STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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残った町

 揺らぐ分離主義同盟!

 

 モン・カラから撤退した連合に、新たな反乱が突きつけられた。パーレミアン交易ルートの支線に位置するテルヴァーンでは、政府への抗議が武装蜂起へ変わり、地方守備隊までもが命令を拒み始めている。

 

 航路を確保し、現地の混乱を収めるため、共和国は艦隊、クローン部隊、地方防衛軍、行政の復旧要員を派遣する。

 

 再編を終えた第3合同任務群も、新たな戦域へ向かう。だが、助けを求める人々のもとへ共和国が到着するより先に、この星では次の支配者を決める争いが始まっていた――

 

 *

 

C.R.C. 7956.226 テルヴァーン星系、銀河平面座標 R-7、パーレミアン交易ルート支線、ヴァル市低地第六学校

 

 マラ・デンは、いつものように出席を取ろうとして、いつもの名簿が使えないことを思い出した。

 

 机の間に寝具が敷かれている。椅子は壁へ寄せ、低い物だけ子供たちのために残してあった。ここで普段教えている三十一人のうち、今朝も来ているのは八人だった。代わりに、名前を知らない子供が十三人いる。大人は教室の外へ出て、配給の列か、連絡の取れる端末の前へ並んでいた。

 

 マラは授業用の表示を点けた。下半分が昨日から消えたままだった。名簿は閉じ、使える上の部分へ、短い言葉を一つ出した。

 

「読める人」

 

 三人が手を挙げた。挙げなかった者の中にも、読める子はいる。今日は答えたくないのだと分かったので、マラは同じことを二度訊かなかった。

 

 後ろに座った男の子が、口だけで文字を追った。

 

「名前を、まだ聞いていなかったね」

 

「セヴ」

 

 男の子は膝を抱え直した。借りた靴が大きく、爪先の余った所が折れていた。

 

「どこの学校?」

 

「上の方」

 

 マラは頷き、それ以上は訊かなかった。高地の職員住宅から来た者は、どこの学校にいたかを言いたがらない。制服は脱いでいても、言葉の使い方で分かることがある。ここにいる大人の何人かは、それを確かめたがった。

 

 この学校の屋根を直したのも、配水管を替えたのも、今は庁舎へ入れなくなった役所の職員たちだった。修繕の申請は何度も書き直させられた。そのことで腹を立てたのは覚えている。申請が通り、雨漏りが止まったことも覚えていた。

 

 それでも、低地の水を売るという話が広まった時、マラも広場へ行った。嘘なら、そう確かめたかった。初めの日は授業の後でも空いている所に立てた。翌日には、同じ場所へ辿り着けなかった。

 

 集会の参加者が銃を持つようになる前、警官は通りを渡る子供たちを待たせ、車を止めていた。リセン・ドール警部を見かけた。前年、この教室で子供たちに道路の渡り方を教えた人だった。

 

 後で届いた広場の映像には、その人が銃を下げろと叫ぶ声が入っていた。何度見ても、声の後に倒れる。

 

 マラは水利局の説明と、集会で渡された図を両方持っていた。どちらを信じればいいか考えているうちに、水を扱う役所に勤めている、というだけで家に帰れなくなる者が出た。今はその子が、目の前に座っていた。

 

 教室の戸が開いた。

 

 白い腕章を付けた男が、端末を持って立っていた。ハレクと名乗ったのは昨日だった。以前は資材を運ぶ車両の運転手をしていたという。今日は肩にブラスターを掛け、二人を連れている。

 

「収容した者の名簿を」

 

「受付にあります」

 

「子供も、ここへまとめてくれ」

 

 マラは表示を消した。セヴが膝の間へ顔を下げた。

 

「何に使いますか」

 

「食事だよ。共和国が来れば、もっと入る」

 

 ハレクは新しい書式を送った。氏名。年齢。元の居住区。家族の勤務先。端末の下には、臨時評議会の準備委員会という名がある。

 

「食事なら、人数は昨日渡しました」

 

「向こうが欲しがるんだ。誰に渡すか、分からないままにはできないだろう」

 

 マラは、ハレクが言う「向こう」が誰なのかを訊いた。彼は共和国だと答えた。それ以上の部署の名は知らないらしかった。

 

 廊下から朝食を運ぶ台車の音が近づいた。ハレクは横へ退き、通すのを手伝った。蓋の下には、昨夜より多い量が入っている。彼の連れてきた一人が、子供用に小さい器を並べた。

 

 マラは礼を言った。

 

 ハレクは、礼ならあとでいい、午前中に名簿を頼む、と答えた。戸が閉まると、マラは送られた書式の、家族の勤務先の欄を見た。

 

「先生」

 

 セヴが小さな声で呼んだ。

 

「お父さんは、水の所で働いてる」

 

「そう」

 

「銃は持ってない」

 

 マラは男の子の前にしゃがんだ。何を聞かれているのか、分かっていた。だから、もう大丈夫だとは言えなかった。

 

「朝ごはんを、先に食べよう」

 

 彼女は言った。

 

 廊下の端で、古い受信機から放送が流れ始めた。共和国の部隊が、午前中に到着する。これからは新しい評議会が住民を守る。声の主は、ダレン・ヴォルクだった。マラはその顔を街頭の集会で何度も見ていた。

 

 学校の窓から、軍艦はまだ一隻も見えなかった。

 

 *

 

テルヴァーン星系外縁、《ハービンジャー》

 

 艦橋に戻ったシーアは、自分の襟の片方が裏返っていることを、コルヴェンに指摘された。

 

 左手で直そうとして、かえって折り目を増やした。艦長は手を貸さず、正面の表示へ目を戻した。セレナが後ろから来て、何も言わずに襟を直す。

 

「着る時に、腕を通す順番を変えたでしょう」

 

「急いでいたから」

 

「その分、いま止まっています」

 

 シーアは反論せず、直し終わるのを待った。艦橋の要員たちは既に新しい星系を見ていた。イーノ・ラセルが外側の航跡を読み、マレナ・セルトは後続船団の管制と現地からの呼出しを別々の席へ回している。

 

 モン・カラを離れる前に、共和国側の方面部隊が警戒を引き継いだ。ダーヴェンの六隻は第4合同任務群の統制へ戻り、別の護衛任務へ向かった。《カーム・リーチ》も最後の捜索範囲を現地の救難隊へ渡した。チョックとスキッドの名は、発見済みの欄へ移らなかった。

 

 交代を待ち、損傷箇所を直している間に、二隻が戻った。

 

 《アウクトリタス》は交換した右舷主機の試験を終え、艦尾の新しい外板を旧い船体につないでいた。《インヴィオレート》は給電と外殻を直し、隔離された区画を開けた状態で消火班を走らせ、再びコーヴィンの下へ入った。

 

 今、第3合同任務群に使える戦闘艦は十四隻だった。二隻を失ったままで、《ヘラルド》と《コンスタンティア》は修理に残してきた。副司令官ソーンは《エンヴォイ》にいる。海の上から戻った《プレカーサー》も警戒航行に加わっている。

 

「本日の面会は、先に食事を取ってからです」

 

 セレナが言った。

 

「呼ばれたのは、僕の方じゃなかった?」

 

「先方も食事前だそうです」

 

 シーアは少しだけ安心した。相手が誰でも、食事をしている間は挨拶を短くできる。

 

 連絡艇が着いたと知らされ、彼は外側の警戒をソーンに任せ、小食堂へ向かった。ケレンは三人分の皿を並べていた。一つはベイランの分だと、訊かなくても分かった。

 

 もう一つの前に座っていたのは、カッシオ・タッグだった。

 

「少将」

 

 カッシオは立ち上がり、敬礼した。シーアは慌てて返した。制服には大佐の階級章があり、艦隊のものとは違う部隊章が付いていた。

 

「着いたばかりだと聞いたけど」

 

「だから、そのまま来た。輸送艦では、車両を降ろす前に誰と話すかを決めておかなければ、また後回しになる」

 

 カッシオが率いる惑星防衛軍の派遣連隊は、この戦域では共和国地上軍の部隊として、道路と倉庫、地方守備隊への引き継ぎを受け持つ。ジェダイが先へ進んだ後にも、しばらく残る側だった。

 

 ベイランが席を空けた。シーアが二人を紹介すると、カッシオは昨夜、すでに回線で会ったと答えた。

 

「スコール将軍は、こちらの車両が降りる場所を先に確かめてくれた」

 

「こちらが上陸した場所へ、そのまま全部降ろせるとは限らない」

 

 ベイランは答え、カッシオの皿へパンを寄せた。シーアは二人の顔を見た。自分を通さずに話が進んでいるのは、当然だった。それでも、学院の同室の相手と、ついこの間まで初対面だったジェダイが、先に顔見知りになっているのは少し妙だった。

 

「お姫様。食べる方も進めてください」

 

 セレナが言った。

 

「今、食べるところ」

 

 シーアが答えると、カッシオの手が止まった。

 

「何」

 

「ここでも、そう呼ばれているのか」

 

 シーアはセレナを見た。彼女はケレンから次の皿を受け取っている。ベイランは自分のカップを持ち上げ、飲む前から笑っていた。

 

「毎回じゃない」

 

「そうだろうな」

 

 カッシオは答えた。その声で、信じていないことが分かった。

 

 しばらくは、ホテルで最後に会ってからの話をした。カッシオの部隊では、補充された車両より、その車両に合う部品が後から来た。古い車両を渡した部隊に、部品を返してほしいと言われたという。

 

「渡した時には、もう使わないと言っていた」

 

「使うことになったんだね」

 

「だから返した。こちらには、まだ新しい方が来ていないのに」

 

 カッシオは言い、シーアの皿に残ったものを指した。話しながら避けていた野菜だった。

 

「学院でも、こうやって端へ寄せていた。見つからないつもりで」

 

「食べる順番を決めてるだけ」

 

「今はそういうことにしたのか。将軍、こいつは――」

 

「言ったら帰ってもらうからね」

 

 シーアが身を乗り出した。カッシオは続きを言わず、ベイランを見た。

 

「聞きたい」

 

「学院へ入る前でしたら、私も補足できます」

 

 セレナまで皿を置く手を止めた。シーアはカッシオの足を自分の靴で押そうとして、卓の脚へ膝をぶつけた。鈍い音がし、言おうとした文句が息になった。

 

「何をしている」

 

「なんで全員そっちなの」

 

 膝を押さえて言うと、カッシオはとうとう声を上げて笑った。シーアも笑いかけたが、まだ痛かった。顔をしかめたまま野菜を口へ入れ、これで話は終わりだと手を振った。

 

 食事が終わる頃、行政の復旧担当官が来た。女性はミレト・サーンと名乗り、担当部署の身分証を示した。椅子を勧めると、礼を言う前に、卓の上を少し空けてほしいと言った。

 

 開いたホログラムには、発着場と道路、配水施設、住民登録を扱う役所が並んでいた。艦の印は一つもない。

 

「先に申し上げます。私はテルヴァーンの知事にはなりません」

 

 ミレトは言った。

 

「現地で仕事をしていた人を見つけ、使える記録を戻し、支援の金と物を渡せる状態にします。誰がこの星を治めるかは、私の任命書にはありません」

 

「その方が、軍も困らずに済みます」

 

 カッシオが答えた。ミレトは端末に開いていた依頼書を二人の方へ向けた。

 

「元老院へ届いた救援要請は、民主戦線のオルン議員が出したものです。本人は、その後に亡くなっています」

 

 ミレトは任務資料に添付された映像を示した。シーアも出撃前に見ていた。医療と、市民への射撃を止める部隊を求める声だった。

 

「いま受け入れを用意しているのは、ヴォルクです。もう自分たちの評議会を承認してもらえると思っています。机も、署名する者も揃っているそうです」

 

「まだ、政府はありますよね」

 

 シーアが言うと、ミレトは地図の中央を指した。

 

「建物と命令を出す者は。ただし、命令を受け取る者が減っています」

 

 彼女が触れた場所には、首都の治安庁舎があった。隣の住宅区に、火災の印がいくつも重なっていた。

 

 *

 

テルヴァーン外側接続航路、《ヴァリアント》

 

 アデル・コーヴィンは、四隻が揃った表示を一度だけ見た。

 

 《アウクトリタス》の右舷主機は、左と同じだけの推力を出していた。《インヴィオレート》からは、開け直した区画に人員が入ったという報告が来ている。《ディグニタス》もいる。戻った二隻の艦長と話す間、コーヴィンは《トライアンフ》の名を出さなかった。編成表に残る《トライアンフ》の欄を、コーヴィンは空けたまま次の艦へ移った。

 

「ミュニファスント級三隻。内側から接近。二隻、識別できました。《タイス・レジャー》《アーンド・ライツ》」

 

 索敵席から報告が来た。

 

 コーヴィンは三つの航跡を拡大した。後ろには輸送船がいた。連合の軍用貨物で、発着場から離れたばかりだった。共和国の船団が来る側へ向かっている。退くためには、第32任務群の前を通らなければならない。

 

 相手からは、退避船団だという通信が来た。

 

「積荷の申告は」

 

「軍事機密につき回答しないと」

 

 コーヴィンは口元を少し動かした。相手も自分も、これで通せるとは思っていない。

 

「輸送船には停止を求めて。護衛艦から離れるなら、そちらへは撃ちません」

 

 通信を送る間に、《タイス・レジャー》の艦首が向いた。

 

 最初の砲撃は《ヴァリアント》へ来た。シールドの外に光が広がり、格納区画の修理で張り替えたばかりの隔壁が小さく鳴った。コーヴィンは艦長席の縁に手を掛け、開いていた収容口が閉じたことを確かめてから撃ち返した。

 

 十四隻が一斉に敵の前へ集まることはなかった。第33任務群は船団側にいる。第34任務群は、地上へ降りる艇のための宙域を調べていた。コーヴィンの四隻は、自分たちの前へ来た三隻を受け持った。

 

 《アーンド・ライツ》が僚艦の後ろへ回り、その間から《ディグニタス》へ撃った。近づけば、後ろにいる輸送船を自分の船体で隠せる。コーヴィンは射撃を減らした。敵の船腹の後ろに見える積荷の膨らみが、人の乗る区画か燃料槽か、まだ分からなかった。

 

 艦橋の横の回線に、短い警報が入った。

 

 《ディグニタス》被弾。艦首砲座への給電停止。隣接区画で負傷者二名。

 

「砲は戻せますか」

 

 コーヴィンが訊くと、同艦の艦長は、隔離する、とだけ答えた。判断は既に終わっていた。

 

 コーヴィンは了解し、《アウクトリタス》の射界を見た。新しい主機が艦を押し、傷んだ僚艦へ向いていた砲火を引き受ける。共和国の輸送船団はまだ遠い。そこで焦る理由はなかった。

 

 輸送船の一隻が、軍艦の後ろから横へ出た。

 

『機関を止める。こちらは撃たないでくれ』

 

 怯えた生身の声だった。コーヴィンは復唱させ、止まった船の位置へ射撃禁止の印を置いた。その隣を、ミュニファスントの艦首砲が通り過ぎる。輸送船の船長が何か叫んだが、言葉にはならなかった。

 

 後ろを気にしなくなった敵艦へ、《ヴァリアント》の斉射が届いた。

 

 《アーンド・ライツ》の艦尾から光が漏れ、航跡が曲がった。僚艦はそれを曳こうとしなかった。前を向いていた二隻の砲が、後ろを撃つ形へ変わる。逃げる先には共和国の別の艦影があったが、まだ射程の外だった。

 

 コーヴィンは追わず、止まったミュニファスントへ呼びかけた。

 

『本艦ハ、機関ヲ喪失シタ』

 

 返事はドロイドだった。

 

「武器も停止させなさい。確認できたら、乗艦班を送ります」

 

『艦長ノ指示ガ必要ダ』

 

「艦長へつないで」

 

『艦長ハ、武器ヲ止メロト命令シタ』

 

 コーヴィンは一度、目を閉じた。通信席の士官が笑いそうになったが、《ディグニタス》の医療要請が入って、すぐ手元へ戻った。

 

「では、艦長が命じた停止を実行して。こちらから何度も聞かせないで」

 

 少し経って、砲の給電が落ちた。乗艦班が近づくまで、コーヴィンはそこへ砲を向け続けた。

 

 逃げた二隻の位置は、索敵席が追っていた。輸送船は停船し、こちらの指示を待っている。船団の進路は空いたが、負傷者を拾う艇を先に通さなければならない。コーヴィンは予定表を開き、到着する物資の最初の一便だけ、通る場所を変えた。

 

 その変更を、合同任務群司令部へ知らせた。

 

 シーアから返ってきたのは、了解の一言だった。

 

 *

 

ヴァル市、南発着場

 

 ベイランは、降りて最初の十歩で、自分たちが予定した上陸にならないことを知った。

 

 発着場の門が開いていた。

 

 その前に、武器を置いた男たちが並んでいる。地方守備隊の制服だった。肩の所属表示を外した者と、付けたままの者がいた。入口の上では、ドロイドの銃座だけが焦げていた。

 

 テザーは兵を左右へ分け、男たちと銃座の両方を確かめた。武器を置いた列へ銃口を向けたままにしない。かといって、門が開いているから安全だとも考えなかった。

 

 列の先頭から、オルス・テヴェク少佐が出てきた。

 

「守備隊の残りは、管理棟にいます。降伏の条件を」

 

「負傷者は」

 

 ベイランが訊くと、テヴェクは少し言葉を失った。

 

「います。昨夜の者が」

 

「先にそこへ行こう。武器の確認は、こちらで続ける」

 

 ベイランはテザーへ頷き、少佐と歩き始めた。テヴェクは二度、後ろを振り返った。門を開けて出てきた部下が、そのまま撃たれるのではないかと考えているらしかった。

 

 管理棟には担架が足りなかった。食堂の卓へ寝かされている者もいた。ベイランが衛生兵を呼ぶと、地方兵の一人が自分の隣へ先に来るよう手招きした。隣にいた者は、別の軍服を着ていた。

 

「こちらは」

 

「政府の憲兵です。銃座を守ろうとして」

 

 テヴェクが答えた。

 

 その男の腕には、部隊の違う兵が包帯を巻いていた。互いに一言も話していない。ベイランは二人を見て、通路を空けた。

 

 外では、二便目の艇が降り始めた。クローンの装甲車より先に、カッシオの部隊から来た道路の調査班が出ていく。門から市内へ続く道を調べ、燃えている車両の脇に通れる幅を残す。彼らの服と顔は、一人ずつ違った。

 

 ブラケットの中隊から来たリブが、無人になった銃座の下へ立った。中隊長はまだ母艦に残っている。脚の傷は塞がったが、装甲を着けて勤務する許可は出ていなかった。

 

「工兵に、近づく前に見てもらってください」

 

 リブは言った。以前なら、同じ言葉をスプールへ直接言えた。今日は別の工兵が返事をし、工具を置く場所を訊いた。

 

 リブは足元を指した。

 

 ベイランはその二人を見てから、テヴェクへ市内の様子を尋ねた。

 

「低地は、ヴォルクの側が握っています。北の庁舎はまだ政府が。間の住宅区では、誰が誰に命じているのか……」

 

 テヴェクは口を閉じ、傍らの部下を見た。その兵も首を振った。

 

 ベイランは、軍服を着ていない男が門へ近づくのを見た。片手を上げ、もう一方で共和国の印が入った表示板を持っている。用意したばかりの物にしては、艦隊の到着する時刻まで入っていた。

 

「歓迎の準備ができています」

 

 男は言った。

 

「ヴォルク代表が、市民の前で挨拶をと」

 

 ベイランは自分の服を見た。管理棟で担架を持った時の血が、袖に付いている。

 

「挨拶より先に、医療の車を通したい。どの道が使える」

 

 男は、歓迎する人々を集めた広場を指した。

 

「そこが、空いているのか」

 

 ベイランが訊くと、男は表示板を下ろした。

 

 *

 

《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 別の地区からも、守備隊の離散が報告された。

 

 前回、この星へ入ったオープン・サークルの任務部隊は、対軌道砲とシールドを制圧できず、上陸したクローン部隊を引き揚げていた。シーアはその作戦記録を、今回も手元へ置いている。

 

 同じ砲台から、今日は射撃がなかった。守備隊の命令系統は分かれ、南発着場へ通じる宙域では、施設を預かる現地部隊がシールドを止めていた。開いた降下路が、いつまで開いているかは、まだ確かめ続けなければならなかった。

 

 シーアは届いた報告を順に読んだ。政府の指揮回線は三日前から不安定になっている。港の支払いは止まり、連合の貨物を動かす者が来なくなった。地方守備隊の一部は武器を置き、一部はドロイドを施設から追い出した。共和国の艦隊が撃ったのは、その後で残った艦だった。

 

 保安委員会から届いた情勢報告にも、軍情報局の集約にも、同じ出来事が別の欄で載っていた。全部を足すと、何か大きなものが既に倒れているように見えた。

 

「誰が始めたんです」

 

 シーアは訊いた。

 

 隣で端末を見ていたミレトが顔を上げた。

 

「住宅区の戦闘ですか」

 

「そこへ政府軍が出たことと、守備隊が離反したことです。どちらが先ですか」

 

「発端は、配水計画についての抗議です。集会は連日増えていました。四日前、広場で警察の制服を着た者が市民を撃ち、その後、連合のドロイド大隊が群衆へ射撃しています」

 

「警察の命令は」

 

「当日の命令書では、致死性兵器の使用は禁止されています。命令書が後から出されたのだという訴えもあり、私たちには、まだ」

 

「その後の順番は」

 

 ミレトは記録を開いた。広場での発砲が二二二。政府の回線が不安定になり、地方守備隊の命令拒否が各地へ広がったのは、その翌日からだった。職員住宅の被害は二二四の報告にまとまっている。

 

 銃を下げるよう叫んだ警官が、その場で撃たれたという記録もあった。治安行政を担当するローデ政務官も、同じ日に庁舎で死亡している。最後の通信では、ドロイドの射撃を止めるよう求めていたという。

 

 市民の銃はどこから来たのか。発砲を禁じる命令が出ていたのに、なぜ最初の一発が撃たれたのか。停止を求めていた者が死んだ後、誰がその権限を引き継いだのか。シーアの手元には、その答えがなかった。

 

「配水の計画も、元のものを確認してください」

 

 シーアは言った。

 

「いま流れている映像だけでは、水を止めようとしていたかどうかは分かりません」

 

 ミレトは、分かっていることなら渡せると言った。

 

「ただ、私たちが来る前の出来事を、私たちの時計だけでは並べられません。現地で聞きます」

 

 シーアは頷いた。画面の上で、住宅区の死者三十七という数字を選ぶ。住宅区で確認できた人数で、広場の死者は含まれていない。捜索の済んだ建物の一覧が添えられ、その先は空欄だった。

 

 セルトが、ベイランからの通信をつないだ。

 

『発着場は確保した。守備隊は武器を渡している。市内の道も、一つは通せる』

 

「抵抗は」

 

『我々には、ほとんどなかった』

 

 ベイランは言った。「我々には」の前に、短い間があった。

 

 シーアは地上の映像を開いた。発着場の奥に、焦げた建物が見える。共和国の降下艇より先に、煙が上がっていた場所だった。

 

「地上へ行きます。復旧担当官と、守備を引き継ぐ側が揃っているうちに」

 

『君が来れば、向こうは承認をもらったと言うだろう』

 

「言わせないよう、会う場所を選びます」

 

 ベイランは少し考え、学校を一つ挙げた。低地の避難所で、地方守備隊の家族も逃げ込んでいる。医療班が入るため、外側の安全を確かめているところだという。

 

 シーアは、ソーンへその間の指揮を渡した。副司令は《エンヴォイ》から艦隊全体を見て、直轄艦の局地運用をブレインへ委ねた。コルヴェンには、帰りの便が遅れた時も当直を延ばさず、交代してほしいとだけ伝えた。

 

 準備を終えた時、セレナが私信の通知を一つ見せた。

 

 ちゃんと食べて。今度は早く帰すから。

 

 リヴィアだった。

 

「最後のところは、信用できない」

 

 シーアは小さく言った。セレナは、返信には書かない方がいい、と答えた。彼女は誰が書いたかを見ただけで、何の話か分かっていた。

 

 シーアは端末を閉じ、降りるための上着を受け取った。

 

 *

 

ヴァル市低地第六学校

 

 最初に来た共和国の兵は、石鹸を持っていた。

 

 医療班を入れる前に、水を使える所を教えてほしい、と言った。マラは裏の流し場へ案内した。配水は戻っていたが、しばらく流さなければ濁ったものが出る。兵は教えたとおり待ち、きれいになってから容器へ溜めた。

 

 その後に来た兵は、窓の壊れた教室へ寝具を動かそうとした。マラが午後は風が入ると伝えると、そこを物資の置場へ変えた。どちらも、彼女の話を聞いてから動いた。説明を最後まで聞いてもらえたのは、何日ぶりか分からなかった。

 

 廊下の奥に立ったジェダイは、戸より大きく見えた。

 

 ベイラン・スコール、と名乗った男は、マラが用件を尋ねる前に、どこへ立てば邪魔にならないかと訊いた。彼女は壁際を示した。彼はそこへ寄り、医療班が運ぶ箱を一つ受け取った。

 

 子供たちは戸の陰から見ていた。ベイランが見返すと、隠れた者と、隠れなかった者がいた。彼は追って覗かず、箱を言われた場所へ下ろした。

 

「剣は、使いますか」

 

 セヴが訊いた。

 

 マラは止めかけたが、ベイランは普通に答えた。

 

「ここでは、使わないで済むといい」

 

「壁が切れるって」

 

「切ったら、誰かが直さなければならない」

 

 セヴは窓の方を見た。ベイランも見た。それから、剣ではガラスを元へ戻せない、と付け足した。男の子は少し残念そうだった。

 

 マラは初めて、セヴが父親のこと以外で質問するのを聞いた。

 

 もう一台の車が着いた時、校門の外で待っていた者たちが前へ出た。白い腕章が何本か見えた。車から降りた若い士官は、挨拶を受けながらも、集まった者の中央へは進まなかった。後ろの女性が何かを告げ、士官は学校の入口へ向かった。

 

 銀色の髪が、煤の付いた校舎ではひどく明るく見えた。

 

「ヴァラリアン少将です」

 

 同じ車から来たミレト・サーンが紹介した。マラは肩の印を見た。若すぎるのではないかと思ったが、その横に立つ大佐の方も、思っていたよりずっと若かった。

 

「何人、いらっしゃいますか」

 

 少将は訊いた。

 

 マラが人数を答えると、彼は後ろの女性へ伝えた。女性は持っていた端末に入れ、食事の手配をする相手へ送った。もう一度、勤務先を聞かれるのかと思ったが、続いて尋ねられたのは子供の人数と、食べられない物のある者についてだった。

 

「こちらにも、書くんですか」

 

 マラは、朝に渡された書式を見せた。

 

 ミレトが受け取った。少将と大佐も覗き込んだが、先に口を開いたのは彼女だった。

 

「これは、私たちの書式ではありません」

 

「共和国から必要だと」

 

「誰から、そう言われましたか」

 

 マラは校門の方を見た。ハレクは物資を運ぶ車両を誘導していた。今朝、あの男が食事を持ってこなければ、子供たちには温めた飲み物しか出せなかった。

 

「あの人たちです。でも、ここへ食べ物を持ってきたのも、あの人たちです」

 

 ミレトは、そうですか、と答えた。否定も、取り上げるような言い方もしなかった。

 

「配る物が重ならないように、受領の記録は見せてください。家族の勤務先は、食事を渡す条件にはしません」

 

「あとから、必要になりませんか」

 

「住民の記録を戻す時には、別に確かめることがあります。その時は目的を説明して、本人に確認します」

 

 マラは少し考えた。今すぐ全部が安全になるという約束ではなかった。それでも、書かずに食べさせられると分かった。

 

 少将は、マラの横に立ったセヴへ視線を落とした。男の子は首をすくめ、少将の上着についたものを見ている。

 

「触ると、取れる?」

 

 セヴは訊いた。

 

 マラには何のことか分からなかった。少将は自分の階級章を見てから、外すところがある、と答えた。

 

「じゃあ、取れば違う人になる?」

 

 少将はすぐには答えなかった。マラは、セヴの父親が制服の表示を外して逃げてきたことを知っていた。

 

「僕は、同じ人です」

 

 少将は言った。

 

「取っても、さっきの約束は変わりません」

 

 セヴは頷いたようだった。それからマラの袖を掴み、自分の寝具の方へ戻った。少将は追って何かを尋ねなかった。

 

 大佐が外の兵へ指示を出し、校門の脇に立つ者が替わった。共和国側から来た兵が、持ち場を引き継いでいた。銃は持っていたが、出ていく住民の顔を端末と見比べることはしなかった。

 

 マラは朝の書式を保存し、別の欄に食事の人数だけを入れた。

 

 *

 

 シーアは、会議に使える部屋へ通された後、椅子の高さを変えられないかと尋ねた。

 

 子供用だった。

 

 カッシオは座ったまま膝を少し開き、机の下へ入らないと分かると、足を横へずらした。ベイランは最初から座るのを諦めていた。セレナが別の部屋から大人用を探してきたのは、ミレトが立ったまま端末を開いた後だった。

 

「教官の席なら、大きいはずだ」

 

 カッシオが言った。

 

「学院ではないから」

 

 シーアが返すと、カッシオは小さく笑った。扉の外で子供が泣き、誰かがあやし始めた。声が少しずつ遠ざかる間、誰も次の話を始めなかった。

 

 ダレン・ヴォルクは、護衛を廊下へ置いて入ってきた。

 

 シーアが放送で見たよりも疲れた顔だった。襟元に埃が付き、指に小さな切り傷がある。握手を求める手は、実際に荷を運んできた者のものに見えた。

 

「来ていただいて、助かりました」

 

 ヴォルクは言った。

 

「発着場の引き渡しは、支障なく?」

 

「守備隊とは話ができました」

 

 ベイランが答えた。

 

「少佐は、よく決心してくれた。兵にドロイドを撃たせれば、戻れなくなると分かっていたのでしょう」

 

 ヴォルクは頷き、今使える道路と倉庫を説明した。鍵を持つ管理人の名も、破損した車両を動かせる工場の名も知っている。ミレトが訊いたことには、ほとんどその場で答えた。

 

 シーアはその仕事を否定できなかった。来る前に誰かが話を付けていなければ、食事も医療の車も校門で待つことになった。

 

「オルン議員が求めた救援が、ようやく届いた。遺志を引き継ぐ責任があります」

 

 ヴォルクは言い、卓の上を空けた。

 

「こちらは、署名をいただければ」

 

 ヴォルクが新しい文書を出した。臨時評議会との協力について、と表題にある。治安維持と施設の引き渡しの条項に続いて、共和国側が評議会を現地の代表機関と認める文言が入っていた。シーアはそこで頁を送る手を止めた。

 

 ミレトが文書を自分の側へ回した。

 

「物資の受領と施設の確認は、できます。評議会の承認は、この場ではできません」

 

「我々以外に、誰がいます」

 

 ヴォルクは怒ったようには言わなかった。今ここにいる者を数えれば分かるだろう、という口調だった。

 

「水利組合も、工場の代表も。低地の地区会もありますね」

 

「その者たちを、私が集めています」

 

 ミレトは頷いた。

 

「では、集まった方と直接話します」

 

 ヴォルクは少し黙った。その間、シーアは文書の添付を読んだ。出席者は既に決まっていた。水利組合の代表だけ、議決権のない傍聴になっている。

 

「この区別は」

 

「調整が終わっていないんです。共和国との協力には異存がないそうですが」

 

 ヴォルクは答え、話を配給へ戻した。

 

「今は、決めることを遅らせたくない。今日届いた食事を、明日も出さなければなりません」

 

 それも本当だった。シーアは窓の外を見た。配給の列はまだ続いている。共和国の兵が箱を下ろし、ヴォルクの側の者が行き先を教えていた。

 

「今夜の食事は、こちらで出せます」

 

 シーアは言った。

 

「そのための船は、もう着いています。明日の受領を誰が担当するかは、ここを使っている人とも確認してください」

 

 ヴォルクは、学校の責任者を呼ぼう、と即座に答えた。自分の提案が退けられたとは、廊下にいる支持者へ見せなかった。

 

 次に住宅区の話が出た時、彼は目を伏せた。

 

「遺体の収容を急いでいます。家族には、何が起きたかを伝える必要がある」

 

「調査する者も、入れられますか」

 

 カッシオが訊いた。

 

「もちろん。ただし、まだ政府側の武装員が残っているかもしれません」

 

「警備はこちらで付ける」

 

 カッシオは答えた。ヴォルクは、ありがたい、と言った。その返事を聞いても、彼が安心したのかどうかは分からなかった。

 

 会議の終わりに、ミレトは文書を分けた。今夜の物資の受領。倉庫への立入り。評議会の承認については、継続協議。

 

 ヴォルクは、受領の欄に署名した。その手を見ながら、シーアは軍の情勢報告に書かれていた「協力者」という言葉を思い出していた。どこまでが、この男との約束だったのか。

 

 そこは、軍へ来た資料にはなかった。

 

 *

 

 夜になってから、学校の明かりが戻った。

 

 窓の外では、高地へ上がる道の途中だけが暗い。カッシオの部隊が確認した区画だった。昼間まで使えていた配電設備が止まり、道沿いの家まで明かりを失っている。復旧要員が入るために、翌朝の道を押さえる必要があった。

 

 シーアは、カッシオと廊下の端に並んで立っていた。セレナが持ってきた容器には、ケレンが艇へ積ませた温かい飲み物が残っている。

 

「味が違う」

 

 シーアが言うと、セレナは疲れている時のためのものだ、と答えた。茶ではなく、少し甘い穀物の飲み物だった。

 

「カフェインを増やしても、明日の分は作れません」

 

「ケレンが言った?」

 

「私も、同じ意見です」

 

 カッシオが隣で笑った。シーアは一口飲み、甘すぎると言いかけたが、温かかったのでやめた。

 

「お前の方は、今夜は戻れるのか」

 

 カッシオが訊いた。

 

「艦には。そちらは?」

 

「当直の場所が決まれば眠れる。学校と発着場と配水施設で、人を分けた。どこも一晩目は、地元だけに任せられない」

 

 シーアは、窓の外の兵を見た。一人が住民に道を訊かれ、別の兵を呼んでいる。本人はまだ、この街を歩いたことがない。

 

「現地の守備隊は、使える?」

 

「使える者はいる。テヴェクの隊は、今夜は休ませる。昨夜から寝ていない」

 

「武器は」

 

「預かっている。休ませたことと、信用したことは別だ」

 

 カッシオは答えた。声は学院の頃とあまり変わらない。けれど、数える物は変わっていた。武器を持たせる前に眠らせる人間が、今は窓の向こうにいる。

 

「戦う相手が、少なくて済んだ」

 

 シーアは言った。

 

「ああ」

 

 カッシオは頷いた。

 

「その分、もう戦い終わっていた人間を相手にする」

 

 廊下の奥で、声が上がった。

 

 二人が振り返るより先に、ベイランが教室から出てきた。校門からハレクと二人の男が入り、マラへ誰かの名を伝えていた。彼女は首を振っている。

 

「水利局の者だ。話を聞くだけだ」

 

 ハレクは言った。

 

「今から?」

 

 マラの声が裏返った。ハレクが戸へ手を伸ばすと、彼女はその手を叩き落とした。

 

「触らないで!」

 

 教室の中で物が倒れた。子供が身を縮めた音だと気づき、マラは後ろを見た。大きな声を出さないで、と朝から言っていたのは自分だった。

 

「話なら、ここでしてください」

 

 声を下げても、息は整わなかった。戸枠を掴んだ指が痛い。ハレクがこちらを見る目も変わっていた。

 

「こちらの家族にも、話を聞いてほしい者がいる。俺たちの水を連合へ売る話を、知らなかったとは言わせない」

 

 シーアは足を止めた。教室の戸の陰に、セヴがいた。大きい靴の爪先だけが見えた。

 

 ベイランはハレクの前へ出た。手はライト・セイバーに触れていなかった。

 

「どこへ連れていく」

 

「地区の詰所です」

 

「誰が、そこで話を聞く」

 

 ハレクは答えかけ、ベイランの後ろに大佐と少将がいることに気づいた。肩に掛けていた銃を下ろそうとして、かえって動きを止めた。

 

「共和国へ渡す前に、確認を」

 

「今夜は、ここから連れ出さない」

 

 カッシオが言った。

 

 ハレクは、そちらが守るのか、と問い返した。カッシオは返事を急がず、学校の警備をしている自分の兵を呼んだ。

 

「訴えは受け取る。今夜は氏名と内容を記録する。明朝、復旧担当官と保安の担当へ渡す」

 

「明日の朝までに、逃げたら」

 

「会わせる相手が決まるまで、こちらでも所在を確かめる。お前たちだけの場所へは渡さない」

 

 カッシオの声は低かった。ハレクの後ろの一人が、引いた方がいいと言った。もう一人は、マラを見ていた。食事を運んだのは俺たちだ、と言いたい顔だった。

 

 マラは、礼を取り消さなかった。扉の前からも動かなかった。

 

 ハレクたちが校門へ戻ると、ベイランは兵に後ろを頼み、教室の中へ入った。セヴの父親は寝具の上に座っていた。水利局の制服は、毛布の下へ畳んである。男はベイランを見ると、両手を前へ出した。

 

 ベイランはその手を縛らなかった。隣へしゃがみ、まず名前を聞いた。

 

 シーアは廊下に残った。カッシオは警備兵へ、同じような連出しの要求は当直へ回すよう伝えていた。実際の犯罪があれば、明日から調べなければならない。今ここで誰が正しいかまで、兵に決めさせることはできなかった。

 

「戻る便は、少し遅らせる」

 

 シーアが言うと、セレナは頷いた。カッシオが、ここにいなくても学校は守る、と言った。

 

「分かってる」

 

 シーアは答えた。

 

「だから、頼める」

 

 カッシオは一度だけ彼を見た。昔の部屋なら、何を任せるつもりだと訊き返されたかもしれなかった。今は頷き、校門へ向かった。

 

 シーアは窓際へ戻り、ソーンから届いていた艦隊の報告を開いた。敵艦二隻は星系外へ離脱。航行不能艦一隻は乗艦班が武器を確保。輸送船は検査中。《ディグニタス》の負傷者二名は収容済み、艦は砲座一か所を停止したまま任務継続。

 

 その下に、戦闘の開始と終了の時刻が並んでいた。

 

 地上の記録には、四日前の広場と、二日前の住宅が載っていた。

 

 カッシオから、北の治安庁舎が武器を渡したと報せが来た。残っていた警備施設も、それに続く。軍事的な抵抗は終わった。共和国側の少ない損害で、発着場も配水施設も使えるまま引き継げた。昨日の計画どおりに進んだ仕事は、確かに多かった。

 

 その成功より前に、広場で死んだ者と、家で死んだ者の欄があった。

 

 シーアは二つを同じ記録へ残すよう、司令部へ送った。それから、保安委員会の情勢報告に付いていた照会先へ、広場での発砲と住宅区の襲撃について、追加資料を求めた。

 

 シーアは送信先と受付番号を控え、照会の一覧へ加えた。

 

 *

 

 マラが最後の教室を回った時、子供たちは半分ほど眠っていた。

 

 セヴは起きていた。父親は同じ部屋にいる。銃を持った共和国の兵は廊下に立ち、部屋の中へは入らなかった。

 

「明日も、来ていい?」

 

 セヴが訊いた。

 

「ここに、いるでしょう」

 

「授業」

 

 マラは消えた表示を見た。下半分は直っていない。明日も寝具を退かして、机を少しだけ戻すことになる。

 

「来ていいよ」

 

 彼女は答えた。

 

「名前、書いて」

 

 セヴは朝から使っていた端末を指した。マラは受付の書式ではなく、授業の出席欄を開いた。父親の勤め先を記す所はなかった。

 

 セヴ、と入力する。

 

 男の子は自分の名を確かめ、ようやく横になった。隣から、まだ眠っていなかった別の子が顔を上げた。

 

「私のも」

 

 マラは椅子を寄せた。端末の明るさを落とし、その子の名を聞いた。

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