STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
王の死!
モン・カラの王ヨス・コリーナが暗殺された。王位を継ぐ若いリー=チャーを、海を分かち合ってきたクオレンたちは認めようとしない。調停のため共和国から派遣されたパドメ・アミダラ議員とアナキン・スカイウォーカー将軍は、分離主義者がすでに一方の勢力を支えていることを知る。
海の底で戦いが始まる時、惑星の外でも艦隊が動いていた。シーア・ヴァラリアン少将の第3合同任務群には、砲を向けてよい船と、帰すべき船を見分ける時間さえない。
王子を守る戦いと、星系へ来る船を止める戦い。その間には、深い水がある――
*
C.R.C. 7956.196 モン・カラ星系、銀河平面座標 U-6、タイダル・サーキット/オーヴェリック・グリップリンク、外縁航路管制点
船の登録を読むだけなら、ナリ・ヴォスは誰より速かった。
民間の航路管制を十二年やっている。荷主の登録、乗員の数、跳躍前の燃料、次の港で荷を下ろす順番。書類の欄を見れば、正直に書いていない船もたいてい分かった。分離主義同盟の艦隊が星系へ来る前なら、分かったところで港の検査官へ送って済んでいた。
今は検査官の回線が二つあった。一つはモン・カラマリの港務局へ、もう一つはクオレンの港湾評議会へつながる。どちらに送っても、船が出るまでに同じ答えが戻るとは限らない。
「次、上昇三番。乗員八十六、荷は冷凍機材」
隣の管制員が読んだ。星図では海面の発着施設から一隻が上がってくる。船籍はクオレンの造船会社。船の後ろには、さらに二隻の印が続いた。
「行き先は」
「中継点を通ってセクター外。航路の申請は三日前です」
船の信号は正常だった。ただし、申請した時には、その港で両種族の労働者が同じ当直表を使っていた。今朝から表は二つに分けられ、片方の検査官が姿を見せない。
ナリは上昇する船へ、積荷の封印を確かめるため外側の管制点で減速するよう伝えた。返答はすぐ来た。
『減速はできる。検査に来るのが共和国の軍艦なら、貨物扉は開けない』
「共和国の軍艦はまだ来ていません」
それは本当だった。共和国から調停団とジェダイの部隊が来ていることは知っている。艦隊の到着予定は管制室へ知らされていない。ナリは自分の表示の上で、船の位置を保留にした。
「向こうの港にも、こちらの港にも、同じ通知を出して」
「両方から違う返事が来たら?」
「違うまま表示に残す。どちらかの返事で、船の中身が変わるわけじゃない」
管制員が二つの回線へ同じ検査通知を送った。やがて、ひとつの回線が先に点いた。クオレン側から、出航を妨げるなという短い命令だった。もう一方には応答がない。
その時、星系の縁に新しい識別信号が現れた。共和国グランド・フリート、第3合同任務群。十六隻は四組に分かれ、別々の宙域で跳躍を抜けた。管制点に近づく組、外の跳躍路へ向かう組、海面からの上昇路を受け持つ組。まだ一隻も砲を向けていない。ナリは止めていた貨物船の船長に言った。
「軍艦が来ました。私の検査の順番は変えません。あなたの順番が来るまで、そこにいて」
船長はしばらく黙っていた。船の速度が、ほんの少しだけ落ちた。
*
モン・カラ星系外縁、《ハービンジャー》
《ヴェリタス》の空欄と、修理中の《アウクトリタス》を除いた十六隻は、すでにそれぞれの持ち場にいた。管制点にはマドックの三隻。外側の跳躍路にコーヴィンの四隻。上昇路にはヘイグの五隻。その間を動く四隻のテクターは、ソーンが預かる司令部直轄の第35任務群だった。
アミダラ議員からの通信を、セルトは私信の通知と入れ替えた。シーアはエレナの名を端末の隅へ残し、正面の映像へ向き直った。
『共和国の艦がクオレンの上昇路に入ったと聞きました』
「三隻を検査のために止めています。上昇路そのものは空いています」
『クオレンの代表は、それを封鎖だと言っています』
アミダラの背後で人が走った。彼女はそちらを一度見たが、会話を切らなかった。シーアは検査位置と、船長に渡した待機経路を開いた。来た道へ戻る線も、共和国の警戒範囲に入っていた。
「コーヴィン大佐。民間船がこちらの砲の前を通らずに戻れるよう、範囲を外へずらしてください」
返答を待ってから、シーアはアミダラへ向き直った。
「船籍では止めません。荷と乗員で判断します。検査記録も、向こうの管制へ返します」
『同じ言葉でクオレン側にも伝えてください。私が言うだけでは、信用されません』
「議員からの説明でも?」
『私は王子を支えるためにここにいます。その私を信用するかどうかも、彼らが決めることです』
シーアは、届いていた三つの通告を見た。王の暗殺を知らせる宮廷。支援を求める防衛隊。介入を認めないクオレン港湾評議会。どれも同じ惑星の名を使っている。
「では、評議会がこちらへ拒否を返しても、それだけでは敵にしない」
『ええ。王子を認めない人と、分離主義者の兵を運ぶ人を、一緒にしないでほしいのです』
「後者なら、止めます」
『もちろんです。ただ、止めた理由を、止められた側にも残してください』
シーアはセルトへ検査記録の送信先を渡した。議員に頷いてみせることより、向こうの管制官が実際に読める記録を作る方が先だった。
映像の外からスカイウォーカー将軍が彼女を呼んだ。アミダラは短く応じ、まだ回線を切らなかった。
『戦いになるかもしれません』
「外にはもう六隻来ています。プロヴィデンス級一、レキューザント級二、ミュニファスント級三」
『こちらでいう戦いは、同じ海に住む者同士の話です』
シーアは青い球へ目を戻した。砲で届く相手の印だけなら六つだった。その下では、昨日まで同じ港を使った人間が、別々の側へ立とうとしている。
「海中のことは、そちらから教えてください」
『こちらにも、外で起きたことを。悪い知らせでも』
通信が切れた後、セレナが私信の端末を差し出した。返事を書く時間はまだあった。シーアは短い文面を読んだが、最初の一行を二度読んでから、ようやく意味を取った。
「返事は後でもいいと思います」
「後にすると、忘れる」
「私が覚えています」
セレナは端末を閉じず、彼の手元へ置いた。シーアはもう一度読み、今度は小さく笑った。劇場の照明がまた一つ壊れたらしい。戦場から直しに行けない故障の話が、少し嬉しかった。
*
モン・カラ、王都の連絡区画
海の中から見上げる艦は、どんなに大きくても光の点だった。
王都と外の艦隊をつないでいるのは、海面の通信標識である。モン・カラマリの管制士官レマ・ケルは、王都の回線から受け取った通信を、標識まで何度も中継していた。水中の施設と軌道の艦は、同じ通信を同じように受け取れない。標識が砲撃で途切れれば、王都が戦っていることだけは分かっても、誰がどこで負傷したかは分からなくなる。
「標識四番、もう一度浮かせる」
作業員が海面の方へ機材を送り出す。浮上する前に、遠くで衝撃が伝わった。レマは王都側の通信を開いた。リー=チャー王子の近くにいるアクバー隊長が、防衛隊を集めている。海中へ入ってきた共和国の兵と、アナキン・スカイウォーカー、キット・フィストーの部隊も合流したという。
王子が生きている。それを外へ伝えたい人は大勢いた。王子の居場所まで同時に伝えてよいと思っている者は、その中にいなかった。
「王都、生存と交戦継続だけ送ってください」
レマは短い報告を標識に流した。すぐに、送信を暗号化したのかと後ろから訊かれた。暗号は掛けた。それでも敵が送信元の位置を探す時間までは隠せない。
「次は別の標識から出す」
作業員が息を切らせて戻ってきた。
「五番は港湾評議会の管理に移りました。港の回線へ繋ぐのを拒まれています」
レマは返事をせず、残っている標識の数を見た。王都の防衛隊は海中で戦う。共和国の艦ははるか上にいる。同じ戦いをしているはずなのに、二つの場所をつないでいるのは、傷みやすい小さな機械だった。
「四番で送る。出したら下げて。使い続ければ撃たれる」
作業員が手を伸ばした時、通信卓が短く震えた。王都からの次の報告には、分離主義者の水中兵器が投入されたとある。艦隊へ送りたい知らせは一つ増えた。標識を浮かせておける時間は、減っていた。
*
C.R.C. 7956.197 モン・カラ星系、管制点の外側
民間の三隻の検査は、二隻目まではナリが見ていた。
冷凍機材を積んだ船は申請どおりだった。乗員の半分はモン・カラマリ、半分はクオレンで、誰がどの港へ帰るかを決めかねている。船長は貨物扉を共和国の検査艇へ開ける前に、検査官の階級と所属を四度尋ねた。
次の船には救急用の部材があった。目的地はクオレンの港だが、航路を塞げば、そこの診療所は三日後に必要な物を受け取れなくなる。ナリは共和国の検査士官へ荷目を送り、検査後の出航を認めさせた。
三隻目の信号が消えたのは、ナリが二隻目の番号を消している時だった。
「故障?」
管制員が訊いた。
「もう一度呼んで」
呼出しへの返答はない。船そのものは見えている。進路を少し曲げ、外側の六隻の方へ動いていた。共和国の検査艇が距離を取る。ナリは上昇前の申請と最新の船体の形を並べ、貨物扉の寸法が変わっているのを見つけた。
「登録の映像を共和国へ。積荷が入れ替わったか、船が別です」
外側の共和国艦隊はすぐには撃たなかった。民間船は六隻と合流する前に、ひとつの小さな搬送艇を離した。艇は海面へ向けて加速する。検査艇が追ったが、民間船の船尾から機銃が開き、共和国の艇の前へ短い射撃を置いた。
「発砲を記録。救急船の航路へ警告を」
ナリは自分の声が少し上ずったのを聞いた。共和国の艦隊は救急船を巻き込まずに、武装した船を止めなければならない。航路の照明を切ったところで、すでに光の点が船尾から走っていた。
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モン・カラ星系、プロヴィデンス級《アイアン・レヴィ》
ダロ・ヴェスクは、共和国の検査艇へ発砲した貨物船を見て舌打ちした。搬送艇が海へ入るまで、民間船のふりを続けろと命じてあった。怖くなった雇われの船長が先に撃ったのだ。
ヴェスクは通商連合の武装輸送船で航路護衛をしていた時期が長い。共和国の艦隊が四つに分かれた時、彼が読んだのも砲の総数より、各群の間を船が抜ける距離だった。
「艇はもう捨てろ。ミュニファスント三隻を港側へ。レキューザント二隻はテクターを外へ出せ」
「貨物船ノ回収ハ」
「検査艇を撃つ船長を助けるために、輸送艦三隻を止めるのか」
戦術ドロイドは返答せず、命令を送った。ヴェスクは焼けた香草飲料を卓へ置き、後続船団の到着時刻を開いた。タムソンは海中用の兵器を求めている。こちらの六隻で十六隻に勝てとは、まだ言っていない。
共和国が偽装船の乗員を拾うなら、その間に艦の位置は決まる。すぐ沈めるなら、民間船へ射撃した映像をクオレン側へ送れる。船長の失敗を、使えるところまでは使う。
*
民間航路管制点、第33任務群、《アダマント》
偽装貨物船が検査艇へ撃った時、マドックの三隻はすでにその外側にいた。
《コンティニュアンス》が船首の前へ警告射撃を置く。船から離れた搬送艇は海面へ加速し、逃げ道の下には医療部材の船が重なっていた。マドックは砲術席に待てと言い、ナリの管制へ退避を求めた。
了解まで三十秒。その間に搬送艇は小さくなった。民間船が航路を変えると、艦載機が追いつき、艇の推進を壊した。貨物船自身も救急船へ向けて反転したが、《コンティニュアンス》が機関部を撃って止めた。
「回収は両方だ。中身が分かるまでは、どちらも人がいるものとして扱う」
マドックは言った。共和国の検査員が負傷したという報告は、次に来た。
「ミュニファスント級三隻、管制点へ接近! 艦首砲、充填中!」
マドックは《アダマント》を前へ出した。《コンティニュアンス》は回頭中で、全砲を敵へ向けられない。最初の斉射を受けた衝撃で、艦橋の表示器が一つ落ちた。シタデルで使えなくなった砲塔は直っている。それでも、敵の三隻と艦載機を同時に追う砲は足りなかった。
護衛機二機が反転の途中で炎になった。三機目は射線の外へ消え、脱出信号が出ない。《コンティニュアンス》の対空砲座も二つ黙った。マドックは管制点を動かさずに守ると報告し、回収艇を艦腹の陰へ入れた。
外の二隻のレキューザント級へ、ソーンが向かっていた。四隻のテクターを引き寄せ、その後ろを取ろうとする敵の動きが見えた頃、新しい跳躍反応が出た。
『ソーン、戻って。外側に続きがいる』
シーアの命令はそれだけだった。新しい《プレカーサー》が先に退き、三隻がその進路を守る。マドックは使える砲の半分をそちらへ回した。反撃に出る余裕はない。
管制点から、検査済みの二隻を通す時刻が届いた。冷凍機材の船と、クオレン船籍の医療部材船。ナリは撃たれた検査艇の乗員の搬送先を確かめながら、二隻へ許可を出した。マドックはその声を聞き、味方の砲が完全に切れていることを自分の目でも確かめた。
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C.R.C. 7956.198 モン・カラ星系外縁、《フォワード・ライト》
医療区画の寝台は空いていた。テザーはその数を二度数え、海中通信標識四番から届いた報告を開いた。
――敵、海中の防衛線を突破。王子、生存。王都の市民は避難中。共和国先遣隊は王子と行動を継続。
標識四番は送信を終えて下げられ、その直前には別の標識が一つ壊されていた。王都の連絡区画も移動している。テザーは次の報告を探したが、新しい位置はまだ届いていなかった。
シタデルでは、地上から戻った者を乗せるために座席を外した。モン・カラでは、誰がいつ上がるか分からない。海中の戦いに入った者が、水面まで来られなければ、寝台は空いたままになる。
「水中装備はあとどれだけ借りられる」
ベイランが訊いた。テザーは地元の防衛隊から貸し出された器材の欄を見た。呼吸器と潜航艇を合わせても、第150空中突撃連隊の全員を運べない。海の中で一個連隊を指揮する通信もない。装備を揃える前に降ろせば、そこにいる味方の救難を奪う。
「小隊なら出せます。回収艇を付ければ」
「小隊が出来ることは」
「浮上点の確保と、負傷者の引き上げです。王都までは行けません」
ベイランは装備の一覧を閉じ、浮上点だけを選んだ。出撃の命令はまだ出さない。王子の位置が分からないまま艇を下ろせば、助ける相手もいない所へ兵を置くことになる。
浮上点へ置く艇は二隻に絞った。案内を頼んだ地元の防衛隊員が来るまで、兵たちは呼吸器の留め具を外して待った。
スプールは訓練用の水槽を見下ろしていた。
「飲めるんですか、これ」
「飲むな」
リブが言った。
「海じゃない。訓練用だ」
「俺の靴が入った」
スプールは一歩離れた。ベイランが横を通り、呼吸器の箱を壁へ寄せた。
「水泳は嫌いか」
「嫌いじゃありません。床が見えないのが嫌いです」
「底があればいいのか」
「立てる深さなら」
ベイランは笑い、スプールの肩を軽く叩いた。
*
モン・カラ、クオレン港湾評議会の通信室
ナリの送った出航記録は、クオレン側にも届いていた。
医療部材を運ぶ船が無事に出た。共和国の艦は、クオレンの船だからという理由では撃っていない。当直のケシュ・ヴォルはその行だけを抜き出し、報告にした。続く偽装貨物船の行には、積荷の登録を変えた港の名がある。そこは評議会の管理する上昇路だった。
ケシュは主任のドルン・セクを呼び、記録を示した。
「この船は私たちの検査を通っています」
「共和国がそう書いたのか」
「最初の照合は民間の管制です。船尾から撃った映像もあります」
ドルンは映像を見た。偽装船の乗員を誰が雇ったかは分からない。海中では共和国の軍が、評議会に従う者と撃ち合っている。ここで自分たちの港の名を共和国へ送れば、評議会の中から誰かが裏切り者と呼ばれる。
「記録を残せ」
「共和国へは?」
「今は送るな。積荷を扱った倉庫を閉じて、次の便を全部止めろ」
ケシュはその命令を港の管制へ送った。医療部材の便まで止めることになる。上官はそれに気づいていたが、取り消さなかった。
モン・カラマリの王子を認めるかどうかを決める会議で、この船の話をする者はまだいない。ただ、評議会が許した航路を、分離主義者の兵が通った可能性は残った。上官は記録の欄を消さず、見られない場所へ移した。
*
浮上点上空、《プレカーサー》
オーレン・ダス大佐が最初の救難信号を拾ったのは、その宙域を三時間前から往復していたからだった。
二つの小さな印。片方は断続的で、波の陰に入るたびに消える。ダスは当直へ一つずつ読ませ、テザーの艇へ位置を渡した。シタデルではソーンの速さに合わせきれなかった艦が、今度は動かずに待つよう任されていた。
外には十三隻いた。後続七隻のうち三隻は輸送艦、四隻は護衛。《アイアン・レヴィ》が二つの群れをつないでいる。輸送艦へ射界を取るには、ダスの艦も外へ動いた方がよかった。
『回収点はそのままです』
シーアから届いた言葉の後、別の回線でコルヴェンが、撃てる位置は今しかないかもしれないと言った。
『撃てる位置はまた作る』
ダスは小さな二つの印へ目を戻した。あの印を拾う場所は、今しか作れない。艇が一つに着き、負傷者がいると知らせてきた。モン・カラマリの防衛隊員二人とクローン兵一人。もう一方には避難者が六人いた。王子の位置は誰も知らなかった。
ソーンは三隻だけで外へ向かった。
『予備を一隻、そこで使います』
『使った分だけ、ほかが薄くなる』
『数えています』
ダスは艦内へ医療班を呼んだ。自分の艦がここにいることで、向こうには三隻しか行かない。そのことを覚えたまま、格納庫を開けた。
*
モン・カラ、海面の避難艇
王都の連絡区画から人々と避難してきたレマは、負傷者を艇へ押し上げた後、自分では乗らなかった。
艇に空席が一つある。通信士がここで死んでも、船は上がる。けれど次の艇に王都からの人々が来た時、浮上標識と共和国の艦の位置を両方知っている者が、この場所にはいなくなる。
「私が残ります」
共和国のクローン兵は腕を押さえ、艇の中からレマを見た。彼は別の標識で海面へ出て、王都の防衛隊員と合流していた。名を聞く時間がなかった。
「連絡できるのか」
「いまはできる。次は分からない」
レマが答えると、艇の操縦士は、空席を残したまま発進した。海面から上に軍艦がいる。下には、まだ水中を逃げる人々がいる。艇が視界から消えてから、レマは四番標識の代わりに使える設備を探し始めた。
市の古い潮流観測器に、短い送信機が残っていた。出力は弱い。共和国艦の直接の回線には届かず、管制点の中継を通さなければならない。
「聞こえますか」
誰かが応じるまで三度送った。四度目に返ってきた声は、星系の入口で民間船を止めていた管制官のものだった。
『聞こえる。位置を教えて』
「避難艇の次の場所です。王子の位置ではありません」
『分かった。その違いのまま送る』
ナリはそう言った。レマは次の浮上点を一つずつ伝えた。共和国の艦が守るのは、そこから上の道だけ。それでも、上の道があると分かれば、下からそこまで逃げる者に行き先ができる。
海の奥で新しい爆発の音がした。レマは送信を終えても、潮流観測器から手を離さなかった。
*
C.R.C. 7956.199 モン・カラ星系外縁、《ハービンジャー》
ベイランが来た時、シーアは冷めた料理を温め直すか迷っていた。
ケレンは二人分の茶を置き、料理は交換すると言った。セレナは部屋の時刻表示を見て、次に食べられる予定はもう夕食になると付け加えた。
「これは朝食ですか」
ベイランが訊いた。
「昼食になるはずだったものです」
「難しい食事だな」
シーアは笑って、上着の襟を緩めた。ベイランは卓の隅の私信を見ないよう、自分の皿だけを引いた。食べ始めてから、シーアが何の茶を飲んでいるのか尋ねた。
「ケレンに訊かないと分かりません」
「注文していないのか」
「いつもの、と言ったので」
ケレンが二種類の茶葉を混ぜていると答えた。今度は片方だけにしましょうかと言うと、シーアは少し考え、次の機会にと頼んだ。ベイランは同じものを欲しいと言った。
食後に二人が指揮所へ戻ると、王都の通信標識がまた一つ消えていた。上昇路を通れた艇は十二隻。民間船は五隻。軌道の数字が増える間、下の印は減っていた。
「共和国が艦をいくつ増やしても、あの水の下へ今夜入れる兵は別に要る」
ベイランが言った。
「ジェダイ評議会がナブーへ支援を求めた。グンガンの部隊なら、下へ行ける」
シーアは外の十三隻を見た。護衛と輸送艦が動き始め、各任務群がそれぞれの宙域で応じている。グンガンの増援はまだ見えない。
「増援船団を、三時間ここに置く。その間、味方の便を通す」
セルトが期限を送った。シーアは王都の地図を星図の隣に残した。どちらか片方だけを見て終えられる日には、ならなかった。
*
内側の跳躍路、第32任務群、《ヴァリアント》
コーヴィンは、護衛艦が先に撃つのを見た。
前衛の四隻が左右に広がり、その間を三隻の輸送艦が通る。外側のコーヴィンの任務群が護衛艦を追えば、内側のヘイグの持ち場へ通じる間が開く。そちらを寄せれば浮上点が空く。単純な形だった。だが、モン・カラの民間航路へ向いた時、その単純さが効いた。十六隻を四か所へ置いても、共和国は民間船の行き先を消せない。
コーヴィンは《ヴァリアント》に全ての砲を撃たせなかった。敵の右の護衛艦を《インヴィオレート》に見せ、残りの砲塔で二隻の輸送艦の行き先へ斉射を置く。輸送艦の艦首より前で砲火が交差した。その向こうへ進めば、次の斉射の中へ入る。
「後ろの二隻、減速。先頭は止まりません」
コーヴィンが報告を送っている間も、先頭の輸送艦は速度を落とさなかった。二番の輸送艦《ディープ・カーゴ》と最後尾の一隻は、護衛の後ろで待つ。先頭が射界の端まで進めば、後の二隻も続けるつもりだ。
『先頭は34で止める。コーヴィンは後ろの二隻を』
ヘイグの返答が来た。コーヴィンは先頭艦の追跡を切らず、射撃目標からだけ外した。自分の四隻をあちらへ向ければ、止めた二隻も走り始める。ヘイグの任務群へ航跡を渡し、次の斉射を後続の輸送艦の前へ置いた。
上昇路を守る第34任務群の《フォーティチュード》が、別の角度から敵の左翼に砲火を当てた。プロヴォケイター級の新しい二隻が交代で射界へ出る。ミルダーンでは、うち一隻の通信士が切り替えを間違えた。今日は任務群指揮官の命令を受けてから砲塔が動くまで、二隻とも遅れなかった。コーヴィンは二隻の航跡を自艦の射界から外した。任務群はまだ一時間以上、そこに留まらなければならない。
「敵旗艦、内側へ向きを変えています」
《エンヴォイ》の報告だった。《アイアン・レヴィ》の主砲が向く先には、第33任務群と民間航路があった。マドックはそこを塞いでいる。敵の旗艦が正面から砲撃すれば、管制点も巻き込まれる。
『旗艦はこちらで引き受ける』
ソーンの報告が共通回線へ入った。
ソーンは《ヘラルド》と《エンヴォイ》を先行させ、《ハービンジャー》はさらに外へ広がった。《プレカーサー》は回収点から動かない。三隻で敵旗艦を沈めるつもりはなかった。ただ、旗艦が民間航路へ向けた砲の照準を切らざるを得ない位置に、三隻を置く。
旗艦は一度、二つの航路の間にいるテクターへ向き直った。主砲が《ヘラルド》に当たり、盾の表示が黄色になる。ソーンは艦を回さず、同じ速度で斉射を返す。別の反応炉から主砲に給電するテクターは、推進を落とさず、射撃の間も旗艦の側へ進んだ。
旗艦はもう一度向きを変えた。コーヴィンはその回頭を見届けてから、休ませていた砲塔へ射撃を移した。敵の主砲が一方へ向く間、コーヴィンは輸送艦の前へ射撃を置く。向き直れば、今度はソーンが走る。互いの艦を同じ射線に乗せず、敵の艦長に二つの場所を見せた。
*
第34任務群、《アクレイム》
予定の三時間のうち、二時間が過ぎた。第32任務群の前部砲塔が冷却の限界に近いと、合同任務群司令部から連絡が入った。
『32を三分休ませます。34、そちらの射界から輸送艦を見て』
ヘイグは自分の五隻の残量を開いた。守っている避難艇の列はまだ切れない。輸送艦へ向けられる艦を二隻だけ選んだ。《フォーティチュード》と《コンスタンティア》。トリトンの代艦二隻は、避難艇の通路を挟んだ位置を守らせる。全艦を動かせば、いま空けている上昇路へ艦腹を並べてしまう。
「ミュニファスント級三隻! 二隻は輸送艦の護衛、もう一隻が旗艦側から来ます!」
敵はコーヴィンの任務群が休む三分を、こちらへ火力を集める時間に変えた。三隻の正面砲が《コンスタンティア》へ揃う。新しい艦長は右へ艦を振った。避難艇の進路へ艦尾を入れないための旋回だった。
最初の命中で砲座が飛んだ。二度目で側面の盾が崩れ、三度目が主機へ入る。《コンスタンティア》は回頭を止められず、船体の長い軸を横へ振った。ヘイグの画面で、避難艇の線と傷んだ艦の航跡が近づいた。
「艇を止めろ。《アクレイム》、内側へ。《フォーティチュード》は左端のフリゲートへ集中!」
《アクレイム》を傷んだ新造艦の前へ出す。主砲の射界が一度狭まり、敵の三隻はさらに距離を詰めた。《コンスタンティア》の艦長から、主機二基が止まり、姿勢制御も片側しか残っていないと報告が来る。
「自力離脱は無理です。曳いてください」
復帰できるとは言わなかった。ヘイグはその判断を受け、合同任務群司令部へ救難艦を一隻求めた。避難艇を拾う予定の艦だった。予定は、今ここで壊れた。
左端のミュニファスント級《ラスト・タリフ》が距離を詰めすぎた。《フォーティチュード》の二十二基が艦首を正面から潰し、次の斉射が薄い胴を抜く。上下の船体が別々に傾き、主機のある部分だけが先へ流れた。敵を一隻沈めた。残る二隻の射撃は止まらなかった。
その間に先頭の輸送艦が《アクレイム》の外側を抜けた。撃つには傷んだ《コンスタンティア》を敵二隻の砲へ晒すしかない。ヘイグは主砲を輸送艦へ回さなかった。
「一隻、内側へ抜けます。こちらでは止められません」
シーアから了解が来た。予備の三隻は、ヴェスクのプロヴィデンス級と撃ち合っていた。後ろの救難点に残した《プレカーサー》を動かしても、もう間に合わない。
*
《アイアン・レヴィ》、艦橋
ヴェスクは《ラスト・タリフ》の艦名を作戦表示から消した。一番船を通すため、護衛に前進を命じたのは自分だった。
輸送艦の艦長は、生身の人間だった。損失の確率を読み上げる戦術ドロイドに返事をせず、ヴェスクは自分で回線を開いた。「旗艦を前へ出す。後ろは見なくていい。前が空いたら走れ」と告げた。約束どおり《アイアン・レヴィ》を出し、テクター三隻の砲火を受けた。その時から、もう自分の艦の盾の出力も戻っていない。
輸送艦の航跡だけが、共和国の戦列を抜けていく。《ラスト・タリフ》からの脱出信号は二つしか出ていない。前へ出せと命じた自分の声は、艦隊の記録に残る。
「一番船、降下圏ヘ到達」
「確認した。護衛二隻を下げろ。二番、三番は次を待て」
戦術ドロイドは、共和国の新造艦を撃沈できる可能性を示した。ヴェスクはそこで初めて声を荒らげた。
「追うな。あれを守っているヴィクトリーはまだ撃てる。もう一隻払って、荷が何トン増える」
艦橋のドロイドが送信先を変えた。海中へ一番船の到着を知らせる。共和国も一隻を戦列から退けさせられた。それでも後ろの二隻はまだ通っていない。ヴェスクは勝利の報告を作らず、次の増援部隊へ必要な護衛艦の数を送った。
*
《ハービンジャー》、戦闘指揮所
《コンスタンティア》は救難艦の牽引を受けて外へ下がった。三人が死に、十二人が負傷している。新しい二基の主機は、その場の修理では戻らない。シーアは同艦を当直明けの戦列へ戻す予定を消した。十六隻のうち、今撃てるのは十五隻になった。
シーアはグランド・フリートへ増援を求めた。敵の増勢と自隊の損傷、守るべき航路を添える。返信は受領の確認だけだった。どの艦を出せるか、まだ決まっていない。その欄を埋めるために、味方の艦を先に星図へ置くことはできなかった。
民間管制からも航路の変更が届いた。クオレン港へ浄水機の部品を運ぶ船が、出航を取りやめている。
「軍から止めましたか」
『いいえ。危険を知らせて、船長の返事を待ちました』
ナリの声に続いて、船長の録音が流れた。部品は今日中に積み直し、別の船で出すという。シーアは空いた航路へ、利用できる時刻だけを記入した。
残る輸送艦二隻が、違う上昇路へ回ろうとした。民間船の引き返す三十秒だけを使って、マドックが射撃を置く。片方が向きを変え、もう片方の進路へ重なった。護衛の背後で二隻とも止まる。マドックは航路へ砲火を残さなかった。
「予定の三時間です」
コルヴェンが言った。
「二隻、まだ向こう側にいます」
シーアはそれだけ確かめた。一隻は通した。海の下へ何を降ろすのか、もうこちらには止められない。二隻は今なお護衛を受けて外にいる。戦果として数えるなら、それもまた数字だった。
王都から届いた新しい報告には、次の避難艇の予定が入っていた。レマが別の浮上点から民間の管制点へ送ったものだった。
各任務群は回収路を残して下がった。敵はミュニファスント級一隻を失い、戦闘艦九隻と輸送艦二隻を外に残している。輸送艦の一隻は降下圏を抜けた。《コンスタンティア》の曳航に救難艦を使ったため、次の避難艇二便は待機になった。買った三時間の終わりに、後から取り返す仕事と、取り返せない三人が残った。
*
《ハービンジャー》、司令官室
シーアが上着を脱いでいる間、ベイランは窓の外の星を見ていた。海は反対側で、ここからは見えない。
「一隻通した」
「はい」
シーアは椅子の背へ上着を掛けた。ヘイグが《コンスタンティア》を守って退いた間に、輸送艦は降下圏へ入った。その前に民間航路を閉じ、艦を寄せておけば、違ったかもしれない。
「後悔しているか」
「まだ分かりません」
ベイランは黙っていた。シーアは弁解を探したが、口にはしなかった。通した船が運ぶものは、下にいる人間へ届く。どれだけ被害が出るのかは、まだ知らない。
「最初から全部止める方が、安全だったと思いますか」
「こちらには。その船の中にいた者には、違うだろう」
「でも、兵器を下ろさせました」
「そうだ」
シーアは返事を待った。ベイランが黙ったままなので、上着を掛けた椅子の背を握り直した。
「それでも、ああするしかなかったでしょう」
「あの時、君はそう決めた」
「決めたことは、分かっています」
声が尖った。ベイランがこちらを向いたが、シーアは止められなかった。
「一度くらい、正しかったと言ってもらえませんか」
言ってしまってから、椅子の背を離した。ベイランの顔から、それまでの問いかける表情が消えていた。
「私にそれを言わせるために訊くな」
短い言葉だった。シーアは顔を上げた。
「だったら、後悔しているかなんて訊かないでください」
ベイランは何か言おうとし、やめた。卓から自分の端末を取り上げる。その動きを見て、シーアは本当に出ていくつもりなのかと訊きたくなった。代わりに、扉の開閉表示を見た。
「母艦へ戻る。連絡は取れるようにしておく」
「お願いします」
最後の返事だけは、いつもの声で言えた。
ケレンが二人分の茶を持ってきた時、椅子は一つ空いていた。昼に頼んだ、混ぜていない方だと言う。シーアは礼を言ったが、どちらのカップにも手を伸ばさなかった。
あとから来たセレナが、扉と卓を順に見た。
「なんで、あんな言い方をするんだろう」
シーアは彼女を見ずに言った。セレナが返事をする前に、今度は立ち上がった。
「別に、帰ってほしかったわけじゃないのに」
戻りの艇は発進を申請していた。今呼べば、戻ってくるかもしれない。シーアは端末を開き、私用の呼出し先まで進んでから閉じた。セルトからコルヴェンへ届く避難艇の報告は、部屋の外で続いていた。
*
モン・カラ、潮流観測器のある避難所
レマは次の艇の乗員を数えながら、上から届いた短い通信を読んだ。
――敵の輸送艦二隻、星系外側で停止。避難艇の回収路、継続。
一隻が通ったことも別の行に書いてあった。だから、この通信を読んで、海中の敵がもう増えないとは誰も思わなかった。それでも、いま艇へ乗る者は上へ行ける。浮上点を守るため海の外に残っている艦がある。
隣の避難者が、王子は助かったのかと訊いた。レマは答えを持っていない。
「王子からの通信は、まだ来ていません」
その人は頷き、艇の方へ戻った。レマは作業員へ次の位置を告げた。海面に出す標識は小さく、予備も残り少ない。けれど、誰かがそこへ向けて泳いでくるかぎり、置く場所を決める仕事は終わらなかった。
潮流観測器がまた短く鳴った。王都の回線が戻っていた。内容が表示されるより先に、レマは次の避難艇の発進を止めた。
上では共和国の艦隊が三時間を買った。下で何が起きたのかは、これから届く。