STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
大艦隊!
元老院の承認を受け、共和国グランド・フリートが発足した。初代司令官マティアス・ホーンのもと、カリダには決戦のための艦が集められていく。
だが、分離主義者の大攻勢は、《マレボランス》の喪失とともに止んだ。
戦場は、無数の星々に散らばった小さな戦いへと、その姿を変えていく。
出撃の命令を待つ巨大な艦隊から、一隻、また一隻と、艦が姿を消し始めていた――
*
C.R.C. 7955.194 カリダ軌道
カリダの空が艦で埋まっていた。
防衛泊地の外縁から、惑星の昼の側の縁まで。二つの太陽に照らされて、大小の艦影が幾つもの層になって並んでいた。
その中心に、《プライド・オブ・ザ・コア》がいた。
共和国グランド・フリートが初めて、決戦編成の骨格を揃えていた。
艦隊司令部の直轄の重戦列と、第1合同任務群、第2合同任務群、第4合同任務群、第5合同任務群の四つの合同任務群。合わせて、六十四隻。
マンデイターII級、一隻。マンデイターI級の改装艦、二隻。ディクテイター級、一隻。プロキュエーター級、二隻。マエルストローム級、五隻。リベレーター級、二隻。テクター級、二隻。ヴェネター級、二十隻。プロクラメイター級、十六隻。プロヴォケイター級、十隻。ヴィクトリー級、三隻。
その先頭に置かれる、第3合同任務群(CTF-3)の十四隻。
テクター級、三隻。プロヴォケイター級、六隻。ヴェネター級、三隻。ヴィクトリー級、二隻。
合わせて、七十八隻だった。
まだ、骨格だった。造船所からはこれから毎月、新しい艦が加わっていく予定になっていた。補給艦と工作艦と病院艦と救難艦は、この数に入っていなかった。それらを入れれば、泊地の外縁のさらに外まで、艦の列が続いていた。
グランド・フリートは一つの塊ではなかった。艦隊司令部の下に、直轄の重戦列と、五つの合同任務群(CTF)があった。第1合同任務群から第5合同任務群まで。合同任務群の下に、任務群(TF)があった。第3合同任務群なら、第32任務群から第34任務群までの三つと、テクター級三隻の第35任務群。第31任務群は欠番だった。ミラグロで失われた任務群の番号は、誰にも引き継がれなかった。第1合同任務群の第12任務群も、同じように欠番だった。任務群の下に一隻一隻の艦があった。第3合同任務群はその五つの合同任務群の一つだった。
ほかの合同任務群と違うのは先鋒を受け持つことだった。
第35任務群は敵の補給線の奥まで入り、限られた補給の中で戦い、生きて帰ってきた。デヴァロンでは、先に敵を追い詰めた部隊から仕事を引き継ぎ、三隻の砲火を揃えて巨艦と戦った。第3合同任務群は、その経験を十四隻の大きさに広げて作られていた。今度は敵を最初に見つけ、敵から最初に撃たれ、それでも本隊が来るまで死なない合同任務群。それが、この合同任務群に与えられた役目だった。
ハービンジャーの艦橋から、シーアはその眺めを見ていた。
七十日あまり前、同じ泊地から、五隻でアナクセスへ出ていった。プロクラメイター一隻、ヴェネター二隻、プロヴォケイター一隻、テクター一隻。その五隻が第35任務群の全部だった。
《アシュアランス》は、トーリンと一緒に、第2合同任務群のプロクラメイターの戦隊へ移っていた。艦隊の十六隻のプロクラメイターの中の一隻になった。移る前の晩、トーリンは短い通信を寄越した。《数える側から、数えられる側へ戻る。悪くない》。
ヴェネター級の《ヴァンガード》も、サンス艦長ごと、第1合同任務群へ移っていた。第3合同任務群のヴェネターの欄には、《レゾナンス》のほかに新しく二つの艦名が入っていた。《インテグリティ》と《グアラーラ》。どちらも、この二週間のうちにクワットから回航されてきた艦だった。
窓の外の艦の数をシーアは数えなかった。数える必要のない数になっていた。
*
カリダ外縁、訓練宙域
「3群、全艦。演習、開始」
コルヴェンが回線に言った。
第3合同任務群の十四隻が訓練宙域の中へ散っていった。
同じ時刻、別の宙域では、ほかの四つの合同任務群と直轄の重戦列の六十四隻も、演習の配置へ移っていた。
シーアはハービンジャーの戦術表示を見ていた。十四の印が四つの塊に分かれていく。
第32任務群。ヴェネター《レゾナンス》、プロヴォケイター《アウクトリタス》《ディグニタス》、ヴィクトリー《トライアンフ》。
第33任務群。ヴェネター《インテグリティ》、プロヴォケイター《ヴィルトゥス》《ヴェリタス》。
第34任務群。ヴェネター《グアラーラ》、プロヴォケイター《フィデス》《グラヴィタス》、ヴィクトリー《アクレイム》。
そして、ハービンジャー、《ヘラルド》、《エンヴォイ》。三隻のテクターは第35任務群としてまとめられ、ほかの三つの任務群には分散させていなかった。固定の射撃周期には加わらず、その後ろに少し離れて、機動の予備として置かれていた。
三つの任務群にはそれぞれ指揮官を置いていた。第32任務群は《レゾナンス》のディム大佐。第33任務群は《ヴェリタス》のマドック大佐。第34任務群は、《アクレイム》の古参の艦長のヘイグ大佐。テクター三隻の第35任務群は、《ヘラルド》のソーン大佐が率いた。第3合同任務群の中で一番古い大佐で、群の指揮の継承の順番も、ソーンが一番上だった。
演習の前の晩、シーアは三人を司令部区画に集めて、一つだけ言った。
「任務群の中でどの艦がいつ撃つかは、あなたたちが決めてください。僕が決めるのはどの任務群が、いつ火力投射を担うかだけです」
マドックが少しだけ意外そうな顔をした。
「ケルシスでは、一隻ずつ命令をいただいていましたが」
「あの時は五隻でした。今は十四隻です。十四隻に一隻ずつ命令していたら、命令が届く頃には次の番が来ています」
カリダで以前やったのは、三隻のテクターを揃えて撃たせる訓練だった。艦首を揃え、時刻を揃え、三隻を一つの艦のように撃たせた。
今度は、逆だった。
「仮想の敵、前方。距離、主砲の射程の端」
索敵担当が訓練の表示を読み上げた。前方の宙域に仮想の敵の艦隊の印が、十数個並んでいた。
「32、効力射開始」
シーアは言った。
第32任務群の四隻が撃ち始めた。訓練の出力に落とした光が、仮想の敵の印の周りに届いていく。
その間に第33任務群が第32任務群の脇を抜けて前へ出た。第34任務群は大きく旋回して、次の射撃の位置へ向かっていた。
第32任務群の射撃がまだ続いている時だった。
「33、効力射開始」
第33任務群の三隻が撃ち始めた。砲火が第32任務群から第33任務群へ引き継がれた。
「32、効力射終了。射撃宙域変換」
第32任務群が撃つのを止め、向きを変えた。次の射撃の位置へ。その間、第33任務群の砲火が仮想の敵を撃ち続けていた。
「34、跳躍前進開始。……効力射開始」
第34任務群が第33任務群の砲火を引き継いだ。第33任務群が射撃宙域の変換に入った。第32任務群が次の射撃宙域へ跳躍前進を始めた。
撃つ、動く、備える。三つの任務群がその三つを順番に回していた。どの瞬間にもどこかの任務群が撃っていた。どの瞬間にもどこかの任務群が動いていた。
演習の相手の側を受け持っていた訓練班から、回線に報告が入った。
『仮想の敵の側、目標の選定が追いつきません。撃ってくる任務群を狙う頃にはその任務群が動いている』
コルヴェンがシーアの方を見た。
「前にカリダでやったのとは正反対ですね」
「三隻の時は三隻を一隻のように撃たせました」
シーアは戦術表示の上の十四の印を見ていた。
「十四隻を一隻のように動かす必要はありません」
*
演習の途中で仮想の敵が動き方を変えた。
訓練班がわざと仕掛けたものだった。仮想の敵の印の群れが、一斉に向きを変え、移動の途中の第33任務群へ集中してきた。
「仮想の敵、第33任務群へ集中。第33任務群、移動中。射撃の姿勢にありません」
第33任務群の三隻は次の射撃の位置へ向かう途中だった。ヴェネターもプロヴォケイターも、推進に出力を回していた。撃つための姿勢にも出力の配分にもなっていなかった。
「35、第33任務群の前方へ」
シーアは言った。
ハービンジャーが動いた。《ヘラルド》と《エンヴォイ》が、続いた。三隻は第33任務群の前へ、斜めに差し込むように進んでいった。
進みながら、撃っていた。
ハービンジャーの上部構造の砲塔が、移動の間も仮想の敵へ向けて光を放ち続けていた。前部反応炉が砲を受け持ち、主反応炉が推進を受け持つ。二つの反応炉を持つ艦だけが走りながら、撃つ出力を落とさずにいられた。
第33任務群の前に、三隻のテクターが壁のように並んだ。仮想の敵の砲火が三隻のシールドへ集まった。その間に第33任務群は次の射撃の位置へ抜けていった。
「33、射撃宙域に到着。効力射の準備、完了」
「33、効力射開始。第35任務群、予備の位置へ戻ってください」
テクターの三隻が撃ちながら、元の位置へ戻っていった。
リラが技術区画から言った。
「前部反応炉、出力の上限の六割で、移動と射撃の両方。冷却、規定値の四割。……余裕があります」
「ほかの艦では、同じことはできませんか」
「できません。ヴェネターもプロヴォケイターも反応炉は一つです。走れば、撃つ出力が落ちる。撃てば、走る出力が落ちる。テクターだけが両方を別々に持っている」
シーアは戦術表示の上の、三隻のテクターの印を見た。
射撃の途中の任務群を増強する。移動の途中の任務群を覆う。突破してきた敵を止める。損傷した艦の退路を作る。ほかの三つの任務群の周期に縛られず、どこへでも撃ちながら駆けつけられる三隻だった。
「第35任務群は、ほかの三つの任務群の射撃周期には入れません」
シーアは言った。
「同じ周期に縛れば、ほかの艦と同じ時に撃って、同じ時に動くことになります。それでは、あの二つの反応炉が無駄になります」
*
《プライド・オブ・ザ・コア》、艦隊司令部区画
ホーンは艦隊の司令部の区画の大きな表示で、七十八隻の演習を見ていた。
表示の上で艦の印は、個々の艦としては動いていなかった。合同任務群として、戦列として、任務群として動いていた。
「1群、左翼の火力投射を引き継げ」
ホーンが言った。司令部の要員がそれを第1合同任務群の司令官へ伝えた。
「直轄重戦列、維持」
「機動予備は動かすな」
それだけだった。どの任務群を前へ出し、どれを休ませるかは、各合同任務群の司令官が決める。個々の艦の回頭と射撃は、隷下の任務群の指揮官から各艦へ下ろされていった。
表示の上で七十八隻が、四つの層に分かれて動いていた。艦隊司令官。合同任務群の司令官。任務群の指揮官。艦長。
参謀の一人が表示を見ながら言った。
「デヴァロンの頃とは別の艦隊のようですね」
「別の艦隊だ」
ホーンは言った。
「デヴァロンでは、止められる者がいなかった。その前は誰が命令するのかも分からなかった。今は一人が全部を命令するのではない。誰がどこまでを命令するのかが決まっている」
ホーンは表示の端の、第3合同任務群の十四の印を見た。三つの任務群が撃ち、動き、備えるのを順番に回していた。その後ろに、第35任務群の三つの印が予備として控えていた。
演習の後、ホーンは第3合同任務群への回線を開いた。
『ヴァラリアン少将』
「はい」
『三隻の時は一つにした』
ホーンは言った。
『十四隻になったら、一つにしないことを覚えたか』
「覚えました」
『それでいい』
回線が切れた。
*
C.R.C. 7955.221 カリダ、第3合同任務群司令部
デヴァロンから、四十日が過ぎていた。
戦争は止まっていなかった。ただ、形が変わっていた。
開戦からの二か月、連合は大きな艦隊を動かし、共和国の奥へ次々に攻め込んできた。共和国も同じように大きな艦隊で応じた。どちらも短いうちに決着をつけるつもりでいた。《マレボランス》が沈んだ後、連合の大きな攻勢は目に見えて止まっていった。
代わりに小さな戦いが増えていた。
朝の配布の戦況の頁には毎日、新しい星系の名前が並んだ。ライロスでは連合の封鎖が続き、地上へ届く補給をどう繋ぐかが議論されていた。ボサウイには敵艦隊の接近を警戒する報告が来ていた。辺境の名前も知らない星系でも、ジェダイの将軍とクローン軍団が戦っていた。一隻のヴェネターから降りることもあれば、数隻の任務部隊を連れていくこともあった。共和国の惑星防衛隊がすでに戦っている場所へ増援として降り、そのまま次の星系へ移ることもあった。方面の防衛部隊がその後を守っていた。
グランド・フリートには出撃の命令が来なかった。
八十隻近い艦を集めた艦隊と、正面から撃ち合ってくれる相手が、どこにもいなかった。連合は大きな艦隊をどこかに温存していた。温存したまま、出してこなかった。
だから、演習を続けた。三つの任務群が撃ち、動き、備える。その周期を毎日、少しずつ変えて繰り返した。
その朝の配布に、最初の転属命令が入っていた。
ヴェネター級《レゾナンス》。オープン・サークル艦隊へ転属。ライロス方面で増援を集める、新編の任務部隊の旗艦として。
シーアはその一行を読んだ。
ハラ・ディムの艦だった。ケルシスで、カリダを今年出たばかりの操縦士たちを送り出し、責任を取ってくれるんでしょうね、と言った艦長だった。マイ・トレンもその艦の航空隊の名簿にいた。艦は航空隊ごと移る。
ライロスの封鎖を破る日程は、まだ決まっていなかった。だが、増援の兵と艇を集め、補給を積み、行ける日が来た時に動けるようにする任務部隊には、先に旗艦が要る。ジェダイの将軍が乗り、クローンの一個軍団を運び、艦載機で上から支え、揚陸艇で降ろす。一隻でそれを全部できる艦は、ヴェネター級しかなかった。
シーアは第3合同任務群の編成表を開いた。第32任務群の欄の一番上の艦名が、灰色に変わっていた。転属の予定、と注記が付いていた。
夜、ディムから通信が来た。
『聞いたでしょう』
「聞きました」
『オープン・サークルの、新しい任務部隊の旗艦ですって。ジェダイの将軍が乗るそうです。艦長は私のまま』
ディムは少しだけ笑った。
『前に責任を取ってくれるんでしょうね、って言いましたね。あれ、まだ有効ですか』
「有効です。艦が移っても」
『なら、いいわ。トレンにもそう言っておきます。あの子、少し泣いてましたから』
回線が切れた。
シーアは編成表の第32任務群の欄をしばらく見ていた。
翌朝、《レゾナンス》がカリダの泊地を離れる前に、マイ・トレンがハービンジャーへ来た。
飛行服ではなく、制服だった。司令部区画の入口で敬礼して、それから、少しだけ迷うように立っていた。
「転属の前にご挨拶を」
「入ってください」
マイは卓の前まで来た。目の下が少しだけ赤かった。
「ロングレンジ・パトロールに出る前、行けと言うのは僕だ、って言いましたね」
「言いました」
「帰れるように数える、って。私の推進剤の分まで」
「言いました」
マイは少しだけ唇を噛んだ。
「次はジェダイの将軍が行けと言うんです。その人は私の推進剤を数えてくれるでしょうか」
シーアはすぐには答えなかった。
「数える人はどこにでもいます」
シーアは言った。
「ディム艦長は数えます。あの人はケルシスで僕に責任を取れと言った人です。それから、ジェダイの将軍が数えなかったら」
シーアは少しだけ間を置いた。
「自分で数えてください。帰りの推進剤の分を。第九中継点であなたは計算どおりに帰ってきた。あれは、あなたが数えたからです」
マイはしばらくシーアの顔を見ていた。それから、もう一度敬礼した。
「数えます」
「それから、第十五中継点のこともヤン・コルデスのことも、向こうで誰かに話してください。一緒に飛んでいた人がいた、と」
「……はい」
マイは司令部区画を出ていった。
昼前に、《レゾナンス》は泊地を離れた。シーアは、窓からその艦影が跳躍の光の中に消えるのを見ていた。
*
C.R.C. 7955.233 カリダ、ハービンジャー司令官室
《ストレイト・ライン》は、グランド・フリートの兵站群へ編入されていた。
ハロウェイ艦長から、短い通信が来た。
『補給艦が十九隻の兵站群になりました。私はその中の一隻です。燃料の残りを読み上げる相手が、艦隊司令部の兵站の参謀になりました』
「読み上げは続けていますか」
『毎日。向こうが聞いているかどうかは、分かりませんが』
ハロウェイは少しだけ笑った。
『それでも、代将――いえ、少将。次に第3合同任務群が遠くへ出る時は、私の艦を付けるよう、兵站の参謀に頼んであります。頼めば通る、と言われました。そういう仕組みに、なったそうです』
*
C.R.C. 7955.238 カリダ外縁、訓練宙域
通信が切れた。
演習の途中で訓練班が、第3合同任務群の司令部の回線を落とした。任務群の指揮官たちへ次の効力射を告げる声が、届かなくなった。
シーアは何も言わなかった。言っても届かなかった。戦術表示の上の、三つの任務群の印を見ていた。
第32任務群は効力射の終わる時刻に、撃つのをやめた。第33任務群はその時刻に撃ち始めた。第34任務群は次の位置へ動き始めた。
誰も命令を待たなかった。周期の長さを三つの任務群の指揮官たちは、もう身体で覚えていた。
訓練班が回線を戻した時、三つの任務群は一度も周期を崩していなかった。
「命令がなくても回りましたね」
コルヴェンが言った。
「回るように、決めてあったからです」
シーアは答えた。
「決めてあることは命令しなくていい。命令するのは決めていないことが起きた時だけです」
午後の演習では、進む向きが逆になった。仮想の敵を前に残し、撃っていない二つの任務群が後ろへ移る。射撃を終えた群は、そのさらに後ろへ下がった。
最初の回では、下がってきた《ヴィルトゥス》が、次に撃つ艦の射界へ近づきすぎた。マドックが針路を直させた。その報告がハービンジャーへ届く頃には、砲火は次の群へ渡っていた。
演習の終了点には、後続の合同任務群が展開するための線が引かれていた。各群がそこを横切れば終わり、ではなかった。後続の砲が撃てる空間を残して通る。シーアは講評で最後の一隻の航跡を巻き戻し、射線との間隔を見直した。
*
C.R.C. 7955.247 カリダ外縁、訓練宙域
演習の想定の欄に、一行があった。第33任務群の指揮官、戦死。
マドックは、《ヴェリタス》の艦橋でその一行を読み、艦長席から立ち上がって、艦橋の後ろの席へ移った。訓練の規則だった。死んだ者は何も言ってはならない。
第33任務群の三隻は一瞬、止まった。それから、《ヴィルトゥス》の艦長が回線に入った。
『33、指揮を《ヴィルトゥス》が継承。効力射、継続』
継承の順番は演習の前の晩に決めてあった。決めてあった順番に、指揮が移った。
その日の講評で、マドックは一つだけ言った。
「止まったのは三秒でした。次は一秒にします」
*
C.R.C. 7955.252 カリダ、第3合同任務群司令部
二通目の転属命令が朝の配布に入っていた。
ヴェネター級《インテグリティ》。ボサウイ方面の防衛部隊へ転属。航路の哨戒と、周辺星系へ向かう地上部隊の航空・揚陸支援のため。
ボサウイではスカイウォーカー将軍の部隊がグリーヴァスの艦を退けたという戦報が来ていた。それでも、退いた艦がまた来ないとは誰も言えない。補給船は航路を通り続け、クローンの軍団も一つ、周辺の新しい戦域へ移ることになっていた。戦いに勝った後の宙域にも、艦が要った。
第33任務群の欄の一番上の艦名が、灰色に変わった。
同じ週、ほかの合同任務群のヴェネターからも二隻が抜けていった。二十隻が十八隻になった。
代わりにマエルストローム級の新造艦が一隻、プロクラメイター級が二隻、カリダへ回航されてきた。艦隊の艦の数は減らなかった。
*
C.R.C. 7955.262 カリダ外縁、訓練宙域
《アクレイム》が、被弾した。
演習の想定の上でのことだった。第34任務群のヴィクトリー級が機関に損傷を受け、速度を半分に落とした、という想定だった。
第34任務群の残りの三隻は、《アクレイム》の周りに集まらなかった。互いの射界を補う位置へ移り、効力射を続けた。《アクレイム》は、一隻で後方へ下がっていった。
テクターの三隻が撃ちながら、下がる《アクレイム》と仮想の敵の間へ入った。
後方で演習に加わっていた救難艦が一隻、《アクレイム》の横に付いた。グランド・フリートの兵站群の、救難群の艦だった。ヴェッロが予算の欄に書き込ませた、救難艦の定数の中の一隻だった。
「下がった艦を誰が拾うのか」
シーアは戦術表示を見ながら言った。
「デヴァロンの時には決まっていませんでした」
コルヴェンが頷いた。
演習が終わった時、《アクレイム》は、救難艦と並んで泊地へ戻っていた。第34任務群は一度も効力射を途切れさせなかった。
*
C.R.C. 7955.289 カリダ、第3合同任務群司令部
三通目の転属命令は、最初の転属から二か月あまり後に来た。
ヴェネター級《グアラーラ》。コア宙域の中央方面の防衛部隊へ。新編のクローン部隊の、航空と揚陸の支援を兼ねて。
ある惑星の攻略が始まる、と書いてあった。揚陸と、上からの支援を一隻でできる艦が要った。
第34任務群の欄の一番上の艦名が、灰色に変わった。
シーアは第3合同任務群の編成表を開いた。
第32任務群、第33任務群、第34任務群。その三つの欄の一番上に、ヴェネターの艦名が一つずつ入っていた。三つとも灰色に変わっていた。
三つの任務群の、三つの空欄だった。
その間に、一隻ずつ、抜けていった。一度に抜かれていれば、もっと早く気づいたのかもしれなかった。
*
C.R.C. 7955.296 《プライド・オブ・ザ・コア》、艦隊司令部区画
空欄は第3合同任務群だけではなかった。
第3合同任務群以外の合同任務群と直轄重戦列の、ヴェネター級の欄の数字が何週間かおきに、少しずつ減っていた。
二十。十九。十九。十八。十七。十七。十五。十四。十二。
三か月の間に八隻が抜けていった。オープン・サークルへ。外縁の方面の防衛部隊へ。新編のクローン部隊の支援へ。どの転属命令にもまともな理由が付いていた。誰も、グランド・フリートの邪魔をしようとしているわけではなかった。
ヴェネター級はクローンの兵を運べた。艦載機を大量に積めた。揚陸艇も積めた。司令部の艦にもなった。砲戦もできた。
だから、誰もが欲しがった。ジェダイも方面の艦隊も地上の軍も。
シーアは艦隊全体の編成表の、三か月前の版と、今日の版を並べてみた。
三か月前より、ヴェネター以外の艦は二十隻増えていた。マエルストローム級。リベレーター級。テクター級。プロクラメイター級。プロヴォケイター級。ヴィクトリー級。造船所から回航されてきた新造艦が、毎月、艦隊の数字を押し上げていた。
ヴェネターだけが十一隻減っていた。
艦隊は膨らんでいた。膨らみながら、ヴェネターだけが抜けていった。マンデイターやテクターを、クローンの軍団を運ぶから貸してくれ、と言う者はいなかった。決戦のための艦ほど中央に残り、何にでも使える艦ほど、前線へ散っていった。
司令部の区画の卓で、シーアは艦政局から来た担当官と向かい合っていた。ホーンがその隣に座っていた。
「今月の、ヴェネター級の竣工の予定は」
シーアが訊いた。
「共和国全体で四十隻を超えます」
担当官は手元の表を見ながら答えた。
「クワットの本工廠だけでなく、委託の造船所も全部動いています。これまでで一番多い月です」
「では」
シーアは第3合同任務群の編成表と、艦隊全体の編成表を並べた。
「なぜ、十一隻足りないんですか」
「四十隻とも受領先が決まっています」
担当官は表の一頁を開いた。竣工の予定の艦名の横に、受領先の欄があった。オープン・サークルの任務部隊。方面の防衛部隊。新編のクローン部隊。地上軍の揚陸の支援。四十の欄が全部埋まっていた。
「造っても造っても決戦の編成には来ません。来る前に別のところで要る」
担当官は少しだけ申し訳なさそうに言った。
シーアはその表を見ていた。ホロネットの報道に映る共和国の艦が、どれもヴェネター級である理由が、そこに並んでいた。
「分かっていた」
ホーンが言った。
担当官と、シーアがホーンを見た。
「タッグ国防相も私も分かっていた。グランド・フリートの法案が出る前から」
ホーンは卓の上に別の資料を置いた。国防省の発注の記録だった。日付はデヴァロンの前だった。
決戦編成用のヴェネター級。中央の決戦の編成から、他の部隊へ引き抜かれないことを条件として、通常の増産の枠とは別の枠で発注する。
「ヴェネターは欲しい者が多すぎる」
ホーンは言った。
「だから、最初から、名前の付いた別の枠で頼んでおいた。決戦の編成のためのヴェネター。この枠の艦はどこへも回さない。国防相の署名で、そう決めてある」
「造っているのは」
「クワットの本工廠は通常の枠で手一杯だった。だから、委託の造船所に回した」
ホーンは発注の記録の、造船所の欄を指した。
サイブ・ドライブス。
アウター・リムの造船所だった。KDYが過半の株式を取得してからは、戦争の前から、ヴェネター級の委託の生産も請け負っていた。
艦政局の担当官が補充の予定の表を開いた。
決戦編成用ヴェネター。サイブ・ドライブス建造。第一陣、十一隻。到着の予定、七九五五・三四一。
十一隻。中央から抜けた八隻と、第3合同任務群から抜けた三隻。ちょうど、空いた穴の数だった。発注したのはずっと前だった。穴が空くのを見越して、空く前に頼んであった。造るのに半年近く掛かっていた。
「ようやく、戻るんですね」
シーアは言った。
「戻る」
ホーンは答えた。それから、少しだけ間を置いた。
「サイブがどういうヴェネターを造ったのかは、私もまだ見ていないが」
その夜、シーアはエレナへの連絡を書いた。
《艦が八十七隻になった。増えているのに、ヴェネターだけ減っている。足りなくなったヴェネターを十一隻頼んであるらしい。今度は誰にも持っていかれないヴェネターだそうだ》
少しして、返事が来た。
《誰にも持っていかれないヴェネターなんて、あるの?》
《あるらしい。国防相の署名で、そう決めてあるって》
《届いたら、教えて》
*
C.R.C. 7955.341 カリダ、防衛泊地管制
カリダの泊地の管制室はその朝、いつもより静かだった。
大艦隊が泊地を埋めてから、管制官たちは毎日何十隻もの艦の出入りを捌いてきた。今朝の予定は一件だけだった。サイブ・ドライブスからの回航の船団。ヴェネター級、十一隻。
「跳躍反応。船団、到着」
当直の管制官が表示を見た。識別の信号が自動で読み込まれていった。
VENATOR-CLASS。CYBE DRIVES。DECISIVE-BATTLE SUBTYPE。
「サイブの船団、ヴェネター級十一隻。進入の経路を――」
管制官は言いかけて、止まった。
識別の信号に付いてくる、寸法のデータを見た。
全長、一千六百四十八メートル。
管制官はもう一度、照合を走らせた。ヴェネター級の全長は一千百三十七メートルだった。どの年の、どの造船所のヴェネターでも、そうだった。
照合の結果は同じだった。一千六百四十八。
二隻目の信号を開いた。一千六百四十八。三隻目も。
「……外部の映像を」
管制室の正面の表示に、泊地の外縁の映像が出た。
楔形の艦影が並んで近づいてきていた。
一つ一つの部分はヴェネター級だった。見慣れた形の推進の噴射口。見慣れた形の格納庫の扉。見慣れた形の装甲の継ぎ目。
全体は、違っていた。
長かった。大きかった。艦尾の方がヴェネター級よりずっと膨らんでいた。上部構造の上に、ヴェネター級なら二つ並んでいるはずの艦橋の塔が、一つしかなかった。一つの、太い塔が中央に立っていた。艦首の下には大きな格納庫の口が開いていた。そして、上面の平らなはずの甲板の両舷に、重い砲塔がびっしりと並んでいた。
ヴェネター級の部品で、誰かが別の艦を組み立てたように見えた。一枚の船体を作ったというより、いくつもの大きな塊を繋ぎ、その外側を装甲で覆ったような艦だった。
管制室の誰もすぐには口を開かなかった。
「……艦種の照合を再実行」
当直の管制官が言った。
「実行しました。正常です。ヴェネター級、サイブ・ドライブス、決戦編成用」
隣の席の管制官が正面の表示から目を離さずに、小さく言った。
「……ヴェネターって、あんなだったか」
「識別の信号では、そうだ」
「艦橋が一つしかないぞ」
「識別の信号では、ヴェネターだ」
当直の管制官は進入の経路の割当てを、ヴェネター級の欄から、マンデイター級の係留の枠へ移した。ヴェネター級の係留の枠にはあの艦は収まらなかった。
先頭の艦の、艦名の信号が表示に出た。
《ヴァリアント》。
同じ頃、ハービンジャーの技術区画の小さな窓から、リラもその艦影を見ていた。
技術班の一人が隣で首を傾げていた。
「ヴェネターの、大きいやつですか」
「ヴェネターの設計を隅まで知っている人たちが、ヴェネターのまま、行けるところまで大きくした艦」
リラは窓から目を離さなかった。
「甲板の砲塔の並べ方を見て。反応炉はたぶん一つのまま。砲のための反応炉を積んでいない。積んでいたら、船体の後ろの形がもっと違う」
「じゃあ、テクターほどは」
「テクターほどは撃ちながら走れない。でも、砲塔の数はテクターより多い」
リラは少しだけ口元を緩めた。
「KDYの人間が見たら、悔しがるわ。うちが造れと言われていたら、きっと二つ目の反応炉を積もうとして、予算で揉めて、まだ設計図の上だった」
その夜、シーアはエレナへの連絡を書いた。
《届いた。ヴェネターを頼んだら、ヴェネターより五百メートル長い艦が来た。識別の信号では、ヴェネターだそうだ》
少しして、返事が来た。
《劇場でも、よくあるわ。舞台の袖を広くしてって頼んだら、客席が三列減ってた。頼んだとおりだったのよ》
シーアはその返事を二度読んだ。それから、少しだけ笑った。