STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7944.215
エリアドゥ星系 / M-18、セスウェナ・セクター。ハイディアン・ウェイ / リマ交易ルート。
エリアドゥへ近づくにつれて、船が増えた。
貨物船やタンカーの間を旅客船が進み、その脇を政府船や企業の連絡艇が通っていく。星系管制から送られてくる航路表示は何度も更新され、外交船も、そのたびに少しずつ進路を変えていた。クラクドアVIIから同乗してきたセヴ・ナールたちは、到着準備のため客室へ戻っている。
シーアは前方窓のそばに立っていた。
「みんな、サミットに来たの?」
「もともと交通量の多い星系です。そこへ代表団や関係者の船が加わっていますから」
セレナが答える間にも、大型貨物船が遠くを横切った。その下を小型艇の群れが抜けていく。さらに奥には、エリアドゥ側の警備艦らしい姿もあった。
「あれ、ドレッドノート級かな」
シーアが窓へ近づいた時、足元に落ちていた光がふっと薄れた。
顔を上げると、灰色の艦首が窓の上方へ差しかかっていた。長大な船体が、その後ろからゆっくりと現れる。中央部の上に幾重にも構造物が重なり、さらにその上へ艦橋が立っていた。恒星光を遮った艦影が、窓の大半を占めている。
シーアは両手を窓についた。
「……何、あれ」
セレナも見上げたが、すぐには答えなかった。
去年クアットで見た艦とは違う。船体のまとまり方が、知っている新しい艦型のどれにも当てはまらなかった。それでも、艦首の線や、高く持ち上げられた艦橋には見覚えがある。
「クアットの船だと思う」
「御存じの艦なのですか?」
「知らない。でも、似てるところがある」
シーアは窓脇の観測表示を拡大した。艦体上面に並ぶ砲塔へ目を移し、その一つで指を止める。
「これ、DBY-817じゃないかな」
「それは?」
「重ターボレーザー。クアットでもらったカタログに載ってた」
砲塔の輪郭をもう一度確かめる。船体の形には古さがあるのに、そこへ据えられた装備は、ずっと新しいものに見えた。
「まだお持ちだったのですね、あのカタログ」
「もちろん。持ってきてるよ」
セレナは何か言いかけ、やめた。
巨大艦は前方へ回り込み、外交船とほぼ同じ方向へ進み始めた。艦尾に並ぶ推進器が見え、側面には周囲とわずかに色の違う外板があった。補修したのか、区画ごと交換したのかもしれない。
「古いのに、新しいところがあるんだ」
識別表示に艦名が現れた。
《タイラント》。
「エリアドゥでは、有名な船ですよ」
背後から声がした。客室から出てきたナールが、シーアの見ている艦へ顔を向けていた。
「何級なんですか?」
「そこまでは。私は船に詳しくありませんから」
シーアは少し考えた。
「アナクセスか、クアットの議員なら知ってるかな。レンディリ、コレリア、サイブ、それからフォンドアも」
「艦級を一つ聞くために、元老院議員を六人集める必要はないと思いますよ」
「誰か一人が知っていればいいんです」
「でしたら、まずエリアドゥでお尋ねになるのが早いでしょうね」
ナールが穏やかに答えたところへ、新しい誘導航路が届いた。《タイラント》の後方へ入る形だった。ほかの政府船や連絡艇も同じ方向へ進み、巨大艦を先頭に、間隔を保った列ができていく。
「護衛してくれるのかな」
「到着した代表団を、まとめて迎え入れているのでしょう」
シーアは周囲の船と、前方の《タイラント》を見比べた。
「先頭にあれがいると、分かりやすいね」
「航路を決めるのは、管制官と航法士ですよ」
セレナに言われても、シーアは艦から目を離さなかった。
「分かってる。でも、見失わなくていい」
《タイラント》の背中が、前方窓の大半を占めていた。
⸻
エリアドゥの空は、薄い灰色だった。
宇宙港の向こうには工業区画の塔が並び、その先は霞んでいた。貨物列車が長い車列を引いて走り、荷役機械の間を輸送車が行き交っている。頭上ではシャトルが降下を続け、地上へ降りてからも、何かが運ばれる音が途切れなかった。
「クラクドアVIIと、全然違うね」
迎賓施設へ向かう車の中で、シーアは窓の外を眺めていた。
「こっちは、街まで港の続きみたいだ」
車列は一般交通から分けられた専用路を進んでいた。先頭にエリアドゥ側の警備車がつき、その後ろをアルドレンたちの車、クラクドアVII代表団の車が続く。
シーアは空へ目を上げた。雲の切れ間に、巨大な艦影が見える。降下の間は見失っていた《タイラント》が、高空をゆっくりと進んでいた。
「あれ、中を見に行けるかな」
「まず、本日の予定を終えてからです」
セレナはそう言って、シーアの襟元へ手を伸ばした。窓へ身を寄せている間に、礼装の布地が少しずれていた。
「ここからは、船ではなく、お迎えの方々を御覧ください」
「分かってる。今日は婚約者に会うんでしょう」
「お忘れではなくて、安心いたしました」
シーアは不満そうにセレナを見た。
「忘れないよ」
「クラクドアVIIへ寄る時には、お父上のところへ行く途中でハンガーへ向かわれましたが」
「それとは違う」
車が速度を落とした。シーアは窓から離れ、膝の上で手を揃えた。
⸻
エレナ・ヴァルコスは、迎賓館の正面でその到着を待っていた。
サーティネイニアン公王家の第三公子。九歳。自分より一つ年下で、船が好きだという。顔は画像で何度も見ていたし、両家の話も聞かされていた。今日、初めて直接会うことにも、十分に心の準備をしてきたつもりだった。
車の扉が開き、アルドレンが降りてきた。その後から姿を現した少年を見て、エレナは覚えていた挨拶を一瞬忘れた。
淡い銀の髪が、灰色の光を受けていた。白い肌に、まだ幼さの残る細い輪郭。長い睫毛の下の灰色の目は落ち着いていて、迎える人々へ順に向けられている。画像で見た顔に違いないのに、目の前に立たれると、同じものを見ている気がしなかった。
顔だけではなかった。少年は背筋を伸ばし、父親の半歩後ろを歩いてきた。顎をわずかに引き、相手に合わせて歩調を緩める。紹介を受ける時にはきちんと足を止め、挨拶が終われば、次の相手へ静かに向き直った。
エレナより小柄なのは、近づいてくる前から分かった。それなのに、人の輪へ入っても姿が埋もれない。迎える大人たちが礼を返すたびに、彼が公王家の第三公子なのだということを、改めて見せられているようだった。
サーティネイニアンでは「姫王子」と呼ばれているらしい。最初に聞いた時には、失礼なあだ名だと思った。今も、本人へそう呼びかける気にはなれない。けれど、その呼び名が広まった理由は、少し分かる気がした。
少年の視線がこちらへ向いた。エレナは慌てて肩の力を抜き、教えられたとおりに姿勢を整えた。
「エレナ嬢。お会いできて光栄です」
声も落ち着いていた。エレナは礼を返す。
「アレクシアール殿下。こちらこそ、お目にかかれて光栄です」
つまずかずに言えた。少年も穏やかに頷いている。
大人たちの挨拶が始まると、二人は並んでその話を聞いた。旅程、サミット、翌日の予定。エレナは前を向いたまま、隣の少年を少しだけ見た。
横顔まで、腹が立つほど整っている。
けれど、やはり背丈は自分より低かった。
「思っていたより、小さいんですね」
小声で言うと、少年がこちらを見た。先ほどまでの静かな表情に、少しだけ不満が浮かぶ。
「僕は九歳だから」
「私は十歳です」
「一つしか違わないじゃないか」
「その一つが大きいんです」
シーアはエレナの頭の高さを確かめるように見た。
「来年には、そのくらいになるよ」
「その頃には、私も伸びています」
「まだ分からないだろ」
エレナは笑いそうになり、口元を引き締めた。さっきまで、隣へ立つだけで緊張していたのが嘘のようだった。
「もっと静かな方かと思っていました」
「エレナも、思っていたより普通だった」
「どういう意味ですか」
「もっと怖いのかと思ってた」
エレナが思わず顔を向けると、シーアは少し困ったように続けた。
「婚約者って、よく分からなかったから」
「私だって、よく知りません」
「じゃあ、同じだ」
今度はエレナも否定しなかった。少し前で二人を見守っていたセレナが、そっと目を伏せた。
⸻
昼食までの間、二人は迎賓館の庭へ出た。
建物と高い植え込みに囲まれた庭は、宇宙港に比べると静かだった。双方の侍従と護衛が少し離れてついてくる。二人きりではなかったが、少なくとも大人の挨拶を聞いて立っている必要はなかった。
歩き始めると、シーアの肩から少し力が抜けた。庭木の間から空を見上げ、何も見つからないと、今度は小道の先へ目を向ける。正面玄関にいた時とは、歩き方まで違う。
「いつも、あんなふうにしているんですか?」
「あんなふうって?」
エレナは立ち止まり、背筋を伸ばして顎を引いた。先ほどのシーアを真似て、遠くへ静かに目を向ける。
「こういう、王子様みたいな」
「王子だよ」
「それは知っています」
シーアは少し嫌そうな顔をした。
「挨拶する時は、ちゃんとしろって言われてるんだ。ずっとやってたら疲れる」
「ずっとできそうに見えました」
「エレナだって、さっきと違うじゃないか」
言い返され、エレナは姿勢を戻した。自分も、挨拶の時と同じ顔では歩いていなかった。
「でも、あなたは目立ちます」
「公子だから?」
「それもあるでしょうけど」
エレナは言葉を探した。綺麗な顔だと、そのまま言うのは何となく悔しかった。威圧されるわけではないのに、見ないふりをしにくい。顔と、姿勢と、仕草が一緒になって、そこへ目を向けさせるのだ。
シーアは自分の礼装を見下ろした。
「そんなに派手かな」
「服の話ではありません」
「じゃあ、髪?」
「全部です」
シーアは納得していない様子だったが、庭木の向こうに空が開けると、そちらへ顔を上げた。エレナもつられて見たが、雲しか見えなかった。
「《タイラント》を探しているんですか?」
途端に、シーアが振り向いた。
「見たことある?」
「もちろん。あれだけ大きければ、目に入ります」
「上に並んでる砲は?」
「砲までは、よく見ていません」
「DBY-817だと思うんだ。去年クアットでもらったカタログに載っていたのと、形が同じで」
シーアは指で砲塔のおおよその形を作ろうとした。それだけでは足りなかったらしく、すぐに端末を取り出す。
エレナは黙ってその顔を見た。さっきまで自分がどう見えるのか分からずに首を傾げていた少年が、今は、何から話そうかと迷っている。
「カタログを覚えているんですか?」
「砲のところは」
「ほかは?」
「だいたい」
「だいたい、ですか」
シーアがむっとした顔をしたので、エレナは笑った。
「私には見分けられませんから、知っている方に確かめてもらいましょう」
「誰?」
その時、庭の入口にいた護衛が姿勢を正した。
暗い灰色の服を着た長身の男が、小道へ入ってくる。エレナはすぐに気づき、そちらへ顔を向けた。
「ウィルハフおじさま」
⸻
ターキンは二人の前で足を止めた。
「元気そうだな、エレナ」
「はい」
その横で、シーアが端末をしまった。背筋が伸び、先ほどまで砲の話をしていた時の表情が静かに収まる。
まただ、とエレナは思った。
「ウィルハフ・ターキン閣下。お会いできて光栄です」
シーアが礼をすると、ターキンも返した。その視線が、少年の顔を一度確かめる。
「こちらこそ、殿下。噂は控えめだったようですな」
シーアはわずかに首を傾げたが、ターキンはそのまま話を続けた。
「道中に不便はありませんでしたか」
「はい。クラクドアVIIにも寄りました」
「ナール議員を迎えに行かれたそうですな」
「通商連合の船が、たくさんいました。船だけではなかったですけど」
ターキンはシーアを見たまま、短く頷いた。
「あの星で、通商連合の仕事を見ずに済ませるのは難しいでしょうな」
それ以上、何を見たのかは尋ねなかった。代わりに、シーアがしまったばかりの端末へ目をやる。
「《タイラント》も、熱心にご覧になっていたと聞きました」
「何級なんですか?」
返事をするより先に、質問が出た。ターキンは気にした様子もなく答える。
「ディクテイター級スター・クルーザーです」
「ディクテイター……知らない艦だ」
「古い艦ですから、最近の艦艇案内には載っていないかもしれません」
「でも、砲は新しいでしょう。DBY-817ではありませんか?」
「その通りです」
シーアが嬉しそうにエレナを見た。
「ほら」
「間違いだとは言っていません」
「だいたい、って言っただろ」
「あなたがおっしゃったんです」
ターキンの口元がわずかに動いた。
「よく見ておいでだ。兵装に興味がおありですか」
「去年、クアットでもらったカタログで見ました。船の形は古そうなのに、あの砲が載っていたので」
「更新したのは砲だけではありません」
「反応炉も?」
「換装しています。火器管制とセンサーも更新し、推進器にも一部手を入れました」
シーアは少し身を乗り出した。
「いつ改修したんですか?」
「大規模な近代化改修を終えて、三日前にドックを出たばかりです」
「三日前」
シーアは庭木の向こうへ目を向けた。ここからは艦が見えなかったが、窓越しに見た色の違う外板と、新しい砲塔を思い出せた。
去年のクアットでは、プロキュエーターの機関区画が開かれていた。あの時と同じことを、もっと大きな艦で行ったのだ。工事を終えた《タイラント》は、さっそく代表団の船を迎えていた。
「中を見たいです」
「そうおっしゃると思っておりました」
ターキンは少し離れたセレナにも顔を向けた。
「明日なら、御案内の時間を取れます。サミット警備の任務中ですので、全区画というわけにはいきませんが」
「行きます」
シーアが即答すると、セレナが近づいてきた。
「ありがとうございます、閣下。お時間は、公王殿下の予定と合わせて御相談させていただきます」
「結構です」
ターキンが頷く。その脇で、エレナはシーアの顔を見ていた。もう、正面玄関で見た静かな王子様の表情ではない。今すぐ艦へ連れていかれても、困らないと思っていそうだった。
「本当に、船がお好きなんですね」
「エレナは見たくない?」
聞かれて、エレナは少し考えた。大きな船であることは知っているが、中へ入ってみようとは、今まで思ったことがなかった。
ターキンが二人を見た。
「エレナも来るといい。艦橋からは、地上とは違った景色が見える」
シーアは何も言わず、返事を待っていた。顔には出していないつもりなのかもしれないが、一緒に来てほしいらしいことは分かった。
「では、私も伺います」
「船、好きだった?」
「まだ分かりません」
エレナはシーアを見た。
「あなたが、どれだけたくさん話すのかは分かりそうですけど」
「そんなに話してないだろ」
「そこは、明日確かめましょう」
ターキンが静かに言ったので、エレナは笑った。シーアだけが、少し納得していない顔をしていた。
⸻
夕方には、両家の話し合いが終わった。
正式な婚約登録は翌朝に行われる。そのあとに《タイラント》を見学する予定も決まった。
婚約の話そのものは、ずっと前から進められていた。今日会い、明日、両家の前で手続きをする。シーアはそれを知っていたが、書類や説明の中にあった名前が、ようやく一人の相手と結びついた気がした。
エレナは思っていたほど怖くなかった。ただ、一歳年上だということは、こちらが忘れても思い出させてくれそうだった。
部屋へ戻る途中、セレナが尋ねた。
「エレナ様とは、お話しできましたか?」
「うん」
「それはよろしゅうございました」
「ちょっと変だけど」
セレナがこちらを見たので、シーアは続けた。
「僕を見て、王子様みたいだって言うんだよ」
「殿下の御挨拶が、立派だったのでしょう」
「あと、すごく目立つって。服のことじゃないらしいんだけど」
セレナは歩調を少し緩めた。
「殿下は、髪もお顔立ちも目を引きます。それに、公の席では、普段とは違う立ち方や歩き方をなさるでしょう」
「教わったからだよ」
「ええ。毎日そうしている御本人と、初めて御覧になる方とでは、受ける印象も違います」
シーアは廊下の窓に映った自分を見た。銀髪と礼装の、小柄な子供がいる。いつもと同じだった。
他人からどう見えるのか、やはりよく分からない。
窓の向こうでは、雲の切れ間を《タイラント》が進んでいた。シーアの関心は、すぐにそちらへ移った。
「三日前まで、ドックにいたんだよね」
「そのようですね」
「DBY-817が何基あるか、明日なら分かるかな。反応炉も見せてもらえる?」
「見学できる区画は、艦の方に伺います。ターキン閣下も、すべてを御案内できるわけではないとおっしゃっていましたから」
シーアは艦影を目で追った。大きな船体のどのあたりに反応炉が収まっているのか、外からでは分からなかった。
「明日は、婚約してから《タイラント》だよね」
「はい」
「順番、どっちだったかなって」
セレナが足を止めた。
「殿下」
「冗談だよ」
「本当に?」
「半分」
セレナはため息をついたが、時刻をもう一度教えてくれた。婚約の手続きに遅れれば、そのあとの見学も遅くなる。その説明は、十分に効果があった。
シーアは頷き、もう一度だけ窓の外を見た。
明日は正式に婚約者ができる。そして、近代化を終えたばかりの《タイラント》にも乗れる。
どちらの方が楽しみなのかと聞かれたら、今は答えない方がいい気がした。
ディクテイター級スター・クルーザー
分類:スター・クルーザー
全長:約4,230メートル
建造:クアット・ドライブ・ヤード
共和国の旧時代にクアット・ドライブ・ヤードが建造した大型戦闘艦。全長4キロメートルを超える巨体を持ち、艦隊主力としての砲戦能力に加え、広域センサーによる索敵、追撃、長距離航行、艦隊の旗艦任務を想定して設計された。
建造当時としては強力な大型艦だったが、数百年にわたる造船技術の発達によって共和国末期には旧式化している。一方で、巨大な船体と十分な内部容積を持つため近代化の余地が大きく、反応炉、推進機関、センサー、火器管制、兵装などを更新しながら運用を続けることが可能だった。