STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7944.217
「今日は私の番です」
朝食が終わると、エレナはシーアの前に端末を置いた。エリアドゥ・シティの地図に、商業宇宙港から税関地区、金融街へと続く線が引かれている。
「昨日は《タイラント》に行ったでしょう。今日はこっちです」
「今日も見せてもらえるかもしれないよ」
「昨日、約束はしていただけなかったでしょう」
それはその通りだった。シーアは端末を引き寄せ、行程の最初にある宇宙港を拡大した。
「船は見られる?」
「宇宙港ですから、たぶん」
「じゃあいいよ」
エレナは少し不満そうだったが、同意は得られたので、それ以上は言わなかった。代わりにセレナへ予定を見せる。
「先方からも確認が届いております。お迎えは三十分後です」
セレナは行程を確かめ、シーアの脇に置かれていた船のカタログを閉じた。
「少なくとも今日は、反応炉の配置図をお尋ねになる場所はなさそうですね」
「昨日も、聞いただけだよ」
「承知しております。お着替えも、そのくらい早く済ませていただければ結構です」
シーアは椅子から降りた。エレナはすでに端末を取り上げ、出発するつもりで扉へ向かっている。
「港からだよね?」
「順番は変えていません」
「やっぱり今日も船じゃん」
エレナは返事をせず、扉を開けた。
⸻
商業港の展望通路からは、荷役場と発着区画を一度に見渡せた。
輸送艇がコンテナを降ろし、その下を無人牽引車がくぐっていく。別の区画ではタンカーから伸びた配管を作業員が外し、離陸を待つ貨物船の周囲では誘導灯が点滅していた。旅客用シャトルはさらに離れた航路を使い、頭上を通る時だけ、窓ガラスに低い振動を残していく。
昨日の《タイラント》では、どこへ行っても一隻の艦を動かすための仕事が続いていた。ここでは、それぞれ違う船のために人と機械が動いている。それでも、荷役場の出口や航路の交差点では、きちんと順番がついていた。
「昨日より船が多い」
「昨日は一隻です」
「四キロ以上あったよ」
「長さでは勝っても、数では負けています」
壁面には、軌道港の観測映像も並んでいた。その一つを巨大な環状船体が横切る。
「あ、LH-3210」
シーアはそう言って、隣の画面へ目を移した。エレナは環状船を見上げたまま、彼の袖を引く。
「これは説明しないんですか?」
「知ってる船だから」
「昨日の砲も知っていたでしょう」
「あれは古い船に新しい砲が載ってたから。LH-3210は普通だよ」
映像の中では、その普通の船の周りを、豆粒ほどに見える作業艇が行き来していた。
「大きいのに」
「大きいけど、よくいる」
「船が好きな人の区別って、よく分かりません」
船体には通商連合の標章があった。別の映像にも同じ標章が見える。港の案内を開けば、船に印がなくても、荷役や船舶管理を引き受ける会社の中に見覚えのある名前が並んでいた。
シーアは表示を少し下へ送った。クラクドアVIIでも見た会社だった。
「ここにも、いっぱいあるね」
「通商連合ですか? エリアドゥですから」
エレナには、珍しいことではないらしかった。
「サミットに来たのもいるのかな」
「この船は荷物を降ろしに来たんでしょう。ほら」
エレナが指した欄には、荷役の開始時刻と、次の出港予定が載っていた。サミットが始まる前に出ていく船だった。
シーアはもう一度、通商連合の標章を見た。同じ印をつけていても、この船にはこの船の仕事がある。会議のために、エリアドゥ中の貨物が動いているわけではなかった。
⸻
エレナが最初に見たがったのは税関だった。
「家でも、ときどき書類の話をしているんです。荷物は着いたのに、まだ受け取れないとか」
「ここで止まるの?」
「それを見に来たんです」
税関区画では、案内役の職員が見学用の画面を用意していた。実際の業務に使う情報から、船名や取引先などの一部を伏せたものだという。
船籍、積荷目録、出発地、経由地。荷物の所有者と荷受人の名前は別々の欄にあり、その下に危険物の申告や過去の検査記録が続いていた。
「一隻で、こんなにあるの?」
「荷物の種類が増えれば、もっと長くなります。ただ、毎回すべての貨物を開けるわけではありません」
職員が検査区分を表示する。緑、黄色、赤。エレナは、赤い標識のついた一件を指した。
「これは、何か見つかった船ですか?」
「追加で確認する船です。この例では、積荷目録と荷受人側の申告が合っていません」
「どちらかが嘘を書いた?」
シーアが尋ねると、職員は画面を拡大した。同じ貨物について、二種類の部品番号が載っている。
「番号の写し間違いかもしれません。本当に別の品物を積んだのかもしれない。確かめるまでは分かりませんから、検査へ回します」
「嘘が見つからないこともあるでしょう」
「あります。ですから、書かれていることだけでは決めません」
職員は経由地と検査履歴を順に開いた。
「何を運んでいるのか、どこを通ってきたのか。前の申告と違うところはないか。必要なら、実際の積荷とも照合します」
シーアは画面の端にある到着予定時刻に気づいた。この船は、まだ港へ入っていない。
「来る前から調べるんだ」
「着いてから全部始めていたら、港が船で埋まってしまいます。検査が必要な船には、あらかじめ使う区画を指定します」
「従わなかったら?」
「通常の荷役区画には入れません。こちらで確認が取れるまで、指定の場所で待ってもらいます」
窓の向こうでは、誘導灯が切り替わり、一隻の貨物船がゆっくりと向きを変えていた。船首を塞いでいる軍艦はない。それでも船は指示された方へ進む。
クラクドアVIIでは、契約の条件を変えるという通知が、政府の代表を足止めしかけていた。ここでは、積荷を確かめるために、港へ入る順番と場所を決めている。同じように船を待たせる仕事でも、その理由は違った。
「間違ってなかったら、そのまま荷物を降ろせるんですか?」
エレナの質問に、職員が頷いた。
「確認が済めば。正しく申告した船を、いつまでも待たせるわけにはいきませんから」
「止めるだけじゃないんだ」
「通してよいものを、きちんと通すのも仕事です」
シーアはもう一度、長い積荷目録を見た。船が入れるかどうかを決めているのは、港の外にいる警備艇だけではなかった。
⸻
昼前には、港に隣接する金融街へ移った。
案内されたのは、船舶金融や貨物保険、決済の手続きを扱う会社の事務所だった。窓からは荷役場が見えるが、室内に届く音は小さい。代わりに、机の上の表示が絶えず更新されていた。
初めのうち、シーアも説明を聞いていた。保険や融資が止まると船を動かせなくなるという話なら、クラクドアVIIで聞いている。
ただ、船の購入にかかる融資の話から、保険料の計算、さらに危険を複数の会社で引き受ける仕組みへと進む頃には、窓の外を見る時間が長くなっていた。
「聞いてます?」
隣から小声がした。
「聞いてる」
「今の話、何でした?」
「保険」
「さっきからずっと保険です」
シーアが返事を探している間に、エレナは職員の方へ向き直った。
「食べ物を運ぶ船も、航路が変わったら保険料が変わるんですか?」
「条件によっては。遠回りになれば、燃料も余分に使いますし、冷蔵設備を動かす期間も延びます」
「それで食べ物が高くなる?」
「その分を誰が負担するかは契約によりますが、最後には価格へ反映されることがあります」
エレナは手元の端末に何かを書き留めた。シーアも窓から目を戻す。
「船が壊れてなくても、お金が余分に要るんだ」
「ええ。ですから、日程も大切です」
職員は説明用の表示へ、一件の貨物取引を出した。売り手、運送会社、買い手。その間に銀行と保険会社が入り、それぞれの手続きに確認済みの印がついている。
エレナが一つだけ空欄になっている箇所を見つけた。
「ここは?」
「代金の支払いに必要な、書類の確認です。船積みを証明する書類が届けば、次の手続きへ進めます」
「荷物はもう積んであるんでしょう?」
「はい。ただ、お金を払う側は、その場で見ていたわけではありませんから」
シーアは売り手と買い手の間を指でたどった。荷物は動いていても、それを確かめるものが届かなければ、金は同じようには動かない。
「船長が、積んだって言えばいいんじゃない?」
「その証明を、誰が、どんな形式で出すかまで契約で決めています。毎回相手の星まで見に行くわけにはいきませんので」
クラクドアVIIの店で、自分のクレジットが使えなかったことを思い出した。あの店では、共和国のクレジットより、地元の通貨や通商連合系の決済証の方が支払いに使いやすかった。
金額があるだけでは足りない。その先で受け取ってくれる者がいなければ困る。ここでは、荷物を積んだという知らせにも、相手が受け取れる形が要るらしかった。
「書類が遅れたら、船も待つの?」
「取引の条件によります。船は先に出られても、売り手が代金を受け取るのを待たなければならないことはあります」
エレナが荷物の欄を見た。
「それが食べ物だったら、船まで止めると困りますね」
「ええ。腐るまで待ってもらうわけにはいきません」
職員は、その場合に使う保証の欄を開いた。シーアは今度は窓を見なかった。
説明が終わり、部屋を出る時になって、エレナが隣から顔を覗き込んだ。
「退屈でした?」
「途中までは」
「正直ですね」
「でも、後は面白かった。お金を払うまでにも、こんなにすることがあるんだね」
エレナは満足したようだった。
「船だけ見ていたら、分からなかったでしょう」
「船を見に来たから分かったんだよ」
「今日は私が連れてきたんです」
シーアは少し考え、それについては頷いた。
⸻
午後には宇宙港へ戻り、管制施設に隣接した見学区画へ上がった。
高層階の窓からは、いくつもの発着区画と、その間を結ぶ地上輸送路が見える。軌道側の交通は立体航路図に表示され、観測映像を選べば個々の船も確かめられた。
サミットへ来る代表団のために、通常の貨物交通とは別の進入経路が設けられていた。シーアが近づいた時、ちょうど一つの艦影がその航路へ入るところだった。
「ドレッドノート級」
表示を確かめるまでもなかった。共和国司法軍のヘヴィ・クルーザーが、エリアドゥを背景にゆっくりと進んでいる。
その後ろに、もう一隻いた。
「……変な船」
シーアは映像へ身を寄せた。装甲に覆われた部分の間に細い構造が伸び、船体の向こうが透けて見える。クアットで見た、厚い艦体へさまざまなものを収めていく船とは、ずいぶん違っていた。
「どこが変なんですか?」
「変っていうか……作り方が違う」
近くの職員が識別情報を出してくれた。
ミュニファスント級スター・フリゲート。
所属は、インターギャラクティック・バンキング・クランだった。
「銀行の船?」
「銀行が船を持っていてはいけませんか?」
エレナに聞かれ、シーアは船体を見直した。
「いけなくないけど。銀行の船には見えない」
「どんな形ならいいんです?」
答えようとして、何も思いつかなかった。共和国なら一つの軍が守るものだという感覚と同じように、銀行も何となく、こういう船を持つものではないと思っていたらしい。
「……分からない」
「じゃあ、この形でもいいでしょう」
エレナは笑ったが、シーアはまだ映像を見ていた。
ミュニファスント級は、ドレッドノート級と一定の間隔を保っている。司法軍艦が航路を変えると、少し遅れて後続艦の針路表示も変わった。
「あれは護衛してるの?」
職員は画面の端にある航路指定を示した。
「誘導と監視です。サミット期間中、一定以上の武装を持つ艦には、この経路を使ってもらいます」
「銀行の船も?」
「所属にかかわらず、対象の艦には従ってもらいます」
シーアは二隻の動きを目で追った。
クラクドアVIIでは、通商連合の武装船が軌道に浮かんでいた。エリアドゥへ来た時には、《タイラント》の後ろを進んだ。今、企業の武装艦を先導しているのは共和国司法軍だった。
「こういうの、もっとやればいいのに」
エレナが横を見る。
「共和国の船が前を飛ぶの」
シーアが言い足すと、職員は二隻の航路を確かめてから答えた。
「この期間は、そのための艦を回してもらっています」
シーアは頷いた。サーティネイニアンの基地に配属されていた三隻のことを思い出しかけたが、隣の表示が切り替わり、そちらへ目を奪われた。
また別の代表団が近づいていた。
⸻
午後が進むにつれ、代表団用の航路は忙しくなった。
コレリア、マラステア、ローディア、シャンドリラ。名前を聞いたことのある世界に交じって、小さな惑星政府やセクターの代表団もやってくる。
船もさまざまだった。CR90コルベットにコンスラー級クルーザー。政府所有のシャトルもあれば、民間船を借り上げた一行もある。地方防衛軍の護衛艦は指定の待機場所へ進み、代表団を乗せた小型艇だけが地上へ降りていった。
シーアはその違いを見ているだけでも退屈しなかった。だが、区画の一角にあるサミット連絡室では、職員たちが別の表示を確かめていた。
並んでいるのは船名ではなく、政府の名前だった。
「あっちは何を見てるの?」
案内役に尋ねると、見学用の画面にも同じ一覧が表示された。
「代表団の到着状況です。船の入港は港湾側が扱いますが、サミット側では、出席する方が着いたかどうかを確かめなければなりません」
政府名の横に、緑、黄色、灰色の標識がついている。
「緑が来た人?」
「到着して、参加の登録も確認できた代表団です。黄色は到着予定が届いている方々。船が着いても、本人の受付が済むまでは変わりません」
「灰色は?」
エレナが一行を指した。
「到着の見込みが、まだ確認できていません」
シーアは一覧を下へ送った。灰色の欄は、思っていたより多かった。
「明日までに来ればいいんだよね」
「その予定で連絡を取っています」
「足りなかったら、サミットはできないんですか?」
エレナの問いには、連絡室の職員が答えた。
「会議を開くことと、正式な決定をすることでは、必要な条件が違います。参加が足りなければ、決められないことも出てきます」
詳しい手続きは議事担当の仕事だと言って、職員は通信へ戻っていった。
シーアはそのまま一覧を見ていた。指を動かしているうちに、知っている名前が現れる。
クラクドアVII。標識は緑だった。
「ナールさん、いる」
「一緒の船でいらした方でしょう?」
「うん。僕たち、迎えに行ったんだ」
エレナは頷いた。代表団を乗せてきたことは知っている。しかし、シーアが話し始めると、端末を持つ手を止めた。
輸送契約と保険の条件を見直すという通知。政府が借りている金の条件も、同じ頃に変わるかもしれなかったこと。サミットとは関係がないという説明だったこと。
シーアは覚えている順に話した。金融区画で聞いたばかりの言葉を使うと、前より少し説明しやすかった。
「船には乗れるのに、来るかどうかで、そんなことまで考えなきゃいけないんですか」
「来るなとは言われてないんだって。でも、食べ物を運ぶ契約とか、そういうのが一緒に変わったら困るでしょう」
エレナは緑の標識を見た。
「一人くらい来なくても、あまり変わらないかもしれないけど。ナールさんが言ってた。十の政府が来なかったらどうなるかって。二十なら、って」
「……今日見た手続きで、こっちまで変わるんですね」
エレナの指が、貨物の航路図から代表団の一覧へ動いた。
シーアは頷き、それから灰色の欄を見直した。ここに残っている政府にも、それぞれ来られない理由があるのだろうか。航路が遅れているだけなのかもしれない。まだ連絡が届いていないだけかもしれない。
一覧から分かるのは、到着が確認できていないということだけだった。
その中で、クラクドアVIIの欄は、確かに緑になっていた。
⸻
夕方にはアルドレンたちと合流し、セスウェナ・ホールへ向かった。
翌日のサミットを前に、入口では警備の最終確認が続いていた。エリアドゥの警備隊員が搬入物を調べ、その脇を各政府の随員が身分証を示して通っていく。アルドレンも入口で足を止め、係の職員と言葉を交わした。
シーアがその半歩後ろで待っていると、人の流れの向こうに茶色のローブが二つ見えた。
「ジェダイだ」
エレナもそちらへ顔を向けた。
一人は髪と髭の長い、背の高い男だった。隣の男はずっと若く、後ろをついて歩きながら、差し出された警備図へ目を通している。二人とも制服姿ではないが、警備員たちは立ち止まって報告し、用件が済むと道を空けた。
シーアの視線は、長身の男の腰に下がった金属製の筒へ移った。
「あれがライトセーバー?」
「たぶん。あまり見つめない方がいいですよ」
「実物を近くで見るの、初めてなんだ」
「まだ近くありません」
エレナが言い終わらないうちに、二人のジェダイがこちらへ歩いてきた。シーアは腰元から目を上げ、姿勢を正す。
「公王殿下」
「マスター・ジン。お忙しそうだな」
「皆さんも同じでしょう」
長身のジェダイは静かに答え、アルドレンの隣へ目を向けた。父はシーアを紹介し、続いてエレナの名を告げた。
「アレクシアール・ヴァラリアンです。初めまして」
「クワイ=ガン・ジンです。こちらは弟子のオビ=ワン・ケノービ」
若いジェダイが頭を下げた。
「お会いできて光栄です、殿下」
礼を終えたオビ=ワンが、もう一度だけシーアを見た。何か言われるのかと思って待ったが、何も言わない。
「何かついてます?」
「いえ。失礼しました」
シーアが襟元へ手をやると、エレナが小声で言った。
「たぶん、顔です」
「顔?」
「直さなくていいです」
手を下ろしたものの、意味は分からなかった。クワイ=ガンは二人のやり取りを見守ってから、穏やかに話しかけた。
「エリアドゥは楽しめていますか?」
「はい。昨日は《タイラント》に乗せてもらいました」
「その話は伺いました。機関室をご覧になりたかったとか」
シーアは父を見た。アルドレンは否定しなかった。
「四キロを超える軍艦に乗って、まず反応炉を見られないかと聞いたそうだな」
「見るのが好きなんだから、いいでしょう」
「見るのは構わん。見せてもらえればな」
クワイ=ガンが小さく頷く。
「興味を持つのは、よいことです」
シーアは味方を見つけた気がした。だが、その視線が再びライトセーバーへ下がると、オビ=ワンが先に口を開いた。
「こちらも、見学だけにしていただけると助かります」
「まだ何も聞いてません」
「念のためです」
答えが早かったので、エレナが笑った。
「昨日は、見られないと分かったら図面を聞いていました」
「それは船だから。ライトセーバーは、図面を見ても分からないと思う」
「では、今日は図面の心配はいりませんね」
オビ=ワンが言うと、クワイ=ガンは弟子をちらりと見た。
「まだ頼まれてはいないぞ、オビ=ワン」
「ええ、マスター」
シーアは二人の顔を見比べた。もっと近寄りがたい相手だと思っていたのだが、話していると、見学先で会う士官たちとそれほど違わない。少なくとも、質問をしただけで怒られることはなさそうだった。
「今日は何をご覧になったのですか?」
クワイ=ガンに尋ねられ、シーアは今日の行程を思い返した。
「エレナと港に行きました。税関と、保険の会社も。銀行の軍艦も見ました」
「ずいぶん忙しい一日ですね」
「最後は、人を数えてました」
クワイ=ガンは口を挟まず、続きを待った。
「サミットに来た人です。まだ着いていないところが、たくさんあったから」
入口に置かれた案内表示にも、各代表団の到着状況が出ていた。シーアがそちらを見ると、クワイ=ガンも同じ表示へ目を向ける。
「そうですか」
「クラクドアVIIは来ています。僕たちの船で」
「伺っています」
その声を聞いて、シーアは顔を上げた。クワイ=ガンは、先ほど機関室の話をした時とは違う表情で父を見ていた。
「皆が間に合うといいですね」
ホールの奥から警備担当者が近づき、クワイ=ガンへ短く声をかけた。彼は頷いてから、アルドレンたちへ向き直る。
「失礼します。まだ確認する場所がありますので」
「明日に備えて?」
アルドレンの問いに、クワイ=ガンは「それもあります」と答えた。それ以上は話さず、二人へも軽く礼をする。
「またお会いしましょう」
「はい」
オビ=ワンも一礼して、師の後に続いた。警備図を受け取り、歩きながら何かを尋ねている。その横を係員が足早に通り過ぎた。
「普通に話すんだね」
シーアが言うと、エレナが不思議そうに見た。
「どう話すと思っていたんです?」
「もっと……ジェダイらしく」
「今のが、そうなんでしょう」
それ以上説明できず、シーアは二人の背中を見送った。茶色いローブの裾が扉の向こうへ消えると、腰に下がった武器も見えなくなった。
⸻
中央ロビーでは、代表団の受付が続いていた。
職員は身分証を確認し、同行者の名前を照合し、代表権を示す文書へ目を通す。端末を返す時には、翌日の席と入場口を案内していた。その後ろの表示で、一つの欄が黄色から緑へ変わった。
シーアは父の用事が済むまで、エレナと一緒にその前で待っていた。
宇宙港で見ていたのと同じ一覧だったが、今は、色が変わるまでに誰が何をしているのかも見える。
船が着いたという連絡だけでは、緑にはならない。そこに乗っていた人が降り、ホールへ来て、出席する政府の代表だと確かめられて、ようやく一行の手続きが終わる。
「もう船は見ないんですか?」
エレナに言われ、シーアは窓の方を見た。遠くの発着場へ向けて、一隻のコンスラー級が降下していくところだった。
「見てるよ」
「さっきから、ずっとこっちです」
「こっちも面白い」
シーアは一覧へ戻った。
星図なら、共和国の惑星は最初からそこにある。港に船が着かなくても、その星の名前が地図から消えることはない。
会議の席は違った。座るはずの人が来なければ、空いたままになる。
受付の職員が立ち上がり、新しく入ってきた一行を迎えた。しばらくして、また一つの標識が緑になった。
「増えた」
「ちゃんと来る方もいるでしょう」
「うん」
シーアは、増えた政府の名前を読んだ。よく知らない世界だった。さっき窓から見た船の代表団なのかどうかも分からない。それでも、空いていた一行が埋まると、少しほっとした。
その時、近くで通信を終えた職員が、同僚に話しかけた。
「未着の三代表団は?」
「一つは航路変更。到着が遅れる。残り二つは金融手続きの確認待ちだ」
「出発時刻は取れたか?」
「まだ。先方に問い合わせている」
シーアはそちらを向いた。
「金融手続きって――」
「殿下」
セレナが隣へ来ていた。彼女は職員たちが次の通信をつなぐのを見て、シーアの肩へ手を添える。
「お父上がお待ちです。こちらへ」
シーアは口を閉じ、端末を持ち直した。
何の手続きなのか、誰の確認を待っているのかまでは聞けなかった。今日見学した事務所にも、確認を待つ欄があった。その一つが埋まらなければ、こちらの一覧も変わらないことがある。
振り返ると、職員は相手の返事を書き留めながら、もう一度到着予定を尋ねていた。
⸻
帰りの車では、エレナが窓の外を見ていた。
金融街の高層建築にはまだ明かりが残り、その間を公共輸送艇が通っていく。宇宙港へ続く道路には、昼間と変わらず貨物車が並んでいた。
シーアは端末で、サミットの公開案内を開いていた。参加予定の政府と、到着が確認された代表団の一覧が載っている。
「まだ数えてるんですか?」
「うん」
「今日は銀行の船も見たのに」
「ミュニファスント」
「そう、それです」
「ちゃんと覚えてるよ」
エレナは笑い、シーアの画面を覗き込んだ。しばらくして、シーアが一覧を少し戻す。
「通商連合の船は、あんなに来てるんだよね」
「荷物も、たくさんありました」
「でも、その船で取引してる星の代表が、来られなくなることもある」
エレナは、昼間聞いたナールの話を思い出しているようだった。
「来ないでほしい人がいたら、船じゃなくて、契約の方を止めるんですね」
「来るなって言わなくても済むから」
「さっきの二つも?」
シーアはすぐには答えなかった。金融手続きという言葉だけでは、ナールの時と同じなのか分からない。単に書類が遅れたり、番号を間違えたりしたのかもしれなかった。
「分からない。まだ調べてるって言ってた」
エレナは頷き、もう一度画面を見た。
「でも、二つとも来なかったら、その分は減りますね」
「うん。十なら、もっと減る。二十なら」
シーアはそこで言葉を切った。
車が港へ続く大通りを横切った。遠くでシャトルが上昇し、光の点になっていく。軌道には《タイラント》がいて、司法軍のドレッドノート級もいる。企業の武装艦まで、指定された航路に従っていた。
それでも、代表団の到着を知らせる欄には、まだ空きがある。
「船だけ着いても駄目なんだね」
「人も来ないと」
エレナが言った。シーアは頷いた。
端末の表示が更新された。新しく一つの政府に、到着確認の印がついている。
二人はしばらく、その名前を見ていた。
エリアドゥ・サミットの開始まで、まだ時間はあった。港では次の船に進入許可が出され、ホールでは職員が残る代表団への連絡を続けている。
その夜、会議の準備に追われる者たちが繰り返し数え直していたのは、到着した代表者の数だった。
ミュニファスント級スター・フリゲート
分類: スター・フリゲート
全長: 825m
建造: ホーシュ=ケッセル・ドライブ社ほか
主用途: 通信、資産警備、船団護衛、長距離戦闘
インターギャラクティック・バンキング・クランが保有する大型武装フリゲート。クローン戦争以前から存在し、銀行グループの通信網や金融資産、重要施設の防衛などに用いられていた。後には独立星系連合艦隊の代表的な主力艦の一つとなる。
CR90コルベット
分類: コルベット
全長: 150m
建造: コレリアン・エンジニアリング社(CEC)
主用途: 輸送、外交、護衛、哨戒、軽戦闘
CECのCRシリーズに属する多目的コルベット。共和国末期にはすでに広く使用されており、共和国司法軍だけでなく、惑星政府、王室、企業、民間組織など非常に幅広い使用者を持つ。
カンセラー級クルーザー
分類: ライト・クルーザー/外交クルーザー
全長: 115m
建造: コレリアン・エンジニアリング社(CEC)
主用途: 外交使節輸送、共和国公務、司法部門任務
銀河共和国が外交任務に広く使用したCEC製クルーザー。一般にリパブリック・クルーザーとも呼ばれる。三基の大型エンジンを船尾に持つ小型艦で、共和国末期には銀河中で共和国外交船として認識されるほど特徴的な存在だった。