STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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パーレミアン演習作戦

 悪意、迫る!

 

 謎の巨大戦艦の存在は、ついに共和国の知るところとなった。国防相ハロルド・タッグは、ジェダイに頼らず統合作戦本部が自ら動かせる艦隊の整備を命じる。

 

 カリダでは、新たに竣工した二隻のテクター級が、TF-35の到着を待っていた。

 

 一方、分離主義者もまた、巨大戦艦を中心とする新たな艦隊を、ひそかに集めつつあった。

 

 その作戦名は――パーレミアン演習作戦。

 

 *

 

C.R.C. 7955.175 独立星系連合軍、前進泊地

 

 揃えるのが、仕事だった。

 

 五日の最初の朝、リュデク中将のもとに、最初の報告が届いた。

 

 サブジュゲーター級の二番艦《エクスターミネイター》。本来の就役は七九五六年の予定だった。開戦とともに工程を繰り上げ、伯爵は公試を終え次第、パーレミアン演習作戦に加えると言っていた。

 

 その公試が終わらなかった。大型イオン砲の給電系統の試験で、主母線の一本が規定の負荷に耐えなかった。交換には十日かかる。艦を出せるのは、作戦の後だった。

 

 リュデク中将は報告を読み、戦力の表から一行を消した。

 

「二番艦なしで五隻が四隻になります」

 

 ラント大佐が言った。

 

「四隻でも、通商破壊には足りる」

 

 リュデク中将は答えた。

 

「サブジュゲーターは一隻いれば十分だ。二隻目は共和国の艦隊と出くわした時の保険だった。出くわさなければいい」

 

 表の上にはまだ四つの艦名が並んでいた。《マレボランス》。大型のレキューザントが二隻。大型のプロヴィデンス級ドレッドノートが一隻。

 

 *

 

C.R.C. 7955.175 カリダ、共和国艦隊泊地

 

 カリダの防衛泊地は惑星の昼の側にあった。

 

 跳躍を抜けると、見覚えのある山脈が窓の外に広がった。二つの太陽に照らされた地表と、山の中腹に張り付くように建つ士官学校の石造りの建物。二か月ほど前、ここからアナクセスへ向けて、八時間で出ていった。

 

 泊地の奥に二つの艦影があった。

 

 ハービンジャーと、同じ形だった。段をなして積み上がった上部構造、その頂に据えられた幅の広い艦橋。艦首から艦尾へ赤い帯が走っている。ただ、塗装は新しく、外板には一つの焦げ跡もなかった。

 

「テクター級、二番艦《ヘラルド》。三番艦《エンヴォイ》」

 

 情報担当の士官が識別を読み上げた。

 

 先触れ、伝令、使節。ウォレックス・ブリセックスは、三隻に同じ系統の名前を付けていた。どれも、何かが来ることを先に告げる者の名前だった。

 

 係留の後、二隻の艦長がハービンジャーへ来た。

 

 《ヘラルド》の艦長はミラ・ソーンという女性だった。旧司法軍でドレッドノートの砲術長を長く務め、テクター級の公試の間、この艦を預かってきた。《エンヴォイ》の艦長はギャレス・ブレイン。プロクラメイターの副長からの抜擢だった。

 

「公試は三十日で終えました」

 

 ソーンが言った。

 

「乗員の基本の訓練も済んでいます。撃てます。ただ、二隻で一緒に撃ったことはありません。ましてや、ハービンジャーと三隻では」

 

「三隻で一つの砲戦群にします」

 

 シーアは言った。

 

「そのためにここへ来ました」

 

 ブレインが少しだけ首を傾げた。

 

「何に当てる砲戦群ですか」

 

「分かりません」

 

 シーアは答えた。

 

「作戦本部は、統合作戦本部の直轄の砲戦戦力を増やすため、とだけ言っています。何に当てるのかは揃ってから決めるそうです」

 

 二人の艦長は顔を見合わせた。

 

「揃えるのに何日ありますか」

 

 ソーンが訊いた。

 

「分かりません。一日かもしれないし、十日かもしれない。だから、今日から始めます」

 

 *

 

C.R.C. 7955.176 独立星系連合軍、前進泊地

 

 二つ目の報告は昼過ぎに届いた。

 

 大型のレキューザントの一隻目。別の戦線で共和国の攻勢が始まっていた。その戦線の艦隊の司令官が艦の転用を拒んだ。グリーヴァス将軍の署名で、転用の中止が通知されてきた。

 

 リュデク中将はその署名をしばらく見ていた。

 

「将軍はジェダイのいる戦線を優先されたのでしょう」

 

 オルス中佐が言った。

 

「そうだろう」

 

 リュデク中将は表からもう一行を消した。

 

「三隻になった」

 

 *

 

C.R.C. 7955.176 カリダ、ハービンジャー司令部区画

 

 最初に揃えたのは、言葉だった。

 

 ハービンジャーの司令部区画の卓に、三隻の艦長と砲術長、通信長が集まった。卓の上には三隻の通信の手順書が並べられていた。

 

 同じ艦型なのに、手順書は三冊とも違っていた。

 

 ハービンジャーの手順書は、KDYの試験員とアナクセスの司法軍の乗員が作ったものだった。《ヘラルド》のものは、ソーンの旧司法軍のドレッドノートの流儀で書かれていた。《エンヴォイ》のものはプロクラメイターの即応部隊の流儀だった。

 

 目標を呼ぶ番号の振り方が違った。ハービンジャーは目標を見つけた順に番号を振る。《ヘラルド》は、目標の艦型ごとに番号を振る。《エンヴォイ》は、目標の位置で番号を振る。

 

「このまま三隻で撃てば」

 

 シーアは言った。

 

「同じ目標三番を三隻が別々の艦だと思って撃ちます」

 

 ソーンが苦笑した。

 

「司法軍では、よくあることでした。演習の講評で毎回言われていた」

 

「今回は演習の講評では済みません」

 

 シーアは手順書の最初の頁を開いた。

 

「目標の番号は旗艦が振ります。振った番号は三隻で共通。振り直しは旗艦だけが行う。符号の一覧も今夜のうちに一つにします」

 

 通信長たちが符号の一覧を突き合わせ始めた。同じ意味の符号が三隻で三通りあった。一つずつ、どれを残すかを決めていく。夜中までかかった。

 

 その夜、シーアは司令官室で一覧の最終版を読んでいた。符号は三百十二になっていた。三冊を合わせれば、七百を超えていたものだった。

 

 ラクサスで二年間、双方の艦の数え方を揃えるために、何度も卓を囲んだ。数え方が違えば、同じ艦隊を見ても違う数字になる。同じ数字にならなければ、何も決められない。

 

 今夜やったのはそれと同じことだった。相手は同じ共和国の三隻だった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.177 カリダ軌道、訓練宙域

 

 三隻が初めて一緒に跳んだ。

 

 カリダの外縁の訓練宙域には、標的の浮標が幾つも撒かれていた。三隻はハービンジャーを先頭に、縦に並んで跳躍を抜けた。

 

「編隊間隔、各艦、規定の距離へ」

 

 ハービンジャーの後ろで、《ヘラルド》と《エンヴォイ》が位置を取った。二隻とも少しだけ規定より近かった。

 

「間隔、もう少し広く。互いの射界を塞がない距離に」

 

 シーアが言うと、二隻がゆっくりと離れた。

 

「目標一、浮標群の中央。三隻、同時斉射。旗艦の合図で」

 

 コルヴェンが砲術士官へ命じた。

 

「主砲、指向」

 

 三隻の上部構造の砲塔が同じ方角へ旋回した。片舷六基、両舷十二基。三隻で三十六基。

 

「撃て」

 

 光が走った。

 

 浮標の群れの中央が光の中で消えた。

 

 ただ、三隻の光は同時ではなかった。ハービンジャーの光が先に届き、半拍遅れて《ヘラルド》、さらに半拍遅れて《エンヴォイ》。浮標は最初の光で砕けていた。残りの二隻の光は砕けた破片の中を通り過ぎていった。

 

「同時ではありません」

 

 リラが技術区画から言った。

 

「合図を受けてから撃つまでの時間が、三隻で違います。火器管制の処理の順番が艦ごとに違う」

 

「揃えられますか」

 

「揃えるなら、合図の出し方を変えるより、撃つ時刻を決めた方が早い。合図の後、何秒後に撃つか。三隻の時計を一つに合わせて」

 

 シーアは頷いた。

 

「斉射の時刻を決めます。合図の三秒後に、三隻が同時に」

 

 二度目の斉射は半拍の差が四分の一拍になった。三度目でほとんど揃った。

 

 午後には損傷した艦が出た時の動きを練習した。《エンヴォイ》が被弾して速度を落とした、という想定で、残りの二隻が互いの射界を補う位置へ移る。《エンヴォイ》は、下がる。下がった艦を守るために、他の二隻が集まってはいけない。集まれば、三隻とも同じ砲の射界に入る。

 

 ブレインが回線の向こうで言った。

 

『下がった艦を置いていくということですか』

 

「置いていくのではありません。下がった艦を残りの二隻の火力で守ります。近づかずに」

 

『……司法軍の古い演習の記録で、読んだことがあります』

 

「どうでしたか」

 

『損傷した艦に僚艦が寄っていって、両方やられた』

 

「だから、寄りません」

 

 シーアは答えた。

 

 その日の最後に、リラはハービンジャーの前部反応炉を、規定の出力の上限まで上げた。三隻の同時斉射の間、ずっと上限のまま保った。冷却の戻り側の数字は規定値の七割で止まっていた。

 

「全出力、四時間」

 

 リラは記録に書き入れた。

 

「出していいと、言えます」

 

 *

 

C.R.C. 7955.177 独立星系連合軍、前進泊地

 

 三つ目の報告は夜に届いた。

 

 大型のレキューザントの二隻目。前進泊地へ向かう途中、ハイパードライブの故障で、中継の星系に足止めされていた。修理の見込みは四日後。

 

 リュデク中将は報告を最後まで読んだ。

 

「二隻になった」

 

 ラント大佐が戦力の表を見た。《マレボランス》と、大型のプロヴィデンス級ドレッドノート。五隻のうち、二隻だった。

 

「作戦を延期しますか」

 

「延期すれば、共和国は補給の護衛を厚くする」

 

 リュデク中将は言った。

 

「共和国はこの数日の間に、パーレミアンで我々の補給線を切った艦を港へ戻した。戻ったということは次に出るまでに間がある。今、出なければ、次の機会はいつになるか分からない」

 

「二隻でデノンの方面まで」

 

「通商破壊だ。船団を狙う。護衛を狙うのではない。共和国の重艦と出くわしても戦う必要はない。離れればいい」

 

 ラント大佐はしばらく何も言わなかった。

 

「……了解しました」

 

 オルス中佐が戦力の表の欄を見ていた。五つの艦名のうち、三つに線が引かれていた。残った二つの艦名の横に、中佐は小さく出港の予定時刻を書き入れた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.178 コルサント、共和国グランド・アーミー統合作戦本部

 

 国防相の机には毎朝、一覧が届いていた。

 

 統合作戦本部の直轄の艦を強い順ではなく、着く順に並べた一覧だった。ケスティンが毎朝の当直の終わりに更新し、国防相の執務室へ送る。

 

 その朝の一覧をハロルド・タッグは、作戦部の卓で読んでいた。自分から、また作戦部へ来ていた。

 

「エリアドゥへの補給の航路が手薄だ」

 

 ハロルドは一覧の横に別の資料を並べた。補給の輸送の記録だった。デノン方面からハイディアン・ウェイを南下し、エリアドゥへ向かう輸送の船団。この二週間でその量が倍になっていた。セスウェナの方面で、共和国の地上部隊が増えている。

 

「連合が補給を狙うなら、ここだ。パーレミアンで、自分たちがやられたことをそのまま返すなら」

 

 ケスティンは一覧の中から、その航路に一番早く着ける重い艦を探した。

 

「プロキュエーター級の《ヘリオス》と、マエルストローム級の《ポラリス》。デノンの近くで、別の護衛の任務を終えたところです」

 

「《ポラリス》は」

 

「《ヘリオス》と組んでいます。艦長はガリアス・ラックス。三か月前に艦長になった、若い士官です」

 

 ハロルドはその名前を見た。

 

「ヴァラリアンの三男の、同期か」

 

「そう聞いています」

 

 ハロルドはしばらく一覧を見ていた。

 

「二隻をデノンの方面の航路の警戒に回せ。船団の護衛ではなく、航路の上に置く。何かが来たら、それが何なのかを確かめる役だ」

 

「あの大型艦が来た場合は」

 

 ケスティンが訊いた。

 

「確かめて、報告しろ。無理に止めなくていい。止めるのは揃ってからだ」

 

 ハロルドは立ち上がった。

 

「《ヘリオス》にはドーラン代将が乗っているな」

 

「はい。二隻の群の司令を兼ねています」

 

「ドーランは司法軍で三十年やってきた男だ。確かめて報告しろと言えば、そうする」

 

 ハロルドは作戦部を出ていった。

 

 その日の昼、《ヘリオス》と《ポラリス》に、命令が届いた。デノン方面の航路の警戒。何かが来たら、確かめて、報告せよ。

 

 *

 

C.R.C. 7955.178 マエルストローム級《ポラリス》

 

 ラックスは命令を二度読んだ。

 

 確かめて、報告せよ。短い一行だった。止めろとは書いていなかった。

 

「群の司令から、通信です」

 

 副長が言った。

 

 艦橋の表示にドーラン代将の像が出た。旧司法軍で三十年、艦に乗ってきた士官だった。白髪で声が低かった。

 

『命令は読んだな』

 

「読みました」

 

『確かめて、報告する。それだけの仕事だ。君の艦は本艦の後ろに付け。何かが見えたら、本艦が先に確かめる』

 

「了解しました」

 

 ドーランは少しだけ口元を緩めた。

 

『三か月目か』

 

「はい」

 

『三十年前、私も同じ顔をしていた』

 

 像が消えた。

 

 ラックスは艦長席に座り直した。

 

 マエルストローム級はヴェネター級と同じく、上部構造の上に艦橋を二つ並べている。一つは航行の指揮を執り、もう一つは砲撃の指揮を執る。戦闘の間、艦長は砲撃の側の艦橋に立ち、副長がその隣に付く。航行の側は航海長が預かる。ラックスが今座っているのは砲撃の側の艦橋だった。

 

 司法アカデミーを出た時には艦を率いるより、艦をどこへ置くかを決める側へ行きたいと思っていた。命令がどう書かれ、どう届き、どう読まれるか。それを考える仕事の方が性に合っていると思っていた。

 

 戦争が始まると、艦長の数が足りなくなった。机の上で命令を読んできた者が、艦橋で命令を受ける側に回された。

 

 確かめて、報告せよ。その命令を書いた者が、何を考えてその一行を書いたのかを、ラックスは考えていた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.178 カリダ、山の向こうの村

 

 マイ・トレンは谷を二つ越えた。

 

 ヤン・コルデスの遺品の箱は、アナクセスから先に連絡船で送っていた。カリダの郵便の局で受け取ったのは、昨日だった。一日の上陸の許可を取り、山道を走る古い輸送機に乗った。

 

 ケレンが一緒に来ていた。山の向こうの村の出身で、道を知っていると言った。

 

 村は小さかった。石造りの家が斜面に沿って並んでいた。ヤンの家は村の一番上にあった。

 

 母親は扉を開けて、マイの飛行服を見た。それから、マイが抱えている箱を見た。

 

 何も言わなかった。ただ、扉を大きく開けた。

 

 マイは居間の卓に箱を置いた。飛行服の予備。家族の写真。卒業記念の徽章。読みかけの本。母親は一つずつ手に取った。本を開き、栞の位置を見た。

 

「この子は最後まで読まない子でした」

 

 母親が言った。

 

「いつも半分より少し手前で、次の本に移るんです」

 

 マイは何か言おうとして、言えなかった。

 

「あなたは、何だったの」

 

 母親が訊いた。

 

「あの子の」

 

 マイは書類に書いた言葉を思い出した。僚機。その下に自分で付け足した一行。

 

「一緒に飛んでいました」

 

 母親はマイの顔を見た。しばらく見ていた。それから、頷いた。

 

「そう」

 

 帰りの輸送機の中で、ケレンは何も訊かなかった。窓の外でカリダの山脈が二つの太陽に照らされて、赤く光っていた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.179 標準時二三時一〇分 コルサント、保安委員会暗号解析課

 

 符号を含む通信は夕方から増えていた。

 

 前進泊地から、各方面へ向けた短い通信だった。整備の完了。燃料の積載。護衛の艦の割当て。前の航海で同じ種類の通信を読んだ時には、出港の時刻まで割り出せた。今度は時刻の欄が暗号の別の層に入っていて、まだ読めなかった。

 

 夜半近く、班員の一人が解読の終わった一行を表示に出した。

 

「作戦名、らしきものがあります」

 

 班長が椅子を回した。

 

「読め」

 

「パーレミアン演習作戦。……開始」

 

 部屋の中が少しだけ静かになった。

 

「演習」

 

 別の班員がその語を繰り返した。

 

「訓練の航海、ということですか。修理の後の、試験の続きの」

 

「前の航海も試験だった」

 

 班長が言った。

 

「あの艦にとっては実戦が試験だ」

 

 リヴィアはその一行を見ていた。

 

 パーレミアン。

 

 第二室でこの二か月、毎日のように数字にしてきた航路の名前だった。連合の船団が消えた航路。燃料と、ドロイドと、交換部品が途中で燃えた航路。その航路を燃やした艦隊がどこから来たのかを、リヴィアは知っていた。

 

「戦域の名前ではないと思います」

 

 リヴィアは言った。

 

「この艦の前進泊地はヴァンデルヘルムの方です。パーレミアンからは遠い。作戦の戦域の名前なら、別の名前を付けるはずです」

 

「では、何だ」

 

「……返す、という意味だと思います」

 

 リヴィアは少しだけ言葉を選んだ。

 

「パーレミアンで、連合の補給線が切られた。その名前を付けた作戦で、今度は共和国の補給線を切る」

 

 班長はしばらくリヴィアを見ていた。それから、評価の欄に書き込んだ。

 

 当該艦、再出撃の兆候。作戦名、パーレミアン演習作戦。訓練の航海の可能性を排除しない。ただし、通商破壊の作戦である可能性が高い。目標は共和国の補給の航路と推定。出港の時刻、未解読。

 

「送れ。統合作戦本部と、オープン・サークル艦隊司令部へ。同時に」

 

 送信の表示が出た。二三時二一分だった。

 

 統合作戦本部の当直はその評価を、デノン方面の航路の警戒に当たっている二隻の艦へ転送した。確かめて、報告せよ、という命令は変わらなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.179 標準時二三時二一分 独立星系連合軍、ヴァンデルヘルム前進泊地

 

 出港は予定より六時間早かった。

 

 共和国の艦隊が、パーレミアンで補給線を切った艦を港へ戻したことは、暗号の解読で知っていた。その艦がいつまた出てくるかは、分からなかった。分からないうちに出る、とリュデク中将は決めた。

 

 《マレボランス》と、大型のプロヴィデンス級ドレッドノートが、係留を解いた。

 

 プロヴィデンスは、《マレボランス》の半分ほどの長さだった。それでも、並の艦から見れば巨艦だった。艦首から艦尾まで、砲座と格納口が並んでいる。二隻が並ぶと、形は違うのに遠目にはよく似て見えた。どちらも細長く、どちらも巨大だった。

 

「パーレミアン演習作戦、開始」

 

 リュデク中将が言った。

 

「針路、デノンの方面。途中、共和国の補給の船団を捜索し、攻撃する。共和国の重艦と接触した場合、交戦を避け、離脱する」

 

『ラジャー、ラジャー』

 

 指揮官型が航法の表示を開いた。

 

 ラント大佐は艦長席で艦橋の正面の窓を見ていた。

 

 五隻で出るはずだった。二隻で出ていく。

 

「中将」

 

 ラント大佐が言った。

 

「共和国の重艦と接触した場合、交戦を避ける。……向こうが、避けさせてくれなかったら」

 

「その時はその時だ」

 

 リュデク中将は答えた。

 

「通商破壊の艦隊が重艦と撃ち合うことは、任務ではない。任務でないことで、艦を危険に晒すことはしない」

 

 ラント大佐は何も言わなかった。

 

 巨大な二隻が跳躍に入った。

 

 *

 

C.R.C. 7955.180 標準時〇五時一二分 カダーン星系外縁、プロキュエーター級《ヘリオス》

 

 カダーン星系はデノンとヴァンデルヘルムの間、銀河平面座標N-14にある。デノンからエリアドゥへ下るハイディアン・ウェイの、共和国の補給の航路がその外縁をかすめて通っていた。

 

 最初に見えたのは二つの大きな反応だった。

 

 索敵担当が表示の上の二つの光点を拡大した。距離はまだ遠かった。二つともゆっくりと、デノンの方面へ向かう航路の上を進んでいる。

 

「大型艦、二。……識別、できません。妨害を受けています」

 

 ドーランは表示を見た。

 

 光点の周りに雑音の霧がかかっていた。連合の艦が索敵を乱す電波を出している。形も大きさもはっきりしない。分かるのはどちらも巨大だということだけだった。

 

「先頭の艦の推定の全長は」

 

「妨害のせいで、幅があります。三千から五千」

 

「後ろは」

 

「同じくらいです。……どちらも細長い」

 

 ドーランは情報部から回ってきた資料を開いた。正体不明の大型艦。サブジュゲーター級と推定。推定の全長、四千八百メートル以上。両舷に大型のイオン砲。

 

 先頭の艦がその寸法の幅に入っていた。後ろの艦も入っていた。

 

「どちらかがあれだ」

 

 副長が言った。

 

「たぶん、先頭の艦だ」

 

 ドーランは言った。

 

「連合の打撃群なら、旗艦が先頭に立つ。グリーヴァスの艦隊はいつもそうだった」

 

 ドーランは星図の上の、二つの光点の針路の先を見た。

 

 デノンの方面へ向かう航路。その途中に共和国の補給の船団が一つ、今まさに通過しているはずだった。エリアドゥへ向かう輸送艦が十二隻。護衛は旧式のドレッドノートが一隻だけ。

 

「群の司令より、統合作戦本部へ。報告」

 

 ドーランは通信士へ口述した。

 

「カダーン星系外縁にて、大型艦二を確認。うち一隻は正体不明の大型艦と推定。針路、デノンの方面。同航路上に共和国の補給の船団あり」

 

 送信の表示が出た。

 

「確かめた。報告した」

 

 ドーランは副長に言った。

 

「命令はそこまでだ」

 

「……はい」

 

「だが、あの二隻の針路の先に、十二隻の船団がいる。旧式のドレッドノートが一隻で守っている」

 

 副長は何も言わなかった。

 

 ドーランは、《ポラリス》への回線を開いた。

 

「《ポラリス》。本艦はあの二隻の針路を塞ぐ。船団が航路を抜けるまで、あの二隻をこちらへ向けさせる」

 

『群の司令。命令は確かめて報告せよ、です』

 

 ラックスの声だった。

 

「分かっている」

 

 ドーランは答えた。

 

「船団を見捨てろとは書いていない」

 

 回線の向こうで、ラックスが短く息を吸う音がした。

 

『……《ポラリス》、了解。先任艦に続きます』

 

 *

 

C.R.C. 7955.180 標準時〇五時二〇分 《マレボランス》艦橋

 

「共和国艦、二。接近中」

 

 索敵のドロイドが報告した。

 

「大型艦。一隻ハ、プロキュエーター級。一隻ハ、マエルストローム級」

 

 リュデク中将は表示を見た。

 

 共和国の二隻は真っ直ぐにこちらへ向かってきていた。この二隻の針路の先を塞ごうとしている。

 

「妨害は効いているか」

 

『効イテイマス。共和国艦ハ、本艦ト、先頭ノ艦ヲ、区別デキテイナイ可能性ガアリマス』

 

 リュデク中将は少しだけ考えた。

 

「針路を変える。共和国艦から、離れる方位へ。交戦はしない」

 

 ラント大佐が艦長席で振り返った。

 

「中将。あの二隻はこちらの針路を塞ぎに来ています。離れる方位へ向ければ、デノンの方面から外れます」

 

「外れていい。通商破壊の艦隊が重艦と撃ち合う理由はない。回り込んで、別の航路から船団を探す」

 

 ラント大佐は何か言いかけて、やめた。

 

「……針路、変更」

 

 二隻の巨艦がゆっくりと向きを変え始めた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.180 標準時〇五時三一分 《ヘリオス》

 

「目標、先頭の大型艦。距離、射程の端」

 

 砲術長が報告した。

 

「対象、針路を変えています。こちらから離れる方位へ」

 

「逃がすな。船団の方へ行かせるな」

 

 ドーランは言った。

 

「主砲、目標、先頭の大型艦。撃て」

 

 プロキュエーターの重砲が一斉に放たれた。

 

 光の束が遠い光点へ向かって伸びていった。数秒後、先頭の光点の周りに、シールドの膜が浮かび上がった。

 

「命中。先頭の艦、シールドに負荷」

 

「続けろ」

 

 二度目の斉射が先頭の艦へ向かった。

 

 《ポラリス》の艦橋でラックスは索敵の表示を見ていた。

 

 妨害の霧の中で、二つの光点が動いていた。《ヘリオス》は、先頭の光点を撃っている。

 

「索敵。二隻の大きさを比べろ。同じ妨害の条件で」

 

「比べています。……後方の艦の方が明らかに大きいです」

 

「どれくらいだ」

 

「距離の推定が安定しません。ただ、先頭の艦と同型ではありません」

 

 ラックスは表示を見た。《ヘリオス》が撃ち始めてから、先頭の艦の反応のデータが増えていた。増えたデータで、先頭の艦の輪郭は少しずつはっきりしてきていた。後方の艦はまだ霧の中だった。

 

「出力の特徴は」

 

「後方の艦の両舷に、大規模な出力の集中があります。先頭の艦にはありません」

 

 両舷。大型のイオン砲。

 

「群の司令へ」

 

 ラックスは回線を開いた。

 

「先頭の艦は対象ではない可能性があります。後ろの艦の方が大きく、両舷に出力の集中がある。対象は後ろの艦です」

 

 回線の向こうで、ドーランが短く黙った。

 

『確かか』

 

「確かではありません。ですが、先頭の艦には両舷の砲の特徴がありません」

 

 数秒の沈黙があった。

 

『……目標、訂正。後方の大型艦が対象。全砲、転火』

 

 《ヘリオス》の砲塔がゆっくりと向きを変え始めた。先頭の艦から、後ろの艦へ。

 

 その旋回に一分と少し掛かった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.180 標準時〇五時三四分 《マレボランス》艦橋

 

「共和国艦ノ砲火、転火。……目標、本艦」

 

 索敵のドロイドが報告した。

 

 窓の外で遠くの光点から伸びてきた光の束が、この艦のシールドに叩き込まれた。膜が浮かび上がり、青白い波紋が艦首から艦尾へ走った。

 

『シールド、負荷上昇』

 

 ラント大佐は艦長席から身を乗り出した。

 

「中将」

 

「針路を維持しろ。離れる」

 

「本艦は既に射撃を受けています」

 

 ラント大佐の声は低かった。

 

「離れる方位へ向けたまま撃たれ続ければ、シールドが持ちません。あの艦はこちらを逃がすつもりがない。撃ち返さなければ、艦を失います」

 

 リュデク中将は表示を見ていた。二度目の光の束がシールドに届いた。膜の明滅が一度目より大きかった。

 

「……艦長の判断で応戦を許可する」

 

 リュデク中将は言った。

 

「ただし、短く。離脱のための応戦だ。沈めに行くのではない」

 

「了解」

 

 ラント大佐は艦長席の前に立った。

 

「大型イオン砲、充填。目標、プロキュエーター。回頭、右へ。左舷を向けろ」

 

『ラジャー、ラジャー』

 

「通常砲、同じ目標。イオン砲の後に、続ける」

 

 巨大な艦体が右へ回り始めた。左舷の砲口の奥に、青白い光が溜まり始めた。

 

 指揮官型が艦長席の横で首を傾けていた。

 

『共和国ノ艦ヲ、正面ニ置クナ。撃タレル前ニ、止メレバイイ』

 

 ラント大佐はその声を聞いた。撃たれる前にはもう間に合わなかった。撃たれた後に止めるしかなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.180 標準時〇五時三七分 《ヘリオス》

 

「対象の左舷に出力の集中。……砲口です」

 

 索敵担当の声が高くなった。

 

 ドーランは表示を見た。遠くの巨大な光点がゆっくりと右へ回っていた。左舷がこちらを向きつつあった。

 

「回避、左へ。全速」

 

 プロキュエーターの船体が傾いた。間に合わないことはドーランにも分かっていた。転火に掛かった一分と少しの間に、あの艦は向きを変え終えていた。

 

「群の司令より、統合作戦本部へ」

 

 ドーランは通信士へ言った。声は変わっていなかった。

 

「対象と交戦中。対象は後方の大型艦。先頭の艦は別の大型艦。報告を続けろ。止まるまで」

 

「了解」

 

 青白い光が対象の左舷から放たれた。

 

 光は、《ヘリオス》を包んだ。

 

 艦橋の表示が一斉に明滅した。照明が落ち、非常灯が点いた。艦の奥から、推進の唸りが消えていった。

 

「前部シールド、喪失。後部シールド、喪失。推進、応答なし。主火器管制、応答なし」

 

 報告が次々に重なった。

 

 ドーランは艦長席の手すりを握っていた。

 

「非常系統へ」

 

「立ち上がりません。……一部だけ」

 

 艦は浮いていた。沈んではいなかった。ただ、どこも動かなかった。

 

 その時、対象の通常砲が撃ち始めた。

 

 最初の斉射は、《ヘリオス》の艦尾の上をかすめた。二度目は艦腹に入った。三度目の一発が、シールドのない後部の装甲を真っ直ぐに貫いた。

 

 後部の弾薬区画の真上だった。

 

「後部に被弾。火災――」

 

 報告の声が途中で途切れた。

 

 艦の後部の奥から、白い光が噴き出した。

 

 光は艦体の内側を後部から中央へ中央から前部へ、一息に駆け抜けた。装甲の継ぎ目という継ぎ目から、白い光が漏れた。

 

 音はなかった。光の中で艦体が中央から裂け、二つに折れた。前部と後部が別々の方向へ離れていった。その間から、炎と破片の雲が噴き出し、見る間に広がっていった。

 

 最初の光が噴き出してから、艦が折れるまで、四秒だった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.180 標準時〇五時三八分 マエルストローム級《ポラリス》

 

「《ヘリオス》、識別信号、消失」

 

 通信士の声が平らだった。

 

 ラックスは窓の外を見ていた。

 

 さっきまで《ヘリオス》がいた場所に光の雲が広がっていた。雲の中で二つの大きな破片がゆっくりと回っていた。救難の信号は出ていなかった。

 

 何千人もの乗員が乗っていた艦だった。

 

 三十年前、私も同じ顔をしていた。二日前、ドーランはそう言った。

 

「生存者の信号を記録しろ。全周波数で」

 

 ラックスは言った。

 

「群の司令、消失。本艦が指揮を継承する」

 

 副長がラックスを見た。

 

「艦長。本部の命令は確かめて報告せよ、です。確かめました。報告しました」

 

「分かっている」

 

 ラックスは前方の表示を見た。

 

 対象は左舷の砲口の光を消していた。撃った後の光だった。その間、あの艦は通常砲だけで撃ってくる。

 

「射撃、続行。目標、対象。当てられる所へ全部」

 

「艦長――」

 

「船団はまだ航路を抜けていない」

 

 ラックスは言った。

 

「あと十四分。十四分、あれをこちらへ向けさせる。それが済んだら、離れる」

 

 副長はそれ以上言わなかった。

 

 《ポラリス》の主砲が対象へ向かって放たれた。

 

 *

 

 《ポラリス》は、単艦で撃ち合った。

 

 マエルストロームの重砲の光が、対象のシールドへ続けざまに入った。対象は、《ヘリオス》を撃った後、シールドの出力が落ちていた。三度目の斉射で、膜が一か所、破れた。

 

「命中。対象の艦首の下、外板を貫通」

 

 四度目の斉射が同じ区画へ入った。

 

「命中。……対象の艦首の下から、何かが噴き出しています。気体、あるいは液体。量が多い」

 

「位置を記録しろ」

 

 五度目の斉射は外れた。六度目が対象の上部構造の縁をかすめた。七度目が艦腹の格納口の近くに入った。

 

「三発、命中を確認。艦首の下、上部構造、艦腹」

 

 対象の通常砲が、《ポラリス》へ集まっていた。前部シールドが光った。一度、二度。

 

「前部シールド、負荷八割」

 

 次の瞬間、艦橋が白くなった。

 

 ラックスが最後に見たのは艦橋の前面の窓の外から、何かが真っ直ぐに入ってくる光だった。

 

 窓の上から、重い密閉のシャッターが落ちてきた。落ちきる前に衝撃が来た。

 

 それから、音がした。艦体を伝わってくる、重い衝撃の音だった。

 

 気がつくと、ラックスは床に倒れていた。

 

 耳の奥で甲高い音が鳴っていた。窓は降りきったシャッターに塞がれていた。非常灯の赤い光が煙の中で揺れていた。シャッターの内側の、艦橋の前半分が焼けた金属の塊になっていた。砲術長と、測距の士官たちと、通信士が座っていた区画だった。副長の席もそこにあった。

 

 ラックスは身体を起こした。腕が焼けていた。制服の袖が焦げて肌に貼り付いていた。

 

 艦橋の後ろの隅で、誰かが動いた。航法の予備の席の、若い曹長だった。額から血を流していたが、目は開いていた。

 

「……艦長」

 

「生きているか」

 

「はい」

 

 ラックスは艦橋を見回した。動いている者は自分と、曹長だけだった。

 

「この艦橋の系統は」

 

 曹長が自分の席の表示を叩いた。表示は戻らなかった。

 

「……死んでいます。全部」

 

 ラックスは艦橋の奥の扉を見た。上部構造の中を通って、もう一つの艦橋へ続く連絡路の扉だった。扉の縁が衝撃で少し歪んでいた。

 

「曹長。立てるか」

 

「立てます」

 

「航行の艦橋へ移る。ついてこい」

 

 ラックスは歪んだ扉の開閉の把手を、焼けていない方の手で引いた。二度目で扉が開いた。連絡路の中にも煙が流れ込んでいた。二人は身を低くして、煙の中を進んだ。

 

 航行の側の艦橋は生きていた。

 

 照明が点き、表示が点き、席に人がいた。航海長が振り返った。ラックスの焼けた袖と、後ろの曹長の額の血を見た。何も言わなかった。

 

「砲撃の艦橋、被弾」

 

 ラックスは言った。

 

「生存は私と曹長の二名。指揮をこの艦橋へ移す。砲撃はこの艦橋の予備の火器管制で執る」

 

「予備の火器管制、立ち上げます」

 

 航海長が答えた。

 

 艦橋の窓の外に、対象が見えた。

 

 対象の左舷の砲口の奥に、また青白い光が溜まり始めていた。

 

 ラックスは時計を見た。船団が航路を抜けるまで、あと二分だった。

 

「あと二分、撃ち続けろ」

 

 ラックスは言った。

 

「二分経ったら、離脱する。針路、対象から最大の角度で。跳躍の計算を始めろ」

 

「計算、始めます」

 

 予備の火器管制から、《ポラリス》の残った主砲が撃ち続けた。二分が過ぎた。

 

「船団、航路を抜けました」

 

 この艦橋の通信士が報告した。

 

「離脱」

 

 ラックスは言った。

 

「本部へ報告。群の司令、戦死。《ヘリオス》、爆沈。本艦、砲撃の艦橋に被弾。対象に三発命中。対象の艦首の下から、多量の漏出を確認。本艦、離脱する」

 

「跳躍、計算、完了」

 

「跳躍」

 

 星の光が引き伸ばされた。

 

 青白い光が、《ポラリス》がいた場所を少し遅れて通り過ぎていった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.180 標準時〇五時五二分 《マレボランス》艦橋

 

『マエルストローム級、跳躍。離脱シマシタ』

 

 索敵のドロイドが報告した。

 

 ラント大佐は艦長席の前に立ったまま、窓の外の光の雲を見ていた。プロキュエーターのいた場所だった。雲は少しずつ薄くなっていた。

 

「追います」

 

 ラント大佐は言った。

 

「マエルストロームは艦橋に被弾しています。追えば、仕留められる」

 

「追わない」

 

 リュデク中将は言った。

 

「通商破壊の艦隊が重艦を追う理由はない」

 

「共和国の重艦を一隻沈めました。もう一隻も沈めれば――」

 

「被害を」

 

 リュデク中将はラント大佐の言葉を遮って、整備のドロイドの方を向いた。

 

『艦首下部ニ被弾。燃料系統ノ区画ヲ貫通。燃料、漏出中』

 

 整備のドロイドが表示を読み上げていった。

 

『漏出ノ量、多イ。区画ノ閉鎖ヲ試ミテイマスガ、弁ガ一ツ、損傷シテイマス。閉鎖デキマセン』

 

「残量は」

 

『現在ノ漏出ガ続ケバ、十四時間後ニ、デノン方面ヘノ進出ニ必要ナ量ヲ下回リマス』

 

『上部構造ノ縁、軽微ナ損傷。艦腹ノ格納口ノ一ツ、使用不能』

 

 リュデク中将は報告を最後まで聞いた。

 

 三発だった。あのマエルストロームは艦橋を焼かれながら、三発を当てていった。そのうちの一発が燃料の区画を貫いていた。

 

「中将」

 

 ラント大佐が言った。

 

「修理の艦を呼んで、漏出を止めれば」

 

「修理の艦は前進泊地にしかない。前進泊地へ戻れば、共和国の索敵線の中を通ることになる。今、共和国はこの艦がここにいることを知った」

 

 リュデク中将は星図を開いた。

 

 デノンの方面へ向かう航路。その途中で燃料が尽きる。前進泊地へ戻る航路。共和国の索敵線の中。そして、もう一つの方角に、連合の勢力圏の中の、修理のドックを持つ星系があった。

 

 ベスティンIV。銀河平面座標L-14。連合の勢力圏の内側にあり、大型艦を受け入れられる修理のドックがあった。

 

「パーレミアン演習作戦を中止する」

 

 リュデク中将は言った。

 

 艦橋が静かになった。

 

「針路、ベスティンIV。修理を受ける。プロヴィデンスも同行させる」

 

 ラント大佐はしばらく何も言わなかった。

 

「……一隻沈めて、作戦を中止するんですか」

 

「一隻沈めたから、中止する」

 

 リュデク中将は答えた。

 

「共和国は重艦を一隻失った。失った以上、次はあれだけでは済まない数を送ってくる。この艦は燃料を漏らしながら、デノンの方面まで行けない。行けない以上、ここにいる理由はない」

 

 ラント大佐は窓の外を見た。光の雲はもうほとんど見えなかった。

 

「……針路、ベスティンIV」

 

『ラジャー、ラジャー』

 

 オルス中佐が航法の表示の横で、燃料の残量の欄を見ていた。数字は少しずつ減っていた。

 

 指揮官型が艦長席の横で首を傾けた。

 

『試験ノ記録ニ、追記シマスカ』

 

「何をだ」

 

 リュデク中将が訊いた。

 

『大型イオン砲ハ、共和国ノ重艦ニ対シテ、有効。タダシ、発射ノ後ニ撃チ返サレタ』

 

 リュデク中将は少しだけ考えた。

 

「追記しろ」

 

 *

 

C.R.C. 7955.180 標準時〇八時四〇分 カリダ、ハービンジャー司令部区画

 

 知らせは朝の訓練の前に届いた。

 

 シーアは三隻の艦長との打ち合わせの途中だった。斉射の時刻の合わせ方を、もう一度確かめているところだった。コルヴェンが、通信の表示を持って司令部区画へ入ってきた。

 

「統合作戦本部からの戦況です」

 

 シーアは表示を受け取った。

 

 カダーン星系外縁にて、交戦。プロキュエーター級《ヘリオス》、爆沈。群の司令、ドーラン代将、戦死。生存者、確認中。マエルストローム級《ポラリス》、艦橋に被弾、大破。離脱。艦長、ラックス、生存。

 

 相手の艦の名前は書いていなかった。正体不明の大型艦、とだけあった。

 

 シーアは表示を二度読んだ。

 

 ラックス、生存。

 

 その一語をもう一度読んだ。

 

 ソーンとブレインが卓の向こうで、シーアの顔を見ていた。二人とも何も訊かなかった。

 

「……同期が乗っていました」

 

 シーアは言った。

 

「《ポラリス》の艦長です。生きています」

 

 ソーンが小さく頷いた。

 

 シーアは表示の続きを読んだ。《ポラリス》から送られた報告の要約が添えられていた。対象に三発命中。対象の艦首の下から、多量の漏出を確認。

 

 漏出。

 

 シーアはその一語を見ていた。燃料なら、あの艦は遠くへは行けない。遠くへ行けないなら、どこかへ戻る。どこへ戻るのかを誰かが読めれば。

 

 シーアは卓の上の三隻の配置図を見た。ハービンジャー、《ヘラルド》、《エンヴォイ》。三日かけて、言葉を揃え、時刻を揃え、間隔を揃えた。何に当てるのかはまだ知らされていなかった。

 

 今は、知らされなくても、分かった。

 

「訓練を続けます」

 

 シーアは言った。

 

「今日中に同時斉射の誤差をもう半分にします」

 

 ソーンとブレインが立ち上がった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.180 標準時〇九時〇五分 コルサント、国防省

 

 ハロルド・タッグは執務室の机で報告を読んだ。

 

 毎朝届く一覧の横に、それは置かれていた。着く順に並べた一覧の、一番上の方にあった二隻の艦名のうち、一つに線が引かれていた。

 

 プロキュエーター級《ヘリオス》、爆沈。

 

 ハロルドは報告を最後まで読んだ。ドーラン代将の名前。確かめて報告せよ、と自分が言った命令。その命令の先で、ドーランは船団を守るために、あの艦の前に出た。

 

 船団は航路を抜けていた。十二隻の輸送艦がエリアドゥへ向かっていた。

 

 ハロルドは報告を置いた。それから、統合作戦本部への回線を開いた。

 

 ケスティンがすぐに応答した。

 

「国防相」

 

「読んだ」

 

 ハロルドは言った。

 

 しばらく何も言わなかった。

 

「揃うまで待つ、と言ったな。止めるのは揃ってからだ、と」

 

「はい」

 

「もう、揃ったと思え」

 

 ハロルドは机の上の一覧を見た。着く順に並んだ艦名の中に、カリダの三隻のテクターの名前があった。

 

「沈めろ」

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