STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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潮目

 援軍!

 

 モン・カラの王子リー=チャーを守る共和国軍は、分離主義者の奇襲で分断された。水中の戦場へ届く兵を求め、ジェダイ評議会はナブーのグンガン大軍に救援を要請する。

 

 だが、援軍が来れば道も必要になる。星系外側には連合の艦隊が残り、共和国の第3合同任務群は民間の航路と負傷者の回収路を守りながら、次の船団を通さなければならない。

 

 海中で王子を追う敵も、空で援軍を待つ敵も、同じ時刻を数えていた――

 

 *

 

C.R.C. 7956.199 モン・カラ、潮流観測器のある避難所

 

 レマが発進を止めた避難艇には、三十七人が乗っていた。操縦士が理由を尋ねるより早く、王都からの通信の残りが表示された。

 

 リー=チャー王子、生存。アソーカ・タノと共に、王都の防衛線から離脱。

 

 アクバー隊長の指揮所、移動中。スカイウォーカー将軍、フィストー将軍、アミダラ議員らの所在は未確認。敵は王子の捕捉を優先し、避難路にも捜索部隊を出している。

 

 王子の現在位置は書かれていなかった。送った者が知らないのか、知っていて書かなかったのかも分からない。レマは続く一行を読んだ。

 

 避難所の西側通路、使用禁止。王都からの部隊がそちらへ退いている。敵が追う。

 

 避難艇をそのまま出せば、王都から来た部隊と浮上点の途中で重なる。艇は救助できるかもしれないし、逃げている人々を追手へ教えるかもしれない。レマは操縦士の回線を開いた。

 

「次の浮上点へ回してください。ここから出ると、王都の部隊の退路と交わります」

 

『座標を送ってくれ。乗員にはどれだけ待つと伝える』

 

「まだ分かりません」

 

 操縦士は答えなかった。艇の中で誰かが発進を急ぐ声を上げた。レマは潮流観測器の画面に二本の線を描いた。一方は避難艇の上昇路。一方は、王都から部隊が来ると知らせてきた通路。次の浮上点は二本とも外せるが、そこにまだ標識はなかった。

 

「一時間ください。標識を置きます」

 

『一時間、ここで待つんだな』

 

「はい」

 

 艇には、水中へ送れる空気も電力もあった。待つための余裕がない者は、別の避難所へ送ってある。レマが発進の表示を書き直すと、艇の出入口にいた女が降りてきた。

 

「娘は、まだ向こうにいるんです」

 

 女は西側の通路を指した。

 

「次の標識を置けば、そちらからも――」

 

「道の話は聞きました!」

 

 レマの手から端末がずり落ちかけた。女がそれを掴み、自分の方へ向けようとする。

 

「娘を捜す人はいないんですか。軍の人は来るんでしょう。だったら、その人に」

 

「ほかにも待っている方が」

 

「ほかの人の話はしていません」

 

 女は端末を離した。爪の当たった所をレマが擦るのを見て、口を閉じたが、謝らなかった。レマにも、娘を捜しに出せる人間はいなかった。操縦士が艇から降り、乗員の私用連絡先を使えると告げると、女はそちらへ行った。

 

 レマは消しかけた西側通路の線を戻した。待っている人がいる。それを、さっきは相手を黙らせるために使ってしまった。発進は一時間遅らせる。王都の通信からは王子の名前だけを抜き、外へ知らせるのは避難路の変更と、共和国側が海中で分断されたという事実までにした。

 

 王子が生きていると知れば、共和国の艦隊は喜ぶだろう。敵もまた、同じ通信を探す。

 

「四番の予備は」

 

 レマが訊くと、作業員は壁際の機材箱を開いた。前に壊された標識と同じ型のものが、一基だけ残っていた。作業員が片手で持てるほど小さい。海面から宇宙へ声を届けるための装置を、今は三十七人を別の道へ導く印にする。

 

 レマは自分で運ぶことにした。

 

 *

 

モン・カラ星系外縁、《ハービンジャー》

 

 王都からの報告は十三分遅れていた。海中の共和国部隊が分断されたとあり、王子の名はない。

 

 シーアはレマの編集した通信を読んだ。《コンスタンティア》の修理は、すでに工作艦へ引き継がれている。十五隻で持ち場を守る間、救難艦一隻が曳航に取られたままだった。

 

 待っていた返答が、ようやくグランド・フリートから届いた。ホーンはヴァイアン少将へ支援部隊の派遣を命じている。候補はエリク・ダーヴェン代将の第41任務群、旗艦《ジャベリン》以下六隻。ただし護衛中の船団を別部隊へ渡すまでは動けない。

 

 統合作戦本部のラックスからは、別に補給船団の予定が来た。トリトンの後、彼は《ポラリス》を離れている。燃料と弾薬の受け渡し場所が並ぶ予定表には、統合作戦本部の承認が付いていた。

 

「来ますか」

 

 コルヴェンが訊いた。

 

「来られるかどうかを、向こうでも数えています」

 

 シーアは受領を返した。到着予定の空欄は、そのままにしておいた。

 

 戻ってきたベイランは、いつもの椅子へ座らなかった。背に両手を置き、海中の地図を見ている。シーアも、さっきの部屋での話を始めなかった。

 

「ヨーダから返事が来た。ナブーのグンガン大軍が動く」

 

「着くまで保たせます」

 

「着いた後もだ」

 

 シーアは頷いた。水中で戦える者が降りた後も、戻る道は要る。グンガン側の船団指揮官と直接話したいと頼むと、ベイランは着く前につなぐと言った。

 

 ソーンから次の跳躍の前兆が届いた。《エンヴォイ》が向かっている。《プレカーサー》は回収点に残る。こちらから問い返さなくても、何を残したかまで報告には書いてあった。

 

 シーアは椅子へ深く座り直した。ベイランもまだ立っていた。座ってくれと言いかけ、船団指揮官の連絡先をもう一度確かめた。必要な話はできている。その次の一言だけが出てこなかった。

 

 ベイランはグンガン側へ回す資料を受け取ると、通信区画へ向かった。シーアは背中を呼び止めず、二人で見ていた地図を自分の方へ寄せた。

 

 *

 

C.R.C. 7956.200 モン・カラ、クオレン港湾評議会の通信室

 

 偽装貨物船の記録は、消されていなかった。

 

 ケシュ・ヴォルは、貨物扉の寸法が港で変わった時刻をもう一度開いた。船籍はクオレンの会社で、通ったのもクオレン側の上昇路。改修を承認した担当の識別は、評議会の帳簿にある。ただし、その承認の三時間前に、同じ担当は勤務を終えていた。

 

「本人はどこだ」

 

 ドルン・セクが訊いた。

 

「昨日から、現場へ出ていません」

 

 画面の上では、共和国艦隊が医療部材の船を通した記録と、偽装船から発進した小艇を撃ち落とした記録が並ぶ。港の管制が残した記録を、ケシュは当日の当直名簿と照らし合わせた。

 

「評議会へ送りますか」

 

「送る」

 

 ドルンはそう答えたが、ケシュが送信先を選ぶのを止めた。

 

「医療部材の船の記録と一緒に。片方だけ抜けば、何を証明しているか分からなくなる」

 

「軍へも?」

 

「共和国の艦へは、まだ送るな」

 

 ケシュはドルンの顔を見た。主任は二つの記録を自分の端末へ複製した。

 

「うちの港から敵が出た。共和国が本当のことを言っていたなら、次は誰にそれを言うか、こちらで決める」

 

 評議会の会議は、王子への態度で割れていた。医療の船を通した共和国軍の記録だけなら、今日の検査手順の報告で終わる。偽装船を自分たちの港から出した記録と合わせれば、誰が港を使っているのかという話になる。

 

 ケシュは二つの記録を同じ通信に添付した。送信を終えると、ドルンが出した控えの宛名を確かめた。評議会の代表だけでなく、港の医療局と、独立している航路管制の監査員にも入っている。ドルンはそれぞれの受信確認が返るのを待っていた。

 

 *

 

C.R.C. 7956.201 モン・カラ星系外縁、民間航路管制点

 

 ナリは昼食の容器を開け、底に貼り付いた海藻を匙で剥がしていた。妹が持たせたものだった。急いで詰めたらしく、二つあるはずの香辛料の袋がどちらもない。

 

 妹へ短い音声を送ると、返事はすぐに来た。

 

『そっちに二つ入れたはず。私の方にもない』

 

「なら、どこへ行ったの」

 

『父さんのお昼』

 

 ナリは笑い、何も知らずに二袋とも使う前に教えておくよう頼んだ。空いた容器を閉じる時、隣の通信卓が鳴った。妹へ夕方また話すと伝えて、回線を切り替える。

 

 グンガン軍から、水中へ入る位置の希望が届いた。

 

 指定されたのは、大きな隊を水中へ展開でき、王都の防衛隊が生き残っている地域へ横から入れる場所だった。着いてすぐ王都の見えている敵と戦う必要はない、と書かれていた。代わりに、降りた兵を一度に集められる海中の広さと、地元の案内役を求めている。

 

 ナリはそれを共和国の艦隊へ転送する前に、港の登録を調べた。候補地の一つは、クオレンとモン・カラマリの両方が使ってきた共同の発着区画だった。戦いが始まった後、双方から閉鎖の命令が来ている。一方は敵に使わせないため、もう一方は味方が使うかもしれないため。同じ封鎖の語でも、閉じた理由は違う。

 

「この場所は、今のままでは入れません」

 

 ナリがグンガン側へ返すと、相手の指揮官は話の順番を変えた。

 

『そこへ誰が発着の許可を出すのか』

 

「両方の港です」

 

『なら、別の場所も出してくれ。戦いながら許可を待っている時間はない』

 

 ナリは最初の候補を残し、二番目と三番目を挙げた。三番目はレマが一時間かけて標識を置いた避難路に近い。先に道を空けると、そこへ逃げる艇が出せなくなる。

 

「三番目は医療の艇が出ます。二番目を使ってください。地元の案内役は探します」

 

『了解。降りてからの水中航路は、こちらと現地の人間で決める』

 

 グンガンの声は、遠い戦場へ支援に来る者の声だった。星系の座標を知らないのは当然だ。ナリも彼らの水中部隊の歩幅を知らない。知らない相手同士が、同じ降下点を間違えないために会話をしている。

 

 ナリはヴァラリアン打撃群の通信席へ、グンガン側の選んだ二番目の場所を送った。返事には、民間の通行を切り替える時刻の見込みが入っていた。彼女は管制表を開き、朝から待っていた修理材の船を一便だけ早めた。その船が跳んでから、軍の便のために航路を空ける。

 

 戦う前に動かせるものは、今のうちに動かしておく。いつもと同じ、管制の仕事だった。

 

 *

 

C.R.C. 7956.202 モン・カラ星系、《アイアン・レヴィ》、艦橋

 

 ヴェスクは椅子から立ち、艦橋の窓へ近づいた。前の戦闘で窓の外側に焦げ跡が付いている。テクターの砲火を受けた側のシールド発生器は、交換まで出力を落としていた。旗艦が傷んだままでは、新しく来る指揮官に前進を命じても説得力がない。

 

「《コールド・トリビュート》を左に置け。ミュニファスント六隻は三隻ずつに分ける。レキューザント二隻は、その後ろだ」

 

 新着のプロヴィデンス級《コールド・トリビュート》が旗艦の左へ動いた。今回の十二隻のうち、九隻が戦闘艦、三隻が補給艦。外側に残った九隻と合わせ、戦闘艦は十八隻になった。ヴェスクは追加の艦を一列にして共和国へ押しつける案を消した。共和国は四か所に分かれている。こちらも離れた二か所へ同時に火力を出せば、テクターはどちらか一方にしか間に合わない。

 

「輸送船団ヲ狙ウノデスカ」

 

「護衛を削る。輸送船が一度降りても、護衛が減れば次は通せない」

 

 タムソンからの要求は荷を増やせというものだった。共和国の新手が海へ入ると知らされると、今度は一隻も通すなと変わった。ヴェスクはその命令を実行できるとは返さなかった。

 

 彼はホログラムの記録を止め、艦橋のドロイドへ向き直った。

 

「こちらが落ちれば、荷も来なくなる。急ぐのは向こうも同じだ」

 

 *

 

C.R.C. 7956.203 モン・カラ、海面下の旧観測路

 

 最初の三十七人は予定より遅れて上がり、レマの置いた標識はその後も使われた。次の当直で予備の電源を持って観測路へ潜ると、誰かが投げ捨てた医療用の容器が見つかった。

 

 海流に押されて、閉鎖した通路の角で止まっている。容器には王都の防衛隊の印があった。彼女は拾って蓋を開けた。中は空だった。包帯や薬剤を使い切ってから、軽くするために捨てたのだろう。

 

 標識を結んだ古い観測用の支柱が、その先にある。レマは電源を交換し、弱い識別信号を試した。海面までは届く。王都まで強く送れば、敵の追跡器も拾う。今は浮上する艇へ向けた短い信号だけにした。

 

 支柱の向こうで、小さな光が三つ動いた。王都から逃げてきた者だと思い、レマは合図を返しかけた。光の間隔がおかしい。先頭の一つが止まると、残る二つもまったく同じ時刻に止まる。水中の捜索ドロイドだった。

 

 レマは標識の試験を切った。消すのが一秒遅れれば、ドロイドは支柱の方へ来るかもしれない。光は近づき、空の医療容器の前で止まった。そこに王都からの負傷者の跡を見つける。レマは逃げず、観測路の壁へ身体を押しつけた。

 

 ドロイドは容器を壊し、さらに奥へ進んでいった。王都の部隊がどちらへ退いたかを探している。レマは観測器の時計を見る。次の避難艇を出す時刻まで、残り二十二分。

 

 艇を出せば、支柱の標識が働く。ドロイドが近くにいれば見つかる。だが出さなければ、乗員を避難所へ留め置く。レマは標識の送信周期を、短い信号が二度だけ出る形に変えた。操縦士には、三度目を待たずにこの二度で位置を読むよう知らせる。

 

 その時、王都からもう一つの通信が来た。長くはなかった。

 

 ――リー=チャー、生存。アソーカ・タノと移動中。追跡を避けるため現在位置は送らない。共和国の増援が来るなら王都の正面へ入れるな。王子の退路を使わせるな。

 

 送信者はアクバー隊長だった。レマは送られてきた言葉を削らずに読んだ。自分の避難路と、これから来るグンガン大軍の降下路を別にしておいてよかった。まだ会ったことのない人々の進路が、王子の逃げ道と交わるところだった。

 

 レマは海面へ、王子の位置を除いたまま通路の変更を送った。その短い通信が拾われた表示を見て、標識を二度だけ点けた。

 

 避難艇が支柱の近くを通るまで、彼女は灯りを消したまま待った。

 

 *

 

モン・カラ星系内側、《ハービンジャー》

 

 グンガン船団の指揮を執るバロ・ティムは、接続が安定するより先に訊いた。

 

『海中へ入った後も、そちらは同じ場所を守れるのか』

 

「場所は変えるかもしれません。上昇のための道は残します」

 

『下の兵は、その時すぐには戻れない』

 

 シーアは王都の地図を渡した。自分たちが分かるのは、空白の多いこの図までだった。ティムは二番目の降下地点を選び、現地の案内役を待つと言った。宇宙の航路には不慣れでも、下で部隊が離れる危険は彼の方がよく分かっていた。

 

 ナリが民間便を通し終え、最初の輸送船が減速した。その後ろへミュニファスント級三隻とレキューザント級一隻が回る。敵は先頭を撃たず、最後尾が遅れるのを待っていた。

 

 ソーンの三隻が艦首を向けた。最初の斉射が《ハービンジャー》の盾を打ち、通話の向こうでもティムが振り返る。敵の一隻が三隻の間を抜けようとした。

 

『最後尾を先に下ろせ』

 

 ソーンの声に、ティムは首を振った。先頭の兵がまだ水中の集結地点へ着いていない。

 

『離れて下ろせば、別々に戦うことになる』

 

「順番は、そちらで決めてください」

 

 シーアが言った。ソーンには待つよう伝え、管制点から一隻分の援護を回せるかマドックへ訊く。《コンティニュアンス》が角度を変えたが、まだ撃てなかった。民間便が一隻、予定より遅れて跳躍点を離れられずにいる。

 

 ナリが退避案を送り、船長が進路を選ぶまでの間、シーアはティムを見ていた。命令を取り消させれば艇は降りる。そうして降ろした兵が下でばらばらになることを、今、この相手は言っている。

 

 民間船が動いた。《コンティニュアンス》の斉射が敵の推進器をかすめ、速度を落とさせた。抜けた一隻へ《エンヴォイ》が追いつく。

 

 ティムの隣の兵が、海中の集結を報告した。そこでようやく彼は最後尾へ降下を許した。

 

『戻る時は、こちらから連絡する』

 

「待っています」

 

 シーアは答えた。全艦が降りた後にも、敵の補給艦は外に残っていた。

 

 *

 

モン・カラ、グンガン軍の降下地点

 

 レマは海中へ入ってきたグンガンたちを、観測路の古い通信表示で見た。彼らは共和国の兵より速く深く動いたが、地元の水路は知らない。案内役の防衛隊員が二人、先頭の小隊と話している。王都の東から来た連絡員が遅れて到着し、アクバー隊長の短い命令を渡した。

 

 ――東側の防衛線を立て直す。王子のいる場所へは動かすな。王都の正面で敵を引きつけた後、移動の時刻を知らせる。

 

 グンガンの指揮官は、命令の前半だけを聞いて兵を王都へ送ることをしなかった。案内役に、防衛線のうちまだ通れる場所を一つずつ尋ねる。その間にも後ろから兵が降りてくる。レマは観測路の表示を拡大し、避難艇の上昇路と交わらないよう、グンガン側の通信員へ標識の位置を教えた。

 

「ここを通れば近い」

 

 防衛隊の案内役が指した線を、グンガンの指揮官が消した。

 

『そこを通れば、王子を追っている敵に我々の数を教える。遠い方へ回る』

 

 その判断にレマは驚いた。ナリと話した時、彼は到着してから戦う場所を自分で決めると言っていた。今は現地の人に聞き、予定していた最短路を捨てている。

 

 王都の東で、最初の衝撃が観測路まで伝わってきた。グンガン軍が外縁の敵陣へ入っていた。彼らの信号が広がり、海中の敵の印がそれまで押していた方向を変える。王都から逃げた人々へ続く追跡路が、一つ消えた。

 

 レマの隣で、避難艇の操縦士が息を吐いた。

 

「勝てるのか」

 

「いま、敵を止めています」

 

 レマは画面から目を離さずに答えた。海中の地図で敵の印が退けば、人々の避難路は少し広くなる。しかし、グンガン軍が到着する前にも、王都で勝ったと報告された場所があった。その場所は今、敵のものになっている。

 

 彼女は追跡路の印を消さず、最後に敵を見た時刻を残した。王子がそこを通らないとしても、明日誰かが避難の道に使うかもしれない。

 

 *

 

C.R.C. 7956.204 モン・カラ星系外縁、第32任務群、《ヴァリアント》

 

 コーヴィンの端末の隅には、ダーヴェンの六隻の航程が残っていた。船団護衛を引き渡して出発したとの報告を受けたのは、二日前、冷却材と弾薬を補充するため持ち場を離れた時だった。プロクラメイター級三、プロヴォケイター級二、ヴェネター級一。随伴の補給群は、さらに後から来る。

 

 その夜の当直にはヴァリアント二隻を戻せた。二時間半を使い切る前に交代し、敵の受け渡しを遅らせてきたが、翌日の持ち場は惑星に近づいていた。今も、端末の端の六隻を射撃に加えることはできない。

 

 グンガン軍の最後尾が降下しても、コーヴィンは艦を休ませられなかった。二隻の敵補給艦が旗艦の後ろへ入り、一隻はすでに受け渡しの装置を伸ばしていた。そこへ撃てる位置にいるのは第32任務群だけだった。

 

「《インヴィオレート》、左の補給艦。《ディグニタス》は外側を抑えろ。《トライアンフ》、後続の針路を塞げ」

 

 ミルダーンで主機を撃ち抜かれたヴィクトリー級が、指定された位置へ進む。交換した主機の出力は安定していた。艦長から、ミュニファスント級《デット・ウォーデン》を先頭に三隻が向きを合わせてきたと報告が入る。

 

 コーヴィンも見ていた。三隻の艦首はまだ《ヴァリアント》へ向いている。自分の艦に撃たせる間に、補給艦の受け渡しを切るつもりだった。

 

「32、射撃開始」

 

 《インヴィオレート》の斉射が補給艦の横腹を裂いた。伸ばしていた装置がちぎれ、燃料の霧が青白く広がる。狙った仕事は止めた。そこで《デット・ウォーデン》が艦首を振り、残る二隻も同じ方へ向いた。

 

「目標が変わります。《トライアンフ》へ!」

 

 艦の背後に散っていた破片の間から、ハイエナ・ボマーが飛び出した。先の交戦で後れた機体と思われていた一群だった。六機が急加速し、二機を落とされても残る四機が魚雷を放つ。ミュニファスント級の主砲が同じ側の盾を叩いた。

 

 《トライアンフ》の艦長は砲撃を切って防御へ出力を回した。外側の魚雷は対空砲が潰した。内側の二発が、崩れた盾を抜けた。

 

 艦腹が光り、格納区画の扉が外へ吹き飛んだ。続いて、上部構造の下から炎が出た。主機が回っているのに艦首は動かない。構造材が歪み、船体の前後で別の方向を向き始めていた。

 

『火災を隔離できません。中央の隔壁が二枚、閉じない』

 

 艦長の声は最後まで明瞭だった。コーヴィンは《ディグニタス》を救命艇の外へ出し、《ヴァリアント》の砲を三隻のフリゲートへ向け直した。補給艦を撃ち続ける砲は一基も残さなかった。

 

「《トライアンフ》、退艦しろ。艇をこちらへ出せ」

 

『退艦、開始します』

 

 シーアへ喪失の見込みを伝える間にも、船腹から小さな印が出た。十四個まで数えたところで、艦の後半分が爆ぜた。近くにいた二つの艇の信号が消え、残る艇も破片に押し流される。

 

 コーヴィンは席を離れ、戦術表示の前へ立った。ミルダーンで壊れた同じ艦を、今度は連れ帰れない。敵の三隻は後退を始めた。コーヴィンが補給艦へ向けていた四隻のうち、今前進できるのは二隻だけだ。《ディグニタス》は艇のそばを離れられなかった。

 

「こちら32、保持不能。持ち場を後ろへ移す」

 

 コーヴィンは了承を待たず、各艦に後退を命じた。敵の砲塔がまた光った。退き始めた艦の後ろで射線が重なり、救命艇を拾う《ディグニタス》へ近づいてくる。

 

 *

 

《アイアン・レヴィ》、艦橋

 

「共和国ヴィクトリー級、撃沈。補給艦一、運用不能」

 

 ヴェスクは二つの数字を聞いた。補給艦の乗員から救助の要請が続いている。最初の一隻が穴を開けられた以上、残り二隻を同じ場所へ出せない。

 

「救命艇を拾え。補給艦《クォータ・サプライ》は西へ回す。《レイト・バランス》は共和国の後退に付いて進め」

 

「追撃デハナイノデスカ」

 

「道を取れと言っている。あのヴァリアント二隻に近づくな」

 

 後退する共和国艦を追い崩す好機はあった。ヴェスクはそれを補給の通路に換えた。傷んだミュニファスント級の艦長へ、次の交戦までに盾を戻せと命じる。被弾区画の表示は赤いままで、艦長は修理班の到着見込みを読み返していた。

 

 ホログラムの上で、海中へ荷を運ぶ輸送艦《ディープ・カーゴ》が前へ進んだ。共和国の砲に足止めされていた艦が、補給艦の通った後を抜けていく。共和国は今度、その針路へ砲を置けなかった。

 

 *

 

モン・カラ、王都東側の防衛線

 

 最初に前進したグンガン軍は、アクバー隊長の部隊とつながった。

 

 レマが受け取った通信には勝利の言葉がなかった。合流した部隊の数、使える水路、まだ動ける負傷者の数。アクバーはそこへ、リー=チャー王子が安全な場所を選んだかどうかを付け足していない。

 

 前進した先に分離主義者の水中兵器が残っていた。大きな半透明の生体に機械を組み込んだものが、海中を漂いながら近づく。グンガンの兵がその一つを止め、もう一つを避けたところで、後ろから別の群れが現れた。アクバーの部隊が横から撃った。止まった群れの後ろにも、新たな影が重なっていた。

 

 通信に、敵の識別が書き加えられた。ハイドロイド・メデューサ。

 

 レマはその名を初めて見た。王都の警告には、敵の「大型水中兵器」とだけ記されていた。名が分かったからといって、どこから何体来るかまでは分からない。それでもグンガン側の通信員は、水中で近づいてはいけない距離を示した。逃げている防衛隊にその数字が届けば、一人は次の角で止まれる。

 

 レマは避難路の表示を広げ、メデューサの進む場所へ通じる支柱を消した。その先にまだ人が残っている。

 

「通信は届きますか」

 

 作業員が訊いた。

 

「この標識からなら。王都の標識は」

 

「二番が消えました」

 

 レマは二番を使う発信先へ、残っている三番と観測路の位置を送った。補修に誰かを出せる時間ではない。どの標識が壊れたかを全員が知るだけで、届かない返事を待つ時間は短くできる。

 

 その時、王都の側から入った一つの通信が、グンガンの前進する位置を知りたがった。共和国側の暗号を使っている。しかし送信者の名前は空欄だった。

 

「指揮官へ確認を」

 

 レマが言うと、作業員は急いで回線をつないだ。アクバーから返事が来るまでの数分、前進位置は送らなかった。通信そのものは途中で切れた。相手が妨害を受けたのか、答えを待たず諦めたのかは分からない。

 

 アクバーの返事は短かった。

 

 ――こちらから送っていない。位置は守れ。

 

 海中にいる敵も、味方がどこから来たかを探していた。

 

 *

 

C.R.C. 7956.205 モン・カラ星系内側、司令部直轄・第35任務群、《ヘラルド》

 

 ヘイグの撤去艇から、次の標識へ移ると届いた。ソーンはその進路を射界から外した。敵の補給艦が降下路の外へ撒いた小型中継機が、海面の標識から出る通信を拾っている。第34任務群の艇は、民間の標識と見分けながら一つずつ取り除いていた。

 

 回線をまとめて止めれば、その回線を使う避難艇も上がれなくなる。通信主任のセルトがナリへ送った予告には、各標識が使えなくなる時間が記されていた。ソーンは次の撤去を終える時刻を確かめ、救難点に残る《プレカーサー》の位置を見た。

 

 海中ではグンガン軍の合流点が押し戻されていた。共和国のジェダイと議員の安否は確認中。リー=チャーとアソーカは別に動いている。その続報を読み終える前に、索敵席から声が上がった。

 

「ミュニファスント級三隻、内側へ。レキューザント級一隻が後ろへ回ります!」

 

 ソーンの前で、敵の新しい三隻組が広がった。前日の交戦で《トライアンフ》を沈めた、《デット・ウォーデン》の三隻組とは別だった。《プレカーサー》は救難点から動かせない。三隻のテクターで、その外側を通る補給艦も抑えなければならない。

 

 ソーンは《ハービンジャー》をミュニファスント級へ向け、《エンヴォイ》を下へ回した。自分の《ヘラルド》が、後ろへ来るレキューザント級を受ける。二つの反応炉があるから走りながら撃てる。前方へ回していた盾の出力が、後ろからの砲火に追いつかなかった。

 

 レキューザント級は間合いに入らず、艦首を向けたまま距離を保った。その足元からヴァルチャー・ドロイドが出る。迎撃の砲を振るため《ヘラルド》が姿勢を変えた時、ミュニファスント級三隻のうち二隻が射撃を切り替えた。

 

 第一射が左舷の盾を剥がし、第二射が武装用反応炉の給電室へ入った。床が傾き、ソーンの脇にいた通信士が隔壁へ投げ出された。砲術席の表示がいくつも消える。火災の警報は艦橋の下からも上がった。

 

「第二反応炉、停止! 母線を切れ!」

 

 ヴェスター艦長の命令より先に機関長が遮断を始めていた。それでも焼けた接点が一つ離れず、艦橋に焦げた絶縁材の臭いが上がってくる。切断を終えた時、主砲の大半と左舷の盾が使えなくなった。

 

 《ヘラルド》は走れた。撃ちながら走る艦ではなくなった。

 

『こちら《エンヴォイ》。タスクフォース35の戦術指揮を一時代行。《ヘラルド》の後退を支援する』

 

 主通信の断線で副司令官の声が消え、ブレイン艦長が直轄部隊の戦術指揮を引き受けた。予備回線が戻ると、ソーンはすぐには代行を解かず、ヴェスターから損傷の隔離と退避の見込みを聞いた。《ハービンジャー》が残る二隻の砲火を受け、《エンヴォイ》は撃てなくなった側面の前へ入る。二隻が《ヘラルド》を守る間、敵の補給艦がその外を抜けた。

 

 ソーンは合同任務群司令部へ、前の線には戻れないと送った。死傷者の数はまだ出ていない。通信士が一人、床へ横たえられ、衛生兵がその制服を切っていた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 《ヘラルド》が工作艦の側へ着くまで、ソーンは乗艦を離れなかった。損傷の隔離を終えてから、移乗する艇を出す。《エンヴォイ》のブレインは、副司令官が移るまで直轄部隊の戦術指揮を代行すると伝えてきた。

 

 シーアは二人へ了解を返した。《コンスタンティア》を除いた十五隻から、《トライアンフ》が沈み、《ヘラルド》が離れた。戦闘を続けられるのは十三隻。回収点にいる《プレカーサー》を除けば、自由に動けるテクターは二隻しかない。

 

 ヘイグが浮上点の変更を求めていた。ナリは、すでに出ている艇は曲げられないと答えた。新旧二つの点を同時に残す間、十三隻はさらに離れていく。

 

 ベイランは海中の地図を見ていた。降りたグンガン軍の印が、少しずつ情報不明の色へ変わる。

 

「退避の頼みは」

 

「まだ来ていません」

 

 シーアは答えた。来ない理由を、二人とも口にしなかった。敵に押されているだけなら、次に届くのは場所を変えたいという連絡かもしれない。連絡する者がもういなければ、表示はこのままだ。

 

 セレナが二人の横へ水を置いた。シーアは一口飲み、カップを卓へ戻した。その音だけが、次の受信まで残った。

 

 *

 

モン・カラ、潮流観測器のある避難所

 

 レマの新しい標識が、二度だけ灯った。

 

 避難艇の操縦士はその二度を読み、観測路の支柱を通って上昇した。艇が海面へ向かう途中、王都から逃げてきた二人の兵が支柱まで泳いできた。片方はもう自力で艇に追いつけない。

 

 レマは操縦士を呼び戻さなかった。艇の乗員を敵の捜索ドロイドの前へ留めることになる。次の便を出すまでの場所を、その二人に示した。片方の兵が、もう一人の肩を支えながら頷いた。

 

「王都は」

 

 レマが訊くと、兵は息を整えて答えた。

 

「東で一度押し返した。でも、後ろから来た」

 

「何が」

 

「大きいのが。グンガンの部隊も前で動けなくなってる」

 

 兵は王子については知らなかった。アクバーの指揮所も移った後だった。レマは二人を避難所へ案内し、医療区画へ引き渡した。ほどなく王都から、もう少しはっきりした通信が届いた。

 

 スカイウォーカー将軍、フィストー将軍、アミダラ議員、敵に拘束された可能性が高い。グンガン大軍との通信、大部分喪失。リー=チャー王子とアソーカ・タノ、捜索から離脱し行動中。

 

 レマは「可能性が高い」を確定へ書き換えなかった。行方が分からない人を、見ていないまま救出済みにも捕虜にもできない。けれど、グンガンからの通信がほとんどないという事実は、待っている次の便へそのまま伝えなければならない。

 

 王都の東へ向けて標識を強く点ければ、離れた兵が見つけられるかもしれない。敵も同じ灯りを見る。レマは二度の短い周期を守り、位置を知っている避難艇にだけ出すよう指示した。

 

 最初に三十七人を一時間待たせた時とは、待つ理由が違う。今度は次の便がいつ来るか分からない。支柱には装置が残っている。電源が尽きるまで、彼女はその二度を出す時刻を数え続けた。

 

 ナリから、上昇した艇を共和国艦が受け取ったと知らせが来た。次の便も、観測路へ向けてよいという。

 

「こちらの標識は使えます」

 

 レマが返すと、ナリは確認を復唱した。それから少しだけ間を置いた。

 

『あなたも、まだそこにいるのね』

 

「います。電源を替えたばかりだから」

 

 その返事に、向こうで息を吐く音がした。船と艇の位置ばかりを話していた相手が、初めて自分の居場所を訊いたのだと、レマは気づいた。

 

 捕縛を確かめた続報が届いたのは、その後だった。共和国の将軍たちと議員、グンガンの兵。海中へ通した増援も、彼らを迎えた部隊も、敵の手に落ちていた。

 

 軌道では《ヘラルド》が戦列を離れた。海中では共和国側の部隊が捕らえられた。それでも、リー=チャーとアソーカはまだ捕まっていない。

 

 レマは標識を二度、短く灯した。

 

 その二度を受け取ったという返事が、次の避難艇から届いた。

艦艇、兵器説明は欲しい?

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