STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
解放!
分離主義者の艦は退き、地方守備隊は武器を置いた。共和国の救援船団が到着し、ヴァル市には再び食料と医療物資が運び込まれている。
だが、戦いが終わっても、市民の恐怖は消えない。昨日まで役所で働いていた者たちは報復を恐れ、共和国を迎えた者たちは、新しい政府の座を求めて動き始めた。
艦隊を次の任務へ向かわせるため、ヴァラリアン少将とスコール将軍は、この星に残る者たちへ仕事を渡さなければならない。誰を信じ、何を任せるのか。その答えを待つ間にも、町の一日は始まっていた――
*
C.R.C. 7956.227 テルヴァーン星系、銀河平面座標 R-7、パーレミアン交易ルート支線、ヴァル市低地第六学校
エドリク・サルは、洗った制服が乾くのを待っていた。
夜のうちに襟と袖を洗った。流し場に湯は出なかったが、石鹸は使わせてもらえた。濡れたものを干せる場所は廊下の端しかなく、他人の服と見分けられるよう、袖を一度折って掛けてある。水利局の所属表示を外した跡は、洗っても残っていた。
息子はまだ寝ていると思っていた。振り向くと、セヴは寝具の上に座り、父親の靴を揃えていた。自分の靴は爪先を壁へ向け、余ったところを見えなくしている。
「仕事に行くの」
「まだ、分からない」
エドリクは答えた。何も決まっていない時に、行くとも行かないとも言うのは嫌だった。それを説明する言葉を探している間に、セヴは昨夜から枕元へ置いていた小さな端末を開いた。今日は授業がある。昨日のうちに、自分の名を入れてもらったらしかった。
廊下から、背の高いジェダイが顔を出した。
「眠れたか」
ベイラン・スコールは、昨夜と同じように戸の外で止まった。エドリクは立ち上がり、眠れたと答えた。何度も目は覚めたが、横になっていられた。
「水利局から、技師を探していると連絡が来た。君の名もあった」
制服へ伸ばしかけた手を、エドリクは止めた。
「どちらの、水利局ですか」
ベイランはすぐには答えず、持ってきた端末を確かめた。新しい評議会の名はなく、昨日会った復旧担当官と、現地の職員組合からの照会だった。所属だけを聞けば済むはずの質問が、この町ではそうならない。
「配水施設で働いていた人たちだ。共和国側の担当官もいる」
「行かなければ、何か」
「まず、話を聞いてほしいという頼みだ」
エドリクは乾きかけの袖を掴んだ。仕事をすれば身元が分かる。ここにいても、昨夜の男たちには分かっている。親戚の家へ逃げようとして、通りを二本進んだところで引き返したことを、セヴはもう話さなくなっていた。
「設備の操作記録を見ていただきたいんです。止めたのは、私ではありません」
「記録を確かめる担当へ渡そう」
「仕事を、先にすれば」
エドリクは言いかけ、止まった。ベイランは続きを促さず、隣の窓へ寄った。外では朝食の容器を運ぶ車が止まり、共和国の兵が道を空けている。
「働くことと、君への訴えを調べることは、別にしなければならない」
ベイランは言った。
「君に会いたいという人がいる。私も一緒に行く。それでよければ、着替えてくれ」
エドリクは頷いた。息子の前で制服を着ると、袖の冷たさが腕へ貼り付いた。セヴは父親の肩にあったはずの表示を見て、それからベイランを見上げた。
「帰りも、一緒ですか」
「帰りの車も用意する」
男の子は、今度は父親を見た。エドリクは頷いてみせたが、セヴはまだ靴を渡さなかった。
教室へ来たマラ・デンが、今日は窓際の机を使える、と伝えた。セヴはようやく父親の靴から手を離した。エドリクがそれを履く間、ベイランは戸の外で待っていた。
*
テルヴァーン軌道、《ハービンジャー》
シーアの上着は、ケレンの腕に掛かっていた。
昨日、学校の窓枠へ袖を当てたらしい。灰色の布に黒い擦れが残り、払うと縫い目の内側からも煤が出た。ケレンは司令官室の明るい所へ持っていき、別の上着を机の背に置いた。
「落ちる?」
「落ちます。こちらをお使いください」
シーアは頷いたが、上着を取らずに次の報告を開いた。シャツの袖を肘まで上げ、ソファの端に腰を掛けている。端末を膝へ置くと、髪が画面に掛かった。左手で払ってから、今度は背もたれへ肘を載せた。
コルヴェンからは、午前の便を《プレカーサー》へ回したと連絡が来ていた。《ハービンジャー》の格納区画では、艇の一機が点検中だった。シーアは了解を返し、同じ欄の下にある《ディグニタス》の報告へ進んだ。負傷者二人は医務区画で経過を見ており、艦首の砲座はまだ使えない。コーヴィンは、それを含めて当直を組み終えていた。
「お姫様。次の面会は、あと二十分です」
「うん。上着は、その時に」
返事をしてから、シーアは顔を上げた。通信記録を届けに来たラセルが、入口で立ち止まっていた。
「何かあった?」
「いえ。こちらへ置いてよろしいですか」
ラセルは卓を指した。セレナが場所を空け、ケレンは彼の前にも椅子を寄せた。座っていいか確かめる間に、セルトが追いついてきた。二人で照合した記録だった。
「朝の通信、長かったですね」
シーアが言うと、セルトは配水施設の呼出しが二つの窓口へ同時に来ていた、と答えた。両方へ復旧車を出すところだったが、行き先が同じなので一便にまとめたという。
ラセルは置き終えた端末の向きを直した。シーアは彼が何度も自分の方を見るのに気づき、襟へ手をやった。今日はまだ上着を着ていない。
「また、どこか変?」
「そういうことでは」
ラセルの返事が、いつもの報告と同じ速さになった。セルトが顔を背けたので、シーアはそちらを見た。
「何か知っているんですね」
「配属希望の話です」
セルトが答えた。ラセルは、そこまで話すつもりではなかった、という顔をした。
「第三は希望者が多かったんです。救難艦が二隻付くことと、トリトンの戦歴で。学校でも話になりました」
「それなら、困ることじゃないでしょう」
「はい。それと、司令官の……」
ラセルはセルトを見た。通信主任は助けなかった。
「顔がいいので、と言っていた者もいました」
シーアは返事をしなかった。ケレンの手は、煤を払う途中でも止まらなかった。
「それは、配属の理由に書くの?」
「書類には、書かないと思います」
「そう」
シーアは端末を置いた。
「……そういう配属の噂まで、皆、知っていた?」
セレナが新しい上着を広げた。答えるよりも先に、袖を通すよう促している。
「ご本人にお伝えする必要のある用件から、順に」
「今、かなり後ろに置かれていた気がする」
ラセルが笑いかけ、慌てて口を閉じた。シーアはもう止めず、袖へ腕を通した。ケレンが後ろの裾を引き、セレナが襟を確かめる。二人の手が離れた頃には、セルトも仕事の顔へ戻っていた。
新しい着信は地上からだった。
臨時評議会が、旧政府の管理職を一律に職務から外す方針を出していた。実施への協力を求める文書に、復旧を待つ施設の一覧が添えられている。港の運航主任、配電の当直責任者、水利局の区画技師。別の資料では、どれも見つけ次第、連絡してほしいと頼まれていた職種だった。
シーアは二つを並べた。
「ミレトさんへ。こちらの船団が使う港と倉庫は、誰が引き継ぐ予定なのか、先に確認してください」
セルトが送信先を選んだ。シーアは立ち上がり、今度は自分で上着の前を合わせた。
「地上へ行きます。ソーンに引き継ぎを」
ラセルは端末を受け取り、セルトと部屋を出た。戸が閉じる前に、セレナがシーアの肘を引いた。
「階級章が、片方だけです」
ケレンが、汚れた上着から外したものを差し出していた。
*
ヴァル市、高地職員住宅区
車を降りた所には、まだ共和国を歓迎する表示板が立っていた。
その裏に、焼けた家具が積まれていた。誰かが通りを空けるために運び出し、持ち主の分からない物をまとめたらしい。椅子の脚に細い布が絡み、風で動くたびに黒い粉が落ちている。シーアは表示板を避けて歩いた。
カッシオは、住宅の入口に立っていた。窓は一階から上まで割れているが、外壁の一部には新しい塗装が残っていた。雨樋を替えた時の足場の跡だと、ミレトが教えた。
「中へ入る前に、こちらを」
女性の警察官が言った。ヴィナ・ケスト警部補と名乗り、端末に保存した現場の図を示す。帽子は被っていなかった。制服の所属表示を外さずにいることが、ここでは目立った。
壁際に並んだ遺体は、既に別の場所へ運ばれていた。残っていたのは、どこに誰がいたかを記録した印だった。
「この三人には、手首を拘束された痕がありました。武器は見つかっていません。身元は二人まで確認しています」
「守備隊の兵ですか」
シーアが訊くと、ケストは首を振った。
「建物の管理人と、水利局の会計係です。もう一人は住人ではないかもしれません。ここの登録だけでは見つかりませんでした」
カッシオが、室内へ入る兵を一人に絞った。床に残るものを、靴で踏ませないためだった。シーアも入口の手前で止まり、図の続きを見た。
二二四に届いた死者三十七の報告には、別の家で見つかった遺体の記録が加わっていた。家族が運び出した者と、病院へ搬送された者の重複も確かめなければならず、ケストはまだ新しい総数を出していなかった。
「政府の側が、ここを撃ったと言っている者もいます」
彼女は言った。
「そういう場所もあるかもしれません。ただ、この入口では、住民が外へ出されたところを見た人がいます。腕章をしていたと」
白い腕章だった。
車両を誘導していた男が、その話を聞いて歩みを止めた。胸には同じ色のものが付いている。ケストが彼へ目を向けると、男は視線を外し、別の車を呼びに行った。
「こちらの制服も、信用されていません」
ケストは自分の袖へ目を落とした。
「広場へ出ていた警官とは別だと言っても、制服は同じですから」
「当日の配置記録は残っていますか」
「ある分は提出しました。足りない分を、探しています」
ミレトが端末を受け取った。そこには、昨夜のうちに押さえた警察の当直記録があった。調べる側も調べられる側も、今は同じ建物で仕事をしている。資料を一か所だけに預けず、複写を取る必要があった。
通りの向こうから、共和国の兵を罵る声が聞こえた。
年を取った男が、家の前で立っていた。ここへ来る前に、なぜ止めなかった、と言っている。兵は何も言い返さず、荷物を運ぶ車が通る間だけ道の端へ寄った。
その後ろでは、別の住民が兵へ水の容器を渡していた。
シーアは二人を見た。どちらかがこの町の本当の声なのだと、選べるようには見えなかった。
隣の建物から、ベイランが出てきた。エドリクが続き、畳んだ子供の上着を胸へ抱えている。配水施設へ行く途中、自宅へ寄れると分かったのだという。ベイランは、閉まらなくなった戸を、風で動かない位置へ寄せた。
「ほかには」
「工具は、ありませんでした」
エドリクは答えた。それから上着の内側を確かめ、セヴの物だと分かる印を指でなぞった。
シーアは、水利局の職員を戻せるかという質問を、そこで出さなかった。ベイランもその話はしなかった。車へ乗るエドリクが、上着を汚さないよう先に座席を拭くのを待った。
カッシオが戻りの道を確かめている間、ミレトは、今日中に話せる職員を数え直していた。
生きている者の中にも、戻れない者がいた。
*
C.R.C. 7956.228 ヴァル市、水利局中央管理所
トーヴァ・レンの前に置かれた端末には、資料を読む権限しかなかった。
水利組合の代表として招かれ、指定された席へ座ってから気づいた。隣の商業組合の代表は自分の名で提案を出せる。トーヴァが同じ所へ触れると、傍聴者は議長へ送信してください、と表示された。
彼女は端末を持ち上げ、ミレトへ渡した。
「これでは、呼ばれたことにしかなりません」
ミレトは画面を見た。昨日、学校で見た出席者一覧の区別が、そのまま持ち込まれていた。
ダレン・ヴォルクが、卓の反対側から身を乗り出した。
「調整すると申し上げました。今日はまず、技術的な説明を」
「働く者の名を出せと頼む時は、代表でしょう。働く条件を決める時だけ、傍聴になるんですか」
トーヴァは端末を受け取らず、椅子へ掛け直した。短く切った髪の間に、灰色が多く混じっている。会議の前に施設を一回りしてきたらしく、靴の縁が濡れていた。
シーアは、二人の間へ口を挟まなかった。昨日のうちにミレトが地区会と職員側へ直接連絡し、今日は臨時評議会以外の者も座っている。共和国の者が来た時だけ、座る人間を増やしたのでは意味がない。
地区会から来た女性が、トーヴァにも議案を出せるよう求めた。隣の工場代表が賛成すると、ヴォルクは事務担当へ手を上げた。
「変更してください。ここで時間を使いたくない」
トーヴァの端末に、新しい項目が開いた。彼女は礼を言わず、用意していた資料を卓の中央へ送った。
最初に出たのは、人事案ではなかった。
配水管の交換図だった。
「町で出回っている図と、こちらを比べてください。管を切り替えている間の流れを示しています。住民への供給を売り渡す図ではありません」
別の表示には、集会で広まった資料が出ていた。配管そのものは似ている。色の付け方と、脇に添えた説明が違っていた。
「原本が後から変わった、という話は」
商業組合の一人が言った。
「工事をした業者の控えと、区画ごとの検査記録を付けました。騒ぎになる前に終わった工事もあります。現物を見れば、どちらの管がどこへ通っているか分かります」
ミレトが、昨日の現地確認の結果を添えた。部品の納入記録、工事を請けた側の図、学校へ渡された断水予告が並ぶ。同じ仕事のために別々の場所へ送られたものが、保存されていた。
マラの学校へ出した予告には、給水車を回す時間まで書かれている。
「少なくとも、この資料から売却計画があったとは言えません」
ミレトは言った。
「いま確認できる工事は、住民への供給を維持するためのものです。その点は、今日中に説明する必要があります」
ヴォルクは二つの図を見ていた。
「だから、広場で撃たれた者はいなかったと?」
「その話はしていません」
トーヴァが返した。
「説明を求めて集まった人は撃たれた。水利局へ勤めていた家族も殺された。片方を認めるために、もう片方へ嘘を残す必要はありません」
卓の周りで、手を止めた者がいた。ヴォルクは彼らを順に見た。窓の外には、物資を受け取る車が並んでいる。昨日も今日も、その車を集めているのは彼の側の者だった。
「工事の説明は訂正しましょう」
ヴォルクは答えた。
「ただ、市民がこの政府を信じられなくなったことまで、書き換えるのは無理です。警察も、連合の駐屯軍も、あの政務官たちの下にいた」
「その政務官の一人は、射撃を止めようとしていました」
シーアが口を開いた。
ヴォルクの目が、彼へ向いた。
「ローデのことなら、私も聞きました。しかし止まらなかった。誰が最後に何を言ったかを確かめる前に、次に命令を出す者を置かなければ、また同じことになります」
シーアは頷かなかった。けれど、返事をしなければ今日の仕事が止まるという意味は分かった。
ヴォルクは人事案を開いた。旧政府から任命された管理職を外し、当面は評議会の承認した担当者が指示を出す。その下で技術者と事務職員が働く。文書の上では、そうすれば人も設備も使えるように見えた。
トーヴァは、名前を一つ選んだ。
「この人が管理職なのは、ポンプを止める判断をするからです。下に何人いるかで選ばれたのではありません」
「技術補佐として、残れます」
「では、その上に来る人が運転を続けろと言ったら?」
ヴォルクは、危険な命令を出す者は置かない、と答えた。トーヴァは隣の区画の項目へ移った。そちらも同じだった。
港湾職員の代表からも異議が出た。主任を外せば、荷を受け取るための認証が使えない。別の者へ移せば済むが、機械を預かる権限と、検査を終えたという署名をする資格は同じではなかった。
ミレトは、画面を閉じさせなかった。違うと言われた項目を、その場で書き直していく。
「施設を動かす責任者と、予算や人事を決める者を、同じ欄で全部替えることはできません。職員側の案も出してください。まず、今日働く人を確かめます」
カッシオが警備施設の欄を開いた。
「武器を返す相手は、別に確認する。施設の場所を知っていることと、部下へ命令させていいことは分けたい」
ケストが頷いた。彼女も出席していたが、警察の代表一人として市内の全署を約束できる立場ではなかった。今朝も呼んだ相手の何人かは来ていない。
「個々の当直記録と、訴えを照合しています。広場へ出ていなかった者にも、別の日の件で話を聞く必要があります」
「協力した者まで?」
ヴォルクの隣にいた男が訊いた。
「共和国へ施設を渡した後でも、その前に何をしたかは調べます」
カッシオが答えた。
「渡したことも記録する。それで、ほかの記録を消すつもりはない」
男はヴォルクを見た。ヴォルクは彼へ答えず、配給の継続をいつから市側へ戻せるかと、ミレトへ尋ねた。
会議は長くなった。
シーアが艦隊の輸送枠を開いたのは、民間の納入業者へ支払いを再開する話になってからだった。政府関係の口座を止めた結果、役所へ物を運んでいた業者の代金まで動かなくなっている。凍結の連絡は、共和国の艦隊が来る前に届いていた。
どこが止めたのかと訊くと、金融機関からの通知が出た。その通知には、さらに別の共和国側の照会番号が付いていた。
「当面の救援物資は届けられます。ただし、こちらの輸送艦を、この町の定期便にはできません」
シーアは言った。
「地元の船が運べるように、支払いと受領を戻してほしい。それまで、必要な分をつなぎます」
トーヴァが、旧口座をそのまま開ければ消える金もある、と言った。ヴォルクの側も同意した。どちらも相手を見なかった。
ミレトは救援の支払いを別に扱い、旧政府の資産は調査と並行して必要分の解除を求めることにした。独断で凍結を解くことはできない。止めた先へ、具体的な請求を送らなければならなかった。
昼を過ぎ、卓の上へ冷めた食事が運ばれてきた頃、ようやく文書が分かれた。
施設を動かすための暫定の職務分担。物資を受け取る責任者。訴えを受け付け、記録を残す窓口。住民の拘束を武装組織だけの判断で行わせないための連絡手順。
臨時評議会をテルヴァーンの政府として認める署名欄は、今日も空いたままだった。
ヴォルクは、復旧の協議を取りまとめる役を引き受けた。地区会、職員組合、港湾側の代表も同じ文書へ名を入れる。彼が握っている車と倉庫と人の数は、発言権を一つ増やしただけでは減らなかった。
「これで、共和国の支援は続く」
ヴォルクは言った。部屋の外で待つ者にも聞こえる声だった。
ミレトは、今日合意した復旧業務への支援だと答えた。ヴォルクは笑みを崩さず、もちろん、と頷いた。
シーアは、文書に入った自分の署名を見た。艦隊が運ぶ物と、期限と、連絡先を約束するためのものだった。外でこの署名を見せられる人々が、同じ所まで読んでくれるかは分からなかった。
*
ヴァル市、低地第二配水所
エドリクが操作盤へ触れた時、後ろで誰かが息を吸った。
ハレクだった。資材を運ぶ車を降り、入口へ寄りかかっている。ブラスターは警備兵に預けていたが、白い腕章は外していなかった。
「それで、止められるのか」
エドリクの手が止まった。
「何をですか」
「下の家へ行く水だ」
ベイランは二人の間へ立たず、操作盤の反対側にいた。トーヴァは点検用の蓋を開け、部下に照明を向けさせている。誰かが仕事を続けなければ、三人の会話だけで部屋が埋まってしまう。
「この区画は、止められます。管が破れた時に」
エドリクは答えた。
「だから、それを」
「昨日から止まっているのは、ここです」
トーヴァが横から声を掛けた。蓋の内側に、焦げた接続部が見えていた。
「撃たれた配電盤を直しても、こちらの保護装置が戻っていませんでした。エドリク、予備は右の棚だったね」
「下の段です。新しい方は、箱に印が」
言い終わる前に、彼の手が棚へ伸びた。慣れているのだと、ベイランには分かった。逃げている時も、自分が最後に置いた部品の場所までは忘れていなかった。
ハレクは、二人が古い部品を外すのを見ていた。
「弟が広場へ行った」
作業の音が途切れた時、彼は言った。
「仕事を休んで。何もしなければ決まってしまうと、俺が言った。銃は持っていなかった」
エドリクは、工具を持ったまま顔を上げた。ハレクは彼を見ていなかった。入口の外に、交換する管を積んだ車があった。
「市民会館へ行ってもいなかった。最初の広場だ。帰ってこなかった」
ベイランは何も挟まなかった。ハレクは唇を舐め、エドリクへ視線を戻した。
「役所の説明を聞けと言われたんだ。お前たちも、そう言う。調べるまで待てと」
「私の家は、焼かれました」
エドリクが言った。
ハレクの肩が動いた。反論を探しているように見えたが、言葉は出なかった。トーヴァは部下へ、通電はまだするな、と伝えた。
「あなたたちが来るまで、待てなかった」
今度はベイランへ向けた言葉だった。
ベイランは、返事をしなかった。共和国が来る日まで待てと言って、この男の弟を守れたのかは分からない。ここへ来る前、自分たちは別の星で、別の帰還者を待っていた。
入口の向こうへ、ケストが現れた。
ハレクは彼女の制服を見て、顎を上げた。ケストは部屋へ入らず、持っていた端末を下げた。
「二二四の、住宅区でのことを聞きたい。あなたの車を見たという人がいる」
「けが人を運んだ」
「その前に、人を迎えに行ったと」
ハレクはベイランへ顔を向けた。
「昨日は、話を聞くと言った」
「君からも聞く」
ベイランは答えた。
「弟のことも。車で誰を運んだかも」
ハレクは入口から離れ、床に置かれていた資材の箱をまたいだ。狭い所で身体がぶつかり、箱の上の部品が転がりかけた。反射的に押さえ、元へ戻してから、ケストと出ていった。
エドリクは、その手を見送っていた。
ベイランは外の警備兵へ、ハレクの預けた武器を引き続き保管するよう伝えた。聞き取りには、共和国側の記録担当も付く。ケスト一人へ、被害を受けた者と訴えられた者の両方を預けるわけにはいかなかった。
戻ると、トーヴァが作業を再開していた。
「あと一つ、こっちを見てくれれば、今日はいい」
エドリクは頷き、床へ膝をついた。ベイランが横から照明を持つと、ここへ、と迷わず場所を指した。
水の流れる音がしたのは、そのしばらく後だった。
誰も拍手しなかった。トーヴァは圧力の変化を確かめ、外にいる部下へ漏れがないか訊いた。エドリクは外した部品を作業台へ並べ、使えるものだけを元の箱へ戻した。
「明日も、来ていただけますか」
ミレトから来た補佐員が訊いた。
エドリクは手を拭いた。ベイランを見てから、勤務の時間を尋ねた。
「その前に、セヴを学校へ連れていきたいんです」
補佐員は予定を開き直した。
*
《ハービンジャー》、居住区画
シーアが戻った時、私室の入口には靴が二足置かれていた。
一足は自分の予備だった。もう一足はずっと大きい。中を覗くと、ベイランが椅子に腰を掛け、靴底の溝に詰まったものを布で取っていた。
「自分の艦で、できませんか」
「会議の後、ここへ来いと言った」
「靴の話はしていません」
ベイランに足元を見られ、シーアも片足を上げた。磨かれた床に灰色の跡が残っている。入口の布を取り、隣へ腰を下ろすと、ベイランが自分の靴を寄せて場所を空けた。
ベイランの靴からは砂と、乾いた白い粉が落ちた。モン・カラの後には塩が残った。今度は何だろうとシーアが言うと、壁だろう、と返ってきた。
「壁?」
「学校の、割れた所を踏んだ」
シーアは布を畳み直した。自分の靴に入っていた粉も、同じものかもしれなかった。
セレナが戸口へ来て、二人を見た。先に風呂を使うよう言いかけ、床の布が広がっているので、隣の部屋へ退いた。戻ってきた時には、回収用の容器を持っていた。
「ケレンが掃除したばかりです」
「だから、布を敷いた」
ベイランが真面目に答えた。シーアはそこで笑ってしまい、靴を持つ手を下げた。
通信の通知が入った。セレナが件名を確かめると、《プレカーサー》の警備区画から、捕虜の引き継ぎ確認が届いていた。ベイランが端末を受け取り、添付された記録を開く。胸に封印を付けたB1-6H3が、警備兵の撮影装置へ顔を向けていた。
「椅子ハ一緒ニ来ナイノカ」
後方の収容区画にも椅子はあると警備兵が答えた。ドロイドは振り返って座面を見た。
「コレハ、座ッテモ壊レナカッタ」
「向こうでも壊れない」
「確認シテクレ」
ベイランは映像を止め、引き渡す先の担当者名を確かめてから受領を返した。シーアが笑いながら靴を揃えると、彼も残った布を畳んで容器へ入れた。
「僕を見に来るために、第三を希望する人がいるらしいです」
シーアが言うと、ベイランは分かったように頷いた。
「もう知っていたんですね」
「テザーが聞いてきた」
「連隊まで?」
「彼の志望理由ではない」
「分かっています」
シーアは立ち上がり、裸足で床の汚れていない所へ移った。ベイランはまた笑っていたが、それ以上はからかわなかった。
ケレンが戻ってきて、乾いた服を二人へ渡した。ベイランが泊まるために置いていった包みも、シーアの物と同じ棚から出てくる。シーアは自分の替えの上着を奥へ寄せ、戻ってくる服の場所を空けた。
*
C.R.C. 7956.229 《ハービンジャー》、司令官室
追加資料への返答は、別々の部署から届いた。
広場で最初に発砲した警官については、当日の名簿との照合が続いていた。ケストが見せた正規の配置記録には、映像の人物を特定できる項目がない。ただし応援要員の分が欠け、証言に出る名前も一致していない。それだけで、警官ではなかったと決めることはできなかった。
市民側へ入ったブラスターの記録は、現地警察の押収品と、軍情報局が追う貨物の記録に分かれていた。製造番号が読めるものはある。しかし同じ型は、この星へ来る前に何度も持ち主を変えている。
ローデ政務官が死亡した執務室へ入った者の照会は、庁舎の職員記録で止まっていた。名乗られた名前に該当する秘書は見つからない。職員の一人は、灰色の服を着た女性を見たという。ほかにも、避難を手伝うために行き来した者は多かった。
シーアは、同じ画面へまとめかけた資料を、途中で分け直した。同じ日に起きたことでも、同じ者がしたとは限らない。そこを勝手につなげれば、自分もあの配水の図と同じことをする。
それでも、共和国が来る前に共和国側へ連絡を取っていた者はいた。
口座の凍結には、保安委員会の照会が使われていた。守備隊の離反について軍情報局へ渡された報告にも、委員会の第二室を経由した情報が含まれている。ヴォルク側へ渡った到着予定の一部も、その連絡の過程で共有されたものだった。
シーアは提供者の身元と、約束した条件を求めていた。
届いた返答は、軍事行動に必要な施設の情報と、引き渡し窓口の一覧だった。協力者の身元と工作の記録は、艦隊へ渡す情報の範囲には含まれない。必要があれば委員会の担当部署へ、目的と対象を示して照会するよう書かれていた。
目的は、既に書いたはずだった。
シーアは画面を閉じず、先の照会を添付した。
「送り先を、一つ増やしてください。ホーン提督へも」
セルトが頷いた。
「同じ文面でよろしいですか」
「軍へ引き継がれていない約束があるなら、現場で守れるかどうかも判断できません。その部分を、本文へ」
セルトは文を入れ、シーアへ確認を回した。彼は読み終えて送信した。第二室が何かをしていたのは分かる。何をどこまでしたのかは、この三日で読んだ資料だけでは分からなかった。
地上から、ミレトが呼び出してきた。
『図の説明を、学校と配給所でも出し始めました。訂正を聞きたいという人と、今さら何を言うのかという人がいます』
「職員の方は」
『戻る人は増えています。ただ、制服は着たくないという人も。新しい所属表示を作るより、先に給料の話をしたいそうです』
シーアは口元を動かした。ミレトも画面の向こうで、疲れた顔のまま笑った。
『ヴォルクの所から、復旧の報告が来ました。皆さんが帰る日を知りたがっています』
「僕たちが出た後、誰が残るかは説明しましたか」
『説明しました。それでも、艦隊がいついなくなるかは、別に知りたいのでしょう』
彼女は手元を見た。次に話す相手が待っているらしく、誰かへもう少し待つよう頼んでいる。
『ハレクから話を聞いています。車へ乗せた人を引き渡したと言っていますが、その先の行き先がまだ。彼の弟については、病院の記録を確かめています』
「どちらも、続けてください」
『ええ。ここにいる担当者の名も送ります。問い合わせるたびに、最初から話し直さなくて済むように』
回線が切れた後、セルトは送られた連絡先を登録した。シーアはその仕事を見ていた。今日ここで話した者の名が、部隊の移動と一緒に消えないようにする。そのための欄が、やっと一つ埋まった。
*
ベイランが来た時、シーアはソファへ移っていた。
机に並んだものを片付ける余裕がなく、次に読む一台だけを持ってきた。上着は脱ぎ、背に掛けてある。セレナが置いていった毛布を膝へ掛け、換気の風でめくれる端を端末の下に挟んでいた。
「警官のことは」
ベイランが訊いた。
「まだです。名前が違うのか、名簿がないのかも」
シーアは端末を横へ置き、ベイランの座る場所を空けた。彼はいつもの椅子を引かず、ソファの反対側へ腰を下ろした。
「第二室は、来る前から動いていました」
「それは、聞いた」
「守備隊の引き渡しも、口座を止めたことも、別の窓口から届いている。どこへ訊いても、その部署が受け取った分までは出てきます。でも、その前が」
シーアは手を開いた。ベイランは、空いた卓の上を見ていた。
「軍へ届いた報告だけで、誰が何をしたか決めるつもりはないんです。それでも、僕たちがここへ来た理由の一部なら、知らなくていいとは思えない」
「調べる者は、残るのか」
「ミレトさんたちが記録を集めています。引き受ける先も確認しました。第二室への照会は、ホーン提督にも送った」
ベイランは頷いた。シーアの端末には、調査の照会に続いて次の当直からの確認が届いていた。
「君は、いつ出られると思う」
「補給の受け渡しと、港の交代が終われば。地上の警備はカッシオが続ける。民間便は、明後日から一部を戻せそうです」
シーアはそこで、ベイランの顔を見た。作戦の確認だけをしに来た時とは、座り方が違っていた。両手を膝へ置き、身体の重さを背もたれへ預けている。
「何か、残りましたか」
「エドリクが、仕事を辞めても学校にいられるかと訊いた」
シーアは答えかけ、口を閉じた。
「施設へ戻ったでしょう」
「戻った。部品の場所も知っていた。今日も仕事をした」
ベイランは言った。
「息子を安全な所へ置けるなら、働くと言っている」
「それを、条件にはしていません」
「私も、そう言った」
「では、もう一度説明すれば」
「説明した」
ベイランは繰り返した。シーアは端末を引き寄せ、受入れの条件を開こうとして、別の報告を押した。
「全員が辞めたいと言ったら、困ります。水を出す人がいなくなる」
「あの人は、それを知っている」
シーアは端末を伏せた。卓へ当たった音が大きく、ベイランが手元を見た。
「それなら、僕は何を――」
誰に腹を立てているのか分からなくなった。相手は、今日会った人の話をしているだけだった。シーアは毛布を退け、足を床へ下ろした。
「僕は、戻った人数を訊きました」
施設を出る時、何人が明日も来られるかを確かめた。本人の前で礼も言った。その間、子供を守ってもらうために頷いているのかもしれないとは、考えなかった。
「一人にしてください」
ベイランが動かなかったので、シーアは顔を背けた。
「いま、あなたに変なことを言いそうです」
ソファが軋み、相手が立った。呼び止めようと思えば、まだ届く距離だった。シーアは膝へ手を置いたまま、扉の閉まる音を聞いた。
セレナが入口へ現れ、通路で待っている相手を知らせた。午後の当直報告を持ってきたコルヴェンだった。シーアが立とうとすると、艦長はそこにいていいと言い、壁の表示へ引き継ぎ表を送った。
ソーンがすでに確認を終えていた。前へ出す艦と、補給を受ける艦が入れ替わっている。《ディグニタス》の負傷者二名の経過も、その下にあった。
シーアは毛布を掛け直さず、報告を聞いた。《ディグニタス》の次の当直について訊くと、コルヴェンは艦長から届いた希望を示した。そこには返事ができた。シーアは確認を付け、残りも副司令官と艦長へ任せた。
誰もいなくなってから、伏せた端末を戻した。復旧支援の欄へ交代要員の養成を足し、人数と期間を書こうとして止まる。今度は、誰がその間も働くのかを先に訊かなければならなかった。
ベイランへの私用の文面も開いた。「怒っていたのは」と書いて消す。自分へ腹を立てたことにすれば、相手へ言ったことまでなくなる気がした。送らずに閉じ、エドリクへ会いたいという連絡だけをミレトへ回した。
夕食を下げに来たセレナが、手の付いていない皿を見た。
「食べてください」
「いまは、いい」
「よくありません。あなたは昔から、具合が悪くても悪くないと言って――」
「今、その話いる?」
「いるわよ」
セレナは皿を持ったまま言った。シーアが顔を上げると、彼女の手は皿の縁を強く握っていた。
「また、何も言わなくなるまで待てと言うのですか」
「食べるから。置いて」
皿が戻された。シーアは匙を取り、彼女が出ていくまで顔を上げなかった。いつものように食べ終えるのを待ってもらうのも、今は嫌だった。
ケレンが後で来て、冷えた主菜を小さな温かい器へ替えた。好物だった。理由は言わず、匙が手にあるのを見ると、扉のそばの明かりだけを落として出ていった。
シーアは器が空になるまで食べ、匙を中へ置いた。端末を開きかけた手を引っ込め、盆を持って立つ。通路へ出ると、セレナが翌朝の予定を確認していた。
「食器でしたら、ケレンが」
「うん。僕が返してくる」
セレナは盆を見た。シーアは彼女の横を通り、食器を揺らさないよう持ち直した。背後で予定を読み上げる声が再開するまで、歩く速さを上げなかった。
*
C.R.C. 7956.230 ヴァル市、南発着場
出発前、シーアはミレトへ交代要員の養成も支援に含めたいと伝えた。必要な人数と、教える間の勤務をどう減らせるかを、職員側にも訊いてほしいと頼む。学校の受入れは勤務と切り離す。その説明だけで安心してもらえるとは、もう言わなかった。
ベイランとは朝の打合せで顔を合わせた。シーアは昨日、席を立たせたことを謝った。ベイランは聞き、出発前に学校へ寄れるとだけ答えた。エドリクの話を続けられるほどには、シーアの頭の中は片づいていなかった。
カッシオは、出発する者より先に車へ乗らなければならなかった。
北側の警備交代を見に行く。現地守備隊から戻す人員の確認と、武器庫の管理について、まだ話すことが残っている。テヴェク少佐は施設の引き継ぎに立ち会うが、部隊へ武器を一括して返したわけではなかった。
「ずっと残れとは、言わないでくれ」
カッシオは言った。シーアがまだ何も頼んでいないうちだった。
「言ってない」
「お前が言う前に言っておく。こちらにも、交代が要る」
シーアは頷いた。カッシオの連隊を残した、と編成表へ書けば、その後を一行で済ませられる。それを本当に一行で済ませるつもりはなかった。
「次の船団へ、交換部品の一覧を渡してあります。交代部隊についても、司令部へ照会を続けて」
「そちらの返事が先に来たら、教えてくれ」
「うん」
カッシオは手袋を直し、シーアの上着へ目をやった。
「今日は、襟が合っている」
「自分で着ました」
「セレナさんに礼を言っておく」
シーアは肘で軽く押した。カッシオは避けずに笑い、それから敬礼した。返礼を受けると、車へ乗り込んだ。昔のホテルなら、この後にもう一度、飲み物を頼めたはずだった。
ベイランは150連隊の輸送予定を確かめていた。先に母艦へ戻る者と、カッシオ側への引き継ぎを終える者が分かれている。ブラケットの療養は続いていた。連隊が次へ動くことと、負傷した者が全員戻ることは、同じ日にはならない。
軌道上のヴァラリアン打撃群も、まだ十四隻だった。《ヘラルド》と《コンスタンティア》の修理完了見込みは、出発前の報告と同じ日付だった。ソーンは《エンヴォイ》から、出港前に済ませる試験を各艦へ返していた。
シーアはミレトから、最後の確認を受けた。
彼女の仕事も終わっていなかった。臨時評議会の承認は先へ送られ、現地の各機関と共和国の担当者による復旧の協議だけが動き始めている。旧職員の処遇も、家を失った者の住まいも、すべて決まったわけではない。
ヴォルクは相変わらず、誰より早く車と人を集められた。
ただ、今日の受領記録には、トーヴァと地区会の代表も名を入れていた。配給の条件へ家族の勤務先を加える欄はなく、訴えの窓口は彼の詰所の外にも置かれた。そのどれもが、守る者がいなければ元へ戻るものだった。
「調査の記録は、こちらからも送ります」
ミレトが言った。
「艦が次の星へ行っても、読める所へ」
「お願いします」
シーアは答えた。追加照会への次の返事は、まだ来ていなかった。来るまで艦隊を置く、とは言わなかった。
連絡艇へ向かう前に、彼は学校へ寄るための車を頼んだ。ベイランが隣へ乗り、セレナは出発の時刻を確かめてから、二人の後ろへ座った。
*
ヴァル市低地第六学校
エドリクは、授業の終わる前に戻ってきた。
今朝は一日ではなく、午前だけの勤務を選んだ。学校へ留まれるかどうかは勤務と関係がない、と昨夜、復旧担当の者から説明を受けていた。トーヴァからは次の者へ操作を教えてほしいと頼まれている。明日も同じ時間にするかは、帰ってから決めていいことになっていた。
門の前で、到着したシーアたちと会った。エドリクは勤務が短かったことを言いかけたが、ベイランが先に、セヴの授業には間に合ったか、と訊いた。
「まだ、終わっていません」
「では、ここで長く引き止められませんね」
シーアは答え、技術者の交代と訓練に使う支援は、復旧の担当へ引き継いだと伝えた。エドリクは礼を言った。それから、給料の通知に問い合わせ先が二つあって、どちらへ返すのか分からない、と訊いた。
シーアにも分からなかった。セレナが通知を見せてもらい、ミレトの事務所へつないだ。返事が来るまで、エドリクは門の内側で待った。話が済むと、ベイランが彼の肩へ手を置き、先に行くよう促した。
新しい職員証を持っていたが、首からは下げていなかった。門の警備兵へ見せ、しまってから廊下を歩いた。靴の音で分かったらしく、セヴが窓から顔を出した。
「早い」
「今日は、ここまでにした」
エドリクが答えると、男の子は何か言いかけ、教室の中を振り返った。机の上に作りかけのものがある。廃材の板を組み合わせた、小さな建物だった。
マラは、窓に肘を載せたセヴを席へ戻した。
「あとで、お父さんに見せよう」
彼女の端末には、配水工事についての訂正が届いていた。昨日は廊下の表示へ出し、質問に来た大人へ原本の見られる場所を教えた。信じた者もいれば、今になって言い分を変えたのだと言う者もいた。
ハレクの運んでいた車は、今日は別の運転手で来た。誰が降りてくるかを、マラは門の内側から確かめた。食事は同じ容器で運ばれ、量を受け取った記録も残した。礼を言う相手だけが替わっていた。
学校を避難所に使う期間は、まだ決まっていない。奥の教室には寝具が並び、夜になると机を寄せる。壊れた表示も、下半分は消えたままだった。
それでも、今日は授業の続きを待つ子がいた。
セヴは建物の屋根を載せようとして、壁の片方を倒した。隣の子が押さえ、二人でやり直す。マラは手を貸さず、接着する場所だけを教えた。
廊下では、エドリクが窓から離れた椅子へ座った。濡れていた制服はもう乾いている。水利局の表示を外した跡は、まだ見えた。
セヴがもう一度、戸の方を見た。
父親は急がせず、そこで待っていた。