STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
巨艦、牙を剥く!
カダーンの宙域で、共和国の主力艦《ヘリオス》が、謎の巨大戦艦の一撃に沈んだ。数千の乗員が、光の中に消えた。
だが、巨艦もまた手負いだった。《ポラリス》の放った三発が、その燃料系を撃ち抜いていたのだ。
国防相は、短く命じた。沈めろ、と。
今、共和国のあらゆる艦が、一隻の敵を追って動き出す――
*
C.R.C. 7955.180 標準時〇九時一〇分 コルサント、共和国グランド・アーミー統合作戦本部
沈めろ、という一語は五分後には命令になっていた。
ケスティンは作戦部の卓に、国防相の机へ毎朝送っている一覧を広げた。統合作戦本部の直轄の艦を着く順に並べた一覧だった。今朝の分にはもう線が一本引かれていた。《ヘリオス》の行だった。
「対象の現在位置、カダーン星系の外縁から離脱。針路、推定、南西。燃料の漏出あり」
情報担当の参謀が、《ポラリス》の最後の報告を読み上げた。
「燃料を漏らしているなら、遠くへは行けない。どこかで修理を受ける。南西なら、連合の勢力圏の中で、大型艦を受け入れられるドックを持つ星系は、三つ」
星図の上に三つの点が灯った。
「全部に網を掛ける」
ケスティンは一覧を指でなぞりながら、読み上げ始めた。
「インナー・リム即応艦隊、プロクラメイター級四隻。マーレン代将。現在位置から、対象の推定位置まで、二時間十分。触接を担当」
参謀の一人が命令の文面を打ち込んでいく。
「アクラメイター級キャリアータイプ、《アルゴス》。現在位置、デノン。対象の推定針路の側面まで、五時間。航空攻撃の準備」
「第四任務群、プロクラメイター級四隻。ヴァイアン代将。現在、ハイディアン・ウェイで船団護衛中。護衛を解除し、南西へ。到着予測、二十二時間」
「旧式のドレッドノート、三隻。捜索線を張る。対象の推定針路を扇状に」
「コルベット、全部。捜索線の外縁へ」
命令が一つずつ送られていった。
ケスティンは一覧の最後の方で、指を止めた。
「TF-35。カリダ。テクター級、三隻」
「カリダからでは、一番遠いです」
参謀が言った。
「到着予測、二十時間以上。対象がどこかで止まらなければ、間に合いません」
「それでも出す」
ケスティンは言った。
「対象はどこかで止まる。止まった時に止めを刺せる艦がいなければ、また逃げる」
最後にケスティンは、一覧の一番上に書かれた一行を見た。
マエルストローム級、三隻。コア宙域の防衛艦隊から、国防相の命令で抽出。指揮、艦隊提督。
「艦隊提督には私から連絡する」
ケスティンは言った。
「この追撃の全体をあの人に組んでもらう」
*
命令と同時にもう一通の通達が全艦へ送られた。
カダーンから《ヘリオス》の最後の記録が届いてから、三時間余りで作戦部がまとめたものだった。艦橋が何を報告し、何ができなかったかを読み取った士官たちが、朝の当直の間に書き上げた。
対象の大型イオン砲の充填の兆候を確認した艦は、直ちに兵装の母線の機械遮断を準備し、被弾の直後に遮断すること。弾薬区画を隔離し、危険区画を減圧すること。被弾した艦の救難は指定された一隻が行う。他の艦は救難に集まらず、任務を継続する。
今朝までなら、そもそも必要のなかった通達だった。
*
C.R.C. 7955.180 標準時〇九時四〇分 インナー・リム即応艦隊、プロクラメイター級《セレリティ》
イーダ・マーレン代将は命令を読み終えると、すぐに跳躍の計算を命じた。
触接を担当。対象を見失わず、位置を報告し続けること。交戦は対象が補給の船団を襲う場合を除き、避けること。
二十年、誰よりも先に着いてきた。着いた先で自分より大きな艦と殴り合ったことは、一度もなかった。今日も殴り合う命令ではなかった。
出港の直前、通信が一本入った。統合作戦本部の回線ではなかった。艦隊提督の司令部の回線だった。
『マーレン代将』
低い声だった。映像はなかった。
「はい」
『命令は読んだな。君の役目は沈めることではない』
「時間を買うことですね」
『そうだ。見失うな。近づきすぎるな。こちらが追いつくまで、持たせろ。それから』
声は少しだけ間を置いた。
『艦も残せ。四隻とも。君の艦はこの先の戦争でも要る』
「了解しました」
通信が切れた。
マーレンはしばらく暗くなった表示を見ていた。誰の声なのかは分かっていた。コア宙域の防衛艦隊を預かる、艦隊提督だった。その人が自分の四隻の名前を知っていた。
「跳躍」
マーレンは言った。
*
C.R.C. 7955.180 標準時一〇時〇五分 カリダ、ハービンジャー司令部区画
命令は訓練の途中で届いた。
TF-35は直ちにカリダを発し、南西の宙域へ進出せよ。テクター級三隻を基幹とする。対象の捕捉を待って、砲戦により撃沈すること。
シーアは命令を一度だけ読んだ。二度目は要らなかった。
「何に当てるのか、決まりましたね」
ソーンが回線の向こうで言った。
「揃ってから決める、と言っていたものが」
「揃ったそうです」
シーアは答えた。
「国防相がそう言ったと」
ブレインが少しだけ笑った。笑ったのではなく、息を吐いただけだった。
「二十時間以上ですよ、ここからでは。着いた時には全部終わっているかもしれない」
「終わっていれば、それでいい」
シーアは言った。
「終わっていなかった時のために、行きます」
三十分後、ハービンジャー、《ヘラルド》、《エンヴォイ》の三隻がカリダの泊地を離れた。《ストレイト・ライン》が、その後ろに付いた。ヴェネター二隻と《アシュアランス》、《ヴェリタス》は、カリダに残った。今度の相手には三隻の砲だけが要った。
跳躍の前にリラが司令部区画へ上がってきた。
「前部反応炉、全出力で撃てます。四時間なら」
「四時間で足りるといいですね」
「足りなかったら」
「足りるように、使います」
リラは何か言いかけて、やめた。それから、技術区画へ戻っていった。
星の光が引き伸ばされた。
*
C.R.C. 7955.180 標準時一二時二〇分 カダーン星系南西、《マレボランス》艦橋
「共和国艦、四。後方ニ出現」
索敵のドロイドが報告した。
「識別。プロクラメイター級。……距離ヲ保ッテイマス。接近シマセン」
リュデク中将は表示を見た。
四つの小さな印がこの艦の後方に、大きく間を開けて並んでいた。一隻は右の後ろ、一隻は左の後ろ、二隻はさらに離れた真後ろ。どの艦もこの艦の舷側の正面には入っていなかった。近づきもしなかった。ただ、ついてきていた。
「触接だ」
ラント大佐が言った。
「こちらの位置をどこかへ知らせ続けている」
「振り切れるか」
「あの艦型は足が速い。跳躍しても次に出た場所で待っているかもしれません」
リュデク中将は燃料の表示を見た。漏出はまだ止まっていなかった。整備のドロイドたちが艦首の下の区画で、損傷した弁の周りに仮の閉鎖板を当てようとしていた。
『燃料、漏出量、三割減少。完全ナ閉鎖ハ、ベスティンIVノドックデナケレバ不可能デス』
「ベスティンIVまで、持つか」
『持チマス。タダシ、戦闘ヲ伴ウ機動ヲ行エバ、ソノ限リデハアリマセン』
リュデク中将は星図を見た。ベスティンIVまで、跳躍を三回。その間、あの四隻はついてくる。ついてくる限り、共和国の重い艦がどこかから集まってくる。
「プロヴィデンスを分ける」
リュデク中将は言った。
「別の航路で連合の勢力圏へ帰す。共和国の触接は二隻を同時には追えない。追えたとしても四隻を二つに割ることになる」
ラント大佐が振り返った。
「本艦を単艦にするのですか」
「プロヴィデンスはこの艦の護衛にならない。昨日、それが分かった。共和国はプロヴィデンスとこの艦を取り違えた。取り違えている間はプロヴィデンスが撃たれた。取り違えが解ければ、この艦が撃たれる。どちらにしても一緒にいる理由はない」
ラント大佐はしばらく何も言わなかった。
「……プロヴィデンスへ分離の命令を」
『ラジャー、ラジャー』
「それから、艦載機を出す」
リュデク中将は続けた。
「ヴァルチャーと、ハイエナ。あの四隻を追い払えとは言わない。追い払えるとも思わない。間隔を広げさせろ。広がれば、あの四隻の報告は粗くなる。粗くなった報告で、共和国の重い艦は集まれない」
『格納口ノ一ツハ、カダーンノ被弾デ使用不能デス。発艦ノ速度ハ、三割低下シマス』
「構わない。残りの格納口から、出せるだけ出せ」
『ラジャー、ラジャー』
一時間後、大型のプロヴィデンス級ドレッドノートは、艦隊の針路から離れ、別の方位へ跳躍していった。
後方の四つの印のうち、一つがその跳躍の方位を記録するように、少しだけ位置を変えた。残りの三つは動かなかった。
《マレボランス》は、一隻になった。
*
C.R.C. 7955.180 標準時一四時〇五分 《セレリティ》
「対象の艦腹、格納口が開きました。……小型機、多数。発艦中」
索敵担当の声が艦橋に響いた。
マーレンは表示を見た。巨大な艦影の腹から、小さな光の粒が次々に吐き出されていた。粒は二つの群れに分かれていった。一つの群れは、細かく速い。もう一つは少し大きく、密に固まっていた。
「ヴァルチャー、四十前後。……それと、ハイエナ級の爆撃機、十六」
「四隻へ。対空、全門。間隔を広げろ。互いの対空の射界を重ねるな、補え」
粒の群れは、真っ直ぐに後方の四隻へ向かってきた。
最初に届いたのはヴァルチャーだった。翼を開いた鳥のような機体が、四隻の間をすり抜けながら、艦橋と砲座を狙って撃ち込んでくる。プロクラメイターの舷側の対空の砲座が、一斉に火を噴いた。赤い光条と緑の光条が、四隻の周りで網のように交差した。
一機が砕けた。二機目が砲座の一つに体当たりするように突っ込み、砲座ごと燃え上がった。
「《エクスペディエント》、右舷対空、一基喪失」
その後ろから、ハイエナの群れが降りてきた。
爆撃機はヴァルチャーより遅く、重かった。密な編隊のまま、《エクスペディエント》の艦尾へ向かって、真っ直ぐに降下していく。
「《エクスペディエント》、回避。ハイエナ、艦尾へ」
《エクスペディエント》の細い船体が大きく傾いた。ハイエナの編隊から、爆弾が放たれた。半分は傾いた船体の横を抜けていった。残りの半分が艦尾の上部に落ちた。
光が艦尾で幾つも膨らんだ。
『《エクスペディエント》、艦尾に被弾。……推進、一基停止。速力、八割。火災、区画を閉鎖中』
「触接を維持できるか」
『できます。八割でも、あれよりは速い』
ハイエナの編隊は爆弾を落とすと、大きく旋回して母艦へ戻っていった。ヴァルチャーの群れは、まだ四隻の周りを飛び回っていた。対空の砲座が一機ずつ落としていく。二十分後、生き残ったヴァルチャーは格納口へ戻っていった。
四隻の後ろに、ヴァルチャーの残骸と、《エクスペディエント》の艦尾から漏れる細い白い筋が残った。
「損害、集計」
「《エクスペディエント》、推進一基、対空二基。死者、四。負傷、十九。《アラクリティ》、対空一基。他は軽微」
マーレンは表示の上の対象を見ていた。追い払えないと分かれば、また出してくる。次はもっと多く。
「間隔をもう一段広げろ。対象の艦載機の往復の時間を少しでも長くする」
四隻はさらに広がった。それでも、対象の後ろから離れなかった。
*
C.R.C. 7955.180 標準時一六時四〇分 アクラメイター級キャリアータイプ《アルゴス》
アクラメイターの広い格納区画に、爆撃機の列が並んでいた。
ヴェネターほどの飛行甲板は持たない。アクラメイターの船体の中の、兵員と地上車両のための区画を、航空機のための区画に作り替えた艦だった。統合作戦本部の直轄で、ジェダイの指揮には入っていない。乗っている操縦士たちもクローンではなかった。
航空隊長が発艦の前に搭乗員たちへ位置を伝えた。
「対象の現在位置はマーレン代将の触接から。それと、オープン・サークルの偵察艦からも、位置が届いている。二つは一致している」
オープン・サークルからの位置情報は、統合作戦本部を経由して、この艦へ回ってきていた。誰が回したのかを航空隊長は知らなかった。知らなくても位置は正しかった。
「距離は長い。帰りの推進剤はぎりぎりだ。魚雷を当てて、帰る。それだけだ」
二十四機の爆撃機が格納区画から発艦していった。
二時間後、編隊は対象を捕捉した。
《セレリティ》の艦橋でマーレンは、爆撃機の編隊が対象へ降りていくのを見ていた。
対象の格納口がまた開いていた。
ヴァルチャーの群れが、爆撃機の編隊の正面から突っ込んでいった。《アルゴス》から付いてきた護衛の戦闘機は、八機しかいなかった。八機が四十近い群れの中へ飛び込み、たちまち見えなくなった。
爆撃機の編隊は崩れなかった。崩れれば、魚雷を撃つ距離まで届かない。ヴァルチャーに撃たれながら、真っ直ぐに対象へ降りていった。
巨大な艦影の上に、小さな光の粒が散った。対空の砲火が粒の周りを走った。ヴァルチャーの光条が後ろから追いすがった。粒の一つが消えた。二つ目も消えた。三つ目が火を引きながら、それでも降下を続けていた。
編隊から、光が放たれた。魚雷だった。
ほとんどが外れた。対象は魚雷が放たれる直前に、大きく舵を切っていた。一本だけが艦体の中央の、上部構造の下に当たった。光が一度膨らみ、すぐに消えた。
「命中、一。……損害、軽微と推定。速力、変化なし」
索敵担当の声が少しだけ沈んでいた。
「爆撃機、帰投中。未帰還、六。護衛の戦闘機、未帰還、五」
マーレンは対象の艦影を見ていた。魚雷の当たった場所から、薄い煙のようなものが漏れていたが、それもすぐに消えた。艦は同じ速さで同じ方角へ進み続けていた。
「止まらないな」
マーレンは言った。
「報告しろ。航空攻撃、命中一、効果なし。触接、継続」
*
C.R.C. 7955.180 標準時二〇時一五分 《セレリティ》
夜の当直の始まりだった。
四隻のプロクラメイターは八時間、対象の後ろについていた。昼の艦載機攻撃以来、四隻の間隔はそれまでより広いままだった。一隻はプロヴィデンスの跳躍の方位を記録するために一度離れ、また戻ってきていた。対象の両舷の砲口の射界に入らないよう、四隻は左右へ大きく蛇行しながら追っていた。
蛇行の周期がちょうど重なった瞬間だった。
四隻のうち三隻が対象の左舷の後方へ寄っていた。右舷の後方には一隻しかいなかった。それも、蛇行の外側へ振れて、距離が開いていた。
「対象、回頭」
索敵担当が声を上げた。
「右へ。……大きい。回頭が止まりません」
マーレンは表示を見た。
巨大な艦影が右舷へゆっくりと、しかし一度も止まらずに回っていた。九十度。百二十度。百五十度。
「対象、反転。……百八十度。こちらの後方へ」
対象は右舷の後方にいた一隻の、さらに外側を回り込んでいた。四隻の追ってきた方角の、逆へ。
「跳躍反応」
星の光が対象の艦影の周りで縮み、それから伸びた。
窓の外から、巨大な艦影が消えた。
マーレンはしばらく何も言わなかった。
「跳躍の方位は」
「記録しました。……ですが、跳躍の方位は次の出口を示しません。一度跳んで、どこかで出て、また跳ばれたら」
分かっていた。
「触接、喪失」
マーレンは言った。
「統合作戦本部と、艦隊提督へ報告。対象、反転して跳躍。触接、喪失。跳躍の方位、以下のとおり」
送信の表示が出た。
マーレンは艦長席の手すりを握っていた。二十年、誰よりも先に着いてきた。今夜は着いた後で見失った。
しばらくして、艦隊提督の回線から、一行だけ返ってきた。
『了解した。四隻とも無事か』
「無事です」
『ならいい。まだ終わっていない』
*
C.R.C. 7955.180 標準時二一時〇二分 《マレボランス》艦橋
二度目の跳躍を抜けた後、リュデク中将は後方の表示を見た。
何も映っていなかった。
「共和国艦ノ反応、ナシ」
索敵のドロイドが報告した。
リュデク中将はしばらく表示を見ていた。
「今はいない」
リュデク中将は言った。
「だが、あの艦型は足が速い。跳躍の方位から、次の出口を読んでくる。読めなくても共和国は捜索の線を張っている。いずれ、また見つかる」
ラント大佐は何も言わなかった。
「グリーヴァス将軍へ報告を送る」
リュデク中将は通信の席の方を向いた。
「カダーンでの交戦の詳報。プロキュエーター級一隻、撃沈。マエルストローム級一隻、大破、撃退。本艦、燃料系統に被弾、漏出。パーレミアン演習作戦を中止し、ベスティンIVへ向かう。共和国の触接を受けたが、現在は――」
リュデク中将は少しだけ言葉を切った。
「現在は引き続き追跡を受けている可能性が高い。救援と、ベスティンIVでの修理の準備を要請する」
通信のドロイドが首を傾けた。
『報告ハ、長クナリマス。暗号ノ送信時間、推定、十一分』
「構わない。将軍は交戦の詳細を知る必要がある。この艦は試験の兵器だ。試験の記録を失うわけにはいかない」
ラント大佐が艦長席で振り返った。
「中将。今は共和国艦の反応がありません。長い送信はこちらの位置を――」
「共和国はもう我々の位置を知っている」
リュデク中将は答えた。
「知っているなら、黙っていても同じことだ。黙っている間に、将軍に何も伝わらない方が損が大きい」
ラント大佐はそれ以上言わなかった。
送信が始まった。十一分間、この艦は暗号の信号を連合の奥へ向けて送り続けた。
*
C.R.C. 7955.180 標準時二一時一五分 コルサント、保安委員会暗号解析課
「符号、発信中」
班員の一人が表示から顔を上げた。
「長いです。……止まりません」
班の部屋にいた全員がその表示へ集まった。リヴィアもいた。
触接の喪失の報告は一時間前に届いていた。対象は反転して跳躍し、どこへ出たのか分からなくなった。班の部屋はそれからずっと静かだった。
今、その対象が自分から声を出していた。
「方位、取れるか」
班長が訊いた。
「取れます。受信している中継局が三つ。……四つ目も拾いました」
表示の上に四本の線が引かれた。四つの中継局から、信号が来た方角へ伸びる線だった。線は一点では交わらなかった。四本の線が細長い扇の形の中で、互いに少しずつずれて重なっていた。
「妨害か」
「いえ。中継局の位置の誤差と、信号の反射です。一点には絞れません。ただ」
班員は扇の形を指でなぞった。
「この中にいます。この扇の中の、どこかに」
リヴィアは第二室の物流の記録を開いた。連合の勢力圏の中で、大型艦を受け入れられるドックを持つ星系。三つのうち、扇の先に入っているのは一つだけだった。
「ベスティンIV」
リヴィアは言った。
「扇の向きの先にあるのはベスティンIVです。修理を受けに行くなら、そこへ向かっている」
班長が扇の図とリヴィアの記録を並べた。
「内容は」
解読を担当していた班員が最初の数行を読み上げた。
「交戦の詳報です。プロキュエーター級一隻、撃沈。マエルストローム級一隻、大破、撃退。本艦、燃料系統に被弾。……作戦の中止。ベスティンIVへの帰投。救援と修理の準備の要請」
部屋が静かになった。
自分たちの位置を自分たちの行き先を、自分たちの傷を十一分かけて全部読み上げていた。
「送れ」
班長が言った。
「統合作戦本部、艦隊提督の司令部、オープン・サークル艦隊司令部。三か所に同時に。扇の図と、ベスティンIVの位置を添えて」
送信の表示が出た。
リヴィアは扇の図を見ていた。この扇の中に何千人かの乗員と、何隻もの共和国の艦を沈めた艦がいる。その艦が自分の居場所を自分の声で告げた。
リヴィアは画面の隅の、ここ二日の損害の欄を閉じた。それから、ベスティンIVへ向かう航路の上にある、共和国の捜索線の配置を開いた。
*
C.R.C. 7955.181 標準時〇一時一〇分 《マレボランス》艦橋
三度目の跳躍の後も後方の表示には、何も映っていなかった。
「共和国艦ノ反応、依然ナシ」
索敵のドロイドが報告した。
ラント大佐はその表示を見ていた。長い送信を終えてから、四時間が経っていた。その間、プロクラメイターの四隻は一度も現れなかった。
「中将」
ラント大佐は言った。
「あの四隻は我々を見失っていたのかもしれません。反転した時に」
リュデク中将は答えなかった。
「見失っていたのなら、あの送信は――」
「送った」
リュデク中将は言った。
「送ったものは戻らない」
ラント大佐はそれ以上言わなかった。オルス中佐が航法の表示の横で、燃料の残量の欄を見ていた。漏出の量は三割減ったまま、それ以上は減っていなかった。
艦橋の窓の外は暗かった。どの方角にも何も見えなかった。見えないことが、見られていないことを意味するのかどうかを、艦橋の誰も知らなかった。
*
C.R.C. 7955.181 標準時〇三時四八分 コルベット《ラークスパー》
捜索線の外縁を小さなコルベットが一隻、ゆっくりと進んでいた。
扇の図が届いたのは六時間前だった。捜索線の全部の艦が扇の中へ向けて、線を広げ直した。《ラークスパー》は、その線の一番端に置かれた。一番端は一番何も起きない場所だと、乗員の誰もが思っていた。
索敵の席の少尉が表示の上の一点を見て、目をこすった。
「……反応。大型」
艦長が席から身を乗り出した。
「距離は」
「遠いです。ですが、大きい。……とても大きい」
表示の上でその反応はゆっくりと進んでいた。ベスティンIVの方角へ。
「識別の照合を」
「照合中。……一致。管理符号の対象です」
艦橋が静かになった。
《ラークスパー》の砲はあの艦の外板に傷一つ付けられない。近づけば、一斉射で終わる。
「報告しろ。暗号回線で中継局へ指向送信。対象、発見。位置、針路、速力、以下のとおり」
艦長は言った。
「それから、距離を保て。見失うな。こちらが見ていることを向こうに気づかせるな」
報告は統合作戦本部と、艦隊提督の司令部と、オープン・サークル艦隊司令部へ、同時に届いた。
統合作戦本部の作戦部で、ケスティンは報告を着く順の一覧に重ねた。
「重い艦は」
「艦隊提督のマエルストロームが、七時間。TF-35が九時間。ヴァイアン代将の第四任務群が、四時間」
「対象がベスティンIVに入るまでは」
「このままの速さなら、六時間」
ケスティンは一覧を見た。重い艦はどれも間に合わなかった。
「一番近いのは」
「オープン・サークルの打撃群です。《レゾリュート》が、二時間」
ケスティンはしばらく一覧を見ていた。それから、艦隊提督の司令部への回線を開いた。
艦隊提督の返事は短かった。
『オープン・サークルに、要請してくれ。沈める必要はない。航空攻撃で足を止めてほしい、と。命令ではなく、要請だ。我々にはあちらに命令する権限はない』
*
C.R.C. 7955.181 標準時〇五時五〇分 ドレッドノート級《ステッドファスト》
《ステッドファスト》は、捜索線の中で一番古い艦だった。
司法軍の頃から四十年、同じ宙域の航路を見張ってきた。砲は古く、シールドは薄い。《ラークスパー》の報告を受けて、捜索線の中から最初に対象へ近づけたのが、この艦だった。コルベットでは、触接を保つための足も砲もなかった。
艦長は対象から距離を取り、艦の後方の斜めの位置についていた。対象の舷側の射界の外。あの艦が振り向けば、一斉射で終わる距離だった。振り向かせないように、ついていくしかなかった。
「オープン・サークルの攻撃隊、接近。十五機」
索敵担当が報告した。
「《レゾリュート》から。第一波です」
艦長は表示を見た。小さな印の群れが、対象の方へ向かっていた。
群れは、途中で向きを変えた。
対象の方ではなく、こちらへ。
「攻撃隊、針路変更。……本艦へ向かっています」
艦長は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「識別の信号を出せ。全周波数で。こちらは共和国艦だと」
「出しています。……届いていないのか、攻撃隊の針路、変わりません」
窓の外にYウイングの編隊が見えた。急降下の姿勢に入っていた。魚雷の発射の距離まで、あと数秒だった。
《ステッドファスト》の対空の砲座が自分の判断で砲身を向けかけた。
「撃つな。味方だ」
艦長は叫んだ。
その時、回線に若い声が飛び込んできた。攻撃隊の回線だった。
『攻撃中止! 攻撃中止! 目標は味方艦です! ドレッドノート、共和国の識別信号を出してる!』
女の声だった。子どもと言ってもいい年頃の声だった。
Yウイングの編隊が急降下の姿勢から、次々に引き起こした。《ステッドファスト》の艦橋の窓のすぐ外を機体の腹が、いくつも横切っていった。一機だけ、魚雷を放ちかけて、発射の直前に止めた機体があった。
編隊は、《ステッドファスト》の上を通り過ぎ、大きく旋回した。
『……こちら第一波指揮官、アソーカ・タノ。《ステッドファスト》、ごめんなさい。識別を誤りました。対象と同じ方角から、反応が来ていて』
さっきの若い声だった。攻撃中止を叫んだのも、第一波を率いていたのも、同じ声だった。
「推進剤は」
艦長は回線に言った。
『対象へ向かい直すだけの推進剤が、残っていません。……帰投します』
編隊は、《レゾリュート》の方角へ去っていった。
艦長は艦長席に深く座り直した。手が少し震えていた。
カダーンで共和国の艦は、先頭の艦をあれだと取り違えた。今、共和国の爆撃機はこの艦をあれだと取り違えた。
「報告しろ。第一波、誤認により攻撃中止。対象、損害なし。本艦、損害なし。……第二波の誘導を本艦が引き受けると」
*
C.R.C. 7955.181 標準時〇七時二〇分 《ステッドファスト》
第二波も十五機だった。
今度は、《レゾリュート》の発艦の直後から、《ステッドファスト》が誘導の信号を出し続けた。対象の位置、針路、速力。この艦の位置と、この艦の識別。どの反応が対象で、どの反応が味方か。
「第二波、誘導を受領」
索敵担当が報告した。
「指揮官はジェダイの将軍です。スカイウォーカー将軍」
艦長は表示を見ていた。
小さな印の群れが、今度は迷わず、対象の方へ真っ直ぐに進んでいった。群れは途中で四つの小さな群れに分かれた。小隊ごとに対象の別々の方角から入るつもりだった。
対象の対空の砲火が上がり始めた。
続けて、格納口が開いた。ヴァルチャーの群れが、艦腹から吐き出されてきた。三十を超えていた。これまでの二度の発艦で数を減らしても、まだそれだけ残っていた。
「ヴァルチャー、発艦。攻撃隊の正面へ」
四つの小さな群れは、止まらなかった。
一つの群れが、ヴァルチャーの群れの中へ、真っ直ぐに突っ込んでいった。Yウイングの後部の銃座が、背中に付いたヴァルチャーを撃ち落としていく。別の群れは、対象の艦体すれすれまで降りて、艦の外板の陰を這うように進んだ。外板に近すぎて、対象の対空の砲座が、自分の艦の上を撃ちかねない高さだった。
赤い光条が四つの群れの周りを走った。一つの群れから、印が一つ消えた。別の群れからも一つ。ヴァルチャーに背後を取られた一機が、火を噴きながら、対象の外板の上へ落ちていった。外板の上で小さな光が一度だけ膨らんだ。
最初の小隊が対象の左舷へ降りていった。
「左舷の小隊、魚雷発射」
遠い艦影の左舷の中央で、光が膨らんだ。
「命中。対象の左舷中央部。……火災の反応。機関の区画のあたりです」
艦長は窓の外を見た。対象の左舷の中央から、炎の色の光が漏れていた。光はしばらく揺れていた。それから、少しずつ小さくなっていった。
「火災、縮小。……消火されたようです。速力、変化なし」
対象はまだ同じ速さで進んでいた。
二番目と三番目の小隊の魚雷は、外れた。対象が大きく舵を切っていた。
最後の小隊が対象の艦尾の方から、低く入っていった。右舷の後部だった。
「右舷後部の小隊、魚雷発射」
光が対象の右舷の後部で、膨らんだ。
今度は左舷の時とは違った。
光が膨らんだ直後、対象の艦尾の右側で、何か大きなものが、艦体の外板を内側から押し上げるように動いた。外板が裂け、その裂け目から、機関の噴射口の一つが斜めに傾いて見えた。
「命中。……対象の右舷後部。何かが動きました。外板の形が変わっています」
索敵担当の声が上ずった。
対象の艦影がゆっくりと左へ曲がり始めた。
「対象、左へ回頭」
艦長は表示を見た。対象は左へ曲がり続けた。十度。二十度。三十度。止まらなかった。
「……まだ、曲がっています」
対象は一周の半分ほど回ったところで、ようやく曲がる速さを落とした。それでも、真っ直ぐには戻らなかった。
Yウイングの編隊が対象から離れていった。攻撃を終えた機体が一つずつ、《レゾリュート》の方角へ向かっていく。
艦長は表示の上の、対象の航跡を見ていた。
真っ直ぐに進んでいた線が左へ曲がり、大きな弧を描き、また少し戻り、また左へ曲がっていた。
*
C.R.C. 7955.181 標準時〇七時二八分 《マレボランス》艦橋
「被害」
リュデク中将が言った。
『左舷中央部、機関区画ニ被弾。火災、消火完了。延焼ナシ』
整備のドロイドが表示を読み上げていった。
『右舷後部ニ被弾。……右舷ノ主機関ノ一基ガ、衝撃デ架台カラ外レ、艦体ノ構造ニ食イ込ンデイマス。右舷ノ主推進、出力低下』
『艦載機、ヴァルチャー残存、六十二。ハイエナ、十九。損傷機、別途十一』
「操艦は」
ラント大佐が訊いた。
『推進偏向機構ガ、主機関ノ食イ込ミニヨリ、変形。左ヘ、十二度ノ位置デ固定サレテイマス』
「固定」
『高速デ航行スレバ、本艦ハ左ヘ曲ガリ続ケマス。補助ノ推進デ相殺スレバ、直進ハ可能。タダシ、速力ハ、現在ノ四割ニ低下』
艦橋が静かになった。
リュデク中将は一拍遅れて、もう一つ訊いた。
「ハイパードライブは」
整備のドロイドが区画の表示を何度か切り替えた。
『……主ハイパードライブ、同期不能。右舷ノ主機関ノ食イ込ミガ、ハイパードライブノ区画ノ構造ヲ歪メテイマス』
「修復は」
『主ハイパードライブハ、修復不能。……補助ノハイパードライブハ、残ッテイマス。タダシ、制御ノ回路ガ損傷。修理ニ、約十二時間』
「十二時間」
リュデク中将はしばらく何も言わなかった。
「補助の修理を、急げ。十二時間、跳べない。十二時間、持ちこたえれば、跳べる」
窓の外で爆撃機の編隊が遠ざかっていくのが見えた。狙われたのは艦尾だった。ハイパードライブではなかった。あの編隊はこの艦が跳べなくなったことを、まだ知らないはずだった。
「補助の推進を最大に。直進を保て」
リュデク中将は言った。
「針路、ベスティンIV」
「四割の速さでは、ベスティンIVまで――」
ラント大佐が言いかけた。
「分かっている」
リュデク中将は星図を見ていた。ベスティンIVはまだ遠かった。
「それでも、針路はベスティンIVだ」
*
C.R.C. 7955.181 標準時〇七時四〇分 《ステッドファスト》
対象の舷側がこちらを向いた。
左へ曲がり続けていた艦が曲がりきったところで、ちょうど《ステッドファスト》を舷側の射界に捉えていた。狙ったのか、たまたまなのかは分からなかった。
「対象の通常砲、指向。本艦へ」
艦長は回避を命じた。古いドレッドノートは、若い艦のようには曲がれなかった。
最初の斉射が前部のシールドを叩いた。二度目がシールドを破った。三度目が艦首の砲塔の一つを吹き飛ばした。
「前部、被弾。第一砲塔、喪失。前部シールド、発生装置、応答なし」
「こちらからも撃て。当たらなくていい。撃っている間は向こうもこちらを見る」
《ステッドファスト》の古い砲が対象へ向けて撃ち返した。光は細く、対象のシールドの膜を浮かび上がらせるだけだった。
「対象の格納口から、爆撃機。ハイエナ、十二。本艦へ」
索敵担当の声が裏返った。
古い艦の対空の砲座は半分しか動いていなかった。残りの半分は四十年の間に、交換の部品が届かないまま止まっていた。
「動く砲座で全部撃て。艦首を爆撃機へ向けるな。腹を見せろ。腹の方が砲座が多い」
ハイエナの編隊が、《ステッドファスト》の艦腹へ降りてきた。対空の光条が編隊の中に二機分の穴を開けた。残りの十機が爆弾を放った。
艦腹で光が次々に膨らんだ。
「右舷、中央部に被弾。第二、第三区画、火災。……隔壁、閉鎖します」
「区画に人は」
「……まだ、残っています」
艦長は一瞬だけ目を閉じた。
「閉鎖しろ」
隔壁が閉まる音が艦の奥から伝わってきた。
四度目の斉射が艦腹に入った。艦が大きく揺れた。
「機関区画、被弾。速力、半分」
艦長は窓の外の巨大な艦影を見た。あれは、まだ撃ってくる。この艦はもう触接を保てない。保とうとすれば、沈む。
「離脱する」
艦長は言った。
「報告しろ。本艦、損傷、触接を維持できず。対象の位置、針路、速力、最後の値を送る。……対象は左へ曲がり続けている。真っ直ぐには進めていない」
《ステッドファスト》は、ゆっくりと対象から離れていった。
窓の外の艦影が少しずつ小さくなった。やがて、表示の上の印だけになった。
共和国はまた、目を失いかけていた。
*
C.R.C. 7955.181 標準時〇八時〇五分 第四任務群、プロクラメイター級《ランサー》
ヴァイアン代将の四隻が跳躍を抜けたのは、《ステッドファスト》の最後の報告の二十五分後だった。
船団の護衛から、二十三時間前に外された四隻だった。《ランサー》、《サーベル》、《ジャベリン》、《ハルバード》。Class〇・六の足で、ハイディアン・ウェイから南西の宙域まで、一度も止まらずに跳んできた。
「対象、確認。本艦の右舷の前方。……左舷をこちらへ向けています」
ヴァイアン代将は艦長席から身を乗り出した。
巨大な艦影が正面の遠くにあった。報告のとおり、真っ直ぐには進んでいなかった。ゆっくりと左へ曲がり、補助の推進の光が艦尾の右側で瞬いて、また少し戻る。その繰り返しだった。
「足が折れている」
ヴァイアン代将は言った。
「四隻、散開。対象の左舷の側から入る。一隻ずつ、交互に撃て。どの艦も長く射界に留まるな。沈める必要はない。遅らせればいい」
四隻のプロクラメイターが大きく広がった。
最初に撃ったのは、《サーベル》だった。対象の艦尾へ細い光の束が走った。対象の補助の推進の光が一瞬だけ乱れた。艦体がまた左へ振れた。
「対象、左へ振れました。……補助の推進で戻しています」
「《ジャベリン》、次。同じ所へ」
撃たれるたびに、対象は補助の推進で針路を戻さなければならなかった。戻すたびに速さが落ちた。
対象の格納口が開いた。
「ヴァルチャー、二十。ハイエナ、八。……四隻へ分かれて来ます」
「対空、全門。《ハルバード》と《ジャベリン》は、互いの対空を重ねろ。《サーベル》と本艦も」
ヴァルチャーの群れが、四隻の間を縫うように飛び回った。プロクラメイターの細い船体の周りで、対空の光条が網を張り、その網に引っかかった機体が一機ずつ砕けていった。砕けきらなかった一機が、《サーベル》の艦橋の窓の真下の外板に突っ込み、そこで燃え上がった。
『《サーベル》、艦橋下部に被弾。……艦橋、生きています』
ハイエナの編隊は、《ランサー》の艦尾へ降りてきた。
「回避、右。全速」
《ランサー》が傾いた。爆弾の半分が艦の横を抜けていった。残りの半分のうち二発が、艦尾の対空の砲座の列に落ちた。砲座の列が光の中で吹き飛んだ。
「艦尾、対空、三基喪失。死者あり」
ヴァイアン代将は窓の外の対象を見ていた。艦載機を出している間も、対象は撃たれるたびに補助の推進で針路を戻していた。艦載機を何度出してもあの艦の足は元には戻らない。
「撃ち続けろ。艦載機は対空に任せろ。主砲は対象の艦尾から外すな」
三十分、四隻は代わる代わる撃った。一度も対象の舷側の正面に長く留まらなかった。空にはヴァルチャーの残骸と、ハイエナの燃える破片がゆっくりと広がっていった。
対象の左舷の砲口の奥に、青白い光が溜まり始めたのは、その三十分が過ぎた時だった。
「対象の左舷、充填の兆候。目標、……《ハルバード》」
索敵担当の声が艦橋に響いた。
「《ハルバード》へ。通達のとおりにやれ」
ヴァイアン代将が言う前に、《ハルバード》の艦長の声が回線に入っていた。
『《ハルバード》、母線の機械遮断、準備完了。弾薬区画、隔離弁、手動の位置へ。回避します』
青白い光が対象の左舷から放たれた。
光は、《ハルバード》を包んだ。
細い船体が光の中で一度だけ震えた。機関の光が消えた。艦の灯りが消えた。
『兵装母線、切断!』
回線の雑音の奥で、誰かが叫んでいた。
『弾薬庫、隔離! ……危険区画、減圧!』
《ハルバード》は、暗いまま、漂い始めた。
何も、起きなかった。
前部で火が走ることも、白い光が艦体の内側を駆けることもなかった。
「《ハルバード》、識別信号、健在。二次爆発、なし」
ヴァイアン代将は息を吐かなかった。対象の舷側の通常砲が止まった《ハルバード》の方へゆっくりと向き直りつつあった。
「《ジャベリン》、救難へ。トラクター・ビームで捕まえて、射線の外へ引け。《サーベル》と本艦は前へ出る。対象の舷側へ二隻で撃ち込め。あれの砲をこちらへ向けさせろ。《ハルバード》へ集まるな」
『《ジャベリン》、了解』
《ランサー》と《サーベル》が、対象の斜め前へ出た。光の束が対象の舷側の砲座へ続けざまに入った。対象の通常砲の半分が二隻の方へ逸れた。
《ジャベリン》が、漂う《ハルバード》の横に並んだ。
「トラクター・ビーム、捕捉。牽引、開始」
暗くなった艦体が見えない腕に引かれて、ゆっくりと射線の外へ動いていった。
その動きをハイエナの残りの編隊が見つけた。
「ハイエナ、四。《ジャベリン》と《ハルバード》へ」
牽引している間、《ジャベリン》は大きく舵を切れなかった。舵を切れば、トラクター・ビームが外れる。
『《ジャベリン》、回避できません。対空、全門で受けます』
「《サーベル》、下がって《ジャベリン》の上を押さえろ」
《サーベル》が、艦橋の下で火を引いたまま、二隻の上へ回り込んだ。《サーベル》と《ジャベリン》の対空の光条が四機のハイエナの周りで重なった。一機が砕け、二機目が砕けた。三機目が爆弾を放つ前に火を噴いて逸れた。
四機目の爆弾が、《ジャベリン》の艦首の脇に落ちた。光が膨らみ、艦が揺れた。トラクター・ビームは外れなかった。
『《ジャベリン》、艦首に被弾。……牽引、継続中』
射線の外へ出たところで、《ジャベリン》の艦腹から作業艇が離れた。艇の後ろに、太い給電索が伸びていた。
『外部給電、一番系統、接続』
『生命維持の母線、復帰』
『冷却ポンプ、一番、回転開始』
暗かった《ハルバード》の艦体に灯りが一列ずつ戻っていった。
『主反応炉、始動の手順に入る。外部電力、保持。……点火』
数秒、何も聞こえなかった。
『……出力、二パーセント。四……七……上がっています。……十二。十八』
ヴァイアン代将は前方の対象を見ていた。耳だけが、《ハルバード》の回線を聞いていた。
『主反応炉、自立運転。外部給電、切り離し可能。……主砲もシールドもまだ戻りません。自力で退避できます』
「退避しろ」
ヴァイアン代将は言った。
「《ジャベリン》は、戻れ」
一日前、《ヘリオス》は、同じ光を浴びて、四秒で折れた。今日、《ハルバード》は、自分の力で退避していった。
変わったのは、昨日の朝に三時間余りで書かれた通達の文面と、艦長たちの手の置き場所だけだった。
*
C.R.C. 7955.181 標準時〇九時一〇分 ハイパースペース、ハービンジャー
TF-35の三隻はまだハイパースペースの中にいた。
司令部区画の表示には中継で届く戦況が流れていた。シーアは出航してから、その表示をほとんど閉じていなかった。
プロクラメイターの触接。キャリアータイプの航空攻撃。触接の喪失。連合の長い通信と、扇の図。コルベットの発見。《ステッドファスト》への誤認と、第二波の命中。舵の固定。第四任務群の到着と、《ハルバード》の救難。
どの報告にも同じ回線の名前が付いていた。艦隊提督の司令部。
触接の艦には見失うなと言い、近づきすぎるなと言い、艦を残せと言っていた。オープン・サークルには命令ではなく、要請を送っていた。第四任務群には到着の時刻と、入る方角を指示していた。TF-35には三時間ごとに対象の予測の位置と、到着の予測の時刻が届いていた。
ばらばらの艦が一つの図の上に並べられていた。
「誰かが組んでいますね」
コルヴェンが言った。
シーアは表示から目を離さなかった。
「組んでいます」
昨日までの共和国にはなかったものだった。本部と、ジェダイと、艦隊が別々の命令で別々に同じ敵を追っていた。今は法の上では何も変わっていない。オープン・サークルに命令する権限は、あの司令部にはない。それでも、全部の艦が一つの図の上で動いていた。
図を描いている者が一人いた。
「法の上では、まだ一つの艦隊ではありません」
シーアは言った。
「でも、今は一つの艦隊のように動いている。あの人の図の上で」
コルヴェンは何も言わなかった。
ケレンが茶を置いていった。シーアはそれを手に取った。温かかった。
*
C.R.C. 7955.181 標準時一〇時五〇分 南西宙域
第四任務群の二隻が、まだ対象の左舷の側で撃ち続けていた時だった。
対象の後方の遠くで、光が三つ、生まれた。
跳躍を抜ける、大きな艦の光だった。
ヴァイアン代将は、《ランサー》の艦橋でその三つの艦影を見た。マエルストローム級だった。三隻とも上部構造の上に二つの艦橋を並べた、見慣れた形をしていた。
先頭の艦の上部構造に、艦隊の司令旗の識別が点灯していた。
「……艦隊提督の旗艦です。《リゲル》」
通信士が言った。
回線に低い声が入った。朝から何度も命令と要請を送ってきた声だった。今度は映像が付いていた。
白髪の、背の高い男だった。司法軍の頃から、コア宙域の防衛艦隊を預かってきたという。マティアス・ホーン艦隊提督。艦橋の窓を背にして、表示の上の対象を見ていた。
『ヴァイアン代将。第四任務群、よくやった。《ハルバード》は』
「自力で退避しました」
『ならいい。左舷の側を本艦隊が引き継ぐ。第四任務群は砲戦圏から下がって、対象の進路前方へ回れ』
「了解」
ホーンは別の回線を開いた。オープン・サークルの打撃群の回線だった。
『こちら、艦隊提督ホーン。《レゾリュート》、ユラーレン提督』
少しして、ユラーレンの声が返ってきた。
『ユラーレンです』
『本艦隊は対象の左方へ展開する。可能なら、そちらの艦で対象の右方を押さえてほしい。ベスティンIVへの航路を右から塞いでもらえれば、対象はどちらへも抜けられない』
命令ではなかった。要請だった。
回線の向こうで、短い沈黙があった。プロ・クーンの声がそこへ加わった。
『……了解した、提督。右方へ回る』
『感謝する』
ホーンは回線を閉じた。
法の上では、何も変わっていなかった。マエルストロームの三隻と、プロクラメイターの残りと、ドレッドノートは統合作戦本部の艦だった。ヴェネターと、爆撃機の編隊はオープン・サークルの艦だった。二つの間に命令の線は一本も引かれていなかった。
それでも、全部の艦が一人の男の図の上で、左と右に分かれて動き始めていた。
*
C.R.C. 7955.181 標準時一二時四〇分 《マレボランス》艦橋
「共和国大型艦、左方ニ三。マエルストローム級」
索敵のドロイドが報告した。
『右方ニ、ヴェネター級ヲ含ム艦隊。オープン・サークル』
『前方外縁ニ、プロクラメイター級、三。進路ヲ監視』
リュデク中将は表示を見ていた。
左に、右に、前方の外縁に。この艦の周りに、共和国の艦が並んでいた。どれも、まだ撃ってはこなかった。ただ、どの方角にも抜ける隙間を残していなかった。
「補助のハイパードライブ」
『修理完了マデ、七時間』
「ベスティンIVまで」
『現在ノ速力デ、十一時間』
リュデク中将は何も言わなかった。
七時間、持ちこたえれば、跳べる。ベスティンIVまでは、十一時間。どちらにしても、まだ遠かった。
ラント大佐が艦長席の前に立っていた。オルス中佐が航法の表示の横で、補助の推進の出力を見ていた。艦は、左へ曲がろうとするのを補助の推進で押さえながら、四割の速さで進んでいた。
索敵のドロイドが首を跳ね上げた。
「跳躍反応。……前方。別ノ方向ニ、大型反応、三」
「識別」
ドロイドは数秒、表示を切り替えていた。
『テクター級』
艦橋が静かになった。
指揮官型が艦長席の横で首を一度だけ傾けた。識別のデータベースが自動で照合した結果が、表示の隅に出ていた。
艦名、ハービンジャー。艦級、テクター。脅威度、七一号相当。
その下にあと二つ、艦名が並んでいた。《ヘラルド》。《エンヴォイ》。どちらもデータベースに記録のない艦だった。
三隻はこの艦の真正面に、艦首を揃えて並んでいた。