STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
撤退か、反撃か!
トリトンの北の宙域で、共和国グランド・フリートと大洋艦隊の死闘は、六時間を超えた。
どちらも相手の戦列を破れぬまま、艦だけが失われていく。
そして深夜、分離主義者の艦隊に、ある命令が下った――
*
C.R.C. 7956.045 標準時二三時五二分 《プライド・オブ・ザ・コア》、艦隊司令部区画
「敵の砲火、減っています」
参謀が言った。
ホーンは表示から目を離さなかった。
大洋艦隊の戦列から届く光の数が、少しだけ減っていた。一斉射の間隔がほんの少しだけ長くなっていた。表示の上の赤い印はどれも、元の位置にいた。
「崩れているのか」
「崩れてはいません。戦列の形はそのままです。……撃つ艦の数が減っています。撃たずに何かを待っている艦があります」
ホーンはしばらく表示を見ていた。
撃たない艦は弾を惜しんでいるのではなかった。反応炉の出力を砲ではない何かへ回していた。
「全合同任務群へ」
ホーンは言った。
「周期を崩すな。敵が何をしてもこちらの周期は変えない」
*
標準時二三時五五分 ハービンジャー、艦橋下予備指揮所
「敵の砲火が減っています」
索敵の新しい担当が言った。
シーアは表示を見ていた。第3合同任務群の前の宙域から届く光の数が、少しだけ減っていた。撃ち返してくる間隔が少しだけ長くなっていた。
「弾が尽きたのでしょうか」
コルヴェンが言った。
「尽きたなら、ばらばらに減ります。撃てる艦と撃てない艦がばらばらに出てくる」
シーアは表示の上の、撃つのをやめた艦の印を見ていた。ばらばらではなかった。戦列の中の、決まった位置の艦が揃って撃つのをやめていた。
「揃って止めています」
シーアは言った。
「撃つのをやめて、何かに出力を回している。……リラさん」
『はい』
技術区画から、リラの声が返ってきた。
「敵の艦の、機関の出力の特徴は読めますか。索敵の記録から」
『……少し待ってください』
一分後、リラの声が戻ってきた。
『推進の側の出力が上がっています。撃つのをやめた艦だけ。砲へ回していた分を推進へ回している』
シーアは表示を見たまま、しばらく黙っていた。
「本隊へ」
シーアは言った。
「敵の戦列、一部の艦が砲撃を停止し、推進へ出力を移している。大規模な機動の準備と判断する」
*
C.R.C. 7956.046 標準時〇〇時〇八分 《エクスターミネイター》、作戦室
作戦室の表示の上に、大洋艦隊の全艦の印が並んでいた。
八十五隻。自分の足で動ける艦だった。その一隻一隻の横に、細かな数字が付いていた。回頭を始める時刻。回頭の角度の速さ。回頭を終える時刻。加速を始める時刻。
どの数字も隣の艦の数字と違っていた。
ルクレハルク級の巨大な円盤は、回るのが遅い。だから、一番先に回り始める。プロヴィデンス級はそれより少し後に。レキューザント級とミュニファスント級は、さらに後に速く。艦の大きさも回る速さも戦列の中の位置も違う艦が、それぞれ違う時刻に回り始め、違う速さで回り、同じ一瞬に回り終える。
TD-19は撤退が決まる前から、帰投のための案を作っていた。各艦へ主機の応答を問い合わせ、損傷で変わった回頭速度を取り直す。TD-17が残る砲火を配分し、TD-18が隣り合う艦の進路を照合した。照会から同期まで、四十分を使っていた。
計算そのものより、返事を待つ方が長かった。応答の遅れる艦には生きた乗員が走り、故障した主機を手動で切り替えていた。三機は返らない数字を正常値で埋めなかった。返った艦から順に、動ける八十五隻の列へ加えた。
「準備は」
ゼーア提督が訊いた。
『全艦、同期、完了。回頭、開始マデ、三十秒』
「航行不能の艦は」
「九隻。自力では、動けません」
兵站の参謀が答えた。
「曳航は、しない」
ゼーア提督は言った。
「一隻を救うために、二隻を失うな。乗員と、戦術ドロイドと、航法の記録と、暗号の装置を移せ。移し終えたら、自沈」
兵站の参謀は一瞬、何か言いかけた。それから、頷いた。
「《エクスターミネイター》は、最後に下がる」
ゼーア提督はハイデン大佐の方を見た。
「共和国は追ってくる。追ってくる艦を一度だけ止めろ。一度でいい。追う足を止めれば、あとは跳べる」
「一度だけ」
ハイデン大佐は繰り返した。
『回頭、開始マデ、十秒』
ゼーア提督は表示の上の共和国の戦列を見ていた。五つの合同任務群と、一つの重戦列。どの合同任務群もまだ周期を回していた。
「……いい艦隊だった」
提督は小さく言った。
誰に向かって言ったのかは、作戦室の誰にも分からなかった。
『回頭、開始』
*
標準時〇〇時〇九分 ハービンジャー、艦橋下予備指揮所
最初に動いたのはルクレハルク級だった。
大洋艦隊の戦列の中の巨大な円盤が、ゆっくりと回り始めた。撃ちながらではなかった。砲火がぴたりと止まっていた。
「敵のルクレハルク級、回頭を始めています。……全艦、同じ向きへ」
索敵担当の声が予備の指揮所に響いた。《ヘラルド》から、この会戦の補助に移ってきた兵だった。
シーアは表示を見ていた。
ルクレハルク級が回り始めて少し後に、プロヴィデンス級が回り始めた。さらに少し後に、レキューザント級とミュニファスント級が、速く回り始めた。
ばらばらに回り始めた艦がばらばらの速さで回り、そして同じ一瞬に回り終えた。
表示の上で大洋艦隊の戦列が、一枚の板のように裏返っていた。
艦首を共和国の戦列へ向けていた八十隻を超える艦が、一斉に艦尾をこちらへ向けていた。
予備の指揮所の誰も口を開かなかった。
「……今の、見ましたか」
コルヴェンがようやく言った。
「見ました」
シーアは言った。
「あれだけの数の、あれだけ大きさの違う艦を同時に回した」
「共和国には、できません」
「できません」
シーアは裏返った戦列を見ていた。
「カリダで四か月やったのは、撃つ時刻を揃えることでした。あれは、回る時刻を揃えている。……向こうも、同じことをしていた」
裏返った戦列が一斉に加速を始めた。
「敵戦列、反転!」
艦隊の全合同任務群の回線に、どこかの合同任務群の索敵担当の声が流れた。
「反撃ですか」
別の声が訊いた。
「違う」
シーアは予備の指揮所の中で言った。
「……撤退している」
*
標準時〇〇時一〇分 ミュニファスント級フリゲート、第二十二号艦
「回頭、完了」
航法のドロイドが言った。
B1-3391は砲座の制御席から、窓の外を見ようとして首を回した。窓の外にはさっきまで共和国の艦隊がいた。今は何もいなかった。艦の向きが変わっていた。
「ナア」
「何ダ」
隣の席のB1-8120が答えた。
「今、回ッタヨナ」
「回ッタ」
「全部ノ艦ガ、一緒ニ回ッタヨナ」
「一緒ニ回ッタ。四十分カケテ、準備シタンダッテ」
3391は少しだけ感心したように首を傾けた。
「スゴイナ。オレタチ」
「スゴイナ」
それから、3391はもう一度窓の外を見た。前には暗い宙域しかなかった。
「……デ、ドコヘ行クンダ?」
「帰ルンダ」
「勝ッタノカ?」
8120はしばらく答えなかった。
「……回ッタノハ、上手カッタ」
「ソウカ」
艦が加速を始めた。二体は制御席の表示を見たまま、首を傾けていた。
*
標準時〇〇時一二分 《プライド・オブ・ザ・コア》
「追撃」
ホーンは言った。
「合同任務群ごとに。周期を保ったまま。第3合同任務群、先鋒。第1合同任務群と第2合同任務群は左、第4合同任務群と第5合同任務群は右。重戦列は中央から続く」
命令が合同任務群の司令官たちへ下りていった。
共和国の戦列が前へ出始めた。
六時間、同じ場所で撃ち合っていた戦列だった。押しては止められ、止めては押された戦列だった。その前から、敵が退いていく。
艦隊の回線に少しずつ、声が増えていった。
『敵、後退中』
『逃げている』
『追えば、追いつける』
どの声も命令の声ではなかった。
*
標準時〇〇時二〇分 ハービンジャー、艦橋下予備指揮所
救難群から、曳航中だった《フィデス》の船体が保たなかったという報告が届いた。乗員を救難艦へ移した後、艦は沈んだ。喪失が一隻増えた。
第3合同任務群の九隻が共和国の戦列の先頭に出た。
正面に裏返った大洋艦隊の戦列の艦尾が並んでいた。艦尾の噴射口の光が少しずつ遠ざかっていく。
「3群、全艦」
シーアは言った。
「追撃します。ただし、追いつくことより、囲まれないことを優先してください。任務群は交互進退射撃のまま。第35任務群は任務群の外側で並走」
『32、了解』
コーヴィンの声が返ってきた。それから、少しだけ間を置いて、もう一言付け加えた。
『……逃げている敵ですよ』
「僕たちも、逃げながら撃ちました」
シーアは言った。
「今日の昼に。逃げながら撃つ艦隊がどれだけ撃てるかは、僕たちが一番よく知っています」
回線の向こうで、コーヴィンが短く息を吐いた。
『……了解。囲まれないことを優先します』
第3合同任務群は任務群を回しながら、裏返った戦列の艦尾を追い始めた。効力射の番の任務群が撃ち、跳躍前進の番の任務群が前へ出て、射撃宙域変換の番の任務群が冷やす。周期は昼と同じだった。向きだけが昼と逆だった。
大洋艦隊の艦尾の砲座が撃ち返してきた。逃げながら、撃っていた。数は少なかった。だが、正確だった。
「敵、後退しながら射撃。……砲火の数は減っていますが、止んではいません」
「見てください」
シーアは表示の上の、大洋艦隊の戦列を指した。
「艦は前へ逃げている。でも、砲火の数はほとんど減っていない。最後尾の艦が撃ちながら下がって、その後ろの艦がまた最後尾になる。……僕たちが昼にやったのと、同じことを向こうもやっている」
「後ろから、抜いている」
コルヴェンが言った。
艦隊司令部の回線に、同じ言葉が流れた。ホーンの声だった。
『後ろから抜いている。砲火は減らないのに、敵の数だけが減っていく。……気をつけろ。まだ撃てる艦隊だ』
*
標準時〇〇時三五分 第1合同任務群、《ポラリス》
「合同任務群の戦列から、前へ出たい艦があります」
副長が言った。
「プロクラメイター級が二隻。敵の戦列の端に、遅れかけている軽艦が見えると」
「出すな」
ラックスは言った。
副長が振り返った。
「今なら、食えます」
「食えるから、出すなと言っている」
ラックスは表示の上の、大洋艦隊の戦列の左の端を見ていた。遅れかけている軽艦の周りに、まだ、撃てる艦が並んでいた。
「カダーンで私は確かめて報告せよという命令で、前へ出た。前へ出る理由はあった。船団が後ろにいた。……今は理由がない。食える、というのは理由ではない」
副長はそれ以上言わなかった。第1合同任務群のプロクラメイター級は、合同任務群の戦列の中に留まった。
左の少し先で第2合同任務群の戦列から、三つの小さな印が前へ抜け出していくのが見えた。
ラックスはその三つの印をしばらく見ていた。
「第1合同任務群司令部と、第2の連絡回線へ」
ラックスは言った。
「三隻が前へ出ている。追撃の限界線を越えかけていると送れ」
送った後でラックスは、第2合同任務群の司令官が二十時過ぎに戦死していたことを思い出した。今、第2合同任務群の指揮を執っているのは、《レグルス》の艦長だった。周期を回すことで、手一杯のはずだった。
*
標準時〇〇時四八分 プロクラメイター級《アファーメーション》
遅れていたミュニファスント級は、本当に機関を傷めていた。
艦尾の光が不揃いで、僚艦から離れるたびに姿勢を直していた。《アファーメーション》の艦長は、その艦の右舷のシールドが消えた瞬間を見た。追いつけば沈められる。隣の二隻も、同じ目標を追って速力を上げていた。
「距離を詰める。右舷の砲列で撃て」
プロクラメイターは、群の周期で進む時より速く走った。旗艦からは追撃継続の命令が来ている。任務群の回線には間隔を保てという注意が入っていたが、艦長は目標を処理すれば元の位置へ戻れると答えていた。
第2合同任務群の司令部へは、第1からの警告も届いていた。《レグルス》艦長は次の射撃交代と曳航艦の進路を確かめ、三隻の位置の再確認を隷下へ求めた。回線には、まだ同じ敵端部を追撃中だという返答が並んだ。図を拡大している間にも、三隻は前へ出ていた。
《アファーメーション》の斉射がミュニファスントの側面を捉えた。艦の中で光が膨らみ、機関の噴射が消える。艦橋の後ろで短い声が上がった。艦長は次の目標を指した。戦列の内側に、もう一隻、遅れている艦がいた。
「艦長、味方の射界から外れます」
「一隻だけだ。あれを止めたら戻る」
後続の二隻は向きを変えなかった。《アファーメーション》だけが内へ入り、共和国の戦列を示す印から離れた。
敵の砲は、すぐには向いてこなかった。艦長はその一瞬を、敵が追撃へ対応できていないためだと思った。
*
TD-17の表示には、一隻の共和国艦へ届く射線が重なっていた。中央、両側、その艦が戻ろうとする後方。新たな包囲線を引く必要はなかった。
『共和国艦一隻、相互支援ノ外ヘ進入』
TD-18は周囲の艦へ、回頭せず射界だけを変える指令を送った。全体の撤退を止めずに撃てる艦だけだった。
『局地射撃、割当完了』
ゼーアは許可した。北へ逃げる十四隻には閉じられなかった間隔を、今度は追ってきた一隻が自分から越えていた。提督はその一隻を沈めるために、退く艦隊を引き返させはしなかった。
*
《プライド・オブ・ザ・コア》で、ホーンが左翼の表示を拡大させた。
「なぜ、敵の戦列の内側にいる」
「2群、《アファーメーション》です」
「第2へ。直ちに引き戻せ」
緊急の停止命令が艦隊回線にも流れた。《アファーメーション》の艦長がそれを聞いた時には、前方のレキューザント級の砲がこちらを向いていた。左右の艦からも光が来る。
「回頭。元の針路へ――」
航法席の返事は聞こえなかった。戻る先にも敵の光があった。前部シールドの表示が消え、次の衝撃で艦橋の灯りが落ちた。
ホーンの表示から、白い印が一つ消えた。残る二隻は敵の端から離れ、ようやく自分たちの群へ戻り始めていた。
参謀が識別信号の消失を読み上げた。ホーンはその報告が終わるまで待った。
「全合同任務群へ。群の戦列から、一隻も前へ出すな。追うのは合同任務群として追え。艦として追うな」
さっきの三隻が狙った敵は、弱っていた。囮と見誤ったわけではなかった。ホーンは弱った敵の周囲に並ぶ、まだ撃てる艦の印を見ていた。
*
標準時〇一時一五分 右翼、第4合同任務群・第5合同任務群
右翼では、並行の追撃が続いていた。
第4合同任務群と第5合同任務群のプロクラメイター級が、合同任務群の戦列の外側に並び、大洋艦隊の戦列の右の端と並んで走っていた。今度は戦列の内側へは入らなかった。合同任務群の戦列から外れず、並んだまま、端の艦を一隻ずつ撃っていた。
端のレキューザント級が一隻、また一隻と火を噴いた。
勝ち戦の追撃だった。
第4合同任務群の司令官のヴァイアン少将は、《アンタレス》の艦橋で表示の上の大洋艦隊の戦列を見ていた。戦列は少しずつ短くなっていた。逃げ遅れた艦が端から削れていった。
「このまま並んで走れば、トリトンの外縁までに、あと十隻は削れます」
参謀が言った。
ヴァイアンは答えなかった。
大洋艦隊の戦列のずっと奥を見ていた。十二時間前、第4合同任務群が戦列を組む時に、二分かけて横を向いた艦がいた場所だった。
その艦影がゆっくりと横を向き始めていた。
「サブジュゲーター級、回頭」
ヴァイアンは言った。
参謀が表示を見た。手前のレキューザントを囲んでいた追尾枠が、奥の大きな艦へ移る。
「戦列の奥です。……左舷を右翼へ向けつつあります。並行追撃中の、本群と第5合同任務群のプロクラメイターへ」
「充填の兆候は」
「……出ています。もう」
ヴァイアンは回線に叫んだ。
「右翼の全艦。母線の機械遮断。弾薬区画、隔離。散開」
逃げる艦隊の奥で、巨大な艦が横を向くのに、二分かかるはずだった。
その艦は戦列の奥で逃げながら回り始めていた。回り始めてから、共和国の側が気づくまでに、一分が過ぎていた。
残りは、一分だった。
並んで走っていたプロクラメイター級が、慌てて散り始めた。散りきる前に母線の遮断の手順を始めた艦と、始められなかった艦があった。
青白い光が、放たれた。
光は並んで走っていた共和国の艦の列を、横から薙いだ。
『《プレッジ》、被弾。機関、停止。……母線、遮断済み』
『《アコード》、被弾。……停止』
『《コンパクト》、被弾。……母線の遮断、間に合いませんでした。前部の区画で火災。……区画を閉鎖します』
プロクラメイター級が三隻、同時に灯りを失った。追撃の列の先頭がまとめて止まった。止まった三隻を避けるために、後ろの艦が速度を落とした。
追撃の足が、止まった。
大洋艦隊は、戻ってこなかった。
止まった三隻を食いに、引き返してくる艦は一隻もいなかった。撃ち終えた巨大な艦はまた艦首を戻し、戦列の奥へ下がっていった。大洋艦隊の戦列は共和国の追撃の足が鈍った分だけ、遠ざかっていった。
ヴァイアンは表示の上の、止まった三つの印を見ていた。
「……沈めに来ない」
「追う足だけを止めていきました」
参謀が言った。
「救難艦を三隻へ」
ヴァイアンは言った。
「《コンパクト》の火災を先に」
救難艦《ミゼリコルディア》が、《コンパクト》の横に並んだ。火は前部の区画の中で燃えていた。母線を落とすのが間に合わなかった区画だった。
救難艦から、消火の班を乗せた艇が離れた。艇が《コンパクト》の艦腹に取り付き、班員たちが外板の非常口から中へ入っていった。
二十分後、火は止まった。
『《コンパクト》、火災、鎮火。前部の区画で死者十七。……残りは生きています』
ヴァイアンはその報告を聞いた。十二時間前に記録させた二分十秒の欄は、まだ手元にあった。知っている数字だった。だが、知っているだけでは、あの一分を早く始めることはできなかった。
母線を落とせた二隻は死者を出さなかった。落とせなかった一隻は十七人を失った。落とすまでの一分の差だった。
「記録しろ」
ヴァイアンは言った。
「追撃の最中に充填の兆候を読むのが一分遅れた。遅れた理由も。……次は追っている時ほど、奥を見ろ」
*
標準時〇一時二二分 《プライド・オブ・ザ・コア》
「右翼、プロクラメイター級三隻、停止。《コンパクト》、前部で火災」
参謀の報告をホーンは黙って聞いていた。
表示の上で大洋艦隊の戦列は、まだ遠ざかり続けていた。遠ざかりながら、撃っていた。後ろの艦から抜いていた。奥にはまだ、あの艦がいた。
「全合同任務群へ」
ホーンは言った。
「追撃を、中止する」
司令部の区画で、送信の担当がホーンを見た。追撃の進路を作っていた参謀も顔を上げた。敵の艦尾はまだ射程内にある。止まれば、そのまま逃げていく。
「提督。敵は逃げています。今なら――」
「敵は、まだ、こちらを殺せる」
ホーンは表示から目を離さなかった。
「《アファーメーション》は、戦列の内側で沈んだ。三隻は並んで走っていて止められた。どちらも勝っていると思った時だった。……追うな」
送信の担当が命令を読み返した。ホーンは追撃中止の文言を変えなかった。
第1から受領が返り、第2、第4、第5と続いた。各群の指揮官が下がる順序を決め、任務群の回線へ渡す。撃てる艦の砲が一度に消えるのではなく、後ろへ移る味方を掩護する砲火だけが残った。司令部の表示に、停止命令の受領時刻が順に入っていった。
*
標準時〇一時二五分 ハービンジャー、艦橋下予備指揮所
『3群、追撃中止』
ホーンの声が回線に入った。
「まだ捕捉しています」
シーアは言った。
表示の上で大洋艦隊の戦列の最後尾は、まだ第3合同任務群の索敵の範囲の中にあった。
『知っている』
「もう一度跳べば、追いつけます。跳躍の前に最後尾の艦を――」
『その一回の先に、何がいるか』
ホーンは言った。
『我々は、知らない』
シーアは言葉を止めた。
トリトンの外縁の向こうは、索敵の届かない宙域だった。今朝、その宙域の向こうから、六十を超える印が滲み出してきた。今朝、前衛を追った先に、主力がいた。
『今朝、君は逃げる敵を追った。追った先に何がいたか』
「……主力がいました」
『今度は何がいるか分からない。分からない所へ半分壊れた艦隊を跳ばすことはしない』
ホーンは少しだけ間を置いた。
『勝っている時に、止まれ。それが、この艦隊の最後の手順だ』
シーアは表示の上の遠ざかる赤い印を見ていた。
「……了解。第3合同任務群、追撃を中止します」
第3合同任務群の九隻が速度を落とした。
デヴァロンでは、止める命令を全部の艦に一度に出せる者がいなかった。今はいた。その命令が今、全部の艦に届いていた。
*
標準時〇一時四〇分 トリトン星系外縁
第3合同任務群の前方で、光が膨らんだ。
大洋艦隊の戦列が去った後の宙域に、何隻かの艦が残っていた。自分の足で動けなくなった艦だった。プロヴィデンス級が二隻。ミュニファスント級が三隻。レキューザント級が四隻。
その艦の周りに、小さな艇が行き来していた。乗員を移す艇だった。有機体の乗員と、戦術ドロイドと、何かの箱を運んでいた。
「航法の記録と、暗号の装置でしょう」
コルヴェンが言った。
「こちらに渡さないために」
最後の艇がプロヴィデンス級の一隻から離れた。
その艦の中央から、光が膨らんだ。内側から。一つ、二つ。光は艦体の中を繋がって走り、艦は中央から裂けた。
砲撃の光ではなかった。
次にミュニファスント級の一隻が。その次にレキューザント級が。
第3合同任務群の前方の宙域で、置いていかれた艦が一隻ずつ、自分で自分を壊していった。
シーアは表示の上の、消えていく印を数えていた。
九つ。
九つは、それぞれ自沈の準備を進めていた。まだ爆発していない艦の周りにも、乗員を移す艇が見えていた。
「……逃げたのではありません」
シーアは言った。
「艦隊を残して帰った。残せない艦は自分で沈めて」
コルヴェンは何も言わなかった。
デヴァロンで、《マレボランス》の副長は規程を読んで艦を沈めた。今夜、同じことを九隻の艦がしていた。規程を読んだのではなかった。一人の提督の、一行の命令だった。一隻を救うために、二隻を失うな。
*
標準時〇一時五五分 プロヴィデンス級ドレッドノート《ソブリン・クレイム》
艦長は最後の艇が格納口を出るのを、艦橋の窓から見ていた。
有機体の乗員は全部、艇に移した。戦術ドロイドも航法の記録の核も暗号の装置も。艦橋に残っているのは艦長と、起爆の手順を受け持つドロイドが二体だけだった。
『装薬、設置完了。起爆マデ、三分』
「私は最後の艇で出る」
艦長は言った。
『最後ノ艇ハ、出マシタ』
艦長は窓の外を見た。格納口から離れた小さな艇の光が、大洋艦隊の去った方角へ遠ざかっていくところだった。
「……では、次の艇は」
『アリマセン。起爆ノ確認ヲ、本機ガ行イマス。艦長ハ、脱出ポッドヘ』
ドロイドが艦橋の脇の脱出ポッドの扉を示した。
艦長はしばらくその扉を見ていた。それから、もう一度、艦橋を見回した。機関は止まり、灯りは非常灯だけになっていた。共和国の砲はこの艦を沈めなかった。沈めるのは自分たちだった。
一隻を救うために、二隻を失うな。提督の命令だった。この艦を曳いていけば、曳く艦も共和国に捕まる。分かっていた。
「……記録に、残せ」
艦長は言った。
「この艦は共和国に沈められたのではない、と」
『ラジャー、ラジャー』
艦長は脱出ポッドの扉をくぐった。
*
標準時〇二時四〇分 トリトン星系外縁、《エクスターミネイター》
『僚艦、予定航路ヘ離脱。当宙域ニ残ル戦闘可能艦ハ、本艦ノミ』
戦術ドロイドが報告した。
ゼーア提督は作戦室の表示を見ていた。
大洋艦隊の僚艦の印はもう、この宙域にはなかった。帰投の列に残った八十二隻は、いくつかの方位へ分かれていた。跳躍が確認された艦から表示の色が変わり、確認を待つ艦は別の欄に残っていた。全艦が次の星系まで行けるかは、まだ分からなかった。
表示の端に共和国の艦隊の印があった。追ってきていなかった。止まっていた。
「止まったか」
提督は言った。
「追ってきていたら、もう一度撃つつもりだった」
ハイデン大佐が言った。
「一度だけと言われましたが」
「追ってこなかった」
ゼーア提督は表示の上の、止まった共和国の艦隊の印を見ていた。
「勝っている時に、止まれる艦隊だ」
提督は少しだけ黙っていた。
「セスウェナは取れなかった。あの艦隊がいる限り、取れない」
作戦室の誰も何も言わなかった。
「帰るぞ」
ゼーア提督は言った。
「跳躍」
巨大な艦の周りで、星の光が縮み、それから伸びた。
トリトンの外縁から、最後の赤い印が消えた。
*
標準時〇三時〇〇分 《プライド・オブ・ザ・コア》
「追撃、終了」
ホーンは言った。
「全合同任務群、救難作業へ移れ。敵の脱出艇も拾え」
司令部の区画の大きな表示の上で、艦の印の色がゆっくりと落ち着いていった。
白は戦える艦。黄色は損傷した艦。灰色は失われた艦。
白が、六十。黄色が、二十八。灰色が、十。
デューロを出た時、表示の上の印は九十八個とも白かった。
参謀が損害の集計を読み上げた。喪失、十隻。航行不能、十隻。損傷、十八隻。死者、推定四千二百名。負傷、九千名以上。
ホーンは最後まで聞いた。
「大洋艦隊は」
「喪失、推定三十九隻。うち自沈、九隻。……ネクサス・オルタイへ帰り着くのは、八十隻前後と推定されます」
ホーンは表示の上の、灰色の十個の印を見ていた。
「セスウェナは」
「無傷です。エリアドゥもスティアガードもスルイス・ヴァンも。攻略の船団はネクサス・オルタイを出ていません」
ホーンは少しだけ目を閉じた。
「では、勝ったのだな」
誰も答えなかった。
ホーンは目を開けた。
「記録を残せ。全部だ。どの合同任務群がいつ、誰の命令で撃ち、いつ止まったか。どの艦が戦列の外へ出て、なぜ出たか。……《アファーメーション》のことも」
*
標準時〇三時四〇分 コルサント、統合作戦本部
「大洋艦隊、撤退。追撃、終了」
ケスティンが艦隊司令部からの報告を読み上げた。
ハロルド・タッグは夜通し、作戦部の当直室の壁の表示の前に立っていた。椅子は最後まで使わなかった。
「損害は」
「喪失、十。航行不能、十。死者、推定四千二百」
ハロルドは目を閉じた。
「セスウェナは」
「無傷です」
ハロルドはしばらく何も言わなかった。
「……では、勝ったのだな」
ケスティンは答えなかった。ホーンが同じ問いを、同じ時刻に司令部の区画で口にしていたことを、ケスティンは報告の添え書きで知っていた。ホーンの問いにも誰も答えなかったと書いてあった。
「明日、慰霊苑に石板を四枚、頼んでおけ」
ハロルドは言った。
「……足りなければ、五枚」
*
標準時〇四時二〇分 コルサント、保安委員会第二室
大洋艦隊の撤退の後、連合の通信が一斉に増えた。
リヴィアは第二室の分析の表示で、解読の終わった連合の通信の要約を読んでいた。敗走の報告。損害の集計。ネクサス・オルタイへの帰投の経路。
その中に一行だけ、別の種類の通信があった。
連合の情報部から、艦隊司令部への照会だった。共和国の艦隊はなぜ大洋艦隊の出撃に合わせて、デューロまで前進していたのか。情報が漏れていたのではないか。
照会の最後に短い一語があった。
魔女。
リヴィアはその一語をしばらく見ていた。
漏れてはいなかった。軍情報局は見えたものを読んだだけだった。連合が見せたものをそのとおりに読んだだけだった。読み方の順番だけが違っていた。
それでも、連合は魔女を探し始めていた。
リヴィアはその一行を情報の評価の欄に写した。敵側の非公式の呼称、再出現。指示の対象、不明。継続して調査。
それから、その一行を閉じた。
*
標準時〇五時一〇分 ハービンジャー、艦橋下予備指揮所
救難作業は夜が明けるまで続いた。
第3合同任務群の九隻は戦場の北の端で、救命の艇を拾っていた。共和国の艇も連合の艇も。連合の艇には有機体の乗員が乗っていることもあった。ドロイドが乗っていることもあった。
ドロイドの艇から降ろされたB1が一体、格納区画の端で、首を傾けたまま立っていた。警備班に銃を向けられても首を傾けたままだった。
「降伏規程、第三条」
B1は言った。
「抵抗ヲ、シマセン」
シーアはその報告を予備の指揮所で聞いた。ケルシスの後、パーレミアンで何度も聞いた言葉だった。
「収容してください。有機体の乗員と同じ手順で」
コルヴェンが頷いた。
シーアは予備の指揮所の表示を見た。第3合同任務群の九隻の印。デューロを出た時は十四隻だった。《グラヴィタス》と、曳航の途中で失われた《フィデス》は沈んだ。《アクレイム》と《アダマント》と《ヴィルトゥス》は、救難艦に曳かれてエリアドゥの工廠へ向かっていた。
ハービンジャーは艦橋を失っていた。
《ポラリス》から、個別の回線が入った。
『生きているな』
ラックスの声だった。
「生きている」
『昼に艦橋を撃たれた男が夜まで生きていた』
ラックスは少しだけ間を置いた。
『今夜、止める命令は一つの場所から出た。全部の艦に一度に届いた。……デヴァロンの時にはなかったものだ』
「あった」
シーアは言った。
「止める場所は一つだった。でも、撃つ場所は一つじゃなかった。合同任務群の中の周期は合同任務群の司令官が回していた。任務群の中の周期は任務群の指揮官が回していた。どこまでを誰が命令するかが決まっていた。だから、艦橋を撃たれても一秒で継げた」
回線の向こうで、ラックスはしばらく黙っていた。
『……私の思っていた「一つ」とは少し違う形をしていた』
「僕の思っていた形とも少し違った」
シーアは言った。
『それで、あの一つの場所が今夜、間違えていたら』
ラックスが訊いた。
「今夜は間違えなかった」
『間違えていたら』
シーアは少しだけ考えた。
「……その時は替えればいい。あなたが前に言ったとおりに。ただ、替え方も決めておかないといけない。戦いの最中に一秒で」
回線の向こうで、ラックスが短く息を吐いた。笑ったのかもしれなかった。
『その条文はモスマ議員に書いてもらえ』
回線が切れた。
シーアは個人の端末を開いた。
出撃の前に書いた言葉があった。眠れなかったら、帰ってから話す。
まだ、帰っていなかった。まだ、眠ってもいなかった。
シーアは短い一行だけを書いた。
《席、まだ空いてる?》
送信してから、端末を伏せた。
伏せる前に返事が来た。夜明け前のはずだった。起きていたのだと、シーアには分かった。
《空いてる。ずっと》
それから、もう一行。
《帰ってきたら、話して》
シーアはその二行をしばらく見ていた。
ケレンが茶を運んできた。カップは縁まで満たされていた。艦はもう揺れていなかった。
シーアはそれを手に取った。温かかった。
今度は、最後まで飲んだ。
技術区画から、リラが上がってきた。作業服は冷却材の染みで、もう元の色が分からなかった。
「前部反応炉、七割のまま、朝まで持ちました」
リラは言った。
「冷却の戻り側、規定値の七割。……壊れていません」
「ありがとう」
「父に報告します。壊れる一歩手前までは、使わなかった、と」
リラは少しだけ笑った。それから、ふらつくように、予備の指揮所の壁に背中を預けた。
「少し、寝てもいいですか」
「寝てください」
リラは壁に背中を預けたまま、目を閉じた。
艦隊司令部から、個別の回線が入った。
『ヴァラリアン少将』
ホーンの声だった。夜通し、同じ声だった。
「はい」
『3群、十四隻で出て、九隻で戦い続けた。沈んだのは二隻』
ホーンは少しだけ間を置いた。
『艦を、残したな』
「残しきれませんでした」
『残した』
ホーンは言った。
『デューロの前に、私は艦を残せと言った。全部を残せとは言わなかった』
回線が切れた。
シーアは表示の上の九つの印を見ていた。それから、目を閉じた。予備の指揮所の低い天井の配管が、閉じた瞼の裏に、しばらく残っていた。
*
C.R.C. 7956.046〜048 ネクサス・オルタイへの帰投航路、《エクスターミネイター》
トリトンの外縁で、帰投の列に残った艦は八十二隻だった。
最初の中継の星系で、跳躍を抜けてきたのは七十四隻だった。
「八隻、到着シテイマセン」
戦術ドロイドが報告した。
『跳躍ニ入レナカッタ艦ガ、五隻。跳躍ニ入ッタ後、ハイパースペースカラ脱落シタ艦ガ、三隻。イズレモ、ハイパードライブノ損傷デス』
ゼーア提督は表示の上の、欠けた八つの印の位置を見た。トリトンの外縁と、中継の星系の間の、何もない宙域に散らばっていた。
「位置は」
『判明シテイマス。全艦、自力デノ跳躍ハ、不能』
「曳航の艦を回せば」
ハイデン大佐が言いかけた。
「回さない」
ゼーア提督は言った。
「共和国は止まった。だが、共和国の偵察の艇はまだトリトンの外縁にいる。曳航の艦を回せば、その艦も見つかる。……乗員を脱出艇で拾える艦だけ拾え。拾えない艦は乗員を艇へ移して、自沈」
一隻を救うために、二隻を失うな。トリトンで出した命令は跳んだ後も、同じ命令のままだった。
二日目、二度目の跳躍の後、また六隻が欠けた。
一度目の跳躍を損傷した船体で耐えた艦だった。二度目の跳躍の加速に、船体の継ぎ目が耐えなかった艦があった。反応炉の出力が不安定になり、跳躍の前に止めた艦があった。どの艦も中継の星系の外縁で乗員を移し、自分で沈んだ。
「共和国の記録には三十九隻と残るでしょう」
ハイデン大佐が言った。
「トリトンで沈めた艦と、トリトンで自沈した艦。共和国が見ていたのはそこまでです」
「本当の数は」
ゼーア提督が訊いた。
「……トリトンから跳んだ後に、十四隻。まだ、ネクサス・オルタイに着いていません。着いてから、さらに増えます」
ゼーア提督は何も言わなかった。
表示の上で大洋艦隊の印は六十八になっていた。
ネクサス・オルタイを出た時は、百二十一だった。
*
C.R.C. 7956.049 ネクサス・オルタイ、地表
平原に、風が吹いていた。
B1-4417とB1-2208は、平原の端に並んで座っていた。八日前、艦隊を見送ったのと同じ場所だった。八日間、乗船の時刻の欄は空いたままだった。
「ナア」
2208が言った。
「何ダ」
「艦隊、帰ッテクルラシイゾ」
4417は首を傾けた。
「勝ッタノカ?」
「知ラナイ」
「……エリアドゥハ?」
「取ッテナイラシイ」
「スティアガードハ?」
「取ッテナイラシイ」
「共和国ハ?」
「終ワッテナイラシイ」
4417はしばらく黙っていた。
「ジャア、艦隊、何シニ行ッタンダ?」
「共和国ト、戦イニ」
「ソレハ知ッテル」
上空で光が一つ、生まれた。
跳躍を抜ける艦の光だった。細長い艦影が雲の上に現れた。プロヴィデンス級だった。艦首が半分なかった。
しばらくして、二つ目の光。ルクレハルク級の、巨大な円盤。縁の一角が裂けていた。
三つ目。四つ目。
B1たちは首を真上に傾けて、それを見ていた。平原の端から端まで、何万体ものバトル・ドロイドが、同じ角度で。
八日前、空は艦で埋まっていた。雲の上に細長いものと、丸いものと、平たいものが幾つも幾つも並んでいた。
今、空の艦は、数えられた。
「……少ナクナイカ?」
4417が言った。
「少ナイナ」
「艦、減ッテルラシイッテ、言ッテタナ」
「言ッテタ」
「ドレクライ?」
「カナリ」
「何隻ダ?」
「十ヨリ多イ」
「前ハ?」
「十ヨリ多カッタ」
「同ジジャナイカ」
「……デモ、少ナイゾ」
「ソウダナ」
最後に一番大きな、細長い艦が跳躍を抜けてきた。両舷の大きな穴の片方の周りが、黒く焦げていた。
しばらくして、泊地の外縁で、光が膨らんだ。
着いたばかりのプロヴィデンス級の一隻だった。艦の中央から、内側へ向かって、光が繋がっていった。艦は、中央から裂けた。
「……アレ、何シテルンダ」
2208が言った。
「自分デ、沈メテル」
「帰ッテキタノニ?」
光が、また一つ膨らんだ。今度は、ミュニファスント級だった。その次に、レキューザント級が二隻。
列の前の方で、指揮官型のドロイドが、別の表示を読み上げていた。帰還した艦のうち、修理の見込みの立たない九隻を、泊地の外で処分する。部品と乗員は、先に降ろした。
「直セナイカラダッテ」
4417が言った。
「帰ッテキテ、沈ンダゾ」
「……ソウダナ」
泊地の外縁で、光が九つ膨らんで、消えた。
空の艦は、また少し、減った。
その艦が泊地に着いた時、列の前の方で、指揮官型のドロイドが命令の表示を読み上げた。
「全大隊ニ告グ。グリーヴァス将軍ガ、明日、来ラレル」
「将軍ガ?」
「何シニ?」
指揮官型はしばらく黙っていた。
「……艦隊司令部ヘ、乗リ込マレルソウダ」
列の中が静かになった。
「怒ッテル?」
誰かが訊いた。
「スゴク、怒ッテオラレルラシイ」
指揮官型はそれだけ言って、列の前から戻っていった。
4417と2208はしばらく首を傾けたままでいた。
「将軍、イツモ怒ッテルダロ」
2208が言った。
「今回ハ、モット怒ッテルラシイ」
「……モット?」
「モット」
平原に、風が吹いていた。遠くで、八日間暖機のまま唸り続けていた輸送船の機関が、一つずつ、止まっていった。
4417が小さな声で言った。
「……オレタチ、置イテイカレテ、ヨカッタナ」
「ソウダナ」
二体は、並んで、空を見上げていた。