STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7956.222 テルヴァーン星系、銀河平面座標 R-7、パーレミアン交易ルート支線、ヴァル市低地、評議会前広場
ロエン・ダスは、帰りに買う物を忘れないよう、手の甲へ三本の線を引いていた。
照明の交換部品。夕食に入れる豆。娘の靴の留め具。端末に書いても、広場にいる間は何度も違う画面を開くので、帰る頃には忘れてしまう。妻にそう言うと、それなら端末を見ずに手を見ればいいと返された。
午前の仕事を終え、そのまま来た。貨物車の整備をしているので、爪の脇にまだ黒いものが残っている。飲み物を売る店が閉まる前に、一杯だけ買おうと思ったが、広場の人の多さを見て諦めた。列を離れれば、戻れなくなりそうだった。
初めの日には、噴水の縁へ座れた。
次の日は階段の下まで埋まり、昨日は同じ工場の者を探すのに、三度も連絡した。今日は、その階段が見えない。肩の上へ掲げられた表示板が、水を売るな、と繰り返していた。
「今日は、代表を中へ入れるそうだ」
隣にいた男が言った。
「昨日も、そう言っていた」
「今日は議員が来る」
ロエンは庁舎の方を見た。低地の地区から選ばれたナヴェル・オルン議員が来ると、朝の放送でも言っていた。民主戦線の代表だった。議員本人の主張を全部知っているわけではない。少なくとも、集会を止めろとは言っていなかった。
ロエンがここへ来たのは、政府を倒すためではなかった。
低地の水を連合の工場へ売り、住民への割当てを減らすという話が出回っていた。議員たちは家族を他の星へ移す準備をしている、とも。最初に聞いた時には笑った。去年、この地区の管を替えたばかりだった。その費用を出した役所が、今年は水を止めるというのはおかしい。
だが、工事図だというものが届いた。知っている通りの名があり、自分の家もその中に入っていた。仕事場では、否定している間に決まってしまったらどうする、と言われた。
役所は別の図を出し、供給を止める計画はないと説明した。説明会から帰った同僚は、普通の管の交換だと言っていた。別の者は、騒ぎになったから資料を書き換えたのだと言った。
ロエンには、どちらの言うことも分かるように思えた。だから、自分でも返事を聞きたかった。
足元で誰かの鞄が膝へ当たった。振り返ると、若い男がブラスターを持っていた。慣れない持ち方で銃床を肘へ引っ掛け、前の人間へぶつからないようにしている。
「それは、要らないだろう」
ロエンが言うと、男は口を結んだ。
「持っていれば、向こうも撃たない」
「誰に言われた」
男は答えなかった。自分たちを守る物だ、とだけ言い、隣の者に引かれて前へ行った。
ロエンはその背中を見送った。来たばかりの頃には、こういう物を持った者はいなかった。
庁舎の前では、警察官が横に並んでいた。通りの車両を止め、歩いてくる者を広場へ入れている。リセン・ドール警部が、拡声器を持って階段の脇へ上がった。子供の学校で見た顔だった。
「代表の方は、こちらへ。ほかの方は、通路を空けてください」
広場から返事が上がった。怒鳴る者もいたが、前の方は少しずつ動いた。ロエンも半歩退き、見知らぬ女が通る場所を作った。女は小さな手提げを胸に抱えていた。中で食事の容器が触れ合う音がした。
その女が、突然、後ろへ倒れた。
ロエンは肩を掴み損ねた。足元へ手提げが落ち、蓋の外れた容器から煮物が石畳へ広がった。熱い湯気が上がっていた。
もう一度、赤い光が通った。
警官だった。
階段の下にいる一人が、こちらへ銃を向けていた。口元は動いていない。何の警告も聞こえなかった。女を起こそうとしていた男が、腕を押さえて座り込んだ。
「撃つな!」
ドール警部の声がした。
「銃を下げろ。下げろ!」
警部が階段を下り、発砲した男の腕へ手を伸ばした。噴水の向こうで別の光が走り、警部の身体が横へ折れた。拡声器が落ち、石畳に当たった音だけが大きく響いた。
ロエンは屈んだ。隣にいたはずの男はいなかった。
誰かが庁舎の方へ撃ち返していた。警察の隊列が崩れ、前へ出る者と後ろへ下がる者がぶつかった。広場の後ろにいる人々は、まだ何が起きたのか知らず、前を見ようとして押してきた。
「戻れ、戻れ!」
ロエンは叫んだ。自分の声が届いたかは分からなかった。倒れた女の手首を引いたが、腕は持ち上がっても、身体がついてこなかった。目は開いたままだった。
通りの奥から、重い機関の音が近づいた。
大型の兵員輸送車だった。警察の車よりもずっと高い。車体の横に、連合の印があった。側面の扉が開き、金属の足が地面を打つ音が続いた。B2スーパー・バトル・ドロイドだった。ロエンは、その灰色の胸を知っていた。
前の攻略戦で共和国の降下部隊を追い返した後、同じ型のドロイドが街を行進した。娘を肩へ乗せて見た。もう空襲警報で眠らなくていいのだと、妻はその夜、窓を開けていた。
今、その腕が上がった。
『武装勢力ヲ排除スル』
どこかで声がした。
ロエンは両手を見せた。手の甲に、朝に引いた三本の線があった。
「違う。俺たちは――」
銃声が重なり、言葉を聞き取れる音ではなくなった。
庁舎に向かっていた人々が、通りへ押し戻された。逃げる人間の背中が光り、次に走ってきた者がその身体につまずいた。噴水の縁で石が割れ、水の中へ破片が落ちた。誰かが立ち上がるたびに、そちらへ射撃が移った。
ロエンは地面へ伏せた。頬に熱い水が触れた。水だと思い、手で拭おうとして、指の色を見た。
横にいた若い男のブラスターが、彼の足元へ滑ってきた。拾わなかった。銃から離れようとして、女の落とした鞄に肘を乗せた。中にはもう一つ、蓋の閉まった容器があった。
家へ連絡しなければならなかった。
端末を開く。指が滑った。一度閉じ、もう一度開いた。呼出しが続く間、靴の留め具は明日でも買える、と考えた。今日は真っ直ぐ帰ればいい。
『どうしたの』
妻の声がした。
ロエンは返事をしようとした。胸が動かなかった。端末を持っている腕だけが、自分の身体から離れた所にあるように見えた。
『ロエン? どこにいるの』
顔を上げれば、庁舎の時計が見えた。昼の休憩はとっくに終わっていた。職場へも連絡しなければならない。そう思ったが、妻へ何を言えばいいのかが、先に分からなくなった。
端末の向こうで、娘が何かを訊いていた。
*
ヴァル市、評議会庁舎
廊下の窓は、まだ割れていなかった。
外の音は厚いガラスに鈍らされ、時々だけ、低い振動が床を通って足裏へ伝わった。職員たちは窓から離れ、奥の部屋へ走っていた。卓の上に置かれた飲み物が揺れ、縁を越えて、誰もいない椅子の肘掛けへ落ちている。
リヴィア・セリンは端末を胸の前へ持ち直した。
淡い灰色の事務服を着ていた。襟元には秘書官室の識別章があり、髪は後ろでまとめてある。廊下に出ていた職員が、政務官はまだ中だと言った。リヴィアは頷き、扉へ進んだ。
中では男が通信していた。
サーヴェン・ローデ政務官。治安行政と、連合駐屯軍との連絡を担当している。リヴィアが読んだ資料では、低地の配水設備を直した時も、警察の装備費を減らして予算を通した時も、この男の署名が最後にあった。
「なぜドロイド大隊が撃ってる!」
ローデは卓へ身を乗り出していた。表示の向こうにいる者は見えなかった。片手に持った別の端末から、市内の通信が途切れずに鳴っている。
「そこにいるのはジェダイでもクローンでもない。我が市民だぞ!」
何か返事があった。
「武装している者がいるのは聞いた。だから全員へ撃っていいことにはならん。警察には撃つなと命じてある。私の名で、今すぐ――」
男は言葉を切り、卓の表示を叩いた。
「……もういい! 私が直接司令部に問い合わせる!」
リヴィアが入ったことに、そこで気づいた。
ローデは顔を上げた。見慣れない秘書を確かめるように眉を寄せ、何か言いかけた。
小さく、乾いた音がした。
消音型のブラスターから出た光が、男の胸を貫いた。ローデは卓の縁を掴んだが、指が外れ、椅子の脇へ倒れた。手に持っていた端末が床へ落ち、通信の相手が彼の名を呼んだ。
リヴィアはしばらく、その場に立っていた。
卓の上には、集会の代表者との面会予定が開かれていた。低地の水を連合へ売るという話を、もう一度説明するための席だった。添付された工事図は、彼女の見た原本と同じだった。
その計画がないことを、リヴィアは知っていた。
第二室が図へ別の説明を付け、議員の家族が逃げるという噂を重ねた。市民が日ごとに広場へ集まるようになってから、協力者へ武器を渡した。今日、警察の制服で最初に撃ったエダン・セルクにも、彼女が承認を出していた。
ローデを残せば、駐屯軍へ停止を求める者が残る。警察に何を命じたか、自分の声で説明する者も残る。
リヴィアはブラスターを下ろした。
床の通信機が、政務官、ともう一度呼んだ。男の右手は、その近くにあった。指は動かなかった。
扉の外へ出ると、さっきの職員が廊下の奥で待っていた。
「政務官は」
「通信中です」
リヴィアは答え、そのまま歩いた。
*
正面に、警察の車両が停まっていた。
リヴィアが後部の扉を開けると、助手席の人物が振り返った。
「お疲れ様です、班長」
イサ・ヴェルンだった。警察の上着を着て、膝へ端末を置いている。金融分析から回ってきた時には、現地へ渡した金がどこで止まるかを見ていた。今は、その金で動いた人間が何をしているかを、同じ画面で追っていた。
扉が閉まると、車は動き始めた。
正面の歩道に、片方だけの靴が落ちていた。その先には、入口を開けたままの飲食店がある。椅子が通りへ倒れ、調理台の灯りだけが点いていた。リヴィアがその店を覚えていたのは、昨日そこで食事を買ったからだった。
「庁舎は」
イサが訊いた。
「終わりました」
イサは頷き、端末を後ろへ向けた。
「もう我々の手を加える必要はないです。見てください、これ」
司令船から中継された市街図だった。
最初は一つの広場だった。今は東の工業区でも、北の住宅区でも銃声が上がっている。警察署の前に人が押し寄せ、別の警察署では門が開いていた。奪われた装備を持って走る者の後ろで、制服を脱いだ警官が車へ乗せられている。
市民の間を、連合のドロイド大隊が進んでいた。
別の映像では、地方守備隊の装甲車が交差点へ出てきた。後ろから歩兵が続く。何を命じられた部隊なのかは、映像だけでは分からなかった。道路へ伏せていた者たちが、その車両へ向かって撃った。装甲に光が散り、兵が地面へ飛び降りた。
「現地の軍も出ました。政府へ従う隊と、市民を守ると言って出た隊と、連絡の取れない隊があります」
イサは映像を切り替えた。
「セルクは」
「回収済みです。負傷なし」
リヴィアは頷いた。イサの指が次の欄へ動く。ドール警部の死亡確認が来ていた。広場の市民側の死者は、まだ数字が変わり続けている。病院から届く数と、現場から届く数を、そのまま足すことはできなかった。
「重複は」
「船で照合しています。ただ、もう病院へ運べない地区も」
車の窓を担架が横切った。運んでいる四人の服は、どれも違っていた。上に寝かされた者の足が、車両のすぐ脇を過ぎた。足首から先が、進行方向へゆっくり揺れている。
運転席の班員は、担架が通り終えるまで待った。
リヴィアは膝の上に置いた端末を開いた。前の攻略作戦の記録が、今回の資料の先頭に残っている。
ジェダイの作戦指揮下で進出したオープン・サークルの任務部隊は、この星の対軌道砲とシールドを制圧できなかった。上陸したクローン部隊も、拠点を維持できず撤収していた。最後の報告には、再攻略に必要な艦と兵力が並んでいる。
地上の施設には、今も同じ砲があった。地下の発電所も壊れていない。
だが、その施設を守る将校から、共和国側との交渉を求める連絡が来ていた。市民へ撃つ命令には従わない、と書いてある。リヴィアはその一行を読み、担当へ回した。
イサが、次の映像を開いた。
「あとは、これを元老院に出せば完璧です」
中年の男が、暗い部屋に座っていた。上着の襟が片方だけ折れ、頬に汚れが付いている。正面を見るよう促されたらしく、男は一度、画面の外へ目をやってから向き直った。
『共和国元老院へ。私はテルヴァーン民主戦線代表、ナヴェル・オルンです』
声は少し掠れていた。
『我々は、政府に説明を求めていました。市民は広場へ集まりました。それに対して発砲が行われ、連合のドロイド部隊が――』
画面の外で音がした。オルンは話すのを止めた。誰かが大丈夫だと言い、彼は続きを始めた。
『子供たちのいる所でも、撃っています。我々には止められません。共和国に救援を求めます。医療の部隊を、そして、彼らを止められる部隊を送ってください。どうか、間に合ううちに』
映像が止まった。
リヴィアは、画面の下の記録を見た。要請を受信した後、議員のいた市民会館が攻撃されていた。死亡は確認済みだった。
「家族には」
「現地側が伝えています」
「ヴォルクは」
「民主戦線の残った者と、会っています。オルン議員の要請を引き継ぐと言っています」
リヴィアは映像へ視線を戻した。オルンは、まだ返事を待っている顔をしていた。
元老院へ送る声は残った。部隊が着いた後、その声で何を求めるかを話す本人は、もういなかった。
イサが次の資料を出した。臨時評議会に入る者の一覧だった。名が埋まった所と、まだ空いている所がある。
水利組合の代表は、ヴォルクを長にすることへ異議を唱えていた。元の工事図を持っており、配水の話は間違っていると言い続けているという。
「この人は、呼びますか」
「復旧には要る。傍聴で」
リヴィアは答えた。
イサは参加資格を書き換えた。オルンのいた場所は、まだ空欄だった。
*
港へ近づくと、通りの上にも煙が掛かっていた。
積荷の搬入を待つ車両が、道の片側を塞いでいた。荷台を開けて中を見ている運転手もいる。港の表示には出航遅延が並び、その間に、共和国軍接近という未確認の報せが混じった。リヴィアはその時刻が正しくないことを知っていた。
まだ来ない。
シーアたちは、補給と交代を終えたところだった。彼の艦隊が着くまでに港を渡せる者を用意する。政府の部隊が一つずつ武器を置けば、彼らが撃たずに済む場所も増える。
シーアのためになる。
学院を出た日に聞いた言葉を、リヴィアは今も同じ意味で覚えていた。
車載の通信機に、雑音が入った。
運転席の班員が表示へ目を落とす。警察の指令を伝えていた回線に、別の声が重なった。途切れ、また戻った。繰り返し同じ文句を読み上げているらしかった。
『……こちらはヴァル公共放送。低地で、虐殺が行われています。警察も、軍も、誰が止められるのか分かりません。こちらは――』
後ろで大きな音がし、声が止まった。
リヴィアは通信機を見た。
『聞こえますか。どこの方でも構いません。誰かに届いてください。ここには、まだ人がいます。逃げる所が――』
彼女は手を伸ばし、電源を切った。
車はコレリア船籍の貨物船へ向かっていた。
船体の横には、運送会社の名と、前の塗装を削り切れなかった跡が残っている。開いている貨物庫の奥で、作業着の男が車を見て退いた。緩い傾斜を上り、車体の底が継ぎ目を越える。後部の扉が閉まり始めると、港の煙は細い隙間の向こうへ押しやられた。
リヴィアが降りたのは、荷物を並べるはずの床だった。
その先には隔壁があり、内側に通信席が並んでいた。コレリアの貨物船として入港した、第二室の指揮船だった。さっき車内で見た映像が、ここでは壁一面に開かれている。街路。病院。地方守備隊の施設。燃え始めた住宅。別々の席に座る者たちが、それぞれの声を聞いていた。
イサが上着を脱ぎ、自分の席へ戻った。
通信担当が、連合側の照会を一つ示した。別々の情報部署へ回された文面の中で、政権の離反を同じ呼び名へ結びつけようとしている。
魔女。
リヴィアはそれを読み、軍へ渡す報告とは別に残すよう言った。
リヴィアは秘書官室の識別章を外した。襟に付けていた所だけ、布に小さな折れ目が残っている。外した章を端末の脇へ置き、空いていた椅子へ座った。
「議員の記録は、そのまま送ってください」
彼女は言った。
隣の席で、元老院へ渡す救援要請が開かれた。別の表示には共和国の進出予定がある。その中にシーアの名を見つけ、リヴィアは少しだけ肩の力を抜いた。
後ろで、貨物庫の扉が閉まった。
艦艇、兵器説明は欲しい?
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いらない
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欲しい(文のみ)
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欲しい(元ネタリンク含め)