STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
巨艦、沈む!
デヴァロンの宙域で、分離主義者の巨大戦艦《マレボランス》は、共和国艦隊の砲火の前に、ついに没した。
共和国全土が勝利に沸き、若き指揮官の名はホロネットを埋め尽くしている。
だが、戦いの記録は、一つの問いを残していた。
あの戦場で、全ての艦を率いていたのは、誰だったのか――
*
C.R.C. 7955.182 デヴァロン近傍
残骸はまだそこにあった。
《マレボランス》の前部と後部がデヴァロンの主星の白い光の中を、互いに遠ざかりながら、ゆっくりと回っていた。その周りに破片の雲が薄く広がっている。共和国の救難艇が雲の中を一日じゅう行き来していた。脱出艇を探し、遺体を探し、艦載機の残骸の中に、まだ生きている者がいないかを探していた。
翌日の昼、それは終わった。
艦隊提督の旗艦《リゲル》の格納区画に葬送の容器が並べられた。
容器は、多かった。
ハービンジャーの左舷トレンチ、第四区画で死んだ者たち。《ステッドファスト》で、隔壁の向こうに残った者たち。《ランサー》の艦尾の砲座の列にいた者たち。《エクスペディエント》で、ハイエナの爆弾が落ちた区画にいた者たち。《アルゴス》から飛び立ち、戻らなかった操縦士たち。
そして、《ヘリオス》の乗員。
回収された者たちの棺は、格納区画の床に並べられていた。棺の蓋には名前の札が付いていた。氏名、階級、認識番号、所属艦。
《ヘリオス》の乗員の棺はその中にほとんどなかった。
代わりに格納区画の壁一面の射出架に、小さな記名のカプセルが何段にも並んでいた。手のひらに載るほどの大きさだった。射出架は壁の端から端まで続き、それでも足りずに、向かいの壁の射出架にまで並んでいた。
カプセルの中にあるのは名前と、階級と、認識番号だけだった。四秒で折れた艦から、持ち帰れたものはほとんどなかった。持ち帰れなかった者の数だけ、カプセルがあった。
格納区画の後方に、各艦の乗員が並んでいた。ハービンジャーからは、左舷トレンチの第四区画の班員たちと、リラと、ケレンが来ていた。ケレンは礼装の襟を何度も直していた。
格納区画の前方に、各艦の代表が並んでいた。
マーレン代将。ヴァイアン代将。《ステッドファスト》の艦長は腕を吊っていた。オープン・サークルからはユラーレン提督と、プロ・クーン。シーアはTF-35の三隻の艦長と並んでいた。
格納区画の壁の表示に、ラックスの像が映っていた。《ポラリス》の医務区画から繋いでいた。焼けた腕に包帯が巻かれていた。制服の上着を肩に掛けていた。
ホーンが棺の列の前に立った。
艦隊提督は長くは話さなかった。
「帰投した者が帰投できなかった者を送る」
ホーンは言った。
「それだけだ」
それから、名前の読み上げが始まった。
所属艦ごとに一人ずつ。ハービンジャー、四名。《ランサー》、七名。《エクスペディエント》、四名。《ステッドファスト》、三十一名。航空隊。《アルゴス》、十一名。オープン・サークルの航空隊。
読み上げる士官の声は変わらなかった。名前が読まれるたびに、その棺が格納区画の射出口へ送られていった。射出口の外は宇宙だった。棺は一つずつ、デヴァロンの主星の白い光の方へ、ゆっくりと流れていった。
《ヘリオス》の読み上げは一番長かった。午後を越えて、続いた。
名前が一つ読まれるたびに、壁の射出架から、小さなカプセルが一つ、宇宙へ放たれた。射出架の小さな扉が開き、閉じ、また開いた。その音が読み上げの声の合間に、規則正しく続いた。
格納区画に立っていた者たちは、誰も姿勢を崩さなかった。表示の中のラックスも動かなかった。
読み上げが最後の方へ近づいた。
「エルヴィン・ドーラン。代将。中央迎撃群司令、《ヘリオス》艦長」
ラックスが表示の中で目を閉じた。
三十年前、私も同じ顔をしていた。カダーンの二日前に、そう言った士官の名前だった。その名前の入った小さなカプセルが、射出架から放たれた。
カプセルは他のカプセルと同じ大きさだった。
最後のカプセルが宇宙へ出ると、射出架の扉が閉じた。
誰も勝ったとは言わなかった。《マレボランス》を沈めた翌日だった。それでも、格納区画の誰一人、その言葉を口にしなかった。
式が終わって人が散り始めた時、シーアは表示の中のラックスの像を見た。ラックスもこちらを見ていた。
二人とも何も言わなかった。ラックスが小さく頷いた。表示が消えた。
*
C.R.C. 7955.182 デヴァロン近傍、ハービンジャー
捕虜の移送は葬送の後に行われた。
ハービンジャーの格納区画に集められていた連合の乗員たちが、統合作戦本部の輸送艦へ移されていった。有機体の乗員が百四十人余り。ドロイドが二十体ほど。ドロイドたちは機能を停止したまま、担架で運ばれていった。
最後にオルス中佐が格納区画を出ていった。
中佐は輸送艦へ続く連絡の通路の手前で、一度だけ振り返った。シーアが格納区画の入口に立っていた。
「記録は」
オルス中佐が訊いた。
シーアは手元の端末を開いた。戦闘の記録の、最後の頁だった。そこに一行が書き加えられていた。
連合軍、指揮官型ドロイド一体。自沈装薬の起爆を確認するため、艦に残留。
オルス中佐はその一行を読んだ。長いあいだ、読んでいた。
「……型番も名前もないのか」
「分かりませんでした。あなたの記録にもないのでは」
オルス中佐は少しだけ目を伏せた。
「なかった。あれは、最初から最後まで、指揮官型だった」
中佐は端末をシーアへ返した。
「それで、いい」
それから、連絡の通路の向こうへ歩いていった。
シーアは端末の一行をもう一度読んだ。それから、記録を閉じ、統合作戦本部へ送った。
*
C.R.C. 7955.184 コルサント
TF-35がコルサントに着いた時、物語はもうできあがっていた。
宇宙港の到着区画の壁の表示で、ホロネットの報道番組が流れていた。
デヴァロンの勝利。恐怖の巨大戦艦、撃沈。
映像は何度も繰り返されていた。三隻のテクターが横一列に艦首を揃える。七十二の光が同時に巨艦へ吸い込まれる。巨艦が光の中で二つに折れる。
その映像の後に、シーアの顔が映った。ラクサスの交渉の頃、特集の番組で使われた写真だった。
二十歳の若き指揮官、共和国を救う。
「……あれ、いつの写真ですか」
ケレンが隣で小さく訊いた。
「分からない」
シーアは答えた。
到着区画の出口に、報道の人垣ができていた。広報の担当官が困った顔でシーアを待っていた。
「短くで結構です。一つか二つ、答えていただければ」
記者会見の部屋は宇宙港の一角にあった。照明が強く、記者たちの端末の光が客席の闇の中で並んでいた。
「ヴァラリアン代将。《マレボランス》を沈めた瞬間、何を考えていましたか」
最初の記者が訊いた。
シーアは少し考えた。
「僕たちは最後に着いただけです」
部屋が少しだけ静かになった。
「《ポラリス》が、カダーンで燃料系を撃ち抜かなければ、あの艦は遠くへ逃げていました。航空隊が右舷の主機を壊さなければ、正面に出ることもできなかった。プロクラメイターが、二十時間以上ついていてくれなかったら、どこにいるのかも分からなかった。僕たちは全部が済んだ後に着いて、最後に撃っただけです」
記者たちの端末の光が一斉に動いた。
「では、この勝利は戦友たちに捧げたいと」
「捧げるというか、事実として――」
別の記者が手を挙げた。
「代将はサーティネイニアンの王家のご出身です。王族として、この戦争をどう――」
「僕は共和国の軍人です」
シーアは少しだけ早く答えた。
「王家の出身であることは変わりません。でも、それで艦が一時間早く着くわけではない。今の僕の仕事は艦を決められた時刻に、決められた場所へ着けることです」
「では、その仕事を完璧にこなされた、と」
「完璧では――」
「ありがとうございました」
広報の担当官が会見を締めた。
翌朝のホロネットの見出しはこうだった。
我々は最後に着いただけ――若き英雄、戦友に勝利を捧ぐ。
宿舎の食堂でシーアはその見出しを見ていた。
隣の卓でケレンが同じ見出しを読み上げかけて、やめた。向かいの席でコルヴェンが茶をすすりながら、見出しから目を逸らしていた。口元だけが少し動いていた。
「……訂正を出しますか」
コルヴェンが訊いた。
「訂正したら」
シーアは言った。
「たぶん、次の見出しは謙虚な英雄、になります」
コルヴェンは茶を置いた。今度ははっきりと笑っていた。
エレナから、短い連絡が届いていた。
《見出し、読んだわ。最後に着いただけ、って、あなたらしいけど、たぶん逆効果よ》
シーアは返事を書いた。
《もう分かった》
少しして、また届いた。
《劇場の楽屋でみんなが読んでる。あなたの顔、壁に貼られてた》
シーアは端末を伏せた。
*
C.R.C. 7955.185 コルサント、共和国軍中央慰霊苑
宇宙葬は軍人たちのものだった。今度は国家が死者を引き取る番だった。
中央慰霊苑は旧司法軍の慰霊の施設を、戦争が始まってから大きく広げたものだった。古い区画には何百年も前の名前が刻まれた、苔の色に褪せた石板が並んでいた。新しい区画の石板は白かった。
新しい石板が異様に多かった。
ジオノーシス。クリストフシス。ケルシス。ピュー。まだ三か月も経っていない戦争の名前が、石板の上段に並んでいた。その下に名前が何列も何列も刻まれていた。
その一角に、《ヘリオス》の石板があった。
四枚にわたっていた。艦名と、日付と、カダーン星系外縁という場所。その下に乗員の名前が階級の順に刻まれていた。一番上の行にエルヴィン・ドーランの名前があった。
シーアはその石板の前に立っていた。
石板の隣で作業員たちが、新しい石板を据え付けていた。表面にはまだ何も刻まれていなかった。
戦争は始まったばかりだった。共和国はもう次の死者の場所を用意していた。
式典は昼に始まった。
議長府の代表が追贈と叙勲を読み上げていった。
エルヴィン・ドーラン代将。少将に追贈。
遺族の席から、白髪の女性が一人、壇へ上がった。ドーランの妻だった。追贈の辞令を受け取ると、しばらくその文面を見ていた。それから、一礼して壇を下りた。
《ヘリオス》乗員に、部隊表彰。
インナー・リム即応艦隊司令官、イーダ・マーレン代将。戦功章。第四任務群司令官、ヴァイアン代将。戦功章。《ハルバード》艦長、《ジャベリン》艦長、《ステッドファスト》艦長。各戦功章。
マエルストローム級《ポラリス》艦長、ガリアス・ラックス。戦功章。
ラックスは自分の足で壇へ上がった。焼けた腕はまだ吊られていた。勲章を受け取ると、敬礼をせずに一礼だけして下りた。敬礼をする腕がまだ上がらなかった。
壇から下りる途中で、ラックスは列に並んでいたシーアの前を通った。
「命令する場所が一つになるそうだな」
ラックスは小さく言った。
「止める場所も」
シーアは答えた。
ラックスは足を止めた。
「カダーンでは、揃える場所がなかった。デヴァロンでは、止める場所がなかった」
ラックスは吊った腕を少しだけ見た。
「次は両方ある」
「その一つが間違えたら」
「その時は替えればいい」
ラックスは前と同じことを言った。今度は笑わなかった。
「君はまだそれを言うのか」
「言います」
ラックスはしばらくシーアの顔を見ていた。それから、何も言わずに列の端へ戻っていった。
最後にシーアの名前が読まれた。
共和国グランド・アーミー代将、アレクシアール・ヴァラリアン。デヴァロン戦役における戦功ならびに今後の職責の変更に伴い、少将に任ずる。
式典の客席の一角で、報道の端末の光が一斉に動いた。
式典の後、その女性はラックスの前で足を止めた。
「《ポラリス》の艦長さんね」
「……はい」
「主人は最後にあなたの艦と一緒だったと聞きました」
ラックスは吊った腕を少しだけ動かしかけて、やめた。
「代将は船団を守りました。十二隻、全部」
女性はしばらくラックスの顔を見ていた。
「三十年、同じことを言っていたのよ。守るのが仕事だって」
女性はそれだけ言って、遺族の席の方へ戻っていった。ラックスはその背中を長いあいだ見送っていた。
翌朝のホロネットの見出しは二十歳の少将、だった。
統合作戦本部の作戦部で、ケスティンは同じ見出しを読んでいた。
「……二十歳の少将、ですか」
隣の参謀が言った。
「辞令の文面を読んでいないな」
ケスティンは答えた。
「戦功ならびに今後の職責の変更に伴い。後ろの方が本題だ。これから、あの男に複数の任務群を持たせる。グランド・フリートの法案がどうなろうと、その職責は変わらない。代将では、階級が合わない」
参謀は見出しと辞令の写しを見比べた。
「世間は前の方しか読みませんね」
「読まなくていい」
ケスティンは見出しを閉じた。
式典の後、シーアはもう一度、何も刻まれていない石板の前へ行った。
作業員たちはもう引き揚げていた。白い石板が午後の光の中に、四枚並んでいた。
「次にそこに誰の名前が入るかはまだ決まっていない」
後ろから、声がした。
ハロルド・タッグが随員を離れて、一人で立っていた。
「国防相」
「タッグでいい。ここでは」
ハロルドは石板の前に並んだ。
「司法委員長だった頃、司法軍の予算を一行ずつ削られないように守ってきた。削られた年は次の年にこの慰霊苑の古い区画に、石板が一枚増えた。海賊の討伐で救難の艦が足りなかった年だ」
ハロルドは白い石板を見ていた。
「艦隊の組み方で、この石板に入る名前の数は変わる。デヴァロンでそれを見た。着く順に並べて、揃えてから当てれば、少なくなる。揃わないまま敵に触れれば、最後は現場の艦が引き受けることになる。《ヘリオス》のようにな」
「……はい」
「今度の法案が通れば、艦隊は一つになる。一つになれば、揃えるのは速くなる。止めるのも」
ハロルドは少しだけ間を置いた。
「カッシオがよろしくと言っていた。前線から、久しぶりに連絡が来た。お前の見出しを見て、笑っていたそうだ」
シーアは少しだけ口元を緩めた。
「あいつらしいです」
「そうだな」
ハロルドは石板から目を離し、随員の方へ戻っていった。
シーアは見出しを否定しなかった。否定すれば、また別の見出しが増えるだけだと、もう知っていた。
*
C.R.C. 7955.187 コルサント軌道、クワット造船所コルサント分工廠
その艦は戦争の前から造られていた。
マンデイターII級スター・ドレッドノート。《プライド・オブ・ザ・コア》。
建造が始まったのはラクサスの交渉が始まる前だった。就役の予定日もその頃から決まっていた。予算は司法委員会の時代に、ハロルド・タッグが議場で三年かけて通したものだった。
《マレボランス》を見て、急いで造った艦ではなかった。
それでも、ホロネットはそうは言わなかった。
共和国の答え。《マレボランス》を凌ぐ巨艦。共和国史上最大級の守護者。
就役式の映像の中で、艦はコルサントの夜の側の灯りを背にして、軌道の係留設備に抱かれていた。全長は、《マレボランス》よりさらに長かった。艦首から艦尾まで、砲塔の列が途切れなく続いていた。
就役式の後、艦内の案内があった。
案内役の造船所の技術者は、まず主砲の説明から始めようとした。砲塔の数、一斉射の出力、射程。《マレボランス》の大型砲との比較の表も用意してあった。
ホーンが最初に訊いた。
「艦隊の司令部の区画はどこだ」
技術者は一瞬、言葉に詰まった。それから、案内の順番を変えた。
艦橋の下、上部構造の中に、広い区画があった。卓がいくつも並び、壁一面に星図の表示が取り付けられていた。通信の席が数え切れないほど並んでいた。
「同時にいくつの任務群を扱える」
「……設計上は十二」
「長距離の通信の席は」
「四十八」
「損傷した艦の救難の管制もここからできるか」
「救難の管制は艦の損害対処の区画が――」
「艦隊の、だ。他の艦の救難をここから割り振れるか」
技術者は端末の資料を何度か見直した。
「……できます。救難艦の配置の表示が司令部の区画に付いています」
ホーンはしばらく司令部の区画を見回していた。
案内の列の後ろで、シーアはそのやり取りを聞いていた。隣にリラがいた。KDYの技術者として、就役式に呼ばれていた。その隣にウォレックス・ブリセックスが立っていた。テクター級の設計者は娘の横で、黙って司令部の区画の天井を見上げていた。
「砲の説明はしなくていいんですか」
リラが小声で訊いた。
「砲はどの艦にもある」
ウォレックスが小声で答えた。
「あの人が探しているのはどの艦にもないものだ」
ホーンは案内が終わるまで、主砲について一度も訊かなかった。
案内の列が解けた時、ホーンがシーアの前で足を止めた。
「ヴァラリアン少将」
「はい」
「デヴァロンで君の三隻は一つの艦のように撃った。艦首を揃え、時刻を揃え、対象が回れば揃ったまま滑った。カリダで五日で揃えたと聞いた」
「三日です。残りの二日は誤差を詰めていました」
ホーンは少しだけ口元を動かした。
「艦隊もそう撃たせたい。何十隻でも、一つの艦のように。……そのためには揃える場所が要る。この区画がその場所になる」
ホーンは司令部の区画の卓を一度だけ見た。
「揃え方は君の報告書から借りる。デヴァロンの最後の三分間も忘れない」
それだけ言うと、ホーンは次の案内の場所へ歩いていった。
最大の砲戦艦だった。そして、共和国で最大の艦隊の司令部でもあった。ホロネットは前の方しか報じなかった。
*
C.R.C. 7955.187 標準時二〇時 《プライド・オブ・ザ・コア》、大展望区画
夜のレセプションは艦の中で開かれた。
就役を祝い、デヴァロン戦役に加わった者たちを労うための集まりだった。招待状にはそう書かれていた。
会場の大展望区画には軍人と、元老院の議員と、造船所の関係者と、各星系の外交団と、報道の関係者が集まっていた。ジェダイの姿も何人か見えた。天井まで届く大窓の向こうに、コルサントの夜の灯りが広がっていた。
華やかな集まりだった。
そして、誰もが知っていた。明日、元老院で艦隊の法案の審議が始まる。今夜のこの集まりはその前の、非公式な打ち合わせの場でもあった。卓の周りの小さな輪のあちこちで、議員と将官が飲み物を手に、低い声で条文の話をしていた。
シーアは少将の礼装を着ていた。
昨日、仕立て屋が徹夜で直したものだった。肩の徽章が代将のものより一つ重かった。
「少将閣下」
エレナが隣で言った。
シーアは一拍遅れて振り返った。
「やめて」
「正式な階級よ」
「まだ二日しか経ってない」
「二日もあったでしょう」
エレナは少しだけ楽しそうだった。エリアドゥから、今朝着いたばかりだった。劇場の次の公演の準備を放り出してきた、と言っていた。
「呼ばれるたびに、一拍遅れてる」
「慣れてないから」
「慣れる前にまた上がるかもしれないわよ」
「上がらないでほしい」
エレナは笑った。それから、少しだけ真面目な顔をした。
「でも、あなた、嬉しそうじゃないわね」
「嬉しくないわけじゃない」
シーアは大窓の外を見た。
「ただ、一昨日、慰霊苑に行った。新しい石板が何も刻まれていないまま、並べてあった」
エレナは何も言わなかった。シーアの腕にそっと手を置いた。
*
会場へ入った時、シーアは入口の招待客の表示を一度だけ見た。
保安委員会の関係者の欄があった。第二室からも何人かの名前が並んでいた。
その中にリヴィアの名前があった。
リヴィア・セリン。金融・経済分析総局第二室。
名前の横に一語だけ付いていた。
欠席。
理由の欄は空いていた。
シーアは表示から目を離した。探したつもりはなかった。ただ、名前がそこにあって、その横にその一語があった。
エレナが隣で表示を見ていた。何も言わなかった。
しばらくして、会場の輪の中で、保安委員会の年配の職員と話す機会があった。デヴァロンの戦闘の記録の整理について、礼を言われた。
「第二室の方々もいらしているんですね」
シーアは言った。
「ええ、何人か。……ああ、セリンくんは来られなかったようで。保安委員会は、まだデヴァロン関係の処理が終わっていないそうです」
「そうですか」
シーアはそれ以上訊かなかった。
*
会場の端で、ウォレックス・ブリセックスと顔を合わせた。
テクター級の設計者は、造船所の関係者の輪から少し離れて、大窓の外の砲塔の列を見ていた。シーアに気づくと、軽く頭を下げた。
「少将」
「ブリセックスさん」
「娘から、記録を全部もらいました。八十八分の、前部反応炉の」
ウォレックスは窓の外から目を離さなかった。
「規定値の八割で、止まっていた。予備品を積ませたのは念のためでした。念のために積んだものが、あの艦を沈める八十八分を支えた」
ウォレックスは少しだけ黙った。
「あの艦は自分より長く飛ぶだろう、と娘に言いました。完成した日に。今は少し違うことを考えています」
「何をですか」
「長く飛ぶかどうかは造った者ではなく、使う者が決める」
ウォレックスはシーアの方を向いた。
「使ってください。壊れる一歩手前までではなく」
「……はい」
ウォレックスはまた頭を下げ、造船所の輪の方へ戻っていった。
記者の輪から逃げ出したところで、モン・モスマに捕まった。
議員は飲み物のグラスを手に、大窓の近くの小さな卓の前に立っていた。
「少将閣下」
「あなたまでやめてください」
「正式な階級でしょう?」
「まだ二日ですよ」
「では、そろそろ慣れる頃ね」
「エレナにも同じようなことを言われました」
モスマは少しだけ口元を緩めた。
「なら、二対一ね」
シーアは観念して、卓の前に並んだ。
モスマはグラスを卓に置いた。
「ところで、第十二条第三項」
シーアは少しだけ目を細めた。
「……今、ここで?」
「あなたが、戦場で見つけてきた問題でしょう」
「僕が作った問題じゃないですよ」
「では、あなたが発見した問題」
モスマは端末を開いた。明日の法案の草案だった。
「必要と判断した場合、共同作戦に参加する艦艇の作戦統制を、移管することができる。……誰が必要と判断するの?」
「統合作戦本部」
「書いてないわ」
「じゃあ、書いてください」
「だから、訊いてるのよ」
シーアは草案の条文を覗き込んだ。
「移管を始めるのは統合作戦本部。移管を受けるのは艦隊司令官。オープン・サークルの艦もその間は、艦隊司令官の統制に入る」
「始めるのは分かった。終わるのは?」
シーアは一拍、考えた。
「……一人にしてください」
「なぜ?」
シーアは手元の飲み物を見た。まだ一口も飲んでいなかった。
「デヴァロンでは、撃ち始める人はたくさんいました」
シーアは言った。
「止められる人がいなかった」
卓の周りの空気が一瞬だけ変わった。
モスマはもう冗談を言わなかった。端末の草案の、第十二条第三項の横に、何かを書き込んでいた。
*
大窓の外に巨艦の上部構造の一部が見えていた。この艦自身の、艦首の方の砲塔の列だった。
「あれ、本当に必要?」
モスマが窓の外を見ながら訊いた。
「艦として?」
「共和国として」
「質問が大きすぎます」
「逃げた」
「じゃあ、艦として」
シーアは窓の外を見た。
「必要です」
「あれだけの砲が?」
「司令部が」
モスマが少しだけ意外そうに、シーアの顔を見た。
「デヴァロンで足りなかったのは、砲じゃありませんでした」
シーアは言った。
「砲は三隻分で足りました。足りなかったのは全部の艦を一度に見て、一度に止められる場所です。今日、艦隊提督が案内の最初に訊いたのもそこでした」
モスマはしばらくシーアを見ていた。
「司令部が一つになれば、艦はそこへ集まるわ」
モスマは言った。
「共和国が集めれば、分離主義同盟も同じく集める。向こうにも、きっと、ああいう艦があるでしょう」
シーアは、答えなかった。
「その答え、明日使うわ。……あなたが思っているのとは、少し違う使い方で」
「勝手に使わないでください」
「公人でしょう、少将閣下」
「またそれ」
モスマは笑った。グラスを取り、会場の輪の方へ戻っていった。
シーアは大窓の前に一人で残った。窓の外のコルサントの灯りをしばらく見ていた。
会場のどこかで、音楽が変わった。エレナが人の輪の間を抜けて、こちらへ歩いてくるのが見えた。
「モスマ議員に捕まってたでしょう」
「条文の話をされた」
「パーティーで?」
「パーティーで」
エレナは笑った。それから、シーアの隣に並んで、大窓の外を見た。
「明日、議会へ行くの?」
「行く。傍聴するだけだけど」
「眠れそう?」
シーアは少し考えた。
「たぶん。……デヴァロンの前の晩より、ずっと」
「なら、いいわ」
エレナはシーアの腕に自分の腕を絡めた。礼装の袖の、少将の徽章の上だった。
「一曲だけ、付き合って。それが済んだら、帰りましょう」
二人は大窓の前を離れた。
その夜、シーアはそれ以上理由を訊かなかった。
*
C.R.C. 7955.188 標準時〇八時 コルサント、共和国グランド・アーミー統合作戦本部
前の晩の華やかさは作戦部の当直室には、少しも届いていなかった。
卓の上にデヴァロンの戦闘の記録が広げられていた。ハロルド・タッグ。マティアス・ホーン。ケスティン。作戦部長。それに、オープン・サークル艦隊司令部から、ユラーレンの像。
壁の表示に最後の三分間が映っていた。
14時03分。TF-35、撃ち方止め。
同じ時刻。艦隊提督の指揮下の艦、射撃なし。
14時03分から14時06分。オープン・サークルのヴェネター二隻、射撃継続。対象の艦尾で光が二度。
14時06分。オープン・サークル、撃ち方止め。
14時08分。対象の中央、艦尾、大型砲の区画で、爆発。
ハロルドはその表示を最後まで見ていた。
「デヴァロンの戦闘の全体の指揮官は、誰だった」
ハロルドが訊いた。
ホーンが答えた。
「各部隊にはいました。TF-35にはヴァラリアン少将。当時は代将です。第四任務群にはヴァイアン代将。本艦隊には私。オープン・サークルの打撃群には、プロ・クーン将軍」
「全体には」
「いません」
ホーンは表示から目を離さなかった。
「私は全体を組みました。ですが、オープン・サークルには要請しかできなかった。撃ち方を止めることも要請でした」
ユラーレンの像が少しだけ目を伏せた。
「我々は要請を受けた時点で、止めました」
ユラーレンが言った。
「脱出艇が出ていると、TF-35から直接知らされた時点で。三分、かかりました」
「責めてはいない」
ホーンは言った。
「三分かかったのはあなた方のせいではない。止める命令を全部の艦に一度に出せる場所が、なかったからだ」
ハロルドはしばらく黙っていた。
それから、卓の上に法案の草案を置いた。今日の午後、元老院に提出されるものだった。
「次は戦闘が始まる前に決める」
ハロルドは言った。
「全体の指揮官を。始める者と、止める者を」
ケスティンが卓の端で毎朝の一覧を開いた。今朝の分だった。着く順に並んだ艦名の一番上に、《プライド・オブ・ザ・コア》の名前が加わっていた。
「国防相。この一覧は法案が通った後も続けますか」
「続けろ」
ハロルドは言った。
「ただし、送り先を変える。私の机ではなく、艦隊司令官の机へ。毎朝ではなく、毎時間。……揃えるのはこれからはあの人の仕事だ」
ホーンが黙って頷いた。
*
C.R.C. 7955.188 標準時一四時 コルサント、共和国元老院
法案の表題は長かった。
共和国グランド・フリート設置及び戦略艦隊統制に関する暫定法。
説明員が条文を一つずつ読み上げていった。
戦略の主力となる艦を恒常的に一つの艦隊に統合する。その艦隊に艦隊司令官を常設する。艦隊の司令部の下に、兵站と修理と救難を一元化する。所属する艦の通信の符号と、射撃の管制の規則を共通のものにする。オープン・サークルとの共同作戦の間、参加する艦艇の作戦の統制を、艦隊司令官へ移管することができる。移管の開始と終了の条件を明文で定める。ジェダイの将軍との権限の境界を、明文で定める。
どの条文もデヴァロンで一人の艦隊提督が、要請と即興でやったことだった。
シーアは軍人の席の後ろの方に座っていた。議場の中央の演壇が遠くに見えた。兄のアウレリアンが防衛委員会の席に座っていた。
最初に質問に立ったのはモン・モスマだった。
「第十二条第三項について、伺います」
議員の声は議場の隅まで届いた。
「必要と認められる場合、共同作戦に参加する艦艇の作戦統制を移管することができる。この『必要と認められる場合』について、判断の主体が明記されていません」
説明員が手元の資料を開いた。
「移管の開始の判断は統合作戦本部が行うものと、想定しております」
「想定、では困ります。条文に書いてください」
モスマは次の頁を開いた。
「移管の終了についても伺います。終了を判断する者は誰ですか。戦闘の途中で全ての参加艦艇に対して、射撃の停止を命じることのできる者は、誰ですか」
説明員はしばらく答えなかった。
「……艦隊司令官と、想定しております」
「では、それも条文に。一人の名で」
議場が少しだけざわついた。
モスマは、草案を閉じた。
「修正を求めた上で、申し上げます」
モスマは言った。
「私は、この法案に反対します」
議場が、静かになった。
「共和国が艦を集めれば、分離主義同盟も同じく艦を集めます。大きな艦隊は、大きな艦隊を呼びます。昨夜、ある将校が私に言いました。デヴァロンで足りなかったのは砲ではなく、全部の艦を一度に止められる場所だった、と。……私も、そう思います。ですが、止められる場所を作れば、その場所のもとへ、艦は集まり続けます」
モスマは、議場を見渡した。
「この法案は、戦争を終わらせるための法案ではありません。戦争を、広げていくための法案です。……それでも通るのであれば、せめて、止める者の名を書いてください。止める者のいない大きな艦隊ほど、危ういものはありませんから」
シーアは軍人の席の後ろで、そのやり取りを聞いていた。
昨夜、卓の前でグラスを手にして訊かれたのは、法案を良くするための問いではなかった。反対する者が、せめて止める手順だけは書かせておくための問いだった。自分の答えは、その問いの材料に使われていた。
ヴェッロが次に立った。
「予算について、伺う」
老議員は演壇の方ではなく、手元の端末を見ていた。
「グランド・フリートに艦を入れるなら、修理費も入れていただきたい。デヴァロンで損傷した艦の修理の見積もりが、ここにある。《ポラリス》、《ステッドファスト》、《エクスペディエント》、《ランサー》、《サーベル》、《ジャベリン》、《ハルバード》、それにテクターが一隻。この修理費がどの予算から出るのか、法案のどこにも書いていない」
説明員が答えかけた。ヴェッロはそれを待たなかった。
「それから、救難艦の定数を。デヴァロンでは、救難の艦が艦隊のどこにも定められていなかった。脱出艇を拾ったのはたまたま近くにいた艦だった。救難艦の定数がなければ、それは艦隊ではない。艦の名簿だ」
ヴェッロは端末を閉じた。
「以上の修正を求める。その上で分離主義同盟滅ぶべし、と申し上げる」
議場から、拍手が起きた。今度は笑いも混じっていた。
審議は夜まで続いた。モスマの修正と、ヴェッロの修正が一つずつ条文に書き込まれていった。移管の開始は統合作戦本部。移管の終了と、全参加艦艇への射撃停止の命令は、艦隊司令官が一人で行う。修理と救難の予算、救難艦の定数。
*
C.R.C. 7955.189 標準時一一時 コルサント、共和国元老院
採決は翌日の昼に行われた。
賛成の表示が議場の壁一面に広がっていった。反対の表示は、ほとんどなかった。その少ない反対の表示の中に、モスマの名前があった。
演壇の上で最高議長が結果を読み上げた。
「共和国グランド・フリートの設置を、承認する」
議場に拍手が起きた。
パルパティーンの声は穏やかだった。議長は演壇の上から議場を見渡し、小さく頷いた。
演壇の脇の、議長府の幕僚の席で、ターキンが記録を書いていた。拍手の間も顔を上げなかった。
シーアは軍人の席の後ろで、拍手をしていなかった。手元の端末に法案の付属の図を開いていた。グランド・フリートの指揮系統の図だった。
統合作戦本部から、一本の線が艦隊司令官へ。艦隊司令官から、各任務群へ。オープン・サークルとの共同作戦の間は、オープン・サークルの参加艦艇からも、点線が一本、艦隊司令官へ。
シーアはその点線を指でなぞった。
デヴァロンでは、この点線がなかった。
隣の席でコルヴェンが拍手をしていた。シーアは図を閉じ、それから、遅れて一度だけ手を打った。
議場を出る通路で、兄に呼び止められた。
アウレリアンは防衛委員会の書類の束を抱えていた。弟の少将の徽章を一度だけ見た。
「拍手が遅れていたな」
「図を見ていた」
「点線か」
シーアは兄の顔を見た。
「オープン・サークルからの、一本の点線。デヴァロンにはあれがなかった」
「今はある」
アウレリアンは通路の窓の外を見た。議長府の塔が昼の光の中に立っていた。
「お前が前に議長府の卓の上に返信の写しを置いた時、議長は命令を一つにする、と言った。ターキンは承認する者を一人にすればいい、と言った。今日、議会がそれを法にした」
アウレリアンは少しだけ声を落とした。
「条文を書いたのはモスマとヴェッロと委員会だ。点線を引いたのも議会だ」
アウレリアンは少しだけ間を置いた。
「最初に『一つにする』と言った者だけは覚えておけ」
シーアは答えなかった。
兄は書類の束を抱え直し、委員会の部屋の方へ歩いていった。
*
C.R.C. 7955.190 コルサント軌道、《プライド・オブ・ザ・コア》艦橋
艦隊の旗が掲げられたのは朝だった。
マンデイターII級の広い艦橋に、グランド・フリートの司令部の要員が並んでいた。その前にマティアス・ホーンが立っていた。初代の、共和国グランド・フリート司令官だった。
旗の掲揚は短かった。
旗が上がると、ホーンは艦橋に並んだ要員たちの方を向いた。
「本艦隊の最初の仕事は揃えることだ」
ホーンは言った。
「どの艦がどこに何時に着くか。揃えてから、当てる。揃わないうちに当てれば、デヴァロンの前のカダーンのようになる。それから」
ホーンは少しだけ間を置いた。
「止めることだ。一隻の撃ち方を止めることは艦長にできる。艦隊全部を一度に止める命令は、ここから出す。それを、忘れるな」
それだけ言うと、ホーンは振り返らずに、司令部の区画へ降りていった。案内の日に最初に訊いた区画だった。卓と、星図の表示と、四十八の長距離の通信の席。そこにもう要員が座っていた。
同じ朝、TF-35に新しい辞令が届いた。
シーアはハービンジャーの司令部区画で、それを読んだ。
共和国グランド・フリート(GF)、第3合同任務群(CTF-3)。司令官、アレクシアール・ヴァラリアン少将。
TF-35の番号は、なくならなかった。第3合同任務群の中の、テクター級三隻の任務群の番号として残されていた。
TF-31の番号は、欠番になっていた。ミラグロで全滅した任務群の番号だった。
辞令には、ほかの合同任務群の司令官の名前も並んでいた。合同任務群の司令官は、どれも少将だった。
CTF-1、イーダ・マーレン少将。インナー・リム即応艦隊で、《マレボランス》に最初に追いついたプロクラメイターの司令官だった。CTF-2、ソラン少将。CTF-4、ヴァイアン少将。第4任務群の四隻から始まった部隊が、合同任務群の番号を引き継いでいた。CTF-5、オスリク少将。
その下の任務群の指揮官には、艦の数に応じて、大佐から代将までの辞令が出ていた。五隻、六隻の任務群は代将が、三隻、四隻の任務群は大佐が率いる。
ガリアス・ラックスは、代将に任じられていた。CTF-1の先頭の任務群、TF-11の指揮官として。《ポラリス》の艦長のまま。
CTF-3の任務群は、どれも三隻か四隻だった。指揮官は、大佐だった。コルヴェンは大佐に任じられ、ハービンジャーの艦長代理から、正式な艦長になった。
CTF-3の編成の欄に、艦名が並んでいた。ハービンジャー。《ヘラルド》。《エンヴォイ》。《アシュアランス》。《レゾナンス》。《ヴァンガード》。《ヴェリタス》。《ストレイト・ライン》。その下にまだ見たことのない艦名が、幾つか続いていた。救難艦、と書かれた欄もあった。
コルヴェンが辞令に付いた指揮系統の図を見ていた。
「上が一つ増えましたね」
図の一番上に統合作戦本部。その下にグランド・フリート司令官。その下にCTF-3。
シーアは少しだけ図を見た。
「いいえ」
シーアは言った。
「線が減りました」
コルヴェンが図をもう一度見た。統合作戦本部から艦隊司令官へ、一本。艦隊司令官からCTF-3へ一本。オープン・サークルからの点線が、一本。
デヴァロンでは、これより多くの線が互いに交わらないまま、同じ戦場に引かれていた。
その時、通信卓が鳴った。
グランド・フリート司令部からの、最初の命令だった。
全所属艦。第一集合点への到着予定時刻を、報告せよ。
司令部区画の表示に、返答が一つずつ並び始めた。各艦の名前と、到着の予定時刻。
表示は強い順には並ばなかった。艦型の順にも並ばなかった。
着く順に、並んでいった。
シーアはその表示を見ていた。ハービンジャーの名前が一覧の中ほどに並んだ。その上にも下にも見たことのある艦名と、見たことのない艦名が着く時刻の順に続いていた。
その一覧の最後に、グランド・フリート司令部から、短い通信が一本添えられていた。
《並べ方はTF-35の戦果査定の所見から借りた。ホーン》
シーアはその一行を読んだ。
ロングレンジ・パトロールの報告書の最後に、推奨しない、と書いた。その同じ報告書の中に、並べるなら着く順に並べろ、とも書いていた。前の一行は自分の戦法を終わらせた。後の一行は共和国の艦隊の最初の命令になっていた。
ケレンが茶を運んできた。
シーアはそれを手に取った。温かかった。