STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
勝利の代償!
敵補給船の破壊によって、共和国はアンバラ上空に一時の隙を開いた。北の橋に取り残されていたベイラン・スコールと150連隊は、その間を使って撤収。だが、地上主力との合流は果たされず、首都への進撃はなお停滞している。
補給船へ独断攻撃を敢行したファイヴズ、ジェシー、ハードケース。帰還した二人を待っていたのは、ポング・クレル将軍の処刑命令だった。
兵士は命令に従う。では、その命令を止める者は誰なのか。闇に覆われた戦場で、共和国の兵たちは、再び選択を迫られていた――
*
C.R.C. 7956.247 アンバラ地表、共和国が確保した飛行場、格納庫外側
リブは、毛布を積んだ車を止めた。
橋から戻った兵へ使った分を補い、残りを母艦へ返すところだった。箱には受取先を書いた札が付いている。格納庫の前を横切れば着陸区画へ出られたが、その通路に青い装甲の兵が立ち、車を別の方へ回すよう指した。
「あっちは、まだ荷を運んでいる」
リブが言うと、兵は車の後ろへ目をやった。積んであるのが武器でも燃料でもないと確かめてから、壁沿いで待てと答えた。フォイルは次の後送便の所におり、タックは電源の移設へ残してきていた。ここで順路を変えても、着陸区画へすぐ知らせなければ車だけが来なくなる。
軍曹が受信器へ手をやった時、格納庫の中で名が呼ばれた。
ファイヴズ。ジェシー。
入口の向こうに、二人が立っていた。手を自由にしていない。装甲の青い印は、周囲の兵と同じだった。リブはその先へ視線を移し、列になった銃口を見た。撃つ者と撃たれる者の間には、遮蔽物も敵の旗もなかった。
「何をする」
声が出てから、通路を塞いだ兵がこちらを見た。
「処刑だ」
「あの二人を?」
「将軍の命令だ」
リブは車から手を離した。昨日、ラップが話していた兵たちだった。上空の補給船を沈め、二人が帰った。その報告と、いま目の前で起きようとしていることが、頭の中でうまくつながらなかった。
格納庫の奥でファイヴズが話した。入口にいるリブには言葉の全部は聞こえなかったが、銃を構える一人一人へ顔を向けていることは分かった。自分で考えること、目の前にいる仲間を見て決めることを求めていた。ジェシーも顔を上げ、目の前の列から視線を外さなかった。
射撃の指示が出た。
リブは車の縁を掴んだ。隠れるために動いたのではない。そこに手を置いていなければ、格納庫の方へ歩いてしまいそうだった。
銃声はしなかった。
一人の銃身が下がった。隣の兵も下げ、最後まで構えていた者が前の二人を見た。もう一度、命令を実行しろという声が響いたが、列は射撃の姿勢へ戻らなかった。リブの前にいた兵も、肩から力を抜いた。
レックスが列の側へ出た。彼と兵たちの声が重なり、入口からでは誰の返事か分からなくなった。リブはそのやり取りの間も二人を見ていた。生きていた。拘束された腕を動かす仕草が見え、やがて護衛の一人が近づいた。
「通れるぞ」
入口の兵が言った。
リブは車へ手を戻したが、すぐには押せなかった。何を知らせるべきかを考え、テザーを呼んだ。コマンダーは同じ飛行場で橋から戻った班の整理を続けている。軍曹は、見た場所と二人の名、銃が構えられたこと、射撃が行われなかったことを順に伝えた。
『将軍の指示で止まったのか』
「そういう連絡は聞いていません。執行する兵が、下げました」
テザーは追加を求めず、確認の取れた範囲で上へ送ると答えた。リブが回線を閉じる頃には、格納庫から次の任務へ向かう兵が出始めていた。ファイヴズとジェシーもその中にいる。誰かが銃を渡し、受け取った者が残量を確かめていた。
リブは車を押した。毛布の箱が一つ傾き、札が裏返った。直すために立ち止まると、後ろから来た兵が手を貸した。二人とも格納庫の方を見ず、その箱だけを元へ戻した。
*
アンバラ上空、《ハービンジャー》、会議区画
シーアは、報告の表題を読み直した。
二名に対する処刑命令。発令者はポング・クレル。対象の識別番号の下に、ファイヴズとジェシーの名がある。地上側の連絡窓口を経由した通知で、執行結果の欄は付いていなかった。
ベイランは向かいに座ったままだった。膝へ置いていた着替えを椅子の隣へ寄せ、差し出された端末を受け取る。肩を動かした時に表情が変わったが、シーアは今度はそこを訊かなかった。
「補給船を沈めた二人ですよね」
「三人だ」
「……そうでした」
シーアは先ほど閉じた戦果の記録を戻した。ハードケースの名が、帰還した二人と同じ行にある。その下へ新しい通知を重ねると、生きて戻った者だけが処刑対象の欄へ移っていた。
セルトが通信卓から追加の資料を送った。独断出撃の報告、捕獲した敵機の使用、補給船の破壊。クレル側の連絡には、抗命と処分についての記述がある。審理の経過や、誰が何を確認したかを示す記録は添付されていなかった。
「軍法会議の記録は」
「届いていません。開催と判決を確認できる資料も、こちらにはありません」
「まだ届いていないのか、ないのか」
「照会します」
セルトは答え、二つを別の質問にして送った。シーアは通知の時刻へ指を置いた。地上で起きたことと、ここへ来たものとの間には、いつも差がある。橋の回収便でもそうだった。今は、その差の向こうで二人が生きているかを確かめなければならなかった。
「執行状況を最優先で。ケノービ将軍とオープン・サークルの調整窓口へ、執行の停止と処分の審査を求めます。GF司令部にも同じ資料を」
「停止の命令としては送れません」
セルトが文面の冒頭を示した。第3合同任務群から第501軍団へ、その処分を取り消す指揮権はない。シーアは自分で入れた動詞を見て、要請へ直した。送れる形へ直すために必要な操作だったが、その一字の間にも現地の時間は進んでいる。
「緊急と入れてください。審査の回答を待つ間は執行しないよう、併せて求めます」
ベイランが自分の端末を開いた。
「私からも送る。クレルへ直接の照会と、ジェダイ側の連絡先へ」
「取り消せますか」
訊いてから、シーアはベイランを見た。昨日と同じ所へ戻りかけていた。ベイランは端末から顔を上げ、短く首を振った。
「私はクレルの上官ではない」
「分かりました。照会をお願いします」
それ以上は足さなかった。ベイランも、別の言葉で安心させようとはしなかった。二人の前で回線が開き、それぞれの相手へ文面が送られていった。
艦隊側の法務当直から、判断の根拠となる記録を求める返事が来た。シーアは独断出撃と処刑命令を別々に送り、敵の識別信号を使った件については、前に作った確認事項も添えた。攻撃時の信号の扱いは、まだ分かっていない。
「その点も、処刑理由に含まれていますか」
法務当直が訊いた。
「こちらの疑問です。クレル将軍の通知に、そう書いてあるわけではありません」
シーアは確認事項の送付先を変えた。処分の根拠を確かめる照会と、自分の疑問を調べる照会が、同じ表の中へ入っていた。分けてから、もう一度送る。
「敵機を使ったこと、識別信号を出したこと、攻撃時に何を示していたか。調査に必要な記録を、別途指定してください。いまは結論を置きません」
相手は受領した。独断攻撃が成功したという戦果の記録も、審理の記録の代わりにはならないと答えた。シーアは頷いた。成功して帰ってきたから全てを済ませてよいとは思わなかった。それでも、審査の対象である二人を先に殺してしまうことには、同じように頷けなかった。
クレルへの呼出しは、つながらなかった。
セルトの卓では、別の通信が続いていた。回収艇の受入れ確認、飛行場へ降ろす医療資材、敵艦の再集合。すべてが二人の名前を知って止まったわけではない。シーアは会議卓の向こうにある艦内通路を見た。整備員が予備の上着を肩へ掛けたまま通り、扉の外で誰かに呼び止められている。
ケノービ側から受領が来た。現地への確認を急ぐ。オープン・サークルの窓口も、司令部へ緊急連絡を入れたと返した。どちらにも執行停止の確認はなかった。
シーアは、送った要請を開いたまま待った。
*
《ハービンジャー》、戦闘指揮所
返事を待つ間に、敵のレキューザント級が進路を変えた。
ソーンから来た報告で、シーアは会議区画を出た。《バランス・デュー》と僚艦は雲海上で間隔を取り直し、その奥からプロヴィデンス級が射撃している。補給船を失っても、護衛艦の砲と航空機は残っていた。第32任務群の三隻は冷却の交代を続け、直轄部隊が帰投路を守っていた。
『今の便を通した後、一つ内側へ替えます』
副司令官の声は《エンヴォイ》から来た。シーアは受領し、飛行場へ向かう次の便を同じ位置から出せるかだけを確認した。ソーンは経路を変える必要があると答え、変更先を輸送担当へ渡した。
その通信の途中で、地上から新しい報告が入った。
「二人に対する執行は、行われていません」
セルトが言った。
シーアはソーンへの返事を終えてから、彼女の卓へ寄った。ベイランも後ろから来た。第150空中突撃連隊のテザーを経由した報告と、五〇一側からの確認が並んでいる。執行隊が射撃を拒否。二人は生存。シーアは襟へ手をやり、留め具を外そうとして、もう開いていることに気づいた。指を下ろしてから報告の時刻を読む。処刑が行われなかったのは、艦隊が最初の通知を受けるより前だった。
「僕たちの要請が届く前ですね」
「はい。執行隊へ停止命令が届いて下げた、という報告ではありません」
セルトはその一行を消さずに示した。シーアは頷き、二人の状態を確認済みへ移した。自分たちが送った停止要請は、その後ろに残った。まだ回答の付いていない要請だった。
ベイランがファイヴズの名へ目を止めた。
「兵たちが、決めたんだな」
「そうです」
シーアは通知を閉じかけ、もう一度時刻を読んだ。相手が言ったことへ付け加える文は出てこなかった。受領だけを返し、審理と処分に関する確認は続けるよう頼んだ。
五〇一の一部は、次の任務へ出ていた。帰還した二人も部隊へ戻っている。具体的な展開と支援の予定は更新待ちだった。セルトがその項目を開くと、地上の連絡窓口から敵がクローンの装甲を使う可能性についての警告が来た。
シーアは報告を航空隊と各任務群へ渡した。報告元と対象地域を付け、味方の識別を装っているという記述だけで地上の目標を確定しないよう求める。警告の範囲は五〇一側の進出地域だった。北の橋と、南の渡路と、林間分岐を同じ警告区域へ塗りつぶすことはしなかった。
橋の印は、もう味方の位置ではなくなっていた。その南では、ケノービの部隊が分岐を基点に組み直している。飛行場との間にどの道が通り、どの道がまだ撃たれているか、シーアの卓へ来る更新は一様ではなかった。
ベイランはテザーとの回線を開いた。帰還した班の点検と休息を続け、確認の取れていない次の降下へ兵を並べるなと伝えた。飛行場にいるコマンダーが受領し、医療側の判定を待っている者の数を別に送ってきた。
指揮所の時計が進んだ。地表の警告も、処分の照会も、別々の卓で処理されていた。
*
アンバラ地表、飛行場、西側受入れ区画
次に来たのは、毛布を返す車ではなかった。
五〇一側の搬送地点から、車を回せるかと連絡があった。リブは空になった一台の担当へ話を通し、出ていく運転手に地上の管制先を渡した。フォイルの所では、キックスから届く負傷者の状態を受け、降ろす順番を決めていた。
銃声は、飛行場から離れた森の中で続いていた。ここへ入る前から、どこかで撃ち合いはあった。格納庫の外にいる者には、音だけで部隊を分けられない。リブは一つの報告が来るたびに車の出発先を確認し、他の入口から来た負傷兵まで同じ記録へ入れないようにしていた。
受信器から、射撃を止めろという声が聞こえた。
リブは指を止めた。こちらへの命令ではなかった。五〇一側の回線から渡されてきた声で、呼出しが重なり、誰に向けたものかはまだ分からない。フォイルも顔を上げたが、先に受けた担架からは離れなかった。
キックスとの通信が戻った。
『搬送地点を変える。レックスが射撃を止めている。二一二の兵だった』
「何が」
リブは訊いた。すぐに相手が言い直し、五〇一の部隊が交戦していた相手は、第212突撃大隊の兵だと告げた。敵が同じ装甲を着ていたという最初の説明が、現地で崩れた。レックスが相手を確かめ、両側へ停止を呼びかけている。
軍曹は外の森を見た。そこには何も見えなかった。いま聞いた部隊を指すための光も、顔もなかった。自分が見分けられたつもりでいたものが、どこまで届くのか、急に分からなくなった。
「こちらへ、何台」
『先に送れる分を出す。両側にいる。こっちの記録が揃うまで、着いた者を待たせないでくれ』
キックスは位置を送って通信を切った。リブはテザーを呼び、いま受けた報告をそのまま伝えた。クレルの警告が嘘だったのか、現場のどこで間違えたのかまでは、自分には分からなかった。コマンダーは五〇一側と二一二側の連絡先を求め、ベイランへ送ると答えた。
タックが入口の表示を変えようとしていた。
「分けるか」
リブが訊くと、兵は二つの担架の通路を指した。
「車の入る方を広げます。いまの位置だと、曲がれません」
「そうか」
軍曹は立ち、止めてあった荷車を動かした。自分は青と橙の兵をどう分けるか考えていた。目の前で必要なのは、次に来る車を曲げられる床だった。
最初の一台が着いた。横たえられた兵の肩には橙色があり、その隣に座る青い装甲の兵が、傷へ当てた布を押さえていた。フォイルが声を掛けると、青い兵は相手の名を答えられなかった。
「識別を見せて。君の手は、そのまま」
衛生兵は装甲の表示を読み、担当へ伝えた。リブが車の後ろを開くと、もう一人の負傷者が顔を向けた。軍曹の胸にある150連隊の印を見て、口を開きかけ、また閉じた。
「ここからは、艇で上がる」
リブは言った。
「誰の命令だ」
兵の声は掠れていた。
いつもなら、軍曹は輸送の担当を答えただろう。今は、そういう答えを求められたのではないと分かった。フォイルが車の脇へ来て、自分の名と、受入先の艦を告げた。医療の順番で乗せる。ここで別の攻撃隊へ入れ直すことはしない、と続けた。
兵はそれを聞き、銃を胸から離した。リブは受け取った武器の識別を記録し、本人と一緒に運べる場所へ置いた。
次の車にも、二つの色があった。
*
《ハービンジャー》、戦闘指揮所
セルトが、二つの報告を同じ卓へ出した。
レックス側からの射撃停止の連絡と、二一二側の生存兵から返った所属の確認だった。テザーからも飛行場への搬送が始まったと来ている。シーアは先に届いた短い文を読んでから、音声を開いた。
「交戦していた相手は」
「第212突撃大隊の一部です。レックス大尉が現地で確認しています。五〇一側の交戦部隊も、共和国のクローンです」
「両方、共和国です」
シーアの言葉に、セルトが頷いた。
画面には、現地から送られた負傷兵の装甲が映っていた。肩の印だけなら、最初の警告と同じ説明ができたかもしれない。だが、相手の名と所属を確認した者の声があり、二一二側からも同じ部隊の記録が返っている。シーアはその報告を受けて初めて、卓にあった敵装甲偽装の警告へ訂正を付けた。
「いまの交戦区域への支援射撃は、目標を確認し直すまで保留。各任務群へ。隣の区域まで一律に止めないでください。航空隊の管制側へも、現場の停止確認を」
命令は第3合同任務群の隷下へ出た。ほかの共和国部隊には同じ資料を渡し、射撃と航空攻撃の再確認を求めた。ヘイグは該当する要請と観測班を照合し、すでに指定された地上目標も改めて確認すると返した。ソーンの直轄艦は、空域の護衛を続けていた。
ベイランがテザーへ指示を送った。150連隊の受入れ班を医療側へ残し、部隊が特定できない者も負傷者として受け入れる。武器は本人の識別と合わせて保管する。原隊への帰還は医務と現地指揮の確認を待つ。コマンダーは復唱し、飛行場の受入れ担当へ渡した。
ケノービの像が開いた。
背後には地上主力の図があり、コーディが別の通信を受けていた。橋へ来られなかった車列の位置はまだ南にある。いま交戦した二一二の部隊を、その主力全体と置き換えることはできなかった。
『こちらの該当部隊へ確認を出した。レックスが止めた交戦の両側に、我々の兵がいる』
ケノービは言った。彼の手元へ、コーディが新しい報告を置いた。ジェダイはそれを読んでから、シーアへ顔を戻した。
『ワクサーは、助からなかった』
シーアはその名を入力し、追加の報告を待った。ベイランは机へ置いていた手を引いた。ケノービは、レックスが聞き取った証言を共有すると答えた。二一二側も、敵がクローンの装甲を着て来ると告げられていた。命令を出した名は、クレルだった。
「同じ警告を、両側に」
『そうだ。まだ揃っていない記録はある。だが、現地から来たこの証言は残す』
シーアは受領し、最初に来た偽装警告を隣へ置いた。報告者も対象も空白にして、結果だけを誤認として片づけることはできなかった。ワクサーの証言には、誰が何を命じたかが入っている。
セルトが、レックスとの回線をつないだ。
大尉の投影は肩から上だけだった。後ろの兵の声と、装甲に何かが当たる音が入っている。シーアは、最初に損害の総数を求めかけた。開いた一覧にはまだ人数が揃っていない。その欄を脇へ寄せ、いま必要な輸送を訊いた。
『キックスが送っています。歩ける者にも、車を回してください。両側に負傷者がいます』
「手配しています。現場の射撃は」
『止めました。相手が分かった班から、互いに呼びかけました。まだ離れた場所を確認しています』
「クレル将軍との連絡は」
レックスの顔が上がった。
『司令部へ戻ります。あの命令を出した理由を、聞かなければなりません』
シーアは通信卓を見た。クレルへの呼出しは保留のままで、応答の時刻が付いていなかった。レックスは艦隊の許可を求めていない。仲間の遺体と生存兵の証言を確かめた上で、自分たちの指揮官の所へ戻ろうとしていた。
「現地で確認した内容を、上級司令部へ送ります。音声と命令の記録を、消さずに渡してください。後送は続けます」
『お願いします』
それだけだった。大尉は通信を閉じ、隣の兵へ何かを伝えた。シーアには最後の言葉までは聞こえなかった。
ベイランはケノービへの回線を残し、現在の報告をジェダイ側にも送った。明白な加害を示す証言が出ている今、クレル側から来る次の命令を同じ扱いで受けてよいか、緊急の確認を求める。ケノービも既に同じ報告を回していた。
シーアは自分の隷下に対して、クレル側から届く新しい支援要請は直接実行せず、司令部を通して根拠と味方位置を確認するよう命じた。第501軍団の人事を、その命令で動かすことはできない。自分の砲と航空機を、いま届いた証言を無視して使わせることは止められた。
窓の外で、雲が横へ流れた。敵のプロヴィデンス級は遠方から撃ち続けていた。コルヴェンが当直へ指示を出し、艦が角度を変える。床の傾きはなかったが、外の雲の切れ目だけが、シーアの正面からずれた。
彼はレックスの報告を保存し、送付の確認を押した。
*
アンバラ地表、飛行場、西側受入れ区画
負傷者を押さえていた青い兵が、手を離せなくなっていた。
フォイルが代わると言っても、首を振った。自分の指の間から血が出ているので、ここを放せば止まらなくなると思っているらしい。衛生兵は無理に引かず、下から圧迫を受け持った。リブは空いている側へ回り、担架を持つ兵を呼んだ。
「ここまで運んだ。あとは、こちらで受け取る」
軍曹が言うと、兵は彼を見た。
「俺が撃ったかもしれない」
声は低かった。リブは相手の手を見た。負傷者の傷を塞いでいる手だった。隣に寝かされた橙色の兵も、その声を聞いていたが、何も言わなかった。
リブは、大丈夫だとは答えなかった。何が起きたかを自分は見ていない。フォイルが手の位置を替え、今度こそ圧迫を引き受けると、軍曹は空いた肘の下へ腕を入れた。
「この人を載せる。君も、そこへ座ってくれ」
兵はようやく手を離した。白い装甲の掌側には、赤黒い跡が広がっていた。清拭用の布を渡すと、彼は自分の指ではなく、先に相手の装甲に落ちた血を拭こうとした。
フォイルが担架を送り出し、兵の前へしゃがんだ。
「君も、傷の確認をする。立たなくていい」
背嚢を外すよう頼まれ、兵は留め具へ手をやった。何度か滑る。タックが横から手伝い、荷を床へ置いた。リブは本人の名を記録した。撃ったかもしれないという言葉も、聞き取った場所とともに別の欄へ残した。
格納庫の奥で射撃が始まった。
リブは顔を上げ、銃へ手を伸ばした。さっき二人を立たせていた場所に近い。テザーの回線で待機が命じられ、受入れ区画の兵は荷の間から通路を空けた。今度は敵機の警告ではなかった。五〇一の兵がクレルの所へ戻り、将軍が彼らを攻撃しているという。
フォイルは担架を建物の陰へ移した。リブも座っていた兵をそちらへ向けた。遠くで白い光とは違う色が動き、銃声が外へ広がった。続報を受けたテザーは、将軍が森へ出たと告げたが、自分たちの班へ追跡は命じなかった。
『外周は五〇一側と確認中だ。受入れを続けろ。名前の分からない味方を、見た色だけで撃つな』
リブは受領し、着陸区画の警戒位置を担当へ渡した。自分の銃は、医療の作業をする時には掛け直した。構えたまま何も手伝えなくなる方が怖かった。
ラップが来た。飛行場に残っていた兵で、外周の変更を伝えるよう頼まれていた。リブが場所を確認すると、彼は送られた図を見せた。図の端から、次の後送車が入ってくる。
「ファイヴズたちは」
軍曹が訊いた。
「レックス大尉と一緒だ」
「そうか」
ラップは頷き、格納庫の方を見た。誰も、二人が命令に従っていればよかったとは言わなかった。だからといって、次に来る命令を全て捨てて動けるわけでもなかった。リブの受信器からは、いま着く車をどこへ回すかを問う声が来た。
軍曹は答え、ラップにも入口を押さえる手を借りた。
*
《ハービンジャー》、戦闘指揮所
クレル拘束の報告は、最初の停止要請への回答より先に届いた。
司令部での対峙、将軍の攻撃、森への追跡。その後、レックスと部下たちが身柄を確保し、飛行場へ戻した。セルトは確認できた経過だけを並べ、クレルがドゥークーの側へ移る意思を語ったという報告を、供述として別に残した。分離主義側から命令を受けていた証拠まで届いたわけではない。
ベイランは最後まで読んだ。
「ジェダイ側には、私からも伝える」
そう言い、開いた回線へ向き直った。声を荒らげなかった。相手が彼の名と所属を確認している間、シーアはクレルの状態を拘束へ変えた。指揮継続の扱いを確かめる照会は、そこで閉じずに残した。
処刑命令への法務回答には、追加の記録が必要だとあった。最初の通知を受けた時に欲しかった答えとは違っていたが、捨てるものでもなかった。二人が生きているうちに、自分たちの照会が届いていたことを示す時刻が付いている。執行隊へそれを届け、正式に止めたという確認は、最後までなかった。
ラセルが敵艦の位置を更新した。残ったミュニファスント級は補給船のあった空域から離れつつある。損傷した《セカント・クレーム》も追跡の中に残っていた。シーアはその報告を受け、コーヴィンへ追撃を広げないよう伝えた。地上への後送と、味方機の帰路を先に維持する。
次の地上通信には、別の死が入っていた。
拘束後、ポング・クレルが射殺された。
発砲した兵の名はドグマ。レックスは本人を拘束し、状況の記録を残している。シーアは新しい報告を、さっき付けた拘束の欄の下へ置いた。死亡に変えれば終わる欄ではなかった。拘束された時刻と、死亡した時刻、その間に誰が何をしたかが残る。
「将軍は、死んだのか」
ベイランが訊いた。セルトは確認済みだと答え、報告元を示した。彼はそれを受け取り、ジェダイ側へ送った文面を開き直した。まだ身柄の扱いについて話していた相手へ、訂正が必要だった。
シーアはその通信を聞きながら、三人の名を別の端末へ戻した。
ファイヴズ。ジェシー。ハードケース。
前の二人は生存していた。だからといって、処分の記録に書くことがなくなったわけではない。シーアは、作成中の報告の結語から、将軍の死亡で解決したと読める一文を消した。ベイランが回線を閉じるまで待ち、端末を差し出した。
「二人への命令違反の審査も、別に残します。クレルがこうだったから、攻撃した時に何をしたかまで全部変わるわけではありません」
「ああ」
「ドグマの件も」
ベイランは頷いた。自分の剣がある側へ手を下ろしかけ、椅子の肘へ置き直した。
「私は、あの男が軍を預かることを、特に不思議だと思わなかった」
シーアは顔を上げた。
「戦歴のあるジェダイだ。評議会から派遣され、部隊を引き継いだ。私は、それを前提に話していた」
ベイランはクレルの死亡報告を見ていた。シーアの方へ問いを向けたのではない。言い終わってからも、自分の言葉を補わなかった。
「僕も、正式に任命された指揮官の判断として扱いました」
シーアは答えた。クレルへ再評価を求めた時の通信が、記録一覧の中にある。まだ再生していなかった。
「扱わなくてよかった、と書く前に、あの時何を持っていたかを確かめたいです」
ベイランは視線をそちらへ移した。
「私も見る」
それだけを言った。シーアは再生の予定を入れ、いま必要な地上支援の引き継ぎへ戻った。
*
アンバラ地表、飛行場、輸送艇待機区画
ドグマが運ばれてきた時、リブは空の車を返していた。
五〇一の護衛が両側に付き、本人の腕には拘束具があった。歩けていた。護衛が止まると止まり、搭乗する艇を示されるとそちらを見た。軍曹は、格納庫で射撃を命じていた兵だと気づいた。あの時は他の者へ銃を向けるよう命じ、今は自分が武器を外されていた。
ファイヴズが少し離れた場所にいた。彼は拘束された男を見てから、搭乗の担当へ話しかけた。リブには内容までは聞こえなかった。軍曹は格納庫で見た銃の列を思い出し、次にファイヴズの腰の武器を見た。本人がその視線へ顔を向けると、リブは車を動かすために手元へ戻った。
ドグマの歩みが、艇の前で止まった。
護衛の一人が名を呼んだ。本人は顔を上げ、開いた扉の奥を見た。何かを言おうとして唇が動いたが、軍曹の所まで届く声にはならなかった。次に歩き始めた時、護衛は腕を引かなかった。段差で身体が傾くと、肘だけを支えた。
リブは担当に呼ばれ、車を脇へ寄せた。そこは搭乗者を待たせるために空けた場所だった。名前と行き先を確かめ、載せた時刻を残す仕事は、朝から変わっていない。
タックが荷札を持ってきた。橋から返す毛布の箱が、まだここに残っている。負傷者の便を先に出すうちに、予定の機体へ載せられなくなったものだった。
「次へ回しますか」
「受入先へ知らせてからだ。向こうでは、もう着くと思っている」
リブは答え、札の時刻を直した。タックは箱へ貼り、車から出ていた紐を結んだ。軍曹はもう片側を持って待った。終わると相手が頷き、二人で持ち上げた。リブが車の停まった方向を顎で示すと、タックはそちらを見て歩き始めた。
テザーから、残った班の休息を継続すると通知が来た。次の降下に出す時刻は入っていなかった。リブは自分の班へ伝え、地表管制の当直を後任に渡した。フォイルは最後に受けた負傷者の記録を送り、母艦の受領を確認してから端末を閉じた。
イェルドの艇は、まだ着陸区画の外側にあった。整備員が煙の出た推進器を開き、外した覆いを床へ並べている。リブは邪魔にならない所を選んで通った。最後の回収便が滑ってきた跡を、整備員の靴が踏んでいた。
格納庫の壁際で、ラップが空の容器を集めていた。
「ヘムから、返事は」
彼に訊かれ、リブは自分の端末を開いた。母艦から来た短い文がある。飛行場へ着いたという伝言を読んだことと、車の握り布を捨てられずに済んだことが書かれていた。脚については、復帰を許されたという記述はなかった。
「来た。治療中だ」
「あいつ、戻ると言っていないか」
「医務の許可はない」
ラップは頷き、最後の容器を箱へ入れた。その箱を持ち上げる時にリブが手を貸すと、彼は片側だけを任せた。二人で壁沿いへ運び、艇の通路を空けた。
休む場所には、橋から戻った兵が寝ていた。リブはその列へ混ざり、靴を片方だけ脱いだ。分岐で替えた靴下が、また湿っている。足を出すと冷えたので、脱ぎ終わる前に靴へ戻した。紐を結ぶ前に目が落ち、隣のフォイルに肘を押されてようやく手を動かした。
銃は、手の届く場所に置いた。
*
C.R.C. 7956.248 アンバラ上空、《ハービンジャー》、会議区画
録音の中のクレルは、昨日と同じ声だった。
『君の艦へ来た者だけで、全体を量ることはできん』
シーアは再生を止めず、相手が別の搬送地点を加える所まで見た。会議卓には、当時受け取っていた報告だけを出してある。ワクサーの証言も、同士討ちの訂正も、クレルの供述も、隣の端末に置いたまま重ねなかった。
セルトは送受信の記録を照合していた。どの資料が呼出しの前に届き、どの資料が後から補われたかを、会議の順番へ戻している。ベイランは向かいの椅子に座り、前日より浅く背を預けていた。肩を庇っていることは分かったが、再生を中断するようは言わなかった。
後送三十六人。歩いて乗艇した二十三人。いずれも一つの受入路を通った者で、五〇一全体を示す数字ではない。当時のシーアはその区分を確かめ、前線へ残る者と次の任務の担当幅を求めていた。
録音では、クレルが飛行場を示した。
『飛行場を押さえねば、君たちの輸送艇もいつまでも撃たれ続ける』
その言葉を聞いた時のシーアの目が、図の端へ動いた。いま見ても、そこで何を考えたかを思い出せる。降下中に落ちた艇と、負傷者を載せる間に撃たれた艇。飛行場を使えるようになった後、実際に後送の受入れは変わった。目の前で人が担架を押せる床ができ、北の橋からの便も、そこへ降ろせた。
「ここだけなら、間違っていません」
シーアは言った。
ベイランは画面を見たまま頷いた。録音の中では、続行可能と判断したというクレルの声があり、シーアが同じ問いをもう一度返していた。残っている者で次の任務を持てるのか。その返事は、続行できるというものだった。
再生が終わると、セルトが照会の送付先を出した。クレル側、ケノービ側、オープン・サークルの調整窓口。受領はある。ケノービ側が現在員と交代予定を求め、隣の攻撃軸から回せる兵も調べた記録があった。要請を読んだ者がいなかったわけではない。
「裏切りを疑う報告は、この時点ではありません」
セルトが言った。
シーアは、資料の揃っていない欄を開いた。高い損耗、交代の遅れ、広い担当幅。指揮官の判断へ疑問を持つ理由はあった。敵が飛行場から出ること、攻撃を休めば隣へ圧力が移ることも、同じ時点で知っていた。クレルが兵を殺すために命じていると判断する証拠は、そこには入っていない。
「あの時点なら、僕はまた同じ照会を出すと思います」
シーアは言い、再生を最初へ戻した。
「現在員と交代予定を合わせる。取った場所と、取った部隊が次へ進めるかを分ける。たぶん、同じことを聞きます」
ベイランが手元の記録を開いた。橋から送った報告と、シーアから届いた再評価の項目が並んでいる。その後ろに、二人の短い通信もあった。シーアはそちらを見たが、ベイランは再生しなかった。
「当時、私もクレルが裏切るとは思っていなかった」
彼は言った。
「それで、昨日の命令を受け続けてよかったことにはならないが」
「はい」
シーアは処刑の通知を出した。今度は、クレルへの最初の照会から後の記録だった。対象者二名、執行状況不明。停止と審査を求めた文面。現地で執行隊が拒否した時刻。拒否の確認が艦隊へ届いた時刻。
「この時は、審理を確認できていないまま、人を殺す命令が出ていました。昨日の照会と同じ速度で扱うものではありません」
ベイランはその順番を追った。
「兵が止めた」
「止めました」
シーアは、艦隊側の要請を指で選んだ。
「これが届いたからではありません。次に同じことが起きて、兵が下げなかったら、この要請はどこへ届けば間に合うんですか」
ベイランは答えず、受領先を見た。彼が直接つなごうとした回線も、同じ列に入っている。相手がジェダイだから早く取消しを出せるという時刻は、どこにもなかった。
次に同士討ちの報告が出た。レックスが相手を確かめた時刻と、最初の停止を呼びかけた時刻。負傷者を運ぶ地点の変更。飛行場の受入れ担当へ伝わり、その後に艦隊が訂正を受けた時刻。現場の停止から、艦隊側の射撃保留へ、順番がつながった。
シーアは送られてきた命令の対象範囲を見た。五〇一全体の位置を一つの印で置いても、この戦闘は説明できない。二一二も同じだった。交戦した部隊がどこへ出され、何を敵と告げられたかを戻すと、互いの銃が向いた場所がようやく見えた。
「停止できた者を、報告に入れます」
シーアは言った。
「執行隊。レックス大尉。相手へ呼びかけた兵。上から届いた命令で止まったことに、直さないでください」
セルトは受領した。書きかけの報告には、最初からそう記してあった。彼女は直したと言わず、該当する箇所を開いて見せた。シーアはそれを読み、先へ進めた。
クレル拘束の後に、ドグマの発砲がある。指揮官を拘束できたことだけで、次の加害まで止められたわけではなかった。調査へ回す記録はまだ増えていた。シーアは死者の名を事件の要約から別の欄へ逃がさず、発生場所とともに残した。
卓の端にある最初の照会へ戻ると、ベイランが口を開いた。
「正規の将軍だと分かっていた。それ以上を確かめることを、君たちは求めていたんだな」
「あの時、僕が求めたのは再評価です。誰かを敵として扱うことではありませんでした」
「私は、ジェダイがその立場にいることから考え直さなければならない」
シーアは返事を待ったが、ベイランは続きを言わなかった。自分も、何を言えばその考えが同じ所へ着くのか分からない。通信の一覧へ目を落とすと、昨日の二人の短い通話も残っていた。その再生には、どちらも手を伸ばさなかった。
セルトが報告の送付案を出した。
シーアは受け取り、署名の前に最初の一頁へ戻った。
*
《ハービンジャー》、司令官室
セレナは、二人分の服を別々に掛けていた。
ベイランが持ってきた着替えは、もう椅子の隣にはなかった。本人は会議の後、用意された区画へ下がっている。シーアは司令官室へ戻り、机の上に置いた端末をどけた。その下に、エレナから来た稽古の記録があった。
再生装置には、音声の接続を直したことを示す小さな札がまだ付いていた。ケレンの字だった。シーアは札を外して机の内側へ置き、稽古の記録を他の報告から離した。今日はそのままにしておく。
「お姫様。上着は、そちらです」
セレナに言われ、シーアは椅子の背へ手を伸ばした。報告の送付を終えたら休むと伝えてあった。軍務用の上着をまた取ろうとしているのに気づき、机へ戻した。いま出ていく予定はなかった。
「会議は、終わりました」
「承知しています」
「ベイランは」
「休んでいます。起こすようには言われていません」
シーアは頷いた。追いかけてもう一つ話せば、何かが済むような気がした。何を済ませたいのかを考えると、送付する報告の項目とは違うものばかりだった。
セレナは面会の予定を片づけ、私用の端末だけを残した。シーアが先日送らなかった文面は、その中にあった。彼女は開かずに置いた。本人が何を話したいかまで、予定表へ入れることはしなかった。
シーアは軍務用の端末を開いた。
統合作戦本部への報告には、アンバラの事件の記録とともに、戦闘中の指揮官の再評価、明白な加害への緊急停止、指揮権の暫定的な扱いを別々の審査事項として添えた。続行判断の再評価を求める照会が審査へ回される間にも、作戦は続いていた。いつ、誰が暫定措置を出せるのか。現地で兵が銃を下げた時刻の後ろに、その権限を確認した記録はなかった。
GF司令部から、ホーンの確認が返ってきた。第3合同任務群の記録を上級司令部の報告へ付け、地上側とジェダイ側の調査記録も照合する。シーアは本文の一部を削り、同じ資料を二度要約していた所を一つにした。責任を負う者の名と、確認できていない部分は残した。
モン・モスマへの添付には、以前の審議欄を開いた。司令官が指揮不能となった場合の継承と、判断が部隊を危険にさらす場合の解任を、別々に保留した記録がある。その後ろに今回の送受信時刻を付けた。
シーアは短い説明を入力した。
――前回、私は戦闘中に命令が二つになることを懸念しました。今回、その懸念はなくなっていません。一方で、正式な命令のまま実行させられない行為を、現場の拒否だけに委ねた経過が残りました。
書いてから、対象を付け足した。クレル一人にしか使えない手順では、次の審査にはならない。艦隊司令官も合同任務群司令官も、再評価を受ける側に含む。そこへ自分の職名を入れると、送る文面を急に読み直したくなった。
シーアは読み直し、削らずに送った。
統合作戦本部から、報告受領と調査資料の提出先が返ってきた。手続の検討は、事件の調査と併せて扱う。新しい停止権限が付与されたという通知ではなかった。セルトが控えを保存し、各任務群へ必要な連絡を回した。
艦隊の運用表には、十三隻が残っていた。《アウクトリタス》の火器管制は戦列への復帰を認められる状態になく、《ヘラルド》と《コンスタンティア》も修理の欄にある。飛行場から上がった兵の名簿には、医務の判定を待つ者と、休息中の者が分かれていた。アンバラでの全損害を確定した一覧は、まだ作れなかった。
シーアはその表をソーンへ渡し、当直の引き継ぎを終えた。次に届く命令は、交代した担当が受ける。必要な時には起こすと確認してから、軍務用の端末を閉じた。
セレナが明かりを落とした。机の向こうだけが明るく、そこに三人の名を残した控えがある。
ファイヴズ。ジェシー。ハードケース。
シーアは控えをしまい、向かいの椅子へ掛かっていたベイランの服を見た。起きた後に返せるよう、セレナが置いたものだった。稽古の映像も、音の出る装置も、今は二人を待っていた。
扉の外で当直交代の声がした。シーアは寝台へ移り、靴を脱いだ。いつもなら足で寄せていたものを、今日は手で揃えた。片方の紐が指へ掛かり、それをほどいてから布を引き上げた。
返事を待つ文面は、まだいくつも残っていた。