艦の数は、三日前に予想した連合の戦力の半分にも届かない。ルクレハルクもプロヴィデンスの一隻も、どこかへ逃れている。だが、逃れた艦がアナクセスへ来るためには、燃料を積み、整備を受け、泊地で集結しなければならない。その泊地がここだった。
ステーションはまだ浮かんでいる。艦を一隻二隻、係留することはできるだろう。だが、艦隊を集めて、満たして、送り出す場所としては今日、機能を失った。
「次にアナクセスへ来るには、別の泊地を作り直さなければならない」
コルヴェンが言った。シーアの考えていたことと、同じだった。
「時間がかかりますね」
「数か月は」
シーアは答えた。
その時、通信士官が顔を上げた。
「救難信号です。泊地の中から。……生体反応があります」
シーアは通信士官の表示を見た。
燃料艦の一隻だった。補給管を切られ、半ば焼けた船体がゆっくり回転している。救難信号はその船の後部から出ていた。
「音声、出せますか」
「出します」
艦橋の回線に雑音が流れた。それから、人の声が聞こえた。
『――誰か、聞こえるか。こちら燃料艦《ハロウ・ライン》。機関区画に三人、閉じ込められている。隔壁が歪んで開かない。空気が漏れている。武器はない。撃たないでくれ。俺たちはただの――』
声が途切れた。咳き込む音がした。その後ろで、別の誰かが叫んでいた。言葉の形になっていない声だった。
燃える船の中で、人がどういう声を出すか。
グリーヴァスの言葉が頭の中で鳴った。知らない者は弱い、と将軍は言った。
今、知った。
「全艦、《ハロウ・ライン》への射撃を禁止」
シーアは言った。声は平らだった。平らにしようとして、そうしていた。
「停止信号を送れ。降伏を受け入れる。《アシュアランス》、救難艇を出してくれ。隔壁を切る装備を持たせて」
『《アシュアランス》、了解。南の回廊から入る』
トーリンの声が返った。
「《ハロウ・ライン》、聞こえるか」
シーアは回線に直接呼びかけた。
「こちら共和国グランド・アーミー、TF-35。救難艇がそちらへ向かっている。隔壁から離れて、呼吸器を使え。あと十二分で着く」
雑音の向こうで、誰かが息を呑んだ。
『……共和国?』
「そうだ。十二分だ。持たせてくれ」
『……分かった』
回線がまた雑音に戻った。
シーアは艦橋の時計を見た。スルイス・ヴァンの時にも帰還協定の時にも、こうして時計を見ていた。誰かが持ちこたえるまでの時間を。
燃料艦は泊地の中でゆっくり回転していた。あのままでは、救難艇が取り付けない。シーアはコルヴェンに、トラクター・ビームで回転を止められるかと訊いた。艦長代理は頷き、発生装置を二基、燃料艦へ向けさせた。見えない腕が焼けた小さな船をそっと掴んだ。回転が止まった。
救難艇が燃料艦の後部に取り付いた。
隔壁を切る作業の音が回線越しに聞こえた。金属の悲鳴のような音が長く続いた。それから、別の声が入った。《アシュアランス》の救難班長だった。
『隔壁、切断。三人、確認。生存。一人は火傷がひどい。すぐに運ぶ』
艦橋のどこかで、誰かが息を吐いた。
燃料艦の乗員は全部で十一人だった。そのうち八人は既に船の前部から脱出艇で逃れていた。残る三人が機関区画に閉じ込められていたのだった。救難班の報告によれば、全員が企業との雇用契約で乗り込んだ民間の機関員だった。軍人ではなかった。
ラクサスでドレムの乗員の一人が訊いていた。止まっている間の賃金は出るのか、と。あの時の機関員と、同じ立場の人たちだった。
シーアは合同調整室への回線を開いた。
ラクサスで最後に渡した回線表の、救難の欄だった。戦争が始まってから、まだ一度も使っていない。使われるのかどうかも分からなかった。
「こちら共和国グランド・アーミー、TF-35。ケルシス星系にて、連合側燃料艦《ハロウ・ライン》の乗員三名を救助、拘束。一名重傷。氏名と所属を送る。家族への通知と、帰還の手続きについて照会したい」
送信の表示が出た。受信の確認はすぐには来なかった。
*
マイ・トレンの推進剤の表示は、帰投経路の三分の二で赤に変わった。
前を飛ぶスコードロン長の機体との距離が、少しずつ開いていく。推力を上げれば追いつけるが、上げれば推進剤が早く尽きる。マイは操縦桿から手を離さず、表示の数字が減っていくのを見ていた。
『トレン、遅れている』
「推進剤が足りません。環の中で姿勢を直しすぎました」
回線の向こうで、スコードロン長が短く息を吐いた。
『経路を保て。推力は落とせ。惰性で行ける所まで行け。迎えが来る』
迎えが来る、という言葉の意味がマイには分からなかった。ヴェネターは惑星の反対側の発進点にいる。そこまでは、まだ遠い。
数字がゼロに近づいた。機体の振動が止まり、推進の音が消えた。窓の外の星が動かなくなったように見えた。惰性だけで機体は暗い宙域を進んでいた。
マイは自分の呼吸の音を聞いていた。
その時、前方に小さな光が四つ見えた。
『BTL-B、聞こえるか。こちらアナクセス支援基地航空隊、フェル。位置を確認した。そのまま、何も触るな』
Z-95だった。四機のヘッドハンターがマイの機体の左右に並んだ。一機が機首の前に出て、翼を振った。
『救難艇が向かっている。私たちが位置を送り続ける。二十分、待てるか』
「……待てます」
『よし。退屈だろうから、話をしよう。カリダの出身か』
「はい」
『私の従弟も今年カリダを出た。《ヴェリタス》に乗っている。後ろでヴェネターの子守りだって、出港前は怒っていた。……さっき、ヴェネターの前で撃ち合ったって、艦の回線で聞いた。怒る暇はなかったみたい』
マイは少しだけ笑った。笑ったのは泊地を離れてから初めてだった。
フェルは救難艇が来るまで、ずっと話し続けた。スルイス・ヴァンのこと、格納庫でミサイルを吊ったまま何日も待たされたこと、帰れないと母に書いたら、ニュースでは落ち着いたと言っていたのに、と返ってきたこと。マイはほとんど相槌しか打てなかった。それでも、回線の向こうの声が途切れない間は、自分がまだどこかへ繋がっている気がした。
救難艇の灯りが後方から近づいてきた。
*
ケレンが盆を持って艦橋へ上がってきた。
「司令官。お茶を」
シーアはカップを受け取った。柑橘の香りがした。一口飲むと、まだ熱かった。
「ありがとう」
「……勝ったんですね」
ケレンが言った。窓の外の炎を見ていた。
「アナクセスへ来るはずだった艦は、しばらく来られない」
シーアは答えた。
「沈めた艦は半分もない。でも、ここから艦隊を出すことはしばらくできない。それを、勝ったと言うなら」
ケレンは何か言いかけて、黙った。
航空隊の帰投の報告が画面の隅で確定した。第一波、帰投全機。第二波、四十八機のうち帰投四十一機。七機が戻らなかった。そのうち二機は推進剤が尽きて漂流しているところを、フェルのZ-95が見つけて位置を送ってきていた。救難艇が向かっている。残る五機は泊地の上で消えていた。
シーアはその五人の名前を読んだ。一人ずつ。
漂流していた二機のうちの一機に、マイ・トレンという名前があった。カリダを今年出たばかりの操縦士だった。救難艇に収容され、今は《レゾナンス》へ戻る途中だという。
通信士官が顔を上げた。
「司令官。合同調整室から、受信の確認です」
シーアは表示を見た。
照会を受け付けた。三名の氏名と所属を確認した。家族への通知の手順と、帰還の条件について、連合側の担当部署へ送る。受付の時刻と、受付番号が続いていた。
その下に受付者の名前があった。
リサ・ヴェルン。
シーアはしばらくその名前を見ていた。
私が当直に入れる間は私が受けます。ラクサスの廊下で、彼女はそう言った。戦争が始まっても彼女はまだ、あの席にいた。
カップの茶はまだ温かかった。
シーアはそれを飲み終えてから、次の報告を開いた。
*
C.R.C. 7955.128 連合軍輸送船団、輸送艦《ギルデッド・ルート》
記録の再生は三度目だった。
輸送船団を率いるニモーディアンの士官は、ホログラムの向こうの影に向かって、同じ場面を繰り返し示していた。自分の艦の後方監視装置が記録した、ケルシスの北の回廊の最後の数分間だった。
赤い帯を巻いた楔形の艦が回廊の出口で待っていた。
青白い光が一隻の機関を止め、その直後、上部構造の砲塔が一斉に旋回して光の束を放つ。レキューザントが一度の光で二つに折れる。次の艦も。
それから、《コンヴィクション》が艦首を回す。機関を止められ、艦首を砕かれ、それでも撃ち続ける。その間に自分たちの輸送艦が回廊を抜けていく。最後に二十四の光が《コンヴィクション》の船体を裂く。
『《コンヴィクション》の艦長は私どもを逃がすために反転しました。あの艦がなければ、船団は一隻も残らなかったでしょう』
士官の声は震えていた。
『あの共和国艦はラクサスの申告にありました。テクター級。全長千六百メートル。主格納庫なし。反応炉二基。主兵装の区分は砲戦用、機関の出力帯も記載されています。ですが、附属書が求めていたのはそこまでです。砲塔の数も、一斉射の時にどれだけの出力を砲へ回せるかも、申告の項目ではありませんでした』
ホログラムの影はしばらく黙っていた。それから、咳をした。
「ジェダイは乗っていたか」
『……いいえ。確認されていません』
「では、その艦の話は艦隊の参謀にしろ」
グリーヴァスの声には興味がなかった。
「ジオノーシスでは、ジェダイが何十人も死んだ。まだ何百人も残っている。私が狩るのは剣を持つ者だ。艦を撃つだけの艦なら、艦で沈めればいい」
『司令官はヴァラリアン代将と――』
「ラクサスの人形か」
将軍はそれだけ言った。名前を思い出すのに、少し間があった。
「人形がいい玩具をもらったものだ」
ホログラムが消えた。
ニモーディアンの士官は暗くなった通信卓の前で、しばらく動かなかった。
将軍は興味を示さなかった。だが、自分は見た。一度の光で折れるレキューザントを。艦橋を失っても撃ち続けたプロヴィデンスが、二十四の光に裂かれるのを。
共和国は嘘をついていなかった。求められたことは全部書いてあった。条約のためにはそれで足りていた。テクター級、砲戦用、反応炉二基。その一行を何度読んでも、レキューザントを一斉射で折る艦だとは分からなかった。
士官は艦の記録に新しい艦の欄を作った。
艦名、ハービンジャー。艦級、テクター。
脅威度の欄に何を書けばいいのか、しばらく迷った。連合の分類にはあの艦に当てはまる欄がなかった。当てはまるとすれば、一つしか思いつかなかった。まだ船台の上にある、自分たちの艦だった。
彼はそのまま書いた。
七一号相当。