STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

88 / 89
間奏

 束の間の休息!

 

 兵士たちは自らの手で最悪の命令を止めた。裏切りの将軍ポング・クレルは倒れ、アンバラの共和国軍は首都を目指して再び動き出している。

 

 交代の部隊へ支援任務を引き継ぎ、ヴァラリアン打撃群は修理と補充のため戦場を離れた。傷ついた艦、疲れ切った兵、答えの出ない問い。砲声が遠ざかっても、それらは艦の中に残っている。

 

 次の戦いまでのわずかな時間。共に戦ってきた者たちは、ようやく戦い以外の言葉を探し始めていた――

 

 *

 

C.R.C. 7956.249 アンバラ上空、《ハービンジャー》、司令官室

 

 シーアは毛布を肩に掛けたまま最初の報告を聞いた。

 

 寝台の端に腰を下ろし、膝の上に端末を立てる。夜のうちに届いた更新は、当直を引き継いだソーンが順に並べてあった。交代の部隊は昼前に着く。第150空中突撃連隊は飛行場の受入れ区画を引き渡して《フォワード・ライト》へ上がる。統合作戦本部の欄には、昨夜の受領の後に何も来ていなかった。

 

 セルトの声が続きを読んだ。

 

『《アウクトリタス》の火器管制に変化はありません。連隊の引き揚げは午前中に三便。スコール将軍は九時の連絡艇で《フォワード・ライト》へ移られます』

 

「将軍は、まだ客室に?」

 

『はい。起床の連絡がありました』

 

 扉が開いた。セレナが片腕に今日の制服を掛け、もう片方の手に櫛を持って入ってきた。

 

「お姫様。髪を」

 

「うん」

 

 シーアは端末を持ったまま首を傾けた。回線は開いていたが、セルトは読み上げを止めなかった。交代部隊の到着順、飛行場から上がる便、医療資材の残り。櫛が後ろ髪を通るたびに頭が引かれ、画面の文字が揺れた。セレナが初めて艦橋でその呼び方をした日、通信主任の手は止まった。今は次の項目へ移る声の速さも変わらない。

 

 ケレンが茶を運んできた。盆を机まで運ばず、寝台の脇の小卓に置く。シーアは毛布の中から片手を出してカップを取った。柑橘の皮の香りが立つ。櫛が離れるのを待たずに口を付けると、後ろでセレナが咎める声を出した。

 

「動かないでください」

 

「飲んでるだけ」

 

「首が動きます」

 

 セルトが最後の項目を読み終え、回線を閉じた。

 

 机の端には畳んだ服がそのままあった。ベイランの着替えだった。昨夜セレナが置いた形から、角も崩れていない。隣に再生装置があり、エレナの稽古を入れた端末が他の報告から離して置いてある。ケレンの書いた札は机の内側にしまったままだった。

 

 セレナは櫛を置き、私用の端末を差し出した。今日の予定と、夜のうちに届いた私信が並んでいる。エリアドゥからの新しい便りはなかった。下書きの欄に文面が一つ残っていた。

 

 宛先はベイランで、本文は「返事を急がせて、」で止まっている。橋の日に書きかけて、送らずに置いたものだった。

 

 シーアはその一行を見てから端末を閉じた。

 

「服は、僕が持っていきます」

 

「では、朝食の後に」

 

 セレナは上着を椅子の背に掛けた。ケレンは空いた盆を持って扉の方へ動いていた。

 

 シーアは毛布の端を握った。一昨日、戦闘指揮所の隅でこの副官に言われたことを覚えている。何が必要か分からない時もある、言ってください、と彼女は頼んだ。あの時は、一人にしてほしいと答えた。

 

「セレナ」

 

「はい」

 

「朝ごはん、ここで一緒に食べてくれますか」

 

 セレナの手が椅子の背の上で止まった。戸口でケレンが振り返った。

 

「……私も、ですか」

 

「座って。僕が食べ終わるのを見張るんじゃなくて、一緒に」

 

 セレナはシーアの顔を見た。それから机の前の椅子を寝台の方へ引き、掛けた上着が落ちないよう背を押さえて腰を下ろした。

 

「言ってくださいと申し上げたのは、私でしたね」

 

「うん」

 

「では、頂きます」

 

 ケレンは何も言わずに出ていき、盆を二つ持って戻った。二つ目の盆には、セレナが自分ではまず取らない甘く煮た果物の小鉢が載っていた。セレナは器を見て、ケレンを見た。ケレンはもう二つ目のカップに茶を注いでいた。

 

 パンは焼き直してあった。シーアは硬い端を先にちぎって口へ入れ、セレナがそれを見ていることに気づいた。彼女は何も言わず、自分のパンを半分に割った。

 

「公王宮では」

 

 セレナが言った。

 

「寝台の横で朝を召し上がるのは、熱のある日だけでした」

 

「熱はないよ」

 

「確かめても?」

 

 答える前に、手の甲が額に当てられた。冷たかった。セレナは手を戻し、何事もなかったように匙を取った。

 

「ありませんね」

 

「言ったのに」

 

「言うことと、ないことは別です」

 

 シーアは笑いかけてパンを喉に詰まらせ、茶で流し込んだ。ケレンは扉の脇に立ったまま、盆を胸に抱えていた。

 

 食べながら、シーアは今日の予定を指で送った。交代部隊への引継ぎ。外縁の会合点への移動。補給船団との合流は明日の朝。夜の欄は空いていた。

 

「移動が済んだら、稽古の記録を見ます。ベイランと」

 

「では、毛布をもう一枚出しておきます」

 

「寝る前提?」

 

「前提です」

 

 セレナは答え、果物の器を空にした。

 

 食事の後、シーアは制服に袖を通した。セレナが襟を直し、ケレンが盆を下げる。机の端の服を持ち上げると、洗った布の匂いがした。畳んだ角を崩さないよう両腕で抱え、シーアは通路へ出た。

 

 *

 

《ハービンジャー》、客室区画

 

 二度叩いてから、客室の扉が開いた。

 

 ベイランは寝台の横に立ち、片袖だけ通した上衣を背中へ回そうとしていた。痛めた方の腕が上がらない。布が肩の途中で止まり、彼は腕を下ろして最初からやり直すところだった。

 

「持ってきました」

 

 シーアは畳んだ服を見せた。ベイランは上衣を半分着たまま振り向いた。

 

「君が?」

 

「洗ったのはケレンで、畳んだのはセレナです。持ってきたのは僕です」

 

「全員に礼を言わなければならないな」

 

「今は、着る方が先です」

 

 シーアは服を寝台に置き、ベイランの背中へ回った。垂れている方の袖を持ち、相手の腕の高さまで下げる。腕を上げずに通せるよう布の方を動かした。ベイランは黙って袖の中へ手を入れた。

 

「橋では、テザーにやらせていた」

 

「上手でしたか」

 

「君より乱暴だった」

 

 袖が通った。ベイランは前を合わせ、留め具を片手で留め始めた。三つ目で指が滑る。シーアは手を出しかけて引っ込めた。四つ目は相手が自分で留めた。

 

 客室は狭かった。寝台と小さな机と、壁に固定された椅子が一つ。机の上にへこんだ肩の装甲が置いてある。内側の緩衝材がはがれかけ、端が浮いていた。

 

「それ、直せますか」

 

「連隊の装具係に見せる。直らなければ替える」

 

「肩の方は」

 

「診てもらっている」

 

 ベイランはそれ以上言わなかった。シーアも医務の記録を開こうとはしなかった。

 

「今夜か明日の夜、時間をもらえますか」

 

 シーアは言った。

 

「エレナから稽古の記録が来ているんです。音が出るようになったので、見ようと思って」

 

「私と?」

 

「ベイランが戻ったら見るって、決めていました」

 

「聞いていない」

 

「ケレンに言っただけです」

 

 ベイランは留め具から顔を上げた。

 

「いつ決めた」

 

「ベイランが降りた日です」

 

 ベイランは答えず、装甲の方へ目をやった。机の端を指で二度叩いてから言った。

 

「今日は兵を上げるのを見届ける。明日の夜なら、こちらへ渡れる」

 

「明日の夜で」

 

「芝居の稽古か」

 

「途中で何度も止まるんです」

 

「止まるのか」

 

「止まるところが面白いんです。役者が同じところを何回もやって、そのたびに変わって――」

 

 言いかけて、シーアはまた先まで話しすぎていると気づいた。ベイランはへこんだ装甲を取り上げ、動く方の脇に抱えた。

 

「では、止まるところを見に行く」

 

 連絡艇の時刻が近かった。二人は通路へ出た。格納区画へ下りる昇降機の前で、ベイランが振り返った。

 

「服を、ありがとう」

 

「三人に言ってください」

 

「言う」

 

 昇降機の扉が閉まった。

 

 *

 

アンバラ地表、飛行場、西側受入れ区画

 

 引き渡しの一覧は、リブが思っていたより長かった。

 

 担架の置き場、医療資材の残り、搬送車の割当て、部隊の分からないまま受け入れた負傷者の記録。二日の間に書き足した欄が、端末の中で下へ伸びていた。受け取りに来たのはキックスだった。五〇一の衛生兵は床の印を一つずつ確かめ、自分の端末へ写していった。

 

 一覧の終わり近くで、キックスの指が止まった。

 

 医療の記録とは別に、聞き取った言葉を書いた欄が一つある。俺が撃ったかもしれない。言った者の名と、聞いた場所と時刻。その時その兵の手が負傷者の傷を押さえていたことまで、リブは書いていた。

 

「それは調査に回す分だ」

 

 後ろからテザーが言った。コマンダーは連隊の最後の点検表を持っていた。

 

「医療の記録から分けて、調査の窓口へ送る。聞いた場所も、その時の手の位置も付けたままだ」

 

「書いたとおりに、ですか」

 

「書いたとおりにだ」

 

 リブは欄を切り分け、テザーの端末へ送った。送ってから、名前の行をもう一度見た。キックスも同じ名を見ていた。

 

「手は、最後まで離さなかったか」

 

 衛生兵が訊いた。

 

「離さなかった。こっちが代わってからも、布を持ったままだった」

 

 キックスは頷き、自分の一覧の同じ名の横に何かを書き足した。リブのいる所からは読めなかった。

 

 引き渡しが済むと、ラップが格納庫の方から歩いてきた。五〇一は翌朝に出る。行き先は首都の方角だと、彼は地図も見せずに言った。

 

「ヘムに会うか」

 

「母艦で会う」

 

「車は代わりの奴がちゃんと使ってると言ってくれ。握りの布はあいつが持っていったから、別のを巻いた」

 

「伝える」

 

「巻き方が違うって、たぶん文句を言う」

 

「それも伝える」

 

 ラップの口の端が動いた。手を上げかけ、途中で装甲の留め具を直す仕草に変える。リブも同じようにした。

 

 毛布の箱は、今度は予定の機体に載った。

 

 リブは札の時刻を直した。三度目だった。タックが反対側を持ち、二人で傾斜路を上がる。床の固定具に掛けると、箱は他の荷と同じ高さに並んだ。フォイルが最後の担架の留め具を確かめ、衛生の鞄を膝に載せて座った。

 

 イェルドの艇は着陸区画の外側に残った。整備員が二人付き、外した推進器の覆いを重ねている。直すのか部品を取るのかは、まだ誰も決めていなかった。操縦士はもう母艦へ戻っている。

 

 輸送艇が浮いた。

 

 開いた扉の外で、飛行場が下へ遠ざかった。焦げた滑走路、並んだ格納庫、そのうちの一つの入口。リブは毛布を積んだ車を止めた場所を探したが、上からは見分けがつかなかった。森が雲の下へ沈み、機体は灰色の中へ入った。

 

 *

 

《フォワード・ライト》、医務区画

 

 ブラケットは寝台の上で中隊の名簿を開いていた。

 

 膝から下を固定した脚が毛布の下で盛り上がっている。リブが報告を始めても、大尉は名簿を閉じずに聞いた。受入れ区画の引き渡し、持ち帰った資材、飛行場に残した艇。聞き終えると、名簿の中の二つの名前に指を戻した。

 

 チョック。スキッド。

 

 モン・カラの欄は、未収容のままだった。

 

「閉じろと言ってくる奴はいるか」

 

 ブラケットが訊いた。

 

「いません」

 

「なら、このままだ」

 

 大尉は名簿を閉じた。二人の名はその中に残った。

 

 隣の寝台で、ヘムが身体を起こそうとしていた。リブが手で止めると、五〇一の車両担当は枕を背中へ押し込んで座り直した。右手に古い布が巻いてある。車の握りから外してきた布だった。

 

 リブはラップの伝言を言った。車は代わりの運転手が使っている。握りには別の布を巻いた。巻き方が違う。

 

「違うって、どう違う」

 

「聞いてない」

 

「左からだ。右から巻くと、濡れた手で滑る」

 

 ヘムは自分の手の布を見て、巻いてある向きを確かめた。それから、この話を伝える相手がここにいないことに気づいたらしく、口を閉じた。

 

「次に会ったら、言ってくれ」

 

「俺がか」

 

「お前しかいない」

 

 リブは頷いた。伝言がまた一つ増えた。

 

 奥の寝台ではスパンが眠っていた。脛の上に固定具が組まれ、端末が胸の上へ伏せてある。リブは起こさずに、落ちかけた端末を寝台の脇へ移した。

 

 入口で衛生兵が姿勢を正した。ベイランが入ってきた。上衣の下で痛めた方の肩が下がっている。将軍はブラケットの寝台で足を止め、名簿の話を聞いた。大尉の毛布の端がずれていたので、動く方の手で直した。

 

 リブは寝台の間から下がった。ベイランは兵の顔を一人ずつ見てから、最後にリブを見た。

 

「荷は」

 

「全部載りました。毛布も」

 

 ベイランは頷き、スパンの寝台の方へ移っていった。

 

 医務区画を出ると、リブは装備区画へ向かった。タックが先に来て、中継器の箱を開けていた。

 

 クラスプが使っていた箱だった。分岐で彼が倒れた後、通信の仕事と一緒にリブが預かった。中の部品は分岐と橋で使ううちに減り、足りない分を別の箱から補ってある。タックは部品を床に並べていたが、組もうとはしていなかった。

 

「教えてください」

 

 タックは箱から顔を上げずに言った。

 

「組み方を。軍曹がいない時に、誰も組めないと困るので」

 

「俺も、クラスプのやり方しか知らない」

 

「それでいいです」

 

 リブは床に座った。最初の部品を取り、接続具の向きをどこで見分けるか、電源をどの順で入れるかを話す。クラスプが言っていたことを、リブは同じ順で言った。途中で一度、言葉が止まった。工具袋の中に、クラスプが自分で印を付けた端子があった。

 

「ここだ。この印の方を上に」

 

 タックは印を確かめ、その向きで差し込んだ。

 

 中継器が小さく鳴った。二人の間には、蓋を開けた箱が一つ置かれていた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 交代の部隊は、予定より早く雲海の上へ出てきた。

 

 GF司令部が回してきた五隻だった。先頭の艦から引継ぎの要員を乗せた連絡艇が来る前に、向こうの指揮官は一覧を求めてきた。シーアは渡すものを先に並べていた。観測班の回線と識別、射撃要請の受付手順、除外区域、飛行場への便の割当て。二日前に付けた訂正もその中にあった。敵がクローンの装甲を着て来るという最初の警告と、交戦した相手が共和国の兵だったという現地の確認。二つは同じ欄に並んでいる。

 

 交代部隊の指揮官は、その欄で手を止めた。

 

『この警告は、訂正後の分だけ残せば足りるのでは』

 

「訂正ごと渡します」

 

 シーアは言った。

 

「最初の警告がどこから来て、何が起きたかも付けたままにしてください。後から来た人が、警告だけを見て撃たないように」

 

『承知した。長いな、この欄は』

 

「長いです」

 

 相手の口元がゆるみ、その欄は丸ごと向こうの一覧へ写された。

 

 法務へ回した照会、クレル将軍に関わる記録の保全、医療側の受入れの継続。答えの出ていない項目も同じように渡した。未決の行が、相手の一覧の下にも並んだ。

 

 最後にケノービの回線がつながった。

 

 投影の背後で、コーディが車列の図を動かしていた。地上主力は首都へ向けて組み直されている。ケノービは短く礼を言い、交代の部隊とも同じ窓口で話すと告げた。

 

『ベイランにも伝えてくれ。橋を残してくれて助かった、と』

 

「伝えます」

 

『レックスたちのことは、スカイウォーカーには私から話す。自分の部隊だ。聞けば黙ってはいないだろう』

 

「スカイウォーカー将軍にも、記録は送ってあります」

 

 ケノービは頷いた。何か言いかけて、それを髭の下にしまうような顔をした。

 

『では、次の任務で』

 

 回線が閉じた。

 

 コルヴェンが離脱の手順を読み上げた。各任務群が順に雲海の上から離れ、《エンヴォイ》が最後尾に付く。シーアは受領を返し、窓の外を見た。

 

 雲の切れ目から、暗い森が一瞬だけ覗いた。北の方角に、谷を走る青白い光の筋がある。その上に細い線が一本架かっていた。橋だったのかを確かめる前に、雲が閉じた。

 

 《ハービンジャー》は上昇を続けた。窓の外で雲海が遠ざかり、やがて星の中の暗い円になった。

 

 *

 

C.R.C. 7956.250 アンバラ星系外縁、補給会合点、《ハービンジャー》、格納区画

 

 補給船団は、朝の当直が替わる前に着いた。

 

 外縁の会合点までは、アンバラの恒星の光もほとんど届かない。船団の航行灯が列を作って近づき、《ハービンジャー》の開口部へ一隻ずつ連絡艇を送り込んできた。冷却材の容器、砲の部材、食料、医療資材。荷札の付いた箱が床の印に沿って積まれていく。

 

 シーアは格納区画の端で補充の人員を迎えた。

 

 《ハービンジャー》に着任する者は七人だった。欠員のまま回していた当直と、医務へ下がった者の分。連絡艇の前に一列に並び、コルヴェンが一人ずつ配置先を読み上げる。シーアは名前を聞いて手を差し出した。

 

 五人目は索敵の補充だった。自然出生の若い兵曹で、名乗る声が途中で裏返った。握手を返してから、相手はシーアの顔から目を離さなくなった。

 

「本物だ」

 

 列の後ろで誰かが咳をした。新しい索敵兵の教育を任されたラセルが、若い兵曹の肘を横から押した。

 

 シーアは手を離した。第三の司令部へ配属を希望する者の中にそういう理由を書く者がいるという話は、もう聞いている。聞いた日に自分が何と答えたかも覚えていた。

 

「……冷却材は、何番の容器から降ろしますか」

 

 シーアはコルヴェンの方を向いた。艦長は一覧を見たまま、四番からだと答えた。それから若い兵曹へ顔を向けた。

 

「理由は問わない。当直表に載れば、同じ仕事だ」

 

 列の何人かが笑いを堪えた。若い兵曹の耳が赤くなった。

 

 ラセルは新入りを連れて格納区画を出ていった。通路へ入る手前で、最初の説明が聞こえた。

 

「報告は距離から読む。一つずつ。艦種はその次」

 

 その言い方には覚えがあった。ラセル自身が、最初の頃に何度も言われていたことだった。兵曹は後輩の顔を見ずに説明を続け、手元の端末を開いて見せた。

 

 コルヴェンは荷の一覧を開いたまま、修理の項目を読み上げた。《ハービンジャー》の分は艦内で済む。《アウクトリタス》の火器管制に合う交換部材は、船団に積まれていなかった。工廠へ回す日程は、船団の帰路に合わせて組むことになった。《ヘラルド》と《コンスタンティア》は、工程表の同じ行から動いていない。

 

「今夜の司令部当直は、ソーン大佐が引き受けます」

 

 艦長は最後に言った。

 

「司令官の夜の予定は空けてあります。副官から頼まれました」

 

「セレナが?」

 

「毛布の枚数まで確認されました」

 

 コルヴェンは一覧を閉じ、四番の容器の方へ歩いていった。

 

 冷却材の容器には統合作戦本部の荷札が付いていた。船団を組んだ担当者の名がその下にある。ガリアス・ラックス。

 

 添え書きは三行だった。

 

 ――生きているな。

 

 ――毛布と冷却材を多めに積んだ。足りなければ言え。

 

 ――替え方の件は、本部の机に載った。載っただけだ。

 

 シーアは三行目を二度読んだ。一昨日送った報告のことだった。机に載ったと知らせるためだけに、ラックスは一行を使っていた。

 

 返事は短くした。生きている。毛布は足りる。机の上の件は、また書く。

 

 船団は私信の束も運んできていた。セルトが通信卓で宛先ごとに分け、乗員の端末へ順に流している。シーアの私用の端末にも一件届いた。エリアドゥからだった。

 

 ――前に送った稽古、まだ見ていないでしょう。分かるのよ。最後の場面だけは、起きて見て。

 

 シーアは画面を伏せた。セレナが横から予定表を差し出したので、伏せたまま受け取った。

 

「ばれてる」

 

「何がですか」

 

「まだ見てないの。最後の場面だけは起きて見ろって」

 

「存じています」

 

 セレナは予定表の夜の欄を指先で押さえた。何も書いていない欄だった。

 

「では、最後の場面までは起きていてください」

 

 昼過ぎに、アンバラから報告が届いた。

 

 地上主力が首都の外郭へ入った。首都を囲む防空陣地の多くが沈黙し、交代の部隊は艦砲での支援を続けている。損害の欄は、まだ埋まっていなかった。報告の終わりに主力の進路が付いていた。南の渡路、林間分岐、北の跨谷橋。重車両の車列と燃料車が、橋を渡っていた。

 

 シーアは進路の欄を最後まで読み、報告を《フォワード・ライト》へ転送した。一言添えようとして、送信の表示の上で指が止まった。何も足さずに送った。

 

 受領の印は、すぐに付いた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、司令官室

 

 ソファの上に、毛布が二枚畳んで重ねてあった。

 

 一枚はシーアがいつも使っているもので、角が擦り切れている。もう一枚は艦の備品で、洗剤の匂いがまだ残っていた。低い卓の上に再生装置が移され、エレナの稽古を入れた端末がつないである。ケレンは部屋の明かりを卓の周りだけ残して落とし、茶器を二組並べた。焼き菓子の皿もあった。四つ載っている。

 

 ベイランは約束の時刻より早く来た。

 

 扉の外で二人の声がした。テザーが連絡艇から将軍の荷を運んできたらしい。コマンダーはケレンに荷を渡し、中へは入らずに戻っていった。ベイランは戸口で止まった。三日前と同じ場所だった。

 

 今夜はシーアが先に動いた。ソファの端へ寄り、隣を空けた。ベイランは部屋を見回し、いつもの椅子の方へ行った。背もたれに手を掛けて引き、腰を下ろす。

 

「そこからだと、画面が見えません」

 

 シーアが言った。

 

 ベイランは椅子から卓の上の再生装置を見た。画面は向きを変えられない作りだった。彼は立ち上がり、ソファの反対の端へ座り直した。二人の間には、重ねた毛布が置かれたままだった。

 

 ケレンが茶を注いだ。シーアのカップには何も入れず、ベイランの方で手を止める。

 

「将軍は」

 

「同じものを」

 

 ベイランは一口飲み、カップの中を見た。

 

「苦いな」

 

 ケレンは何も言わずに下がり、小さな砂糖壺を持って戻った。ベイランのカップの横にだけ置く。それから部屋の明かりをもう一段落とし、扉を閉めた。

 

 シーアは再生を押した。

 

 画面に劇場の舞台が映った。客席の灯りは消え、舞台だけを作業用の白い灯りが照らしている。役者が三人、稽古着のまま立っていた。手前に客席の最前列の背もたれが映り、その端に誰かが座っている。後ろ姿で、膝の上に台本を開いていた。

 

「エレナです」

 

 シーアは言った。言わなくても分かることだった。

 

 音が出た。靴が床を擦る音、遠くで何かを運ぶ音、台本をめくる紙の音。ケレンが直した接続は、客席の小さな咳まで拾っていた。

 

『そこから。入りの前に、二つ』

 

 エレナの声だった。

 

 役者の一人が袖へ下がり、もう一度出てきた。台詞を言い、相手が返す。三行目でエレナが手を上げた。

 

『今の、早い。客席はまだ前の台詞を聞いてる。二つ数えてから』

 

 シーアはソファの上で身を乗り出した。

 

「エレナは、間を数えるんです。台詞と台詞の間。客席が前の台詞を聞き終わるまでの時間を、稽古のうちに決めておくんです。本番で役者が緊張すると早くなるから、体に数を入れておく。照明も同じで、灯りを落とす時は何秒で落とすかまで決めて、幕の綱を引く人とも――」

 

 画面の中で、役者が入りからやり直した。シーアは説明を続けかけて、ベイランの目が舞台から外れていることに気づいた。こちらを見ていた。

 

「……喋りすぎてますね」

 

「続けていい」

 

「いえ。見てください」

 

 シーアは背もたれに戻った。役者は二つ数えてから台詞を言った。今度はエレナの手が上がらなかった。

 

 稽古は何度も止まった。小道具の椅子が一脚足りず、役者の一人がないはずの椅子に座る芝居をした。脚の置き方を間違えて、そのまま床へ転がった。画面の外で笑い声が起き、エレナの背中も揺れた。

 

『椅子は、明日までに』

 

 誰かに向けてそう言い、彼女は台本に目を戻した。

 

 ベイランが声を出して笑った。シーアも笑い、菓子の皿へ手を伸ばした。一つ取って、皿をベイランの方へ押した。

 

 一日目の稽古が終わり、画面が暗くなった。記録の次の日付が表示される。シーアは続けて再生しようとして、手を止めた。ベイランが砂糖壺の蓋を開けていた。

 

 匙で一杯だけ茶へ入れ、混ぜる。匙がカップの内側に当たる音が続いた。

 

「橋の日のことを、話してもいいか」

 

 シーアは再生の表示から指を離した。

 

「はい」

 

「君が、君から言えばと言った時」

 

 ベイランは匙をカップの縁に掛けた。

 

「私は、分かっていて訊き返した。なぜ私に訊くのかと。君がほかに言う相手を持っていないことは、知っていた」

 

 シーアは口を挟まなかった。

 

「私は答えを持っていなかった。持っていないことに、自分で腹を立てていた。それを、君が持たせようとしたように言った。三日前、今は話したくないと言ったのも同じだ」

 

 ベイランはそこで言葉を切った。茶を飲み、甘さを確かめるように顔をしかめた。

 

 シーアは膝の上で手を組んだ。自分から切り出すつもりでいた話だった。どういう順で話すか、昨日から考えていた。

 

「僕は、ほかに誰へ言えばいいんですって言いました」

 

「言ったな」

 

「本当に分からなかったんです。誰に言えば止まるのか。分からないのに、ベイランに全部置こうとしました。ジェダイだから、友達だから、そこにいたから」

 

 言いながら、どれが一番の理由だったのかを考えた。三つとも本当だった。

 

「ごめんなさい」

 

「ああ」

 

 ベイランは頷いた。自分も何か言うべきか迷うように口を開き、一度閉じた。

 

「私も、言い方を間違えた」

 

 画面には、二日目の稽古の最初の場面が止まったまま映っていた。役者が片手を上げたところで、白い灯りだけが部屋の壁を照らしている。

 

 どちらも再生を押さなかった。シーアは菓子を一つ取って半分に割り、割る必要がなかったことに気づいた。片方を皿へ戻す。ベイランがそれを取った。

 

「砂糖を入れたのに、それも食べるんですか」

 

「苦かったんだ」

 

「もう苦くないでしょう」

 

 ベイランは答えず、半分の菓子を口に入れた。

 

 菓子の皿が空になってから、ベイランが言った。

 

「クレルのことを考えていた」

 

「僕もです」

 

「評議会が将軍に任じ、部隊を預けた。私も同じ手続で将軍と呼ばれている。150連隊の兵は、私の命令で橋へ降りた」

 

 ベイランはカップの中を見ていた。

 

「レックスたちは、自分で止めた。止めるための手続はどこにもなかった」

 

「スカぴょんだったら、たぶん――」

 

 シーアは言いかけて、その先を探した。

 

「最初の日に、クレル将軍の司令部へ乗り込んでました。怒鳴って、それで何も変わらないか、全部変わるか」

 

「どちらもあり得るな、あれは」

 

 ベイランは呼び名には触れず、茶を飲んだ。

 

「だから、アナキンがいない所でも止まるようにしたいんです。兵が自分で銃を下ろすのを待たないで」

 

「本部へ送った件か」

 

「はい。僕の職名も入れました」

 

「入れたのか」

 

「入れないと、クレル将軍にしか使えない手続になります」

 

 ベイランはシーアを見た。今度は長く見ていた。

 

 話は途中で何度もほかへ逸れた。

 

 モン・カラの海の話になり、ブラケットが名簿の二人をまだ閉じていないことをベイランが話した。シーアも自分の欄を閉じていないと答えた。テルヴァーンでは、ベイランはエドリクに付いて歩いた。避難所になった学校と水利局の管理所を何度か往復しただけで、町のほかの場所は知らない。

 

「あれは、行ったことのない場所を歩いたうちに入るか」

 

「入れていいと思います」

 

「では、エリアドゥは」

 

「劇場が先です。それから歩きます」

 

 シーアは卓の上に指で道を描いた。今度は途中で手を引かなかった。

 

「劇場の裏から港の方へ下りる道があって、エレナは近道だって言うんですけど、たぶん遠回りです。階段が多くて。でも途中に古い茶の店があって、そこの窓から――」

 

 ベイランは笑って、最後まで聞いた。

 

 しばらくして、ベイランが言った。

 

「橋を、車列が渡ったそうだ」

 

「読みました」

 

「渡るところを、見たかった」

 

 シーアは頷いた。ベイランはそれ以上足さなかった。クラスプの名も、スパンの脚も、口にしなかった。報告の損害の欄がまだ埋まっていないことは、二人とも知っていた。

 

 シーアは本部へ送った報告のことを、もう少し話した。戦闘中の指揮官を誰が見直せるか。明白な加害を、誰が一度で止められるか。すぐには決まらないことも分かっている。それでも決めておけば、次は兵に止めさせずに済む。

 

「国が最後まで責任を引き受ければ、もっとましに戦えると思うんです。誰が止めるか。誰が後を継ぐか。誰が遺体を返して、誰が名前を残すか。全部、先に決めておけば」

 

「共和国が、か」

 

「共和国がです」

 

 ベイランの茶はもうほとんど残っていなかった。底に溶け残った砂糖が見えている。

 

「共和国がなくなったら?」

 

 シーアはすぐには答えられなかった。浮かんだ答えは一つだけで、それを口にするのが早すぎる気がした。

 

「……なくなりません」

 

「そうか」

 

「父がよく言っていました。国がなくならないのは、港と、登録と、救難を、毎日続けている人がいるからだって。続けているうちは、なくならない」

 

「続ける者がいなくなったら」

 

 シーアは口を閉じた。

 

 ベイランは首を振った。

 

「答えを求めたわけではない。橋の日の君と、逆になったな」

 

「……ずるいです」

 

「そうかもしれない」

 

 ベイランは止まったままの舞台を見た。役者は片手を上げたまま、白い灯りの中にいる。

 

「秩序を作れば、本当に次の戦争はなくなるのか」

 

「なくならないかもしれません」

 

 今度は、シーアはすぐに答えた。

 

「でも、次の戦争を、今よりましに戦えます」

 

「ましに、か」

 

 ベイランはその言葉を繰り返した。続きがありそうな顔をしていたが、口にはしなかった。シーアは待った。

 

「まだ、分からない」

 

 やがて、ベイランは言った。

 

「分からないと言えば、君はそれで済ませてくれるだろう」

 

「済ませます。今夜は」

 

「今夜は、か」

 

 ベイランは笑った。

 

 シーアは再生を押した。

 

 二日目の稽古では、小道具の椅子が揃っていた。役者は前の日の場面を通し、エレナが止めるたびに入りへ戻る。二つ数える間を、今度はシーアも胸の中で数えた。一つ、二つ。役者の台詞は、その後に来た。

 

 ベイランのカップが空になっていた。いつの間にか背もたれに深く身体を預け、痛めた方の腕を膝の上のクッションに載せている。シーアは重ねた毛布の上の一枚を広げ、半分をベイランの膝に掛けた。相手は何も言わなかった。目を閉じているのか舞台を見ているのか、薄暗くて分からなかった。

 

 エレナの声が数えていた。一つ、二つ。

 

 シーアは毛布の残りを自分の膝へ引き寄せた。次の台詞が来たかどうかは、覚えていない。

 

 *

 

《ハービンジャー》、司令官室

 

 セレナが扉を開けた時、音はまだ続いていた。

 

 後ろでケレンが盆を持っていた。茶器を下げる時刻だった。明かりは卓の周りだけで、画面の中では役者が同じ場面を繰り返している。エレナの声が、入りの前に二つ、と言った。

 

 ソファの上で、二人とも眠っていた。

 

 ベイランは背もたれに頭を預け、痛めた方の腕をクッションに載せたままだった。膝の毛布が片側へずれている。シーアは肘掛けの方へ傾き、毛布の残りを胸まで引き上げていた。靴は履いたままだった。

 

 セレナは再生装置の表示を見た。記録には場面の区切りが付いている。残りは一つだった。今の場面が終われば、最後の場面が始まる。

 

 彼女は区切りの手前で再生を止めた。

 

 画面が消え、部屋が一段暗くなった。ケレンは何も訊かずに盆を卓に置き、空のカップを集めた。砂糖壺の蓋が開いたままだったので、閉めた。

 

 セレナは残っていた二枚目の毛布を広げた。ベイランの肩に掛からないよう、胸の下から膝までを覆う。ずれていた方の毛布は、シーアの方へ戻した。それからシーアの足元にしゃがみ、靴の留め具を外した。片方ずつ脱がせても、どちらも目を覚まさなかった。

 

 公王宮にいた頃も、芝居の夜はこうだった。幼い王子は幕が下りる前に眠ってしまい、セレナが客席の暗がりで靴を脱がせた。あの頃は、抱えて寝台まで運べた。

 

 揃えた靴をソファの脇に置く。ケレンが扉のそばの明かりだけを残して、ほかを落とした。

 

「最後の場面は」

 

 ケレンが小声で訊いた。

 

「朝にします。起きて見るように言われているので」

 

 ケレンは頷き、盆を持って先に出た。セレナは戸口で振り返った。お姫様、と口の形だけで呼び、声にはしなかった。

 

 扉が閉まった。

 

 *

 

C.R.C. 7956.251 《ハービンジャー》、司令官室

 

 目を開けると、毛布が顎まで掛かっていた。

 

 シーアはしばらく天井を見ていた。ソファの上で、足に靴がない。脱いだ覚えはなかった。

 

 向かいで端末の画面を送る音がした。ベイランがいつもの椅子に座り、自分の端末を読んでいた。膝に畳んだ毛布が載っている。卓の上にカップが一つあり、湯気が立っていた。横に砂糖壺があった。

 

「起きたか」

 

「……寝てました」

 

「二人ともな」

 

 ベイランは画面から顔を上げずに言った。

 

「私の方が先に起きた。記録は、最後の場面の手前で止まっていた」

 

「セレナです」

 

 シーアは言った。昨日エレナから届いた一行を思い出した。最後の場面だけは、起きて見て。

 

 扉が開き、ケレンがもう一つカップを運んできた。シーアの分だった。卓に置き、毛布を畳むのを待たずに下がっていく。

 

 シーアは毛布を膝まで下ろし、私用の端末を取った。夜のうちに新しい私信は来ていない。下書きの欄に、一件だけ残っていた。

 

 返事を急がせて、

 

 シーアはそれを消した。

 

「何を消した」

 

 ベイランが訊いた。

 

「もう言ったことです」

 

 ベイランは頷き、自分の端末に目を戻した。

 

 シーアは再生を押した。

 

 最後の場面は短かった。舞台の上に役者が一人だけ残り、灯りが一つずつ落ちていく。灯りは作業用の白から、本番と同じ色に替わっていた。客席の方で数える声がする。エレナの声だった。灯りが一つだけ残った。役者は台詞を言わず、その下に立っていた。

 

『ここ』

 

 エレナが言った。記録の中で、彼女は台本を閉じていた。

 

『この灯りの時間を、決めたかったの』

 

 シーアは画面を見ていた。エリアドゥの旧劇場で、終演の後に二人で客席に残った夜があった。舞台の上に灯りが一つだけ残り、案内係が消してもいいかと目で訊いた。エレナは少し待ってから頷いた。

 

 記録の中で、灯りが消えた。

 

 ベイランは端末を膝に伏せていた。

 

「いい灯りだ」

 

 それだけ言った。

 

 シーアはエレナへの返事を書いた。

 

 見た。ベイランと。二人とも途中で寝た。最後の場面は今朝起きてから見た。セレナが止めておいてくれた。

 

 そこまで書いて、約束を思い出した。眠れなかった夜のことは、先に話す。

 

 アンバラで、眠れなかった夜が何度かあった。一つだけ先に書く。橋から誰も戻らないかもしれないと思って、横になっても眠れなかった夜。

 

 昨日は、眠れた。

 

 送信を押した。

 

 セルトから呼出しが入った。

 

『統合作戦本部から、正式な回答です。それと、今朝の情報要約を』

 

「読みます」

 

 回答は二段落だった。報告の審査事項は受理する。戦闘中の指揮官の再評価、明白な加害への緊急停止、指揮権の暫定的な扱い。三つとも、アンバラの事件に関する調査委員会の報告を待ち、次の審議の会期で扱う。会期の日付は、まだ決まっていない。

 

 シーアは回答を最後まで読み、最初の段落へ戻った。三つの項目が並んでいる。送った時と同じ順番だった。

 

 情報要約は、いつもより短かった。各戦域の状況、補給線の状況、交代の予定。その中ほどに一行の報告があった。

 

 トグルータの入植地キロスとの連絡が途絶。分離主義勢力による占拠を確認。住民の所在は不明。

 

 シーアはその行で指を止めた。アソーカの顔の白い模様を思い出した。同じ種族の入植地だった。

 

「キロスへは、誰が」

 

『救出の部隊は編成中、とだけ』

 

「そう」

 

 シーアはカップを取った。ベイランも同じ要約を読んだらしく、窓の外へ顔を向けていた。暗い外縁で、補給船団の航行灯が順に点いては消えていた。

 

 茶はまだ温かかった。シーアは一口飲み、回答と要約を並べたまま画面を閉じなかった。カップから上がる湯気が、二つの文面の間で揺れていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。