STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

78 / 84
帰路

 退路を守れ!

 

 グンガン大軍の参戦もむなしく、モン・カラの海中では共和国の将軍たちが捕らえられた。追跡を逃れたリー=チャー王子とアソーカに、反撃の望みが託される。

 

 一方、軌道上でも共和国の第3合同任務群は苦境に陥っていた。艦を失い、交代を待つシーアたちへ、分離主義者の艦隊が迫る。背後には避難艇と、動けない味方の艦。もはや退く余地はない!

 

 残された道を守るため、ジェダイ・マスター、ベイラン・スコールは、150連隊とともに敵艦への突入を決意する――

 

 *

 

C.R.C. 7956.206 モン・カラ星系、タイダル・サーキット接続域、第32任務群、《ヴァリアント》

 

 第32任務群はタイダル・サーキット接続域を警戒航行していた。

 

 味方の補給便は遅れていた。艦橋に届く予定表では、次の冷却材の受け渡しが一時間後へ移っている。コーヴィンはそこへ確認を付け、新しい航跡が出た時も、最初は連絡の方が遅れたのだと思った。

 

「補給便ではありません。識別、照合中」

 

 反応は敵の側から来ていた。艦影を隠していた破片の雲から、船首、細い受け渡し装置、護衛のミュニファスント級二隻が順に現れる。

 

「補給艦《クォータ・サプライ》です。残っていた二隻のうち一隻」

 

 《トライアンフ》を失った一昨日、先頭の補給艦が被弾すると、同艦は西へ回っていた。その航跡が破片の雲までつながっている。

 

 コーヴィンは艦の通った場所を拡大した。護衛は前の戦闘と違って、共和国の砲を引き受けるために広がっていない。二隻で補給艦の背後を守り、そのまま敵旗艦へ合流するつもりだった。

 

「《インヴィオレート》、受け渡しの前を撃て。《ディグニタス》は艇の回収から戻ったばかりだ。無理に前へ出すな」

 

 ヴァリアント級の僚艦が艦首を寄せる。コーヴィンは自艦に二度だけ斉射を命じ、次を待った。ミュニファスント級が盾を向け、補給艦は減速した。受け渡しを諦め、護衛の後ろへ退いていく。

 

 今の三隻で追えば、向こうには補給を終えた艦が待っている。コーヴィンはそこまで進まなかった。代わりに補給艦の退いた先を記録させる。護衛のさらに後ろに、一隻のレキューザント級がいた。

 

「《トールキーパー》、通信量が増えています」

 

 あの艦は荷を受け取っていない。主機を傷めた艦を曳くこともせず、海面側から来る短い信号を、次々に別の艦へ渡していた。護衛の一隻が向きを変えるより早く、そこから送信があった。

 

 コーヴィンは記録を合同任務群司令部へ送った。追撃の可否は求めない。自分の任務群が止めたものと、止められなかった通信を、同じ報告へ入れた。

 

 増援の第41任務群から位置の更新が来た。船団護衛を引き渡して以来、ダーヴェンの六隻はこちらへ向かい続けている。だが、まだ砲声の届く場所にはいなかった。

 

 《エンヴォイ》から副司令官の確認が届いた。ソーンは昨夜の移乗を終え、直轄部隊の戦術指揮をブレインから引き取っている。だが、持ち場へ出せる艦が一隻減ったことは変わらなかった。

 

 コーヴィンは空いている交代表を見た。《ヘラルド》の欄まで消えたため、次に誰がここを受け持つかは決まっていない。彼女は六隻の到着見込みを転記せず、現在の三隻で続けるとだけ書いた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、司令官室

 

 ベイランが司令官室へ来た時、シーアは上着を脱いでいた。戦況を見るための端末を卓の片側へ寄せ、空いた方へケレンが茶器を並べていた。海中の情勢が変わるたびに二人は話したが、ここで向かい合うのは、あの言い争い以来だった。

 

 ベイランが椅子の後ろで止まった。

 

「今日は、座ってもいいか」

 

「そこに立って話される方が困ります」

 

 言ってから、シーアは隣の椅子に置いていた上着まで退けた。ベイランは一脚だけを引いた。

 

 セレナは、洗濯へ回す上着の袖から出てきた菓子の包みをシーアの前へ置いた。

 

「洗濯へ出す前でよかったです」

 

「忘れていた」

 

「食べる方も?」

 

 シーアが返事をしないので、ケレンが新しいものを出した。小さな丸い焼き菓子だった。以前のものより硬いと言うと、彼は湿気を吸いにくい種類へ替えたと答えた。

 

 ベイランは一つもらい、割ろうとして割れず、そのままかじった。

 

「丈夫だな」

 

「長持ちします」

 

「歯より?」

 

 ケレンの顔が少しだけ緩んだ。シーアが笑い、セレナは古い包みを片づけた。寝台の上には彼女が直した上着がもう一枚あった。襟の内側が擦れるとシーアが言ったので、布を当ててある。

 

「昔も同じ所を嫌がりましたね」

 

「それを人前で言わないで」

 

「今日は、お姫様とは言っていません」

 

 ベイランが茶へ菓子を浸し、何も聞こえなかった顔をした。シーアはその手元を見て、真似をした。崩れた欠片がカップへ落ちた。

 

「先に教えてください」

 

「私も今、知った」

 

 ケレンが匙を二本持ってきた。二人は黙って受け取った。

 

 ベイランは崩れた欠片を掬い、カップを卓へ戻した。シーアの茶にはまだ半分ほど残っている。話を始めれば、また冷めるだろうと思った。

 

「《トールキーパー》の記録を見せてもらった」

 

 シーアが顔を上げた。ベイランは卓に置いてきた端末を開き、回収点の位置を先に出した。

 

「入るなら、帰る先を決めたい。《プレカーサー》を使えるか」

 

「避難艇の収容を続けています。それでも、格納庫のもう一方を空けられるはずです」

 

「テザーとダス艦長に話させる。帰路が開くまで、艇は敵艦の中に残す」

 

 シーアは敵艦と回収点の間を見た。二隻のプロヴィデンス級と、フリゲートの航跡が重なっている。

 

「戻る線を、ずっと同じ場所に置くとは約束できません」

 

「同じ場所でなくていい。変わった時、こちらへ知らせてくれ」

 

 そこで初めて、ベイランは《トールキーパー》の船内図を開いた。中継区画は艦橋とは離れ、砲の給電に沿う保守通路が近くを通っている。艦橋へ行って指揮官を捕まえるつもりはなかった。

 

「あれを沈めるまで撃つより、近づけた時に中から止める方が早い。中継が切れれば、海面の標識を移す時間もできる」

 

「砲は残ります」

 

「砲の給電も止める。艇を出す場所まで暗くはしない」

 

 シーアは図を見たまま、茶を一口飲んだ。

 

「どこまでできるかは、あなたに任せます。こちらは入口を作る」

 

 ベイランは頷いた。全部を説明して納得させる必要がなくなっている。ミルダーンで地上の道を預けられた時にも、相手は自分の指でその道をなぞろうとはしなかった。

 

 立ち上がると、ケレンが残っていた焼き菓子を小さな包みへ入れた。ベイランは首を振りかけたが、受け取った。

 

「袖には入れません」

 

「その方がよろしいかと」

 

 セレナが答えた。シーアは笑い、脱いでいた上着へ手を伸ばした。ベイランは、その姿を扉が閉じるまで見ていた。

 

 *

 

《フォワード・ライト》、格納区画

 

 テザーは十二隻の輸送艇の前に立っていた。連隊の全部は連れていかない。先遣の二個中隊が入口と中継区画を取り、残りは母艦で帰還者を受ける。その区別は、もう兵へ伝わっていた。

 

 ブラケットは先頭の艇を回り、チョックへ帰りの燃料を訊いていた。スキッドが横から、同じ質問は二度目だと言う。

 

「一度目は出発までの分だ」

 

「二度目は?」

 

「帰ってきてから文句を聞く分」

 

 チョックが親指を上げた。ベイランは艇の内側を覗いた。シタデルで外した座席が戻されていたが、入口のそばだけは担架を置けるよう空けてある。

 

「今回は使わずに戻したいな」

 

 ブラケットが言った。ベイランはそうだなと答え、足を止めずに奥へ行った。リブはスプールの工具袋を持ち上げていた。

 

「重くなった」

 

「前に足りなかったものを入れた」

 

「何が足りなかった」

 

「帰ってから言うつもりだった」

 

 リブは袋を返した。ベイランはスプールのヘルメットに残る傷を見た。交換の品はまた届いていないらしい。新しい傷を付けなければ見分けられる、と言いかけてやめた。

 

 テザーから、ダス艦長との確認が済んだと告げられた。《プレカーサー》は救難の場所を動かず、片側を150連隊に空ける。医療班も来ている。

 

 その時、合同任務群司令部からの通信が割り込んだ。敵の二隻のプロヴィデンス級が回収点へ向かっている。射撃位置へ着くまで十四分。避難艇の収容には十八分、修理中の《コンスタンティア》を工作艦から離すには二十七分要る。第41任務群の到着予定は四十二分後だった。

 

 ベイランは艇の段へ足を掛けたまま聞いていた。戻る場所を後ろへ動かすには、そこにいる人々が動けなさすぎた。

 

『ここからは下がれません』

 

 シーアの声だった。

 

『五隻で戦列を横切ります。向こうに艦首を揃えさせない。その間に入れますか』

 

「入る。こちらの艇が離れる時も知らせる」

 

 通信の向こうでコーヴィンとソーンが応じた。前へ出るのは第32任務群の三隻と、ソーンが動かす直轄部隊の二隻。《プレカーサー》はその五隻には入らない。

 

 ベイランが乗ると、兵たちも続いた。テザーは最後に、後ろへ残る医療班を見た。

 

「帰ってきたら降ろしてくれ。担架も、歩ける者もだ」

 

 衛生兵が頷いた。発進口が開き、十二隻は五隻の軍艦の後ろへ出た。

 

 *

 

接舷輸送艇、モン・カラ星系内側

 

 ベイランは窓の外を見るために、少し身体を傾けた。

 

 《エンヴォイ》の艦腹が上を過ぎた。その向こうに、ミュニファスント級《デット・ウォーデン》の細長い船体が迫る。二隻がすれ違うと、敵艦の側面へ火が走った。ヴァラリアン少将の艦は、もうその間を抜けている。

 

「あと二隻分、待つ」

 

 操縦士が言った。艇の窓からは数えられなかった。ベイランは待ち、手すりを握った。敵の大型艦が横を向くと、輸送艇の前が一瞬暗くなる。

 

 《ヴァリアント》の格納区画から破片が噴いた。続いて《インヴィオレート》の盾が白く光り、その向こうの《コールド・トリビュート》が次の斉射を放つ。艇の通信へ、給電が戻らないという声が入った。コーヴィンは傷んだ僚艦の前へ出て、まだ撃っていた。

 

 ここからなら、どの艦も大きすぎた。星図の上で線を引いた時には、その線の脇にこれほど厚い装甲が動くことまで、身体には伝わっていなかった。

 

 艇が向きを変えた。スプールが工具袋を膝へ引き、リブが隣の兵の安全帯を確かめた。

 

 遠い回線で、マドックが抜けた敵艦を受け持つと答えた。ヘイグは回収点にいる。別々の場所で、それぞれが仕事を続けていた。ベイランには、その声が途切れないことの方が、窓の外に何隻見えるかより頼もしかった。

 

 《トールキーパー》の長い船体が正面へ入った。搬入口はまだ開いている。テザーが、先頭の二隻から順に識別を読んだ。チョックとスキッドが返事をした。

 

 ベイランはライト・セイバーの柄へ手を置いた。

 

 *

 

レキューザント級《トールキーパー》、後部搬入口

 

 最初の輸送艇が撃たれたのは、入口が見えてからだった。

 

 側面の対空砲がまだ生きていた。艇は前部を撃ち抜かれ、急に進路を外れる。後続の一隻がそちらへ向かい、残る艇は編隊を二つに割った。ベイランの乗る艇も大きく揺れた。

 

 チョックとスキッドの艇だった。ブラケットが二人を呼んだが返事がない。救援へ向かった後続艇も、破片のため近づけないと知らせてきた。

 

「接舷まで八秒!」

 

 ベイランの艇の操縦士が叫んだ。窓の向こうで搬入口の扉が閉じていく。ベイランは安全帯を外し、床へ片膝をついた。

 

「そこへ入れ。扉は止める」

 

 残った隙間へ艇が滑り込んだ。閉鎖機の音がひしゃげ、艇の側面を擦る。ベイランが伸ばした手は震えていた。厚い扉が止まった時間に、二隻目が続いた。

 

 着床するより先に艇の銃座が撃ち始めた。入口の向こうにB2スーパー・バトル・ドロイドが並んでいる。ベイランの手にオレンジの刃が伸びた。ライト・セイバーへ最初の光弾が当たり、弾かれて天井を焼いた。クローン兵が両側へ降り、積荷の架台の陰から射撃を返す。

 

 テザーは入口を守る小隊へ手を振った。

 

「右の銃座を取れ! 艇の前を横切るな!」

 

 ベイランは前へ出た。二体のB2のあいだへ踏み込み、一体の腕を切り落とす。もう一体が銃口を下げる前に胸部を貫いた。倒れるドロイドの後ろから別の一体が撃ち、彼の肩の装甲をかすめる。ベイランは身体を捻り、弾いた光を相手の頭部へ返した。

 

 ブラケットが兵を続かせた。先頭へ出た彼自身が脚を撃たれて倒れた。衛生兵が襟を掴んで架台の後ろへ引く間、後続の分隊は止まらず壁沿いに進んだ。

 

「入口、確保!」

 

「第二波へ送れ。通路はまだ取っていない」

 

 テザーは倒れた兵を見てから、ベイランの後を追った。

 

 艦内図の通路は、二つ目の隔壁で閉じていた。スプールが解除端子を探している間に、反対側からドロイドの足音が近づく。ベイランはライト・セイバーを隔壁へ突き入れた。赤く溶けた縁から、白い煙が上がった。

 

 背後で艦そのものが揺れた。共和国の砲か、連合の誤射かは分からない。天井の灯りが消え、クローンのヘルメット灯だけが扉を照らした。

 

「砲撃を止めてもらえますか」

 

 スプールが訊いた。

 

「こちらへは止めている」

 

 テザーは回線を押さえた。艦隊から、味方の砲はこの艦を避けていると返ってきた。敵側まで止まるという返事は来ない。

 

 ベイランは円に切った隔壁を押し倒した。

 

「次へ行く」

 

 切り開いた扉の向こうで、B1が悲鳴を上げた。

 

「ジェダイダー!」

 

 二体がブラスターを構え、その前へB2が出た。ベイランは最初の連射を弾き、伸びた腕と胴を一度に斬った。大きな身体が通路へ倒れる。

 

「モウ無理ダ……」

 

 片方のB1が銃口を下げかける。もう片方が、その肩を叩いた。

 

「大丈夫ダ! コッチハ二人イル!」

 

 励まされた方も銃を上げた。二体が続けて撃ち、返された光弾に一体が倒れる。ベイランが間合いを詰め、もう一体の胴を断った。

 

 積荷の陰に、三体目がいた。銃を持ったまま、床に転がった頭部を見ていた。

 

「……一人ニナッタ」

 

「そうだな」

 

 ベイランが答えた。

 

「降伏シマス」

 

 銃が床へ落ちた。ベイランは刃を向けたまま、蹴って遠ざけるよう命じた。B1は両手を上げたまま足を伸ばし、二度目でようやく銃を蹴れた。

 

「リブ、預かれ。武器を調べろ。隊の後ろを歩かせる」

 

「これをですか」

 

「降伏した」

 

 リブは一瞬ベイランを見て、それからB1を壁へ向けた。識別番号はB1-6H3。通信装置を外される間、ドロイドは手を下ろしてよいか何度も訊いた。

 

「駄目だ」

 

「腕ガ疲レマス」

 

「俺もだ」

 

 リブは銃を構えたまま答え、後方の警戒をする兵へ預けた。B1はそちらへ一歩進み、また止まった。

 

「捕虜ハ、ドコニ行ケバイイ?」

 

「後ろ」

 

「後ロハ共和国軍ダ」

 

「だからだ」

 

「ナルホド」

 

 スプールは笑いかけたが、天井から落ちた火花に顔を上げた。B1が頭を抱え、警戒の兵に押されて壁へ寄る。その背後を、入口で撃たれた兵の担架が通った。

 

 まだ意識はあった。運ばれる兵がブラケットの居場所を訊き、リブは先に戻していると答えた。次に何か言おうとした口元へ衛生兵が酸素の管を当てる。ドロイドは両手を上げたまま、担架の通る幅を空けた。

 

 ベイランはその顔を見届け、先へ向いた。立ち止まると、後ろの全員も止まる。

 

 隔壁を越えた先でも、床は主砲の反動を伝えていた。通路の案内表示は消えている。テザーが工兵の端末を照らし、分岐を一つずつ数える。図と同じ場所に扉があっても、その向こうまで通れるとは限らなかった。

 

 外の艦隊から短い通信が来た。増援の到着予定まで七分。ただし、最後の確認が取れていない。

 

「ヴァラリアン少将、こちらはまだ中継へ着いていない」

 

『《エンヴォイ》が三分で砲を減らします。《インヴィオレート》も、これ以上は前へ出せません』

 

 回線の向こうで警報が鳴った。ベイランは足を止めず、通路の先へライト・セイバーを向けた。オレンジの光に、隔壁の閉鎖装置と、その手前に散った部品が浮かぶ。

 

「中継区画まで、隔壁が一枚だ」

 

 返事を待つ前に、角の向こうから連射が来た。

 

 最後の隔壁の前に、デストロイヤー・ドロイドが二体いた。

 

 球状の盾の中で砲が連射され、通路の床が次々に欠ける。先頭の分隊は角へ退いた。ベイランは光弾を弾きながら下がり、テザーの肩を壁へ押しつけた。すぐ脇を赤い光が通った。

 

「このまま押せますか」

 

「押せば、後ろの兵に当たる」

 

 ベイランは頭上を見た。砲の給電系に沿う冷却管が、隔壁を迂回して天井へ伸びていた。その奥に狭い点検通路がある。船内図では、その通路から砲の配電盤と中継装置へ回れる。

 

「天井へ穴を開ける。工兵は、あの点検通路へ入れるか」

 

「入れます。水よりはいい」

 

 スプールは点検口の幅を見て、工具袋を肩から下ろした。

 

「まず、あの二体を」

 

 ベイランはライト・セイバーを構え直した。正面へ進み、二体の銃口を自分に追わせる。三歩。四歩。戻る余地がなくなる前に、彼は片手を上げた。

 

 右のドロイドが盾ごと壁へ滑った。左の砲がそれを追い越し、ベイランの立っていた床を削る。その一瞬に、彼はもう天井へ跳んでいた。

 

 オレンジの刃が管を切り、漏れた冷却液が白く噴いた。視界の向こうで二体が射撃を続ける。ベイランが着地した時、テザーの投げた小さな爆薬が、盾の縁をゆっくり転がっていた。

 

「伏せろ!」

 

 通路を爆発が満たした。盾が消えた一体へクローンの銃が集中する。もう一体は脚を折られ、床の上でまだ砲を動かしていた。ベイランは懐へ入り、銃身を根元から断った。

 

 スプールが天井の切れ目へ身体を押し込んだ。リブが工具袋を押し上げ、後ろから別の工兵が続く。十数秒後、配電盤を見つけたという声が入る。

 

「全部落としますか」

 

「中継と砲だ。艇のいる区画の電源は残せ」

 

 テザーが答えた。

 

 灯りが半分消えた。それでも足の下の振動は一度、二度と続いた。ベイランはまだ終わっていないとテザーへ合図し、通路の先を向いた。点検口から工具が鳴る音がする。

 

「もう一つ、奥です」

 

 スプールの声だった。少し後で、次に来るはずの振動が来なくなった。艦橋から搬入口へ届いていた閉鎖命令も途切れる。

 

 B1が天井を見上げた。

 

「照明ノ故障モ、ワタシノ報告ニナリマスカ」

 

「今は黙っていろ」

 

 リブが言った。ドロイドは口元へ指を当て、それから自分に唇がないことを確かめるように手を下ろした。ベイランは外への回線を開き、壁へ片手をついた。呼吸が荒い。肩の装甲に開いた傷から、下の服が見えている。

 

「ヴァラリアン少将。こちらの中継は止めた」

 

 通信の向こうで、何かが大きく爆ぜた。

 

 砲の振動が消えた後も、銃声は消えなかった。艦内のB2は、それぞれの照準で撃ち続けている。入口を持つ小隊から、補助電源で閉鎖装置を動かそうとするドロイドが来たと報告が入った。

 

「退路へ戻る。工兵、切った場所を送れ。入口の電源には触るな」

 

 スプールが点検口から下りた時、反対の通路からB2が現れた。最初の一発が彼の胸へ入り、工具袋が床へ落ちる。ベイランは敵を斬り、倒れた兵へ戻った。リブが肩を支え、衛生兵が装甲の留め具を外している。

 

「スプール」

 

 返事がなかった。衛生兵は処置を続けたが、やがて手を止めた。ベイランは数秒、その顔を見た。呼吸器の水槽を覗き込んでいた兵だった。

 

 入口から、閉鎖装置を押さえきれないと通信が入った。

 

「運ぶ」

 

 ベイランは言った。テザーが肩を担い、リブが脚を持った。

 

 ベイランは最後尾を受け持った。負傷兵を二人で運ぶ組を先に通し、衛生兵の背中が角を曲がるまで待つ。さっき穴を開けた隔壁へ戻ると、スプールの工具袋が扉に引っ掛かった。リブは袋を外し、ベルトに留め直した。ベイランは両手でライト・セイバーを構え、三人の後ろを守った。

 

 帰り道には、来る時より多くの時間が要った。

 

 B1は警戒の兵に挟まれ、工具袋と担架を避けながら歩いていた。さっきまで一緒に動いていた工兵が運ばれてくると、立ち止まりかける。兵に進めと言われてまた歩いた。もう、人数を声に出して数えることはなかった。

 

 ベイランは角を曲がるたび、一度だけ後ろを見た。倒れたドロイドはそのままにしてきた。こちらの兵を運び切るだけでも、歩ける者の手は足りなくなっていた。

 

 *

 

《トールキーパー》、搬入口への通路

 

 入口の手前で、隊が止まっていた。

 

 搬送用の架台が横倒しになり、担架が通れなくなっている。リブと別の兵が押したが、支柱が床の溝へ噛んでいた。ベイランは片手を伸ばし、持ち上げる。肩に鋭い痛みが走った。架台は少し浮き、その隙間へリブが足を差し込んだ。

 

「離せます」

 

 リブの声に手を下ろすと、架台が壁へ倒れた。ベイランは呼吸を整える間だけ、艦外の通信を聞いた。

 

 《プレカーサー》の搬送架が止まっている。被弾したが、扉は閉めていない。甲板員が牽引車を出して床を空けているという。十八分で終える予定の収容は、まだ続いていた。

 

「着けるのか」

 

 テザーが訊いた。

 

『着ける。艇は一隻ずつ入れてくれ』

 

 ダス艦長の声だった。ベイランはその短い答えを、隊の中にも流してもらった。戻る場所が、まだ同じ声で返事をしている。

 

 新しい呼出しが入った。

 

『タスクフォース41、ダーヴェン。六隻到着。ヴァラリアン打撃群、応答を』

 

 妨害で最後が消え、同じ声が繰り返す。三度目に、シーアが答えた。

 

『回収点と、突入した五隻の帰路をお願いします。《トールキーパー》にはまだ兵がいます』

 

 テザーが時刻を見た。予定より三分遅れていた。遅れた三分の間にも、通路の角からは敵の銃口が出てきていた。

 

 ベイランは、到着の連絡を二度聞いた。通路の先を照らしていたクローンが振り向く。

 

「来てくれた。戻ろう」

 

 搬入口へ着くと、ブラケットが艇の床に寝かされていた。脚の固定を終えたばかりで、上体だけを起こしている。彼はテザーにチョックの艇を訊いた。テザーは未収容と答えた。

 

「見えていないだけか」

 

「まだ確認できていない」

 

 ブラケットは口を閉じ、担架を入れる場所を空けた。ベイランは艇の操縦席を見た。二人とも知っている顔だったが、チョックでもスキッドでもなかった。

 

 スプールを乗せる時、B1が段の前に立ってしまった。警備の兵が脇へ寄れと言うと、ドロイドは壁へぴたりと身体を付けた。リブは脚を持ち直して中へ上がり、最後に工具袋を引き上げる。

 

「捕虜も乗れ」

 

「コノ艇ニ?」

 

「ほかに空いているか」

 

 B1は格納区画を見回し、首を横に振って乗った。警備の兵が続く。空いた座席には負傷者を座らせ、ドロイドは入口から離れた壁へ固定された。

 

 ベイランは外に残った。動けない艇から乗員を移し、歩ける兵を先に別の艇へ送る。残っているのが自分とテザーだけになるまで、ライト・セイバーを消さなかった。

 

 外で新しい斉射が光った。《ジャベリン》の名が回線へ入り、共和国の五隻が乱戦から抜けたと続く。《ヴァリアント》は傷んだ《インヴィオレート》を伴っている。ソーンの《エンヴォイ》も、シーアの《ハービンジャー》も出た。

 

「将軍」

 

 テザーが艇から呼んだ。

 

 ベイランは最後の光弾を弾き、段へ跳び乗った。扉が閉じる。足が床へ着くより早く、艇は動いた。

 

「艦内の部隊、離脱。帰投する」

 

 テザーが告げると、ダーヴェンの二隻が後ろへ砲火を置いた。追ってきた敵機が散ったことは、操縦士の声で分かった。もうベイランの座った位置から外は見えない。

 

 操縦士が、《トールキーパー》の主機がまだ動いていると知らせた。通信を失った敵艦は、砲火を交わす二隻のプロヴィデンス級の後ろへ退いていく。ベイランは追えとは言わず、ダス艦長への回線を確かめた。

 

 彼はようやくライト・セイバーを消した。オレンジの色が消えると、指の間に血が付いていた。自分の肩のものか、運んだ兵のものかは分からなかった。

 

 リブがスプールの工具袋を膝へ置いている。中隊長のブラケットは、隣の負傷兵へ自分の水を渡した。B1はその動きを頭だけで追ったが、何も言わなかった。

 

 《プレカーサー》への進入許可が来た。艇が一度だけ向きを変え、次に揺れた時には床へ着いていた。

 

 外で甲板員が艇体を叩いた。扉を開けてよいという合図だった。

 

 帰ってきた。ベイランはその音を聞いてから、安全帯を外した。

 

 *

 

《プレカーサー》、格納区画

 

 シーアの艇が下りた時、格納庫の床にはまだ海水が残っていた。

 

 避難してきた人々が壁際へ寄り、その前を150連隊の担架が通る。二人のクローン兵が並んでヘルメットを外すと、子供が顔を見比べ、母親の服を掴んだ。片方の兵が手を振ったが、子供は隠れた。兵は少し困って、ヘルメットを膝へ戻した。

 

 シーアは艦隊の交代をコルヴェンに任せ、セルトへ行き先を伝えて渡ってきた。旗艦の通信はここでも受けられる。いま、彼が艦橋へ戻らなければ決まらないことはなかった。

 

 セレナはシーアの後ろで一度立ち止まった。ケレンが携帯の飲み物の容器を持ち替え、医療員の通る側を空ける。二人とも、艦内で待っているより本人のそばで休ませた方がよいと考えてついてきたが、声を掛けるのは後にした。

 

 ベイランは着いた艇の脇に座り、肩の装甲を外していた。手当てをする衛生兵の向こうに、テザーが立っている。

 

「先遣隊、死者十一、負傷者二十九。未収容二」

 

 テザーはシーアへ報告した。それから自分の端末へ目を戻す。

 

「チョックとスキッドです。最初に撃たれた艇の操縦士。ブラケットの中隊の便を担当していました」

 

 名前を聞くと、ベイランが顔を上げた。シタデルで担架の固定を確かめていた二人だった。あの時は二人とも艇の中にいた。今は、その二人を運ぶ便がない。

 

「捜索は続いています」

 

 シーアは言った。それ以上のことは約束できなかった。

 

 ブラケットは担架から降りようとして、衛生兵に止められた。脚は固定され、長靴の片方が切り開かれている。彼はテザーへ二人の名をもう一度訊き、聞き違いではないと分かると口を閉じた。

 

 リブが工具袋を持ってきた。

 

「スプールのです。所持品の方へ?」

 

 テザーは頷いた。袋の留め具に赤い汚れが付いている。中から短い工具が一本落ち、リブは拾って同じ場所へ戻した。迷わず戻せるほど、いつも隣で見ていた手順だった。

 

 ベイランはその袋を見ていた。床が見えない水は嫌だと言っていた声を、シーアは知らない。シーアが覚えているのは、ベイランとミルダーンへ降り、戻ってきた兵の名までだった。

 

「君の連隊のことを、僕はまだあまり知りません」

 

 シーアが言うと、ベイランは小さく頷いた。

 

「これからだ」

 

 そう答えた後で、視線を袋から外した。これから知ることができない者も、ここにいる。

 

 甲板の向こうでB1が手を上げた。

 

「腕ハ、マダ下ロセマセンカ」

 

 警備のクローンが、まだだと答えた。武器はなく、通信装置も外されている。それでも銃口を向けるべきか、ただ見ていればよいか分からないらしかった。

 

 ベイランが、身体検査は済んだかと訊いた。済んでいるという。では下ろしてよいと言うと、B1は両腕をゆっくり下げ、また片方を上げた。

 

「質問ガアリマス」

 

「今度は何だ」

 

「ワタシハ、誰ノ捕虜デスカ」

 

 リブが工具袋を持ったまま振り向いた。

 

「記録には俺の名前を書け。リブだ」

 

「リブ。了解、了解」

 

 警備兵が受領端末を出した。冗談のような声の後にも、捕虜を引き渡す欄はあった。リブは片手で自分の識別を押し、袋を抱え直した。

 

 衛生兵がベイランの肩に最後の留め具を付けた。ベイランは立ち上がろうとして、少し顔をしかめる。シーアが手を貸す前に、セレナが空いた箱を二人の後ろへ寄せた。

 

「ここで座ってください。通路は空いています」

 

 ケレンが温かい飲み物を二つ渡した。シーアは一口飲んでから、ベイランを見た。

 

「増援は三分遅れました」

 

「分かっている」

 

 鋭い声だった。シーアはカップを持ったまま止まった。ベイランの視線は、工具袋が運ばれていった方にあった。

 

「来なければ、道を変えるつもりだったんです」

 

 それも弁解に聞こえた。言い直そうとしたが、ベイランが先に口を開いた。

 

「……君に言ったのではない」

 

「僕に聞こえました」

 

 ベイランは顔を向けた。怒りの残る目を見て、シーアは続けようとした言葉を飲み込んだ。向こうも何も言わず、カップを箱へ置く。置いた時に肩が痛んだらしく、手を離すまでに時間がかかった。

 

 シーアは戻りの艇の時刻を確かめた。すぐ帰れる。けれど、ブラケットはまだ格納口を見ていた。彼は時刻の表示を消し、箱の上で座り直した。

 

 セルトから連絡が入り、セレナが受け取った。コルヴェンとダーヴェンが交代を終えている。3群でその夜も使える艦は十二隻。《インヴィオレート》は修理へ下げた。借りた六隻が前へ出たので、当直を替えられる。

 

 セルトは《ハービンジャー》の前部装甲と砲座、《アクレイム》の被弾区画についても伝えた。どちらも戦列には残せるが、休ませる順番を待っている。シーアはコルヴェンに任せると答え、通信を終えた。

 

 海中では、アナキンたちとグンガン軍が敵の手にあった。リー=チャーとアソーカはまだ捕らえられていない。今日の砲戦で、そこまでは変わらなかった。

 

 ダス艦長が次の避難艇を四十分後に受けると知らせた。甲板員たちが床を空け始める。シーアとベイランは箱から立ち、邪魔にならない壁際へ移った。セレナが軽い毛布を持ってきて、シーアの肩へ掛ける。

 

「あとで返します」

 

「私のものではありません。艦の備品です」

 

 ベイランが自分にも一枚欲しいと言った。ケレンはもう一枚を探しに行き、戻る途中でリブにも飲み物を渡した。

 

 格納口の方で灯りが変わった。ブラケットが顔を上げたが、来たのは新しい避難艇の予告だった。彼はまた座り直した。テザーは二人の操縦士の欄を閉じなかった。

 

 シーアが返したカップには、半分ほど残っていた。ケレンは何も訊かずに受け取った。隣でベイランが毛布を引き上げる。次の艇を迎えるために甲板員が声を掛け合い、シーアも格納口へ顔を向けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。