STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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クローン戦争
共同任務


 新たな戦線、ミルダーン!

 

 トリトンで分離主義者の大洋艦隊を退けた共和国グランド・フリート。だが、勝利の余韻が銀河に残る間にも、戦争は広がっていた。分離主義者の艦四隻が、港市セリオを封鎖。軌道上の敵艦と港西の高台に据えられたイオン砲台が、共和国の救援を阻む!

 

 港には避難民が集まり、浄水装置は手元の交換部品ではあと六日しか動かせない。救援に向かうのは、シーア・ヴァラリアン少将の第3合同任務群と、ジェダイ将軍ベイラン・スコールの第150空中突撃連隊。初めて組む二人は、艦隊による陽動と地上からの砲台制圧を同時に進める。

 

 敵を退けるだけでは、港は救えない。救援船を着かせ、港を守る人々へ次の補給を届けられるのか。共和国の共同任務が、始まる――

 

 *

 

C.R.C. 7956.157 ミルダーン星系、銀河平面座標 M-18、リマ交易ルート支線、セリオ港

 

 セリオ防衛隊の士官イラ・ネヴァンは、定期の上昇便を止めてから四十八時間、一度も管制塔を離れていなかった。医療搬送と緊急避難の艇だけは、敵の監視が薄い時刻を選んで上げていた。港の誘導灯は生きている。だが、それを見て降下する船を、軌道にいる分離主義者の艦も見ていた。

 

 地上の貨物艇が一隻、搭載した避難民の数を増やしてほしいと求めてきた。管制塔からは艇の腹の下まで見える。すでに降着装置が重さで沈んでいた。

 

「あと十二人なら載ります。私が見ました」

 

 操縦士の声には、この二日間で初めて外へ出られる機会を逃したくないという焦りがあった。ネヴァンは積載表示をもう一度開いた。表示上は確かに余地がある。ただし倉庫で働く人が載せた水の容器は数に入っていなかった。

 

「水を降ろすか、十二人を待たせるかです。あなたが決めてください」

 

 操縦士はしばらく返事をしなかった。結局、水を降ろして六人を乗せた。残る六人には、次の艇が来る時刻をネヴァンが自分で伝えた。次の艇も、上空の敵艦が通信を塞げば来ないかもしれない。それでも、来るとだけ言って終えるわけにはいかなかった。

 

 港の防衛隊は倉庫を守っていた。内陸への道には検問があり、敵の戦闘ドロイドはまだ港の外れにしかいない。戦況の表示では、セリオは防衛中と書ける。浄水装置の交換部品は足りず、いまの負荷ではあと六日動かすのが限界だった。荷役を止めて負荷を減らせば一日延ばせるが、降ろした水を内陸へ運ぶには、その荷役が要る。

 

 夜勤に代わった部下が、共和国側からの短い通信を示した。外から来る上陸部隊が、セリオ宇宙港の配置図と西の砲台の最新位置を求めている。送信元はオープン・サークル艦隊司令部。もう一つ、共和国グランド・フリートのヴァラリアン打撃群から、同じ港の民間船の位置を尋ねる照会があった。

 

「二つとも返しますか」

 

「同じ位置を、同じ時刻でね」

 

 ネヴァンはそう答え、緊急の避難艇が使う航路を両方の回線へ送った。来る者が互いに違う港を見ているのが、いまは一番困る。

 

 通信を終えると、防衛隊の隊長から砲台の裏へ車両を二台回すよう命令が入った。管制塔にも交代を送るという。ネヴァンは地上の最新の地図を持って降りた。管制塔の端末で見るより、高台の砲台は近かった。

 

 *

 

C.R.C. 7956.158 ミルダーン星系外縁、《ハービンジャー》

 

 セレナ・ヴェインの荷物は、シーアの半分もなかった。

 

 司令官副官としての着任通知は先に届いていた。寝台も執務端末も用意してあった。それでも、私室の扉を開けたところに彼女が立っていると、シーアは一瞬、家で起きた朝と取り違えた。制服の襟を直しかけた手が止まった。

 

「おはようございます。荷物はもう片づけました」

 

「早かったね」

 

「あなたの朝食が終わる前には」

 

 卓には半分残った皿があった。言い訳を選ぶ前に、廊下からノア・ケレンが盆を持って入ってきた。セレナは彼へ道を譲り、茶器を置く場所を尋ねた。ケレンはシーアの右手側を指し、艦が揺れる時には手前の留め具を使うと教えた。

 

 セレナは同じ場所へ皿を戻そうとして、手を止めた。そこには艦内電話があった。

 

「朝食は、いつもここで?」

 

「当直によります。食堂へ出られる時もあります」

 

 ケレンは空いた側へ皿を寄せた。セレナはその動きを見てから、持ってきた予定表を開いた。軍務の当直表はコルヴェンから受け取っている。面会、式典、家からの私信、その合間に食事と睡眠を入れるのが彼女の仕事だった。艦の当直を組み直す欄には触れなかった。

 

「シーアは疲れると食べなくなるから、残した時は教えてください」

 

「存じています。デヴァロンでも、トリトンでもそうでした」

 

 ケレンは普段どおりに答えた。セレナの指が予定表の上で止まった。彼女が報せを待っていた二つの戦場で、この人は同じ皿を見ていたのだ。

 

「では、半分で片づけないで」

 

「はい。最近は、そうしております」

 

「本人もいるんだけど」

 

 シーアが言うと、二人ともこちらを見た。どちらも皿を下げなかった。彼は残っていた果物を一つ口へ運んだ。

 

 修理後の艦橋には、まだ新しい金属の匂いが残っていた。上にも下にも当直がいて、コルヴェンはシーアが着く前に引き継ぎを終えていた。各任務群はすでに別々の進入路を取り、共同任務のために来た二隻のヴェネターが後方で艇を出す準備をしている。

 

 部隊表示には三つの任務群と、その間を動くテクター三隻があった。修理後の再編で、第35任務群は第3合同任務群司令部の直轄部隊になっている。副司令官となったミラ・ソーン大佐は、艦長職をイレーヌ・ヴェスター大佐へ引き継ぎ、《ヘラルド》からその三隻を動かしていた。旗艦を含む機動予備を彼女に預け、シーアは離れた任務群から届く報告へ目を通した。

 

 ベイラン・スコールは、窓の前で港の写真を見ていた。こめかみにだけ灰色の混じった濃い髪。挨拶を終えると、軍艦の印より先に、港から上がる民間艇の線を指した。

 

「この便は、まだ出るのか」

 

「緊急のものだけです。地上から予定を変えることもあります」

 

「なら、私の降下艇の方を待たせよう」

 

 簡単に言った。その数分を使えば上陸が早まることは、彼も分かっているはずだった。シーアは、港西の砲台へ下りる時刻をベイランへ任せた。

 

 第150空中突撃連隊は《フォワード・ライト》と《セカンド・ホライズン》に分乗していた。同行のクローン・コマンダーはCC-5489、テザーと名乗った。握手の後、まず救難艇の位置を確かめた。ベイランが地上へ降りた後は、彼が艦上で後続の輸送をまとめる。

 

 通信主任のマレナ・セルト大尉が、双方の合意済みの任務表を二人へ回した。この作戦中、二隻の作戦統制は第3合同任務群へ移る。上陸部隊はベイランが指揮する。細部の読み合わせはコルヴェンとテザーが済ませていたが、避難艇を待つ欄だけは、その場で書き足した。

 

「砲台は着地から十八分。遅れたら第二波を止める」

 

「三十分になったら、空で待つ艇は戻します」

 

「分かった」

 

 ベイランが端末を閉じた時、セレナが朝の皿を持って入ってきた。残っていたパンだけを小さな容器へ移してある。

 

「ところで、お姫様。朝食を半分残しましたね」

 

 セルトの指が回線切り替えの上で止まった。索敵席の若い兵が、報告しかけた数字を飲み込んだ。コルヴェンは端末から顔を上げず、鼻の下へ指を当てた。

 

「セレナ」

 

「はい」

 

「あとで話があります」

 

「何時にいたしましょう」

 

「そういう意味じゃない!」

 

 思ったより声が出た。索敵席の兵が肩を揺らし、セルトは急に端末へ顔を近づけた。シーアは首まで熱くなるのを感じた。こんな時だけ、誰もこちらを見ていないふりが上手かった。ベイランまで口元を押さえている。

 

「笑った人」

 

 返事はない。

 

「スコール将軍」

 

「私は何も」

 

「笑いましたよね」

 

「少し」

 

 テザーが窓へ顔を向けた。肩がわずかに動いている。シーアは朝食の容器を受け取り、蓋を開けようとして、まだ留め具を外していないことに気づいた。

 

「笑った人、覚えてますからね」

 

 セルトが端末の表示を切り替えた。速すぎた。今見ていた回線の一覧へすぐ戻したので、シーアはなおさら顔を上げられなくなった。

 

「通信、開いていませんよね」

 

「閉じています」

 

 セルトは今度こそ真顔で答えた。その言い方で、艦橋の数人がとうとう小さく笑った。

 

「昔からの呼び名なのか」

 

 ベイランがセレナへ訊いた。シーアは朝食の容器から顔を上げたが、彼女の返事の方が早かった。

 

「私は三歳の頃から、お姫様とお呼びしていました。巷やコルサントの社交界では、姫王子などと呼ばれていましたね」

 

「君だけ、違う呼び方を?」

 

「私の方が、品のある呼び方ですので」

 

 セレナは澄ました顔で答えた。シーアは、昔の公王宮の廊下でも同じ顔を見上げたことを思い出した。

 

「その時も、そっちの方が悪いって言ったと思う」

 

 ベイランがまた口元を押さえた。

 

「その話は終わり。将軍、地上の地図を」

 

 シーアは容器を脇へ押した。パンが一つ転がり、セレナが拾って戻す。その手まで見ないようにして端末を差し出すと、ベイランは受け取り、ようやく口元から手を離した。

 

 ベイランは受け取った地図を開き、砲台の背後から港へ続く道を指でたどった。

 

「将軍。地上の道が図と違ったら、そちらで変えてください。こちらへ許可を待たなくていい」

 

「君の艇とぶつかる時は、先に知らせる」

 

 それで話が済んだ。ベイランが出ていってから、シーアはようやくパンを食べた。セレナはそれを確かめると、軍務の卓から私信の端末だけを持って部屋を出た。

 

 *

 

C.R.C. 7956.159 《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 当直に入る前、イーノ・ラセル兵曹はセルトから、なぜ第三を希望したのか訊かれた。

 

「救難体制がいいと聞きました。トリトンの戦歴もあります」

 

「ほかには?」

 

 ラセルは少し迷い、周りに誰もいないのを見た。

 

「司令の貌がいいので、という人もいました」

 

「本人には言わないように」

 

 セルトは笑わなかった。そのためかえって、初めて聞いた話ではないと分かった。ラセルは頷き、二人で扉を開けた。司令官の席には、まだ誰もいなかった。

 

 最初の報告を始める前に、ラセルは一度だけ唇を湿らせた。

 

 カルヴィ兵曹長の後任として来てから、初めての実戦だった。自分が読む数字は、上の艦橋でも別の当直が確かめている。それでも、隣のセルトがイヤホンを押さえるたび、何かを読み落としたのではないかと思った。

 

「敵、港上空二。外縁二。外縁の先頭艦――」

 

「距離からでいい、ラセル」

 

 シーアは表示の最初を指した。ラセルはそこへ戻り、今度は数字の後に短い間を置いた。艦橋の声の調子をカルヴィに似せようとしても、自分にはできない。だが一つずつなら読めた。

 

 新造のプロヴォケイターから、通信経路の確認が来た。担当の任務群が切り替えを待ち、出撃は四十秒延びた。司令官から追加の命令は出なかった。セルトは確認の取れた回線を開き、開かなかった回線だけをコルヴェンへ知らせた。

 

 ケレンが当直用の飲み物を置いていった。ラセルの容器だけは蓋が締めてある。

 

「私はまだ、こぼしていません」

 

「だからです。初日から二つ覚えなくてもいいでしょう」

 

 ラセルは礼を言い、両手で容器を持った。画面で第32任務群の航跡が敵へ近づく。次に読む距離を、頭の中で先に声にした。

 

 *

 

ミルダーン軌道、ミュニファスント級《オーバーデュー・クレーム》

 

 Tシリーズ戦術ドロイドは、共和国の艦の総数を再計算した。十四隻。後ろに兵員を乗せたヴェネター級が二隻いる。自分の四隻で正面から撃ち合えば、港を保持できる確率は急速に落ちる。

 

 地上の砲台へ、射撃を延期する命令を送った。

 

「降下艇ヲ通過サセマスカ」

 

 砲術のバトル・ドロイドが首を向けた。戦術ドロイドは、共和国艦と港を結ぶ線の上に照準を置いた。

 

「降下艇ハ第一目標デハナイ。護衛艦ガ砲台ヲ見下ロセル位置ヘ来ルマデ待テ」

 

 西のイオン砲は、採掘場の砲座を奪った後で旋回止めを外されていた。港の防衛隊が送った配置図に、その改修はない。砲塔は一度だけなら図より高い角度へ撃てる。給電機を壊す出力になるが、港を明け渡すなら地上設備を持ち帰る必要はなかった。

 

 ドロイドは哨戒の二隻へ後退を命じ、港の二隻のうち一隻を上げた。《オーバーデュー・クレーム》は港上空へ残す。共和国の砲が三隻を向けば、残る一隻の艦首砲をどこへ向けたかは、すぐには見えなくなる。

 

 *

 

ミルダーン軌道、第32任務群、《ヴァリアント》

 

「ミュニファスント級三隻、上昇。先頭二隻がこちらへ向きます!」

 

 コーヴィンは艦長席から身を起こした。三隻の艦首砲が開く。細い艦首を向けたフリゲートは、逃げている時より小さく見えた。斉射が《ヴァリアント》の前部シールドを白く染め、艦橋の表示が自動で光量を落とす。

 

「《アウクトリタス》と《ディグニタス》、左を取れ。《トライアンフ》は下側の射界を保つ。港へ戻すな」

 

 四隻を敵三隻と同じ高さへ並べず、ヴィクトリー級《トライアンフ》を港の側に残した。降下艇の上を共和国艦で覆う、予定どおりの配置だった。コーヴィンは外側のミュニファスント級を一隻選び、二十二基の砲塔に順番に撃たせた。

 

 地表から青い光が伸びた。

 

「地上イオン砲、発射! 《トライアンフ》へ!」

 

 ヴィクトリー級の艦首で光が広がり、識別の文字が一瞬消えた。機関停止。盾の出力も同時に落ちる。港上空に残っていたミュニファスント級《オーバーデュー・クレーム》が、そこで初めて主砲を撃った。二射が艦尾を貫き、主機の外殻が破れて金属片を撒いた。

 

 コーヴィンは《トライアンフ》の艦長を呼んだ。答えがない。復旧した回線から入ったのは機関室の警報で、最初の報告の半分がそれに潰された。

 

『右舷機関室、減圧。後部配電盤、焼損。姿勢制御は補助に切り替えます』

 

「《ディグニタス》、あの艦と港の間へ。艦首砲を撃たせるな。《アウクトリタス》は私に続け」

 

 《ヴァリアント》を前へ出すと、外側の三隻が艦腹へ砲を集めた。敵も撃つ艦を選んでいる。《トライアンフ》を守るため向きを変えた瞬間、二十二基全部では撃ち返せない側を狙われた。艦橋の床が跳ね、コーヴィンは席の縁を掴んだ。

 

「32から3群司令部。《トライアンフ》航行不能。曳航が要る。こちらの退路を確保してほしい」

 

 司令部が知っていたはずの四隻の封鎖艦と、位置の分かっていた砲台。その組み合わせだけで、一隻が戦列から消えた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 《トライアンフ》の信号が戻る前に、救難艦《カーム・リーチ》から照会が来た。東の待機点を出れば、到着まで十一分。艦長のハナ・ヴェルト少佐は、航行不能艦がその間も姿勢を保てるかと訊いた。

 

『補助動力は七分』

 

 コーヴィンの返答を聞く間にも、ソーンの《ヘラルド》が港側へ動いていた。《ディグニタス》は傷んだ艦から離れず、残るテクターがその外を押さえる。シーアが艦名を読み上げる必要はなかった。

 

 地表からの射線を開くと、古い図ではイオン砲はまだ《トライアンフ》へ届かなかった。セルトが図に警告を付け、ベイランの回線へ送った。返事は短かった。

 

『制御室から止める。第二波はまだ出すな』

 

 ラセルが港から上がる艇を見つけた。予定表にない。地上の管制から、酸素の再循環が止まり、待たせられないと通信が重なる。その先には第一波の降下艇がいる。

 

「避難艇を先に」

 

 シーアは言った。航空管制が二つの航跡を重ね、降下艇を西の採掘場へ回す。ベイランは異議を挟まなかった。艦載機の護衛が先に曲がり、艇が続く。着地は二分遅れた。

 

 シーアは卓へ戻り、冷め始めた茶に触れたが、持ち上げなかった。《トライアンフ》の機関室から届く声は、同じ区画を何度も呼んでいた。

 

 コルヴェンが、その回線を消さずに音量だけ下げた。

 

「こちらの呼出しを聞けるようにします」

 

 シーアは頷いた。前の戦場では自分が床に倒れ、その間を彼らが埋めていた。今は、返事のない艦を待つ側だった。

 

 *

 

ミルダーン、セリオ西方

 

 第一波の降下艇は港の発着場には着かなかった。ベイランが指定したのは、砲台から離れた石の採掘場だった。そこには砲を引き込むための古い軌道が残っている。クローン兵は車両を置かず、採掘場の斜面を登った。

 

 砲台へ通じる道には戦闘ドロイドの歩哨がいた。先遣中隊長のブラケットが手を振り、先頭のクローンが撃った。後ろの二人が倒れたドロイドを道の外へ引いた。目標まであと二百メートルで、ベイランは隊を止めた。

 

 砲台の裏に、港の防衛隊の装甲車が二両隠れていた。共和国の上陸部隊と分からず撃ち合えば、予定の十八分は消える。ベイランは部下の照準を下げさせ、防衛隊の周波数へ短い符号を送った。

 

『セリオ防衛隊、こちらは共和国の上陸部隊だ。あなた方の右手にいる。砲の制御室へ入るので、上の道路を塞いでくれ』

 

『右手? そこには採掘場しかない』

 

『だから通れた』

 

 防衛隊の車両が動き、砲台の正面へ向かう道を塞いだ。ドロイドがそちらへ砲身を振る。その間にベイランの部隊が裏口へ入った。

 

 防衛隊の装甲車が一台、前進をやめた。ベイランは裏口の陰から砲塔の向きを確かめた。もう一台が撃つ間に、車体を路肩へ寄せて倉庫へ戻る道を空けている。防衛隊の回線に、部下へ指示する女性士官の声が入った。

 

『片方だけ下げて。帰り道を塞がないように』

 

 ベイランは背後のクローン兵へ、装甲車の射線を横切らないよう手で示した。屋根の歩哨が車両へ向いたところで、工兵を裏口へ通す。昨日まで遠くから砲台を見ていた人々が、今はこちらの背中を守っていた。

 

 制御室の扉が開いた途端、天井に潜んでいたドロイドの銃口が下を向いた。ベイランは工兵のスプールを肩から引き戻し、ライト・セイバーの刃を伸ばした。黄色に近い橙色、琥珀を思わせる刃が、最初の一射を壁へ弾いた。二射目が来る前にクローンが天井の機械を撃ち落とす。砕けた部品が工兵のヘルメットに当たり、スプールはヘルメットの傷を指でなぞり、それでも制御装置へ爆薬を据えた。

 

「急がせたな」

 

 ベイランが言うと、工兵は起爆器の表示を確かめた。

 

「三分、取り返せます。この傷は装備係に説明してください」

 

「説明はする。新品になるとは約束しない」

 

 スプールは起爆器を持ち直した。後ろでブラケットが笑った。

 

 砲が止まったのは着地から二十一分後だった。予定より三分遅い。着地自体も二分遅れたが、上空の待機の期限にはまだ七分あった。遅れた理由と現在位置を同じ通信で送ると、軌道上のシーアから返事が来た。

 

『第二波を入れます。港上空の艦はまだ残っています。外縁の発着場へ行けますか』

 

『行ける。防衛隊の車両と合流した。こちらの地図より、彼らの道の方が早い』

 

 ベイランは端末を防衛隊の士官へ渡し、倉庫の裏を通る管理道路を示してもらった。士官の顔は煤で黒く、肩章の半分が焼けている。

 

「発着場を取った後は?」

 

 その士官が訊いた。

 

「守れるか」

 

「燃料槽を空にしてからなら。港の倉庫まで退ける道があります」

 

「燃料槽を壊せば、あなた方の船にも使えなくなる。中に人は?」

 

「作業員は倉庫へ退かせました。敵に渡せば、船そのものを使えなくされます」

 

 ベイランは彼女の顔を見た。指揮所からの作戦図には、燃料槽を奪取する印がある。そこへ来る前には、港の人間がどう使うかまでは書かれていなかった。

 

「分かった。爆破は私が命じる。あなたは倉庫への道を開いてくれ」

 

 士官が頷き、装甲車へ戻った。

 

 士官は途中で車両を止めた。二人の作業員が、燃料槽のそばにある連絡管の点検口から出てきたのだ。ベイランの回線へ、起爆を待ってほしいと連絡が入る。

 

『内陸側の作業員でした。全員退いたという報告から漏れています。今、こちらへ乗せます』

 

 ベイランは工兵に手を上げ、給油管から離れたまま待たせた。車両の扉が閉じる。士官から退避完了の信号が届くまで、起爆の許可を出さなかった。

 

 作戦の上では数分の遅れだった。工兵は起爆器を手の中に置き、光る表示がそのまま変わらないのを見ていた。ネヴァンが確認の信号を出すと、工兵は起爆器を押した。敵の補給艇が使う給油管が切れ、槽の一部から炎が上がる。帰ってきた港の船がどれだけ使えるかは、鎮火させてからでなければ分からなかった。

 

 *

 

《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 港上空に残った《オーバーデュー・クレーム》は、外縁の発着場にある燃料槽が燃え始めると市街地の真上から外れた。艦載機を送り、発着場を取り返すためだった。動き出したその艦影を《ヘラルド》が捉えた。

 

『敵艦、市街地上空から離れました。射線の後ろに居住区はありません』

 

 ソーンの報告と同時に、シーアの前の表示に射界が開いた。敵艦は軌道上を移り、共和国側から見て市街地や倉庫を背にしていない。《ハービンジャー》の主砲が狙えるのは艦首の狭い部分だけだったが、二つの任務群がそこへ火を集められる。

 

 市街地を背にしなくなった《オーバーデュー・クレーム》へ、二つの任務群が砲火を重ねた。《アクレイム》が退路を港から遠ざけ、《フォーティチュード》が艦首砲を砕く。敵艦は折れず、炎を引いて上昇した。

 

 その時、ヴェルトから《トライアンフ》の曳航を始めたと届いた。コーヴィンはようやく《ディグニタス》を動かした。死者七、負傷者十九。シーアは人数の後に続く区画名を聞いてから、敵の撤退路へ目を戻した。

 

 シーアは追撃を命じなかった。降下艇がまだ空にいる。港の外を空けたまま、敵艦が出ていく方向に射界を置いた。

 

「外縁の三隻、同じ跳躍点へ向かいます」

 

 報告とともに、船団の予定航路が表示に重なった。敵は自分たちの撤退路を使えば、次に来る共和国の貨物船を迎え撃つ位置にも出られる。ここで四隻を見送れば、三日後の船団護衛が必要になる。追えば、いま空にいる降下艇の背中を敵へ渡す。

 

「追わないで。三日後の船団は、別の跳躍点を使います」

 

 セルトが兵站群へつなぐ。敵の四隻が消えるまでマドックの監視は続いたが、共和国の艦は追わなかった。救難艦の牽引を受ける《トライアンフ》の隣には、まだ一隻を付けておかなければならない。

 

 テザーが《セカンド・ホライズン》から第二波を出した。連隊の後続の輸送艇に続き、水の濾過装置を積んだ貨物艇が港の空いた発着場へ降りる。甲板から機材を下ろす間、防衛隊の士官が艇の側面に手を当てていた。振動を確かめるような仕草だった。

 

 地上から届いたベイランの映像は、外縁の発着場から倉庫へ戻る途中で一度切れた。次につながった時、背後では爆破した燃料槽からはまだ炎が上がっていた。防衛隊が消防車両を出し、クローンの工兵が燃えていない配管を切り離している。

 

 画面の脇から装甲車の士官、ネヴァンが入り、負傷者の運び先を尋ねてきた。戦う前は港の管制にいたという。上陸の前にふたつの艦隊へ同じ航跡を渡し、さっき避難艇を通した本人だった。ベイランは彼女をシーアへ紹介してから、共和国側の医療艇と港の診療所、双方の空きを部下に調べさせた。

 

『砲台から運ばれたあなた方の兵も、ここへ入れます』

 

 ネヴァンが言った。自分の隊の負傷者だけで、診療所の場所を埋めるつもりはないらしい。

 

 医療艇の担当者は到着時刻を示したが、病床の番号だけでは搬送順は決められなかった。砲台で負傷したクローンには、もう数時間動かせない者がいる。港の作業員の一人は歩けるものの、煙を吸っていて呼吸が浅い。ネヴァンは診療所の技師に連絡し、どの区画に清浄な空気を通せるかを聞いた。負傷の重さより先に所属を尋ねたのは、誰もいなかった。

 

『それなら、医療艇から人を降ろそう。搬送できない者をそちらへ押し込むことはしない』

 

 ベイランが答えると、ネヴァンは端末をこちらへ回した。映像の奥で、工兵とクローン衛生兵が空き区画へ機材を運び入れていた。表示に一行、仮設の診療区画が増えた。

 

『降下は終わった』

 

 ベイランから艦隊へ連絡が入った。

 

「こちらはまだ避難艇を一隻、待っています。共同の航空路はその回収が済むまで開けておきます」

 

 シーアは回収予定の時刻を送った。

 

「地上には、いつまで残りますか」

 

『港の防衛線を、ここの士官が自分の部隊で動かせるまでだ。訓練の時刻は、彼女と決める』

 

 シーアは通信の脇へ港の補給表を出した。降ろした濾過装置で、その六日の期限は延びる。食糧は、避難民が増えると十一日も持たない。最初の貨物艇だけでは足りなかった。

 

「次の船団は三日後です。3群から護衛を出します」

 

『こちらの次の目標は、もう届いている』

 

「知っています」

 

 立体映像の向こうでベイランは、医療艇から運んだ器材の箱を壁へ寄せ、通路を空けた。ネヴァンの部下が負傷者を一人運んで来ると、医療区画の担当を呼び、空いた寝台へ案内した。話す間も手は止めなかった。

 

『三日後まで守れるなら、私も動ける』

 

「守るのは僕の艦だけじゃありません。港の人たちが持たせる。その船団を着かせます」

 

 ベイランは頷いた。二人の間で、新しい命令は増えなかった。必要な船団の時刻だけを交換し、回線を切った。

 

 その夜、《トライアンフ》は片側の補助推進器を取り戻した。主機の交換と配電盤の焼けた部分は泊地で直す。牽引ビームを切った後も、外へ逃げた四隻のミュニファスント級が戻れば、単独では防げない状態だった。港を守る艦を一隻残し、損傷艦にも一隻を付ける。シーアの次の任務表から、自由に使える三隻が消えた。

 

 避難艇の収容を終えた《フォワード・ライト》と《セカンド・ホライズン》は、その夜のうちに作戦統制の移管を終了した。地上部隊の指揮はずっとベイランのもとにある。艦の艦長は航法と機関の当直を一度も手放していない。それぞれが始めた時刻と終えた時刻が、二つの司令部の記録に同じように残った。

 

 シーアは新しい船団の航路を確認してから、地上へ開いた回線を見た。港には自分の部隊を置いていかない。ネヴァンたちのための救難と補給を、航路の外から絶やさない。その違いを確かめるために、明後日もまた港へ連絡する。

 

 *

 

《ハービンジャー》、士官食堂

 

 セレナが食堂へ来た時、シーアとベイランは、二つの皿のどちらが辛いかを決めかねていた。

 

「赤い方でしょう」

 

 シーアが言った。

 

「君はもう食べたのか」

 

「まだです」

 

「では、なぜ分かる」

 

 ベイランは白い方を食べ、少し黙った。それから水を取った。シーアはすぐ赤い皿を自分の側へ引いた。

 

「今のは、教えてくれないつもりでしたね」

 

「君は赤い方だと言った」

 

 セレナがケレンを見ると、彼は何も言わず、二人分の水を追加した。食堂の調理員が通りかかり、白い料理は香辛料を途中で足したと説明した。ベイランは礼を言って、そのまま食べ続けた。

 

「将軍。無理をしなくても」

 

「君の副官が残すなと言うので」

 

「あなたには言っていません」

 

 セレナが答えた。今度はシーアが笑った。

 

 ケレンは皿が空く頃を見計らって茶を置いた。ベイランのカップもシーアと同じ形だった。次の仕事の話を始めようとして、シーアは口を閉じた。もう地上へ頼んだことは頼んであり、港の防衛隊との訓練時刻も決まっている。

 

「スコール将軍」

 

「ベイランでいい。ここには二人しか将軍はいない」

 

「僕は提督です」

 

「では、間違いようがない」

 

 シーアはカップを持ち上げた。茶はまだ温かかった。

 

 *

 

C.R.C. 7956.162 ミルダーン、セリオ港

 

 三日目の朝、船団は港へ着いた。

 

 宇宙港の誘導灯はまだ半分しか点かず、防衛隊の管制官が補助の回線から一隻ずつ降ろした。仮設の冷却機が唸る倉庫の前で、あの防衛隊の士官が端末を持ち、到着した荷の数を確かめている。肩章は新しいものに替わっていたが、頬には煤が残っていた。

 

 ベイランと第150空中突撃連隊は夜明け前に出発した。最後の輸送艇に積まれたのは負傷者と、港で直せない銃の部品だった。港に残ったのは防衛隊と、補給物資と、まだ修理の終わらない砲台である。

 

 軌道上では、シーアの合同任務群から出した護衛艦が船団を離れた。次の便まで港に一隻を置く。残る艦は別の航路へ向かう。新しい乗員の多い二隻も、今回は同じ時刻に転針した。

 

 シーアの端末に、地上から受領の連絡が来た。送り主はセリオ防衛隊の士官、イラ・ネヴァンだった。艦隊へ民間船の航跡を渡し、採掘場への道を示し、発着場から兵を退かせた人の名前を、シーアはそこで初めて読んだ。

 

 受領数の下に、短い追記があった。

 

 ――港の管制を再開。明日の便から、こちらで降下の順番を決めます。

 

 シーアはその行をコルヴェンへ見せた。

 

「護衛艦にも送って。こちらからは、新しい便の予定だけを渡す」

 

「了解です」

 

 港の上には、修理中の誘導灯が幾つも残っている。全部が点く前に、艦隊の大半は星系を離れる。下ではネヴァンたちが次の船の順番を決め、その次の夜も灯りを直す。

 

 作戦図から港の戦闘の印が消えた後も、その仕事は続いた。

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