STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
英雄たちが、帰ってきた!
二十四日にわたる通商破壊を終え、任務部隊TF-35がアナクセスへ帰投する。沈めた敵船は数知れず、失った操縦士は一人。
だが、港で彼らを待っていたのは、祝杯ではなかった。
同じ頃、ジェダイの艦隊を次々と葬った正体不明の巨大戦艦もまた、分離主義者の泊地へ帰り着いていた。
その名を、共和国はまだ知らない――
*
C.R.C. 7955.167 アナクセス、共和国艦隊支援基地
長距離の通信封鎖は、アナクセスの管制域に入るまで続いていた。
だから、基地の側が知っていたのは、TF-35が帰ってくるということだけだった。何隻でどんな状態で誰が乗っていないのかは、跳躍を抜けて最初の応答を送るまで、誰にも分からなかった。
跳躍を抜けると、見慣れた星図が窓の外に広がった。アナクセスの青い縁。軌道の造船区の灯り。二十四日前に出ていった時と、何も変わっていなかった。
「アナクセス管制、こちらハービンジャー。TF-35、帰投。応答を」
通信士官が呼びかけると、管制の声が返ってきた。聞き覚えのある声だった。出港の時にも同じ当直の管制官が受け持っていた。
『ハービンジャー、こちらアナクセス管制。……帰投を確認。艦数を報告せよ』
六隻が順番に管制へ応答した。
ハービンジャー。《アシュアランス》。《レゾナンス》。《ヴァンガード》。《ヴェリタス》。一隻ずつ、艦名と艦長の名前を告げていく。管制の側でその名前を一つずつ受領していく声が、回線に続いた。
最後に、《ストレイト・ライン》の年配の艦長の声が入った。
『燃料残量、一日と十九時間。約束どおり、帰しましたよ』
「ありがとうございました」
シーアはそれだけ答えた。
管制の回線が少しだけ黙った。それから、さっきより柔らかい声で、係留位置の割当てが始まった。
基地の外縁に、《ノースウィンド》の古い艦影が浮かんでいた。出迎えの灯りも祝いの通信もなかった。ハービンジャーは指定された係留点へ、ゆっくりと艦首を寄せた。係留の腕が船体を抱え、振動が一度だけ艦橋の床を伝わってきた。
コルヴェンが艦長席から立ち上がった。
「係留、完了。機関、待機へ」
艦橋の誰かが長く息を吐いた。それが合図だったように、あちこちの席で、張っていた肩が少しずつ下りていった。
係留の作業が終わる頃、ケレンが艦橋へ上がってきた。盆は持っていなかった。
「代将。お茶がなくなりました」
申し訳なさそうな声だった。
「最後の一杯は昨日の夜でした。薄くしすぎて、ほとんどお湯でしたけど」
「気づきませんでした」
「気づかれないように、淹れていましたから」
ケレンは少しだけ得意そうな顔をした。それから、真面目な顔に戻った。
「補給の艦に茶葉が積んであるか、確かめてきます」
「お願いします」
ケレンは敬礼し、足早に艦橋を出ていった。
*
《ストレイト・ライン》の艦長は係留が終わると、自分から連絡艇でハービンジャーへ来た。
司令部区画の入口に立った彼女は、思っていたより小柄だった。灰色の髪を後ろで短く束ね、補給艦の乗員の作業服の上に、艦長の徽章を付けている。二十四日間、回線の声しか知らなかった相手だった。
「イルゼ・ハロウェイです。補給艦を三十年」
「アレクシアール・ヴァラリアンです」
「知っています。放送で」
ハロウェイは差し出された手を握った。硬い手だった。
「一日と十九時間。あれは、嘘ではありません。最後の中継点を出る時には正直、足りるかどうか分かりませんでした」
「足りるように、計算してくださった」
「計算したのはあなたです。私はあなたの計算を信じて、燃料の弁を開けただけです」
ハロウェイは司令部区画の星図を見た。パーレミアンの線と、その上に散らばった赤い印。
「前にも若い司令官の補給艦をやったことがあります。燃料の残りを読み上げても聞いていない人でした。三十日と言って、三十五日いた。帰りの途中で二隻を曳航しました」
「その司令官は」
「今はどこかの基地で書類を書いているはずです」
ハロウェイは少しだけ笑った。
「あなたは、二十四日で帰ってきた。次に出る時も私の艦を付けてください」
「お願いします」
ハロウェイは頷き、連絡艇へ戻っていった。
*
《レゾナンス》の飛行甲板では、帰投したBTL-Bの列の脇で、マイ・トレンが一枚の書類を書いていた。
遺品の送付の書類だった。ヤン・コルデスの私物は小さな箱一つに収まっていた。飛行服の予備と、家族の写真と、カリダの士官学校の卒業記念の徽章。それから、読みかけの本が一冊。栞が半分より少し手前に挟まっていた。
送り先の欄にカリダの山の向こうの村の名前を書いた。自分の村から、谷を二つ越えたところだった。士官学校に入る前には会ったこともなかった。
続柄の欄でペンが止まった。
受取人はヤンの母親だった。そこまでは、人事の記録に書いてある。書類の書式は受取人と戦死者の続柄と、もう一つ、書類を書く者と戦死者の関係を求めていた。
同期。僚機。友人。
どれを書けばいいのか、分からなかった。
「それ、私も書いたことがある」
声がして、マイは顔を上げた。
ナディ・フェルが飛行甲板の縁に立っていた。Z-95の飛行服のまま、アナクセスの支援基地から、帰投の手伝いに来ていたらしい。
「スルイス・ヴァンの時。テムとエダの分」
フェルはマイの隣に腰を下ろした。書類を覗き込んで、続柄の欄を見た。
「何て書いたんですか」
「僚機、って書いた。書式の選択肢に、それがあったから」
フェルはしばらく黙っていた。
「後でエダの母親から手紙が来た。僚機って何ですか、って。娘の、何だったんですか、って」
「……何て返したんですか」
「一緒に飛んでいた人です、って。それしか書けなかった」
マイは書類の欄を見た。
ケルシスの環の中を通信封鎖のまま、二人は前後に並んで飛んだ。第十五中継点で、ヤンの機体が光の中で膨らんで消えた時、マイは三機後ろにいた。何も言えなかった。回線は開いていたのに。
マイはペンを取り直した。
僚機、と書いた。その下の余白に、小さく付け足した。一緒に飛んでいました。
「それで、いいと思う」
フェルが言った。
マイは書類を封筒に入れた。封をする前に読みかけの本の栞の位置を、もう一度だけ確かめた。
*
ハービンジャーの前部反応炉の区画では、リラが冷却系の配管を開けさせていた。
喜ぶ暇はなかった。係留が終わるより先に、技術班へ作業の順番を指示し始めていた。シーアが区画へ降りていった時、配管の継ぎ目の一つが作業灯の下で開かれていた。
継ぎ目の金属の表面に、細い筋が幾つも走っていた。
「熱疲労です」
リラは筋の一本を指でなぞった。
「予想より、ずっと進んでいます。戻り側の熱交換器も同じです」
「壊れてはいない」
「壊れてはいません」
「じゃあ、大丈夫ですか」
リラはシーアの顔を見た。
「壊れる一歩手前まで使ったものを、大丈夫とは言いません」
技術班の一人が振り返らずに頷いていた。
「設計の段階で、砲戦は短時間で終わるものとして計算してありました。上の砲塔で遠くの艦を殴って、終わったら冷やす。二十日も続けて、撃っては冷やし、冷やし切らないうちにまた撃つ。そういう使い方は前提にないんです」
「直すには」
「戻り側の熱交換器と、継ぎ目の配管を丸ごと替えます。交換用の組立品は予備品として積んであります。カリダを出る時に、父が念のためにと言って載せさせた分です」
リラは技術区画の在庫の表を開いた。
「部品はあります。三日ください」
「三日で出られますか」
「三日で直します」
リラは表を閉じた。
「出ていいかどうかはそれから決めます。直したものを規定の出力まで上げて、冷却が追いつくのを確かめる。確かめるまでは、出していいとは言いません」
シーアは配管の筋を見た。二十四日間、前へいた。その間、この艦は一度も港へ入らず、撃ち続け、冷やし続けた。
「分かりました。三日で」
リラは頷いた。それから、少しだけ声を落とした。
「……撃つたびにこの数字を見ていました。止まるとは思わなかった。でも、止まらない理由も分かりませんでした」
「記録は取れましたか」
「全部」
「なら、試験です」
リラは何か言いかけて、口を閉じた。それから、作業灯の下の配管へ目を戻した。
ハービンジャーはその日のうちに、戦列から外れた。
その夜、リラは技術区画の端末で、交換の作業の手順を書き終えた。それから、もう一通、別の宛先へ書いた。
父さんへ。前部の冷却系の戻り側、熱交換器と配管の継ぎ目に、熱疲労。写真を添えます。設計の想定を超える使い方をしました。したのはこの艦の司令官です。私も止めませんでした。積ませてくれた予備品で、三日で直します。
少しして、返事が来た。
《写真は見た。予想より早い。だが、予想の範囲だ》
その後に一行だけ続いていた。
《お前の艦は、使われているんだな》
リラはその一行をしばらく見ていた。父がこの艦を少し怖がっていたことを、彼女は知っていた。その父が使われている、と書いてきた。褒めているのか、案じているのか、どちらとも読めた。
リラは返事を書かずに、端末を閉じた。
*
C.R.C. 7955.167 独立星系連合軍、前進泊地
同じ日、別の泊地にも一隻の艦が戻っていた。
外から見れば、巨大な艦が静かにドックへ入ってくるだけだった。出迎えの灯りも祝いの通信もなかった。作業員のドロイドたちが係留の腕を伸ばし、艦体を抱えた。艦首から艦尾まで、並の艦の四倍を超える船体だった。係留の腕は一本では足りず、六本が艦腹に取り付いた。
両舷に巨大な砲口が開いていた。イオン砲だった。試験航海の間に、共和国の艦隊を幾つも黙らせた砲だった。その砲口の縁が焼けて変色していた。
艦橋では、ドゥークー伯爵のホログラムが、グリーヴァスの報告を聞いていた。
『試験航海の結果を』
「大型イオン砲による、艦隊単位の無力化。成功」
グリーヴァスは手元の表示を読み上げた。
「ヴェネター級に対して、有効。機関と航続性能、問題なし。イオン砲系統の部品の消耗、予想以上。長期の独立行動、補給への依存が大きい。予定した最終の進出点、アブレガド。兵站の不足により、中止」
『十分だ』
ドゥークーは言った。
『目的は果たした。イオン砲は共和国の艦隊に対して使える。それが分かればよい』
「共和国の艦隊をもっと狩れた」
『それは、試験の目的ではない』
伯爵の声は穏やかだった。
『艦を返せ、将軍。この艦は君の旗艦ではない。君に預けた、試験中の兵器だ。君には地上の軍と艦隊全体を見てもらわねばならない。一隻の艦の艦橋に、いつまでも立っていてもらっては困る』
グリーヴァスはしばらく黙っていた。それから、咳をした。
「……了解した」
『第二段階の試験は艦付きの指揮官に任せる。整備が済み次第、出す』
ホログラムが消えた。
グリーヴァスは、艦長席の横に立っていた黄色い塗装の指揮官型ドロイドを見た。最初の航海の間、将軍の横で、主機の状態とイオン砲の再充填の完了を報告するだけだった個体だった。
「次に乗る者に伝えろ」
『ハイ、将軍』
「共和国の艦を正面に置くな。撃たれる前に止めればいい」
『了解シマシタ』
グリーヴァスは艦橋を出ていった。
指揮官型は艦長席の前に立ったまま、しばらく動かなかった。それから、艦橋の正面の星図を見た。アブレガドの印はもうそこになかった。
整備のドロイドたちが艦橋の後ろの機器を開け始めた。イオン砲の系統の交換部品の一覧が、表示の上に長く伸びていった。指揮官型はその一覧の最後まで目を通し、到着の予定日の欄に印を付けた。
次に乗る者、とグリーヴァスは言った。
その者が誰なのかはまだ告げられていなかった。
*
C.R.C. 7955.167 アナクセス、ハービンジャー司令官室
エレナへ連絡したのはその夜だった。
エリアドゥはまだ昼の終わりだった。劇場の事務室にいるらしく、背後の壁に次の公演の貼り紙が見えた。エレナは画面にシーアの顔が映るなり、少しだけ身を乗り出した。
『帰ってきたのね』
「帰ってきた」
『痩せた』
「みんな、そう言う」
『みんなが正しいのよ』
前にも同じやり取りをした。エレナはそれを覚えているのか、少しだけ笑った。
『どこへ行っていたのかは訊かない方がいいのよね』
「うん。でも、何があったかは話せる範囲で話す」
シーアは約束を思い出していた。眠れない夜のことは先に話す。
「二十四日、前にいた。燃料が尽きる前に、帰ってきた。一人、帰ってこなかった。カリダを今年出たばかりの操縦士だった」
エレナは黙って聞いていた。
「それから、同じことをしていた別の部隊が、一つ、全部いなくなった。同じやり方で同じ時期に出ていた。こっちは帰ってきて、向こうは帰ってこなかった。どうしてなのか、まだ分からない」
『分からないまま、また出るの?』
「同じやり方では、もう出ない。それだけは決めた」
エレナはしばらく画面の向こうで黙っていた。それから、手元の予定表を開いた。
『初日、終わったわ』
「どうだった」
『客席、満員だった。壁の色、みんな褒めてくれた。最初の案に戻して、よかった』
エレナは少しだけ誇らしそうに言った。
『あなたの席、一つ空けておいたの。誰も座らなかった。次の公演でも、空けておくから』
「……行けるかどうか、分からない」
『分かってる。空けておくのは私の勝手よ』
エレナは予定表を閉じた。
『眠れそう?』
「今夜はたぶん」
『なら、いいわ。明日も眠れなかったら話して』
通信を終えた後、シーアは司令官室の窓から、泊地の灯りを見ていた。整備の作業灯がハービンジャーの艦首の方で、夜通し点いていた。
*
C.R.C. 7955.168 アナクセス、共和国艦隊支援基地
戦果の査定は統合作戦本部とのホロ会議で行われた。
シーアはハービンジャーの司令部区画から参加した。卓の向こうに、作戦本部の将官たちの像が並んでいる。中央に、作戦部で艦隊の配置を組むマーカス・ケスティン代将がいた。旧司法軍の参謀畑を歩いてきた、几帳面な士官だと聞いていた。
TF-35の側からはトーリンとディム、サンス、マドックがそれぞれの艦から同じ回線に加わっていた。
情報担当の士官がTF-35の記録を読み上げた。
「捕捉した船団、五。第九、第十二、第十五中継点、支線第四中継点、第十六中継点。輸送艦の撃破および航行不能、四十九隻。護衛艦の撃沈、七隻。降伏、一隻。連合の輸送路の変更を確認したもの、三系統。前線への輸送の所要日数は確認できた範囲で、平均四日延びています」
作戦本部の将官の何人かが手元の表示に目を落とした。
「TF-35の損失。航空機、一機。戦死、一名。ハービンジャー、前部反応炉の冷却系に熱疲労。交換と試験のため、三日、戦列を離れます。艦隊の連続行動日数、二十四日」
読み上げが終わると、ケスティンが別の表を重ねた。
「前線の側の数字も出しておきます。パーレミアンから補給を受けていた連合の三つの攻勢軸のうち、二つでこの二十日間、前進が止まっています。止まった理由を、全部TF-35の戦果に帰すことはできません。ただ、止まった時期は船団が消えた時期と重なっている」
将官たちの像の間に、小さなざわめきが走った。
情報担当は最後の頁を開いた。
「同時期に同じ任務でコレリアン・ランへ出ていた、TF-31。全滅」
ざわめきが止まった。
作戦本部の年長の将官がシーアの像を見た。白い髭を短く刈った提督だった。
「では、代将。これは成功なのか、失敗なのか」
シーアはすぐには答えなかった。
四十九隻。一名。前進の止まった二つの攻勢軸。数字だけを見れば、成功だった。
だが、同じことをしていた部隊が一つ消えていた。TF-35が消えなかったのは、TF-35のやり方が正しかったからなのか、それとも、たまたま向こうの網がこちらに届く前に帰ってきたからなのか。それを区別する材料が手元になかった。
「最初の一回は成功しました」
シーアは答えた。
「繰り返せる方法ではありません」
提督はしばらくシーアを見ていた。
「自分の戦果を自分で否定するのか」
「否定はしていません。敵が配置を変えるまでは、有効でした。変えた後は同じやり方で出れば、損失が急に増えると考えます」
シーアは第十六中継点の記録を表示した。
「最後の船団にはレキューザントが付いていました。護衛の艦は船団の周りではなく、外側を向いていた。襲う側を待つための配置です。TF-31はたぶん、その配置が出来上がった後に、同じやり方で出ていた」
「TF-35は出来上がる前に帰ってきた」
「燃料が尽きたからです。尽きなければ、もう一回出ていたかもしれません」
ケスティンが手元の表示から顔を上げた。
「つまり、あなたが帰ってこられたのは、補給艦の燃料計のおかげだ、と」
「半分は」
シーアは答えた。
「もう半分は補給艦の艦長が、燃料の残りを毎日読み上げてくれたおかげです」
トーリンの像がほんの少しだけ口元を動かした。
提督はそれ以上は訊かなかった。
会議の後、シーアは査定の報告書の最後の欄に、所見を書いた。
本方式の襲撃は、敵が船団の護衛と航路の配置を変更するまで有効。変更後は襲撃する側の損失率が急増する可能性が高い。現在の形態での反復は推奨しない。
書き終えてから、読み返した。
ロングレンジ・パトロールという名前は、作戦本部の書類に残るだろう。その名前の下に、自分で書いた一行が推奨しない、と言っていた。
シーアは署名した。
回線が切れた後もトーリンだけが、《アシュアランス》から回線を残していた。
「自分で殺したな」
「何をですか」
「自分の戦法を」
トーリンは少しだけ間を置いた。
「司法軍には自分の戦法を最後まで殺せない士官が、何人もいた。一度うまくいったやり方を、うまくいかなくなってからも続けた。続けた先で艦を失った」
「TF-31の司令官もそうだったと」
「分からん。ドラクスはそういう男ではなかったはずだ」
トーリンは回線の向こうで、艦橋の窓の外を見ていた。
「だから、分からんのだ」
*
C.R.C. 7955.168 コルサント、保安委員会暗号解析課
その班の部屋は暗号解析課の奥にあった。
窓がなく、表示の灯りだけで照らされている。班員は五人だった。共和国の任務部隊が救難信号もなく消え始めた頃、何か一つの兵器が動いているのではないかと考えて作られた班だった。第二室からも補給と物流の分析のために、一人が呼ばれていた。リヴィアは卓の端に自分の端末を置いた。
届いたばかりの資料の束が卓の中央に積まれていた。
統合作戦本部を経由して回ってきた、捕獲記録だった。降伏した連合の護衛艦《ベネフィット・オブ・コマース》から取られた通信記録と、止められた輸送艦の航法と補給の記録。パーレミアンの船団から回収されたものが、まとめて届いていた。
班長は四十代の、目の下に隈のある男だった。班が作られてから、ほとんど家へ帰っていないという。
「補給の記録を管理番号で並べてくれ。荷受け先の欄だけでいい」
班員の一人が作業に取りかかった。船団の積荷の目録は何千行もあった。燃料の容器、ドロイドの部隊、交換部品。その一つ一つに、荷受け先の管理番号が付いている。前線の艦隊、地上部隊の補給所、修理施設。
リヴィアは第二室の物流の記録と、その目録を照らし合わせていた。どの船団がどの企業の輸送契約で動いていたか。保険の引受け先。遅延の記録。
夜の当直が始まる頃、班員の一人が手を止めた。
「この番号、同じだ」
班長が椅子を回した。
「どれだ」
「管理番号です。補給の記録の、荷受け先の欄」
班員は表示を並べていった。
特殊な規格のイオン砲の部品。特定の規格の冷却材。通常の艦隊の割当てとは別に確保された燃料。一隻の艦には多すぎる数の整備要員の移動命令。そして、一つの泊地へ向かう補給船。
全部の荷受け先の欄に、同じ管理番号が付いていた。
そして、その管理番号は班がこの一か月追ってきた符号と、同じ通信の中で、何度も並んで現れていた。
「一隻だ」
班長が言った。
「符号は一隻の艦を指している。それも、これだけの部品と燃料と人を食う艦を」
部屋が静かになった。
「イオン砲の部品」
別の班員が低く言った。
「消えた任務部隊の残骸に、焼けた跡がほとんど残っていなかった。艦が動力を失ってから撃たれたような壊れ方だった」
誰もその先を言わなかった。言わなくても全員が同じことを考えていた。
リヴィアは自分の端末で、同じ管理番号の荷受けの記録を、日付順に並べていった。
「補給の要求が止まっています」
リヴィアは言った。
「三日前から。燃料の要求も部品の要求も」
七日前、班はこれを進出能力の低下と判断していた。燃料が足りないから、動けない。だから、コアへは来られない。
だが、今は止まった理由が分かった。
最後の補給船の荷受けの場所は、前線ではなく、連合の奥の泊地だった。
「アブレガドへ来なかったんじゃない」
リヴィアが言うと、班長が頷いた。
「はい」
「帰ったのね」
「そう見えます。補給を積み直しに」
リヴィアは自分の作業領域の、削除の記録を思い出した。アブレガド星系に対する攻撃の危機の可能性について。削除。C.R.C. 7955.161。
あの判断は間違っていなかった。アブレガドへの攻撃は本当に中止されていた。
ただ、あの艦は消えたのではなかった。港へ戻っただけだった。
「次に出てくる時が分かれば」
班長が言った。誰に言うともなく。
「この番号を追い続けます」
班員の一人が答えた。
リヴィアは自分の端末にその管理番号を登録した。第二室の物流の記録で、この番号に関わる荷受けが一件でも動けば、すぐに知らせが来るように。
*
C.R.C. 7955.168 コルサント、ジェダイ聖堂
プロ・クーンは評議会の間で、ピューの報告をもう一度述べた。
ヌーンの部隊が消えた場所。消える前に何をしていたか。何も見つけられないまま、自分がピューの宙域を探し回った五日間のこと。
円く並んだ席の半分はホログラムだった。評議員の多くが、前線に出ている。ヨーダの小さな姿もどこかの戦場から像を送っていた。
「捜索で見つけるには我々は大きすぎる」
プロ・クーンは言った。
「三隻の艦隊が一つの宙域を探しているうちに、あれは別の宙域へ移る。探しに行った方が見つけられる。ヌーンはそうやって見つけられた」
評議会の円の中で、誰も口を開かなかった。
「探すのをやめるべきだ。あれが次に出てくる場所を知って、そこで待つ」
「知る方法は」
メイス・ウィンドゥが訊いた。
プロ・クーンが答える前に、評議会の間の扉が開いた。聖堂の連絡係が端末を持って入ってきた。
「情報部からです。暗号解析課の班が、特定の個艦の符号を識別した可能性がある、と」
ウィンドゥが端末を受け取った。
「出撃の日時は」
「まだ分かっていません。ただ、艦が泊地へ戻ったことはほぼ確実だと」
プロ・クーンは呼吸マスクの奥で、長く息を吐いた。
ピューで感じた重いものは今は遠かった。だが、消えてはいなかった。どこかの港で次の航海を待っている。
「待つ準備を始める」
プロ・クーンは言った。
「艦を集める。今度は三隻では足りない」
ヨーダの像がゆっくりと頷いた。
『待つには艦が要る。艦を集めるには軍が要る。気をつけよ、プロ・クーン。ジェダイの判断で集めた艦は、ジェダイの判断で失われる』
評議会の間が少しだけ静かになった。
*
オープン・サークル艦隊の司令部は、聖堂の一角にあった。
ジェダイの評議会の間とは違い、ここには士官たちの机が並び、星図と配置表が壁を埋めている。ジェダイの将軍たちの下で、艦隊を実際に動かすのはこの部屋の士官たちだった。クローンの参謀もいれば、旧司法軍から移ってきたクローンではない士官もいた。
艦隊参謀のウルフ・ユラーレン提督は、後者だった。
司法軍の頃から二十年以上、艦に乗ってきた士官だった。今はオープン・サークルの艦隊参謀として、アナキン・スカイウォーカーの任務部隊の旗艦《レゾリュート》に乗っている。この数日は、その任務部隊が補給のためにコルサントへ戻っていたので、司令部の机に座っていた。
プロ・クーンが評議会から戻ってくると、ユラーレンは既に星図の上に艦の配置を並べていた。
「待つために使える艦を洗い出しました」
ユラーレンは配置表を示した。
「オープン・サークルの手元にあるヴェネターは、どれも別の任務に就いています。抜けば、どこかの地上部隊が上からの支援を失う。それに、あれと正面から撃ち合える艦は、手元にありません」
「本部の直轄には」
「あります。マエルストローム、プロキュエーター。砲戦のための重い艦が何隻も」
ユラーレンは配置表の別の欄を開いた。
「ただ、本部は、あれをオープン・サークルへは出さないでしょう。ピューのヌーン将軍の部隊は、本部の承認で抜かれた艦でした。本部はそれを覚えている」
プロ・クーンはその欄の艦名を見ていた。
「アナクセスにはテクター級がいる」
「TF-35です。ロングレンジ・パトロールから帰投したばかり。旗艦は整備中です。……ケルシスでレキューザントを一斉射で折った艦です」
プロ・クーンの背後で、誰かが小さく笑った。
振り返ると、アナキン・スカイウォーカーが、司令部の入口に立っていた。任務部隊の補給の確認に来ていたらしい。
「シーアのところですか」
「知っているのか」
「友達です。昔、聖堂の整備区画で、一緒にエアスピーダーを直した」
アナキンは配置表を覗き込んだ。
「あの艦なら、あれと撃ち合えるかもしれませんね」
「アナクセスは遠すぎる」
ユラーレンが言った。
「それに、あれも本部の直轄です。艦を動かす命令は本部から出る。こちらから頼んでも、動くのは本部が決めた時です」
アナキンは少しだけ眉を寄せた。
「じゃあ、どうするんです」
「本部に艦を出すよう求め続ける。それしかない」
プロ・クーンが言った。
「待つ場所が分かった時に、そこに重い艦がいなければ、ヌーンの部隊と同じことになる」
ユラーレンは配置表を閉じた。
その夜、シーアの端末に、アナキンから連絡が来た。
《帰ってきたって聞いた。無事か》
シーアはすぐに返事を書いた。
《無事。お前は?》
《ナブーから戻った。いろいろあった。そのうち話す》
それから、もう一通。
《ピューの件、聞いてるか。あのでかいのをまた追うことになりそうだ。お前のところのテクターなら、あれと撃ち合えるかもしれないって、ユラーレン提督が言ってた》
シーアはその一行をしばらく見ていた。
《誰の命令で撃ち合うことになる?》
返事は少し遅れて来た。
《……それが、まだ決まってない》
シーアは少しだけ笑った。それから、真面目な顔に戻った。
《決まったら、教えてくれ》
《分かった。……変わってないな、お前》
《お前もね》
シーアは端末を伏せた。整備区画の作業灯が窓の外でまだ点いていた。
*
C.R.C. 7955.169 コルサント、共和国グランド・アーミー統合作戦本部
国防相のハロルド・タッグが作戦部を訪れたのは、予告のない昼過ぎだった。
タッグ家の現当主だった。共和国の軍が創設されるまでは、司法委員長として司法軍を監督していた。軍の創設とともに、国防相に任じられた。司法軍の予算の費目を、一つずつ分けて議場で争ってきた男が、今はその司法軍を呑み込んだ軍の全体を預かっている。
軍服は着ていなかった。書類の束を自分で抱え、随員は一人だけだった。
作戦部長とケスティンが当直室の卓で迎えた。
「ピューの件と、ヌーン将軍の部隊の件は読んだ」
ハロルドは席に着く前に言った。
「それから、オープン・サークルからの要請も。本部の直轄の重艦を、あの正体不明の大型艦への備えに回してほしい、と。昨日から三通来ている」
「承知しています」
作戦部長が答えた。
「出すのか」
「出せば、どこかの前線に穴が空きます。それに、出した艦に誰が命令するのかが――」
「それも読んだ」
ハロルドは書類の束を卓に置いた。
「私が訊きたいのは別のことだ。ジェダイが艦を必要とするたびに、どこかから引き抜く。引き抜かれた艦はジェダイの将軍の下で戦い、沈む。その繰り返しで、この二か月、任務部隊が五つ消えた」
ハロルドは作戦部長の顔を見た。
「統合作戦本部が自分で、自分の判断で投入できる重い艦は、どれだけある。ジェダイに頼らずに」
作戦部長はすぐには答えなかった。
ケスティンが手元の端末を開いた。
「洗い出してあります」
表示に艦名の一覧が出た。オープン・サークルの指揮下に入っていない、統合作戦本部の直轄の艦だった。マエルストローム級。プロキュエーター級。プロクラメイター級。アクラメイター級のキャリアータイプ。旧式のドレッドノート。それぞれの艦名の横に、今いる場所と、今就いている任務が並んでいた。
ハロルドは一覧の並び方を見た。
「強い順ではないな」
「着く順です」
ケスティンは答えた。
「今この時刻に命令を出したら、それぞれの艦がどこへ何時間で着けるか。その順に並べています。どれだけ重い艦でも、着くのが戦いの終わった後なら、数に入らない」
ハロルドはしばらく一覧を見ていた。
「誰の考え方だ」
「TF-35の司令官の、戦果査定の所見です。ロングレンジ・パトロールの報告書の最後に、書いてありました」
ハロルドは少しだけ目を細めた。
「ヴァラリアンの三男か」
「ご存じですか」
「息子の、アカデミーの同室だった。カッシオと二人で模型の艦を並べて、何隻がどこへ何日で着くかを、夜中まで数えていたと聞いている」
ハロルドはそれ以上は言わなかった。
ケスティンは少しだけ言葉を切った。
「自分の戦法を自分で推奨しないと書いた男です。その男が並べるなら、着く順に並べろ、とも書いていた」
ハロルドは一覧の中ほどを指した。
「このテクター級は」
「TF-35の旗艦、ハービンジャーです。整備中ですが、三日で出られると報告が来ています。それから、同型艦が二隻、カリダで公試を終えたところです」
「乗員は」
「公試と基本の訓練は済んでいます。配属先がまだ決まっていない」
ハロルドはその二隻の艦名を見ていた。
「三隻にしろ」
作戦部長が顔を上げた。
「ハービンジャーと、新造の二隻。同じ任務部隊に入れろ。テクター級三隻の砲戦群を本部の直轄で持つ。オープン・サークルの要請とは関係なく、本部が自分の判断で動かせる重い艦として」
「あの正体不明の艦に、当てるためですか」
「まだ、そうとは言わない」
ハロルドは書類の束を抱え直した。
「ジェダイに頼らずに、本部が投入できる重い艦を揃えろ、と言っている。何に当てるかは揃ってから決めればいい。揃っていなければ、決めることもできない」
国防相は立ち上がった。
「それから、この一覧は毎日更新してくれ。強い順ではなく、着く順で。私の机に毎朝」
ハロルドが出ていった後、作戦部長はしばらく卓の上の一覧を見ていた。
「国防相は何かを準備している」
作戦部長が言った。
「オープン・サークルを通さず、本部が直接動かせる艦隊を作ろうとしている」
ケスティンは何も言わなかった。一覧の一番上の欄に、今日の日付を書き入れていた。
*
C.R.C. 7955.170 アナクセス、ハービンジャー前部反応炉区画
三日目の朝、リラは作業灯の下で、最後の継ぎ目の締め付けを確かめていた。
新しい熱交換器は古いものより一回り大きかった。予備品として積んであった組立品を、技術班が三日かけて入れ替えた。配管の継ぎ目も全部新しくなっていた。古い配管は区画の隅に積まれていた。細い筋の走った金属の表面が、作業灯の光を鈍く返していた。
「交換、完了」
技術班の班長が言った。
リラは頷いた。それから、試験の手順の表を開いた。
「前部反応炉、始動。出力、段階的に上げる。一割ずつ。各段階で冷却の戻り側の数字を記録」
区画の奥で反応炉の唸りが低く立ち上がった。
一割。二割。三割。リラは戻り側の数字を読み上げ、記録していった。五割を超えた時、数字の上がり方が前と違うことに気づいた。上がってから、止まった。止まってから、少しずつ下がった。冷却が追いついていた。
八割。九割。
「規定の出力」
リラは表示を見ていた。戻り側の数字は規定値の六割で止まっていた。以前、同じ出力で九割を超えていた数字だった。
「このまま、四時間保持する」
四時間後、数字は動いていなかった。
リラは司令部区画へ上がった。シーアは星図の前にいた。
「前部反応炉の冷却系、交換と試験を終えました」
「出られますか」
「出られます」
リラは試験の記録を卓に置いた。
「同じ使い方を二十日続けたら、また同じことになります。でも、それまでは、出していいと言えます」
「ありがとう」
「礼は父に言ってください。予備品を積ませたのは父です」
リラは少しだけ口元を緩めた。
その日の午後、統合作戦本部から命令が届いた。
TF-35はアナクセスを発し、カリダへ移動せよ。カリダにおいて、新造のテクター級二隻を編入する。
シーアは命令を二度読んだ。
「理由は書いてありますか」
コルヴェンが訊いた。
「書いてありません」
シーアは作戦本部の作戦部へ照会を送った。返事は一時間後に来た。ケスティンの署名だった。
統合作戦本部の直轄の砲戦戦力を増やすため。
それだけだった。
シーアは返事を閉じた。何に当てるのかは書いていなかった。書いていないということはまだ決まっていないか、決まっていても書けないか、どちらかだった。
どちらにしても作戦本部は何かを準備していた。
*
C.R.C. 7955.172 アナクセス軌道
出港は朝の当直の始まりだった。
ハービンジャー。《アシュアランス》。《レゾナンス》。《ヴァンガード》。《ヴェリタス》。それに、《ストレイト・ライン》。六隻が順番に係留を解いた。
《ノースウィンド》の古い艦影が泊地の外縁に浮かんでいた。ヘインから、短い通信が入った。
『また行くのか』
「カリダへ。今度は補給線ではありません」
『何をしに』
「分かりません。テクターを二隻もらいに」
回線の向こうで、ヘインが少しだけ笑った。
『二十四日で帰ってきた男が、今度は三隻に増えて出ていく。……帰ってきてくれ、と言うのはもう二度目か』
「二度目です」
『なら、三度目も言わせてくれ』
「帰ります」
《レゾナンス》の飛行甲板では、マイ・トレンが自分の機体の横に立っていた。封をしたヤン・コルデスの遺品の箱は、昨日、カリダ行きの連絡船に載せた。カリダへ行くなら、自分で届けに行けるかもしれない、と思った。届けられるかどうかは分からなかった。
ハロウェイの《ストレイト・ライン》から、燃料の残量の報告が入った。
『満載です、代将。今度はカリダまでの近い航海です。燃料の心配は要りません』
「ありがとうございます」
『心配が要らない航海なんて、久しぶりですよ』
コルヴェンが航法担当へ命じた。
「跳躍」
アナクセスの青い縁が窓の外から消えた。
カリダには新造された二隻のテクターが待っていた。
*
C.R.C. 7955.174 独立星系連合軍、前進泊地
修理のドックの灯りの下で、巨大な艦は次の航海を待っていた。
両舷のイオン砲の砲口は新しい部品に替えられていた。焼けて変色していた縁はもうなかった。艦橋には整備のドロイドたちと、黄色い塗装の指揮官型が一体いた。
その艦橋へ三人の士官が上がってきた。
ドロイドではなかった。
先頭に立っていたのは白髪を短く刈った、長身の男だった。連合の艦隊の制服に、中将の徽章を付けている。オルヴァン・リュデク中将。ラクサスの艦隊で三十年、艦に乗ってきた士官だった。連合が生まれる前は、ある星系の防衛艦隊の司令官だった。
その後ろに、大佐の徽章を付けた、四十代の男が続いた。セヴェリン・ラント大佐。この艦の艦長として、今日付で着任した。
最後に中佐の徽章の男。エーリク・オルス中佐。副長だった。
指揮官型が三人の前で直立した。
『リュデク中将。ラント大佐。オルス中佐。着任ヲ確認シマシタ』
「前の航海の指揮は君だったそうだな」
ラント大佐が言った。
『グリーヴァス将軍ノ下デ、報告ヲ担当シマシタ。将軍ハ、降艦ノ際ニ、次ニ乗ル者ヘノ伝言ヲ残シマシタ』
「聞こう」
『共和国ノ艦ヲ、正面ニ置クナ。撃タレル前ニ、止メレバイイ』
ラント大佐はしばらく黙っていた。それから、小さく頷いた。
「覚えておく」
リュデク中将は艦橋の正面の星図の前に立った。星図の上にホログラムが一つ、浮かび上がった。ドゥークー伯爵だった。
『中将。作戦の概要を』
「読みました」
リュデク中将は星図を見た。
連合の突出部の先、銀河平面座標M-15のヴァンデルヘルムの周辺に、前進の泊地が示されていた。そこから、共和国の通商路へ向かって、矢印が伸びていた。N-13のデノンから、M-18のエリアドゥへ南下するハイディアン・ウェイ。エリアドゥへ向かう共和国の補給の輸送が、その航路の上を通っていた。エリアドゥから先はリムマ交易路へも流れていく。
『艦隊決戦は求めない』
ドゥークーは言った。
『共和国の補給を圧迫する。エリアドゥの方面へ運ばれる燃料と物資を、途中で断つ。共和国の艦隊が、我々のパーレミアンの補給線にしたことを、そのまま返す』
「戦力は」
『この艦に加えて、同型艦をもう一隻。大型のレキューザントを二隻。大型のプロヴィデンスを一隻』
リュデク中将は戦力の表を見た。五隻の打撃群だった。サブジュゲーター級が二隻。
「同型艦の、二番艦は」
『整備の最終段階にある。五日のうちにここへ回す』
「五日」
リュデク中将はその数字を繰り返した。それから、作戦の名前の欄を見た。
ドゥークーが穏やかに言った。
『作戦名はパーレミアン演習作戦とする』
リュデク中将は少しだけ眉を上げた。作戦の戦域はパーレミアンではなかった。
『名前は暗号にすぎない』
伯爵は言った。
『ただ、共和国がこの名前を耳にすることがあれば、思い出すだろう。自分たちがどこで何をしたのかを』
ホログラムが消えた。
リュデク中将は星図の前に立ったまま、五隻の打撃群の表を見ていた。そのうち、今この泊地にいるのはこの艦一隻だけだった。
ラント大佐が隣に並んだ。
「五日で揃いますか」
「揃えるのが我々の仕事だ」
リュデク中将は答えた。
艦橋の窓の外で、修理のドックの灯りが規則正しく瞬いていた。