STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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シタデル

 要塞からの脱出!

 

 分離主義者の監獄シタデルへ潜入し、ジェダイ・マスター、イーヴン・ピールとターキンを牢から解放した共和国の潜入隊。だが、脱出艇は破壊され、彼らはロラ・セイユーの地上に取り残された。

 

 救援へ向かうプロ・クーン将軍とコバーン提督のクルーザーは、わずか四隻。軌道には敵の警戒艦、外側の跳躍路からは増援艦隊が迫る。シーア・ヴァラリアン少将の第3合同任務群は、救援隊が戻るための宙域を守れるのか。

 

 地上から人を拾うまで、共和国の艦は退けない――

 

 *

 

C.R.C. 7956.166 共和国グランド・フリート前進泊地、《ハービンジャー》

 

 ミルダーンから帰った時、第3合同任務群の在籍は十四隻、すぐ出撃できる艦は十三隻だった。《トライアンフ》は工作艦へ横付けされ、焼けた配電盤と右舷主機の部品を外されている。七人の乗員を失った区画には、修理班が入る前に艦長が立った。出撃前日、負荷を制限した主機の試験に通り、十四隻の最後の一隻が列へ戻った。

 

 泊地では、その修理の間に四隻分の新しい識別信号が増えていた。

 

 テクター級《プレカーサー》。プロヴォケイター級《コンスタンティア》。追加生産されたヴィクトリー級《コンティニュアンス》。そしてサイブ・ドライブスで損害対処の経路を改めた、第二陣のヴァリアント級《インヴィオレート》。別々に引き渡された四隻が、ここで初めて一列に揃った。

 

「セスウェナへ出た十四隻のうち、二隻が沈みました。残った十二隻に代艦二隻を加えて、ようやく十四隻に戻したところです。今回の四隻は、その上へ加わります」

 

 艦隊の編成担当官は、四つの印をシーアの前へ置いた。《フィデス》《グラヴィタス》の代わりに来た二隻のプロヴォケイターは、ミルダーンで初めて戦列に入った。《アクレイム》《アダマント》《ヴィルトゥス》も、曳航されてから工廠で修理を終え、戻っている。十四隻に戻るまでに、艦は待機と試験を重ねた。今回の四隻はその損失の置き換えではなく、次の任務を引き受けるための増勢だった。

 

 シーアは《インヴィオレート》の艦内図を開いた。《アダマント》で人が行けなかった冷却区画には二本目の通路がある。自動消火が止まった時のため、消火班の定員も増えていた。

 

「通路の幅は」

 

「担架と消火装備を持った二人が、すれ違えるようにしています」

 

「図だけではなく、艦内で歩いた記録をください」

 

 担当官が記録を開いた。サイブの工廠で乗員が消火装置を止め、隔壁を閉じて走った時刻が、区画ごとに並んでいる。最初の試行では、第十二主砲の裏で二人がすれ違えず、そこだけ通路をさらに広げていた。

 

「これなら、コーヴィン大佐にも見せられる」

 

 シーアは配属の線を引いた。改修型の《インヴィオレート》はコーヴィンの第32任務群へ。ヴィクトリー級《コンティニュアンス》はマドックの第33任務群へ。プロヴォケイター級《コンスタンティア》は第34任務群へ。テクター級《プレカーサー》は司令部直轄の第35任務群へ入り、三隻だった機動予備を四隻にする。運用を引き受けるのは副司令官のソーンだった。

 

「十八隻です」

 

 編成担当官が言った。

 

 ソーンから届いた訓練記録では、《プレカーサー》はまだ交代に半拍遅れていた。艦長のオーレン・ダス大佐は、その遅れを新しい乗員のせいにしなかった。自分が間隔を取り直した箇所を、最初の頁へ記している。コーヴィンの方からは、《インヴィオレート》と交互に撃つ試験の結果が来た。シーアは二人へ、次の試行を任せた。

 

 外では新しいテクターが、少し離れた三隻へ近づいていた。《ハービンジャー》の傷を知らない乗員が、その艦にも乗っている。シーアは十八の印を保存した。新しい艦を、次の会戦までに任務群の艦にする仕事が始まった。

 

 *

 

C.R.C. 7956.171 集結宙域、《ハービンジャー》

 

 最初の通信には、帰投時刻がなかった。

 

 脱出艇、喪失。潜入隊はロラ・セイユーの地上に残留。負傷者あり。末尾には、クローン兵エコーを消息不明とする欄があった。シーアはその名前を読み、救出に向かう四隻の位置を確かめた。

 

 議長の機密任務でピールの艦を預かっていたターキンも、地上にいる。政府側の彼が大佐待遇で艦長を務めたのは、その任務の期間だけだった。コルサントで同じ卓を囲んだ時には、次にその名を捕虜の欄で読むとは思わなかった。

 

 コバーンの四隻は出撃準備を終えていた。救出と収容はプロ・クーン、四隻の指揮はコバーンが執る。ホーンが第3合同任務群へ渡した任務は、その外側の敵を拘束し、四隻が戻る道を残すことだった。

 

「分かりやすい命令だ」

 

「回収終了時刻が分かれば、もっと分かりやすくなります」

 

 コルヴェンが言った。シーアは頷き、ラセルの報告を待った。ミュニファスント級三隻、レキューザント級四隻。今日は艦種を読むたび、一拍置いている。セルトはその間に各任務群からの確認を取った。

 

 《フォワード・ライト》のベイランは、二隻のヴェネターを後方の医療・輸送予備へ置いていた。

 

『四隻から人を受け取れる場所を決めておく。そこまでなら約束できる』

 

「こちらは、その場所まで戻れるようにします」

 

 どちらも、地上から全員を連れ出せるとは言わなかった。

 

 出撃の灯りが点く頃には、三つの任務群はそれぞれの跳躍点へ向かっていた。コーヴィンは敵の通信を、マドックは外側の跳躍路を、ヘイグは救出隊が通る宙域を受け持つ。四隻のテクターは、その間を動く予備だった。シーアが出撃を承認すると、コルヴェンは艦を進めた。

 

 *

 

ロラ・セイユー星系外縁、銀河平面座標 R-6、パーレミアン交易ルート西側の接続航路

 

 監獄のある星は、まだ見えなかった。

 

 星系の外で、七隻の連合艦が二つの塊に分かれていた。三隻が既知の跳躍点を監視し、四隻が星系の内側へ通じる線の上を巡回する。巡回の艦と跳躍点の艦は、互いの射撃を支えられないほど離れている。互いの通信はつながっていた。

 

 シーアは、先頭の赤い印だけを見て突っ込む気になれなかった。内側からさらに出てくる艦の距離は分からない。敵の前衛の数から後ろの主力の距離を決めない――トリトンの詳報で自分たちが書いたことだった。

 

「後ろを見ている艦は」

 

「《エンヴォイ》が連合の内側と、跳躍点の方位を監視しています。射撃には参加しません」

 

 ソーンからの報告が入った。《ヘラルド》は直轄部隊の残り三隻と間隔を取り、先頭の敵がどちらへ動くかを見ている。

 

「32、巡回の四隻へ。通信のある先頭艦を、星系の内側へ戻さないでください。33は跳躍点の三隻を引き受ける。34は今は撃たなくていい」

 

 四隻へ帰路を開けておく艦は、最初から全部を敵へ向けない。コーヴィンが二十二基の砲塔の射撃順を報告してきた。狙うのは艦体そのものだけでなく、先頭のミュニファスント級の通信塔を覆う宙域だった。

 

「敵、こちらを認識。前衛の四隻、横へ広がります」

 

 相手は数が少ない。共和国側が力で押してくると思えば、距離を取って報告を続ける。距離を取る方向が、コバーンの四隻が来る道と重なった。

 

「回り込ませない。32、前進」

 

 《ヴァリアント》が先に撃った。艦首から艦尾へ砲塔が順に光り、四隻の退く先に絶え間ない射撃が置かれる。《インヴィオレート》はその一巡を待ってから反対側へ撃った。《ヴァリアント》が給電を落とすと、《インヴィオレート》の砲火が続いた。コーヴィンは二隻の冷却表示を確かめ、次の交代を待つ。敵は大きく回頭し、通信塔を守るように上部を隠した。その動きで、内側への進路から少し外れた。

 

 コーヴィンが自分の艦だけを追わせない。任務群のプロヴォケイター級二隻を片方ずつ出し、ヴィクトリー級《トライアンフ》を後ろに置く。敵の先頭艦は右へ逃げようとし、次の斉射の前で向きを変えた。

 

「《ヴァリアント》、撃ちかけの斉射を切ります。射撃宙域変換」

 

 コーヴィンの声が届いた。トリトンで四十秒を失った手順が、今は途中の目標処理を捨てて次の命令へ移っている。艦の回頭が終わる前に、ヴィクトリーが空いた射界へ出た。

 

 横へ逃げたレキューザント級《コールド・バランス》は、後続の味方から切り離された。艦首の火が消え、推進が不規則に揺れる。撃沈の確認を求める報告に、シーアは首を横に振った。

 

「戦列から出た。先へ」

 

 コーヴィンが了解を返す。四隻を全部沈める間に、星系の内側は塞がる。第32任務群は敵の前を横切り、通信を中継していたミュニファスント級へ射撃を移した。

 

 *

 

ロラ・セイユー外縁、第33任務群、《アダマント》

 

「ミュニファスント級二、レキューザント級一。三隻とも後退します」

 

 マドックは三隻の後ろを見た。レキューザント級《レッド・リポスト》だけが推進炎を弱め、二隻のミュニファスント級から離れていく。損傷したように見えるが、撃たれた場所から破片は出ていなかった。

 

「《ヴェリタス》、追い越すな。こちらと同じ速力を保て」

 

 自分が長く乗ったプロヴォケイター級は、《アダマント》の外側にいた。内側に《ヴィルトゥス》、後ろには増勢の《コンティニュアンス》。四隻の配置が揃ったところで、敵のミュニファスント級二隻がこちらへ艦首を向け直した。

 

 最初の斉射は《アダマント》に来た。前部砲塔の外殻が砕け、冷却管の圧力が落ちる。マドックの席の下で何かが外れた音がした。

 

『第二通路、通行可能。消火班が到着。隔壁の向こうへも回れます』

 

 人が行けた。だが砲塔の操作室にいた者が全員生きているという報告ではなかった。マドックは火力を半分に落とし、冷却系の隔離を命じた。

 

「《コンティニュアンス》、前へ。《ヴェリタス》は距離を広げろ。二隻で一つの照準を使わせるな」

 

 その回頭を敵は待っていた。

 

 推進を絞っていた《レッド・リポスト》が姿勢を変え、長い船体の陰から発射光を連ねた。撃たずに通過する共和国艦の側面へ、照準が揃っていた。ミュニファスント級の二隻も《アダマント》への射撃を切り、同じプロヴォケイターへ砲を向ける。

 

「《ヴェリタス》、艦首を敵へ戻せ!」

 

 遅かった。転針中の艦腹へ三方向から砲火が入り、盾が消えた。艦中央の甲板が内側から持ち上がる。左右へ割れた装甲の間に白い火が噴き、艦尾の推進炎だけが一拍長く残った。

 

 マドックには最初、艦が二つに割れたようには見えなかった。表示が片側の位置を更新し損ねたのだと思った。艦橋の通信士が同じ艦名を繰り返し呼ぶ。三度目にも返事はなかった。

 

「《ヴェリタス》から退艦信号。脱出艇、六……いえ、九。艦尾にも反応があります」

 

 マドックは艦長席の肘掛けを離した。手袋の掌に縫い目が食い込んでいた。

 

「《ヴィルトゥス》、レキューザントを撃て。《コンティニュアンス》は脱出艇の側へ射界を残す。救難は合同任務群司令部へ要請する」

 

 《アダマント》で急に突っ込めば、残る二隻を同じ三隻の砲火の前に置く。彼は前部の使える砲だけを選び、《ヴィルトゥス》に目標の更新を送った。二隻の斉射が《レッド・リポスト》の細い中央部へ揃った。主機の火が消え、艦首と艦尾が別の向きへ流れ始めた。

 

 隣の通信士が、まだ《ヴェリタス》を呼んでいる。

 

「生きている艇へ呼びかけろ。艦への回線は別の者が聞く」

 

 シーアから、直轄の35を支援に出すと伝えられた。《ヘラルド》が二隻のミュニファスント級の前へ出る頃、《ヴェリタス》の艦首は回収点から遠ざかり始めていた。《ヘラルド》は二隻のうち一隻の機関部を焼き、もう一隻を外へ押し戻した。主機を失ったミュニファスント級も、まだ砲は使えた。

 

 *

 

星系外側、プロヴィデンス級《ラスト・クレーム》

 

 戦術ドロイドK-47は、警戒線の《レッド・リポスト》を一覧から除外した。撃沈される前に送られた最後の映像で、共和国のプロヴォケイター級の爆発を確認する。

 

「共和国、十七隻。医療・救難用ノ艇ガ戦闘区域ヘ進入」

 

 バトル・ドロイドが報告した。K-47は、救難艇のために開いた射界を拡大した。共和国艦隊は小さな艇が通るたびに砲を止める。戦列の後方には、別の四隻が内側へ向かっていた。あの四隻が帰る時にも、同じことをするはずだった。

 

「第二ノ攻撃ヲ準備。帰還時ノ射撃停止ヲ待テ」

 

 警戒線の味方を一隻失った。まだ四隻が進路を変えられ、二隻は止まっても砲が使える。K-47は航行不能の《コールド・バランス》へ、推進器を直す作業を中止させた。非常電源を砲の給電と照準へ回す。共和国が残骸と区別しにくい姿勢を選び、その艦に待たせた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 跳躍点のミュニファスント級一隻が後退し、もう一隻が航行を止めた時、シーアの前には《ヴェリタス》の脱出艇が表示されていた。共和国の艦は十七隻になった。まだ三隻分の持ち場を守る第33任務群へ、四隻だった時と同じ命令を出すことはできない。

 

 マドックは生存者の回収を始め、残る三隻を帰還路の外へ戻していた。《アダマント》では死者四、負傷者九。前部砲塔は一基使えないが、艦はまだ四時間走れるという。

 

 星図の上に、敵の跳躍反応が一つ増えた。次いで三つ。別の方位から四つ。早すぎる。

 

「増援です」

 

 ラセルは数を読み終えてから、艦種を一つずつ確認した。

 

 プロヴィデンス級二隻。ミュニファスント級六隻。後ろにレキューザント級三隻。十一隻の印が、先ほど敵のミュニファスント級が退いた方位に連なった。外縁の警戒隊にも、航行不能艦を含めて六隻が残る。敵は味方の警戒艦ごと押してくるつもりだった。

 

 コルヴェンがシーアの方を見た。

 

「コバーンの四隻は、今から戻しても間に合います」

 

「戻したら地上の人は?」

 

「残ります」

 

 どちらも知っている。問い返すことが無駄だとは思わなかった。コルヴェンは撤退を選べる最後の時刻を言ったのだ。

 

「星系の内側へ行く四隻には、外の増援をこちらが拘束すると送って」

 

「何時間ですか」

 

「回収が終わるまで」

 

「数字にしてください」

 

 コルヴェンの言い方は、トリトンの後でホーンが書かせた詳報と同じだった。どれだけ持つかを数えずに人を戦わせるな。

 

「現時点で四時間。敵の二回目の増援が来れば短くなる。弾薬と熱の更新を二十分ごとに送ります」

 

 コルヴェンがそれをセルトへ渡した。コバーンの四隻には、約束できる時間だけを送る。四時間より長く必要になった時には、もう一度決め直す。

 

 十一隻の増援は、跳躍から戻った艦を立て直す間を取らず、すぐに共和国側へ進んできた。先頭のプロヴィデンス級《ラスト・クレーム》から艦載機が散る。船体はまだ遠い。艦載機の方が速く、共和国の前衛へ先に着く。

 

 四隻のテクターが敵の先頭へ近づいた。その間にコバーンが内側へ入る。セルトは二つの回線を混ぜず、通過時刻だけを交換した。

 

 ケレンが置いた食事には、まだ覆いが掛かっていた。セレナは皿へ伸ばしかけた手を止め、コルヴェンが次の確認を終えるのを待った。それからシーアの前に小さなパンを一つ置いた。

 

「座ったままで食べられます」

 

「では、これを先に」

 

 シーアはパンを取り、セレナが皿の覆いを外す間に半分を食べた。コルヴェンの報告が続く。残りを持った手で表示を送ろうとすると、セレナが端末を引き寄せてくれたので、口にあるものを飲み込んでから、見たい箇所を伝えた。

 

 *

 

《フォワード・ライト》、格納区画

 

 テザーが来た時、スプールは外した座席に座っていた。

 

「運べ」

 

「いま、取り外しを確認しています」

 

「確認は終わった」

 

 工兵が立つと、隣のリブ軍曹が座席の反対側を持った。二人は声を合わせずに持ち上げ、扉の幅で引っ掛かった。ベイランが端を少し傾けると通った。

 

「将軍。最初からお願いします」

 

「君は座り心地を確かめていた」

 

 スプールは座席の脚を床へ下ろし、ミルダーンで付いたヘルメットの傷を撫でた。新しいものはまだ来ていない。ブラケット大尉が横を通り、傷の場所はもう覚えたから交換すると見失うと言った。

 

 艇の中では、操縦士のチョックとスキッドが担架の固定を確かめていた。同じ部隊に二人いると、どちらの呼び名を先に聞いても車輪を探したくなる。リブがそう言うと、チョックは自分たちの艇には車輪がないと真面目に答えた。

 

「だから探すんだ」

 

 スキッドが言い、二人で笑った。テザーは出発表の二人の名前へ確認を付けた。

 

「地上へ降りるんですか」

 

「まだだ。帰ってくる四隻から人を受け取る」

 

 ブラケットの兵は装備を着けたまま待っていた。ベイランは担架を最後列へ押し込み、その隣を空けさせた。

 

「人数がまだ分からない」

 

 テザーが言った。

 

「空いている場所は、何人来ても使える」

 

 戦況図では共和国の正面に十一隻が増えていた。地上へ連隊を送れば、ここで負傷者を運ぶ艇と、その護衛を取ることになる。

 

「出さなくていい。いま、要るのは帰りの便だ」

 

 テザーは待機位置を後ろへ変えた。ブラケットは兵へ装備を脱がせ、空いた床へ座らせた。リブは食べかけの携帯食を取り出したが、スプールが手を伸ばすより早く、反対の手へ持ち替えた。

 

 *

 

ロラ・セイユー星系外縁

 

 コバーンの四隻が内側へ抜ける間、コーヴィンは味方の通路を横切る砲線を消した。敵の通信艦はその空白で速度を上げ、マドックの射界へ入った。上部構造が割れ、信号が途絶える。

 

 外縁の七隻は二隻を失い、二隻が航行不能になった。残る三隻が新着の十一隻へ合流する。共和国側でもヘイグのプロヴォケイターが左推進器を傷め、後ろへ下がっていた。十五分後に出力を一部取り戻しても、ヘイグは前へ戻さなかった。

 

 二時間目、《ラスト・クレーム》の隣のプロヴィデンス級が短距離跳躍で側面へ回った。先に向きを読んだ《エンヴォイ》をシーアは第33任務群へ貸し、敵の出現場所を押さえた。ソーンの手元に残るテクターは三隻になる。《プレカーサー》は交代に半拍遅れ、ダス艦長が自分で間隔を修正した。

 

 その遅れが埋まる前に、別の方位から五隻が来た。ミュニファスント級三隻、レキューザント級二隻。コーヴィンは《インヴィオレート》を前へ出し、火力を受ける艦を替えた。損傷した艦の位置と残り時間は、それぞれの任務群から届く。シーアが新しく引く線は、なくなりつつあった。

 

 セルトはコバーンへの問い合せを用意し、返事を待つ通信を一つずつ消した。地上の回収点が変わり、予定時刻が消える。次の回線が開くまで、シーアは冷めた茶を一口飲んだ。舌に渋みだけが残った。

 

 ヘイグは、停止した《コールド・バランス》の砲がまだ使えると報告していた。破片の陰に残る敵艦へ二基を向けたまま、近づくミュニファスント級を受ける。その前を四隻に通ってもらうほかはなかった。

 

 「収容開始」が届いた時、救出隊の出撃から三時間余りが経っていた。シーアは人数を訊かなかった。最終艇の確認を待ち、帰りの線だけを送った。

 

 *

 

ロラ・セイユー星系外縁、《ハービンジャー》

 

「回収完了。四隻、帰路に入ります」

 

 報告と同時に、シーアは前進の命令を止めた。敵の第二陣まで撃ちに行く必要がなくなった。次は、四隻を通した後で、自分たちが下がる。

 

 《エンヴォイ》が戻り、四隻に戻った直轄部隊が最後の通過を覆った。《ヴァリアント》は撃ちかけの斉射を捨てて向きを変える。コバーンの被弾艦は機関を止められず、コーヴィンが通過点をずらした。セルトが新しい位置を送ると、返事の直後に四隻の航跡が重なった。

 

 コバーンの艦隊が横を抜けた。

 

 《アウクトリタス》が味方の通過に合わせて砲を止めた瞬間、航行不能の《コールド・バランス》が撃った。停まった艦の主砲だけが生きていた。ヘイグの砲もほぼ同時に火を噴いたが、先に放たれた光を消すことはできない。

 

 プロヴォケイター級の機関部に二発が入り、右舷の主機が船体から剥がれた。艦は砲撃で回され、出たばかりの救難艇の前へ巨大な艦尾を向ける。

 

『《アウクトリタス》、主推進喪失。補助推進、生きています。後部区画、応答なし』

 

 コーヴィンは《ディグニタス》へ傷んだ艦の外側を守らせ、自艦の最後の斉射を《コールド・バランス》へ向けた。《アクレイム》の砲と重なり、止まった敵艦が中央から裂けた。撃沈した時には、相手の仕事は終わっていた。

 

「跳躍装置は」

 

『生きています。姿勢を戻すまで六分』

 

 シーアが撤退表の順番を変えた。回収後すぐに帰れるはずの第32任務群が、今度は自分の一隻を待つ。

 

「コーヴィン、六分を確保します。35はその間を受けて。34は追ってくるミュニファスント級を止めてください」

 

 ソーンのテクターが再び転針した。すでに跳躍準備へ移した出力を戻し、傷んだ盾で敵の追撃を受ける。後退の号令は正しく出ていた。それでも、艦はまだ帰れなかった。

 

 プロ・クーンの艦からは、負傷者を載せた艇が二隻、《フォワード・ライト》へ向かう。そこにはテザーのクローン兵と、外した座席の代わりに置いた担架が待っている。

 

 続けて《カーム・リーチ》が、被弾したクルーザーの側へ寄った。医療員と消火の班を送り、残る一隻の救難艦は外に残す。二隻を同じ艦に付ければ、次に救難が必要になった時に手がない。

 

「生存艦、星系外縁を通過。《アウクトリタス》も姿勢を回復」

 

 コルヴェンの声で、シーアは撤退の号令を出した。任務群の指揮官が順番に各艦を動かす。敵が一度、最後尾の《エンヴォイ》へ集中した。ソーンの《ヘラルド》がその側へ残り、《ハービンジャー》もすぐには跳ばない。

 

 ラセルが敵の旗艦の向きを読んだ。まだ追う姿勢ではない。前へ出た連合の五隻は、共和国の戦列が全部消えてからなら追える。それまでにシーアは最後尾を帰す。

 

「《エンヴォイ》、離脱。ソーンも続いて」

 

『司令官の艦が最後ですか』

 

「あと一分」

 

 その一分は、敵へ見せるために残す時間だった。《ヘラルド》が消えた後も《ハービンジャー》の主砲は撃っていた。艦橋の下でシーアは跳躍の時刻を見た。敵の次の斉射が届く前に、主砲を止め、推進を跳躍へ回す。

 

 窓の外から、赤い星が消えた。

 

 *

 

C.R.C. 7956.172 帰投航路、中継点

 

 救出隊の四隻と、第3合同任務群の生き残った十七隻は、同じ時刻には着かなかった。《アウクトリタス》は短い跳躍を繰り返し、最後に補助推進だけで中継点へ入った。

 

 先に着いた《ストレイト・ライン》は燃料の積み替えを始め、後から来る艦のために船腹の口を空けた。救難艦は一隻が負傷者を《フォワード・ライト》へ移し、もう一隻が損傷艦を待つ。後方から敵が追ってくれば、ここも戦場になる。警戒を解く命令はまだ出ていなかった。

 

 シーアがコバーンと話せたのは、生存艦の到着を確認した後だった。

 

『外の線を三時間余り、持ってもらいました』

 

「四隻の帰投を確認しました」

 

『ピール将軍は連れ帰れなかった。そちらのプロヴォケイターは』

 

「《ヴェリタス》です。沈みました。いま、艇を降ろした先ごとに生存者の名を照合しています」

 

 コバーンはしばらく黙っていた。それから、四隻の医療区画でまだ受け入れられる人数を知らせた。シーアは礼を言い、テザーへその数字を送った。

 

 回線が切れた。《ヴェリタス》の回収艇から、マドックが艦長を務めていた頃の副官、レナード・メイ中尉が降りてきた。艦長は最後まで艦に残ったという。照合の終わった生存者は八十三人。まだ別の医療艦へ移された者がいる。死亡と行方不明の欄は、その確認が終わるまで分けておく。

 

 《アウクトリタス》では死者十八、負傷者四十一。艦尾を造り直す必要があり、次の出撃には戻せない。《アダマント》の前部砲塔と、第34任務群の推進器を傷めた一隻は前進泊地で直す。《ヴェリタス》の代艦は未定だった。

 

 十八隻で出た艦隊から、次に使える艦は十六隻へ減った。増勢の四隻を受け取ってから、まだ一つ目の作戦だった。

 

 星図には、まだロラ・セイユーの敵艦が残る。監獄も残る。共和国はあの星系を取ったわけではない。

 

 ただ、四隻が人を乗せて帰るまで、外側の敵を通さなかった。地上から連れ出せた人の数は、その時間の長さで決まった。

 

 マドックからメイへ通話が入った。中尉は壁へ背を付け、画面の中の元艦長を見た。

 

『怪我は』

 

「腕だけです。骨は折れていません」

 

『艦長は。別の艇へ移っていないか』

 

「最後に見た時は、艦に残っていました」

 

『その後だ。ほかの医療艦の方は』

 

「まだ照合しています」

 

 マドックの目が、画面の脇へ動いた。中尉からも見える場所に、別の受入先の一覧があるらしかった。

 

『次の便には』

 

「分かりません」

 

 中尉の返事が強くなった。傷めた腕を胸へ寄せ、顔を伏せる。

 

「自分だけ先に艇へ乗れと言われました。最後に見たのは、その時です。さっきも、報告しました」

 

 マドックは口を開きかけた。もう一度訊けば別の答えが来るわけではない。分かっていたはずなのに、指は次の受入先を選んでいた。

 

『……腕を、診てもらえ』

 

 中尉はまだ敬礼を解いていなかった。画面のマドックが先に手を下ろし、ようやく彼も下ろした。通話が終わった後も、マドックの端末には生存者の一覧が残った。彼は名簿の先頭へ戻り、もう読んだ名前を読み始めた。

 

 *

 

中継点、《ハービンジャー》

 

 ターキンが渡ってきたのは、補給と負傷者の移送が重なる短い時間だった。救出隊は首都へ向かう準備を続けている。彼も診察の結果を受け取れば戻る。セレナは医療区画と話し、面会を長く取らなかった。

 

 扉の前で会ったターキンは、借りた上着を着ていた。袖が少し余り、手首に擦過傷がある。シーアの敬礼に応じる時だけ、その皮膚が引かれた。

 

「椅子を使ってください」

 

「歩ける」

 

「僕も座ります」

 

 シーアが先に腰を下ろすと、ターキンも向かいへ座った。ケレンが水を置いた。茶に替えるか訊いたが、ターキンは水でよいと答え、半分ほど飲んだ。

 

 机の端には、各艦の医療区画へ渡した収容表が残っていた。氏名の分からない者にも寝台は割り当ててある。ターキンは人数を読み、それから通信の表示へ目を向けた。コーヴィンが工作艦との接触時刻を更新している。シーアはその報告を受け取ったが、新しい命令は出さなかった。

 

「敵を追わなかったのか」

 

「帰ってくる四隻がありましたから」

 

「そうか」

 

 ターキンは水をもう一口飲んだ。コルサントの食卓で聞いた言葉を、ここで繰り返しはしなかった。艦外からまた連絡が入り、セルトが片づけた。扉の向こうでは医療員が担架を押していく。

 

「ピール将軍は」

 

 シーアが言いかけると、ターキンは顔を上げた。

 

「戻らなかった」

 

 その後に説明は続かなかった。シーアも、機密任務の内容を訊かなかった。ターキンの持つ端末は閉じたままだった。

 

 セレナが診察終了の連絡と帰りの艇の時刻を伝えた。ターキンは上着を整え、立ち上がった。シーアも立つ。

 

「閣下。エレナへ、生還されたことだけ伝えてもよろしいですか」

 

 ターキンは扉の手前で止まった。

 

「私から送る。君からも、会ったと言っておいてくれ」

 

「はい」

 

 出ていく背中には、いつもの速さが戻っていた。だが角を曲がる時、手が一度だけ壁へ触れた。シーアは見なかったふりをし、扉が閉じてから私信の端末を開いた。

 

 無事に会いました。

 

 まず、それだけを書いた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、司令官室

 

 ベイランが来た時、シーアは送信済みの私信をもう一度読んでいた。

 

「寝台が埋まった。まだ空いている場所もある」

 

「足りていますか」

 

「今は」

 

 ベイランは椅子を引き、自分で座った。初めて来た時のように、呼ばれるのを待たなかった。セレナは二人分の食事を持ってきて、短い面会の予定を翌日へ移したと言った。

 

「軍務のものは動かしていません。食事の間に挨拶をしたいという人だけです」

 

「挨拶なら、食べながらでも」

 

「あなたはその間、食べません」

 

 ベイランが頷いた。シーアは彼の皿を指した。

 

「今日は白い方も辛くありません」

 

「確かめたのか」

 

「今度は」

 

 ケレンが新しい茶を置いた。戦闘指揮所に残したカップは片づけてきたという。湯気とともに立つ香りへ、ベイランが顔を寄せた。

 

 ベイランは食事の途中、地上へ行かなかった兵たちが、帰還者の装備を外して寝かせていたと話した。誰も降下命令を催促しなかった。艇に乗ってきた者が次々に担架へ移されるのを見れば、自分たちの場所は分かった。

 

「外で待つ方も、長かっただろう」

 

「長かったです」

 

 シーアは、それ以上うまく言えなかった。ベイランは先を促さず、パンを二つに割って片方を渡した。二人とも、食べ終わるまで次の作戦の話をしなかった。

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