STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7956.108 エリアドゥ軌道、《ヘラルド》
《ハービンジャー》の将官表示を下ろしたのは、朝の交代時刻だった。工廠の管理官が艦の修理区画を受領し、コルヴェンは残る艦内の当直と設備の引き渡しを済ませた。修理の期限は、もう一度改められている。上の艦橋を造り直すだけではない。下の指揮所にも最初から当直を置けるよう、回線と人員の区画を増やす。出来上がった部材を一つずつ積んでも、試験を終えるまでは艦を出せなかった。
シーアは引き渡しの表示を端から読んだ。艦橋の焼けた区画は工廠が囲い、手前の通路だけが艦の当直の管理に残る。二つの指揮所の間をつなぐ通信幹線には、まだ仮の線が引いてあった。
「これを外す日は決まっていないんですか」
「決めるのは試験が通ってからです」
工廠の管理官は日付のない欄をそのまま示した。シーアは署名の位置で指を止めた。艦を預ければ早く戻ってくると期待したくなる。けれども、次に実戦で使う者がまた、届いていない回線を探すわけにはいかない。日付は埋めさせず、管理官と一緒に試験の項目を読み直してから署名した。
コルヴェンは艦と残った。《ハービンジャー》の艦長が、工廠の点検を他人に任せて首都へ行くわけにはいかない。シーアが次に乗ったのは《ヘラルド》だった。ソーン大佐は艦の指揮を執り続け、シーアとCTF-3の司令部には別の区画が用意されていた。TF-35の指揮もソーンの手元に残る。司令官が同じ艦に乗るからといって、二つの階梯を一つにする必要はなかった。
《ヘラルド》へ移った司令部は、同じ人数でも少し狭かった。壁の表示の端を動かすたび、ソーンの艦内当直の回線と重ならないよう調整が要る。シーアの机には《ハービンジャー》から持ってきた私物より先に、翌日の訓練予定が置かれた。
シーアは空いた位置を一つずつ確かめた。修理中の《アダマント》は、部隊の図では灰色のまま。《アクレイム》はまだスルイス・ヴァンにいる。新造のプロヴォケイター級二隻には乗員が乗り始めたが、互いの名前を覚える前に戦列へ並べるつもりはなかった。
「コルサントでは、交代待機です」
ソーンが予定表を示した。CTF-3は首都の泊地で補給と乗員交代を進めながら、動ける任務群を順番に警戒へ出す。《ハービンジャー》が戻るまで編成表を完成したふりはしない。演習の枠も、乗員の揃った艦から順に取ってある。
「南を空にして来た、と言われそうですね」
シーアが言うと、ソーンはエリアドゥ方面の星図を開いた。トリトンへ通じる航路には、GFから残した艦と、警戒を引き継いだ方面部隊の印が重なっている。エリアドゥの工廠を守る艦もある。
「交代を見届けてから出ます。言う人には、この印を見せればいい」
シーアは頷いた。ソーンは画面を閉じず、補給の便の下に記された上陸許可の予定も見せた。
「乗員を休ませるのも、再編成のうちです。司令官も」
「僕には、まだ仕事があります」
「だから交代待機なんです」
ソーンはそう答え、次の当直へ表示を渡した。窓の外では《ハービンジャー》の工廠灯が船体に沿って一列に点いていた。移乗してきた通信士が、一度だけ元の艦の方を見てから、新しい席の通信を取り始めた。シーアも表示を閉じた。後ろを見ていれば戻る日が早まるわけではなかった。
*
C.R.C. 7956.112 コルサント軌道、共和国艦隊泊地
ハイパースペースを抜けた《プライド・オブ・ザ・コア》の前に、コルサントが現れた。地表を覆う都市の明かりは昼の側にも消えず、軌道の航路には民間船が絶え間なく流れている。旗艦の後ろから帰投した艦が一隻ずつ姿を現すと、管制局は民間船の進路を外側へずらし、係留設備までの道を空けた。
ホロネットの歓迎放送は、司令部区画の扉が開くたびに廊下から聞こえた。泊地の回線では同じ時刻に、接舷の順番と燃料艇の位置が読み上げられている。都市の側から見れば長い凱旋の列でも、艦内にいる者にとっては、次の当直が始まる場所だった。
シーアの乗る《ヘラルド》は、その列の中ほどにいた。通信士の一人が初めて見る首都の夜景に向けて、窓の角度を何度も変えている。別の士官は上陸先の店を探していた。ケレンは茶葉とは別の買い物があると言い、何を買うかを訊かれると、まだ決めていません、と真面目な顔で答えた。
係留には予想より時間がかかった。船体の外側を港の案内艇が往復し、どの補給艇がどの接舷口を使うのか、港と艦の担当者が繰り返し確認した。シーアが廊下を歩くと、上陸許可の列にはまだ名前のない欄がいくつかあった。南方から連れてきた乗員のうち、当直を代われる者がすぐには見つからない。先に休む者が次の当直を引き受ける、という約束を一組ずつ作って、ようやく全員の番が決まった。
乗員の一人が携帯端末を差し出した。家族へ送る首都の映像を撮りたいが、艦の位置を出してよいかという。シーアは港が公開した係留図の範囲を一緒に確かめ、窓から街の方を映すよう勧めた。その乗員は試しに記録を始め、最初の数秒を自分の指で塞いでしまった。笑いながら撮り直す間に、隣の乗員も画面へ入った。
ソーンが係留を確かめ、司令官室へ上陸許可の一覧を送ってきた。シーアも左肩の装具を外してから初めて、制服の上着を気にせず椅子に寄りかかった。腕を伸ばすとまだ少し痛んだが、扉を開けるために人を呼ぶほどではなかった。
窓の下で、同じ艦の若い乗員が二人、明日どの層へ行くかで言い争っていた。戦闘詳報のどの頁にも書かれないことで争っている。シーアはしばらく、その二人の声を聞いていた。
首都へ戻るなり、軍務ではない予定が三つ届いた。ホロネット局からの取材、国防省の帰還歓迎式典、それからリラ・ブリセックスからの短い通信だった。
――技術審査が終わりました。コルサントへ行きます。お話できる時間をください。
シーアはまず最後の通信に返事を書いた。
*
C.R.C. 7956.114 コルサント、ホロネット中央放送局
スタジオの戦術図からは、味方の損失の印が外されていた。共和国の艦がトリトンの北で敵を退けるまで、青い点が進み、赤い点が引く。二十一時間の戦闘は、九十秒に縮められている。
シーアは出演前の確認で、それを一度見た。戦術図を作った職員は悪意で数字を消したわけではない。画面に載せられる印の数が決まっていた。司会者が説明できる時間も決まっていた。だが、戦場では青い点も消えていた。
「この図は、会戦の経過を示しています。戦力の推移ではない、と表示してください」
担当者は少し考え、番組の表示欄にその一行を足した。編集卓の横には、会戦で撮られた船体の映像がいくつも並んでいた。光る砲と、帰投する乗員と、艦橋で命令を出すシーア。焼けた艦橋の内側は、短い予告に使われていなかった。
「ここは、映さないんですか」
「九十秒の本編には入れます。予告では、帰ってきた顔を見せたいと言われています」
職員は再生を止めずに答えた。シーアは画面を見て、予告の相手が今日の放送を開くことにも意味があると思った。画面の外へ落ちたことを消さなければ、使い方は一つではない。
撮影の開始まで時間は残っていない。シーアが着席すると、照明の向こう側の壁にコルサントの夜景が映された。実際の窓ではなかった。
司会者は勝利を祝う言葉から入った。それから、グランド・フリートの艦が敵の正面から急に進路を変えたのは予定どおりだったのか、と訊いた。全てを予定どおりと言えば、司会者は喜ぶだろう。シーアにはそうは答えられなかった。
「予定していた変換と、あの場で直した変換があります。敵も動きます。こちらの艦にも故障と損傷が出ます。作戦どおりの位置に着くことより、次の命令を受け取れる状態を保つことを優先しました」
「それが勝因ですか」
「一つです」
司会者は映像の赤い艦影が退いていくところを見た。
「追えば、もっと多く沈められたのでは?」
「かもしれません。ただ、その時はもう、こちらの弾薬も燃料も残りを数えていました。退く敵を追うことと、セスウェナを守り続けることは、同じではありません」
沈黙が少し伸びた。司会者は次の質問へ移った。初めて首都へ帰った乗員の様子、家族に何と伝えたか、という話だった。シーアは前日に、誰かがケレンへ土産物の店を教えていたことを思い出した。連絡の取れない家族へ今夜は帰ったと送る者もいる、と答えた。
収録が終わると、担当者が短縮した戦術図をもう一度再生した。最後の画面には「共和国グランド・フリート、帰還」の大きな文字。その下に、シーアが求めた小さな一行が残っていた。
放送を見たケレンから、その夜、感想が届いた。
――お茶の話は、しませんでしたね。
買い物のことをシーアが訊き返すと、返事はやはり、まだ決めていません、だった。
*
C.R.C. 7956.116 コルサント、国防省の帰還歓迎式典
式典の会場には、軌道の係留設備を映す大きな窓があった。《プライド・オブ・ザ・コア》の船体がその向こうを横切り、近くにいる艦でも遠くの建物より大きいことを、列席者へ思い出させた。音楽が鳴り、祝辞が続く間も、港では補給艇が旗艦へ接舷している。
シーアはホーンの少し後ろに立った。議員や官僚、艦の建造に関わった企業の代表が順に挨拶へ来る。話しかけられるたびに、彼は勝利の同じ部分を少しずつ違う言葉で説明した。大洋艦隊の主力を退けたこと。南の航路を守ったこと。残った艦が修理と交代を進めていること。
ホーンは乾杯の前に、帰還しなかった艦と乗員に短く触れた。詳報の名前を読み上げることはせず、黙祷の時間を取った。会場が静かになった時、遠くの旗艦の小さな接舷灯が一つ点いた。時間が終わると音楽は戻り、人々はまた杯を手に取った。
ハロルド・タッグが人の間を抜けて来た。シーアの肩ではなく、手元の杯の方を見た。
「飲み過ぎるな。カッシオが、次の帰還には四人を揃えると言っていた」
「今夜ですか」
「今夜ではない。あいつは惑星防衛軍の大佐だ。休暇を取るにも、代わりを置かなくてはならん」
ハロルドは息子の近況をそれ以上詳しく語らなかった。シーアも、父親に訊くより本人から聞きたかった。元老院から来た者がハロルドを呼び、彼は返事をしながらもう次の数字を頭で数えていた。
給仕が空いた器を下げる間に、整備部門の士官がシーアを見つけた。式典へ出るために貸し出された制服の袖口が、普段より少し長い。彼は挨拶の後、帰投した艦に新しい補給品をどこから積むかを話し始めた。シーアがここには端末を持っていないと言うと、士官はようやく自分の袖を見て、明日の連絡に回します、と苦笑した。二人で窓の向こうの補給艇を眺め、今夜だけは仕事の細かい数字を後へ回した。
その後も議員が二人、別々にシーアを呼び止めた。一人は、首都の軌道に艦隊が帰ったことを喜んだ。もう一人は、自分の星系の警備にいた艦が凱旋の列へ加わったのではないかと心配した。どちらにも、シーアは編成表を開き、艦隊の帰投と各星系の交代配置を区別して答えた。説明を終えると、最初の議員は彼の手を握り、二人目は配置表の写しを求めた。
その後で、モン・モスマが短く話しかけた。例の職務継承の条項を委員会へ出す日程が決まったという。
「戦闘中の解任は、まだ別の審議よ。あなたが言ったとおり、書いたつもりでは通さない」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのは、十年後にして」
モスマは別の席へ向かった。シーアは会場の中央で、先ほどの放送の映像が流れているのに気づいた。九十秒の戦闘の最後で、青い点が整列したまま帰ってくる。それを見ていた何人かは、今回の勝利を初めて知ったような顔をしていた。別の誰かは帰った船の数を数えていた。
シーアは式典が終わる前にホーンへ挨拶し、泊地へ戻った。祝辞に応じることも司令官の仕事だったが、交代待機の当直は彼が戻る時刻を知っている。
*
C.R.C. 7956.118 コルサント、ウスクル地区
リラが選んだ店は、工廠の近くの食堂とは違って、席と席の間が広かった。窓の向こうを都市交通が走るたび、二人の卓の上に赤い案内灯の影が通る。制服を着ていないシーアが先に着き、席の前に置かれた三種類の器具を見ていた。
「どれも、反応炉は動かせませんよ」
遅れて来たリラが言った。作業服ではなかった。髪も、技術区画で束ねていた時より緩く結んでいる。シーアは器具から手を離した。
「待っている間、何を使うのか調べていました」
「料理が来てからで間に合います」
リラは向かいへ座った。エリアドゥからコルサントへ着いた後、KDYの技術審査の追加面談を済ませてきたのだという。ウォレックスの推薦は記録に残ったが、評価に使われたのは彼女の図面と、トリトンで実際に損傷した艦の改修記録だった。指揮所を二つにする時、片方の通信が焼ければもう片方へ何秒で切り替わるのか。隔壁が閉じても、どの区画の人員が何分で火災の場所へ着けるのか。面談はその質問だけで長くなった。
「決まったんですね」
「インペレーター案の設計主任に、正式に」
リラは杯を手に取ったが、まだ飲まなかった。
「決まったのは私の席です。艦の方は、まだ線を引き直せます」
「お父さんは何と」
「審査の後に、よかったな、だけ。昨日まで毎日、図面に何か言っていた人が」
「心配だったんでしょう」
「私より、艦を心配していたのかもしれません」
料理が来た。最初の一皿は小さく、シーアは一口で食べ終えてしまい、次が来るまでリラの話を聞いた。二人で船のことを話すのは、エリアドゥの工廠の足場以来だった。あの時は艦橋の焼け残った端が目の前にあった。今は卓の上にも、彼女の端末の中にも、描き始めたばかりの艦の輪郭がある。
「テクターの成功で、どれも同じ形になるんですか」
「同じ船体の造り方を、別々の使い道に分けます。私が担当するのはインペレーターです。二つ目の反応炉を降ろして、砲戦だけに使っていた給電と冷却の設備を減らす。主砲の数も減る。その代わり、艦載機や兵員や物資を積み、長い航海で整備しながら動ける艦にする」
「テクターより弱くなる?」
「テクターが正面から撃つなら、同じ撃ち方はできません。でも、テクターを行かせるための艦も要ります。部隊を運び、次の星系でまた使えるようにする。あなたが昔から欲しがっていた仕事です」
シーアは杯を置いた。砲塔の数だけなら減るのに、艦の仕事は増える。
「そんな艦がたくさんできたら、テクターの出番は減るかもしれません」
「その時は、あなたがうまく使い分けてください。私はテクターを廃止する図面を描くわけじゃない」
リラは笑ったが、話し終えると、窓の赤い影を少し追っていた。ウォレックスが灰色の《ハービンジャー》のことをどう見ていたか、シーアも知っている。砲戦用の艦より、どこにでも行ける艦の方がずっと多く造られるかもしれない。その責任の大きさを、リラは数で言わなかった。
「ヴェクターは?」
「別の班です。あちらは戦列で砲を揃える艦ではなく、艦隊の航空団を運ぶための艦。二次反応炉と大型砲の装置を降ろし、容積を発着艦と整備へ渡します。艦の外から見ると同じ系列に見えても、中で歩けば別物になるでしょう」
「また迷子が出ますか」
「出さないように描きます」
リラは真顔になった。サイブのヴァリアントで起きたことを二人とも知っている。彼女は端末の端に線を二本引いた。中央の格納区画を挟み、火災の時にも残す通路だった。
「航空団を何個収められるかと、何時間も飛ばし続けられるかは違います。普通の空間なら機体の方が艦より速い。ハイパードライブがあれば一緒に跳べる。けれど、帰ってきた機体をもう一度出すには、燃料と部品と人手と、休ませる場所が要る。格納庫を大きくするだけでは、空母にはなりません」
「ヴェネターの代わりにもなりますか」
「そこは違います。ヴェネターは兵も艇も連れて行ける。ヴェクターは航空の仕事を重く引き受ける。兵を降ろすには、ほかの艦と組むことになります」
シーアは差し出された図の二本の線を見た。図面の内側には人が歩き、機体を直すために待つ時間がある。リラが今夜、自分に見せたかったのは砲の数だけではなかった。
「リラさんがいなくなって、《ハービンジャー》の後任は困りませんか」
「もう困っています」
彼女はようやく杯を飲んだ。
「冷却の記録も、あなたがいつ数字を上げるかも渡しました。どこに予備品があるか、父が何を余計に積ませたかまで。後任が困った顔をしていたので、引き継ぎは成功です。自分で記録を開いてくれる」
「僕も困ります」
「あなたには司令部もコルヴェン艦長もいるでしょう」
「前部反応炉の数字を、最後に誰へ訊けばいいか変わります」
リラはその言葉をすぐには受け取らなかった。二人の間へ次の皿が置かれ、給仕が離れるのを待った。
「次の艦でも、使ってからでなければ分からないところが出ます。今度も報告はください」
「厳しいものになると思います」
「それでいいです。ハービンジャーから来る報告は、最初から厳しかった」
食事の終わりに、リラはクワット行きの便の時刻を見せた。翌日の朝だった。シーアが乗り場まで見送ると言うと、彼女は首を振った。
「見送りのために、もう一度軌道へ上がらなくていいです。今夜、ちゃんと話せましたから」
店を出ると、交通の灯りが窓ではなく二人の上を通った。リラはそこで一度、シーアの方を見た。
「KDYにいます。よければ、遊びに来てください。工廠に用がある時だけじゃなくて」
「行っていいんですか」
「入れる区画は限られます。でも、食事に行く店はあります」
「今日みたいに器具の多い店ですか」
「もっと簡単なところにします」
シーアは笑い、必ず連絡すると答えた。二人は別の交通路へ歩いた。彼女が造る次の艦に乗る約束はしなかった。ただ、互いのいる場所を知っている。それだけで今夜は足りた。
*
C.R.C. 7956.121 夜、コルサント、ウスクル地区のホテル
古いホテルの入口に、学院の頃と同じ植木があった。幹は少し太くなっているはずなのに、シーアには変わって見えなかった。隔週の休日に四人で通い、白いクロスの卓に三段の皿を置いてもらった場所だった。卒業してからも顔を合わせられる時にはここへ来ている。ただ、四人全員の予定が揃う日は、戦争が始まってから少なくなった。
今日は三段の菓子皿ではない。いつもの卓に四人分の夕食が並び、中央の花瓶も置かれている。セリアが花瓶を少し動かした。向かいのリヴィアの顔が、照明の陰から出た。
「まだそれを動かすの」
「まだあの場所に置くんだもの」
セリアは椅子を引いた。カッシオは窓際の席から手を上げた。惑星防衛軍の大佐の徽章は外しているが、立ち上がる速さに軍人の癖が残っている。
「敬礼は」
「ここでは、なし」
「よかった。少将に敬礼してから勘定を払わせる手順を考えていた」
「カッシオなら、払う順番だけを決めるでしょう」
リヴィアが言い、シーアの隣を引いた。彼女はホテルへ頼んでいたオルデラニアン・ワインを見せた。四人で杯を持ち、一人ずつ注いでもらう。学院の頃の茶器なら、シーアはアール・ヴェロスを選んでいただろう。今日は同じ白いクロスの上に、赤い酒が四つ並んだ。
「帰ってきたことに」
セリアが杯を上げた。カッシオがすぐに付け足した。
「次も帰ることに」
シーアとリヴィアが杯を合わせた。音は小さかった。誰もこの席で勝利の乾杯をやり直さなかった。
カッシオは前線からの一時帰還中だった。彼の所属する惑星防衛軍は、ある星系で後方の警備と、別の部隊が出ていった後の基地の運営を引き受けていた。大佐になったことをシーアが祝うと、彼は自分の皿の上の肉を切りながら答えた。
「階級が上がると、壊れた車両と来週の補給を同じ日に返事しなければならない」
「昔から、二つとも数えていたよ」
「昔は模型だった。今は片方を使えば、もう片方が明日の分になる」
シーアは学院の同室で、カッシオが机いっぱいに艦を並べていた夜を思い出した。どの艦がどこへ何日で着くかを二人で争い、片方が手持ちの模型を全部動かすと、もう片方が空いた港を指した。あの遊びでは、なくした模型を翌日に買い直せた。
「父上の式典で見たよ」
カッシオは言った。
「ホロネットの取材も。あの図、途中で艦が消えるはずだろう。お前が表示欄に手を入れたのか」
「経過の図だと書いてもらった。損失の表だとは言っていない」
「さすがに放送で全部の艦名は読めないか」
「読めない。だから、見ている人に全部だと思われるのは避けたかった」
リヴィアはワインを少し揺らした。
「言葉を一行増やしただけで、番組の使い方が変わる。相変わらず、書式にうるさいわね」
「そう言うリヴィアほどじゃない」
「褒め言葉として受け取る」
彼女は楽しそうに飲んだ。今は輸送契約と保険の記録を読んでいる、と四人へ説明した。貨物が届いたかより、誰が届いたと言ったかの方に時間を使う日があるという。シーアが詳しく訊くと、それは仕事の話になるから今夜は別、と答え、セリアが注文した料理の方へ注意を向けた。リヴィアには、話せる近況と話さない近況があった。それでもこの卓での笑い方は、学院の時と同じだった。
セリアは昼間、ある惑星防衛隊の司令部で、港の倉庫を引き渡す手順を見てきた。クローンの部隊がその星系を通り、次へ向かった後に使う倉庫だという。壁の表示には共和国の物資の総量が載っていたが、倉庫の管理人は、次の輸送艇がどの入口に降りるかを知らなかった。
「数はあるの。場所もある。なのに、扉を開ける人が決まっていない」
「決めた?」
シーアが訊いた。
「管理人と防衛隊と輸送会社を同じ卓につけた。私が決めるより、三人で確認した方が早かったわ」
カッシオが頷いた。
「扉を開ける人が見つからない倉庫は、補給計画の外に置くしかない」
「そうやって全部外したら、空の計画になるわ」
セリアが返した。二人は笑ったが、どちらも冗談で言っていない。シーアはワインの赤い色を見た。三人の話のどれも、トリトンの会戦の戦闘記録には出てこない。それで艦隊が次に撃てるかどうかが変わる。
「エリアドゥは、今、誰が見ているの?」
セリアが訊いた。
「残した艦と、交代で来た方面部隊。工廠を守る艦もある。僕たちが帰る前に、航路と補給の引き継ぎを終えたよ」
「それなら、艦隊が帰ってきた後も守れるのね」
「エリアドゥは」
シーアはそう答えて、別の星系の名を挙げかけた。そこではどの部隊が残ったのか、彼はまだ知らない。セリアはそれ以上追わず、彼の皿の端に残った野菜を指した。
「冷めるわよ」
カッシオまで、まず食べろ、と言った。シーアは二人の顔を見て、皿に手を伸ばした。
食後にホテルの従業員が小さな茶器を持ってきた。ワインの杯を下げた後、昔と同じアール・ヴェロスの香りが立った。リヴィアは少しミルクを入れ、シーアは何も加えない。セリアはジェダリンの香りがする茶を選んだ。カッシオは飲み終える前に時刻を見た。翌朝、持ち場へ戻る便が早い。
「もう帰る?」
「この時刻なら、まだ眠れる」
カッシオが立つと、セリアも上着を取った。四人でホテルの出口まで歩いたところで、リヴィアだけが立ち止まった。
「シーア、もう一軒行かない?」
「今から?」
「今から」
「明日は司令部へ――」
「朝からでしょう。泊地へ戻る便も調べてある。最後にもう一杯だけ」
シーアは断るための理由を考えた。肩はもう痛みが少なく、当直はソーンに任せてある。カッシオはその顔を見て、先に答えを知ったように笑った。
「お前は、そうやって条件を一つずつ消されると弱い」
「別に弱くは」
「弱いわよ」
セリアまで言った。リヴィアはすでに通りに停まった車へ向かっている。シーアがカッシオとセリアにおやすみと言う間に、彼女は車の扉を開けて待った。
「行き先は?」
「着いてから教える」
シーアはもう一度ホテルを振り返った。カッシオが呆れた顔で手を振り、セリアは笑っていた。シーアも手を上げ、リヴィアの待つ車へ歩いた。
*
C.R.C. 7956.125 コルサント軌道、《ヘラルド》
交代待機の二週間で、CTF-3の編成表には少しずつ白い欄が戻った。修理の終わった艦が一隻来て、新しい乗員が到着する。艦を受領したTFの指揮官は、まず港の外で短い変換をやらせた。三回揃わなければ次の訓練へ進めない。《ハービンジャー》はなお工廠にあり、旗艦を戻す日付は予定表に仮置きのままだった。
シーアは《ヘラルド》の司令部で、その日の訓練記録を見ていた。三隻目が転針の時刻を一秒遅らせている。記録の横に「新任操艦士の交代後、再試験」と書いた。まだその一秒で誰も撃たれていない。撃たれる前に揃える時間が、今はある。
個人の回線にターキンから連絡が入った。
――今夜、うちで夕食を一緒にどうか。二〇時に来られるなら、場所を送る。
軍の命令書式ではなかった。シーアは、エレナの公演の日程でもまた訊かれるのかと思った。前の式典でターキンに答えられず、帰ってから本人へ送った予定を、まだ伝えていない。
ソーンへ夜の当直を任せ、シーアは承知したと返事を送った。
*
C.R.C. 7956.125 二〇時〇〇分 コルサント、ターキン邸
ターキンの住まいは、官庁の並ぶ区域から少し離れていた。通りからは奥の灯りだけが見え、入口で名を告げると、迎えの者が小さな前室へ通した。壁にエリアドゥの港を写した古い映像がある。軍の施設にあった長い随員の列も、艦隊の標章も、ここにはなかった。
ターキン自身が奥から出てきた。
「来てくれてよかった。エレナから、君が首都へ帰ったと聞いている」
「公演の日程を送った後、まだ直接はお会いしていませんでした」
「今夜は食事にしよう。話はその後だ」
シーアはそれで少し肩の力を抜いた。ターキンの案内で食堂へ入る。卓は大きくなく、三人分の器があった。どなたか同席されるのか、と訊こうとして、奥の席から立った人を見た。
最高議長パルパティーンだった。
シーアは入口で一瞬立ち止まった。初対面ではない。元老院の宴席でも、任命を受ける場でも会っている。だが、ターキンの家へ夕食に呼ばれ、そこに議長がいるとは思っていなかった。ターキンは彼の驚きを見ても、紹介の言葉を急がなかった。
「ヴァラリアン少将。首都で少しは休めたかね」
パルパティーンが言った。ターキンが客の椅子を引いた。シーアが礼を述べて座ると、議長は肩の具合を訊いた。左腕の可動を見せる必要はなかったが、装具が外れたと答えた。痛みが消えるより先に使えるようになった、と付け加えると、ターキンが首を横に振った。
「軍医の言った日まで、腕で扉を押すな」
「もう押しています」
「では軍医に知らせる」
パルパティーンが笑った。料理が運ばれるまで、今夜の話はエレナの公演だった。シーアが送った日程をターキンは見ており、まだ席を取れていないという。議長は舞台のどんな芝居なのかを訊いた。シーアはあらすじを答えたが、役者の名前を半分も覚えていなかった。
「エレナさんに、次は役者も見ていたと伝えなければね」
パルパティーンはそう言って、最初の皿を取った。ターキンもシーアの方へ料理を回した。ターキンの家に議長がいるという驚きは消えなかったが、会議の開始を告げる音も、録音のために立つ者もいなかった。食卓の端には、エレナの公演の案内が私用の端末に開かれていた。
「ブリセックスの娘が、クワットへ戻ったそうだね」
食事の途中で議長が訊いた。
「設計主任の審査を通りました」
「君の艦に乗っていた経験が生きたのだろう」
「彼女は最初から、この艦の設計上の欠けたところを見ていました。実際に撃たれて、何を直すべきかが分かったんです」
「次の艦には、その経験が入る」
議長はそこで話を止めた。シーアも、新しい艦の名を自分からは出さなかった。リラにとって、艦級の名より、いま描き直している通路の方が大事だと分かっていた。
次の皿の頃、パルパティーンがホーンの詳報に触れた。
「勝ったことだけでなく、どこで負けかけたかまで書いてある。元老院へ届く勝利の報告より、ずっと長い」
「長い方も、読んでいただけたのですね」
「読んだよ。救難艦が足りなかったことも、重戦列の弾薬が残り何時間分だったかも」
ターキンは料理を切り分けながら、シーアへ正面から顔を向けずに言った。
「共和国には、さらに強力な軍隊が必要だ」
「グランド・フリートを、もっと大きくするという意味ですか」
「大きくして、それを動かせるようにする。一つの戦場へ全て集めなければ敵を退けられないのでは、次の星系を守れん。君たちがトリトンで戦っている間にも、別の場所では艦が足りなかった」
シーアは自分の杯を置いた。トリトンの戦列を思い出した。九十八隻を揃えてなお、弾薬が尽きる前に戦いを終わらせる必要があった。同じ数を別の星系に置くことなど、今の共和国にはできない。
パルパティーンも杯を置いた。
「君の艦隊から、随分とヴェネターが出ていったそうだね」
「必要な場所へ行きました。今も、転属が間違いだったとは思っていません」
「だが、君たちは困った」
「困りました。ライロスへ行く艦にも、ボサウイに残る艦にも理由がありました。僕たちの編成表では空欄になる。でも、その艦で次に出る部隊も、戦いが終わった宙域を守る人もいます」
「では、どうしたい」
「一隻ずつ貸すだけでなく、一緒に戦争をすることです」
ターキンが顔を上げた。
「具体的に」
「ジェダイの将軍がクローン部隊と次の星系へ向かうなら、上陸の艦だけでなく、その後を引き継ぐ艦と防衛隊を決めておく。艦隊が敵を退けたなら、空いた航路へいつ補給を通すかまで決める。救難艦を出し、壊れた艦をどこで直し、その間どの船団を守るかもです」
シーアは昼間のCTF-3の編成表を思い浮かべた。修理の欄にある艦は、今夜、敵が来てもその場には現れない。だが工廠と部材と乗員が揃えば、次の月には戻ってくる。戦力として数えるのは、今日撃てる艦だけではなかった。
「カリダで演習していた頃、ヴェネターが一隻ずつ抜けていきました。今度は、CTFやTFが仕事を引き受けられる形のまま、別の部隊と組みたいんです。任務の間だけでも、補給と通信と、止める命令を誰が出すかを先に決めて」
「クローンの軍団には、ジェダイの指揮官がいる」
ターキンが言った。
「君は、その指揮を分けるつもりか」
「地上へどこから入り、何を取るかは、地上の指揮官と決めます。艦の運航と、火力と、退路は艦隊が扱う。共同任務のために作った作戦統制の手順があります。移す時刻も、終える時刻も、停止を命じる者も、作戦の前に互いに読んでおきたい」
ターキンは返事をしなかった。曖昧な二つの命令系統を残すつもりはない、という点では、彼も同じ考えだった。ただ、誰の下にまとめるべきかについては、シーアと答えが違うかもしれなかった。
「艦を増やすだけでなく、そういう仕事を共和国の側で引き受ける」
シーアは続けた。
「クローンの兵士たちだけに次の上陸を任せ、出ていった後の守備を忘れれば、同じ場所へまた戻ることになります。地方の防衛隊にも、工廠にも、輸送船にも、役目がある。部隊を貸すだけでなく、共和国の戦争にする必要があると思います」
「共和国の戦争」
パルパティーンはゆっくり繰り返した。
「クローンも共和国の兵士だね。その言い方なら、彼らの戦いを誰か別の者の戦争だと言っているわけではない」
「はい。彼らが戦っている間も、戦った後も、共和国の組織が仕事を引き受けるという意味です」
「地上軍も、方面の防衛隊も?」
「ええ。エリアドゥでは、交代の部隊が着いたのを見てから帰れました。ほかの戦域でも、それができるように」
議長は頷き、少し残った料理を皿の中央へ寄せた。
「元老院には、艦が何隻必要かだけを話すより、その仕事を誰が引き受けるのかを話した方が伝わるだろう。議員たちは、自分の星系で戦いが終わった翌朝のことを考えている」
「先日の式典では、艦が帰ったことを喜んだ議員がいました」
シーアが言った。
「別の議員は、その分、自分の星系から警備の艦がいなくなるのかと訊きました。どちらの質問も当然だと思います」
「その二人に同じ答えを渡せるなら、強い説明になる」
パルパティーンは答えた。歓声を上げる人と、艦の配置を心配する人を同じ元老院の中で見ている声だった。シーアは、今夜の卓にいないモン・モスマの顔を思い出した。彼女なら、その答えが十年後にも成り立つのかと訊くはずだ。
「手順を残しておきたいんです。誰かが代わっても、同じ問いをし直せるように」
「だから君は、勝った後にも詳報を書く」
議長は微笑んだ。シーアは否定しなかった。
「そのために、さらに強い軍が要る」
ターキンが言った。
「そうです。ただ、戦える艦を増やしても、全てを一か所へ呼ばなければ動かせないなら足りません」
シーアはそう答えた。議長は二人を見比べ、微笑んだ。どちらの言葉も否定しなかった。
「ハロルドとホーン提督にも、話そう。オープン・サークルの司令部にも、共同任務で必要なものを訊く。君には艦隊側の案を考えてもらいたい。決めるのは、現場と国防省の手順を通してからだ」
「承知しました」
そこでシーアは、今夜が私的な招待であると同時に、次の仕事の入口だったのだと分かった。彼の手元に配属の命令は来ていない。どの艦を誰へ渡すかもまだ決まっていない。それでも、次の作戦を考える卓には、もう席が一つ用意されていた。
パルパティーンは食事の終わりを告げず、シーアへ温かい飲み物を勧めた。ターキンがエレナの公演の日程をもう一度確かめる。シーアは今度は役者の名も聞いてから答えるつもりで、席を立たなかった。
「共和国の戦争にする」
議長は杯を手に取り、先ほどの言葉をもう一度口にした。
「ならば元老院も、自分たちの仕事を引き受けなければならないね」