STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
通商破壊!
パーレミアン・トレード・ルートの彼方で、分離主義者の輸送船団が次々と姿を消している。
船団を襲うのは、共和国の小さな任務部隊。長い航海の果てに敵の補給線の奥深くへ潜り込んだ彼らは、燃料の欠乏と戦いながら、なおも敵の船を沈め続けている。
ドロイドたちは、その見えない襲撃者を、ある名で呼び始めた。
一方、共和国の捜索艦隊は、ジェダイの艦隊を次々と葬る謎の巨大戦艦の影を追い続けていた――
*
C.R.C. 7955.158 パーレミアン・トレード・ルート外縁、支線第四中継点
ミュニファスント級フリゲート《ベネフィット・オブ・コマース》の艦橋には七体のバトル・ドロイドが詰めていた。
航法席に二体。火器管制に二体。通信に一体。索敵に一体。艦長席には黄色い塗装の指揮官型ドロイドが一体。全員が同じ間隔で同じ角度に首を傾けて、それぞれの表示を見ていた。
索敵席のB1-7734は表示を見ながら、隣の通信席に話しかけた。
「ナア、聞イタカ」
「何ヲ」
「補給船ガ、消エテルラシイ」
通信席のB1-5102は首を傾けたまま答えた。
「消エルワケナイダロ。船ダゾ」
「消エテルンダヨ。ココ何日カ、パーレミアンノ中継点デ。護衛ゴト、船団ゴト。出発シタッテ記録ハアルノニ、着イタッテ記録ガナイ」
「迷子ニナッタンジャナイノカ」
「十二隻マトメテ?」
5102はしばらく考えた。考えている間、首が少しだけ反対側に傾いた。
「……ソレハ、迷子ジャナイナ」
「ダロ」
7734は声を少し落とした。艦長席の指揮官型に聞こえないように、というつもりらしかった。艦橋は狭いので、全員に聞こえていた。
「補給港ノ荷役ノヤツラガ言ッテタ。有機体ノ方ノ荷役ナ。アアイウ船ノ消エ方ヲスル場所ニハ、昔カラ、何カガイルンダッテ」
「何カ」
「デイヴィ・ジョーンズ」
「誰ダ、ソレ」
「知ラナイ。有機体ノ船乗リノ言イ伝エダッテサ。船ヲ底ニ引キズリ込ムヤツ。宇宙ニ底ガアルノカハ、知ラナイケド」
5102はまた首を傾けた。
「ドロイドハ、言イ伝エヲ信ジナイ」
「信ジテナイヨ。聞イタ話ヲシテルダケダ」
火器管制席のB1が一体、振り返った。
「俺モ聞イタ。底ニ引キズリ込マレタ船ハ、二度ト上ガッテコナインダロ」
「宇宙ニ底ハナイッテ言ッタダロ」
「ジャア、ドコヘ行クンダ」
「知ラナイ。ダカラ、言イ伝エナンダロ」
艦長席の指揮官型が首をこちらへ回した。
「私語ヲ慎メ。規程違反ダ」
「ラジャー、ラジャー」
三体が同時に答えた。
索敵の表示には何も映っていなかった。前方には航路の標識と、次の区間へ跳ぶための計算を始めた輸送艦の列。後方にはもう一隻の護衛のミュニファスント。いつもと同じだった。この支線の中継点は、本線の中継点で船団が消え始めてから、新しく使われるようになった場所だった。本線より遠回りだが、安全だと言われていた。
7734は表示を見続けた。何も映っていない。何も。
表示の正面が白く光った。
「……跳躍反応」
7734の声が少し遅れて出た。
「正面。至近。大キイ。三ツ」
艦橋の窓の外で、星の光が縮んだ。
最初に現れたのは、上面に長い飛行甲板を開いた楔形の艦だった。二隻。その間にもう一隻。前の二隻より短く、分厚い。段になって積み上がった上部構造の頂に、幅の広い艦橋が載っている。艦首から艦尾へ赤い帯が走っていた。
索敵の表示に、識別のデータベースが自動で照合した結果が出た。
艦名、ハービンジャー。艦級、テクター。
脅威度の欄には見慣れない分類が書いてあった。
七一号相当。
「七一号ッテ、何ダ」
5102が言った。
「知ラナイ」
7734は答えた。
「デモ、タブン、デカインダロ」
「全艦、跳躍準備」
指揮官型が命じた。
「輸送艦ヲ先ニ逃ガセ。本艦ハ――」
正面の艦の両舷から、青白い光が放たれた。
後方のもう一隻のミュニファスントに、それが届いた。艦尾の機関の光が明滅して消え、細長い船体が跳躍の姿勢のまま漂い始めた。
次の瞬間、正面の艦の上部構造の砲塔が一斉にこちらを向いた。
光が窓の外を塗り潰した。
後方の僚艦が光の中で二つに折れた。
艦橋の誰もしばらく何も言わなかった。首を傾ける者もいなかった。
「……機関、全開。跳躍ヲ」
「跳躍、計算中。……前方航路、使用不能。共和国艦ガ、予定ノ離脱ベクトルノ上ニイマス」
「別ノ航路ヲ計算シロ」
「再計算、四分十二秒」
「ソンナニ待テルカ」
「後方ノ航路ナラ、計算済ミデス」
「後方ハ」
「……後方ニモ、共和国艦ガイマス」
正面の艦の砲塔が今度はこちらへ向いた。
通信の表示に呼びかけが入った。人間の声だった。
『こちら共和国グランド・アーミー、TF-35。ミュニファスント、機関を停止し、降伏せよ。輸送艦も同様。降伏すれば、撃たない』
指揮官型はしばらく黙っていた。首が左右に一度ずつ傾いた。何かの規程を照合しているらしかった。
「……降伏規程、第三条。敵ノ火力ガ本艦ノ防御能力ヲ著シク上回リ、離脱ノ見込ミガナイ場合、艦長ハ指揮下ノ資産ノ保全ノタメ、降伏ヲ選択スルコトガデキル」
指揮官型は通信の表示を見た。
「降伏スル」
「降伏シマス?」
7734が訊いた。
「降伏スル。機関停止。兵装解除。通信、先方ヘ受諾ヲ送レ」
「ラジャー、ラジャー」
5102が受諾の符号を送った。
艦橋の窓の外で、赤い帯の艦の砲塔がゆっくりと別の方角へ向き直った。
7734は索敵の表示を見ていた。七一号相当。その文字がまだ消えずに残っていた。
*
ハービンジャーの艦橋で、シーアは降伏の受諾を受け取った。
ミュニファスント一隻、撃沈。一隻、降伏。輸送艦九隻、全艦が機関を停止し、降伏。乗員は全部ドロイドだった。人の声の返事は一つもなかった。
支線第四中継点に網を張ったのは、二日前だった。
本線の中継点で三つの船団を捕まえた後、連合の船団は本線を避け始めた。避けた先の支線は航法の記録から幾つかに絞れた。足の遅い輸送艦の船団は、中継点ごとに一度通常空間へ出て、次の区間の跳躍を計算し直す。次の区間へ向かう離脱の方位は、航路の形から、ほとんど一つに決まっていた。
シーアはヴェネター二隻とハービンジャーを、その離脱の方位の真上へ出すことにした。計算を終えた航路の上に共和国の艦がいれば、船団はその航路では跳べない。別の航路を計算し直している間、船団はハービンジャーの射程の中にいる。来た方へ戻ろうとすれば、そこには別の艦がいる。
後ろは、《アシュアランス》と《ヴェリタス》が塞いでいた。
『《アシュアランス》。後方、異常なし。逃げてきた艦は一隻もなかった』
トーリンの声が回線に入った。
『《ヴェリタス》。同じく。……今日は撃つ前に終わりましたね』
マドックの声には少しだけ安堵が混じっていた。
「降伏の条件を送ります」
通信士官が言った。
「兵装の解除。機関の停止。それから、航法記録と通信記録を全部こちらへ送信すること」
「ドロイドが従いますか」
コルヴェンが訊いた。
「従います。規程に書いてあることなら、ドロイドは従う」
シーアは答えた。
しばらくして、記録の送信が始まった。降伏したミュニファスントと九隻の輸送艦から、航法の記録と通信の記録が形式どおりに届いてくる。情報担当の士官がその整理に取りかかった。
送信が終わる頃、ミュニファスントの指揮官型ドロイドから、もう一度通信が入った。
『降伏シタ資産ノ扱イニツイテ、規程ニヨリ照会スル。本艦ノ乗員ハ、今後ドノヨウニ処置サレルカ』
抑揚のない声だった。シーアは回線に直接答えた。
「全ドロイドは機能を停止して待機してください。こちらの技術班が乗艦し、主砲の火器管制の接続を切り、ハイパードライブ・モチベーターと航法制御モジュールを取り外します。その後、艦はこの中継点に残し、位置を連合側へ知らせます」
『了解シタ。……規程ニヨリ確認スル。本艦ノ乗員ハ、破壊サレナイカ』
「降伏した乗員は破壊しません。機能を停止して待っていてください」
『了解シタ。機能ヲ停止スル』
回線が切れた。
《アシュアランス》から、技術班と警備班を乗せた搭載艇が出ていった。一時間ほどで、主砲の火器管制の配線は物理的に切断され、ハイパードライブ・モチベーターと航法制御モジュールは搭載艇の貨物室に収まった。軍艦としてはもう使えない。それでも、沈めはしなかった。
ケレンが茶の盆を持って艦橋へ上がってきた。シーアの前へ盆を差し出してから、少しだけ声を落とした。
「代将。お茶の葉が普通に淹れれば、あと三日分です」
シーアはカップを受け取った。柑橘の香りがいつもより少し薄かった。ケレンが残りを少しずつ伸ばして淹れているのだろう。
「それも、帰る理由になりますね」
「はい」
ケレンは真面目な顔で頷いた。
輸送艦の積荷の処置はトレンチの砲で行われた。前部反応炉の冷却は、まだ第九中継点の時の記録を超えていなかった。それでも、コルヴェンは主砲を使わなかった。
処置が終わる前に、《ストレイト・ライン》の艦長から通信が入った。
『代将。燃料の残りです』
年配の艦長は数字を読み上げた。
『艦隊全体で十日分。アナクセスへ戻るのに、どう計算しても六日。途中の友好港は三つのうち二つが、もう使えなくなりました。残りの一つもいつまで保つか分かりません』
「攻撃に使えるのは」
『あと一回です。二回やれば、帰りの途中で止まります』
シーアは数字を書き留めた。
「一回で帰ります」
『そうしてください。私は港を作ることはできません』
初日に聞いたのと同じ言葉だった。今度は少しだけ疲れた声だった。
*
その夜、シーアは司令官室で、出港以来の航泊日誌を読み返した。
第九中継点の後、第十二中継点で八隻。第十五中継点で十隻。どちらも護衛はミュニファスントが一隻だけで、船団は通信封鎖のまま待っていたTF-35の前へ、何も知らずに跳躍を抜けてきた。
第十五中継点では、BTL-Bが一機、戻らなかった。
輸送艦の対空砲座が一つだけ生きていて、その一射が降下中の機体の真横に入った。操縦士の名前はヤン・コルデス。カリダを今年出た、マイ・トレンの同期だった。マイは帰投した後、しばらく飛行甲板から動かなかったと、《レゾナンス》のディムが報告に書いていた。
日誌の他の欄には別の数字が並んでいた。
乗員の当直は三交代から二交代になっていた。長い通信封鎖の間、艦内の食堂では、同じ献立が四日ごとに繰り返されている。《ヴェリタス》では、若い砲術士官が当直中に眠り込み、マドックが自分で当直を代わった。ヴェネターの整備員は交換部品の不足を、壊れた機体の部品を外して補っていた。
どの数字も小さかった。一つ一つは報告するほどのことではなかった。ただ、出港以来の分を並べると、艦隊がどれだけのものを削って前へ出ているかが分かった。
船団を消すたびに、連合の前線のどこかで、艦隊が止まる。その代わりにこちらの艦隊も、少しずつ擦り減っていく。三十日しか前へいられないのは、燃料のせいだけではなかった。
シーアはコルデスの名前の欄に、もう一度目を通した。それから、日誌を閉じた。
その夜、司令部区画の卓に、星図が広げられた。
パーレミアン・トレード・ルートの本線と、そこから分かれる幾つもの支線。その上に印が散らばっていた。赤い印はTF-35が出港以来、船団を捕まえた場所。黄色の印はドロイドの航法記録と、《リスナー》から届いた傍受の報告から割り出した、連合の船団の通過点だった。
情報担当の士官が印を一つずつ説明していった。
「最初の十日間は船団は本線の中継点を使っていました。第九、第十二、第十五。こちらが三つ叩いた後、本線を避け始めています。支線の中継点、第四、第七。今日のは第四です」
「遠回りしている」
「はい。遠回りすれば、燃料も時間も余計に掛かります。それでも、本線よりは安全だと考えている」
シーアは黄色の印の並びを見た。
本線から外れて、支線へ。支線から、また別の支線へ。船団は共和国の艦隊を避けて、少しずつ遠くを通るようになっていた。
だが、どれほど遠回りをしても行き着く先は同じだった。ミッド・リムの南の前線。そこへ燃料とドロイドを届けなければ、前線の艦隊は動けない。
「輸送艦のハイパードライブと、航法計算機は」
シーアが訊くと、情報担当は、ドロイドの航法記録から割り出した数字を出した。
「ほとんどがClass 4です。それに、古い民生用の航法計算機を積んでいる。外縁の支線では、一度に処理できる航法解が短い。長い区間を一気には抜けられません。支線を使っても途中で必ず一度は通常空間へ出て、計算をやり直さなければならない」
「どこで」
情報担当は星図の上で線を引いた。
支線は幾つも分かれていた。第四、第七、第十一。どれも、前線へ向かう途中で、一つの点に寄っていった。そこから先の区間はあの船団の航法計算機では、一度の航法解で抜けられない。どの支線を通ってきた船団もそこで一度、必ず止まる。
「第十六中継点です」
情報担当がその点を示した。
「本線と、三つの支線がここで合流します。前線へ向かう船団はどこを通ってきても、最後はここを通る」
シーアはその点をしばらく見ていた。
散らばっていた黄色の印がその一点へ向かって、細い線で繋がっていた。船団が消える場所を避けて、避けて、避けた先に避けられない場所が残っていた。
「ここで最後の一回をやります」
シーアは言った。
「第十六中継点。その後、アナクセスへ戻る」
コルヴェンが頷いた。リラが技術区画の記録を開いた。
「前部反応炉の冷却系はまだ規定値の内側です。一回なら、持ちます」
「一回で帰ります」
シーアは同じ言葉を三度目に言った。
*
C.R.C. 7955.160 パーレミアン・トレード・ルート、第十六中継点
第十六中継点に来た船団はこれまでで一番大きかった。
輸送艦が十八隻。護衛はミュニファスントが二隻と、その前にレキューザントが一隻。連合も船団が消える理由を考え始めていた。護衛を厚くし、支線を使わせ、最後に避けられない一点だけは、力で通ろうとしている。
ハービンジャーは今度も正面へ出た。
レキューザントは跳躍を抜けた直後から撃ってきた。こちらが来ることを半ば予想していたらしい。長い艦首の砲が、ハービンジャーの前部シールドに続けざまに届いた。
「前部シールド、負荷上昇。規定値内」
「重イオン砲、レキューザントの機関。主砲、続けて」
コルヴェンの命令で、青白い光と、二十四門の光が続いた。レキューザントの艦尾が止まり、次の斉射で艦体が折れた。二隻のミュニファスントはヴェネターのBTL-Bと、後方から回り込んだ《アシュアランス》が相手をしていた。
リラの声が技術区画から届いた。
「前部反応炉の冷却系、戻り側が規定値の九割。……第九の時より、上がるのが速いです。出港以来の負荷が溜まっています」
「あと何回撃てる」
「斉射なら、三回。それ以上は記録にない領域です」
コルヴェンはシーアの方を見なかった。自分で判断した。
「主砲はあと二回まで。残りはトレンチで行う」
輸送艦の列が崩れ始めた。
十八隻のうち、十一隻が、ヴェネターのBTL-Bとハービンジャーのトレンチの砲に止められた。残りの七隻は散り散りに加速し、中継点の外縁へ逃れようとしていた。追えば、まだ何隻かは捕まえられる。
「追いますか」
コルヴェンが訊いた。
シーアは、《ストレイト・ライン》から届いた燃料の表を見た。帰りに六日。今、この中継点で追撃に使える燃料は、その六日分の外にしかなかった。
「追わない」
シーアは言った。
「一回で帰ると言いました。七隻は前線へ着く。着いた七隻で前線の艦隊が何日動けるか。それは、向こうの計算です。こちらの計算はここまで」
コルヴェンは頷き、処置を急がせた。
止まった十一隻の積荷が燃え始めた頃、シーアは艦隊に帰投を命じた。
「TF-35、全艦へ。アナクセスへ戻る。長距離の通信封鎖は、アナクセスの管制域に入るまで続ける」
受領が一つずつ返ってきた。最後は、《ストレイト・ライン》の年配の艦長だった。
『六日分です、代将。帰れます』
「帰ります」
星の光が引き伸ばされ、第十六中継点の標識が窓の外から消えた。
*
C.R.C. 7955.160 独立星系連合軍、サブジュゲーター級《マレボランス》
「次の目標へ進む」
グリーヴァスが言った。
艦橋の正面の星図には三つの目標が赤く示されていた。どれも、共和国の艦隊が集まっていると見られる場所だった。
『困難デス、将軍』
兵站を担当する戦術ドロイドが、平らな声で答えた。
グリーヴァスが振り返った。
『本日マデノ補給船ノ到着予定、三十二隻。実際ノ到着、十九隻。四隻ハ迂回中。九隻ハ所在不明デス』
「十九隻で足りる」
『現在ノ作戦位置ヲ維持スルニハ、足リマス。サラニコア側ヘ進出シタ場合、帰投用ノ燃料ト、イオン砲系統ノ交換部品ヲ保証デキマセン』
「原因は」
『パーレミアンノ輸送路ニ対スル、共和国艦隊ノ襲撃デス。本線カラ支線ヘ輸送路ヲ変更シマシタガ、本日、第十六中継点ノ船団モ襲撃ヲ受ケマシタ』
戦術ドロイドは表示を切り替えた。赤い帯を巻いた楔形の艦が、船団の記録の中に映っていた。
グリーヴァスはその艦影を一瞥しただけだった。
「……ラクサスの人形か」
『コノ艦隊ノ行動ニヨッテ、本艦ニ割リ当テラレテイタ補給ノウチ、少ナクトモ十三隻分ガ失ワレタト推定サレマス』
「では、第三目標は」
『推奨デキマセン』
グリーヴァスはしばらく星図を見ていた。三つ目の赤い印はコアへ向かう方角の、一番奥にあった。アブレガド。共和国の首都に、最も近い目標だった。
「……消せ」
『将軍?』
「第三目標だ。二つで戻る」
星図から、アブレガドの印が消えた。
残った目標を回った後は一度、泊地へ戻ることになる。燃料と部品を積み直し、イオン砲の系統を整備するまで、次の航海はない。
グリーヴァスは咳をし、艦橋の窓の外を見た。
「人形の相手は艦隊の参謀にさせろ。私が狩るのは剣を持つ者だ」
『了解シマシタ』
戦術ドロイドは補給の表を閉じた。燃料の欄の数字は二つの目標を回って戻るのに、ぎりぎり足りるだけだった。
*
C.R.C. 7955.161 コルサント、金融・経済分析総局第二室
その報告は通常の配布には入っていなかった。
暗号解析課の中に、一つの小さな班がある。共和国の任務部隊が救難信号も残さずに消え始めた頃、作られた班だった。消え方が普通の艦隊戦とは違っていた。何か一つの兵器が動いているのではないか。班はそう考えて、各方面へ警報を出し、連合の通信の中から、その兵器を指していると思われる符号を一つ、探し当てていた。
班の報告は閲覧を許された者にだけ、別の経路で回される。第二室へ届くのは燃料と補給に関わる部分だけだった。夕方、主任が自分の端末から、その一件をリヴィアの閲覧区分へ回してきた。
リヴィアは認証を入れて本文を開いた。
符号を含む通信は、ここ二十日ほどの間に急に増えていた。当初、班はこれを大規模な攻勢の準備と見ていた。符号と一緒に出てくる星系名と航路の断片から、コア宙域への進出が予想されていた。リヴィアが三日前から作っていた資料も、その警報を前提にしたものだった。
今回の報告はその予想を修正していた。
符号を含む通信を解読していくと、その大半は燃料の配分と、行動予定の延期に関するものだった。この艦へ優先して回すはずの燃料が、予定の半分ほどしか届いていない。届かない分を待つために、行動予定が繰り返し先送りされている。進出を示す新しい符号はこの十日間、出ていない。現在の燃料の供給状況から見て、近い期間のうちに、この艦がコア宙域へ進出する可能性は低い。
当初の懸念はおそらく杞憂であった。
リヴィアはその一文を読んだ。
それから、自分の作業領域を開いた。三日前から作りかけていた資料が、そこにあった。
ジェダイ評議会への情報提供。表題は、アブレガド星系に対する攻撃の危機の可能性について。
班の最初の警報では、この艦がコア宙域へ進出する場合、コルサントに最も近いアブレガド周辺が、最初の標的になる可能性があった。オープン・サークルの艦隊があの方面へ展開している。ジェダイの将軍が率いる任務部隊が、少なくとも一つ。その部隊に警戒を促すための資料だった。
今日の報告でその前提がなくなった。
リヴィアは資料の最後の頁まで読み直した。それから、主任に確認を求めた。
「前提がなくなった資料を出せば、評議会を混乱させるだけだ」
主任は言った。
「削除します」
「そうしてくれ」
リヴィアは作業領域に戻り、削除を選んだ。資料は作業領域から消えた。削除の記録にだけ、表題と日時が残った。
アブレガド星系に対する攻撃の危機の可能性について。削除。C.R.C. 7955.161。
彼女は次の配布資料を開いた。
*
C.R.C. 7955.162 共和国軍集結地、ヴェネター級《トライアンファント》
捜索の取りやめを告げる通信は、夜の当直の終わりに届いた。
プロ・クーンは艦橋の後ろの小さな作戦室で、それを受け取った。ケル・ドアの呼吸マスクの奥で、長く息を吐く音がした。向かいに立っていたクローン・コマンダーのウルフが、将軍の手元の表示を覗き込んだ。
「取りやめ、ですか」
「この宙域での捜索は取りやめだ」
プロ・クーンは通信の文面をもう一度読んだ。
オープン・サークル艦隊司令部から、ジェダイ・マスター、プロ・クーンへ。正体不明の連合艦に対する捜索任務について、本宙域での捜索を取りやめる。情報部の最新の評価により、当該艦がコア宙域へ進出する可能性は低いと判断された。貴部隊は別命あるまで集結地で待機せよ。
「コアへは来ないということですか」
「情報部はそう判断した」
プロ・クーンは表示を閉じた。
正体の分からないものだった。いくつもの任務部隊が救難信号も残さずに消えている。残骸の調査もまだ半分しか進んでいない。分かっているのは何かが、艦隊を丸ごと消しているということだけだった。それが、コアへ向かうかもしれない。だから、コアへの入口に当たるこの宙域を、三隻で探すはずだった。
「ヌーン将軍の部隊は」
ウルフが訊いた。
「別の宙域だ。私が先に送った。あちらは取りやめの対象になっていない」
アレス・ヌーン。この捜索のために、プロ・クーン自身が先に送り出したジェダイ将軍だった。彼の任務部隊はヴェネター三隻で、四日前に集結地を離れている。銀河平面座標J-13、ピュー星系の周辺から、捜索を始めていた。
「では、我々は」
「待機だ」
ウルフは何も言わなかった。
プロ・クーンは作戦室の窓の外を見た。集結地に並ぶ艦影の灯りが規則正しく瞬いていた。フォースの流れの中に、何か重いものが沈んでいるような感覚があった。どこにあるのかは分からなかった。ただ、遠くないところに、それはあった。
「当直を戻せ、ウルフ。待機は続ける」
「了解」
コマンダーが出ていった後もプロ・クーンは、しばらく窓の前に立っていた。
二日後、ウルフが同じ作戦室へ戻ってきた。今度は将軍が呼ぶより先に扉を開けた。
「ヌーン将軍の部隊です」
ウルフは手にした端末を卓へ置いた。
「ピュー星系で全滅しました」
表示には一行しかなかった。オープン・サークル艦隊、第四十一任務部隊。ピュー星系にて全滅。ヴェネター三隻。生存者、確認されず。
プロ・クーンは長いあいだ何も言わなかった。二日前に感じた重いものがフォースの中で、一つ沈んだ場所を持ったように思えた。
「この宙域を探していた我々は無事でした。将軍が探しに送った方がやられた」
ウルフが言った。声は抑えられていた。
「そうだ」
プロ・クーンは窓の外の艦影を見た。自分の三隻は今夜も同じ場所で、同じ灯りを瞬かせていた。先に出た者が消え、待たされた者が残った。それを幸運と呼ぶ気にはなれなかった。
「評議会へ。ヌーンの部隊の報告を上げてくれ。コアへ来ないのなら、あれは、どこにいるのかを」
ウルフは敬礼し、作戦室を出ていった。
*
C.R.C. 7955.166 アナクセス連絡線
アナクセスへの跳躍の最後の中継で、作戦本部からの定時配布を受信した。
ケレンがそれを司令部区画へ持ってきた。薄く伸ばして淹れ続けた茶の葉も、あと一日分になっていた。
シーアは配布を開いた。戦況の更新、落ちた星系、取り返した星系。そして、損失の欄に新しい行が一つ加わっていた。
統合作戦本部直轄、第三十一任務部隊。任務、長距離哨戒。エクスパンション・リージョン、コレリアン・ラン上のミラグロ星系付近、銀河平面座標O-14にて全滅。プロクラメイター一隻、ヴェネター一隻、ドレッドノート二隻。生存者、確認されず。
シーアはその行を二度読んだ。
TF-31。同じ時期に、同じ種類の命令を受けて出ていった部隊だった。パーレミアンをTF-35が、コレリアン・ランをTF-31が。作戦本部の書類では、どちらも《ロングレンジ・パトロール》と呼ばれていた。司令官のカレン・ドラクス代将とは、カリダの会議室で一度だけ顔を合わせている。五十代の、口数の少ない人だった。
「原因は」
シーアは情報担当の士官に訊いた。
「分かっていません。全滅、の一報だけです」
シーアは配布の画面を閉じた。
第十六中継点の船団にはレキューザントが付いていた。連合は船団が消える理由を考え始めていた。考え終えた場所から、順に網を張り返しているのかもしれない。船団を待つ艦隊の前に、もう一つの網が。確かめる方法はなかった。ただ、同じことをしていた部隊が一つ消えていた。
トーリンの言葉を思い出した。ケルシスをもう一度やれば、さすがに人形扱いも終わるぞ。
その前に移ります。そう答えた。移り続けることで、向こうが評価を改めるまでの時間を使う。TF-31も同じことをしていたはずだった。
「代将」
コルヴェンが卓の向こうから言った。
「次の出撃は」
「同じやり方はもう通じないと考えます」
シーアは答えた。
「次に出る前にやり方を変えます。アナクセスで考えます」
シーアは損失の欄の一行を、航泊日誌の最後の頁に書き写した。ドラクス代将の名前と、ミラグロの座標を。
窓の外で星の光が縮み始めた。アナクセスの青い縁が近づいていた。