STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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先鋒

 大洋艦隊、出撃!

 

 ネクサス・オルタイから、百隻を超える分離主義者の艦隊が、ついに動き出した。目標は、共和国南方の要、セスウェナ・セクター。

 

 共和国軍情報局は、敵の攻略船団がその後に続くものと判断した。

 

 グランド・フリートはデューロを発し、迎撃へ向かう。その先頭を行くのは、第3合同任務群。

 

 敵を最初に見つけ、最初に撃たれる者たちである――

 

 *

 

C.R.C. 7956.041 ネクサス・オルタイ、地表

 

 空が艦で埋まっていた。

 

 平原に並んだバトル・ドロイドの大隊の列の端で、B1-4417は首を真上に傾けていた。隣の列のB1-2208も同じ角度に首を傾けていた。列の全部のB1が同じ角度で空を見ていた。

 

 雲の上に巨大な艦影が幾つも幾つも並んでいた。細長いもの。丸いもの。平たいもの。その真ん中に一番大きな、細長い艦がいた。両舷に大きな穴が開いていた。

 

「ウワア……」

 

 4417が言った。

 

「スゴイナ」

 

 2208が言った。

 

「アレ、全部、味方カ」

 

「全部、味方ダ。百二十一隻ダッテ」

 

「百二十一」

 

 2208は指を折ろうとして、途中でやめた。ドロイドの指は十本しかなかった。

 

「共和国、終ワッタンジャナイカ?」

 

「終ワッタナ」

 

「オレタチ、エリアドゥヘ行クンダロ」

 

「行ク。アノ船ニ乗ッテ」

 

 4417は平原の向こうに並んだ輸送船の列を見た。丸い船腹の船が地平線の近くまで並んでいた。その一隻一隻に、自分たちの大隊が積み込まれる順番が、もう決まっていた。

 

 上空で光が一つ、伸びた。

 

 最初の艦が跳躍に入ったのだった。細い光の線が空の一点へ吸い込まれて、消えた。

 

「行ッタ」

 

「行ッタナ」

 

 次の艦が跳んだ。その次も。空の艦影が一つずつ、光の線になって消えていった。小さな艦が先に。それから、平たい艦。丸い艦。

 

 B1たちは黙って見送っていた。

 

 列の後ろの方から、B1-6630が首を伸ばした。

 

「アノ丸イノハ、ナンダ」

 

「ルクレハルクダ。昔ハ、通商連合ノ貨物船ダッタ」

 

「貨物船ガ、戦ウノカ」

 

「戦ウラシイ。砲ヲ、タクサン付ケタンダッテ」

 

「オレタチモ、アレニ乗レバヨカッタナ」

 

「アレハ、戦ウ船ダ。オレタチハ、アッチダ」

 

 4417は地平線の輸送船の列を顎で示した。丸い船腹の、砲の一つも付いていない船だった。

 

 最後に一番大きな、細長い艦がゆっくりと向きを変えた。両舷の大きな穴が一瞬だけ、平原の方を向いた。それから、その艦も光の線になって消えた。

 

 空が急に広くなった。

 

 雲の上に残っているのは輸送船と、揚陸艦と、燃料の船だけだった。戦列の艦は一隻もいなかった。

 

 平原に風が吹いていた。

 

 しばらくして。

 

「……ナア」

 

 4417が言った。

 

「何ダ」

 

「オレタチ、イツ乗ルンダ?」

 

 2208は首を傾けたまま、しばらく動かなかった。

 

「…………」

 

 列の前の方で指揮官型のドロイドが、手元の命令の表示を何度も切り替えていた。切り替えても乗船の時刻の欄は空いたままだった。

 

「置イテイカレタ?」

 

 4417が小さな声で訊いた。

 

 誰も答えなかった。

 

 平原の端から端まで、何万体ものバトル・ドロイドが、同じ角度で首を傾けて、空いた空を見上げていた。

 

 しばらくして、指揮官型のドロイドが列の前へ出てきた。

 

「全大隊ニ告グ。乗船ハ、延期。別命アルマデ、現地デ待機」

 

「延期?」

 

「待機」

 

「イツマデ?」

 

「別命アルマデ」

 

 指揮官型はそれだけ言って、列の前から戻っていった。

 

 B1たちはしばらく首を傾けていた。それから、一体ずつ、平原に腰を下ろし始めた。

 

「……デモ、アノ艦隊ガ、全部行ッタンダロ」

 

 2208が言った。

 

「行ッタ」

 

「ジャア、共和国、終ワルダロ」

 

「終ワルナ」

 

「終ワッタラ、オレタチ、何スルンダ」

 

「占領」

 

「ソウカ」

 

 2208は少しだけ考えた。

 

「占領ッテ、艦隊ガ勝ッテカラ、スルンダヨナ」

 

「ソウダ」

 

「ジャア、艦隊ガ勝ッテカラ、乗ルンダナ」

 

「……ソウナルナ」

 

 平原に風が吹いていた。遠くで、輸送船の機関が暖機のまま、低く唸り続けていた。

 

 *

 

コルサント、共和国軍情報局

 

 通信の量が跳ね上がった。

 

 軍情報局の分析室の壁一面の表示の上で、ネクサス・オルタイの周りの連合の通信の量を示す線が、一晩のうちにそれまでの五倍に伸びていた。

 

「跳躍の反応、多数。ネクサス・オルタイ、艦隊泊地」

 

 当直の分析官が声を上げた。

 

「大型艦を含みます。……サブジュゲーター級の反応。大洋艦隊、出撃しています」

 

 分析室の中が一斉に動いた。

 

 半年近く、この部屋はネクサス・オルタイを見続けてきた。一隻ずつ集まる艦。一個大隊ずつ降ろされる地上軍。燃料、弾薬、工兵の機材、占領の後の行政の資材。どれを見ても答えは一つだった。

 

 セスウェナ・セクターの攻略。

 

 分析室の室長が壁の表示の前に立った。

 

「針路は」

 

「出撃した艦の跳躍の方位から、推定して――」

 

 分析官は表示の上に線を引いた。ネクサス・オルタイから、南西へ。

 

「セスウェナの方面です」

 

 室長はしばらくその線を見ていた。

 

「エリアドゥだ」

 

 室長は言った。

 

「エリアドゥの攻略に来ている」

 

 分析室の誰もそれを疑わなかった。疑う理由がなかった。集められていたものは全部、本物だった。

 

「攻略の船団は」

 

「まだ、泊地にいます。輸送船、揚陸艦、燃料の船。地上軍の積み込みも始まっていません」

 

 室長は少しだけ眉を寄せた。

 

「戦闘艦だけが先に出たのか」

 

「そのようです」

 

 分析官の一人が言った。

 

「攻略の船団の航路を先に掃除するつもりでしょう。セスウェナの手前の中継の星系を押さえて、船団の通り道を作る。船団はその後から来る」

 

「あるいは、船団の足が遅いので、先に戦闘艦で共和国の防衛を叩いておく」

 

 別の分析官が言った。

 

 どちらも筋の通った読みだった。

 

 室長は表示の上の、船団の推定の到着の日を見た。攻略の船団の足と、中継の星系での補給と、船団の再編の時間から割り出した日だった。

 

 十一日。

 

「戦闘艦だけなら、もっと早い」

 

 室長は言った。

 

「だが、戦闘艦だけでエリアドゥを取ることはできない。取るには地上軍が要る。地上軍が着くのは十一日後だ。戦闘艦はそれまでに、船団の通り道の上で、共和国の艦隊を待つか、叩くか、どちらかをする」

 

 室長は振り返った。

 

「グランド・フリートへ。統合作戦本部へ。国防省へ。三か所に同時に」

 

 送信の表示が出た。

 

 大洋艦隊、ネクサス・オルタイより出撃。推定の目標、セスウェナ・セクター、エリアドゥ。攻略の船団は泊地に残留。戦闘艦の先行と判断。攻略の船団の推定の到着まで、十一日。

 

 分析室の壁の表示の上で、ネクサス・オルタイからセスウェナまでの線が、赤く光っていた。

 

 どの数字も正確だった。

 

 ただ、その数字を並べる順番だけが違っていた。

 

 *

 

 同じ報告は保安委員会の第二室にも、補給と物流の部分だけが回ってきた。

 

 リヴィアは、ネクサス・オルタイの補給廠の在庫の記録を開いた。燃料。弾薬。工兵の機材。占領の後の行政の資材。この半年、毎日のように数字にしてきた記録だった。どの数字も計画の数量に達していた。

 

 その記録の最後の行で、手が止まった。

 

 戦列の艦への燃料の積み込みは、出撃の三日前に終わっていた。輸送船への燃料の積み込みは、まだ半分しか終わっていなかった。

 

 船団はすぐには出られない。

 

 リヴィアはその一行を、軍情報局への補足として送った。攻略の船団の燃料の積み込み、半分。船団の出発は早くても五日後。

 

 送った後でもう一度、その一行を見た。

 

 戦闘艦だけが燃料を満たし、船団は満たしていない。船団の通り道を先に掃除するためなら、船団も、すぐ後から出られるように燃料を積んでおくはずだった。

 

 リヴィアはその考えを補足の欄には書かなかった。数字ではなかった。数字でないものを第二室は報告しない。

 

 ただ、自分の端末の覚え書きの欄に、一行だけ残した。

 

 船団は急いでいない。

 

 *

 

コルサント、国防省

 

 ハロルド・タッグは軍情報局の報告と、第二室の補足を並べて読んだ。

 

 大洋艦隊、出撃。推定の目標、エリアドゥ。攻略の船団、泊地に残留。船団の燃料の積み込み、半分。

 

「グランド・フリートは」

 

「デューロから、出撃の準備に入っています。ホーン艦隊司令官から、出撃の許可を求めてきています」

 

 随員が答えた。

 

 ハロルドは報告の最後の数字を見た。十一日。

 

「許可しろ」

 

 ハロルドは言った。

 

「セスウェナを守るために作った艦隊だ。守りに行かなければ、作った意味がない」

 

 随員が許可の文面を作り始めた。

 

 ハロルドは第二室の補足の一行をもう一度読んだ。船団の燃料の積み込み、半分。その数字が何を意味するのかをしばらく考えていた。考えても答えは出なかった。数字は正しかった。

 

「一行、付け加えろ」

 

 ハロルドは言った。

 

「艦隊司令官の判断で、いつでも下がってよい、と」

 

 *

 

デューロ軌道、《プライド・オブ・ザ・コア》

 

 グランド・フリートはカリダにいなかった。

 

 ネクサス・オルタイの集結の規模が、ある線を越えた時、ホーンは艦隊をカリダからデューロへ進めていた。セスウェナまでの距離を半分に縮めるためだった。コアの縁の造船と交易の星系の軌道に、九十八隻の艦が合同任務群ごとに分かれて錨を下ろしていた。

 

 軍情報局の報告が届いた時、司令部の区画の大きな表示の上には、もう、セスウェナ・セクターの星図が広げられていた。

 

「エリアドゥ」

 

 ホーンは報告の一行目を読んだ。

 

 合同任務群の司令官たちが、司令部の区画の卓の周りに集まっていた。第1合同任務群、第2合同任務群、第4合同任務群、第5合同任務群の司令官。直轄の重戦列の指揮官。そして、第3合同任務群の司令官。

 

「攻略の船団は泊地に残っている。戦闘艦だけが先に出た。船団の到着まで、十一日」

 

 ホーンは星図の上に、セスウェナ・セクターの主な星系を並べた。エリアドゥ。スティアガード。スルイス・ヴァン。その周りの、中継の星系。

 

「大洋艦隊が船団の通り道を先に押さえるつもりなら、セスウェナの手前のどこかで、船団を待つ。我々は船団が着く前に、その戦闘艦を叩く。セスウェナの中へは入れさせない」

 

 合同任務群の司令官の一人が訊いた。

 

「敵の戦闘艦の数は」

 

「百二十前後。こちらより多い」

 

 卓の周りが一瞬、静かになった。

 

「数では、負けている」

 

 ホーンは言った。

 

「だから、艦隊として戦う。合同任務群ごとに撃ち、動き、備える。四か月、そのために演習してきた」

 

 ホーンは星図の上で、グランド・フリートの前進の線を引いた。デューロから、セスウェナの北の縁へ。

 

「第3合同任務群が先鋒。リリアスからトリトンの方面へ先に入り、前哨線を張れ。偵察の艇を出し、索敵の線を幾重にも張って、後続の合同任務群が安全に展開できる宙域を確保しろ。本隊は合同任務群ごとに二時間の間隔で続く。直轄の重戦列が最後」

 

 ホーンはシーアの方を見た。

 

「ヴァラリアン少将」

 

「はい」

 

「敵を最初に見つけ、最初に撃たれ、それでも本隊が来るまで死なない。それが、君の合同任務群の役目だ」

 

「分かっています」

 

「敵を見つけたら、報せろ。前哨線の邪魔になるなら、退かせろ。だが、深追いはするな。本隊が着くまで、敵を見失うな。それから」

 

 ホーンは少しだけ間を置いた。

 

「艦を残せ」

 

 デヴァロンの前に、プロクラメイターの司令官に言ったのと、同じ言葉だった。

 

「了解しました」

 

 シーアは答えた。

 

 会議の後、司令部の区画を出ようとしたシーアを、ホーンが呼び止めた。

 

「一つだけ、言っておく」

 

 ホーンは星図の上の、セスウェナの北の縁を見ていた。

 

「軍情報局の読みは正しい。私もそう読む。だが、正しい読みが一つとは限らない」

 

「はい」

 

「先鋒は読みが外れた時に、最初にそれを知る者だ。外れていると思ったら、私の命令を待つな。知らせて、下がれ。君の合同任務群が艦隊の目だ。目が潰れたら、艦隊は何も見えなくなる」

 

「……分かりました」

 

 ホーンはそれ以上は言わなかった。

 

 *

 

 ハービンジャーに戻ると、リラが技術区画から上がってきていた。

 

「前部反応炉、全出力で四時間。冷却の予備も積んであります」

 

「足りますか」

 

「足りるように、使ってください」

 

 リラは前にシーアに言われた言葉をそのまま返した。それから、少しだけ声を落とした。

 

「エリアドゥ、ですね」

 

「たぶん」

 

「……奥様、あそこにいるんですよね」

 

 シーアは答えなかった。リラはそれ以上訊かなかった。

 

 ケレンが茶の盆を持って司令部区画に上がってきた。カップを卓に置き、それから、少しだけ迷うように立っていた。

 

「代将――いえ、少将。茶葉は三十日分、積みました」

 

「三十日」

 

「長くなるかもしれないので」

 

 シーアはカップを手に取った。柑橘の香りがちゃんとしていた。

 

「十日で帰れるといいですね」

 

「はい」

 

 ケレンは真面目な顔で頷いた。

 

 *

 

 出撃の前の短い時間に、シーアはエレナへの連絡を書いた。

 

 エレナはエリアドゥにいた。劇場の、次の公演の稽古の最中のはずだった。ヴァルコス家の屋敷もターキン家の本拠も、エリアドゥにあった。

 

 大洋艦隊の目標がエリアドゥだということは、まだ報道には出ていなかった。書けることは少なかった。

 

 《しばらく連絡できない。劇場は開けておいて》

 

 少しして、返事が来た。

 

 《開けておくわ。いつもどおり、一つ、席を空けて》

 

 それから、もう一通。

 

 《眠れなかったら、先に話して。約束でしょう》

 

 シーアはその一行をしばらく見ていた。

 

 《眠れなかったら、帰ってから話す》

 

 送信してから、端末を伏せた。

 

 *

 

C.R.C. 7956.042 エリアドゥ、旧劇場

 

 エレナは稽古の途中で端末を見た。

 

 眠れなかったら、帰ってから話す。

 

 短い一行だった。いつもなら、眠れなかった夜のことを、先に話してくれるようになっていた。今度は帰ってから、と書いてあった。

 

 舞台の上で役者たちが台詞の途中で止まって、エレナの方を見ていた。

 

「続けて」

 

 エレナは言った。

 

 稽古が再開した。

 

 客席の奥の方で、劇場の古い案内係が街の噂を小声で話していた。港の方で防衛隊の艦が慌ただしく出入りしている。総督府の灯りが夜通し消えない。連合の艦隊がこちらへ向かっているらしい。

 

 エレナは客席の一番前の列の、端の席を見た。その席だけ、背もたれに小さな札が付いていた。予約済み。

 

 稽古が終わった後、エレナは劇場の支配人に言った。

 

「次の公演、予定どおりに開けます」

 

「連合の艦隊が来るという話も――」

 

「来るかもしれません。来なかったら、開けていなかったことを後悔します。来たら」

 

 エレナは少しだけ考えた。

 

「来たら、それでも開けていたことを誰かが覚えています」

 

 支配人は何も言わずに頷いた。

 

 *

 

デューロ軌道

 

 第3合同任務群の十四隻が最初に跳んだ。

 

 ハービンジャー、《ヘラルド》、《エンヴォイ》。《ヴァリアント》、《アダマント》、《フォーティチュード》。六隻のプロヴォケイターと、二隻のヴィクトリー。その後ろに、一隻の補給艦が付いていた。

 

 《ストレイト・ライン》だった。

 

『燃料、満載です、少将』

 

 ハロウェイの声が回線に入った。

 

『兵站の参謀に頼んであったとおりです。第3合同任務群が遠くへ出る時は私の艦を、と』

 

「ありがとうございます」

 

『礼は、燃料の残りを読み上げ終わってからにしてください』

 

 ハロウェイは言った。

 

『今度は十日分です。二十四日分ではありません。本隊がすぐ後ろにいますから』

 

 シーアは戦術表示を見た。第3合同任務群の十四隻の印の後ろに、二時間の間隔で、第1合同任務群、第2合同任務群、第4合同任務群、第5合同任務群の印が並んでいた。一番後ろに、直轄の重戦列。《プライド・オブ・ザ・コア》の印がその中心にあった。

 

 九十八隻の艦隊が縦に長く伸びて、セスウェナへ向かっていた。

 

 先頭の十四隻が一番最初に敵を見つける。

 

「跳躍」

 

 コルヴェンが言った。

 

 星の光が引き伸ばされた。

 

 *

 

C.R.C. 7956.044 ハイパースペース、ハービンジャー

 

 二度目の中継で、後続の第1合同任務群から、個別の回線が入った。

 

 ラックスの声だった。

 

『二時間後ろにいる』

 

 ラックスは言った。《ポラリス》は、カダーンの後の修理を終えて、第1合同任務群の戦列に戻っていた。艦橋は新しく造り直されていた。

 

「知っている」

 

『君が見つけたら、私が最初に着く』

 

「二時間で」

 

『二時間で』

 

 ラックスは少しだけ間を置いた。

 

『カダーンでは、私が先に出て、後ろに誰もいなかった。今度は君が先に出て、後ろに私がいる。順番が決まっているのは悪くない』

 

「命令する場所が一つだから」

 

『そうだ』

 

 ラックスはそれ以上言わなかった。回線が切れた。

 

 シーアは戦術表示の上の、二時間後ろの第1合同任務群の印を見ていた。《ポラリス》の艦名がその中にあった。

 

 *

 

C.R.C. 7956.045 標準時〇六時一〇分 セスウェナ・セクター北縁、リリアス星系外縁

 

 セスウェナの北の縁は静かだった。

 

 第3合同任務群は跳躍を抜けると、すぐに散った。三つの任務群が互いに見通せる距離を保って、扇の形に広がった。テクターの三隻は扇の要の位置で、どの任務群にも付かずに浮いていた。《ストレイト・ライン》は、扇の後ろの、一番安全な位置にいた。

 

「偵察艇、全機、発進。第一索敵線、リリアスの南縁。第二索敵線、クラクドール。第三索敵線、トリトンの手前」

 

 コルヴェンが命じた。

 

 二隻のヴィクトリー級とプロヴォケイターの格納区画から、偵察の艇が次々に飛び立っていった。小さな印が扇の前方へ、三本の線を描くように散っていく。

 

 シーアは戦術表示を見ていた。リリアス星系。銀河平面座標M-18。エリアドゥまで、跳躍を二回。

 

 ここに線を張る。三本の索敵の線の内側に、後続の四つの合同任務群と直轄の重戦列が展開できる宙域を作る。本隊が着いた時、その宙域の中に敵がいなければ、グランド・フリートは戦列を組んでから敵に向かえる。

 

 それが、今日の最初の仕事だった。

 

「後続の第1合同任務群、二時間後に同じ星系の北縁へ到着の予定。本隊の各合同任務群、予定どおり」

 

 艦橋後部の通信卓から、通信主任のマレナ・セルト大尉が報告した。後続から届く時刻を、偵察艇の報告とは別の欄へ並べていた。

 

 四十分後、第三索敵線の偵察艇から、報告が入った。

 

『接触。大型艦、多数。トリトンの手前、第三索敵線の上。……識別、照合中』

 

 艦橋が静かになった。

 

『バルワーク級。バトルクルーザー、六。レキューザント級、十前後。停泊しています。……こちらの索敵線と、重なっています』

 

 シーアは戦術表示の上に現れた、十六の赤い印を見た。

 

 張ろうとしていた線の、ちょうど上だった。

 

「本隊へ」

 

 シーアは言った。

 

「予定の前哨線の上に、敵艦隊。バルワーク級六、レキューザント級十。こちらの索敵線と、重なっています」

 

 送信の表示が出た。

 

 返事は二分後に来た。ホーンの声だった。

 

『退かせられるか』

 

「できます」

 

『なら、退かせろ。そこを空けなければ、本隊を入れられない』

 

「了解しました」

 

 シーアは三つの任務群への回線を開いた。

 

「3群、全艦。敵の前衛を第三索敵線の外へ押し出します。三つの任務群、正面を取ってください。第35任務群は予備の位置」

 

 *

 

標準時〇六時五八分 バルワーク・マークI級バトルクルーザー《リサーレクション》

 

 前衛の部隊の旗艦の艦橋で、ヒルマー中将は共和国の艦の群れの印を見ていた。

 

 十四隻。三つの塊と、一つの小さな塊。ネクサス・オルタイの戦術ドロイドが報告したとおりの動き方だった。

 

「共和国の先鋒です」

 

 参謀が言った。

 

「偵察の艇を三本の線に散らしています。ここに前哨の線を張るつもりでしょう」

 

「張らせるな」

 

 ヒルマー中将は言った。

 

 ゼーア提督の命令ははっきりしていた。前衛は共和国の先鋒と接触を保つ。押されれば下がり、共和国が止まればまた出る。先鋒が前哨線を確保できなければ、後続もその先鋒を支えるために前へ出てくる。別々の時刻に到着する合同任務群が、互いを助けようとして、同じ航路の上へ細長く並ぶ。

 

 十分に伸びるまで、主力は見せない。前衛が決められた線を越えたところで、その主力が共和国の進路へ反転する。後続が火力を届けられないうちに、先頭の群から潰す。それが、ヒルマーに示された作戦図だった。

 

 図の中で前衛の十六隻は、最後まで整った列を保っていた。ヒルマーは退路の幅と、後続艦の間隔をもう一度確かめた。自分の仕事は、共和国の先鋒より早く逃げることではなかった。追いつけそうな距離を保ったまま、必要な時刻まで艦を残すことだった。

 

 それまでは、ここにいる。共和国の先鋒に、ここを渡さない。

 

「押されたら、下がれ。押されなくなったら、また出ろ。線を張らせるな。ただし、本気で撃ち合うな。この前衛は本隊が来るまで、ここに張り付いていればいい」

 

『ラジャー、ラジャー』

 

 レキューザントの艦橋の戦術ドロイドたちが、揃って答えた。

 

 参謀の一人が表示の上の、どの塊にも属さずに浮いている三つの印を見ていた。

 

「あの三隻はテクター級です。先頭の艦はハービンジャー。……デヴァロンの」

 

 ヒルマー中将はその艦名をしばらく見ていた。

 

「あの三隻から、目を離すな」

 

 *

 

標準時〇七時〇五分 ハービンジャー

 

「32、効力射開始」

 

『32、了解』

 

 コーヴィンの声だった。

 

 《ヴァリアント》の甲板から、赤い光条が細かく、絶え間なく噴き出した。二隻のプロヴォケイターと《トライアンフ》の砲火がその光の間に重なった。光は束になって、敵の前衛の先頭のバトルクルーザーの周りへ、降り注いでいった。

 

 演習の光ではなかった。

 

 先頭のバルワーク級のシールドが、光の中で波打った。敵の艦が撃ち返してきた。

 

 そして、下がった。

 

「敵の前衛、後退。南へ。……第三索敵線の外へ出ていきます」

 

 索敵担当が言った。

 

「思ったより、あっさりですね」

 

 コルヴェンが言った。

 

「3群、前進を止めてください。第三索敵線の上に、線を張ります。偵察艇、第三索敵線へ戻って」

 

 三つの任務群が止まった。偵察の艇が前へ散っていった。

 

 十分後。

 

「敵の前衛、前進。……戻ってきます。第三索敵線の上へ」

 

 索敵担当の声が少しだけ上ずった。

 

 表示の上で十六の赤い印が、また索敵の線の上へ出てきていた。偵察の艇が慌てて下がってくる。

 

「32、効力射開始」

 

 光が走った。敵の前衛は撃ち返し、また下がった。第3合同任務群が止まると、また出てきた。

 

 三度目に敵の前衛が戻ってきた時、コルヴェンが表示を見ながら言った。

 

「また出てきました」

 

「……張り付いていますね」

 

 シーアは言った。

 

 押せば、下がる。止まれば、出てくる。撃ち合うつもりはない。ただ、ここを渡さないつもりでいる。

 

 このままでは、線を張れない。本隊が着いた時、展開する宙域の上に、敵の前衛が張り付いたままになる。

 

 シーアはしばらく表示を見ていた。

 

「押すのはやめます」

 

 シーアは言った。

 

「崩します」

 

 コルヴェンが振り返った。

 

「三つの任務群、交互進退射撃。効力射で押さえている間に、次の任務群が跳躍前進。前へ出た任務群へ火力投射を渡したら、後ろの任務群は射撃宙域を変換して、さらに前へ。敵の前衛に張り付き返します。下がる隙を与えないように」

 

『32、了解』

 

『33、了解』

 

『34、了解』

 

「32、効力射開始。第33任務群、跳躍前進開始」

 

 第32任務群の《ヴァリアント》が、二十二基で撃ち始めた。その光の下を第33任務群の《アダマント》と二隻のプロヴォケイターが前へ抜けていった。

 

「33、射撃宙域に到着。効力射開始」

 

「32、効力射終了。射撃宙域変換。第34任務群、跳躍前進開始」

 

 砲火が途切れなかった。途切れないまま、少しずつ、前へ出ていった。

 

 敵の前衛は下がろうとした。下がる間にも光が降り注いだ。止まって撃ち返そうとすると、次の任務群がもう次の射撃宙域から撃ってきていた。

 

 バトルクルーザーの二隻目と三隻目が、並んで撃ってきた。長い砲身が揃って光り、第32任務群の《ディグニタス》の艦首に光が続けざまに入った。

 

『《ディグニタス》、前部シールド、限界。……前部の砲座、二基喪失。負傷者あり』

 

『《ディグニタス》、群の後ろへ。《トライアンフ》、その射界を引き継いで』

 

 コーヴィンが第32任務群の回線で命じた。シーアへ届いたのは、その処置を終えた報告だった。

 

 ヴィクトリー級の《トライアンフ》が、《ディグニタス》の前へ滑り込んだ。任務群は一隻が下がっても撃つのをやめなかった。演習で何度もやった動きだった。

 

 技術区画から、リラの声が届いた。

 

「前部反応炉、出力六割。冷却、規定値の四割。……演習と、同じ数字です」

 

 演習と、同じ数字だった。演習と違うのは、撃っている相手が撃ち返してくることだけだった。

 

 *

 

標準時〇八時〇五分 ハービンジャー

 

 敵の前衛の注意は正面に吸われていた。

 

 三つの任務群の効力射が途切れずに降り注いでいた。とりわけ、ヴァリアント級の光のシャワーが、敵の艦の索敵と砲座を正面へ釘付けにしていた。敵の前衛の十六隻の艦首は揃って北を向いていた。

 

 東の側面が空いていた。

 

「35、側面へ」

 

 シーアは言った。

 

「距離は」

 

 コルヴェンが訊いた。

 

「詰めます」

 

 シーアは表示の上の、敵の前衛の東の端を指した。

 

「各艦、リアクター砲戦モード。準備でき次第、撃て」

 

『《ヘラルド》、了解』

 

『《エンヴォイ》、了解』

 

 ハービンジャーの艦体が震えた。

 

 前部反応炉の唸りが低い音から、高い音へ変わった。主反応炉が推進を全開にし、前部反応炉が砲への給電を上限まで上げる。二つの反応炉をそれぞれの仕事にだけ使う。テクター級にしかできない戦い方だった。

 

「前部反応炉、上限。冷却、追いついています。……撃てます」

 

 リラの声だった。

 

 三隻のテクターが任務群の隊形の外を、大きく東へ走った。速かった。任務群の艦がついて来られない速さで、走りながら、敵の前衛の東の端へ回り込んでいった。

 

 敵の前衛が気づいた時には遅かった。

 

「照準、よし」

 

「撃て」

 

 三隻の主砲の重い光が敵の前衛の側面へ、真横から叩き込まれた。

 

 正面の任務群の光のシャワーとは、違う光だった。一本一本が太く、重く、狙った艦の、狙った場所へ入った。一世代新しい砲の光だった。

 

 東の端のレキューザントが、重い光を浴び続けて、船体の中央から折れた。

 

 二隻目。三隻目。

 

 テクターの三隻は走りながら撃ち続けた。側面から、敵の前衛の列を端から順に縦に貫いていく。横腹を晒した艦から、次々に光が噴き出した。

 

 バルワーク級の一隻が艦を回して、テクターへ向き直ろうとした。回っている間に、ハービンジャーの連続射撃の光がその艦首に入り、続けて機関の区画に入った。バトルクルーザーは艦尾から火を噴き、動かなくなった。

 

「敵のレキューザント、四隻撃沈。バトルクルーザー、一隻撃沈、一隻航行不能」

 

 ドレン・カルヴィ兵曹長は、撃沈と航行不能の欄を分けて読み上げた。声が震えたのは最後の一隻だけだった。止まったバルワークにはまだ反応炉の光があり、沈んだものとして数えるわけにはいかなかった。

 

 正面では、任務群の効力射が途切れずに続いていた。側面からはテクターの主砲が、止まらずに叩き込まれていた。

 

 *

 

標準時〇八時一二分 《リサーレクション》

 

「左翼、隊形崩壊!」

 

 参謀の声が艦橋に響いた。

 

「第四戦隊、後退命令を待たず離脱!」

 

「《トライアンファル・ウィル》、撃沈!」

 

 ヒルマー中将は表示を見ていた。

 

 東の端から、前衛の列がほどけていた。レキューザントが一隻ずつ、勝手な方位へ逃げていく。バトルクルーザーの一隻が止まったまま燃えていた。正面からは光のシャワーが、途切れずに降り続けていた。

 

 こんなはずではなかった。

 

 共和国の先鋒とは適当に撃ち合っていればよかった。本隊が近づいたら、秩序を保って下がればよかった。それだけの仕事だった。

 

「中将!」

 

 参謀が叫んだ。

 

「これは、もう誘導ではありません!」

 

 ヒルマー中将は一瞬、目を閉じた。

 

「全艦、後退。南へ。決めてある方位へ」

 

 ヒルマー中将は言った。

 

「集まれる艦から、集まれ。……主力のところまで、下がる」

 

 前衛の残りの艦が南へ逃げ始めた。秩序はもうなかった。逃げられる艦から、逃げていった。

 

 *

 

標準時〇八時二〇分 ハービンジャー

 

「敵の前衛、潰走。南へ」

 

 索敵担当が言った。

 

 シーアは表示を見ていた。十六あった赤い印は十になっていた。その十がばらばらに南へ散っていく。

 

 押したら下がる、から、崩したら逃げた、に変わっていた。

 

「追います」

 

 シーアは言った。

 

「前哨線を張っても、あの十隻がどこかでまとまって戻ってくれば、また張り付かれる。まとまる前に第三索敵線の外まで追い散らします。任務群は交互進退射撃のまま。第35任務群は任務群の東側を並走」

 

『32、了解』

 

 第3合同任務群が南へ動き始めた。

 

「本隊との距離が開きます」

 

 コルヴェンが言った。

 

「第1合同任務群は今、リリアスの北縁に着いたところです。ここまで一時間」

 

「分かっています。追い散らしたら、戻ります」

 

 敵は止まらなかった。沈んだ僚艦も燃えているバトルクルーザーも、振り返らずに南へ逃げていった。

 

 四十分、追った。

 

 逃げる十隻のうち、二隻がまた沈んだ。残りの八隻はトリトンの方角へ、ばらばらに逃げ続けていた。

 

「第1合同任務群まで」

 

 シーアが訊いた。

 

「一時間二十八分。向こうも前進していますが、こちらの方が速く南へ出ています」

 

 コルヴェンが答えた。

 

 一時間前には一時間だった。

 

 敵を追うほど、味方から遠ざかっていた。

 

 *

 

標準時〇八時五〇分 トリトン星系外縁、《エクスターミネイター》

 

「前衛ヨリ。……前衛、潰走シテイマス」

 

 索敵のドロイドが報告した。

 

『バトルクルーザー、一隻撃沈、一隻放棄。レキューザント級、六隻喪失。残存、八隻。ヒルマー中将ノ旗艦、健在。当艦隊ノ方角ヘ、後退中』

 

 作戦室の中が静かになった。

 

 ゼーア提督は表示の上の、ばらばらに下がってくる八つの印を見ていた。その後ろから、共和国の先鋒の十四の印が塊のまま追ってきていた。

 

「……崩されたか」

 

 提督は言った。

 

「予定より、早い。前衛は共和国の本隊が前に出てくるまで、張り付いているはずだった」

 

「共和国の先鋒の、テクター級三隻です」

 

 情報の参謀が言った。

 

「正面の任務群が撃っている間に、側面へ回り込みました。走りながら撃つ艦です。前衛の横腹を端から貫いていきました」

 

 ゼーア提督はしばらく黙っていた。

 

「デヴァロンの三隻か」

 

「はい」

 

 ゼーア提督は表示の上の八つの印を見ていた。

 

 予定していた後退の線はもうなかった。ヒルマーの前衛は誘導しているのではなかった。本当に逃げていた。

 

「共和国の先鋒が追っています」

 

 参謀が言った。

 

「なら、予定は捨てる」

 

 ゼーア提督は追ってくる十四の印を見た。

 

「前衛を収容する。主力を前へ。あの十四隻を先に潰す」

 

 提督は共和国の後続を示す予測線を消し、先鋒の十四隻だけを拡大させた。艦隊全体を引き伸ばすには早すぎた。だが、その先頭だけはもう、本隊の砲が届かない位置にいた。

 

「後続が着くまでの時間を使う。中央で押さえ、両脇から後ろへ回れ。突破に備える艦は別に残す。包囲の案を」

 

 作戦卓の向こうで、三機の戦術ドロイドがそれぞれの表示を開いた。艦隊司令部の上級参謀を務める統制機、TD-17、TD-18、TD-19だった。中央の交戦距離、両翼の進出、後続の到着予測。扱う欄は違っていたが、一機の修正が入るたび、三つの表示が同時に書き換わった。

 

「誘導は」

 

「もう要らん。向こうから来ている」

 

 提督は艦隊の全艦への回線を開いた。

 

「主力、前進。前衛の残りをいったん後ろへ収容しろ。損傷を確かめてから、動ける艦を両翼へ回せ。中央は先鋒の足を止める。追い越すのは両翼の仕事だ」

 

『ラジャー、ラジャー』

 

「《エクスターミネイター》は、正面に出るな。戦列の後ろから撃つ」

 

 ハイデン大佐が頷いた。

 

 巨大な艦がゆっくりと機関を上げ始めた。

 

 *

 

標準時〇九時一〇分 ハービンジャー

 

 逃げる八隻の向こうに、何かが見えた。

 

「……反応。逃げる敵艦の、さらに向こう」

 

 カルヴィが表示を拡大した。

 

「大型。一つ」

 

 赤い印が一つ、灯った。逃げる八隻の印の、ずっと向こう。トリトンの外縁の宙域だった。

 

「……もう一つ。三つ。……十」

 

 印が増えていった。

 

 一つ灯るたびに、艦橋の誰かの呼吸が少しだけ止まった。

 

「三十。……四十」

 

 表示の端から、赤い印が滲み出すように広がっていった。逃げてきた八隻の印はその赤い群れの中へ、吸い込まれるように消えていった。

 

「五十。……六十。……まだ増えています。後方にも反応。全部は索敵の範囲に入りません。数え切れません。大型艦、多数。戦列を組んでいます」

 

 索敵担当の声が途中で上ずった。

 

 シーアは戦術表示を見ていた。

 

 船団はなかった。

 

 輸送船の、丸い船腹の印は一つもなかった。揚陸艦も燃料の船もなかった。ネクサス・オルタイで、軍情報局が半年見続けてきたものは、一つもそこにはいなかった。

 

 戦闘艦だけだった。

 

 赤い印の群れの中央で、識別の照合が一つの結果を返した。

 

 SUBJUGATOR-CLASS。

 

 EXTERMINATOR。

 

 艦橋の誰も口を開かなかった。カルヴィの指が、新しい反応を囲んだまま止まっていた。セルトは本隊への回線を開いていたが、送る文面をまだ受け取っていない。

 

 シーアも動かなかった。表示の上には、デヴァロンで沈めた艦と同じ形の艦がいた。十四隻の位置を囲もうと伸ばした指が、途中で宙に浮いていた。コルヴェンが隣で息を吸う音を聞き、ようやく手を卓へ下ろした。

 

 自分たちが崩したのは、偵察に前へ出てきた敵の分艦隊ではなかった。

 

 大洋艦隊そのものの、先鋒だった。

 

 その先鋒を崩し、追い、ここまで来た。大洋艦隊の主力の、真正面まで。

 

 攻略の船団を待つために、ここへ来た艦隊ではなかった。

 

 少なくとも今、この艦隊が最初に取りに来ているものは、エリアドゥではない。

 

「……先に僕たちを取りに来た」

 

 シーアは言った。

 

 声は大きくなかった。コルヴェンにだけ、聞こえた。

 

「本隊へ」

 

 シーアは言った。最初の二音は喉に引っかかった。息を継ぎ、セルトがこちらを見ているのを確かめて、続きを口にした。

 

「大洋艦隊主力を発見。トリトン星系外縁。大型艦、現在六十以上を捕捉。さらに後続あり。サブジュゲーター級を含む。攻略の船団、なし。戦闘艦のみ。……敵の目標は本艦隊と判断する」

 

 送信の表示が出た。

 

 返事は一分後に来た。ホーンの声だった。

 

『受領した』

 

 それだけだった。それから、少しの間があった。

 

『見つけたな。生きて、帰ってこい』

 

 回線が切れた。

 

 戦術表示の上で、六十を超える赤い印の群れが、トリトンの外縁から、こちらへ向かって、動き出していた。

 

 後続の第1合同任務群まで、一時間半。

 

 本隊の《プライド・オブ・ザ・コア》まで八時間。

 

 第3合同任務群は大洋艦隊の主力の、真正面にいた。

 

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