STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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幕間:欠席

C.R.C. 7955.187 標準時一九時四三分 コルサント、レベル四二一〇

 

『監視一、対象を確認。南行きの歩廊』

 

『監視二、見えています』

 

『二、引き継ぎます』

 

『一、離脱』

 

 回線の声は、低く、短かった。

 

 リヴィアは、移動指揮車の後部の座席で、その声を聞いていた。窓のない車体の中に、表示が四面。歩廊の俯瞰、人の流れ、対象の背中を後ろから映す監視員の映像、そしてレベルごとの星図のような区画図。

 

 行動服を着ていた。暗い色の、飾りのない上着だった。

 

 第二室に行動班が置かれたのは、戦争が始まって三週間後だった。数字を読む部屋が、数字の向こうにいる人間に、直接手を伸ばすための班だった。班長の席に誰を座らせるかを決めたのは、議長府の幕僚だった。数字を一番よく読む者に、とその幕僚は言った。

 

 ロイヤル・アカデミーを出た日に、リヴィアを保安委員会へ誘ったのも、同じ男だった。その時に言われた理由は、もっと短かった。

 

 シーアのためになる。

 

 リヴィアが班長として指揮を執るのは、これが四度目だった。

 

 今夜の配置は、監視班が七人、行動班が四人。監視班は、対象の経路の上に、先回りして一人ずつ置いてあった。誰も、対象を長く追わない。一人が見て、次へ渡し、離れる。渡された者が、また次へ渡す。どの監視員が、どの交差で、何時何分に対象を受け取るか。その表が、表示の一つに開かれていた。

 

 表の最後の行に、行動班の四人の位置と、到着の時刻が並んでいた。三人が射線に、一人が予備と現場主任を兼ねて後方に。四人とも、予定の位置に、もう着いていた。

 

「予定の位置まで、何分」

 

『現在の経路なら、二十八分』

 

「続けて」

 

 表示の中で、対象の背中が、歩廊の人の流れに紛れていった。背の高い男だった。旅装の外套を着て、フードを下ろしている。歩き方に、急いでいる様子はなかった。

 

 端末の隅に、予定の通知が一つ、光った。

 

 《プライド・オブ・ザ・コア》就役記念レセプション。開始、二〇時〇〇分。

 

 リヴィアは、それを消した。

 

 *

 

C.R.C. 7955.187 標準時一九時四九分 コルサント、レベル三五六〇

 

『対象、第三下降路へ』

 

『監視三、確認』

 

『三、引き継ぎます』

 

『予定の位置まで、二十一分』

 

 下降路の昇降機の扉が閉まり、表示の中で、対象の姿が一度消えた。別の表示に、三百層下の昇降機の扉が映った。扉が開き、同じ外套の男が出てきた。

 

 運転席の後ろで、記録担当の班員が、対象の資料を表示の脇に開いていた。

 

 ジェダイ・ナイト、セオン・マーレク。

 

 オープン・サークル艦隊司令部の連絡将校として、戦争が始まってから、艦隊の移動の予定に触れられる立場にあった。任務部隊の出撃の予定。補給の航路。艦隊の集結の時刻。

 

 その情報が、グリーヴァスの司令部へ流れていた。

 

 第二室が最初に気づいたのは、金の流れだった。辺境の星系の休眠していた口座に、連合の外郭の企業から、定期的に入金があった。次に、通信だった。暗号解析課が追っていた連合の通信の中に、その口座の番号と同じ符号が現れた。最後に、接触の記録だった。対象が三度、同じ下層の区画で、連合の連絡員と思われる人物と会っていた。

 

 金、通信、接触。三つの系統が、一つの名前で一致していた。

 

 疑いの段階は、二週間前に終わっていた。第二室の中では、この名前の横に、確認済み、の一語が付いていた。

 

 四日前、対象の使っていた連合の連絡の経路に、一通の暗号の連絡が流された。次の受け渡しの場所と、時刻。旧第六貨物中継区、二〇時一一分。文面は、これまでに対象が受け取ってきた連絡と、句読点の打ち方まで同じだった。暗号解析課が、これまでに傍受した連絡を並べて、癖を写した。

 

 対象は、その連絡に、了解の符号を返していた。

 

 今夜でなければならない理由も、あった。《マレボランス》を失った後、グリーヴァスの司令部は、情報源の整理を始めていた。連合の経路に、情報源の移送を示す符号が出ていた。対象は、明日の朝、前線の任務へ戻る予定だった。前線へ出れば、第二室の手は届かない。

 

 経路は、もう十分に読んだ。今夜を逃せば、対象は消える。逮捕すれば、読んでいたことが知られる。残る道は、一つだった。

 

「ヌーン将軍の部隊が、ピューへ出た日」

 

 記録担当が、資料の一行を指した。

 

「対象は、その三日前に、オープン・サークルの捜索の予定を閲覧しています。同じ日の夜に、口座に入金がありました」

 

 リヴィアは、その一行を見た。何も言わなかった。

 

「予定の位置まで」

 

『十九分』

 

「続けて」

 

 *

 

C.R.C. 7955.187 標準時一九時五五分 コルサント、レベル二七四四

 

『対象、西側の連絡歩廊へ。予定の経路の外です』

 

 監視員の声が、少しだけ速くなった。

 

「接触は」

 

『ありません。一人です』

 

「追わないで」

 

 リヴィアは言った。

 

「次へ渡して」

 

『……了解。四、離脱します』

 

 表示の一つが、暗くなった。

 

 リヴィアは、区画図を見ていた。西側の連絡歩廊は、二つ先の交差で、元の下降路の系統へ戻る。戻らなければ、別の系統へ出る。どちらへ出ても、先に人を置いてあった。

 

 三十秒が過ぎた。

 

『監視五、対象を確認。第七下降路の入口』

 

『五、引き継ぎます』

 

 元の系統だった。遠回りをして、戻ってきた。後ろを確かめたのだろう。確かめても、後ろには誰もいなかった。

 

「予定の位置まで」

 

『十五分』

 

「続行」

 

 運転席の後ろで、記録担当が、小さく息を吐いた。

 

 リヴィアは、息を吐かなかった。表示の中の、対象の背中を見ていた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.187 標準時二〇時〇二分 コルサント、レベル二一三九

 

 秘匿の回線が、鳴った。

 

 リヴィアは、耳の通信機を切り替えた。

 

『セリン班長』

 

「閣下」

 

 ターキンの声だった。背後に、かすかに音楽が聞こえていた。遠い弦の音と、人の声のざわめき。軌道の上の、巨大な艦の中の音だった。

 

『対象は』

 

「予定の経路の上です。予定の位置まで、九分」

 

『本人の確認は』

 

「三系統で、完了しています」

 

『逮捕した場合は』

 

「通信の経路を、こちらが読んでいることを、連合の側に知らせる可能性があります。対象を拘束すれば、連合は、どこから漏れたのかを調べ直します。暗号解析課の読んでいる経路が、閉じられるかもしれません」

 

『変更は』

 

「ありません」

 

『なら、続けろ』

 

「承知しました、閣下」

 

 回線の向こうで、音楽が一瞬、大きくなった。誰かが、ターキンに話しかけたらしかった。ターキンは、それに短く答え、それから、もう一度回線へ戻ってきた。

 

『共和国の仕事だと、知られるな』

 

「承知しています」

 

 回線が、切れた。

 

 リヴィアは、耳の通信機を元の回線に戻した。監視員たちの短い声が、また流れ始めた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.187 標準時二〇時〇八分 コルサント、レベル一七八二、旧第六貨物中継区

 

 かつて、上の層と下の層を結ぶ貨物の結節点だった区画だった。

 

 幹線の貨物路が別の場所へ移ってから、ここは半分だけ使われるようになった。遠くの方では、まだ貨物の車両が動いていた。天井の照明の一部も、点いていた。点いていない照明の下に、使われなくなった荷役の設備が、暗い塊になって並んでいた。

 

 完全な廃墟ではなかった。だから、かえって静かだった。

 

 対象は、この区画で、連合の連絡員と会う予定になっていた。少なくとも、対象は、そう信じていた。四日前に届いた暗号の連絡に、そう書かれていた。その連絡を書いたのは、連合の連絡員ではなかった。

 

『対象、N-2点に到達』

 

『監視七、引き継ぎます』

 

『予定の位置まで、三分』

 

 リヴィアは、表示の区画図を見ていた。N-2点から、予定の位置まで。荷役の設備の間を抜ける、細い通路が一本。通路の出口に、広い空間がある。かつて、貨物の籠を積み替えていた場所だった。

 

 その空間の周りに、三つの射撃の位置と、その後方に予備の位置が一つ、印になって灯っていた。

 

「監視班、そのまま」

 

 リヴィアは言った。

 

「行動班、準備」

 

 回線の向こうで、四つの短い応答が返ってきた。

 

『一、準備』

 

『二、準備』

 

『三、準備』

 

『四、準備』

 

 運転席の後ろで、記録担当が、背筋を伸ばした。

 

 今夜は、監視だけではなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7955.187 標準時二〇時一一分 旧第六貨物中継区、積み替え場

 

『対象、予定の位置に到達』

 

『随伴、なし』

 

『本人の確認、一致』

 

 リヴィアは、表示を見た。

 

 広い空間の真ん中に、外套の男が立っていた。天井の照明の一つが、その真上で点いていた。男は、周りを一度だけ見回した。それから、待つ姿勢になった。両手を、外套の前で軽く組んでいた。

 

 少しの間、誰も何も言わなかった。

 

「監視班、離れて」

 

『了解』

 

 表示の一つが、暗くなった。もう一つも。

 

「行動開始」

 

 その一瞬前に、男が顔を上げた。

 

 誰もいないはずの暗がりの方を、真っ直ぐに見た。三つの方角のうちの一つだった。見えているはずはなかった。見えていないものを、男は見ていた。

 

 最初の一発は、荷役の設備の陰から来た。

 

 男は、それより早く動いていた。外套の下から、光が伸びた。青い刃が、最初の一発を弾いた。弾かれた光条が、天井の照明の一つを砕いた。

 

 二発目、三発目が、別の方角から来た。刃が、それも弾いた。男の身体は、ほとんど動いていなかった。刃だけが、光の来る方角へ先回りしていた。

 

『二、撃ち続けろ。止まるな』

 

 現場主任が、回線に言った。

 

 三つの方角から、光条が途切れずに入り始めた。男は、刃を振りながら、一歩、横へ動いた。一番近い荷役の設備の陰にいた班員へ、空いている方の手を向けた。

 

 その班員が、見えない何かに叩かれたように、後ろへ飛んだ。設備の側面にぶつかり、床に落ちた。

 

『三、倒れた』

 

「三の射線を、四が埋めて」

 

 リヴィアは、表示を見たまま言った。

 

 男は、空いた射線の方へ走った。刃で前からの光を弾きながら、倒れた班員のいた設備の陰へ。そこを抜ければ、区画の奥の暗がりへ出られる。

 

 四の射線が、その進路の上に入った。

 

 刃が、光を弾いた。一発。二発。三発目は、別の方角から、刃の届かない角度で入った。

 

 男の肩が、跳ねた。

 

 刃の動きが、一瞬だけ遅れた。その遅れの中へ、次の光が入った。脚だった。男の身体が、片方へ傾いた。

 

 刃は、まだ光っていた。まだ、一発、二発と弾いていた。だが、三つの方角からの光を、一本の刃では、もう追いきれなかった。

 

 胴に、一発が入った。

 

 続けて、もう一発。

 

 刃が、床に落ちた。落ちた刃の光が、ひとりでに消えた。男は、膝をつき、それから、横に倒れた。

 

「停止」

 

 リヴィアは言った。

 

 光条が、止まった。

 

 区画に、静けさが戻った。遠くで、貨物の車両の動く音が、何事もなかったように続いていた。

 

『生命反応、あり』

 

 指揮車の中の観測担当が言った。

 

『……微弱です』

 

 現場主任が、回線に入ってきた。

 

『処置しますか』

 

「待って」

 

 リヴィアは言った。

 

 座席から立ち上がった。移動指揮車の後部の扉を開け、外の暗い通路へ出た。

 

 *

 

C.R.C. 7955.187 標準時二〇時一三分 旧第六貨物中継区、積み替え場

 

 積み替え場の床は、冷たかった。

 

 リヴィアは、倒れた男の前に立った。行動班の班員たちが、周りに銃を下げずに立っていた。三と呼ばれた班員は、仲間に支えられて座っていた。額から血を流していたが、意識はあった。

 

 男は、まだ目を開けていた。

 

 身体は、動かなかった。目だけが、動いた。その目が、リヴィアの顔を見た。

 

「……貴様か」

 

 声は、かすれていた。

 

「何が、ですか」

 

「分離主義の……連中が、言っていた……」

 

 男は、息を吸った。息を吸うたびに、胸の傷が音を立てた。

 

「共和国には……魔女がいる、と」

 

 リヴィアは、少しだけ眉を動かした。

 

「魔女」

 

「金が、止まる……船が、来ない……連絡員が、消える……」

 

 男の目が、リヴィアの顔から離れなかった。

 

「貴様か……連中の言っていた、魔女は」

 

 リヴィアは、否定しなかった。

 

「誰が、その呼び名を使っているんです」

 

 男の口元が、薄く笑った。

 

「……知りたいか」

 

「ええ」

 

「なら……生かして、おけ」

 

 リヴィアは、男の顔を見ていた。

 

 男の目が、少しずつ、焦点を失っていった。胸の音が、間遠になった。

 

『対象、生命反応、消失』

 

 耳の通信機に、観測担当の声が入った。

 

『死亡、確認』

 

 リヴィアは、しばらく、動かなくなった男の顔を見ていた。

 

 それから、言った。

 

「第二段階へ」

 

 *

 

C.R.C. 7955.187 標準時二〇時一六分 旧第六貨物中継区、積み替え場

 

 班員たちが、動き始めた。

 

 誰も、急いではいなかった。一人ひとりが、自分の受け持ちを知っていた。薬莢の代わりに床に残るブラスターの焼け跡を、別の種類の武器の焼け跡に見えるよう処理する者。監視の機材を回収する者。倒れた三の班員を、移動指揮車へ運ぶ者。

 

 班員の一人が、床に落ちた金属の筒の前で立ち止まった。

 

 ライトセイバーの柄だった。刃は、消えていた。

 

「班長。ライトセイバーは」

 

 リヴィアは、端末の表示から目を離さずに答えた。

 

「いつものとおり。回収して、処分」

 

「了解」

 

 班員は、手袋をはめた手で、その柄を拾い上げ、細長い回収容器に収めた。

 

 記録担当が、移動指揮車から降りてきた。

 

「現場の処理の範囲は」

 

「共和国の側の痕跡だけ、消してください」

 

 リヴィアは言った。

 

「残りは、本物を残す」

 

「追加の、連合の側の資料は。連絡員の遺留品に見えるものを、置いていくこともできますが」

 

「いりません」

 

「しかし――」

 

「本人は、本当に連合と接触していた。金も、受け取っていた。通信も、残っている。捜査が入れば、全部、本人の端末と口座から出てきます」

 

 リヴィアは、少しだけ間を置いた。

 

「嘘は、一つで十分です」

 

 記録担当は、それ以上何も言わなかった。

 

 嘘は、それだけだった。殺したのが、分離主義者だったという一点だけ。

 

 移動指揮車へ戻る前に、リヴィアは、三と呼ばれた班員の前で足を止めた。

 

 班員は、車両の後部の座席で、額に当て布を当てていた。見えない何かに叩かれて、設備の側面にぶつかった時の傷だった。

 

「痛みは」

 

「大したことは、ありません。……何も見えなかった。あっちが、手をこっちへ向けただけで」

 

「報告書に、そのまま書いてください」

 

 リヴィアは言った。

 

「何も見えなかった、と。次の班が、それを読みます」

 

 班員は、少しだけ意外そうな顔をした。それから、頷いた。

 

 二十分後、行動班は、区画から引き揚げた。

 

 積み替え場の真ん中に、外套の男が一人、倒れていた。天井の照明の一つが、その上で点いていた。砕けた照明の破片が、周りに散っていた。

 

 遠くで、貨物の車両の動く音が、まだ続いていた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.187 標準時二〇時三八分 移動指揮車

 

 秘匿の回線で、ターキンへ報告した。

 

『結果は』

 

「対象、死亡。情報の経路、遮断。班員、一名軽傷。共和国の側の痕跡は、ありません」

 

 回線の向こうで、また音楽が聞こえていた。さっきより、少しだけ賑やかだった。

 

『最後に、何か言ったか』

 

 リヴィアは、一拍、置いた。

 

「私を、魔女と呼びました」

 

『魔女』

 

「分離主義の側で使われている呼び名のようです。私を指しているのか、第二室の全体を指しているのかは、分かりません」

 

『名前は、知られているのか』

 

「いいえ。私個人を知っていた様子はありません。現場で私が指揮しているのを見て、そう呼びました」

 

『なら、訂正する必要はない』

 

「情報の上の危険には、なります」

 

『名前のない噂なら、利用価値の方が大きい』

 

 ターキンの声は、平らだった。

 

『連中が魔女を探している間は、こちらが経路を読んでいるとは考えない』

 

「経路を変える可能性があります」

 

『変えれば、また読め』

 

 リヴィアは、それ以上言わなかった。

 

 リヴィアは、危険を数えていた。ターキンは、一行で、それを使い道に変えていた。

 

『明日は、通常どおり出勤しろ』

 

「はい、閣下」

 

『今夜の欠席の理由は』

 

「デヴァロンの関連の資料の処理」

 

『それで通せ』

 

 回線が、切れた。

 

 リヴィアは、耳の通信機を外した。移動指揮車の窓のない壁を、しばらく見ていた。

 

 それから、今夜の記録を開いた。一九時四三分、監視一が対象を確認。一九時四九分、監視三へ。一九時五五分、予定の経路の外。五へ。二〇時〇八分、N-2点。二〇時一一分、予定の位置。行動開始。二〇時一三分、死亡確認。

 

 どの行も、予定の時刻から、一分とずれていなかった。

 

 リヴィアは、記録を閉じた。車体が、上の層へ向かって動き始めていた。

 

 端末の隅に、消したはずの予定の通知の跡が、薄く残っていた。二〇時〇〇分。とうに過ぎていた。

 

 *

 

C.R.C. 7955.188 標準時〇七時四二分 コルサント、保安委員会本庁舎

 

 昇降機を降りたところで、後ろから名前を呼ばれた。

 

「セリン」

 

 振り返ると、茶の容器を手にした女性が、昇降機の扉の前に立っていた。

 

 金融分析室にいた頃の同期だった。同じ年に保安委員会へ入り、最初の研修では隣の席だった。彼女は今も金融分析室に残り、企業の信用と輸送の保険の数字を見ている。

 

「昨夜のレセプション、行けなかったんだって?」

 

「仕事だったので」

 

「デヴァロン?」

 

「ええ」

 

「大変ね。すごかったらしいよ、あの艦。中に展望の区画があって、天井まで窓なんだって」

 

「そうですか」

 

 同期は、少しだけ肩をすくめた。

 

「また今度、お昼でも。研修の頃みたいに」

 

「ええ」

 

 廊下の分かれ目で、同期は金融分析室の方へ曲がっていった。リヴィアは、反対側の扉の前で、認証の端末に手をかざした。扉が開き、閉じた。

 

 同期の知っているリヴィアは、今でも、数字を読む人だった。

 

 朝の第二室は、いつもと変わらなかった。

 

 リヴィアは、いつもの勤務服を着ていた。昨夜の行動服は、第二室の装備区画へ返却してあった。

 

 リヴィアは、机に着き、いつものように朝の配布の資料を開いた。燃料の価格。輸送の保険。連合の外郭の企業の口座の動き。数字の並びは、昨日と変わらなかった。

 

 その中の一行で、指が止まった。辺境の星系の、休眠していた口座。昨夜の二〇時一一分以降、一度も動いていなかった。今朝も、動いていなかった。

 

 リヴィアは、その行に印を付け、次の行へ移った。

 

 壁の表示で、朝のホロネットの報道が流れていた。

 

 ジェダイ・ナイト、セオン・マーレク。レベル一七八二で死亡しているのが発見される。分離主義勢力による口封じの可能性。捜査当局は、同ナイトの端末と口座から、連合との接触を示す記録が見つかったと発表。

 

 次の報道に、移った。

 

 共和国グランド・フリート設置法案、本日、元老院で審議入り。

 

 その次に、《プライド・オブ・ザ・コア》の映像が映った。昨夜のレセプションの様子だった。軍人と議員と外交団の輪。天井まで届く大窓。大窓の前で、少将の礼装の若い士官が、隣の女性と並んで、外を見ていた。

 

 リヴィアは、その映像を、数秒だけ見た。

 

 それから、表示を閉じた。

 

 自分の端末に、作戦の報告書を開いた。

 

 対象、死亡。情報の経路、遮断。行動班の損失、一名軽傷。回収物、所定の手順により処理。公的な評価、分離主義勢力による口封じ。作戦の結果、完了。

 

 署名の欄に、名前を入れた。

 

 行動班長、リヴィア・セリン。

 

 報告書には、別紙が一枚付いていた。情報の評価の欄だった。リヴィアは、そこにだけ、三行を書き加えた。

 

 敵側の非公式の呼称――「魔女」。

 指示の対象――不明。

 継続して調査。

 

 机の端に、封筒が一つ置いてあった。昨日の朝、届いたものだった。《プライド・オブ・ザ・コア》就役記念レセプションの招待状。封は、切られていなかった。

 

 リヴィアは、それを引き出しにしまった。

 

 リヴィアは、報告書を送信した。

 

 魔女、という言葉は、作戦の報告書には残らなかった。

 

 情報の評価の欄にだけ、残った。

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