STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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帰る場所

 鎖の星カダーヴォ!

 

 ヴェルタの積替環から八千二百五十人を救出した共和国軍。だが、奪われた人々を運ぶ航路は、その先へも延びていた。

 

 帰還の手配と家族の捜索が続く中、第3合同任務群は新たな命令を待つ。見つかった帳簿には、長く行方の分からなかった者たちの名も残されている。

 

 彼らはいま、どこにいるのか。シーア・ヴァラリアンは、故郷から届く照会の回答を待っていた――

 

 *

 

C.R.C. 7956.258 ヴェルタ星系、銀河平面座標 S-4、シャルティン・トンネル、ヴェルタ積替環、中央広間

 

 リブが席を立つと、救護船から来た受入れ係が端末を引き寄せた。

 

 家族の照合が済んだ人も、まだ名前を聞けていない人もいる。係は名前の空いた票を見て、どう呼べばよいかと訊いた。

 

「付き添いが連れてくる。聞けたら、後から足せばいい」

 

 次の人が椅子に座った。係が診療の印を確かめ、水の場所を教えるのを見届けて、リブは鞄を持ち上げた。

 

 シーアも帰艦の便を待っていた。広間には医療と食事、家族の捜索を引き継ぐ者が揃い、バリスが調べている二つの記録にも、続きを受け持つ者の名が付いていた。隣の女性が指を折り、生まれた年を数えている。

 

 キロスからの報告が届いた。

 

 アナキンとアソーカが街の爆弾を解除し、ケノービが敵指揮官ダーツ・ドナーを捕らえた。聴取によれば、消えた五万の住民はザイゲリアへ運ばれたという。

 

 シーアはGF司令部に次の指示を求めた。もう一度広間を見ると、バリスが受入れ係に席を譲っていた。

 

「僕がここにいなくても、続きを聞いてくれる人はいますね」

 

「はい。そのための引継ぎです」

 

 セレナの返事を聞いて、シーアは帰艦の便を決めた。

 

C.R.C. 7956.259 《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 翌日、運用可能な十三隻が港を離れた。ベイランの二隻と、ルミナーラの部隊が続く。

 

 輸送母艦三隻は積替環に残し、機関の検査を工作班へ渡した。港の警備と拘束者の監視も交代し、救出した八千二百五十人の医療と後送は、到着した船が引き受けていた。名前の確認や家族の照合は、まだ続いている。

 

 GFの新しい命令は、ザイゲリア方面への進出だった。潜入班の位置が分かるまで星系外で待機し、救出の要請があれば、軌道の敵戦力と後送路を受け持つ。

 

 積替環からの最後の映像に、ティーリが映った。毛布を抱えて受入れ係に何かを訊き、差し出された手を取った。シーアはその姿が画面から消れるまで見ていた。

 

 *

 

C.R.C. 7956.260 ザイゲリア星系外縁、銀河平面座標 S-4、シャルティン・トンネル/リステホル・ラン接続方面、《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 潜入班が港へ入ったと、短い符号が届いた。

 

 アナキン、ケノービ、アソーカ、レックス。四人はドナーから押収した船に乗り、商人とその護衛を装っていた。第3合同任務群は外縁に留まった。ヴェルタへの攻撃は、既に知られているはずだった。艦隊まで港へ近づけば、四人の身が危うくなる。

 

 同じ当直の間に、兄から十五年分の失踪記録が届いた。

 

 《ソルヴェイグ》の捜索には、海賊による拿捕を疑う所見があった。その後に、目撃情報なし、活動区画を特定できず、派遣船の継続使用困難、と並んでいる。港の役所から配船を決める部署へ回った記録は、そこで終わっていた。

 

 記録のない三名については、会社の清算資料から家族の連絡先を探している。他の案件も売買表と照合するので、まだ数は出せない。兄の返事はそう結ばれていた。

 

 シーアは捜索の打切り後にも照会がなかったか、調べてほしいと返信した。続けて「どうして」と打ち、後の文を思いつけないまま消した。

 

 立ち上がると、セレナが襟の後ろへ手を伸ばした。

 

「お姫様。洗濯の札を、私が外し忘れました」

 

「朝から、ちくちくしてました」

 

「なぜ仰らなかったのですか」

 

「戦闘指揮所で、襟がちくちくするって?」

 

「はい」

 

 外された札には、自分の名前と返却先の区画が書いてあった。シーアはそれをセレナへ返し、司令官室へ戻った。

 

C.R.C. 7956.261 《ハービンジャー》、通信卓

 

 翌日の連絡時刻を過ぎても、符号は来なかった。

 

 予備の窓口にも応答はない。こちらから呼び続けることはできず、セルトは市場の公開映像を調べた。

 

 ミラージュ・シンテル女王の催しが映っていた。競りに集まる船と、壇上へ押し出される男。その腕は拘束されていた。

 

 ケノービだった。

 

 シーアが他の三人を探す前に、映像は切り替わった。セルトは記録をルミナーラとプロ・クーンへ送り、シーアはソーンに救出の準備を続けるよう伝えた。四人がどこにいるか、まだ分からなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7956.262 《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 アナキンの回線は、予定にない方角から入った。艇の機関音が声に重なり、肩の後ろにはアソーカが見えていた。

 

『四人とも捕まった。俺とアソーカは出た。オビ=ワンとレックスはカダーヴォへ送られた。キロスの人たちもだ』

 

「座標は」

 

『女王から聞いた。プロにはもう伝えた』

 

 数値を受け取っても、ヴェルタの帳簿にあった三番、七番、十一番のどれに当たるかは分からなかった。シーアは照合を後に回し、航法担当へ座標を渡した。

 

『女王は死んだ。ドゥークーが来た。……今は、オビ=ワンたちが先だ』

 

「外の線は、こちらで持ちます」

 

 アソーカが画面へ寄った。

 

『水と、拘束具を外す道具。たくさん。それと、怖がっている人を急に引っ張らないで』

 

 ヴェルタでも、扉が開いてなお列を離れない者がいた。

 

「受入れの班へ、そのまま伝えます」

 

 主施設へはアナキンたちが入り、プロ・クーンが上空を押さえる。岸側の修理棟と搬出路は、ルミナーラとバリスが受け持つことになった。

 

 150連隊からは、休養と医務の確認が済んだ二個班をテザーに付けた。ベイランは痛めた肩のため艦に残り、自分の二隻を受入れに使う。救出者と上陸班の後送が終わるまで、その二隻の作戦統制もシーアへ預けた。

 

 *

 

C.R.C. 7956.263 カダーヴォ星系、銀河平面座標 S-4、シャルティン・トンネル方面からの局地進入路、カダーヴォ地表、火口東岸、第二受入地点

 

 届いた毛布は四千枚だった。他の受入地点へ回す分を除くと、目の前の列には足りない。リブが不足を伝える横で、フォイルは一枚を二つに折り、担架の子供の足を包んでいた。

 

 冷たい風に硫黄の匂いが混じっていた。火口の向こうでは、巨大な処理施設が岸から延びる支柱に吊られている。砲塔から煙が上がっていたが、施設の中で何が起きているかは、回線で聞くしかなかった。

 

 東岸の修理棟では、機械が止まっても人々が作業台を離れなかった。首環への指令は切れている。それでも手を動かす者にルミナーラが声を掛け、バリスが環を外していった。150連隊は保守区画と点検坑を確かめ、残っていた者を外へ案内した。

 

 斜面にはヴェルタから運んだ机が二十脚並んでいた。タックが端末をつなぎ、リブが列を振り分ける。別の搬出路からも人が来ていた。

 

「毎分、三十から四十。見込みの三倍です」

 

 先頭の机で名前を訊いていた兵に、リブは乗艇を先にするよう伝えた。腕輪の旧番号を読み取り、収容区画と合わせて搬送票を作る。同じ人を二度数えず、必要な医療と乗る艇を決めるには、それを使うしかなかった。

 

「番号は票に残せ。呼び名には使うな。名前を聞けない人には、付き添いを付ける」

 

 テザーが艦の受入れ班へ連絡し、聞き取りの続きを頼んだ。列が動き始め、次の男が腕を差し出した時、タックの照合表に印が付いた。

 

 同行関係の二人が、ヴェルタで解放されていた。第四区画にいた母と子だった。リブは画面の二つの名を男に見せた。

 

「この方たちを知っていますか」

 

 男は顔を近づけ、唇を動かした。

 

「妻と、子です」

 

「二人とも生きています。ヴェルタで解放して、後送先で診てもらっています。あなたが見つかったと、向こうへ伝えます」

 

 男は腕を差し出したまま動かなかった。渡した毛布を胸に抱えても、まだリブを見ていた。後ろの列が詰まり始め、フォイルが近づいた。

 

「歩けますか。艇はこちらです。連絡は軍曹が続けます」

 

 支えられて歩き出してからも、男の唇は妻と子の名前を繰り返していた。リブは家族の担当者に連絡を送り、次の人を迎えた。

 

 修理棟から出てきた機関士は、上衣の中に曲がったねじ回しを抱えていた。フォイルが持とうとすると、取られまいと胸へ寄せた。

 

「持ったままでいい。艇に乗れる」

 

 リブが言うと、男はようやく歩き始めた。

 

 タックは次の艇を呼んでいた。中継器の蓋が開き、箱の内側にはクラスプが付けた端子の印が見えた。機械は、今日も動いていた。

 

 *

 

カダーヴォ周回軌道、《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 コバーンの軽クルーザーが火口へ降りていった。

 

 内側へ入った救出隊が戻る道を守る。シタデルでも受け持った役目だったが、今は地表で待つ人々の数が増え続けていた。

 

 通信によれば、主施設ではアグラスが床を開き、操作部を壊していた。ケノービとレックスが管制室で戦い、アソーカが人々を床から逃がしている。プロ・クーンの戦闘機が上空を押さえる間に、アナキンが砲塔を止め、ウルフの兵が収容区画に取り付いた。

 

『下へ艦を入れる。固定索を出せ』

 

 コバーンの艦が施設の影へ入った。

 

 敵増援の到着見込みは一時間四十分。収容の完了には、あと二時間かかる。シーアはソーンの解析と地上の報告を比べた。

 

「差の二十分は、こちらで作ります。さらに長引く時は、その都度合わせましょう」

 

 コバーンに伝え、後送路の外へ十三隻を展開した。

 

 敵は見込みより十分早く現れた。プロヴィデンス級二隻、ミュニファスント級四隻、レキューザント級三隻。九隻が帰路の外側へ広がり始める。

 

「第32任務群は前へ。第34は左翼と受入れ艦を守ってください。直轄部隊で帰路の内側を覆い、第33は後送船を護衛します」

 

 コーヴィンの群が進み、ソーンが直轄部隊を動かした。砲火の下を、地表からの輸送艇が上がってくる。敵を止める時間は、三十分に延びていた。

 

 《エンヴォイ》が被弾した。ソーンの投影の背後で通信員が席を移り、ブレインが左舷区画の閉鎖を報告する。応答のない持ち場が読み上げられた。シーアは別の艦を寄せ、その側の後送路を覆わせた。

 

 交戦開始から十五分後、コバーンが再び呼んだ。

 

『収容、見込みの七割。残りは施設の奥です。あと十五分必要です』

 

 最初に約束した二十分まで、あと五分しかない。《インヴィオレート》が射撃の合間に姿勢を変え、帰路へ回り込もうとする敵に艦首を向けていた。ソーンからは敵の砲の向きが、ブレインからは閉鎖区画へ救助班を送ったという連絡が届いた。

 

「十五分、持たせます。その先は状況を見て決めましょう。それまでは退きません」

 

 シーアは地上にも同じ時間を伝えさせた。外でいつまで守れるか分かれば、残る艇と人の動きを決められる。

 

『次を。止まらないで』

 

 アソーカの声が艦砲の報告に混じった。索が縁を擦る音がして、子供が泣いた。すぐに次の者を呼ぶ声が続く。

 

 残り二百。七十六。東岸の保守区画も確認を終えた。

 

 ラセルが敵艦との距離を読み続ける中で、セルトは地上の搬出票と艦上の受入れを合わせていた。乗り換えの連絡が遅れるたびに数字はずれたが、最後の艇までつながった。

 

「収容、一万千三百四十。地上の搬出票と一致しました。収容区画と搬出路の確認も終了しています」

 

 延長した十五分の、二分前だった。

 

 アナキン、ケノービ、レックスを乗せたガンシップも離脱に入った。アグラスはレックスが倒したという。ルミナーラの班とウルフの回収班を待ちながら、シーアは防御の線を後送船の進路へ寄せた。敵の先頭が速度を落としたが、追撃には移らなかった。

 

『外を持ってもらいました』

 

 コバーンは礼を言い、共和国の要員が全員離れた後、計画どおり主施設を破壊すると伝えた。

 

「管理記録は回収できましたか」

 

『端末三基と岸側の記録は持ち出しました。主施設の記録室は崩れています。それ以上は回収できません』

 

 送られてきた古い在籍数は、一万七千八百だった。今回の収容との差は六千四百六十人。更新日が救出当日より前なので、移送された人と死亡した人、記録から抜けた人を、まだ分けられない。

 

 シーアは移送便を追うよう指示した。ここへいなかった人の捜索も終わっていなかった。

 

『よく守ってくれた。外が持っていると、中の者は前だけを見られる』

 

 プロ・クーンの声に礼を返し、シーアは最後の地上部隊の離脱を待った。

 

 *

 

カダーヴォ地表、第二受入地点、医療天幕

 

 収容が終わりに近づいた頃、バリスはトグルータの女性の手を診ていた。

 

 火傷のために指が開かず、掌を握り込んでいた。痛みを和らげてから塗り薬を当て、包帯を巻く。名前を訊くと、女性はラーナと答えた。

 

 入口の布が揺れた。

 

「バリス」

 

 アソーカだった。声は掠れ、外した首環の跡に襟が当たっている。それでも、バリスを見つけると笑いかけた。

 

「動かないで」

 

「まだ、何も」

 

「首を見せて」

 

 椅子に座らせ、熱と腫れを確かめた。バリスが指を当てると、アソーカの肩から力が抜けた。

 

「中で、名前を聞いて回ったの。全員は無理だった。数が多すぎて」

 

「ヴェルタでも、聞いてた」

 

「アナキンが、あの表を読んでた。家族を会わせてるって」

 

 バリスは頷き、布で包んだ冷却材を渡した。アソーカは首に当てたまま、天幕の入口を見ていた。

 

「まだ聞こえる。後ろで、誰かが自分の番号を言ってる」

 

 外では兵が、付き添いの者に乗る艇を教えていた。ラーナも包帯を巻いた手を膝に置き、二人の話を聞いていた。

 

「シーア少将は、どうだった?」

 

「会議で、お菓子を遠くへ置かれてた」

 

 アソーカは笑おうとして喉を押さえた。バリスが冷却材を直すと、目を閉じたまま続きを待った。

 

「名前を聞く人だった。答えられない人も先に診てもらっていいと。人数も、残してる」

 

「数えてくれる人がいて、よかった。私は、数え切れなかったから」

 

 乗艇を知らせる声が来るまで、バリスは隣に座っていた。

 

 最後の便に合わせて天幕を畳んだ。リブは班員を集め、誰も失っておらず、新しい負傷者もいないことを確かめた。タックが中継器を外し、フォイルが担架を渡した。ラーナも付き添いと乗り、アソーカはバリスの肩へ頭を預けて席に落ち着いた。

 

 ルミナーラが最後に乗った。斜面には机が一脚残っていたが、取りに戻る時間はなかった。

 

 艇が岸を離れると、ウルフの部隊のガンシップが主施設へ向かった。収容区画が空で、共和国の要員も退いたことを確かめてから、支柱に砲火を集める。

 

 一本が折れ、次の一本が火口の縁から外れた。吊られた施設が傾き、側面の灯りが列ごとに消えていく。裂けた支柱を引きずり、建物は火口の奥へ落ちていった。

 

 何人も窓へ顔を寄せた。年寄りが膝の毛布を握り、ラーナは包帯の手を身体の前で合わせていた。煙が上がり始める頃、アソーカは眠っていた。

 

「これで、終わりでしょうか」

 

 バリスが訊くと、ルミナーラは窓から目を戻した。

 

「この施設から出す仕事は終わりました。次は、送り先で誰が受け取るかを確かめます」

 

「帰る場所がない人は」

 

 師の端末にも、行先の決まらない人の票が残っていた。

 

「その人の希望を聞くところからです」

 

 ルミナーラが一件を開くのを見て、バリスも自分の端末を出した。

 

 *

 

《エンヴォイ》、左舷区画

 

 当直を引き継いだソーンは、被弾した区画へ降りた。

 

 火は消えていたが、閉ざされた隔壁の向こうには熱が残っていた。冷却剤の白い跡を避けて立つと、ブレインが死者六名、負傷十四名と報告した。

 

「六名を、読んでください」

 

 砲術士官の少尉。機関兵二人。通信員。整備員。給仕係の兵。艦長の読む名は、当直を組む時にソーンも見たものだった。

 

 通路には私物の箱が並んでいた。焼けた箱から、係が制服と手紙、小さな茶の缶を移している。配給と同じ銘柄だった。

 

「この箱は」

 

「機関兵のダンツです」

 

 札には、本人の癖のある字で名前が書いてあった。係が缶の蓋を閉じ、手紙に布を掛けるまで、ソーンはその場にいた。

 

「六名の名前を、司令官へ直接送ってください。当直の不足はこちらで組み直します。この区画は、閉鎖を続ける」

 

 ブレインに伝え、ソーンは損害報告を持って指揮所へ戻った。

 

 *

 

C.R.C. 7956.264 《ハービンジャー》、第二医務室

 

 テオとオルタの乗った患者移送便は、朝の当直が替わる前に着いた。

 

 二人が見つかったのは、前夜だった。岸側から回収した記録を合わせると、ヴェルタの特定の出荷便にある七番の仕向け先が、カダーヴォと一致した。全ての七番が同じ施設を示すかは、まだ分からない。三番と十一番の所在も不明のままだった。

 

 テオ・ハスケルは二三六日、修理棟配線班へ。オルタ・ペンデルは二四七日、機関部材の整備へ。二人とも《フォワード・ライト》で受け入れられ、自分から名乗り、拿捕された船も答えていた。

 

 すぐに声を聞きたかったが、医務から昨夜の聴取は終わりにしたいと言われた。シーアは翌朝の面会を待ち、その間に兄へ発見を知らせた。テオの家族についても照会すると、夜のうちに母の住所が届いていた。

 

 第二医務室の前で、セレナが足を止めた。

 

「お姫様。私が先に入ってもよろしいでしょうか。故郷の言葉で、お話ししたいのです」

 

「お願いします」

 

 扉の向こうで、彼女が話す声がした。語尾を落とす響きが、エリアドゥのものだった。

 

「……おかえりなさい」

 

 金属の器が床へ落ちた。

 

 入ると、寝台の男は毛布を握ってセレナを見ていた。痩せた顔に薄い髭があり、首環の跡が残っている。帳簿にあった十五歳は、十一年前の年齢だった。分かっていたのに、シーアは入口で足を止めた。

 

「今、エリアドゥの言葉を」

 

 男の声が割れた。

 

「十一年、聞いていませんでした。その言い方を」

 

 セレナは落ちた器を拾って台へ置き、シーアに場所を空けた。

 

「テオ・ハスケルさんですね。アレクシアール・ヴァラリアンです」

 

「……殿下」

 

 シーアは寝台の脇へ座り、話を聞いてよいかと訊いた。頷いてもらってから、《ソルヴェイグ》の出港地と、免状を取った年を確かめた。

 

 テオは答え、控えの名を見ているうちに顔を上げた。

 

「祭りの桟橋で、お見かけしたことがあります。公王様の後ろから船を見ておられた。まだ、こんなに小さかった」

 

 腰の高さへ手を上げ、慌てて下ろした。

 

「失礼しました」

 

「構いません」

 

 その指には布が巻かれていた。シーアには、どの船を見ていた日なのか思い出せなかった。

 

「迎えに来るのが遅くなりました」

 

「迎え……」

 

「ヴェルタの帳簿に、あなたの名前と免状の番号がありました。兄が登録所へ確かめました」

 

「名前は、最初の日に訊かれただけです。免状の照会に要るというので。その後は、番号でした」

 

 テオは手を膝へ戻した。

 

「朝の点呼で呼ばれて、返事をします。名前は毎晩、自分で言ってから眠りました。ハスケル、テオ。声には出さずに。忘れないように」

 

 シーアが待っていると、テオはもう一度、自分の名を言った。今度は、声に出した。

 

 ケレンが茶を持ってきた。寝台の脇へ置かれたカップに、テオは手を伸ばしかけて止めた。

 

「砂糖を、いくつ入れてもいいですか」

 

「好きなだけ」

 

 シーアが答えると、ケレンは砂糖壺を近くへ寄せた。テオは五杯入れたところで彼女を見たが、蓋は閉じられなかった。

 

 茶を飲むと、テオは目を閉じた。

 

「甘いです」

 

 シーアは頷いた。何か言えば声が変わりそうで、次の一口を飲むまで待った。

 

「あの建物は、壊れたんですね。移る前に、窓から見ました」

 

「主施設は壊しました」

 

「十一年、同じ音を聞いていました。どこの港でも、点呼と、環の音。あれが落ちていく時は、静かだと思いました」

 

 シーアはカダーヴォへの移送記録を閉じた。兄から届いた返事を開き、テオへ向き直る。

 

「お母様の今の住所が分かりました。エリアドゥにおられます」

 

 カップが止まった。

 

「母が」

 

「海事登録所へ届けを出したのも、お母様でした。よろしければ、あなたが見つかったと連絡します」

 

「お願いします」

 

 テオはカップを置こうとして、受皿を指で弾いた。ケレンが横から支える。

 

 次のことを告げるのはつらかった。それでも、本人より先に他の誰かから伝わるべきではないと思った。

 

「あなたの名前は、港の慰霊碑にもあります。失踪宣告が済んでいました。捜索は、三年で終わっています」

 

「死んだことに、なっていたんですね」

 

「はい」

 

 自分が学院へ通い、船の図を描いていた間に、この人を捜す仕事は終わっていた。

 

「僕の国が、そこで捜すのをやめました」

 

「殿下の」

 

「僕の国です」

 

 テオは答えなかった。茶を取る手が震え、毛布へこぼした。セレナが布で拭き、乾いた部分を膝へ掛け直した。

 

「母は、碑に行っていたんでしょうか」

 

「刻まれてから、春の式には毎年。参加の記録があります」

 

「花を」

 

「そこまでは分かりません。確かめます」

 

「いえ。聞いただけで、いいです」

 

 通路を担架が過ぎていった。医療班の声が遠ざかるまで、テオはカップを見ていた。

 

「ほかにも、名前を覚えています」

 

 シーアは端末を持ち直した。

 

「同じ区画にいた人たちです。夜に、小さな声で名乗り合っていました。二十人くらいは」

 

「教えてください。疲れたら、そこで止めます」

 

 ヨルム。サイ・テルナー。ベルタ・オンジ。カイ・フォーゲル。ハンス。ロッタ・ミュレ。

 

 名前を聞き返すと、テオは一緒にいた時期も話した。種族や出身が分からない人もいた。

 

「カイは、三年前に環が焼けて。目の前にいました。倒れた後も、外してもらえなかった」

 

 シーアは死亡を目撃した証言として、日と場所を添えた。次の名が出てくるまで、急かさずに待った。

 

 二十一件になった。ファイヴズ、ジェシー、ハードケースの下に、ヴェルタで見つけた九人、そしてテオの覚えていた人たちの名が並んだ。

 

「ありがとうございます」

 

 テオに言われ、シーアは顔を上げた。

 

「お礼は、僕が言うことです。あなたが覚えていてくれたから、この人たちを名前で捜せます」

 

 テオは開いたままの砂糖壺を見ていた。

 

「帰れますか。エリアドゥへ」

 

「帰します。次の港で受け取る人も、その先の船も手配します。途中で、あなたがどこにいるか分からなくなるようにはしません」

 

「俺、帰りたいです」

 

 返事をしようとすると、テオの顔がぼやけた。シーアは袖を上げかけ、セレナから布を受け取った。

 

「……はい。お母様へ、先に知らせましょう。あなたの言葉も付けて」

 

 テオは長く考え、最後に、自分の名を書いてほしいと言った。

 

 シーアは宛先と名前を画面に出した。テオの指が文字に触れ、そのままでよいと頷くまで、端末を持って待った。

 

 *

 

《ハービンジャー》、第三医務室

 

 オルタ・ペンデルは、曲がったねじ回しを寝台の横へ置いていた。

 

 右手には処置が済んでいたが、二本の指が曲がったままだった。爪の間に染みた油も、落ちていない。シーアが名乗ると、工具から手を離し、起き上がろうとした。

 

「そのままで。お話を聞いてもいいですか」

 

「こちらからも、話しておきたいことがあります。技師として」

 

 シーアは椅子に座った。免状と仕事を確かめる間、オルタは何度か工具を見た。

 

「《ペリダ》の機関士でした」

 

「三年前に、港の放送で船名を聞きました。全員行方不明と」

 

 口にしてから、食堂の壁にあった受信機を思い出した。帰らなかった船を読む声は、あそこで聞いた。

 

「放送があったんですね」

 

 オルタは工具の紐を、動く方の指で確かめた。

 

「これだけ、ずっと使っていました。向こうのものは合わなくて、自分で曲げたんです。兵が、持って乗れると言ってくれました」

 

「持って帰れます」

 

 オルタはねじ回しを置き直した。器を両手で持って飲み、それから話し始めた。

 

「三年、待ちました。初めは共和国の商船が来たら、旗を出せば分かると思っていたんです。何度か外の港に来ていました。出せる旗もありませんでしたが」

 

 どの加盟国の船だったかは知らないと付け加え、咳をした。

 

「待たなくなると、日が早く終わります。仕事をして、寝る。……来たんですね」

 

「遅くなりました」

 

 声が最後で崩れた。

 

「ごめんなさい」

 

 オルタはシーアを見たが、返事をせずに器へ目を戻した。

 

 先に話を続けたのも、機関士だった。

 

「動力と給水を直していました。運ばれた先で壊れるたび、呼ばれます。免状があると、それで値が上がります」

 

「はい」

 

「誰かが直さなければ、止まります。給水が止まれば同じ部屋の人間も飲めなくなるので、直しました」

 

 何度も頭の中で並べ直してきたように、言葉はよどみなく続いた。オルタは曲がった指を見ていた。

 

「カダーヴォでも動力の部品を直しました。艇が来るまで、修理棟の床に寝かされていました。あの施設が壊れるところは、見ていません」

 

 シーアは、解放された後も作業台を離れられなかった者がいたという報告を思い出した。

 

「壊れても、別の所で誰かが同じ動力を直します。僕らがいなくなれば、免状のある人間がまた買われてきます。《ペリダ》のような船は、ほかにもありますから」

 

 扉の脇にいたセレナも、顔を上げた。

 

「その人たちが、同じことを言う前に止めてほしいんです。技師として言えるのは、それです」

 

 シーアはその言葉を書き留めた。書き終えると、オルタは右手を上げた。

 

「まだ仕事ができるか、診てもらえるでしょうか」

 

「伝えます。でも、仕事ができるようになるまで、帰るのを待たなくていいです。帰ってからも診てもらえる所を手配します」

 

 医療班が来て、今日の面会はここまでにするよう告げた。シーアが立つと、隣の区画からテオの声がした。母へ送る自分の名を、もう一度読んでもらっていた。

 

 *

 

《フォワード・ライト》、医務区画

 

 ケノービは寝台で目を開けていた。

 

 首環の跡に当たらないよう襟を折り、枕に頭を預けている。脇の椅子では、装甲を脱いだレックスが腕を組んで眠っていた。

 

「起きていたのか」

 

 ベイランに声をかけられ、ケノービは頷いた。

 

「眠ると、点呼の声が聞こえる」

 

「そうか」

 

 ベイランは痛む肩を庇いながら椅子を引いた。

 

「橋のことを、礼を言っていなかった」

 

「ケノービ。もう聞いた」

 

「二度言う価値がある」

 

 レックスが寝たまま姿勢を変え、背もたれに頭を預けた。ケノービはそちらを見てから、自分の襟へ手をやった。

 

「首の環は、思っていたより重かった。物としては軽いのに」

 

 指は襟に触れる前に止まった。

 

「アナキンが奴隷だった頃の話を、分かっているつもりで聞いていた。記録も読んだし、人々を助けにも行った」

 

「私もだ」

 

 ヴェルタの帳簿では、首環は電池と交換周期の列に入っていた。目の前のケノービは、外した後も同じ場所に手を戻そうとする。

 

 やがてケノービは目を閉じた。ベイランは使っていない毛布の端をレックスの膝へ掛け、医療班が来るまで二人のそばに座っていた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、会議区画

 

 卓には、破壊されたカダーヴォの図が浮かんでいた。

 

 ソーンは《エンヴォイ》から投影で参加した。背後の当直席は一つ空き、隣の通信員が二つの仕事を引き受けている。シーアは先に六名の戦死者の名を読み、負傷者の経過も送ってもらうよう頼んだ。

 

 救出して収容した者は一万千三百四十人。拘束した警備員四百人は別に数えている。過去の在籍数との差は照合中で、キロスから消えた五万人についても、まだ全員を確かめられていなかった。

 

「キロスの総督は、共和国へ加わる意思をタノ司令官に伝えています。帰還の便はコバーン提督側で調整中です」

 

 セルトの報告に続き、シーアはテオとオルタの本人確認を伝えた。九人のうち残る七人と、テオが覚えていた二十一人の名は捜索へ回した。ヴェルタの母子にも、夫であり父である男が見つかったと連絡できていた。

 

「三番と十一番の施設は、まだ場所が分からないのですね」

 

 ルミナーラに訊かれ、セルトは頷いた。七番についても、いま確かめられたのは特定の移送便だけだった。

 

 ソーンは、奴隷交易の再開を防ぐための見積りを出した。

 

『ザイゲリアの港と行政、カダーヴォ周辺、それに域外へ出る輸送を押さえる必要があります。地上制圧だけで少なくとも三個師団。その後の治安維持、港の運営、食料と家族捜索を含め、五年を見込んでいます』

 

 150連隊を全部降ろしても、兵力は届かない。医務にいる者を編制定数に戻して数えることもできなかった。

 

『GFは占領兵力を供給できないと回答しました。後送と残る回収を終え、戦闘部隊は撤収に移るよう指示されています』

 

「封鎖を続ける分も、ですか」

 

『補給と交代の艦、臨検と乗艦班が要ります。その継続配置も認められていません』

 

 回答には、次に待っている戦域と、そこへ送る部隊が付いていた。シーアはそれを読み終え、破壊された施設へ目を戻した。

 

「主施設を壊し、岸側の首環と制御も使えなくします。それで、どこまで止められますか」

 

『この施設で人を受け取ることは止められます。別の施設へ回すことや、建て直すことは止まりません。動力と給水を直す技能者、船員、輸送船を揃えれば再開できます』

 

「ペンデル技師も、同じことを言っていました。自分たちがいなくなれば、また技師が買われてくると」

 

 ソーンはヴェルタの書式と同じ補充表を並べた。技能と港コードの横に、取得目標が書かれていた。

 

『次の九十日で二万九千人。破壊前の計画です。実際に集められるという予測ではありません。他の港や、所在地の分からない施設向けも含んでいます』

 

「それでも、この数を集めるつもりだった」

 

『はい』

 

「本部へ送ってください。兄を通して防衛委員会にも。計画の数字だという説明を付けて」

 

 ルミナーラがシーアを見た。

 

「送ることには同意します。その数字を、何の判断に使うつもりですか」

 

「次の人が、同じ所へ送られないようにするためです。テオは十一年、自分の名前を毎晩言っていたそうです。その間、母親は碑へ行っていた。僕の国は三年で捜索を終えていた」

 

 医務室では二人の話を聞いていた。ここへ来てから、あの時に言えなかった言葉が続いて出てきた。

 

「会えて嬉しかったです。帰りたいと言ってくれた。でも、僕たちが帰れば別の人が買われてくる。施設を壊しても、直す人まで連れてくるんです」

 

「次の犯罪を阻止する仕事も、本部へ求めます」

 

「求めました。この回答で帰った後、誰が止めるかを訊いているんです」

 

 シーアはGFの正式回答を指した。

 

 ルミナーラはそれを読み、答えた。

 

「必要な者を置けないことは、私も承知しています。だからといって、この部隊で際限なく作戦を広げるわけにはいきません」

 

「また、取りに来るんですか。モン・カラの航路も、アンバラの分岐も橋も、取って、残って、兵を帰して。そのたびに帰らない人がいる。ヴェルタで三人、この艦隊では六人。次の名簿も、先に作って待つんですか」

 

 ベイランが卓に手を置いた。シーアは言いかけた続きを止めた。

 

 ルミナーラはカダーヴォの図を広げた。施設の外にも、居住地があった。

 

「ここで暮らす全ての人を、私たちは確かめていません。ザイゲリアの港も、給電も運送も、人が暮らすために使われています。次を防ぐために壊す範囲を広げれば、その人たちにも被害が出ます」

 

「調べます」

 

「調べてください。先の日付の数字が、今そこにいる者を追い越さないように」

 

 シーアは図を閉じなかった。二万九千人を集める計画と、今そこにある居住地が並んでいた。

 

 ソーンが本部の次の方針を伝えた。

 

『ザイゲリアの統治評議会へ、奴隷制の廃止と港・施設の引渡しを求める準備に入っています。正式文面は今夜、届く予定です』

 

「拒まれた場合は」

 

『まだ指示はありません』

 

 後送と捜索は続け、次の判断は評議会の返答と現地の調査を待つ。それを確認して会議は終わった。シーアの問いに、答えが出たわけではなかった。

 

 *

 

《ハービンジャー》、司令官室

 

 セレナはシーアの上衣を受け取り、ほつれた袖に糸を通した。医務室で布を受け取った時、留め具に引っ掛けたらしい。

 

 シーアはシャツのままソファに座り、ベイランもいつもの椅子を引いた。私用の端末にはエレナの返事があった。稽古を最後まで見たことへの礼と、二人とも眠れたなら途中で寝たことは許すという一行。次の稽古の日付を読んで、シーアは端末を膝に置いた。

 

「二人に会えたら、もっと嬉しいと思ってました」

 

 ベイランは黙って聞いていた。

 

「嬉しかったです。それなのに、三年待ったと言われたところばかり思い出します。母親が碑へ行っていたことも」

 

「私も、オビ=ワンに会った。アナキンの話を、分かっているつもりで聞いていたと言っていた。環を外しても、眠ると点呼が聞こえるそうだ」

 

 シーアは兄への返信を開いた。二人の本人確認と、本人が望む連絡先、診療を引き継ぐ窓口を送る。テオが母への便りに自分の名を付けてほしいと言ったことも書いた。

 

「何をするつもりだ」

 

 ベイランが訊いた。

 

「まだ、見積りを揃えています」

 

「君の数え方は分かる。橋では私も、兵の数と幅と時間を数えた。数え終えると、取るか退くかの二つになった。その先に、何を置くつもりだ」

 

「次の救出を、しなくて済む状態です」

 

「そこへ、何をして行くのかを訊いている」

 

 返事を探していると、セレナが食事の盆を運んできた。

 

「お姫様。お食事です」

 

「後で」

 

「先です。今日は、もう三度伺いました」

 

「……三度」

 

「三度です」

 

 シーアは匙を取った。スープは温かかった。横には茶と砂糖壺があり、テオが五杯目でケレンを見たことを思い出した。蓋を開け、自分の茶には一杯入れた。

 

 ベイランはすぐに帰らず、食事が進む間は椅子にいた。セレナが直した上衣を背へ掛け、ケレンが空いた茶器を下げた。

 

 セルトから、後送の引継ぎが揃ったと連絡が来た。救出した人々も回収班も艦へ入り、次の港まで送り届ける担当も決まっていた。

 

 ベイランが立った時、シーアは呼び止めた。

 

「稽古を見た夜の問い、まだ持っていますか」

 

「持っている」

 

「僕もです。答えは、まだ出ていません」

 

 ベイランは頷き、出ていった。

 

 シーアはスープを食べ終えてから、軍務の端末を開いた。駐留に必要な兵力と、別の場所へ移して使える設備の見積りが並んでいる。ザイゲリアの港の一つに、給水と動力が稼働中という新しい報告が付いていた。

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