STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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デヴァロンに眠る

 巨艦、追撃!

 

 一昼夜に及ぶ追撃の末、共和国の爆撃隊は、分離主義者の巨大戦艦《マレボランス》の足を折った。

 

 跳躍の力を失い、舵を奪われた巨艦は、それでもなお、ベスティンIVの修理ドックを目指して進み続ける。

 

 その行く手、デヴァロンの宙域に、三つの艦影が現れた。

 

 カリダで鍛え上げられた、テクター級の砲戦群である――

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一二時三二分 ハイパースペース、ハービンジャー

 

 跳躍を抜ける八分前、シーアは三隻への回線を開いた。

 

 ソーンとブレインの像が艦長席の横の表示に並んだ。二人とも艦橋の窓を背にしていた。窓の外はハイパースペースの光の流れだった。

 

「艦隊提督の司令部から、最後の位置が届きました」

 

 シーアは言った。

 

「対象はデヴァロンの外縁を通常航行中です。主ハイパードライブは依然使用不能。補助のハイパードライブの修理が終わるまで、推定であと七時間。ベスティンIVへ向け、四割の速力で進んでいます。跳躍の終了点はその予想航路の正面です。跳躍を抜けた時、対象は艦首をこちらへ向けているはずです」

 

『正面、ですか』

 

 ソーンが言った。

 

「正面です。あの艦の大型砲は両舷にしかない。正面にいる限り、こちらへは向きません。向けるためには回らなければならない。回るための舵は固まっています」

 

 ブレインが少しだけ息を吐いた。

 

『カリダで五日かけて練習したのはそれでしたか』

 

「それだけを練習したわけではありません」

 

 シーアは答えた。

 

「でも、それが一番役に立つと思います。艦首を揃える。時刻を揃える。対象が回ったら、揃ったまま滑る」

 

 二人の艦長は何も言わなかった。頷いただけだった。

 

 回線を閉じると、ケレンが盆を持って艦橋へ上がってきた。

 

「代将。お茶を」

 

「後で」

 

 シーアは言った。

 

「終わってから、もらいます」

 

 ケレンは盆を持ったまま、艦橋の後ろに下がった。

 

 技術区画から、リラの声が届いた。

 

「前部反応炉、上限の出力で準備完了。冷却、規定値の五割。……いつでも」

 

「跳躍、抜けます。五、四――」

 

 航法担当が数え始めた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一二時四〇分 デヴァロン近傍、ハービンジャー

 

 跳躍を抜けると、正面に、それがいた。

 

 デヴァロンの星系の外縁だった。銀河平面座標M-13。跳べなくなった対象がベスティンIVへ向かうなら、通常航行のまま、この外縁を通るしかなかった。艦隊提督はTF-35の跳躍の終了点を、その予想航路の真正面に置いていた。遠くに、デヴァロンの主星が白く小さく光っていた。

 

 その手前に巨大な艦影があった。

 

 シーアは艦橋の窓からそれを見た。

 

 二年前、ラクサスの卓で、七一号の寸法の申告を見た。全長四千八百四十五メートル、と書かれていた。その数字の艦が今、窓の外にあった。数字は艦の大きさを伝えなかった。細長い船体が窓の端から端まで横たわっていた。両舷に巨大な砲口が開いていた。

 

 艦は真っ直ぐには進んでいなかった。ゆっくりと左へ曲がり、艦尾の右側で補助の推進の光が瞬き、また少し戻る。右舷の後部の外板が、内側から押し上げられたように裂けていた。艦首の下からは細い白い筋がまだ漏れていた。

 

 コルヴェンが艦長席の横で表示を読み上げた。

 

「対象、確認。距離、主砲の射程の内側。対象の艦首、本艦の方位。……真正面です」

 

「対象の大型砲は」

 

「両舷ともこちらを向いていません。この向きでは、撃てません」

 

 シーアは窓の外の艦影を見ていた。

 

 真正面にいる限り、あの艦の両舷の砲はこちらへ届かない。撃つためには九十度、回らなければならない。その九十度が今のあの艦には、とても遠い。

 

 艦橋の誰も口を開かなかった。後ろの技術区画で、リラが前部反応炉の表示を見ていた。《ヘラルド》と《エンヴォイ》の艦長の像が艦長席の横の表示に並んでいた。

 

 シーアは三隻への回線を開いた。

 

「三艦、艦首を揃えてください」

 

 ソーンとブレインの像が同時に頷いた。

 

『《ヘラルド》、艦首、揃えます』

 

『《エンヴォイ》、揃えます』

 

 ハービンジャーの左右で、二隻のテクターがゆっくりと向きを直した。三隻の艦首が同じ一点を指した。

 

「重イオン砲。対象の前部シールド」

 

 シーアは言った。

 

「落ちたら、重ターボレーザーへ」

 

 それだけだった。

 

 コルヴェンが砲術士官の方を向いた。《ヘラルド》と《エンヴォイ》でも、同じ命令が、それぞれの艦長から砲術士官へ下ろされていった。

 

「目標一、対象。旗艦の番号で」

 

「三艦、前部反応炉、全開。重イオン砲、連続射撃」

 

 五日前、カリダの訓練宙域で、三隻の射撃の時刻を揃えた。揃えるのは、一撃で決める時のためだった。シールドを剥がすのに、揃える必要はなかった。途切れなければよかった。

 

「撃て」

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一二時四一分 《マレボランス》艦橋

 

「前方ノ共和国艦、発砲」

 

 青白い光が三つの方角から、途切れずに届き始めた。

 

 艦首のシールドが膜になって浮かび上がった。青白い網のような光が膜の上を走った。

 

『前部シールド、負荷、八十二パーセント』

 

 リュデク中将は艦長席の後ろに立っていた。艦橋の窓の外に、三隻のテクターが横一列に艦首を揃えて並んでいた。

 

「回頭しろ」

 

 ラント大佐が言った。

 

「左舷の大型砲をあの三隻へ。九十度」

 

『回頭、開始。……補助推進、最大』

 

 二度目の青白い光が届いた。

 

『前部シールド、負荷、九十四パーセント』

 

 艦体がゆっくりと右へ回り始めた。右へ回らなければ、左舷は前を向かない。だが、この艦の推進偏向機構は、左へ十二度の位置で固まっていた。右へ回ろうとするたびに、艦は左へ戻ろうとする。補助の推進がその力と押し合っていた。

 

『回頭速度、上ガリマセン』

 

「補助推進をさらに」

 

『限界デス』

 

 三度目の光が届いた。

 

 艦首の膜が一度大きく明滅して、消えた。

 

『前部シールド、喪失』

 

 艦橋が静かになった。

 

 ラント大佐は窓の外を見た。三隻のテクターの上部構造の砲塔が、一斉に旋回していた。どの砲塔もこの艦の艦首へ向いていた。

 

 指揮官型が艦長席の横で首を一度だけ傾けた。

 

『共和国ノ艦ヲ、正面ニ置クナ』

 

 その言葉は、今度は、誰にも届かなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一二時四三分 ハービンジャー

 

「前部シールド、喪失を確認」

 

 索敵担当が言った。

 

「重ターボレーザーへ」

 

 コルヴェンが命じた。

 

 ハービンジャーの上部構造の両舷に並んだ十二基の砲塔が、艦首の前へ射界を揃えた。《ヘラルド》の十二基、《エンヴォイ》の十二基も。三隻で三十六基。七十二門。

 

「三艦、重ターボレーザー、連続射撃。リアクター、全開」

 

「撃て」

 

 光が窓の外を塗り潰した。

 

 七十二門が、途切れずに撃ち始めた。一門が撃ち、隣の一門が撃ち、最初の一門がもう次を撃っていた。前部反応炉が、砲の充填を止めずに回し続けていた。光の束が、シールドを失った対象の艦首へ、絶え間なく叩き込まれた。外板が光の入った場所から剥がれていった。艦首の砲座の列が一つずつ砕け、破片の雲が艦首の前に噴き出した。索敵の塔らしい構造物が根元から折れて、ゆっくりと艦体から離れていった。

 

 艦橋の誰も声を上げなかった。

 

「命中、多数。対象の前部の砲座、少なくとも八基、沈黙。前部の索敵の構造物、一つ喪失」

 

「対象、回頭を続けています。右へ。……遅い」

 

 シーアは窓の外の艦影を見ていた。ゆっくりと艦体が右へ振れていく。左舷の砲口が少しずつ、こちらへ向きを変え始めていた。

 

「三艦、位置を修正。対象の艦首の前に、留まってください」

 

 三隻のテクターが揃って少しだけ左へ滑った。対象が右へ回った分だけ、三隻も回り込む。対象の左舷の砲口はまた三隻から逸れた。

 

 三隻は、滑りながら撃ち続けた。二つの反応炉が、砲と推進を別々に受け持っていた。滑る間も、光は途切れなかった。

 

 *

 

 《ヘラルド》の艦橋でソーンは、自分の艦の砲術士官の背中を見ていた。

 

 旧司法軍でドレッドノートの砲術長を長く務めた。何百回も射撃の号令を出した。その全部が演習の浮標か、せいぜい海賊の小型艇だった。自分より大きな艦に向けて、本気で撃ち続けたのはこれが初めてだった。

 

 窓の外で七十二門の光が、途切れずに、巨大な艦の艦首を削っていた。

 

「照準、そのまま。旗艦の番号の、目標一。連続射撃、続行」

 

 ソーンは言った。声が少しだけ震えていた。自分でも、それが分かった。

 

 砲術士官が、頷いた。前部反応炉の唸りが、艦橋の床を伝わってきた。止まらなかった。

 

 *

 

 《エンヴォイ》の艦橋でブレインは、表示の上の対象の姿勢を見ていた。

 

 プロクラメイターの副長だった頃、足の速い艦で誰よりも先に着くことばかり考えていた。今は足の遅い巨大な艦の正面に、ただ居続けることを考えていた。

 

「対象、また右へ。……左舷、こちらへ来ます」

 

「位置修正。旗艦に合わせて、左へ」

 

 《エンヴォイ》が、ハービンジャーと《ヘラルド》に合わせて、左へ滑った。三隻の間隔はカリダで決めた距離から、ほとんど崩れていなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一二時五二分 《マレボランス》艦橋

 

『前部ノ砲座、十一基、沈黙。前部ノ索敵塔、喪失。艦首ノ外板、複数区画デ貫通』

 

 整備のドロイドの報告が途切れなく続いていた。

 

 ラント大佐は表示の上の三隻を見ていた。右へ回れば、三隻は左へ滑る。いつまで経っても左舷の砲口の前に、三隻は来ない。

 

「右へ回るのをやめる」

 

 ラント大佐は言った。

 

「左へ回れ。右舷の大型砲をあの三隻へ向ける」

 

 オルス中佐が航法の表示から顔を上げた。

 

「左なら、推進偏向が固まっている方です。回頭が速い」

 

「そうだ。固まっているなら、使う」

 

『回頭、左ヘ。補助推進、解除』

 

 補助の推進の光が消えた。押さえつけられていた力が解け、艦体が今度は滑らかに左へ振れ始めた。右へ回ろうとしていた時の、倍の速さだった。

 

「右舷の大型砲、充填」

 

『ラジャー、ラジャー』

 

 リュデク中将は艦長席の後ろで、窓の外を見ていた。

 

「艦載機を出せ」

 

 リュデク中将は言った。

 

「全部だ。ヴァルチャーもハイエナも。あの三隻の砲を少しでも空へ向けさせろ」

 

『艦載機、発艦。ヴァルチャー、六十二。ハイエナ、十九』

 

 格納口が開いた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一二時五四分 ハービンジャー

 

「対象、回頭の方向を変えました。左へ。……速い」

 

 索敵担当の声が上ずった。

 

 シーアは窓の外を見た。巨大な艦影がさっきまでとは違う速さで、左へ振れていた。右舷の砲口がこちらへ回ってくる。

 

「固まっている方へ回っている」

 

 シーアは言った。

 

「左へは速く回れる。三艦、右へ位置を修正。急いで」

 

 三隻が右へ滑った。だが、対象の回頭の方が速かった。右舷の砲口の奥に、青白い光が溜まり始めていた。

 

「対象、艦腹から小型機、多数。ヴァルチャー、六十以上。ハイエナ、二十近く」

 

 コルヴェンが表示を読み上げた。

 

「対空、全門」

 

 コルヴェンが命じた。

 

 ハービンジャーの船体の縁が光った。

 

 船体の縁のトレンチの砲と、上部構造の縁に並んだ対空の砲座が、一斉に空へ向けて火を噴いた。《ヘラルド》と《エンヴォイ》の船体の縁も同じように光った。三隻の数え切れない砲口が、正面から押し寄せてくる小型機の群れへ、網を張った。

 

 ヴァルチャーの群れが、その網に飛び込んだ。

 

 光の網の中で翼を開いた機体が次々に砕けていった。一つの網目に三機、四機が同時に引っかかって、光の粒になった。砕けた破片が後から来た機体の前に散り、その機体も砕けた。

 

 ハイエナの編隊が網の外側を回り込んで、《エンヴォイ》の艦尾へ降りてきた。

 

『《エンヴォイ》、艦尾にハイエナ。……対空、艦尾へ集中』

 

 《エンヴォイ》の艦尾のトレンチが一斉に向きを変えた。ハイエナの編隊が爆弾を放つ前に、半分に減った。残りの半分が爆弾を放った。

 

 《エンヴォイ》の艦尾で光が膨らんだ。

 

『《エンヴォイ》、艦尾に被弾。シールドで止まりました。……外板、軽微』

 

 その時、右の方から、別の小さな光の群れが割り込んできた。

 

 Yウイングと、V-19の編隊だった。オープン・サークルの打撃群から出てきた機体だった。その先頭に、細い三角の機体が一機いた。ジェダイ・インターセプターだった。その機体が、ヴァルチャーの群れの横腹へ、真っ直ぐに突っ込んでいった。

 

『こちら、スカイウォーカー。艦載機はこっちで引き受ける。そっちはあのでかいのを見てろ』

 

 アナキンの声だった。

 

 シーアは一瞬だけ、回線の方を見た。命令ではなかった。どこの司令部からもそう命じられてはいなかった。艦隊提督の要請を受けたオープン・サークルが、右方を押さえるために出した機体だった。その機体を率いる男が自分でそう決めて、そう言っていた。

 

「……頼む」

 

 シーアは言った。

 

『任せろ』

 

 窓の外でヴァルチャーの群れが、Yウイングとトレンチの光の網の間で、ばらばらに崩れていった。

 

 《ヘラルド》の艦橋から、ソーンはその空を見ていた。

 

 V-19の一機がヴァルチャー三機に背後を取られ、トレンチの光の網の中へ自分から飛び込んできた。網の中でヴァルチャーの三機だけが砕けた。V-19は網の反対側から抜けて、また上昇していった。どこの操縦士なのかは分からなかった。クローンなのか、そうでないのかも。

 

 ハイエナの一機が火を噴きながら、《ヘラルド》の艦橋へ向かって真っ直ぐに落ちてきた。艦橋の前の対空の砲座が一斉にそれへ向いた。機体は艦橋の窓の百メートル手前で、光の粒になった。粒の一つが窓に当たって、小さな音を立てた。

 

 ソーンは窓の小さな傷を見た。それから、正面の巨大な艦影へ目を戻した。

 

「主砲、照準そのまま。連続射撃、続行」

 

「対象の右舷、充填の兆候。目標、……本艦」

 

 索敵担当の声が艦橋に響いた。

 

 右舷の砲口が真っ直ぐにこちらを向いていた。

 

「母線の機械遮断、準備。弾薬区画、隔離弁、手動の位置へ」

 

 コルヴェンが命じた。

 

「重イオン砲、対象の右舷の砲口。充填の前に止める。……ハービンジャーと《ヘラルド》、重イオン砲、斉射。旗艦の合図の三秒後」

 

 カリダで揃えた三秒は、この一撃のためだった。

 

「前部反応炉、出力、上限」

 

 リラの声が技術区画から届いた。

 

「冷却、追いついています。……撃てます」

 

「撃て」

 

 ハービンジャーと《ヘラルド》の両舷の重イオン砲が、同じ一瞬に、青白い光を放った。

 

 同じ瞬間、《エンヴォイ》の重ターボレーザーの連続射撃が、対象の艦首の上の構造物へ入っていた。艦首の上に突き出していた、艦橋の前の光学の装置の列だった。装置の列が光の中で砕けた。

 

 二隻の重イオン砲の光が、揃って、対象の右舷の砲口の奥へ吸い込まれた。

 

 砲口の奥の青白い光が一度大きく明滅した。それから、暴れた。溜まっていた光が砲口から外へではなく、砲口の周りの構造へ向かって噴き出した。砲口の周りの外板が内側から持ち上がり、裂けた。

 

 右舷の大型砲は撃たなかった。撃てなくなっていた。

 

「対象の右舷の大型砲、充填の中断を確認。……砲口の周りで爆発」

 

「重ターボレーザー。対象の左舷の砲口へ。今のうちに」

 

 シーアが言った。

 

 三隻の重ターボレーザーが、連続射撃のまま、回頭を終えかけていた対象の左舷の砲口へ、向きを変えた。左舷の砲口は右へ回っていた時の名残で、半分だけこちらを向いていた。

 

 光が走った。

 

 左舷の砲口の周りの配管の束が、光の中で砕けた。白い霧が噴き出した。続けて、砲口の奥の区画が光った。

 

「対象の左舷の大型砲、……沈黙」

 

 艦橋の誰かが長く息を吐いた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一三時〇五分 《マレボランス》艦橋

 

『右舷ノ大型イオン砲、使用不能。左舷ノ大型イオン砲、使用不能』

 

 整備のドロイドが報告を読み上げた。

 

『艦橋前部ノ光学装置、破壊。測距ノ精度、六割低下。主砲ノ照準、手動ニ切リ替エ』

 

 ラント大佐は艦橋の窓の外を見た。窓の半分にひびが入っていた。窓の外の景色が光学の装置を通した表示ではなく、肉眼で見るものになっていた。

 

 三隻のテクターがひびの向こうで、また艦首を揃えていた。

 

「主砲、手動で。目標、中央の艦」

 

 ラント大佐は言った。

 

「当てなくていい。撃ち続けろ。撃っている間は向こうも、こちらを沈めるために撃つ。撃っている間はこの艦はまだ戦っている」

 

 リュデク中将は何も言わなかった。

 

 艦載機の発艦の報告が途切れていた。発艦したヴァルチャーとハイエナのうち、戻ってきた機体の数が表示の隅に出ていた。

 

 ヴァルチャー、九。ハイエナ、二。

 

 リュデク中将はその数字を見ていた。それから、ラント大佐の方を向いた。

 

「大佐」

 

「はい」

 

「カダーンで君は撃ち返さなければ艦を失うと言った」

 

 ラント大佐は艦長席の前に立ったまま、振り返らなかった。

 

「言いました」

 

「君は正しかった。撃ち返したから《ヘリオス》を沈めた。撃ち返したから、《ポラリス》に三発もらった。三発もらったから、演習作戦は終わった」

 

 ラント大佐は何も言わなかった。

 

 リュデク中将は窓のひびの向こうの三隻を見た。

 

「……試験はもう済んだな」

 

「はい」

 

「撃ち続けろ」

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一三時一〇分 マエルストローム級《リゲル》

 

 マティアス・ホーン艦隊提督は、対象の左方から、戦場を見ていた。

 

 三隻のマエルストロームは対象の左の遠い位置に、横に広がっていた。右方にはオープン・サークルのヴェネターたち。前方の外縁には第四任務群のプロクラメイターが三隻。そして、対象の真正面に、テクターが三隻。

 

「提督。本艦隊も砲戦に加わりますか」

 

 参謀が訊いた。

 

 ホーンは真正面の三隻を見ていた。艦首を揃え、対象が回るたびに、揃ったまま滑る。三隻の光は、一度も途切れなかった。

 

「加わらない」

 

 ホーンは言った。

 

「対象は正面の三隻へ砲を向けようとしている。こちらが左から撃てば、こちらへ回る理由を与える。回れば、あの三隻の正面から外れる。今の位置を崩すな」

 

 ホーンは少しだけ間を置いた。

 

「それに、あの三隻の射撃解も崩したくない」

 

「では」

 

「逃げ道を塞ぐ。対象が左へ抜けようとしたら、撃て。それ以外は撃つな。砲戦はヴァラリアンにやらせろ」

 

 ホーンはTF-35の回線を開いた。

 

『ヴァラリアン代将。艦隊提督ホーンだ』

 

「ヴァラリアンです」

 

『対象の左方は本艦隊が塞いでいる。右方はオープン・サークルが塞いでいる。前方の外縁は第四任務群。君の三隻の前に、対象が逃げる道はない』

 

 ホーンは少しだけ間を置いた。

 

『仕留めるのは君の三隻だ。こちらから、砲は混ぜない』

 

「了解しました」

 

 回線が切れた。

 

 シーアはしばらく暗くなった回線の表示を見ていた。命令ではなかった。この追撃の全体を組んできた男が、最後の一手を三隻に渡していた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一三時二三分 ハービンジャー

 

「対象の主砲、……全門、沈黙」

 

 索敵担当が報告した。

 

 シーアは艦橋の時計を見た。交戦開始から、四十三分だった。

 

 窓の外の艦影はまだ動いていた。補助の推進の光が艦尾で瞬いていた。副砲と、局所の対空の砲座のいくつかが、まだ散発的に光を放っていた。だが、この三隻に届く重い砲はもう一つも撃っていなかった。

 

 ここから先は撃ち合いではなかった。

 

「距離を詰めます」

 

 シーアは言った。

 

「ハービンジャーは対象の右舷へ。《ヘラルド》は左舷へ。両側から挟みます。《エンヴォイ》は正面に残って、上の砲塔で撃ち続けてください。対象が回ろうとしたら、その向きを押さえる」

 

 コルヴェンが振り返った。

 

「挟む」

 

「上の砲塔だけでは、あの船体を沈めるまでに時間がかかります。時間がかかれば、連合の救援が来るかもしれない。近づいて、両舷の縁の砲で撃ちます」

 

 ソーンの像が回線の向こうで頷いた。

 

『《ヘラルド》、左舷へ回ります』

 

『《エンヴォイ》、正面に残ります』

 

 リラが技術区画から言った。

 

「前部反応炉、上限であと二時間半。……持ちます」

 

「持たせてください」

 

 ハービンジャーが右へ回り込みながら、前へ出た。《ヘラルド》が、左へ。二隻の艦影が対象の艦首の両脇を抜けて、巨大な船体の左右へ並んでいった。

 

 対象の舷側が生きていた。

 

 主砲は沈黙していた。だが、舷側に並んだ中口径の砲の列が、まだ半分以上残っていた。近づいてくる二隻へ向けて、その列が一斉に光を放った。至近の距離からの、舷側の斉射だった。

 

「右舷シールド、負荷六割。……七割」

 

「《ヘラルド》、左舷シールド、負荷七割。持っています」

 

「震盪ミサイル。対象の艦首の下の区画。燃料の漏れている場所」

 

 ハービンジャーの艦首の発射口から、ミサイルが次々に放たれた。細い白い尾を引いて、対象の艦首の下へ向かっていく。

 

 着弾の光が艦首の下で連なった。漏れていた白い筋が一度太くなり、それから火の色に変わった。

 

 さらに近づいた。

 

 対象の艦影が窓いっぱいに広がった。外板の継ぎ目も舷側の砲の一つ一つも、肉眼で見分けられる距離だった。外板のあちこちで、火が揺れていた。燃焼の気体と冷却材と破片の雲が、艦体を包むように広がっていた。その雲の中から、舷側の砲の光がまだこちらへ伸びてきていた。

 

「トレンチ、左舷側、全門」

 

 コルヴェンが命じた。ハービンジャーの左舷が対象の右舷に向いていた。

 

「目標、対象の右舷。舷側の砲の列から。区画ごとに順に」

 

 ハービンジャーの左舷の船体の縁が、光った。

 

 片舷のトレンチに並んだ三十基の重ターボレーザーと、三十門のイオン砲が至近の距離から、対象の右舷へ撃ち込まれた。上の砲塔の太い光条ではなかった。細い光条が数で舷側を埋め尽くした。イオン砲の青い光が舷側の砲と配電を焼き、その上からターボレーザーの赤い光が外板を削っていく。舷側の砲が一つ、また一つと黙っていった。

 

 対象の反対側でも、同じ光が走っていた。《ヘラルド》の右舷のトレンチが対象の左舷を削っていた。

 

 巨大な艦は両側から挟まれていた。

 

 対象の右舷の砲の列の、まだ生きていた最後の数門が、ハービンジャーへ向けて撃ち返した。一発がハービンジャーのシールドを抜けて、左舷のトレンチの一角に入った。

 

「左舷トレンチ、第四区画に被弾。砲塔、三基喪失。負傷者あり」

 

「区画を閉鎖。残りで撃ち続けてください」

 

 ハービンジャーの残りの砲が、撃ち返してきた砲の位置へ集まった。その区画の外板が光の中で剥がれ、中の砲が沈黙した。

 

 外板が剥がれ、その下の区画が露わになり、露わになった区画の中へ次の光が入っていった。

 

 テクター級は遠くの艦を上の砲塔で殴り、近づいたら船体の縁の全部で撃つ艦として造られていた。二つの反応炉がそのために積まれていた。

 

 ウォレックス・ブリセックスが設計図の上で描いた戦い方を、ハービンジャーは今初めて、その通りにしていた。

 

 *

 

 技術区画でリラは前部反応炉の表示を見ていた。

 

 冷却の戻り側の数字は規定値の八割で止まっていた。三日前に替えた熱交換器が、上限の出力に追いついていた。

 

 窓の外は見えなかった。技術区画には窓がなかった。ただ、船体を伝わってくる振動で、トレンチの砲が撃ち続けているのが分かった。

 

 この艦は使われている。父はそう書いてきた。

 

 リラは数字を記録し続けた。一分ごとに。規定値の八割。八割。八割。

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一三時四一分 《マレボランス》

 

 艦橋に直撃が来たのは、交戦開始から一時間が過ぎた頃だった。

 

 ひびの入っていた窓が一瞬で白くなった。重い密閉のシャッターが窓の上から落ちかけた。落ちきる前に光が入ってきた。

 

 オルス中佐はその時、艦橋にいなかった。

 

 燃料の漏出の区画の閉鎖を指揮するために、艦の後部の応急の指揮所へ降りていた。艦橋との回線が突然、雑音だけになった。

 

「艦橋。艦橋、応答を」

 

 雑音だけだった。

 

 オルス中佐は応急の指揮所の表示で、艦橋の区画の状態を開いた。区画の表示は全部、赤かった。気圧、なし。生命反応、なし。

 

 リュデク中将と、ラント大佐がそこにいた。

 

 オルス中佐はしばらく表示を見ていた。それから、応急の指揮所の要員たちの方を向いた。誰も何も言わなかった。全員が中佐の顔を見ていた。

 

「……本艦の指揮を副長が継承する」

 

 オルス中佐は言った。声は自分でも驚くほど平らだった。

 

「被害を」

 

 応急の指揮所の扉が開いた。

 

 入ってきたのは黄色い塗装の指揮官型ドロイドだった。片方の腕が肘から先で失われていた。胴の塗装が焼け焦げ、頭部の片側がへこんでいた。それでも、歩いていた。

 

『艦橋、全損。リュデク中将、ラント大佐、戦死。……本機ハ、艦橋ノ後部ニ居マシタ。連絡路ヲ通ッテ、ココヘ』

 

「被害を報告しろ」

 

『主砲、全門使用不能。大型イオン砲、両舷使用不能。推進、補助系統ノミ。補助ノハイパードライブノ区画ニ被弾。修理ノ見込ミ、ナシ。艦体ノ各所デ火災。区画ノ四割ガ、気圧ヲ失ッテイマス』

 

 オルス中佐は表示を見た。

 

 艦体の図の上で、赤い区画が少しずつ広がっていた。前部から。舷側から。外では、あの三隻の光が止まることなく入り続けていた。

 

『共和国艦カラ、通信デス』

 

 通信の席のドロイドが報告した。

 

『降伏ノ要求。……発信、TF-35司令官』

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一三時五八分 ハービンジャー

 

「こちら、共和国グランド・アーミー、TF-35司令官」

 

 シーアは対象への回線に言った。

 

「貴艦の主砲、大型砲、主推進は使用不能と認める。これ以上の抵抗は乗員の生命を失わせるだけだ。降伏を要求する。降伏すれば、射撃を止め、乗員を救助する」

 

 回線はしばらく雑音だけだった。

 

 シーアは窓の外の艦影を見ていた。

 

 至近の距離から見る艦はもう、元の形をしていなかった。艦首は外板が剥がれて骨組みが見えていた。舷側の砲座の列は、ほとんどが黒く焦げた穴になっていた。艦体のあちこちから、火と気体と破片がゆっくりと噴き出していた。燃焼の生成物と冷却材と、砕けた装甲の粒が艦体を雲のように包んでいた。その雲の中でまだ幾つかの局所の砲座が、散発的に光を放っていた。

 

 命中の数は情報担当が数え続けていた。最後に読み上げた時、四百に近かった。

 

「……応答、ありません」

 

 通信士官が言った。

 

「射撃を続けますか」

 

 コルヴェンが訊いた。

 

 シーアは答える前にもう一度だけ、回線に呼びかけた。

 

「繰り返す。降伏を要求する」

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一三時五九分 《マレボランス》、後部応急指揮所

 

 オルス中佐は降伏の要求を二度聞いた。

 

 降伏の規程は知っていた。敵の火力が本艦の防御能力を著しく上回り、離脱の見込みがない場合、艦長は指揮下の資産の保全のため、降伏を選択することができる。今の、この艦の状態に、そのまま当てはまった。

 

 指揮官型が焼けた頭部を傾けた。

 

『副長。本艦ニハ、降伏規程ヨリ上位ノ規程ガアリマス』

 

「読め」

 

 指揮官型は片方だけ残った腕で、応急の指揮所の端末を開いた。最初の航海の間、将軍の横で見出しだけ読んだ頁だった。二度目の航海で、最初の条文まで読み、それから最後まで読んだ頁だった。

 

『戦略級兵器ノ保全ニ関スル規程』

 

 指揮官型は読み上げた。抑揚のない声だった。

 

『第一条。試験中ノ戦略級兵器ヲ搭載スル艦ノ指揮官ハ、当該兵器ヲ敵手ニ引キ渡シテハナラナイ。

 

 第二条。当該艦ガ航行ノ能力ヲ失イ、敵ニヨル捕獲ガ避ケラレナイト判断サレル場合、指揮ヲ執ル者ハ、乗員ヲ退艦サセタ上デ、当該艦ヲ破壊シナケレバナラナイ。

 

 第三条。本規程ハ、降伏ニ関スル規程ヲ含ム、他ノ全テノ規程ニ優先スル』

 

 応急の指揮所の中が静かになった。

 

 オルス中佐は表示の上の艦体の図を見た。赤い区画がまた広がっていた。

 

 外の三隻は撃ち続けていた。降伏すれば、撃つのを止めると言っていた。止めれば、この艦はあの三隻の手に渡る。両舷の大型砲の残骸も試験の記録も、この艦がどう造られたかの全部も。

 

「総員、退艦」

 

 オルス中佐は言った。

 

「脱出艇へ。全区画に。……それから、自沈の準備。機関区画と、大型砲の区画に、爆破の装薬を」

 

『ラジャー、ラジャー』

 

 指揮官型が端末を閉じた。

 

「お前は」

 

 オルス中佐が訊いた。

 

『本機ハ、装薬ノ設置ヲ手伝イマス。有機体ノ乗員ヨリ、区画ノ気圧ヲ必要トシマセン』

 

 オルス中佐はそのドロイドの焼けた頭部を見た。

 

「……設置が済んだら、お前も脱出艇に乗れ」

 

『規程ニ、ソノ条項ハアリマセン』

 

「命令だ」

 

 指揮官型は首を一度だけ傾けた。

 

『ラジャー、ラジャー』

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一四時〇三分 ハービンジャー

 

「対象から、小型の反応、多数。……脱出艇です」

 

 索敵担当が声を上げた。

 

 窓の外の、火と気体の雲の中から、小さな光の粒が次々に離れていった。艦腹の各所から。艦尾から。艦首の、骨組みの見えている区画の近くから。

 

「降伏の応答は」

 

「ありません」

 

 シーアは脱出艇の光を見ていた。降伏しないまま、乗員が艦を捨てている。

 

「TF-35、全艦。撃ち方、止め」

 

 シーアは言った。

 

「脱出艇には一発も当てないでください」

 

 コルヴェンが復唱し、砲術士官へ命じた。ハービンジャーのトレンチの光が、止まった。反対側の《ヘラルド》のトレンチも正面の《エンヴォイ》の上部の砲塔も光を止めた。

 

 窓の外で光がまだ走っていた。

 

 左の遠くからはもう光は来ていなかった。艦隊提督のマエルストロームは、最初から撃っていなかった。

 

 右の遠くから、ヴェネターの砲の光が一本、二本と届いていた。

 

「オープン・サークルの艦がまだ撃っています」

 

 コルヴェンが言った。

 

「脱出艇が出ていることを知らせてください。直接」

 

 シーアは言った。

 

 通信士官が、オープン・サークルの打撃群の回線を開いた。

 

 右の光は三分後に止んだ。

 

 その三分の間に、対象の艦尾で光が二度、膨らんだ。

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一四時〇五分 《マレボランス》、機関区画

 

 装薬の設置は済んでいた。

 

 指揮官型は機関区画の通路の端で、起爆の表示の前に立っていた。オルス中佐は最後の脱出艇へ向かう前に、表示の時刻を確かめていた。

 

『乗員ノ退艦、九割完了。残リハ、後部ノ脱出艇ニ』

 

「起爆まで」

 

『三分』

 

 オルス中佐は機関区画の通路を見渡した。火と煙の中で、配管の継ぎ目から冷却材が噴き出していた。TF-35の砲撃はもう止んでいた。右舷の遠い方から、まだ時々、衝撃が伝わってきた。それとは別に艦体のどこかで、火が次の区画へ移っていく音が、床を伝わってきた。

 

 この艦はもう、沈みかけていた。装薬がなくても沈むのかもしれなかった。装薬があれば、確実に沈む。

 

「行くぞ」

 

 オルス中佐は言った。

 

 指揮官型は首を傾けた。

 

『本機ハ、起爆ノ確認ヲ行イマス。起爆ノ装置ガ、火災デ誤作動スル可能性ガアリマス』

 

「確認は脱出艇から遠隔でできる」

 

『遠隔ノ回線ハ、艦橋ト共ニ失ワレマシタ』

 

 オルス中佐はそのドロイドを見た。焼けた頭部と、失われた片方の腕を。

 

 命令だ、と言おうとした。それから、言わなかった。

 

「……記録に残す」

 

 オルス中佐は言った。

 

「お前が何をしたかを」

 

『ラジャー、ラジャー』

 

 オルス中佐は最後の脱出艇へ走った。

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一四時〇八分 デヴァロン近傍

 

 最初の光は艦の中央から出た。

 

 ハービンジャーの艦橋の窓から、それは見えた。火と気体の雲に包まれた巨大な艦体の、ちょうど真ん中で、白い光が一つ、内側から膨らんだ。続けて、艦尾の方でもう一つ。大型砲の区画のあった場所で、さらにもう一つ。

 

 光は互いに繋がっていった。

 

 艦体が中央から、ゆっくりと裂けた。

 

 音はなかった。前部と後部が別々の方向へ離れていった。四千八百メートルを超える艦が、二つの長い残骸になって、デヴァロンの主星の白い光の中を、ゆっくりと回りながら離れていった。その間から、炎と破片の雲が見る間に広がっていった。

 

「対象、識別信号、……消失」

 

 索敵担当が言った。

 

 艦橋の誰も声を上げなかった。

 

 交戦開始から、八十八分だった。

 

 シーアは窓の外の二つの残骸を見ていた。

 

 ラクサスの卓で、七一号の寸法を問い詰めた。記載のないものは、戦力もないものとして計算はできない、と言った。その卓の向こうに、この艦の同型の二番艦の申告があった。この艦自体はどの附属書にもどの欄にも、載っていなかった。

 

 載っていなかった艦が今、二つに折れて、回っていた。

 

 コルヴェンが艦長席の横で何か言いかけた。

 

「生存艇を拾ってください」

 

 シーアは言った。

 

 コルヴェンが振り返った。

 

「脱出艇の数を数えて、全部に信号を送ってください。降伏の手順で収容する。有機体の乗員もドロイドも」

 

「……了解」

 

 コルヴェンは通信士官へ命じた。

 

 シーアは窓の外を見続けていた。残骸の雲の中を脱出艇の小さな光が、ゆっくりと漂っていた。その一つ一つに、この艦を動かしていた者たちが乗っていた。

 

 ケレンが茶を運んできた。シーアの手元に、カップを置いた。

 

 シーアはそれを手に取らなかった。ただ、脱出艇の光の数を一つずつ数えていた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一四時二五分 ハービンジャー、格納区画

 

 ハービンジャーが収容した脱出艇は、七隻だった。

 

 乗っていたのは有機体の乗員が百四十人余りと、ドロイドが二十体ほどだった。有機体の乗員はほとんどが火傷と打撲を負っていた。ドロイドの何体かは自分で歩けなかった。警備班が全員を格納区画の一角へ集め、武器を持っていないことを確かめていった。

 

 その中に中佐の徽章を付けた男がいた。

 

 制服が半分焼けていた。顔も煤で黒かった。警備班の班長がシーアを見て、その男を指した。

 

「最後の脱出艇に乗っていました。艦の副長だと、本人が言っています」

 

 シーアはその男の前へ行った。

 

 男はシーアを見上げた。煤の下の目がシーアの顔と、制服の代将の徽章を順に見た。

 

「エーリク・オルス中佐。《マレボランス》副長。……最後の指揮を執った」

 

「アレクシアール・ヴァラリアン。TF-35司令官です」

 

 オルス中佐はしばらくシーアの顔を見ていた。

 

「撃つのを止めたのはあなたか」

 

「私の三隻は止めました」

 

「他の艦は止めなかった」

 

「全部を一度に止める命令を出せる者が、いませんでした」

 

 オルス中佐は少しだけ口元を動かした。笑ったのではなかった。

 

「そちらもそうか」

 

 シーアは何も言わなかった。

 

「降伏の要求には答えなかった」

 

 オルス中佐は言った。

 

「答えられなかった。降伏の規程より、上の規程があった。この艦を渡してはならない、と」

 

「そうでしょうね」

 

 シーアは言った。

 

「そういう規程があるだろうとは、思っていました」

 

 オルス中佐はシーアを見た。

 

「装薬の起爆を最後まで見届けたドロイドがいた。黄色い、指揮官型の。片腕がなかった。脱出艇に乗れと命じたが、乗らなかった。遠隔の回線が艦橋と一緒に失われていたからだ」

 

 オルス中佐は少しだけ言葉を切った。

 

「……記録に残すと約束した。私の記録は連合へはもう届かないかもしれない」

 

 シーアはしばらくその男の顔を見ていた。

 

「こちらの記録に、残します」

 

 シーアは言った。

 

「戦闘の記録に。指揮官型のドロイドが起爆を見届けるために、艦に残った、と」

 

 オルス中佐は何も言わなかった。ただ、一度だけ頷いた。

 

 警備班が中佐を他の乗員のいる一角へ連れていった。シーアはその背中を見送った。

 

 技術区画から、リラが格納区画の入口まで降りてきていた。作業服の袖にまた冷却材の染みが増えていた。

 

「前部反応炉、全出力で八十八分」

 

 リラは言った。

 

「冷却の戻り、規定値の八割で止まったまま。……壊れていません」

 

「ありがとう」

 

「礼は父に」

 

 リラは言いかけて、やめた。それから、少しだけ違うことを言った。

 

「……この艦は、あの艦を沈めるために造られたわけじゃないと、父は言うと思います。でも、今日、あの艦を沈めたのはこの艦でした」

 

 リラは、格納区画の隅に集められた連合の乗員たちを見た。それから、技術区画へ戻っていった。

 

 司令部区画へ戻ると、個別の回線が一本、待っていた。《レゾリュート》からだった。

 

『終わったな』

 

 アナキンの声だった。飛行服のまま、格納庫から繋いでいるらしかった。背後で帰投した機体の整備の音がしていた。

 

「終わった」

 

『拾ってるのか。向こうの乗員』

 

「拾ってる。ドロイドも」

 

 回線の向こうで、アナキンが少しだけ黙った。

 

『……お前らしいな』

 

「艦載機、ありがとう。あれがなかったら、トレンチの砲をもっと長く空へ向けていた」

 

『頼まれたからな。艦隊提督に。……頼まれたんだ、命令じゃなくて』

 

 アナキンはその言葉を少しだけ不思議そうに言った。

 

『命令じゃないのに、みんな、あの人の図の上で動いてた。変な戦争だな』

 

「変な戦争だ」

 

 シーアは答えた。

 

「たぶん、次からは変じゃなくなる」

 

『どういう意味だ』

 

「まだ、分からない」

 

 アナキンは少しだけ笑った。それから、誰かに呼ばれたらしく、回線の向こうで振り返った。

 

『アソーカが呼んでる。またな、シーア』

 

「また」

 

 回線が切れた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.181 標準時一四時三〇分 マエルストローム級《リゲル》

 

 ホーンは戦闘の記録を艦橋の卓で見ていた。

 

 対象の沈没の直前、三分間の記録だった。TF-35は撃ち方を止めていた。オープン・サークルのヴェネターの二隻は、まだ撃っていた。その三分の間に、対象の艦尾で光が二度膨らんでいた。

 

 それから、二分後、艦の中央と艦尾と大型砲の区画で、光が内側から膨らんだ。

 

「沈没の原因は」

 

 参謀が訊いた。

 

「共和国の砲撃か、連合の自沈か」

 

 ホーンはしばらく記録を見ていた。

 

「分からない」

 

 ホーンは言った。

 

「砲撃であの艦はもう沈みかけていた。自沈の装薬がなくてもいずれ沈んだかもしれない。装薬がそれを早めただけかもしれない。あるいは、最後の三分の砲撃がなくても、装薬だけで沈んだかもしれない」

 

 ホーンは記録を閉じた。

 

「一つだけ、はっきりしていることがある。最後の三分、この戦場には撃ち方を止める命令を、全部の艦に一度に出せる者がいなかった」

 

 参謀は何も言わなかった。

 

 ホーンは窓の外を見た。TF-35の三隻が残骸の雲の縁で、脱出艇を一つずつ収容していた。

 

「記録を全部残せ」

 

 ホーンは言った。

 

「最後の三分間の、どの艦がいつ、誰の命令で撃ち、いつ止めたか。全部だ。コルサントでそれを訊かれる」

 

「誰にですか」

 

「全員にだ」

 

 ホーンは戦闘の記録の、指揮系統の欄を開いた。

 

 統合作戦本部。オープン・サークル艦隊司令部。ジェダイの将軍。三つの欄にそれぞれ別の名前が入っていた。

 

「これで、一つの戦闘をした」

 

 ホーンは言った。

 

 参謀が記録の保存を始めた。ホーンは残骸の雲の中で、脱出艇の小さな光が一つずつ消えていくのを見ていた。消えるたびにどこかの艦の格納区画に、一つずつ収まっていった。

 

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