STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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デイヴィ・ジョーンズ

 通商破壊!

 

 パーレミアン・トレード・ルートの彼方で、分離主義者の輸送船団が次々と姿を消している。

 

 船団を襲うのは、共和国の小さな任務部隊。長い航海の果てに敵の補給線の奥深くへ潜り込んだ彼らは、燃料の欠乏と戦いながら、なおも敵の船を沈め続けている。

 

 ドロイドたちは、その見えない襲撃者を、ある名で呼び始めた。

 

 一方、共和国の捜索艦隊は、ジェダイの艦隊を次々と葬る謎の巨大戦艦の影を追い続けていた――

 

 *

 

C.R.C. 7955.158 パーレミアン・トレード・ルート外縁、支線第四中継点

 

 ミュニファスント級フリゲート《ベネフィット・オブ・コマース》の艦橋には七体のバトル・ドロイドが詰めていた。

 

 航法席に二体。火器管制に二体。通信に一体。索敵に一体。艦長席には黄色い塗装の指揮官型ドロイドが一体。全員が同じ間隔で同じ角度に首を傾けて、それぞれの表示を見ていた。

 

 索敵席のB1-7734は表示を見ながら、隣の通信席に話しかけた。

 

「ナア、聞イタカ」

 

「何ヲ」

 

「補給船ガ、消エテルラシイ」

 

 通信席のB1-5102は首を傾けたまま答えた。

 

「消エルワケナイダロ。船ダゾ」

 

「消エテルンダヨ。ココ何日カ、パーレミアンノ中継点デ。護衛ゴト、船団ゴト。出発シタッテ記録ハアルノニ、着イタッテ記録ガナイ」

 

「迷子ニナッタンジャナイノカ」

 

「十二隻マトメテ?」

 

 5102はしばらく考えた。考えている間、首が少しだけ反対側に傾いた。

 

「……ソレハ、迷子ジャナイナ」

 

「ダロ」

 

 7734は声を少し落とした。艦長席の指揮官型に聞こえないように、というつもりらしかった。艦橋は狭いので、全員に聞こえていた。

 

「補給港ノ荷役ノヤツラガ言ッテタ。有機体ノ方ノ荷役ナ。アアイウ船ノ消エ方ヲスル場所ニハ、昔カラ、何カガイルンダッテ」

 

「何カ」

 

「デイヴィ・ジョーンズ」

 

「誰ダ、ソレ」

 

「知ラナイ。有機体ノ船乗リノ言イ伝エダッテサ。船ヲ底ニ引キズリ込ムヤツ。宇宙ニ底ガアルノカハ、知ラナイケド」

 

 5102はまた首を傾けた。

 

「ドロイドハ、言イ伝エヲ信ジナイ」

 

「信ジテナイヨ。聞イタ話ヲシテルダケダ」

 

 火器管制席のB1が一体、振り返った。

 

「俺モ聞イタ。底ニ引キズリ込マレタ船ハ、二度ト上ガッテコナインダロ」

 

「宇宙ニ底ハナイッテ言ッタダロ」

 

「ジャア、ドコヘ行クンダ」

 

「知ラナイ。ダカラ、言イ伝エナンダロ」

 

 艦長席の指揮官型が首をこちらへ回した。

 

「私語ヲ慎メ。規程違反ダ」

 

「ラジャー、ラジャー」

 

 三体が同時に答えた。

 

 索敵の表示には何も映っていなかった。前方には航路の標識と、次の区間へ跳ぶための計算を始めた輸送艦の列。後方にはもう一隻の護衛のミュニファスント。いつもと同じだった。この支線の中継点は、本線の中継点で船団が消え始めてから、新しく使われるようになった場所だった。本線より遠回りだが、安全だと言われていた。

 

 7734は表示を見続けた。何も映っていない。何も。

 

 表示の正面が白く光った。

 

「……跳躍反応」

 

 7734の声が少し遅れて出た。

 

「正面。至近。大キイ。三ツ」

 

 艦橋の窓の外で、星の光が縮んだ。

 

 最初に現れたのは、上面に長い飛行甲板を開いた楔形の艦だった。二隻。その間にもう一隻。前の二隻より短く、分厚い。段になって積み上がった上部構造の頂に、幅の広い艦橋が載っている。艦首から艦尾へ赤い帯が走っていた。

 

 索敵の表示に、識別のデータベースが自動で照合した結果が出た。

 

 艦名、ハービンジャー。艦級、テクター。

 

 脅威度の欄には見慣れない分類が書いてあった。

 

 七一号相当。

 

「七一号ッテ、何ダ」

 

 5102が言った。

 

「知ラナイ」

 

 7734は答えた。

 

「デモ、タブン、デカインダロ」

 

「全艦、跳躍準備」

 

 指揮官型が命じた。

 

「輸送艦ヲ先ニ逃ガセ。本艦ハ――」

 

 正面の艦の両舷から、青白い光が放たれた。

 

 後方のもう一隻のミュニファスントに、それが届いた。艦尾の機関の光が明滅して消え、細長い船体が跳躍の姿勢のまま漂い始めた。

 

 次の瞬間、正面の艦の上部構造の砲塔が一斉にこちらを向いた。

 

 光が窓の外を塗り潰した。

 

 後方の僚艦が光の中で二つに折れた。

 

 艦橋の誰もしばらく何も言わなかった。首を傾ける者もいなかった。

 

「……機関、全開。跳躍ヲ」

 

「跳躍、計算中。……前方航路、使用不能。共和国艦ガ、予定ノ離脱ベクトルノ上ニイマス」

 

「別ノ航路ヲ計算シロ」

 

「再計算、四分十二秒」

 

「ソンナニ待テルカ」

 

「後方ノ航路ナラ、計算済ミデス」

 

「後方ハ」

 

「……後方ニモ、共和国艦ガイマス」

 

 正面の艦の砲塔が今度はこちらへ向いた。

 

 通信の表示に呼びかけが入った。人間の声だった。

 

『こちら共和国グランド・アーミー、TF-35。ミュニファスント、機関を停止し、降伏せよ。輸送艦も同様。降伏すれば、撃たない』

 

 指揮官型はしばらく黙っていた。首が左右に一度ずつ傾いた。何かの規程を照合しているらしかった。

 

「……降伏規程、第三条。敵ノ火力ガ本艦ノ防御能力ヲ著シク上回リ、離脱ノ見込ミガナイ場合、艦長ハ指揮下ノ資産ノ保全ノタメ、降伏ヲ選択スルコトガデキル」

 

 指揮官型は通信の表示を見た。

 

「降伏スル」

 

「降伏シマス?」

 

 7734が訊いた。

 

「降伏スル。機関停止。兵装解除。通信、先方ヘ受諾ヲ送レ」

 

「ラジャー、ラジャー」

 

 5102が受諾の符号を送った。

 

 艦橋の窓の外で、赤い帯の艦の砲塔がゆっくりと別の方角へ向き直った。

 

 7734は索敵の表示を見ていた。七一号相当。その文字がまだ消えずに残っていた。

 

 *

 

 ハービンジャーの艦橋で、シーアは降伏の受諾を受け取った。

 

 ミュニファスント一隻、撃沈。一隻、降伏。輸送艦九隻、全艦が機関を停止し、降伏。乗員は全部ドロイドだった。人の声の返事は一つもなかった。

 

 支線第四中継点に網を張ったのは、二日前だった。

 

 本線の中継点で三つの船団を捕まえた後、連合の船団は本線を避け始めた。避けた先の支線は航法の記録から幾つかに絞れた。足の遅い輸送艦の船団は、中継点ごとに一度通常空間へ出て、次の区間の跳躍を計算し直す。次の区間へ向かう離脱の方位は、航路の形から、ほとんど一つに決まっていた。

 

 シーアはヴェネター二隻とハービンジャーを、その離脱の方位の真上へ出すことにした。計算を終えた航路の上に共和国の艦がいれば、船団はその航路では跳べない。別の航路を計算し直している間、船団はハービンジャーの射程の中にいる。来た方へ戻ろうとすれば、そこには別の艦がいる。

 

 後ろは、《アシュアランス》と《ヴェリタス》が塞いでいた。

 

『《アシュアランス》。後方、異常なし。逃げてきた艦は一隻もなかった』

 

 トーリンの声が回線に入った。

 

『《ヴェリタス》。同じく。……今日は撃つ前に終わりましたね』

 

 マドックの声には少しだけ安堵が混じっていた。

 

「降伏の条件を送ります」

 

 通信士官が言った。

 

「兵装の解除。機関の停止。それから、航法記録と通信記録を全部こちらへ送信すること」

 

「ドロイドが従いますか」

 

 コルヴェンが訊いた。

 

「従います。規程に書いてあることなら、ドロイドは従う」

 

 シーアは答えた。

 

 しばらくして、記録の送信が始まった。降伏したミュニファスントと九隻の輸送艦から、航法の記録と通信の記録が形式どおりに届いてくる。情報担当の士官がその整理に取りかかった。

 

 送信が終わる頃、ミュニファスントの指揮官型ドロイドから、もう一度通信が入った。

 

『降伏シタ資産ノ扱イニツイテ、規程ニヨリ照会スル。本艦ノ乗員ハ、今後ドノヨウニ処置サレルカ』

 

 抑揚のない声だった。シーアは回線に直接答えた。

 

「全ドロイドは機能を停止して待機してください。こちらの技術班が乗艦し、主砲の火器管制の接続を切り、ハイパードライブ・モチベーターと航法制御モジュールを取り外します。その後、艦はこの中継点に残し、位置を連合側へ知らせます」

 

『了解シタ。……規程ニヨリ確認スル。本艦ノ乗員ハ、破壊サレナイカ』

 

「降伏した乗員は破壊しません。機能を停止して待っていてください」

 

『了解シタ。機能ヲ停止スル』

 

 回線が切れた。

 

 《アシュアランス》から、技術班と警備班を乗せた搭載艇が出ていった。一時間ほどで、主砲の火器管制の配線は物理的に切断され、ハイパードライブ・モチベーターと航法制御モジュールは搭載艇の貨物室に収まった。軍艦としてはもう使えない。それでも、沈めはしなかった。

 

 ケレンが茶の盆を持って艦橋へ上がってきた。シーアの前へ盆を差し出してから、少しだけ声を落とした。

 

「代将。お茶の葉が普通に淹れれば、あと三日分です」

 

 シーアはカップを受け取った。柑橘の香りがいつもより少し薄かった。ケレンが残りを少しずつ伸ばして淹れているのだろう。

 

「それも、帰る理由になりますね」

 

「はい」

 

 ケレンは真面目な顔で頷いた。

 

 輸送艦の積荷の処置はトレンチの砲で行われた。前部反応炉の冷却は、まだ第九中継点の時の記録を超えていなかった。それでも、コルヴェンは主砲を使わなかった。

 

 処置が終わる前に、《ストレイト・ライン》の艦長から通信が入った。

 

『代将。燃料の残りです』

 

 年配の艦長は数字を読み上げた。

 

『艦隊全体で十日分。アナクセスへ戻るのに、どう計算しても六日。途中の友好港は三つのうち二つが、もう使えなくなりました。残りの一つもいつまで保つか分かりません』

 

「攻撃に使えるのは」

 

『あと一回です。二回やれば、帰りの途中で止まります』

 

 シーアは数字を書き留めた。

 

「一回で帰ります」

 

『そうしてください。私は港を作ることはできません』

 

 初日に聞いたのと同じ言葉だった。今度は少しだけ疲れた声だった。

 

 *

 

 その夜、シーアは司令官室で、出港以来の航泊日誌を読み返した。

 

 第九中継点の後、第十二中継点で八隻。第十五中継点で十隻。どちらも護衛はミュニファスントが一隻だけで、船団は通信封鎖のまま待っていたTF-35の前へ、何も知らずに跳躍を抜けてきた。

 

 第十五中継点では、BTL-Bが一機、戻らなかった。

 

 輸送艦の対空砲座が一つだけ生きていて、その一射が降下中の機体の真横に入った。操縦士の名前はヤン・コルデス。カリダを今年出た、マイ・トレンの同期だった。マイは帰投した後、しばらく飛行甲板から動かなかったと、《レゾナンス》のディムが報告に書いていた。

 

 日誌の他の欄には別の数字が並んでいた。

 

 乗員の当直は三交代から二交代になっていた。長い通信封鎖の間、艦内の食堂では、同じ献立が四日ごとに繰り返されている。《ヴェリタス》では、若い砲術士官が当直中に眠り込み、マドックが自分で当直を代わった。ヴェネターの整備員は交換部品の不足を、壊れた機体の部品を外して補っていた。

 

 どの数字も小さかった。一つ一つは報告するほどのことではなかった。ただ、出港以来の分を並べると、艦隊がどれだけのものを削って前へ出ているかが分かった。

 

 船団を消すたびに、連合の前線のどこかで、艦隊が止まる。その代わりにこちらの艦隊も、少しずつ擦り減っていく。三十日しか前へいられないのは、燃料のせいだけではなかった。

 

 シーアはコルデスの名前の欄に、もう一度目を通した。それから、日誌を閉じた。

 

 その夜、司令部区画の卓に、星図が広げられた。

 

 パーレミアン・トレード・ルートの本線と、そこから分かれる幾つもの支線。その上に印が散らばっていた。赤い印はTF-35が出港以来、船団を捕まえた場所。黄色の印はドロイドの航法記録と、《リスナー》から届いた傍受の報告から割り出した、連合の船団の通過点だった。

 

 情報担当の士官が印を一つずつ説明していった。

 

「最初の十日間は船団は本線の中継点を使っていました。第九、第十二、第十五。こちらが三つ叩いた後、本線を避け始めています。支線の中継点、第四、第七。今日のは第四です」

 

「遠回りしている」

 

「はい。遠回りすれば、燃料も時間も余計に掛かります。それでも、本線よりは安全だと考えている」

 

 シーアは黄色の印の並びを見た。

 

 本線から外れて、支線へ。支線から、また別の支線へ。船団は共和国の艦隊を避けて、少しずつ遠くを通るようになっていた。

 

 だが、どれほど遠回りをしても行き着く先は同じだった。ミッド・リムの南の前線。そこへ燃料とドロイドを届けなければ、前線の艦隊は動けない。

 

「輸送艦のハイパードライブと、航法計算機は」

 

 シーアが訊くと、情報担当は、ドロイドの航法記録から割り出した数字を出した。

 

「ほとんどがClass 4です。それに、古い民生用の航法計算機を積んでいる。外縁の支線では、一度に処理できる航法解が短い。長い区間を一気には抜けられません。支線を使っても途中で必ず一度は通常空間へ出て、計算をやり直さなければならない」

 

「どこで」

 

 情報担当は星図の上で線を引いた。

 

 支線は幾つも分かれていた。第四、第七、第十一。どれも、前線へ向かう途中で、一つの点に寄っていった。そこから先の区間はあの船団の航法計算機では、一度の航法解で抜けられない。どの支線を通ってきた船団もそこで一度、必ず止まる。

 

「第十六中継点です」

 

 情報担当がその点を示した。

 

「本線と、三つの支線がここで合流します。前線へ向かう船団はどこを通ってきても、最後はここを通る」

 

 シーアはその点をしばらく見ていた。

 

 散らばっていた黄色の印がその一点へ向かって、細い線で繋がっていた。船団が消える場所を避けて、避けて、避けた先に避けられない場所が残っていた。

 

「ここで最後の一回をやります」

 

 シーアは言った。

 

「第十六中継点。その後、アナクセスへ戻る」

 

 コルヴェンが頷いた。リラが技術区画の記録を開いた。

 

「前部反応炉の冷却系はまだ規定値の内側です。一回なら、持ちます」

 

「一回で帰ります」

 

 シーアは同じ言葉を三度目に言った。

 

 *

 

C.R.C. 7955.160 パーレミアン・トレード・ルート、第十六中継点

 

 第十六中継点に来た船団はこれまでで一番大きかった。

 

 輸送艦が十八隻。護衛はミュニファスントが二隻と、その前にレキューザントが一隻。連合も船団が消える理由を考え始めていた。護衛を厚くし、支線を使わせ、最後に避けられない一点だけは、力で通ろうとしている。

 

 ハービンジャーは今度も正面へ出た。

 

 レキューザントは跳躍を抜けた直後から撃ってきた。こちらが来ることを半ば予想していたらしい。長い艦首の砲が、ハービンジャーの前部シールドに続けざまに届いた。

 

「前部シールド、負荷上昇。規定値内」

 

「重イオン砲、レキューザントの機関。主砲、続けて」

 

 コルヴェンの命令で、青白い光と、二十四門の光が続いた。レキューザントの艦尾が止まり、次の斉射で艦体が折れた。二隻のミュニファスントはヴェネターのBTL-Bと、後方から回り込んだ《アシュアランス》が相手をしていた。

 

 リラの声が技術区画から届いた。

 

「前部反応炉の冷却系、戻り側が規定値の九割。……第九の時より、上がるのが速いです。出港以来の負荷が溜まっています」

 

「あと何回撃てる」

 

「斉射なら、三回。それ以上は記録にない領域です」

 

 コルヴェンはシーアの方を見なかった。自分で判断した。

 

「主砲はあと二回まで。残りはトレンチで行う」

 

 輸送艦の列が崩れ始めた。

 

 十八隻のうち、十一隻が、ヴェネターのBTL-Bとハービンジャーのトレンチの砲に止められた。残りの七隻は散り散りに加速し、中継点の外縁へ逃れようとしていた。追えば、まだ何隻かは捕まえられる。

 

「追いますか」

 

 コルヴェンが訊いた。

 

 シーアは、《ストレイト・ライン》から届いた燃料の表を見た。帰りに六日。今、この中継点で追撃に使える燃料は、その六日分の外にしかなかった。

 

「追わない」

 

 シーアは言った。

 

「一回で帰ると言いました。七隻は前線へ着く。着いた七隻で前線の艦隊が何日動けるか。それは、向こうの計算です。こちらの計算はここまで」

 

 コルヴェンは頷き、処置を急がせた。

 

 止まった十一隻の積荷が燃え始めた頃、シーアは艦隊に帰投を命じた。

 

「TF-35、全艦へ。アナクセスへ戻る。長距離の通信封鎖は、アナクセスの管制域に入るまで続ける」

 

 受領が一つずつ返ってきた。最後は、《ストレイト・ライン》の年配の艦長だった。

 

『六日分です、代将。帰れます』

 

「帰ります」

 

 星の光が引き伸ばされ、第十六中継点の標識が窓の外から消えた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.160 独立星系連合軍、サブジュゲーター級《マレボランス》

 

「次の目標へ進む」

 

 グリーヴァスが言った。

 

 艦橋の正面の星図には三つの目標が赤く示されていた。どれも、共和国の艦隊が集まっていると見られる場所だった。

 

『困難デス、将軍』

 

 兵站を担当する戦術ドロイドが、平らな声で答えた。

 

 グリーヴァスが振り返った。

 

『本日マデノ補給船ノ到着予定、三十二隻。実際ノ到着、十九隻。四隻ハ迂回中。九隻ハ所在不明デス』

 

「十九隻で足りる」

 

『現在ノ作戦位置ヲ維持スルニハ、足リマス。サラニコア側ヘ進出シタ場合、帰投用ノ燃料ト、イオン砲系統ノ交換部品ヲ保証デキマセン』

 

「原因は」

 

『パーレミアンノ輸送路ニ対スル、共和国艦隊ノ襲撃デス。本線カラ支線ヘ輸送路ヲ変更シマシタガ、本日、第十六中継点ノ船団モ襲撃ヲ受ケマシタ』

 

 戦術ドロイドは表示を切り替えた。赤い帯を巻いた楔形の艦が、船団の記録の中に映っていた。

 

 グリーヴァスはその艦影を一瞥しただけだった。

 

「……ラクサスの人形か」

 

『コノ艦隊ノ行動ニヨッテ、本艦ニ割リ当テラレテイタ補給ノウチ、少ナクトモ十三隻分ガ失ワレタト推定サレマス』

 

「では、第三目標は」

 

『推奨デキマセン』

 

 グリーヴァスはしばらく星図を見ていた。三つ目の赤い印はコアへ向かう方角の、一番奥にあった。アブレガド。共和国の首都に、最も近い目標だった。

 

「……消せ」

 

『将軍?』

 

「第三目標だ。二つで戻る」

 

 星図から、アブレガドの印が消えた。

 

 残った目標を回った後は一度、泊地へ戻ることになる。燃料と部品を積み直し、イオン砲の系統を整備するまで、次の航海はない。

 

 グリーヴァスは咳をし、艦橋の窓の外を見た。

 

「人形の相手は艦隊の参謀にさせろ。私が狩るのは剣を持つ者だ」

 

『了解シマシタ』

 

 戦術ドロイドは補給の表を閉じた。燃料の欄の数字は二つの目標を回って戻るのに、ぎりぎり足りるだけだった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.161 コルサント、金融・経済分析総局第二室

 

 その報告は通常の配布には入っていなかった。

 

 暗号解析課の中に、一つの小さな班がある。共和国の任務部隊が救難信号も残さずに消え始めた頃、作られた班だった。消え方が普通の艦隊戦とは違っていた。何か一つの兵器が動いているのではないか。班はそう考えて、各方面へ警報を出し、連合の通信の中から、その兵器を指していると思われる符号を一つ、探し当てていた。

 

 班の報告は閲覧を許された者にだけ、別の経路で回される。第二室へ届くのは燃料と補給に関わる部分だけだった。夕方、主任が自分の端末から、その一件をリヴィアの閲覧区分へ回してきた。

 

 リヴィアは認証を入れて本文を開いた。

 

 符号を含む通信は、ここ二十日ほどの間に急に増えていた。当初、班はこれを大規模な攻勢の準備と見ていた。符号と一緒に出てくる星系名と航路の断片から、コア宙域への進出が予想されていた。リヴィアが三日前から作っていた資料も、その警報を前提にしたものだった。

 

 今回の報告はその予想を修正していた。

 

 符号を含む通信を解読していくと、その大半は燃料の配分と、行動予定の延期に関するものだった。この艦へ優先して回すはずの燃料が、予定の半分ほどしか届いていない。届かない分を待つために、行動予定が繰り返し先送りされている。進出を示す新しい符号はこの十日間、出ていない。現在の燃料の供給状況から見て、近い期間のうちに、この艦がコア宙域へ進出する可能性は低い。

 

 当初の懸念はおそらく杞憂であった。

 

 リヴィアはその一文を読んだ。

 

 それから、自分の作業領域を開いた。三日前から作りかけていた資料が、そこにあった。

 

 ジェダイ評議会への情報提供。表題は、アブレガド星系に対する攻撃の危機の可能性について。

 

 班の最初の警報では、この艦がコア宙域へ進出する場合、コルサントに最も近いアブレガド周辺が、最初の標的になる可能性があった。オープン・サークルの艦隊があの方面へ展開している。ジェダイの将軍が率いる任務部隊が、少なくとも一つ。その部隊に警戒を促すための資料だった。

 

 今日の報告でその前提がなくなった。

 

 リヴィアは資料の最後の頁まで読み直した。それから、主任に確認を求めた。

 

「前提がなくなった資料を出せば、評議会を混乱させるだけだ」

 

 主任は言った。

 

「削除します」

 

「そうしてくれ」

 

 リヴィアは作業領域に戻り、削除を選んだ。資料は作業領域から消えた。削除の記録にだけ、表題と日時が残った。

 

 アブレガド星系に対する攻撃の危機の可能性について。削除。C.R.C. 7955.161。

 

 彼女は次の配布資料を開いた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.162 共和国軍集結地、ヴェネター級《トライアンファント》

 

 捜索の取りやめを告げる通信は、夜の当直の終わりに届いた。

 

 プロ・クーンは艦橋の後ろの小さな作戦室で、それを受け取った。ケル・ドアの呼吸マスクの奥で、長く息を吐く音がした。向かいに立っていたクローン・コマンダーのウルフが、将軍の手元の表示を覗き込んだ。

 

「取りやめ、ですか」

 

「この宙域での捜索は取りやめだ」

 

 プロ・クーンは通信の文面をもう一度読んだ。

 

 オープン・サークル艦隊司令部から、ジェダイ・マスター、プロ・クーンへ。正体不明の連合艦に対する捜索任務について、本宙域での捜索を取りやめる。情報部の最新の評価により、当該艦がコア宙域へ進出する可能性は低いと判断された。貴部隊は別命あるまで集結地で待機せよ。

 

「コアへは来ないということですか」

 

「情報部はそう判断した」

 

 プロ・クーンは表示を閉じた。

 

 正体の分からないものだった。いくつもの任務部隊が救難信号も残さずに消えている。残骸の調査もまだ半分しか進んでいない。分かっているのは何かが、艦隊を丸ごと消しているということだけだった。それが、コアへ向かうかもしれない。だから、コアへの入口に当たるこの宙域を、三隻で探すはずだった。

 

「ヌーン将軍の部隊は」

 

 ウルフが訊いた。

 

「別の宙域だ。私が先に送った。あちらは取りやめの対象になっていない」

 

 アレス・ヌーン。この捜索のために、プロ・クーン自身が先に送り出したジェダイ将軍だった。彼の任務部隊はヴェネター三隻で、四日前に集結地を離れている。銀河平面座標J-13、ピュー星系の周辺から、捜索を始めていた。

 

「では、我々は」

 

「待機だ」

 

 ウルフは何も言わなかった。

 

 プロ・クーンは作戦室の窓の外を見た。集結地に並ぶ艦影の灯りが規則正しく瞬いていた。フォースの流れの中に、何か重いものが沈んでいるような感覚があった。どこにあるのかは分からなかった。ただ、遠くないところに、それはあった。

 

「当直を戻せ、ウルフ。待機は続ける」

 

「了解」

 

 コマンダーが出ていった後もプロ・クーンは、しばらく窓の前に立っていた。

 

 二日後、ウルフが同じ作戦室へ戻ってきた。今度は将軍が呼ぶより先に扉を開けた。

 

「ヌーン将軍の部隊です」

 

 ウルフは手にした端末を卓へ置いた。

 

「ピュー星系で全滅しました」

 

 表示には一行しかなかった。オープン・サークル艦隊、第四十一任務部隊。ピュー星系にて全滅。ヴェネター三隻。生存者、確認されず。

 

 プロ・クーンは長いあいだ何も言わなかった。二日前に感じた重いものがフォースの中で、一つ沈んだ場所を持ったように思えた。

 

「この宙域を探していた我々は無事でした。将軍が探しに送った方がやられた」

 

 ウルフが言った。声は抑えられていた。

 

「そうだ」

 

 プロ・クーンは窓の外の艦影を見た。自分の三隻は今夜も同じ場所で、同じ灯りを瞬かせていた。先に出た者が消え、待たされた者が残った。それを幸運と呼ぶ気にはなれなかった。

 

「評議会へ。ヌーンの部隊の報告を上げてくれ。コアへ来ないのなら、あれは、どこにいるのかを」

 

 ウルフは敬礼し、作戦室を出ていった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.166 アナクセス連絡線

 

 アナクセスへの跳躍の最後の中継で、作戦本部からの定時配布を受信した。

 

 ケレンがそれを司令部区画へ持ってきた。薄く伸ばして淹れ続けた茶の葉も、あと一日分になっていた。

 

 シーアは配布を開いた。戦況の更新、落ちた星系、取り返した星系。そして、損失の欄に新しい行が一つ加わっていた。

 

 統合作戦本部直轄、第三十一任務部隊。任務、長距離哨戒。エクスパンション・リージョン、コレリアン・ラン上のミラグロ星系付近、銀河平面座標O-14にて全滅。プロクラメイター一隻、ヴェネター一隻、ドレッドノート二隻。生存者、確認されず。

 

 シーアはその行を二度読んだ。

 

 TF-31。同じ時期に、同じ種類の命令を受けて出ていった部隊だった。パーレミアンをTF-35が、コレリアン・ランをTF-31が。作戦本部の書類では、どちらも《ロングレンジ・パトロール》と呼ばれていた。司令官のカレン・ドラクス代将とは、カリダの会議室で一度だけ顔を合わせている。五十代の、口数の少ない人だった。

 

「原因は」

 

 シーアは情報担当の士官に訊いた。

 

「分かっていません。全滅、の一報だけです」

 

 シーアは配布の画面を閉じた。

 

 第十六中継点の船団にはレキューザントが付いていた。連合は船団が消える理由を考え始めていた。考え終えた場所から、順に網を張り返しているのかもしれない。船団を待つ艦隊の前に、もう一つの網が。確かめる方法はなかった。ただ、同じことをしていた部隊が一つ消えていた。

 

 トーリンの言葉を思い出した。ケルシスをもう一度やれば、さすがに人形扱いも終わるぞ。

 

 その前に移ります。そう答えた。移り続けることで、向こうが評価を改めるまでの時間を使う。TF-31も同じことをしていたはずだった。

 

「代将」

 

 コルヴェンが卓の向こうから言った。

 

「次の出撃は」

 

「同じやり方はもう通じないと考えます」

 

 シーアは答えた。

 

「次に出る前にやり方を変えます。アナクセスで考えます」

 

 シーアは損失の欄の一行を、航泊日誌の最後の頁に書き写した。ドラクス代将の名前と、ミラグロの座標を。

 

 窓の外で星の光が縮み始めた。アナクセスの青い縁が近づいていた。

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