STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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今話から原作が大きく関わってきます。
33BBY、エリアドゥ・サミット


命令者

C.R.C. 7944.216

 

 婚約は、シーアが思っていたより早く成立した。

 

 両家の代表と数人の官吏が集まった部屋で、確認事項が読み上げられた。今後の教育、成年後の扱い、相続に関わる取り決め、外交儀礼上の席次。分かる部分もあれば、説明を聞いても自分にどう関わるのか想像しにくいものもあったが、どれも事前に両家が調整していた内容だった。

 

 確認が済むと、二つの紋章を付けた文書が差し出された。シーア自身の署名も必要だった。隣ではエレナが先に書き終えている。シーアは最後の線を引き、自分の名前をもう一度確かめた。

 

 認証官が両家の署名を確認し、記録を閉じた。

 

「以上をもちまして、正式な婚約成立となります」

 

「これで終わりですか?」

 

「はい、殿下」

 

 シーアは隣を見た。エレナもこちらを向いている。朝、部屋へ入る前と何も変わっていなかった。

 

「昨日と同じだね」

 

「急に何か変わると思っていたんですか?」

 

「少しは」

 

 何が変わると思っていたのかまでは、答えられなかった。エレナは少し笑い、前へ向き直った。

 

「では、同じでいいでしょう」

 

 背後でアルドレンが軽く咳払いをした。シーアも姿勢を正し、両家の挨拶を聞いた。

 

 廊下へ出ると、すぐにセレナを探した。

 

「《タイラント》へ行くのは、何時だっけ」

 

「その前に、エレナ様へ何かおっしゃることはありませんか?」

 

 シーアは足を止めた。隣のエレナを見て、少し考える。

 

「これから、よろしく」

 

 エレナも、すぐには答えなかった。

 

「はい。こちらこそ」

 

 言い終えると、二人とも少し照れたように目を逸らした。シーアはセレナへ向き直る。

 

「それで、《タイラント》は?」

 

 セレナが目を閉じたので、エレナはとうとう笑った。

 

 

 《タイラント》へ向かうシャトルは、エリアドゥ政府のものだった。

 

 窓の下で都市が小さくなり、工業地帯と輸送路が一続きに見えてきた。やがて雲が視界を覆い、その上へ抜けると、巨大な灰色の船体が現れた。

 

 昨日より近かった。全体を見渡そうとしても、窓の端に遮られる。装甲板の継ぎ目、センサー群、通信アンテナ、大型砲塔。さっきまで一隻の船だったものが、近づくにつれて、いくつもの建物を載せた壁のように見えてきた。

 

 シーアは窓際で、ほとんど口を開かなかった。エレナが隣から顔を覗き込む。

 

「今日は静かなんですね」

 

「まだ見てるから」

 

「喋りながらでも、見られるでしょう」

 

「今は、ちょっと待って」

 

 シャトルが艦の側面に沿って進むと、シーアの指が窓の向こうを追った。

 

「一、二、三……」

 

「昨日の砲を数えているんですか?」

 

「うん。今見えたところだけで六基」

 

 エレナも同じ場所を見た。砲塔を見つけることはできたが、すぐに別の構造物の陰へ隠れてしまう。

 

「全部数える前に、着いてしまいそうですね」

 

「反対側もあるから、ここからじゃ無理だと思う」

 

 シーアは少し残念そうに答えたが、格納口が見えてくると、すぐにそちらへ目を移した。

 

 船体に開いた小さな穴だと思っていたものが、近づくほど大きくなる。複数のシャトルを同時に収容できるほどの幅があり、その奥には荷役設備と待機中の小型艇が見えた。

 

 誘導灯に沿って進むと、窓の外が人工照明に変わった。着艦の振動が伝わり、シーアは腰を浮かせかけた。

 

 セレナが袖を軽く押さえた。

 

「拘束装置の解除を待ってください」

 

「もう着いたよ」

 

「お立ちになってよいという表示は、まだ出ていません」

 

 シーアが座り直すと、すぐに表示が切り替わった。エレナが小さく笑い、今度は一緒に立ち上がった。

 

 

 格納庫では、ターキンが艦の士官二人を伴って待っていた。周囲では荷役と整備が続いており、一行のために空けられた通路の向こうを、作業員やドロイドが行き交っている。

 

「婚約成立、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

 シーアが礼を返す。エレナも隣で頭を下げた。

 

「ありがとうございます、ウィルハフおじさま」

 

「今日から、正式な婚約者というわけだ」

 

「昨日と、何も変わりませんけど」

 

 エレナが言うと、ターキンの口元がわずかに動いた。

 

「重要な制度ほど、見た目には何も変わらないものだ」

 

 シーアは挨拶を終えると、格納庫の奥へ目を向けた。大きな区画の中でも、壁面や機材の色合いには違いがある。

 

「ここも改修したんですか?」

 

「もう始めますか。結構です」

 

 ターキンは歩き始めた。

 

「ただし、本艦はサミットの警備任務中です。御案内する区画以外には入らないように」

 

「機関室は、見られませんか?」

 

「本日の見学には含めていません」

 

 答えは早かった。シーアが少し考えている横で、エレナが笑いを堪えていた。

 

「では、反応炉の配置が分かる図面は」

 

「お渡しできません。砲の更新に関わる説明は、この先でさせましょう」

 

 それ以上は通らないと分かったらしく、シーアは頷いた。エレナが小声で言う。

 

「聞いてみるだけでしたね」

 

「まだ、ほかにも見るところはあるよ」

 

 シーアは前を向き、ターキンの後に続いた。

 

 

 最初に案内されたのは、主砲管制の補助区画だった。

 

 砲術士官が見学用の表示を開くと、《タイラント》の簡略図が壁面に映った。砲塔の位置と射界に続き、給電や冷却の仕組みを示す模式図が現れる。

 

「今回の改修では、主砲群の大半をDBY-817系へ更新しました。一部の砲は、従来のものを残しています」

 

 シーアは図へ近づいた。

 

「全部同じにはしなかったんですか?」

 

「交換するには、砲塔を載せる部分も合わせなければなりません。既存の船体へ、そのまま取り付けられるわけではないのです」

 

「下の台も替える?」

 

「砲塔基部だけでは済みませんな」

 

 ターキンが言った。

 

「給電線、冷却系、火器管制。それに、砲塔の荷重を受ける構造も確認する必要があります」

 

 砲術士官が表示を切り替えた。新しい設備と、残した設備が色分けされ、その間を接続する系統が示される。砲塔の下へ降りていった線は、さらに別の区画へ伸びていた。

 

「この砲を載せるために、そこまで工事するんだ」

 

「必要な範囲を決めて改修します。すべてを交換する方がよいとは限りません。現在の設備を使えるところは、残した方が早く仕上がります」

 

 シーアは、古い設備から新しい設備へつながる線を目で追った。

 

「反応炉を替えたのも、砲が新しくなったからですか?」

 

「それも理由の一つです」

 

 ターキンが答える。

 

「新しい兵装やセンサーを動かし、必要な出力を確保するために、機関側も更新しています」

 

「船体は、そのまま使っているんですよね」

 

「船体にも手は入っています。ただ、骨格から何もかも取り替えるわけにはいきません」

 

 ターキンは図面から顔を上げた。

 

「この先を歩けば、その意味も分かるでしょう」

 

 

 補助区画を出ると、通路はシーアが想像していたより狭かった。

 

 四キロを超える艦なのに、作業員とすれ違う時には、一行が壁際へ寄らなければならない場所もある。頭上には配管が通り、古い隔壁の上から新しい設備が取り付けられていた。新型端末の隣に、手動の操作盤が残されている箇所もあった。

 

「外はあんなに大きいのに、中は広くないんですね」

 

 シーアが言うと、ターキンは通路の先を見た。

 

「大きな艦だからといって、空いた場所が多いわけではありません。装備と、それを動かす設備を収めた残りを、人が使うのです」

 

 角を曲がると、工具箱を積んだ小型ドロイドが待っていた。その奥では床板が外され、整備員が配線を調べている。セレナが二人を自分の側へ寄せ、作業の邪魔にならないところで待たせた。

 

「まだ工事しているんですか?」

 

 今度はエレナが尋ねた。

 

「大規模改修は終わっています。これは日常の整備です」

 

 ターキンは、取り外された部品を受け取る作業員へ目を向けた。

 

「艦は、ドックを出た瞬間から次の整備が始まる」

 

「ずっと、誰かが直しているんですか」

 

「この大きさですから、どこかで作業をしています」

 

 エレナは通り過ぎる乗員たちを見た。工具を持つ者もいれば、書類を確認しながら歩く者もいる。格納庫からここまで来る間だけでも、大勢とすれ違っていた。

 

「この船を動かすのに、何人くらい必要なんですか?」

 

「数万人規模です」

 

 エレナの目が少し大きくなった。シーアも整備員から顔を上げる。

 

「自動化しても、それくらい要るんですか?」

 

「人員を減らせた部署もあります。ですが、この艦の設備すべてを、新しい自動化機器に置き換えたわけではありません」

 

 シーアは、先ほど通り過ぎた手動操作盤を思い出した。新しい端末があるからといって、その周囲まで全部新しくなったわけではない。

 

 エレナは、床下へ半身を入れた整備員を見ていた。

 

「砲を撃たない日も、これだけの人が働いているんですね」

 

「撃たない日の方が多い。それでも、艦の仕事は続きます」

 

 作業員が通路の端へ工具を寄せ、一行へ道を空けた。エレナが礼を言い、シーアもその後に続く。

 

 歩きながら壁際の配管を見ると、途中に新しい継ぎ目があった。昨日、窓越しに砲塔を見ていた時には、その下でこうした作業が続いているところまでは想像していなかった。

 

 

 補給区画では、荷を載せた台車が絶えず動いていた。

 

 食料、交換部品、医療物資、冷却材。容器の表示ごとに行き先が分かれ、奥の作業場では小型艇用の部品を確かめている。別の区画へ向かう台車には、弾薬を示す表示があった。

 

 エレナは、食料の容器が並んだ場所へ顔を向けた。

 

「これも全部、《タイラント》で使うんですか?」

 

「一部は、ほかのサミット警備部隊へ渡します」

 

 補給士官が答えた。

 

「もちろん、本艦だけでも相当な量を使います。艦を止めている間も、乗員の食事は要りますから」

 

「水も、運んでくるんですか」

 

「艦内で循環させていますが、補給が不要になるわけではありません」

 

 エレナは容器から、通路を行き交う乗員たちへ目を移した。これだけの人数が毎日食べて、水を使う。その一人一人を、さっきから通路で見ているのだった。

 

 シーアは、交換部品を積んだ台車を見ていた。

 

「部品も、毎日要るんですか?」

 

「点検で交換するものもありますし、故障のために必要になるものもあります」

 

「いつも、どこか壊れている?」

 

「何かしらは」

 

 補給士官が答えると、シーアは少し気になった様子でターキンを見た。

 

「それでも、動かしていいんですか?」

 

「故障の内容によります。一つの機器が止まるたびに任務を中断するようでは、軍艦として役に立ちません」

 

「予備を使うんだ」

 

「予備の系統へ切り替えることもあります。損傷した場所を迂回させ、応急修理で持たせることもある。すべてが完全でなくても、必要な仕事を続けられるようにしておくのです」

 

 シーアは頷き、倉庫の奥を見た。

 

 LRS-138に乗るケイは、飛行中も機体を調べ、手の届くところを修理すると聞いた。《タイラント》では、そのために大勢の乗員がいて、交換する部品を積んだ倉庫や、部品を直す作業場まである。

 

「船というより、街みたいですね」

 

 エレナが言った。

 

「動く街だ」

 

 シーアが頷くと、エレナは振り返った。

 

「街はターボレーザーを撃たないでしょう」

 

「エリアドゥなら、分からないよ」

 

 ターキンが軽く咳払いをした。

 

「その話は、市政府の前では控えていただきたいですな」

 

 エレナが笑った。シーアも少し笑ってから、もう一度倉庫へ目を向けた。

 

 

 艦橋へ向かう途中で、ターキンに通信が入った。

 

 やり取りは短かったが、受信を終えると、ターキンは案内役の士官へ声をかけた。それから二人へ向き直る。

 

「申し訳ありませんが、私は地上へ戻ります。この先は艦長に案内させましょう」

 

「サミットの会議ですか?」

 

 シーアが尋ねた。

 

「その前の調整です」

 

「会議のために、また会議をするんですね」

 

 エレナが言うと、ターキンは短く頷いた。

 

「必要なら、その調整のための打ち合わせもします」

 

「多すぎる」

 

 シーアが顔をしかめた。

 

「その点には同意します」

 

 即座に答えられ、シーアは少し笑った。ターキンは案内役に残りの予定を確認してから、二人へ軽く礼をする。

 

「艦橋まではご覧ください。見学が終わりましたら、地上へ戻るように」

 

「また来てもいいですか?」

 

「サミットが無事に終われば、考えましょう」

 

「約束ではないんですね」

 

「ええ。艦の任務が優先です」

 

 ターキンはシーアを見た。

 

「その違いを覚えておけば、政治家の話も聞きやすくなるでしょうな」

 

 そう言って、一行とは別の通路へ向かった。

 

 

 同じ頃、エリアドゥ・シティのセスウェナ・ホールでは、サミットを前にした調整が続いていた。

 

 アルドレンの前には、提案書と修正文書が何種類も並んでいた。中心にあるのは、ヴァローラム最高議長が持ち込んだ妥協案だった。

 

 自由交易区域への課税を認めさせる代わりに、通商連合をはじめとする大規模通商組織へ、従来より広い自衛武装を認める。海賊や武装勢力に対処する能力を企業自身に持たせ、その特権に対して共和国が課税するというものだった。

 

 現実的な案ではあった。共和国司法軍には、銀河中の通商路を直接守るだけの艦艇がない。企業の武装船はすでに航路を守っている。それを共和国法の枠内に収め、課税についても合意を得ようとしていた。

 

 ヴァルコス家の代表が、議長側との協議内容をまとめた文書を置いた。

 

「武装枠については、さらに譲歩できるそうです。船腹量と航路規模に応じて上限を設け、護衛艦、戦闘機、警備ドロイドを認める。重装備は個別承認とする方向です」

 

「通商連合側の反応は?」

 

「課税率次第では、受け入れる可能性があります。武装の拡大を認められるなら、税についても交渉の余地はあると」

 

 別の代表が口を開いた。

 

「実際、司法軍が代わりに守れない以上、企業の自衛を認めるほかないでしょう」

 

「分かっている。議長の案にも理屈はある」

 

 アルドレンは文書から顔を上げた。

 

「では、公王殿下も支持を?」

 

「しない」

 

 資料をめくる音が止まった。

 

 アルドレンは航路図を開いた。自由交易区域と主要なジャンクション、港、補給拠点。その間に企業の護衛航路と司法軍の駐留点を重ねると、両者の密度の違いがはっきりした。

 

「共和国が税を取り、航路を守るのは企業だ。加盟世界は、食料も原材料も、企業の船に守られて届くのを待つことになる」

 

「現状も、そう大きくは変わりません」

 

「だから問題なんだ。徴税権を主張する者と、実際に力を持つ者が違う。では、その航路を統治しているのは誰だ?」

 

 向かいの代表が、司法軍の駐留点を指した。

 

「ここを、すぐに司法軍へ置き換えることはできません。艦を発注してからでは間に合わない」

 

「一度に置き換えろとは言っていない」

 

 アルドレンは別の資料を開いた。新設する哨戒区と、それを支える施設の整備案だった。航路標識、救難ステーション、識別と管制の設備、税関検査施設。地域防衛軍と連絡を取るための通信規格も含まれていた。

 

「主要区間から始める。課税する航路には共和国の管制を置き、救難と哨戒を行う。税を集める窓口だけを作るのでは、今と何も変わらない」

 

「その整備を、税収で賄うのですか」

 

「そのための税だ。艦だけを増やしても動かせない。基地、人員、補給まで含めて、整備する区間を決める」

 

 ヴァルコス家の代表が、企業の武装に関する項目を確かめた。

 

「では、移行するまでの企業の護衛は認めると」

 

「明日すべて取り上げる必要はない。艦種と兵装を登録させ、共和国管制下の航路では行動規則に従わせる。地域防衛軍との通信も合わせる」

 

「最終的には、武装を縮小させるお考えですか?」

 

「共和国が代わりの仕事をできるようになればな。守る船を引き上げさせたあとで、こちらの準備がまだだと言うわけにはいかん」

 

 窓際の席にいた男が、資料を机へ戻した。

 

「議長案より、はるかに大きな改革です。税と武装の条件だけでも意見が割れているところへ、司法軍の増強と施設の新設まで加えることになる」

 

「だから反対が多い」

 

 アルドレンは率直に答えた。

 

「議長案なら、共和国は税収を、通商連合は武装拡大の許可を持ち帰れる。双方に、合意したと説明できるものがある」

 

「公王殿下の案では?」

 

「共和国が責任を持ち帰る」

 

 しばらく誰も口を開かなかった。航路図の上には、これから設けなければならない拠点が表示されたままだった。

 

「高くつきますな」

 

「統治とはそういうものだ。金を取ることだけを、主権とは呼ばない」

 

 ヴァルコス家の代表が、手元の修正文書へ目を落とした。

 

「課税条項だけなら、先に合意できるという声もあります。まず歳入を確保し、使途は別途審議するという形です」

 

 アルドレンが顔を向けた。

 

「それは、議長の案ですらない」

 

「武装の拡大も司法軍の整備も、課税の成立条件から外すということです。財政側は、その方が早いと」

 

「議長案には交換条件がある。私はその内容に反対しているのであって、交換条件だけを取り除けばよいと言っているのではない」

 

 アルドレンは修正文書を引き寄せた。課税に関する文言の後には、航路の保護について何も定められていなかった。

 

「税を取るなら、何かを引き受けるべきだ。ヴァローラム議長は、企業の自衛能力を認めることで、その取引を成立させようとしている」

 

 文書を机へ戻す。

 

「私は、共和国自身が引き受けるべきだと言っている」

 

 窓の向こうを、《タイラント》がゆっくりと横切った。大規模な改修を終え、サミットの警備に就いている古い巨艦だった。

 

 アルドレンは一度だけそちらを見た。今、会場の上空を守っているのは、エリアドゥの艦だった。

 

 

 《タイラント》が軌道の警備航路へ戻る頃、シーアたちは艦橋へ案内された。

 

 思っていたより静かな場所だった。低い声で報告が交わされ、受け取った士官が表示を確認する。指示が出ると、担当の乗員が短く復唱した。シーアが想像していたように、誰もが声を張り上げているわけではなかった。

 

 艦長が挨拶をし、一行を窓際へ案内した。

 

「本艦は、この先で指定の警備航路へ入ります。進路を変えますが、そのまま御覧になっていて結構です」

 

 窓の向こうにはエリアドゥの縁が広がり、明るい大気の帯の外には星が見えていた。遠くを進む政府船や貨物船の航行灯が、その手前を動いている。

 

 シーアは窓へ近づいた。エレナも隣へ来る。

 

「高いね」

 

「地上から見ていた時とは、違いますね」

 

 エレナは艦首の方へ目を向けた。高い艦橋からは、自分たちの乗っている艦の一部も見渡せた。シャトルで近づいた時には壁のようだったものが、今は遠くまで続く船体として見える。

 

 小さな政府船が、指定された航路へ入っていった。その向こうには貨物船があり、さらに遠くには通商連合の環状船体も見えていた。

 

「あっちからも、こっちを見てるのかな」

 

「これだけ大きければ、見るでしょう」

 

 エレナが答えると、シーアはしばらく艦首の先を眺めていた。

 

「戦おうとしていた相手が、これを見てやめることもあると思う?」

 

 エレナはシーアを見た。

 

「私は、これと戦いたくはありません。近くで見ると、大きすぎて少し怖いです」

 

「それも大事なんだと思う」

 

 シーアは頷き、それから艦橋の床へ目を落とした。

 

 この下にも通路があり、配管が走り、整備員が働いている。補給区画では、まだ台車が動いているのだろう。数万人という数を思い返すと、さっき通路ですれ違った人々や、荷を運んでいた作業員の姿が浮かんだ。

 

「砲を数えるだけでも、一日かかりそうだったのに」

 

「ほかにも、たくさんありましたね」

 

「うん。砲の下まで見てたら、全然終わらない」

 

 エレナが笑った。シーアも少し笑い、もう一度窓へ向き直った。

 

 古い船を使い続けるために、新しい装備を載せる。その装備を動かすために、また別の場所を直す。今日もどこかが故障し、部品が運ばれ、乗員が修理している。食料や水の手配も、その間ずっと続いていた。

 

 クアットで見た改装工事の先に、こういう毎日があるのだった。

 

「エレナ。昨日より、すごいと思った?」

 

 エレナは艦橋を見回した。乗員たちは、先ほどと同じ調子で仕事を続けている。

 

「昨日より、少しだけ」

 

 シーアが嬉しそうにすると、エレナは付け加えた。

 

「大変そうだと思いました」

 

 シーアは一瞬黙り、それから笑った。

 

「そっち?」

 

「そっちです」

 

 艦橋で新しい航路指示が読み上げられた。《タイラント》がゆっくりと船首を巡らせ、窓いっぱいの星空が動いた。その下で、エリアドゥの光が傾いていく。

 

 シーアはその動きを黙って見ていた。

 

 昨日までは、この船は巨大だからすごいと思っていた。今日は、これほど巨大なものが、動き続けていることの方が少しだけすごいと思った。

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