STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7944.212
クラクドアVII / M-18、マヤギル・セクター。リマ交易ルート。
エリアドゥへ向かう途中で、進路が変わった。
シーアが気づいたのは、朝食のあとだった。艦内の航路表示に、昨日までなかった目的地が増えている。エリアドゥへ直接向かわず、リマ交易ルートをさらに進み、クラクドアVIIへ寄ってから引き返すことになっていた。
外交船は、航路の中継点で足を止めていた。窓の外には星が見え、少し離れたところに随伴艦の航行灯が浮かんでいる。
「セレナ。エリアドゥは、こっちじゃないよね?」
端末を読んでいたセレナが顔を上げた。
「クラクドアVIIへ寄ることになりました」
「間違えたんじゃないんだ」
「この船の航法士に聞かれたら、泣きますよ」
シーアは表示の上で、伸びた航路を指でたどった。
「何をしに行くの?」
「政府の代表の方が、こちらの船へ同乗なさいます。詳しいことは、お父上にお聞きください」
「セレナも知ってるんでしょう」
「お部屋とお食事の手配でしたら、お答えできます」
シーアが立ち上がったところで、船体の奥から低い振動が伝わってきた。続いて、護衛機の帰投を知らせる艦内放送が流れる。
廊下へ出たシーアは、父の執務室とは反対側へ足を向けた。
「殿下。お父上のお部屋は、そちらではありません」
「先にハンガーへ行く」
セレナは呼び戻す代わりに、端末で予定を確かめた。
「点検のお邪魔はしませんように」
⸻
外交船の後部ハンガーには、一機のLRS-138が収容されたばかりだった。
細長い機首の後ろに単座のコクピットがあり、そこから胴体と主翼が広がっている。Z-95の面影を残してはいるが、並べれば一回り大きい。サーティネイニアンを出てからも、六機の護衛隊が交代で発進し、戻ってくるところを何度も見ていた。
二番機の下では、整備員が点検パネルを開いていた。シーアは床の区画線の手前で足を止め、コクピットから降りてきたケイン中尉へ手を上げた。
「おかえり。今日はどこまで行ってたの?」
ヘルメットを外しかけていたケインが振り向く。
「クラクドアVII星系の進入路手前までです」
「もう見てきたの? 僕たちは、まだここにいるのに」
「先に確かめるのが仕事ですから。進入路の様子と、航法データを持って帰りました」
シーアは機体を見上げた。長距離任務用だということは知っている。けれど、自分たちが朝食を取っていた間に、あの機体は先回りして進入路を調べていたのだ。仕様表で読んだ航続距離が、急に実感を伴って思い出された。
コクピット後方で電子音がした。青灰色の頭部がソケットから持ち上がり、シーアの方を向く。
「ケイも、おかえり」
R2-K7が短く鳴いた。シーアが手を振ると、今度は少し長い音が返ってきた。
「どうだった?」
電子音が続いた。シーアは最後まで聞いてから、ケインを見た。
「何て?」
「分からなかったんですか」
「だいたいは分かったよ」
R2-K7が鋭く二度鳴いた。シーアは眉を寄せる。
「今のは分かった。馬鹿にした」
「そこだけは正確ですね」
整備用のリフトが上がり、R2-K7をソケットから受け取った。床へ降ろされると、ケイは機体を回り込んで整備区画へ走り出した。シーアも、その横についていく。
「ケイは、飛んでる間もずっと働いてたの?」
「航路計算に機体診断、センサーと通信の補助。手の届くところなら、故障の修理もします。私が操縦で忙しい時ほど、こいつの仕事が増えるんです」
ケインが答えると、R2-K7が一段高い音を出した。
「私より働いている、と言っています」
ケイが勢いよく肯定したので、シーアは笑った。
「じゃあ、二人で飛んでるんだ」
「一応、単座機なんですがね」
すぐに抗議の電子音が上がった。ケインはヘルメットを脇に抱え直し、足元のドロイドを見下ろす。
「副操縦士の席まで欲しがるなよ。お前は今の場所で十分だろう」
ケイは何か言い返したが、そのまま整備員の方へ進んでいった。シーアは二番機へ振り返った。開かれたパネルの中から、整備員が細いケーブルを引き出している。
「もし向こうで戦っても、自分で帰ってこられるんだよね」
「燃料と損傷次第ですが、そのつもりで出ています。母艦が迎えに行けるとは限りませんから」
「戦ってる間は、ケイが帰り道を考えてる?」
「ええ。私が敵を見ている間にも、航路を計算してくれます」
シーアは、機体の上に空いたソケットを見た。
「一人で遠くへ行くために、一人にしないんだ」
ケインは小さく笑った。
「今のは、あいつに聞かせてやってもよかったですね」
「Z-95でも、同じように飛べるの?」
「任務によります。うちで使っているZ-95なら、もっと基地や母艦の位置を気にするでしょう。LRSでは、その分だけ先へ出られます」
ハイパードライブも、シールドも、長距離センサーも、そのために載っている。シーアは知っている装備を思い浮かべた。機体が大きくなったのも、単に武器を増やしたからではない。
「船と同じだ」
ケインが顔を向ける。
「遠くまで行くなら、自分でできることが多い方がいい」
整備区画から一度、高い電子音が響いた。シーアはそちらを指した。
「ケイもそう思ってる」
「今のは本当に分かったのですか?」
セレナに尋ねられ、シーアは頷いた。
「分かった」
R2-K7は、もうこちらを向いていなかった。整備員の端末へ接続し、帰投後の仕事を始めている。セレナがシーアの肩に手を置いた。
「では、私たちも参りましょう。お父上にお聞きになることがあったのでは?」
「あ」
クラクドアVIIへ寄る理由を、まだ聞いていなかった。
ケインに礼を言い、ケイにも手を振ってから、シーアはハンガーを出た。
⸻
アルドレンは艦内の執務室にいた。
机の上には、クラクドアVII政府議会の紋章を付けた文書が表示されていた。その脇にも金融資料らしい表がいくつか開かれている。シーアには、数字の並びが何を意味するのかまでは分からなかった。
父は読んでいた文書を閉じ、入ってきた息子へ顔を向けた。
「クラクドアVIIの人を迎えに行くって聞いた」
「セヴ・ナール議員だ。エリアドゥ・サミットへ出席する代表団に、ここから同乗してもらう」
「自分たちの船では来られないの?」
「船を用意できないわけではない。だが、出発の手配に面倒が起きている。我々はエリアドゥへ行くところだし、こちらの船なら予定も決まっている」
アルドレンは机の資料をまとめ、ナールの名が入った文書だけを残した。
「前から知ってる人?」
「ああ。詳しい事情は、着いてから本人に聞く」
「クラクドアVIIって、ビスの星だよね。ずっと共和国にいるんでしょう」
「古い加盟世界だ。医療や精密機器でも知られている」
それなら、サーティネイニアンから来た船に乗せてもらわなくてもよさそうだった。シーアは表示された議会の紋章を見た。
「それでも、エリアドゥへ来るのが難しいんだ」
「何ができる国でも、ほかに頼っているものはある」
父はそう言って、ナールの文書を閉じた。
⸻
ハイパースペースを抜けると、恒星の光の中に、暗い緑と褐色の惑星が見えた。
軌道表示には大気についての警告が出ていた。地表には巨大な密閉都市が点在し、その間に傷ついた土地が広がっている。それでも、軌道上の往来は多かった。貨物船や連絡艇が航路に沿って進み、入港案内には医療品や精密機器を運ぶ輸送船の名が並んでいた。
その向こうに、大きな環状の船体が浮かんでいる。
「LH-3210だ。もう一隻いる」
シーアは窓へ寄った。通商連合の大型貨物船が、高軌道で荷役を行っている。周囲には小型の輸送船や作業艇が集まり、少し離れたところに武装した船も見えた。
「小さい方も通商連合なの?」
セレナが識別表示を確かめた。
「関連会社の船ですね。あちらの輸送船も同じです」
外交船の左右では、二隻のマローダー級アサルト・コルベットが位置を変えていた。六機のLRS-138も間隔を広げ、一機が窓の前方を横切る。
二番機だろうか。機体番号は見えなかったが、シーアはしばらくその姿を追った。ハンガーにいた時よりも、ずっと小さく見える。
機影が窓の端へ消えると、再びLH-3210へ目を戻した。
「ここ、通商連合の星じゃないよね」
「クラクドアVII政府が治めています。通商連合との取引が多いのです」
入港許可が下り、続いて港湾手続きの表示が開いた。政府の許可とは別に、荷役、燃料、保険、積荷保証の確認が進んでいく。そのあちこちに、通商連合や関連企業の名前があった。
シーアは表示を順番に読んだ。船だけではなかった。これから入る港にも、船を動かすための手続きにも、同じ会社の名前が出てくる。
「警備も、あの船がするんだ」
「契約している区画では、そうなのでしょう」
武装船はこちらへ向かってこなかった。政府の許可を受けた外交船は、そのまま降下航路へ入る。シーアは見えなくなるまで、環状貨物船と、その周囲の小さな船を眺めていた。
⸻
首都ウェオガーには、宇宙港から密閉された交通区画を通って入った。
白い曲面を多用した建物の間を、公共交通の車両が走っていた。壁面には案内表示が並び、医療研究所や工房に交じって楽器店もある。ビス人たちが店先で足を止め、通勤客が交通区画へ流れていく。
「思ってたより普通だ」
「どんな場所を想像していたのですか?」
隣のセレナに聞かれ、シーアは少し考えた。
「もっと、遠い感じ」
「十分、遠くまで来ていますよ」
「距離じゃなくて」
それ以上は、うまく説明できなかった。知らない建物も見慣れない表示もあるのに、人が働き、物を買い、どこかへ急いでいく様子は、王都とそれほど変わらない。
政府議会の施設で一行を迎えたのは、濃い色の礼服を着たビス人だった。補佐官を二人連れ、アルドレンへ歩み寄る。
「公王殿下。ご足労をおかけしました」
「こちらが寄っただけだ、ナール。出発の準備は?」
「済ませてあります」
「なら、二時間後に出よう。船の方には伝えてある」
ナールは礼を述べ、それからシーアへ顔を向けた。
「アレクシアール殿下ですね。クラクドアVIIへようこそ。もう少しお時間があれば、音楽院でも御案内できたのですが」
「造船所はあるんですか?」
ナールが一度アルドレンを見た。父は、特に驚いた様子もなかった。
「ございますよ。殿下は、船がお好きだそうですね」
「見に行ける?」
「今日は人をお迎えに来たのです」
すぐ後ろからセレナに言われ、シーアは施設の時計を見た。
「二時間あるよ」
「二時間しかありません」
ナールが笑った。
「次にお越しになる時には、見学できるよう手配いたしましょう」
「約束ですよ」
「ええ。覚えておきます」
シーアがようやく頷くと、大人たちは会議室へ入っていった。
⸻
別室へ通されたシーアは、十五分ほど本を読んでから、窓の外へ目を向けた。
都市ドームの骨組みが遠くに見える。その外には、褐色の土地が広がっていた。軌道から見た時には分からなかったが、街と外の土地との境目ははっきりしている。
セレナが受付で会議の進み具合を確かめたあと、二人は護衛と一緒に、施設に併設された商業回廊へ出た。シーアは飲み物を売る店の前で足を止めた。
冷却ケースから一本選び、支払端末へ自分の端末を近づける。短い音がして、表示が切り替わった。もう一度やろうとすると、店員が丁寧に手を上げた。
「申し訳ありません。共和国クレジットは、お受けしていないのです」
シーアは端末から顔を上げた。
「クレジットが使えないの?」
「現地通貨か、こちらの決済証でお願いいたします」
店員が示した表示には、通商連合系の決済機構の印があった。軌道上の手続きでも見た名前だった。
セレナが自分の端末を取り出した。
「現地通貨でお願いします」
支払いはすぐに済んだ。シーアは飲み物を受け取り、店を出てからも自分の端末を見ていた。
「お金、足りなかったわけじゃないよね」
「残高の問題ではありません。こちらで使う分は、私の方で用意してあります」
「でも、ここは共和国でしょう。どうして共和国のお金が使えないの?」
セレナは回廊の脇へ寄り、通行人を一人先に通した。
「共和国に加盟していても、日々の支払いに使う通貨まで同じとは限りません。こちらでは現地通貨が基本です。クレジットで支払える店もあるのでしょうが」
「会社の決済証は使えるのに?」
「あのお店が仕入れの支払いに使えるなら、受け取りやすいでしょうね」
シーアは振り返った。店員は次の客へ品物を渡している。先ほどまでと何も変わらない、普通の買い物だった。
「クレジットには、価値がないってこと?」
「価値がなければ、私も現地通貨に替えられません。あのお店は、両替の手間や費用を引き受けたくないのかもしれませんね」
シーアは飲み物の蓋を開けずに持っていた。
通貨は信用だ。
どこかで聞いた言葉が浮かんだ。以前の世界で聞いたのか、こちらで読んだのかは思い出せない。手元の数字に価値があるのは、その数字を受け取ってくれる相手がいるからだ。
「受け取ったあと、自分も使えると思うから、お金になるんだよね」
「少なくとも、お店の方は次の支払いをなさいますから」
「じゃあ、あの人にとっては、共和国のクレジットより、会社の約束の方が使いやすいんだ」
セレナはすぐには答えず、店先の決済表示を見た。
「この回廊では、同じ表示をよく見かけますね」
シーアも周囲を見回した。飲み物の店だけではなかった。食料品店にも、雑貨を扱う店にも、同じ印がある。
共和国の外へ来たわけではない。それなのに、いつも使っていたクレジットは、ここでは一度ほかのものへ替えなければならなかった。通商連合の決済証には、その手間がいらないらしい。
その違いが、気になった。
⸻
別室へ戻ると、シーアは飲み物を机に置き、窓の向こうの都市を眺めた。
「ナールさんが来にくいのも、さっきのお金みたいなこと?」
セレナが顔を向ける。
「船があっても、使うのに別の会社がいるとか」
「御移動だけで済む話ではないのでしょう。先ほどの入港手続きでも、いろいろな会社の名が出ていたでしょう」
「輸送と、燃料と、保険」
「ええ。政府の仕事にも、そうした契約があります」
シーアは机に置かれた案内資料を開いた。クラクドアVIIから出荷される医療機器や精密機械の紹介に続いて、港の取扱貨物が載っている。外から入ってくるのは、食料、原材料、燃料だった。
「来るなって言われなくても、この契約を変えるって言われたら困るんだ」
「食料を運ぶ船が減るなら、別の輸送手段を探さなければなりません。保険の条件が変われば、その費用も用意します」
「政府がお金を借りてたら、それも?」
「次に借りられる条件が変わることはあるでしょうね」
シーアは案内資料の精密機器を見た。知らない用途のものばかりだが、どれもこの星が誇る製品らしかった。
「得意なものは、こんなにあるのに」
「売った代金で、必要なものを買っているのでしょう。それはサーティネイニアンも同じです」
クアットで見た表示を思い出した。造船環へ向かって無数の線が伸び、その先には知らない星の名前があった。部品が来なければ、技師を集めても取り付けはできないと、カースは言っていた。
あれほど大きな造船所も、ほかの星から来る船を待っていた。
「クアットも、そうだった」
セレナが頷く。シーアはそれ以上話さず、クラクドアVIIの輸送航路をたどった。複数の星へ伸びる線の脇に、同じ運航会社の名が並んでいた。
⸻
二時間後、ナールと二人の補佐官は外交船へ乗り込んだ。
荷物は驚くほど少なかった。補佐官の一人が書類の入った容器を運び、もう一人が通信端末を確かめている。ナールは案内された部屋に荷物を置くと、アルドレンのところへ戻ってきた。
シーアは二人の話が途切れるのを待った。
「聞いてもいい?」
父が振り返る。
「通商連合に、エリアドゥへ来るなって言われたの?」
ナールはシーアを見た。アルドレンも一度息子を見たが、質問を取り消させることはしなかった。
「そうは言われておりません」
ナールが答えた。
「いくつかの輸送契約について、更新条件を再検討すると通知がありました。保険についても同じです。それに、政府債務の借り換え条件も」
最後の言葉でシーアの視線が父へ動く。アルドレンが補った。
「借りた金を返すために、新たに金を借りる。その時に、今までと同じ条件では貸さないかもしれない、という話だ」
「それが全部、今なの?」
「偶然だそうです」
ナールの声に、わずかな皮肉が混じった。
「エリアドゥ・サミットへの出席とは、何の関係もないとも説明されました」
シーアは、父とナールを見比べた。
「信じてないでしょう」
「だが、届いた通知だけを見れば、契約条件を見直すと書かれているだけだ」
アルドレンは落ち着いた声で言った。
「サミットを欠席させるためだと、そこから証明できるわけではない」
「じゃあ、うちの船に乗ったら大丈夫になる?」
「契約の問題は残る。乗る船を替えても、食料や保険の契約が元に戻るわけではないからな」
シーアが黙ると、ナールが続けた。
「それでも、私はエリアドゥへ着けます。公王殿下と一緒に会場へ入れば、事情を知っている相手がいることも分かります」
「一人だけでも?」
「一人減らずに済む」
アルドレンが答えた。
ナールはシーアと向き合ったまま、静かに言葉を足した。
「私一人が欠席しても、サミットは開かれるでしょう。ですが、同じような事情で十の政府が代表を送れなかったら、その政府の話は誰がするでしょうか」
シーアは少し考えた。会場にいなければ、何も言えない。出席した者は、そこにいる者の話を聞いて決めることになる。
「じゃあ、反対するなって言わなくてもいいんだ」
「会場へ来なければ、賛成も反対もできません」
「でも、行くなとは言ってない」
ナールが頷いた。
シーアには、さっきの通知を読んでも理由を証明できないという話が、ようやく分かってきた。書かれていない言葉を、受け取った相手には分からせることができるのだ。
「ずるいね」
「そう思って終わりにすれば、次も同じことをされる」
アルドレンは出航準備の表示を確かめた。
「今日は、少なくとも欠席せずに済む。残る契約の話も、エリアドゥへ持っていく」
ナールが礼を述べた。父は頷き、到着までに使える通信設備について説明を始めた。シーアは二人から少し離れ、補佐官が運んできた書類の容器を見た。
乗客三人と、その荷物を運ぶだけなら、外交船には十分すぎるほど余裕があった。
⸻
外交船は、何の妨害も受けずにクラクドアVIIを離れた。
二隻のマローダー級が左右につき、六機のLRS-138が順に発進していく。そのうち一機が本隊から大きく前へ離れた。今度は識別表示が見えた。二番機だった。
「ケイ、また先へ行くんだ」
シーアは窓の前で足を止めた。もっと遠くには、まだLH-3210が浮かんでいた。荷役のための小型船が周囲を動いているが、こちらへ向かってくる船はない。
「何もしてこないね」
「船を止める必要はないのでしょう」
セレナも窓の向こうを見た。
クアットでマンデイターを見た時、あれほど大きな艦なら、戦う前に相手を諦めさせられるかもしれないと思った。ここでは、砲を向ける必要さえなかった。輸送契約や保険の条件を変えるという通知で、政府の代表を会議へ来られなくすることができる。
「お金の方が、船より強いのかな」
「船を動かす時にも、お金は要りますよ」
「そうだけど。司法軍が来ても、さっきの話はどうにもならない?」
セレナは少し考えた。
「私には判断できません。ただ、クルーザーの艦長に、保険料や融資の条件まで決めていただくわけにはいかないでしょうね」
海賊なら捕まえられる。進路を塞ぐ武装船なら、どかすこともできるかもしれない。けれど、保険料を変えた会社を砲で撃つわけにはいかなかった。契約を更新しないという通知に、戦闘機を向かわせても仕方がない。
違法なことがあるなら調べなければならないのだろうが、父は、届いた文書だけでは目的を証明できないと言っていた。
「難しいね」
「ええ」
セレナはすぐに同意した。
シーアは星図を開いた。コルサント、クアット、サーティネイニアン、エリアドゥ、クラクドアVII。表示した星は、どれも共和国の中にあった。
それでも、クラクドアVIIの店では、自分のクレジットが使えなかった。代わりに使えたのは現地の通貨と、通商連合系の決済証だった。店の人は、その決済証を受け取れば、次の支払いにも使えると考えている。
食料を運ぶ船が来ることも、銀行から金を借りられることも、次の相手が約束どおりに動くことも、あの星で暮らすために必要だった。その多くに、同じ会社が関わっていた。
共和国には法律がある。クラクドアVIIには政府があり、元老院へ送る代表もいる。けれど今日、ナールを迎えに来たのは共和国司法軍ではなく、父の船だった。
船の外には、サーティネイニアンのコルベットと戦闘機がいる。
「共和国って、遠いね」
セレナがシーアを見た。
「距離の話ですか?」
シーアは首を振った。それから、どう説明すればいいのか考えたが、うまく言葉にならなかった。
共和国が、ちゃんとそこまで来られる船。
クアットで口にした言葉は、今も間違っているとは思わない。ナールはこの船に乗っているし、エリアドゥへ着けば、自分の政府の話をできる。
ただ、迎えに来る船だけでは、残った契約の条件は変わらない。今日の飲み物を買うにも、セレナが用意していた現地通貨が必要だった。
シーアは星図を閉じた。
窓の外では、二番機が小さな光になっていた。ケインが前を見て操縦し、その後ろでケイが航路を計算しているのだろう。飛ぶ前には整備員が機体を調べ、帰ってくれば、また同じハンガーで迎える。
一機で遠くへ行くにも、それだけのものが要る。
「やっぱり、遠くへ行くなら、自分でできることが多い方がいい」
「戦闘機の話ですか?」
セレナに尋ねられ、シーアは少し考えた。
「たぶん」
クラクドアVIIは、もう窓から見えなくなっていた。けれど、店先にも港の手続きにも繰り返し現れた通商連合の印は、まだ覚えていた。
マローダー級アサルト・コルベット
分類:アサルト・コルベット
全長:約195メートル
建造:リパブリック・サイナー・システムズ
共和国末期以前に開発された、哨戒・護衛・治安維持を目的とする小型戦闘艦。
8基の連装ターボレーザーとトラクター・ビームを備え、最大1個飛行隊の戦闘機、シャトル、上陸艇、約80名の兵員を搭載できる。大型主力艦と正面から戦う艦ではないが、船団護衛、海賊討伐、臨検、星系哨戒など幅広い任務に対応する。
Z-95ヘッドハンター
分類:汎用戦闘機
全長:約12メートル(基本型。派生型により異なる)
開発:インコム社/サブプロ社
インコム社とサブプロ社が共同開発した、共和国末期を代表する汎用戦闘機の一つ。
比較的安価で頑丈、整備性にも優れ、長期にわたって多数の派生型が生産された。惑星防衛軍、地方政府、民間組織、傭兵など幅広い利用者によって運用されている。後期型にはシールドやハイパードライブを備えた機体も存在した。
LRS-138長距離制空戦闘機(オリジナル)
分類:長距離制空戦闘機
全長:約14メートル
開発:インコム社/サブプロ社
LRSは「Long Range Superiority(長距離制空)」の略称。
Z-95ヘッドハンターを原型として、長距離の独立作戦能力を重視して開発された発展型戦闘機。標準的なZ-95より大型化され、ハイパードライブ、偏向シールド、長距離センサー、拡張された生命維持装置を備える。