STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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残る者

クローン戦争編 第二章「残る者」

第十六話 残る者

 

 奴隷の都へ!

 

 カダーヴォの鎖は断たれた。救出された人々は帰還の船を待ち、共和国大軍は次の戦場へ向かう準備を始める。だがザイゲリア本星の港には、今も囚われた者たちが残されていた。

 

 奴隷制の廃止を求める共和国に、統治評議会は服従を拒む。認可されたのは、短期間の解放作戦。ルミナーラ・アンドゥリとベイラン・スコールは共同で部隊を率い、ヴァラリアンの艦隊が、その進路を開く。

 

 人々を救い、兵を帰す。その後に何を残すのか。撤収の時が近づいていた――

 

 *

 

C.R.C. 7956.265 カダーヴォ周回軌道、《ハービンジャー》、第二医務室

 

 テオは、再生の印を押せずにいた。

 

 端末は寝台の上に置いてある。エリアドゥから届いた音声の添付。宛名と、送り手の名と、受信時刻。シーアが入った時も、男の指はその三つの間を行き来していた。

 

「聞いても、いいでしょうか」

 

「あなたへの便りです」

 

 シーアは寝台の脇で答えた。セレナが椅子を引き、ケレンは飲み物を置いてから扉の方へ下がった。医療班が廊下にいる。昨日より指の布が少なくなっていたが、端末の縁へ置いた手は震えていた。

 

「一緒に、聞いてもらえますか」

 

 シーアは座った。

 

 テオが印を押した。雑音が短く入り、息を吸う音がした。

 

『テオ。母さんです』

 

 男の手が画面を覆った。音は続いていた。

 

『声を送っていいと、登録所の方が。何を言えばいいのか、昨日から考えていました。あなたの部屋は、物置にしてしまって。でも、片づけますから』

 

 そこで声が止まった。向こうで椅子を動かす音がする。誰かに、まだ録れているかと訊く声が入り、録れています、と返事があった。

 

『帰っておいで』

 

 添付はそれで終わった。

 

 テオは画面から手を離した。もう一度押し、最初の呼び掛けを聞いたところで止める。膝の毛布を握り、顔を伏せた。

 

 シーアはカップを近くへ寄せようとして、やめた。男は両手を塞いでいた。自分の膝の上へ手を戻し、セレナの差し出す布が届くよう、椅子を少し引いた。

 

「部屋」

 

 テオの声が出た。

 

「俺の部屋、まだあるんですね」

 

「片づけてくれるそうです」

 

「何を置いてたか、覚えてないです」

 

 シーアにも、その部屋は分からなかった。男が布を顔へ当てると、自分も鼻の奥が痛くなった。

 

 帰還のための移送便は、今日の午後に救護船へ渡す予定だった。診療を続けながら中継港へ向かい、そこでエリアドゥから来る者が受け取る。兄の返事には、医療窓口と担当者の名が付いていた。失踪宣告の扱いは別に進めるとある。

 

 シーアは、受け取る者の名をテオへ読んだ。男は頷き、添付を自分の端末にも残せるかと訊いた。

 

「残せます。向こうの船でも、聞けます」

 

 隣の医務室へ行くと、オルタは工具を布で包んでいた。曲がったねじ回しが布を突き抜けかけ、ケレンが小さな箱を持ってくる。機関士は礼を言い、動く指で蓋を確かめた。

 

「免状の手続は、帰ってからでよいそうです」

 

 シーアは伝えた。

 

「手の診療も、向こうへ引き継ぎます」

 

「仕事の方は、また考えます」

 

 オルタは箱を膝へ置いた。シーアは頷いた。帰ることを、もう一度約束しようとしたが、機関士の方が先に口を開いた。

 

「ほかの人を、お願いします」

 

「はい」

 

 通路へ出たところで、セルトから呼出しが入った。夜のうちに届いた要求文面を、統治評議会へ送る準備が整ったという。

 

 シーアは受領を返し、医務室の扉を振り返った。向こうから、母さんです、という声がもう一度聞こえていた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、会議区画

 

 共和国の要求は、三つの項目に分かれていた。

 

 奴隷制の廃止。拘束されている全ての者の解放。港と収容施設、取引記録の引渡し。

 

 ルミナーラは文面を読み、最後の項目へ戻った。解放した人々の移動を妨げないことと、共和国の受入れ班が港へ入ることも、その下に付いている。受領の回線は本部が持った。現地の艦隊が、独自の条件を足す余地はなかった。

 

「回答期限は、今夜です」

 

 セルトが言った。

 

 午後の移送便が出た。テオとオルタの受入れは救護船の医療班が返し、二人の工具と私用の端末も、同じ便へ載った。シーアは受領を確かめてから、会議卓へ戻った。

 

 統治評議会の返答は、期限の前に来た。

 

 女王の死後に評議会が統治を引き受けたこと。共和国の武装部隊を受け入れないこと。拘束者の身分はザイゲリアの法により決められ、域外へ連れ出す場合は、所有者への補償を要すること。

 

 解放の項目には、承諾の印が一つも付いていなかった。

 

 シーアは補償という語を指で押さえた。指を離すと、文字が元の明るさへ戻った。

 

「この返答も、回収した帳簿と一緒に保存してください」

 

 セルトが受領した。ルミナーラは本部への回線で、現地の囚人を解放するための作戦認可を求めた。ベイランは150連隊の投入可能な班と、受入れを持つ二隻の状態を送った。

 

 返事を待つ間、バリスは港の映像を調べた。公開の船便は減っている。係留場所の奥に、窓のない輸送区画があった。ヴェルタと似た札の付いた荷台が、建物から船へ動いていく。

 

 夜の当直へ替わってから、認可が届いた。

 

 確認した港と収容施設を制圧し、拘束者を解放する。取引記録を確保する。解放者を受入れ船へ移し、共和国部隊は撤収する。恒久占領のための増援は付かない。

 

 GFの命令が、その後へ続いた。第3合同任務群はオープン・サークルとの合同任務に参加し、艦隊の指揮はGFからシーアへ、各任務群から各艦へ繋がる。ルミナーラ、ベイラン両将軍はジェダイ側の部隊を共同で指揮し、解放と搬送を分担する。集結から最後の船が離脱線を通るまで、降下路と回収路、地上班の位置を共有する。相手の部隊へ求める変更は、それぞれの指揮官へ送る。

 

 ベイランは終了条件を読んでから、動く方の手で自分の二隻を図へ置いた。

 

「回収を私が、地上をルミナーラが持つ。肩のため、私は艦に残る」

 

「バリスは私と降ります」

 

 ルミナーラが答えた。

 

「港の外へ出る道も確かめます。捕らわれている人の全てが、収容棟にいるとは限りません」

 

「艦隊は、防衛艦と軌道の砲台を先に止めます」

 

 シーアは航路を開いた。

 

「受入れの船へ、艇を均等に振らないでください。医療の区画が空いている所から。家族の照合と、まだ名を聞けない人の票は、担当者を付けて渡します」

 

 バリスが自分の一覧へ写した。シーアは、彼女が書き終えるのを待って次の項目へ進んだ。

 

 合同任務の図に、十三隻と、ベイランの二隻、ルミナーラの部隊、後送に来る船が並んだ。第3合同任務群とジェダイ側の指揮線は、それぞれの窓口から伸びていた。

 

 セレナが上着を持ってきた。机の端へ置き、シーアの袖口を確かめる。

 

「お姫様。今夜は、もうお休みください」

 

「あと、受入れ船の返事だけ」

 

「その返事は、セルト大尉が受け取れます」

 

 シーアは通信主任を見た。セルトが頷いたので、端末を閉じた。ベイランも椅子から立ち、肩を動かさずに上着を取る。ルミナーラはそれを待ってから、部屋を出た。

 

 *

 

C.R.C. 7956.266 ザイゲリア星系外縁、銀河平面座標 S-4、シャルティン・トンネル/リステホル・ラン接続方面、《ハービンジャー》、索敵卓

 

 ラセルは、補充の兵曹が最初の数字を読み終えるまで待った。

 

 距離、方位、移動の速さ。港から出る小型船が、艦隊の来た方向を避けていた。二隻の防衛艦がその前へ広がり、軌道の砲台に給電が入る。惑星の夜側には、町の灯りが集まっている。

 

「ミュニファスント級、二。港の外側を回ります」

 

 ラセルが続けた。カダーヴォで見た艦かは、識別が足りなかった。

 

 シーアは第32任務群を防衛艦の側へ出し、第34任務群に降下路を開かせた。マドックは後送船を内側へ入れる。直轄部隊は港の砲台を受け持った。ソーンの回線の後ろで、《エンヴォイ》の通信員が二つの席を行き来していた。

 

 最初に撃ったのは砲台だった。

 

 降下路を横切る光が《プレカーサー》の盾へ当たり、艦の輪郭を一瞬だけ照らした。直轄部隊が応じ、砲台の給電部が暗くなる。地表の港は射線の外へ置いたままだった。

 

「二隻とも、港から離れます」

 

 ラセルは防衛艦の距離を更新した。第32任務群の前を横切ることはできず、惑星の裏側へ向きを変えていた。

 

「追いません。降下路を保持してください」

 

 シーアの声は、隣の卓の復唱より静かだった。

 

 ルミナーラのガンシップが出た。150連隊の艇が続き、ベイランの回線に受入れ予定が重なっていく。ラセルは艇が雲へ入るまで追い、地上管制へ識別を渡した。

 

 夜側の灯りの一つが、点滅していた。砲の照準とは別に、民間の航行標識がまだ動いている。新しい兵曹がそれを敵の反応の欄へ入れかけ、ラセルは指で位置を示した。

 

「そこは、港。標識は残す」

 

 兵曹が直した。降りる艇の先で、同じ灯りがゆっくり明滅していた。

 

 *

 

C.R.C. 7956.267 ザイゲリア本星、南港、給水棟

 

 蛇口を開くと、水は最初に赤く濁った。

 

 バリスは容器を替え、澄むまで流した。棟の奥で、テザーが最後の部屋を確かめている。奴隷商人の倉庫に繋がる通路は押さえた。そこから連れ出した人々が、壁に沿って座っていた。

 

 戦闘は夜を通して続いた。港の外周が開いても、収容棟の鍵と首環の指令は同じ回線に残っていた。ルミナーラが制御を切り、兵が手動で扉を開けた。自由になったことを伝えるたびに、相手の顔を見て、もう一度言う必要があった。

 

 窓際にいた女が、バリスの容器を持とうとした。

 

「重い方を、貸してください」

 

 ザイゲリア人だった。袖を肘までまくり、首に環はない。床に倒れていた者へ水を運び、濡れた布を折って額へ置いていた。

 

「あなたも、ここに捕らわれて」

 

「私は隣の診療所に勤めています。ここの水が止まると、向こうも止まるので」

 

 女は一つ先の蛇口を指した。

 

「そちらを使ってください。底の錆が少ないです」

 

 バリスは言われた方へ容器を移した。女は腰から鍵を出し、裏口を開ける。戸口から、日差しと、低い屋根の建物が見えた。

 

「イーサ・レムです。向こうに、六十七人います」

 

 バリスは受入れ票を開いた。イーサは自分も患者も、この町の者だと答えた。動ける者は共和国の艇へ乗りたいと言っている。酸素と給電を切れない者は、診療所の奥に残っていた。

 

「父も、その中にいます。今日は動かせません」

 

 イーサは窓の外を見た。屋根に布を掛けた車が停まり、医療班が担架を降ろしている。

 

 ルミナーラが診療所へ入り、バリスは水を持って続いた。廊下には小さな鉢植えがあり、窓の近くの寝台だけ、色の違う毛布を使っていた。給水が戻ると、奥で洗面器へ水を汲む音がした。

 

 イーサの父は目を閉じていた。胸元の装置が、一定の間隔で小さく鳴る。バリスは手首を取り、息が少し深くなるまで待った。次の寝台でも、同じ装置が動いていた。

 

 艦上へ送った要請には、シーアから返事が来た。

 

『発電機を一台降ろします。水と、三日分の食料も。運べる患者は医療班の判断で。名前を言えなくても、先に受けてください』

 

「ありがとうございます」

 

 バリスは答えた。

 

『診療所の回線は、港と分けておいてください。港の設備を止めても、そちらへ電気が届くように』

 

 イーサは端末へ顔を寄せ、配線の場所を説明した。シーアは聞き取り、工作班へ渡すと答えた。回線が閉じてから、女はようやく壁際の椅子へ座った。

 

「その方は、おいくつですか」

 

 バリスは少将の歳を答えかけ、正確には知らないことに気づいた。

 

「若い方です」

 

「そうでしょうね。声が」

 

 イーサは立ち上がり、空になった容器を持った。

 

 リブの受入れ地点は、診療所の前から二本先の通りにあった。昨日の砲火で舗装が割れ、机の脚の下へ薄い板を挟んでいた。旧番号を読んだ後、本人の名を訊き、答えが出れば票へ足す。家族の名を先に言う者もいた。

 

 タックの中継器は、日陰へ置いてある。箱の内側の印へ向けて端子が入り、給水棟と、港と、艇を繋いでいた。

 

「診療所は」

 

 リブが訊いた。

 

「発電機が来ます。動かせる人から、こちらへ」

 

 バリスは答えた。リブは列の端を空け、担架の通る場所を作った。フォイルが濡れた布を替え、運ぶ順を医療班と合わせる。

 

 午前の便が上がった。午後の便が戻り、別の区画へ入った班が人々を連れてきた。取引の記録も、箱に入れて同じ便へ載せる。帳簿には三番と十一番があったが、施設の座標は付いていなかった。セルトへ送り返すと、確認待ちという返事が来た。

 

 テオの証言にあった名も、受入れ票と合わせた。似た音の名はあり、同じ区画にいたかと訊いても、答えは揃わなかった。バリスは確認の付かなかった票を閉じ、次の者へ水を渡した。

 

 夕方、イーサが診療所の受領を持ってきた。

 

 発電機一台。水と食料。工作班が給電の繋ぎ替えを確かめ、残る患者の担当者へ説明している。イーサは控えを胸のポケットへ入れた。

 

「あなたは、乗りますか」

 

 バリスが訊いた。

 

「父といます。弟が北の方にいるので、落ち着いたら迎えに来てもらいます」

 

「この回線へ、連絡してください。私たちが出ても、受入れの担当へ繋がります」

 

 イーサは宛先を確かめた。礼を言い、空の容器をもう一度持って戻る。給水棟の裏口は開いたままで、向こうから洗面器を重ねる音がした。

 

 バリスは自分の端末に、イーサの名と診療所の場所を残した。

 

 *

 

《フォワード・ライト》、回収管制

 

 ベイランは、最後の上陸班の票を開いた。

 

 150連隊の戦死二。負傷九。二人の遺体は回収され、九人は既に艦へ入っていた。テザーが読み上げた呼び名を、ベイランは名簿へ入れた。肩を庇うため、端末をいつもより身体へ近づけている。

 

『南港の収容棟、確認終了。残る班は、受入れ地点と診療所の工作班です』

 

「工作班を戻してから、受入れを閉じる。艇の数は」

 

『足ります。最後の列を運べば、帰れます』

 

 ベイランはシーアへ伝えた。艦上の受領と地上の数を合わせる間、《セカンド・ホライズン》が最後の医療便を引き受ける。後送船にも、受入れ先の区画と担当者が付いていた。

 

 ルミナーラの回線が入った。

 

『北の倉庫群も終わりました。記録は回収済み。私の班はこれから上がります』

 

「《ハービンジャー》へ。私も渡る」

 

『肩は』

 

「同じだ。降りてはいない」

 

 彼女が頷いた。向こうでバリスが、担架の上の者へ毛布を掛けている。ルミナーラはそれを待ってから艇へ乗った。

 

 解放し、受入れ船へ収容した者は、一万二千四百八人になった。

 

 ベイランは最終の行を読み直した。今回確かめた収容棟、倉庫、停泊船から連れ出した数。民間の患者と、別の港から自分の船で逃れた者は、ほかの一覧に入っている。惑星の内陸まで調べた印はなかった。

 

 最後の列を運ぶ艇が、雲の上へ出た。

 

『地上に共和国要員なし。器材の回収も終わりました』

 

 テザーが報告した。リブ、タック、フォイルも同じ便へ乗っている。

 

 ベイランは受領し、《ハービンジャー》への連絡艇を呼んだ。医務区画を通ると、ブラケットが名簿を伏せて眠っていた。毛布の下の脚は固定されたままだった。

 

 将軍は起こさずに通り過ぎた。

 

 *

 

ザイゲリア周回軌道、《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 シーアは、バリスの手の汚れを先に見た。

 

 袖口まで灰色になり、指の間に、乾いた消毒剤が残っている。ルミナーラは受入れの最終票を卓へ置き、ベイランがその隣へ座った。シーアはバリスにも椅子を勧め、医務へ行く便があると教えた。

 

「先に、洗ってきてください。ケレンに、食べる物も頼んであります」

 

「まだ、報告が」

 

「票は来ています。違っている所だけ、後で確かめましょう」

 

 バリスは自分の手を見てから、頷いた。

 

 最後の受領が揃った。確認した施設から出した人々は受入れ船へ移り、上陸班も艇も戻っている。第33任務群が後送船の列を離脱線へ送る。ベイランの二隻も、その後へ続く準備をしていた。

 

 シーアはルミナーラへ、受領の揃った一覧を渡した。

 

「ここまでは、終わりました」

 

「よく運んでくださいました」

 

 彼女は答えた。卓の上で、共同回収の印はまだ点いていた。後送船が離脱線を通るまで、ベイランの管制と艦隊の航法卓が、同じ列を追う。

 

 シーアの端末には、私用回線の通話記録が一件残っていた。彼はその欄を閉じ、艦隊の回線へ画面を戻した。

 

 セルトが、GFからの受信を開いた。

 

「最高議長府の命令書です。GF司令から、実施の指示が添えられています。両方の署名を確認しました」

 

「受領して、各任務群へ配布してください」

 

 シーアは言った。ソーンが回線の向こうで文面を開き、ブレインへ渡す。第32、第33、第34任務群の受領も、順に付いた。

 

 ソーンが撤収の報告を始めた。

 

 残った防衛艦は惑星の裏側へ離れ、今は降下路へ戻る動きがない。港の砲台、首環の制御、今回確認した取引の端末は停止。持ち出した記録は複製を分けた。恒久占領と封鎖のための追加配備は付かず、戦闘艦は次の任務へ向かう。

 

『残る港は五。地上の給電と運送は続いています。収容棟の一部を壊しても、船と動力を回せば、別の場所で取引を再開できます』

 

 シーアは受領した。

 

 セレナが椅子の後ろで、彼の上着を掛け直した。背に寄せた布が肩へ触れ、シーアは一度顔を上げる。

 

「お姫様。お茶を、こちらへ」

 

「ありがとう」

 

 卓の端へカップが置かれた。シーアは一口飲んだ。給水棟へ降ろした発電機の受領が、画面の下にまだ出ていた。

 

「直轄部隊、第32、第34任務群は、惑星側へ展開してください。第33任務群は後送船を送ってから戻ります。引継ぎはベイランの管制へ」

 

『直轄部隊、受領。射撃区画を割り振ります』

 

 ソーンが答えた。コーヴィンは第32任務群の位置を惑星側へ動かし、ヘイグが第34任務群の間隔を開いた。マドックは後送船の引継ぎ時刻を、航法の欄へ入れていた。

 

 シーアはカップを置いた。

 

「ベース・デルタ・ゼロ実行」

 

 セルトは発令時刻を付け、全艦の回線へ送った。ルミナーラは、まだ開いていた受入れ票から顔を上げた。シーアは惑星の図を拡げ、艦隊へ渡した。

 

「対象はザイゲリア本星です。地表の生産設備、港、都市と交通網を含む全域。退避のため、今から二時間を置きます。民間の船は、出港させてください。武器を向けなければ止めません」

 

「撃ち方停止」

 

 ルミナーラが言った。

 

「全艦へ。惑星への射撃準備を止めてください。私が求めた認可は解放までです。地表には、人が残っています」

 

 コルヴェンが、砲術へ給電と冷却材の割当てを読んだ。航空管制は艦載爆撃隊へ出撃準備を流し、格納区画からは核融合爆弾を載せた機体の準備状況が報告されていた。セルトはルミナーラの発言に時刻を付け、シーアの卓へ送った。各艦から、射撃準備の受領が戻ってくる。

 

「オープン・サークルとの合同任務です」

 

 シーアはルミナーラへ言った。

 

「第3合同任務群は、GFの指揮下にあります。オープン・サークルの命令に、実行義務はありません」

 

「合同任務の相手が、停止を求めているのです」

 

「記録しています。それと、先ほど僕から、パルパティーン議長とグランド・フリート司令へ連絡しました。最高議長府から、命令書を出していただいています」

 

 シーアは受信した文面を、彼女の側へ向けた。発令者は最高議長府。宛先はGF司令。ザイゲリア本星を対象とするベース・デルタ・ゼロ。退避の告知と追加回収を行い、実施後に撤収する。末尾には、267日の発令時刻とパルパティーンの認証署名があった。その下にGF司令の実施指示が付き、受令者に第3合同任務群司令官の名が入っている。

 

「議長には、僕の私用回線からお話ししました。恒久占領の部隊を出せないことも、今回確認した施設の外に人が残ることも。GF司令には、同じ報告と配備の一覧を送っています」

 

 ルミナーラは末尾から、対象の一行へ目を戻した。ソーンの声が、その横を通る。

 

『直轄部隊、区画の割当て完了。《エンヴォイ》は冷却系統を二系統とも使います』

 

「受領しました。停止の要請と抗議も、最高議長府とGF司令へ送ってください」

 

 セルトが送信先を足した。コーヴィンが射界の重なる区画を一つ直し、コルヴェンは砲術へ次の確認を求めていた。

 

 ルミナーラが、卓を回ってシーアの前へ来た。

 

「少将。命令を取り消してください」

 

「取り消しません」

 

「あなたが救った者以外にも、この星に人はいます」

 

「います」

 

 シーアは答えた。指がカップの取っ手へ戻り、触れてから離れた。

 

「退避の予告は、全ての公開回線へ。出てくる船の受入れ先を増やしてください。二時間の間、回収を続けます」

 

「その人々を二時間で運べますか」

 

 返事をしないシーアへ、ルミナーラは続けた。

 

「あなたが今日、発電機を降ろした診療所にも、患者が残っています。港へ来られる者だけを数えて、それ以外を砲の下へ置くのですか」

 

 扉が開いた。手を洗ったバリスが戻ってきた。少将の机へ届く食事を待たず、師の横へ寄る。

 

「診療所には、動かせない人が」

 

「医療艇を回します」

 

 シーアが言った。

 

「バリス。連絡を付けてもらえますか。場所は、あなたの票にありますね」

 

 バリスは端末を取った。シーアの卓にも、イーサの名と発電機の受領が表示された。彼女の指はその行で止まっていた。

 

 ルミナーラが別の回線へ向き直る。

 

「私の二個班を再び降ろします。医療艇はその班へ。診療所と、港へ出られない人を回収してください」

 

 ベイランも《フォワード・ライト》へ、戻った艇のうち使えるものを回すよう命じた。二人の命令に、医療と工作の班が付いた。

 

 シーアはそれを止めなかった。新しい回収線が図へ増え、セルトが地上へ退避の文面を流す。

 

 第33任務群から、マドックの声が来た。

 

『後送船の列は、スコール将軍側へ渡した。こちらは展開位置へ戻る。北側の二区画を受け持つ』

 

「受領しました。回収艇の通る線を空けてください」

 

『空けてある。射撃位置は、その外側に取る』

 

 コルヴェンは艦長席で、各砲塔の状態を読んでいた。照準の欄が一つずつ埋まり、砲術士官が主砲を地表へ向けるための姿勢を航法へ渡す。

 

「長軸回りに、百八十度。背面を惑星側へ。回収艇は艦腹側へ通します」

 

 操艦の当直が復唱した。艦が回り始め、前面窓の海岸線が横へ傾く。艦内の重力は変わらず、卓のカップは動かなかった。半回転を終えると、地表は窓の上方を占めていた。背面の主砲塔が、その真上へ砲身を揃える。

 

「患者を動かす艇は、まだ降りています」

 

 ルミナーラが言った。

 

「この準備そのものを、止めてください」

 

 コルヴェンは航法から姿勢確定を受け、砲術へ回した。セルトの記録に、ルミナーラの言葉がもう一行増えた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 退避を告げる回線が、各地の受領を返してきた。

 

 船を出すという港。外へ出る燃料がないという港。共和国の勧告を拒み、受信を切った統治評議会。自分の船を持つ者から、乗せる家族の数を伝える短い声。

 

 シーアの卓へ、バリスが繋いだ診療所の回線が転送された。イーサは廊下から答え、これから何が起きるのかを訊いた。

 

「艇が来ます。持っていく薬を、医療班と合わせてください」

 

『ここを撃つのですか』

 

 バリスの声が止まった。

 

 画面の中で、イーサは待っていた。胸のポケットに、共和国の物資を受け取った控えが見えている。

 

「……はい」

 

 バリスは答えた。

 

 女は口を開けた。何か言おうとして、廊下の奥へ顔を向ける。医療装置の音が、幾つも重なって聞こえていた。

 

『父を、動かしても』

 

「医療班に伝えます。電源を切る前に、必ず」

 

 イーサが頷いた。バリスは端末を口元へ寄せ、声を出しかけて止めた。女は回線を開いたまま、寝台へ急いだ。

 

 ルミナーラはセルトに、最高議長府、GF司令、統合作戦本部と聖堂への緊急回線を求めた。命令の撤回、地表攻撃への抗議、民間人の未退避。議長府の命令書、GFの実施指示とシーアの発令、それぞれの時刻を付けて送る。

 

 それから、シーアの前へ戻った。

 

「未来に売られる人々を救うために、今この星にいる者を殺す。その命令を、あなたは維持するのですね」

 

「はい」

 

「次の犯罪者がいるという理由で、その人の生まれる場所を壊すのですか。そこに暮らす人は、あなたの判断へ答える機会も持てません」

 

 シーアは送られてくる退避票を一件閉じた。手を卓へ置き、彼女を見た。

 

「ここから、共和国の市民が売られていました。戦争が始まる前からです。禁止する法も、解体した記録もありました。その後に港が戻り、僕の国の役所は捜索を終えました」

 

「その役所の仕事も、正す必要があります」

 

「兄が決裁を調べています。捜索も再開させます。それと、ここを残すかは、別に決めます」

 

 シーアは息を吸った。

 

「でも、あの人たちは、その間もここにいました。十一年、自分の名を言って眠った。三年、共和国の船を待った。共和国の商船が外の港へ来ても、囚われた人たちは助けを求める旗さえ出せなかった」

 

 セレナは彼の横へ水を置いた。シーアは退避票の受領を返し、次の通知が鳴り終わるのを待ってから、続きを言った。

 

「次は早く来ると約束して帰っても、同じ港へ次の船が着きます。また止めるために兵を送り、また兵が死ぬ。占領する兵も、封鎖を続ける船も出せないというなら、ここで人を売るための場所を、残せません」

 

「港の罪を、診療所の患者へ負わせているのです」

 

 ルミナーラの声が強くなった。

 

「あの人々を残せば取引が続く、という因果を、あなたは証明できますか」

 

 シーアは、開いたままの診療所の回線を見た。イーサの姿は消え、壁と鉢植えが映っていた。誰かが鉢を廊下の端へ寄せ、担架を通す場所を作っている。

 

「患者が取引を続けるとは言っていません。動かしているのは、統治評議会と商人です。解放を拒み、所有者への補償を要求した。この返答も、あなたは読みました」

 

 シーアは評議会の返答を命令書の隣へ出した。

 

「そこへ戻す港と動力を壊します。人を残す損害も、報告しました。それを含めて、僕は実施を求めました」

 

 ルミナーラは両手を下ろした。袖の端が卓へ触れた。

 

「命令書があっても、今そこにいる者を殺してよい理由にはなりません」

 

「ジェダイの法理を、艦隊への軍令として持ち込むのですか」

 

 シーアは共同作戦の図を指した。ルミナーラの部隊にも、将軍の印が付いている。

 

「それなら、なぜ共和国大軍を率いているんですか。ジェダイは、いつから軍人になったんです」

 

 ベイランが顔を上げた。シーアはルミナーラを見たまま、言葉を続けた。

 

「将軍として命じる時は、共和国の指揮官でしょう。それなのに、議長府の軍令より聖堂の法理を上へ置く。その権限を、誰が渡したんですか」

 

「戦争が始まり、共和国から将軍としての任務を預かりました」

 

 ルミナーラは答えた。

 

「それで、私たちが守るべきものが消えたとは考えていません。地表に残る者の命を、命令書の外へ捨てることもできません」

 

「守ることを、国の手続にしてください」

 

 シーアは共同作戦の図から、命令書の欄へ手を戻した。

 

「あなたたちは将軍として部隊を率い、相手の政府と話し、人を拘束し、引渡しまで決めます。何を止めるかも、その人がどんなジェダイかで変わる。国の軍令と外交と、誰が罪を問うかまで、聖堂の個人へ集めている」

 

 バリスは顔を上げた。イーサが医療班へ説明する声は、端末から続いていた。彼女は師とシーアへ目を向け、端末を持つ手を下げた。

 

「ジェダイが戻った後、共和国のどの役所が仕事を受け取るのか。その名が、ずっと空いていました。僕の国でも空いたままになっていた。次のジェダイが助けに来るのを、国家の仕事として待つんですか」

 

 シーアの手が卓から離れた。

 

「止める力を持つ人が、後のことまで決めるべきです。そこまでを、国の仕事にしたい」

 

「あなたが求め、最高議長が命じました。それが、今ここで国の出した答えなのですね」

 

 ルミナーラは命令書へ目を落とした。

 

「国家が責任を引き受けるというのは、軍が帰る場所まで焼くことですか。この命令が実行された後、診療所の患者へ誰が答えを返すのです」

 

 シーアは彼女を見た。退避票を受ける音が続き、その間にソーンが冷却材の残量を読んだ。

 

「僕が求めて、議長が命じました。GFも、この命令を受けました。僕の発令を含めて、記録を残します。帰還後の受入れと捜索も続けます」

 

 シーアは追加回収の一覧へ、受入れ先の欄を並べた。

 

「でも、命令は実行します。ここまで来て、人を売るための国を動かせるまま帰ることは、できません」

 

「報告で、この命令は止まりません。私は、今止めることを求めています」

 

 ルミナーラはセルトの記録回線へ向き直った。

 

「ジェダイ側の共同指揮官として通告します。オープン・サークルと第3合同任務群の合同任務を、ここで終了します。私の部隊は、この地表攻撃に参加しません。停止と撤回の要請は維持します」

 

 シーアは通信主任へ、通告の時刻を付けるよう指示した。

 

「受領しました。GFにも送ってください」

 

 ベイランは自分の二隻の位置を、後送船の列へ移した。

 

「共同指揮の終了に同意する。後送船の護送は最後まで行う。追加の医療回収も、こちらの部隊で続ける」

 

「その艇の識別と経路は、受け取ります」

 

 シーアが答えた。航法卓から、退避船と回収艇の通る線が更新された。共同作戦の印が消え、同じ宙域を使う別々の部隊として、位置の通知だけが続く。

 

 セルトが、残り一時間を告げた。

 

 バリスの回線に、医療艇の到着が入った。診療所の前に降り、電源を繋ぐ。最初の寝台が運ばれると、装置の音が途切れた。イーサが振り返り、艇の側で同じ音が始まるまで、足を動かさなかった。

 

 バリスは工作班の説明を受け、自分の端末へ受領を付けた。名前を確かめ、次の艇の場所を教えていた。

 

 ベイランがシーアの隣へ来た。

 

「怒りから出た言葉か」

 

 シーアは命令書から手を離し、ベイランへ顔を向けた。

 

「いいえ」

 

「その場所を残さないと、君は言ったな」

 

「はい」

 

「ここを失った商人が、別の港へ行けば」

 

 シーアはすぐには答えなかった。

 

「そこでも、止めます」

 

「同じ方法でか」

 

 ベイランの声は低かった。シーアが顔を向けても、先を続けた。

 

「それを繰り返して、君は何を残すつもりだ」

 

「人を売らずに済む国を」

 

「その国へ帰る者は、ここにもいる」

 

 将軍は窓の上方を見た。背面を惑星へ向けた艦の頭上に、町の灯りが続いている。シーアが昼に残すよう命じた航行標識も、その中で点滅していた。

 

「私は橋を取る時、取るか退くかまでしか数えられなかった。二つの先を訊けば、君は別の答えを探すと思った。君は、退けないなら壊すと答えた」

 

「ベイラン」

 

「理解できるところがある。だから、君に任せて済ませることができない」

 

 ベイランは痛めた方の腕を、身体へ寄せた。

 

「命令を変えろ。私は、賛成しない」

 

 シーアはベイランへ向き直った。

 

「変えません。必要だと判断して、命令を求めました」

 

 ベイランは動く方の手で卓の縁を押さえた。しばらくそのままでいた後、回収管制の回線へ戻った。使える艇を一機ずつ数え、地上へ回す先をルミナーラと合わせていた。

 

 セレナが、退避の一覧を持ってきた。

 

「お姫様。民間船の受入れ先を、追加しました」

 

 シーアは一覧を受け取り、空いていた便へ新しい宛先を付けた。セレナはその横で、次の受領を待っていた。

 

 端末を返す前に、彼女はシーアの襟へ手を伸ばした。折れ込んだ端を起こし、肩の布を指で撫でる。シーアはその間だけ顎を上げた。

 

「出てくる船を、全部そこへ。医療の必要な人は、先に知らせてください」

 

「手配します」

 

 彼女は回収管制へ戻った。

 

 *

 

《ハービンジャー》、戦闘指揮所、地上回線卓

 

 バリスは、診療所の患者の名前を打っていた。

 

 イーサが読み、彼女が復唱する。父の行には、寝台を載せる艇の識別を入れた。母艦の医療班へ渡す項目を確かめている間も、師が命令の撤回を求める声が、卓の向こうから聞こえていた。

 

 止めなければならない。地上にいた時から知っている人が、まだあそこにいる。その思いに、さっき聞いた別の言葉が重なった。

 

 ジェダイは、いつから軍人になったのか。

 

 バリスは復唱の途中で詰まり、イーサに、もう一度お願いしますと言った。患者の名を聞き直し、艇の識別を確かめる。指を動かしている間も、共同作戦の図から消えた将軍の印が目に残っていた。

 

 合同任務を終えると、師は通告した。それでも砲術の当直は仕事を続けている。シーアは師の将軍としての命令を受けなかった。議長府とGFから届いた命令には、従っている。

 

 聖堂で習ったことを守るために攻撃を止めたい。その同じ教えを持ったまま、共和国の兵へ攻撃を命じてきた。バリスにも司令官の職名があり、兵は彼女が出した順番で通路へ入った。ヴェルタで名を聞いた少女の前へ着くまでに、何人へ撃つよう命じただろう。

 

「この二人は、同じ艇へ」

 

 師が隣に来て、患者の票を示した。バリスは並べ直し、受領を送った。ルミナーラは次の照会を開いている。

 

「マスター。私たちは、将軍の仕事を引き受ける時に」

 

 問いの続きが見つからなかった。師の目が、端末から上がった。

 

「何を、バリス」

 

「……どこまで、共和国の指揮官になると決めたのでしょう」

 

 ルミナーラはすぐには答えなかった。卓の向こうで医療艇が患者の収容を報告し、バリスは顔を回線へ戻した。イーサが父の名を呼んでいた。

 

 師の手が、彼女の肩へ置かれた。

 

「今は、その人たちを運びましょう。問いは、持っていて構いません」

 

 バリスは頷いた。シーアの命じた攻撃を止めたい気持ちは、そのままだった。共和国の軍隊を率いる自分たちについて、師へ訊く言葉も探し続けていた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、索敵卓

 

 ラセルは、艇の距離を読み続けた。

 

 残り十三分。診療所の二便目が上がり、別の港の民間船が識別を出した。機関が不調で速さが上がらない。回収管制が牽引を付け、星系を出る列の端へ寄せる。

 

 地表の図は、今までの射撃要請と違っていた。

 

 収容区画を避ける線がない。町を囲む印も、港と離れた農地の印も、同じ明るさになっている。補充の兵曹は担当区画の座標を読み込み、退避艇の通る線を重ねた。第33任務群の三隻も射撃位置へ入り、背面を惑星へ向けて姿勢を揃えている。

 

「退避艇の位置を、続けて」

 

 ラセルは言った。兵曹が距離を読み、次に高度を続けた。艦の頭上では、地表の雲がゆっくりと流れていた。

 

 通信卓の向こうで、バリスが診療所を呼んでいた。

 

 南港の航行標識は、まだ点滅している。最後の医療艇の回線から、車輪を床へ固定する音がした。艇の搭載数を越えた患者は、別の班が車で運んでいた。人数の合わない報告が戻り、管制が確認を求める。

 

 期限が来た時、最後の便は地表にいた。

 

『三分ください。積み終わっています。留め具だけ』

 

 シーアは三分を加えた。コルヴェンが砲術へ伝え、照準は地表へ向いたまま待った。

 

 艇が上がった。

 

 ラセルは高度と距離を読み、砲の線から外れた位置を報告した。地上に残した共和国の回収班は、全てこの便までに戻っている。公開回線を通じて艦隊側が受け入れた追加の退避者は、一千九百六人になった。

 

 惑星の人口を示す欄は、その隣で空いていた。

 

「射線から、回収艇が離れました」

 

 ラセルが言った。

 

 *

 

《ハービンジャー》、艦橋

 

 シーアが戦闘指揮所から艦橋へ入ると、コルヴェンが主砲の準備完了を伝えた。前面窓の上方を、ザイゲリアの地表が埋めている。艦隊回線は開いたままで、各群の受領が短く続いていた。

 

 戦闘指揮所から、ルミナーラの声が届いた。

 

「私は、射撃の停止を求め続けます」

 

 シーアは司令官席の前で足を止めた。

 

「これは、宣言です」

 

 プロクラメイター。ふと、その艦型の名が浮かんだ。宣言する者。クワットの造船環で、カースと並んで大きな艦を眺めた日のことまで、続いて浮かんだ。

 

 共和国の船が来たら、そこに共和国が来たって分かればいい。

 

 八歳の時に、そう言った。高い艦橋へ、今は自分が立っている。シーアは頭上の地表を見たまま、艦隊回線へ言葉を続けた。

 

「共和国は、市民を見捨てない」

 

 通信卓で、発令の記録に次の行が付いた。索敵の兵曹は退避船の距離を読み、コルヴェンが航法から最後の射界を受け取る。

 

「犯すことの許されない、共和国の法があります。共和国は来ると、銀河に知らせます」

 

 シーアは《ハービンジャー》の艦橋を見回した。砲術の卓、航法の当直、受領を返し続ける通信員。それから顎を上げ、頭上に見えるザイゲリアを睨んだ。

 

「そして、先触れです」

 

 町の灯りが、雲の切れ目に並んでいた。背面の主砲は、そこへ砲身を揃えている。

 

「法と、秩序と、自由と、それらを保護する国家。その新しい銀河の、先触れです」

 

 シーアは地表を見たまま、命じた。

 

「地表への射撃を開始してください」

 

 《ハービンジャー》の背面で、主砲の給電が変わった。砲塔が真上を向き、地表へ最初の斉射を送る。窓の上方を走った光が、港の海岸線へ届いた。

 

 砲台のあった場所を越え、海沿いの建物の列へ光が続く。町の灯りが消え、少し遅れて、別の光が雲の下に拡がった。同じ背面姿勢を取った第32任務群の主砲が、その先へ射撃を移していった。

 

 ラセルは艦の角度と、次の回収船の位置を読んだ。光の入るたびに、地表からの通信が幾つも途切れた。新しい兵曹が生体反応の枠を開き、値が戻るのを待つ。表示は測定不能へ変わった。

 

 *

 

《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 ルミナーラは艦橋からの投影を見ていた。

 

 フォースを通じて、助けを待つ者のところまで届きたいという願いが伝わってきた。強く、まっすぐだった。その願いに触れた瞬間、銀髪の下の顔が幼く見えた。八歳ほどの子供が、高い窓の外へ顎を上げている。

 

 投影の光が揺れ、少将の制服と銀髪が元の輪郭へ戻った。ルミナーラは回線の縁へ指を掛けた。窓の上方で、地表へ届いた光が拡がる。彼女の手元には、まだ行き先の揃わない退避票が残っていた。

 

 バリスの端末から、イーサの声が聞こえた。

 

『こちらに、まだ』

 

 その先は雑音になった。

 

 バリスは呼び返し、医療艇の収容一覧をルミナーラへ向けた。診療所から載せた者の名が並んでいる。イーサの行、父の行。送り手が途中で交代していて、二つの票の表記が揃っていなかった。

 

 次の射撃が、港の奥へ落ちた。

 

 端末に残っていた画面が止まる。廊下の鉢植えと、壁の下へ置かれた空の容器。バリスは同じ宛先を、もう一度呼んだ。

 

 誰も応じなかった。

 

 *

 

ギャラクティック・シティ、最高議長府

 

 マス・アメダは届いた報告を開き、窓辺へ進んだ。パルパティーンは両手を背中に組んで、ギャラクティック・シティを見下ろしている。都市の上を通る航行灯が、窓の向こうで幾つもの列を作っていた。

 

「ヴァラリアン提督が行動を開始したとの報告です」

 

 パルパティーンは報告の画面へ目をやった。最高議長府の命令番号。その下に、地表射撃の開始時刻が付いている。

 

 パルパティーンはギャラクティック・シティへ視線を戻した。窓に映る口元が、わずかに動いた。マスには、笑ったのか息をついたのか分からなかった。

 

 *

 

《フォワード・ライト》、医務区画

 

 リブは、フォイルから渡された包帯を棚へ入れていた。

 

 回収班の当直が終わり、最後の負傷者の受領も付いた。新しく戻らなかった二人の名は、別の端末でテザーが読んでいる。タックは中継器を開き、外す前に端子の印を指で確かめていた。

 

 窓の前に、人が集まっていた。

 

 地表から出た者たちだった。毛布を持つ者、借りた上着の襟を握る者。窓の向こうでは、ザイゲリアの夜側が幾つも明るくなり、その光が雲の下で繋がっていく。

 

 痩せた男が、リブへ訊いた。

 

「まだ、残っていましたか」

 

 リブは棚の扉を閉じた。

 

「全ての場所は、確かめられていない」

 

 男は頷いた。右手を首へ持っていき、環のない所へ指を当てる。隣の者が何か訊いても、すぐには返さなかった。

 

 フォイルが、窓から離れた所へ水を置いた。男はカップを取り、飲まずに持っていた。リブは受入れ票を開いた。名前の欄は埋まっている。家族の欄には、地上の住所が一つ残されていた。

 

 タックの中継器が短く鳴った。

 

 組み直した時に出る音だった。リブは箱の方を見た。タックは電源へ伸ばした手を止め、出力の印を確かめている。

 

「どこへ、繋ぎますか」

 

 リブは開いた票を見た。

 

「後送先へ。今ここにいる人の分を」

 

 タックが端子を入れた。小さな音がもう一度鳴り、艦内の受領が向こうへ送られた。

 

 *

 

C.R.C. 7956.268 ザイゲリア周回軌道、《ハービンジャー》、戦闘指揮所

 

 夜の当直は、砲塔の温度を読み、射撃の終わった区画を航空管制へ渡した。

 

 《ヴァリアント》の二基は冷却制限のまま使い、《ディグニタス》の艦首砲は閉じたままだった。《エンヴォイ》の閉鎖区画も開いていない。十三隻は背面を惑星へ向け、直轄部隊と三つの任務群が、担当した地表区画を順に報告した。第33任務群は北側の二区画を終え、マドックが主砲の冷却を先に始めていた。

 

 港と発電所、工場、交通の結節点。都市を囲む線の内側も、外側も。

 

 作戦図には、熱と煙で観測の戻らない場所が増えていた。暮らしていた者の数も、死んだ者の数も、艦上から確かめられなかった。輸送網の記録と、地表で聞き取った名は、回収した分だけが別の船へ渡っている。

 

 艦砲射撃の終了が、各任務群から来た。主砲の給電が下がり、冷却を回す音が続く。十三隻は背面を惑星へ向けたまま、次の部隊を待った。

 

『艦載爆撃隊、発進します。核融合爆弾による都市区画の絨毯爆撃へ移ります』

 

 ソーンが報告した。シーアは受領を返し、卓の上へ航空隊の配置を重ねた。砲撃済みの区画に、新しい通過の印が付いていく。

 

 《プレカーサー》から格納区画の映像が届いた。機体の下に懸かった爆弾を整備員が確かめ、発進の合図を出す。爆撃機が次々と艦を離れ、護衛の機体を伴って地表へ降りていった。他の母艦から出た編隊も合流し、雲の向こうへ消えた。

 

 都市の輪郭が、爆撃区画の中へ入っていた。港、工場、発電所。その間を繋ぐ道路も、住宅街の給水施設も、同じ印で覆われている。航空管制は各編隊の位置を読み、担当する任務群が受領を返した。

 

 投下開始の報告が来た。

 

 雲の下で、光が帯になって拡がった。艦砲に崩された建物の列がその中へ沈み、まだ見えていた道路と貯水池の縁も、続く閃光に消える。町の形が残っていた場所へ、次の編隊が入っていった。頭上の地表は明るくなり、戦闘指揮所の壁に、窓から入った光が繰り返し走った。

 

 ルミナーラは攻撃中止の要請へ、爆撃隊の発進時刻を足した。セルトが送信を受け付けている間にも、航空回線から投下完了と次の区画への進入が報告されていた。

 

 シーアは卓の縁へ手を置いた。残る編隊の報告を聞き、指で受領の印を付ける。都市の給電、給水、交通と港湾設備。各群は破壊を報告し、航空管制へ帰投の引継ぎを返した。

 

 爆撃機は、降りていった時と同じ列で戻ってきた。母艦へ入る一機ごとに印が消え、格納区画の当直が機体を受け取る。最後の編隊の帰投が揃ってから、各任務群が攻撃終了を報告した。

 

 ソーンは最後の一件を開き、終了時刻を読んだ。シーアは受領して、撤収配置へ戻すよう命じた。各艦が長軸回りに姿勢を戻し、窓の上にあった地表が脇へ動く。艦隊の針路が、ようやく惑星から離れた。

 

 ルミナーラは、最後まで戦闘指揮所にいた。

 

 最高議長府とGF司令への撤回要請に、射撃開始までの回答がなかったこと。艦隊は実施命令に従って撃ち、自分の部隊は追加の回収を行ったこと。回収できた者と、確認できない者。彼女は報告を読み、シーアへ写しを渡した。

 

 シーアは最高議長府の命令書、GF司令の実施指示と、自分の発令記録を付けた。解放作戦の認可、追加の地表攻撃、艦隊配置、退避の時間、ルミナーラの抗議。セルトは全てを同じ送信へ入れた。

 

 GFは実施報告の受領を返した。聖堂と統合作戦本部からは、まだ次の文面が来ていなかった。

 

「次に会う時は、この件を話します」

 

 ルミナーラが言った。

 

「はい」

 

 シーアは答えた。彼女は軍令の受領と同じ速さで頭を下げ、バリスを連れて出た。

 

 バリスは戸口で一度止まった。

 

 シーアはその視線を受け、食事の盆の脇から手を引いた。バリスの唇が動いたが、声は出なかった。

 

 ルミナーラが待っていた。バリスは端末を胸へ寄せ、師の後へ続いた。

 

 ベイランは最後に席を立った。痛めた方の腕を身体へ寄せたまま、上着へ手を伸ばす。シーアが取ろうとすると、将軍は自分の手で椅子の背から外した。

 

「終了通告は、私の二隻にも出した。後送船は、そのまま受入れ先まで送る。離脱線までは位置を通知する」

 

「分かりました」

 

「150連隊の報告も、別に出す」

 

 シーアは頷いた。

 

 ベイランは上着を着るのに時間を掛けた。シーアは手を下ろして待っていた。最後の留め具が留まると、将軍は扉へ向かった。

 

「ベイラン」

 

 足が止まった。

 

「稽古の、次の記録が来るそうです」

 

 ベイランは振り向いた。顔には疲れがあり、口元は動かなかった。

 

「今は、約束できない」

 

 シーアは端末の縁を握った。

 

「……はい」

 

 扉が閉まった。

 

 セルトが、次の回線を開いた。《エンヴォイ》の艦橋に、ソーンが立っていた。

 

『各群の当直の引継ぎを確認しました。司令部当直は、私が引き受けます』

 

「お願いします。帰還したら、前に送った艦隊の編制案を出し直します」

 

『私にも送ってください。それから、一つお願いがあります』

 

 ソーンは手元の端末を閉じた。

 

『次も、あなたの副司令でいたいと思っています』

 

「まだ、どういう部隊になるかも決まっていません」

 

『編制には、案を見てから意見を出します。あなたの下で続けたいということは、先にお伝えしておきます』

 

 シーアは、卓へ置きかけた端末を持ち直した。

 

「では、艦の割当てからお願いします」

 

『承知しました。修理の工程も付けて戻します』

 

 ソーンは端末を開き直した。隣の当直士官へ何かを渡し、シーアに向き直って、いつもの速さで頭を下げた。

 

 *

 

《ハービンジャー》、司令官室

 

 制服を脱ぐと、袖口の糸が指へ触れた。

 

 四日前にセレナが縫った所だった。シーアは上衣を椅子へ掛け、私用の端末を開いた。救護船から、テオとオルタの診療の更新が来ている。帰還便は予定どおり。中継港の受入れも、兄から指定された窓口が返していた。

 

 母からの音声を、テオは今朝も聞いた、と添え書きがあった。

 

 シーアは受領を返した。残る七名の照会と、テオの証言にあった名も、捜索の窓口へ残っている。新しく回収した本星の記録を加えるよう頼んだ。

 

 妻への下書きは、別の欄にあった。

 

 二人が帰る船に乗った。母親から、帰っておいでという声が届いた。

 

 そこまで書いたのは265日だった。シーアは続きへ指を置いた。眠れなかった夜のことは先に話すと、約束していた。

 

 扉が開いた。

 

 セレナが新しい制服と、髪を梳く道具を持って入ってきた。ケレンはその後ろで、食事の盆を小卓へ置いた。椅子の背から落ちかけていた上衣を掛け直し、シーアの方へ椅子を引いた。

 

「お姫様。次の当直まで、四時間です。召し上がって、休んでください」

 

 シーアは端末を机へ置き、ケレンが引いた椅子へ座った。GFへ送った再配備の要求を思い出した。占領の兵は出せず、封鎖も続けられない。今回の回答には、どちらもそう書かれていた。

 

「セレナ。帰還したら、前に送った軍制の要求を出します。予算を扱う議員にも、会いたい」

 

「予定へ入れます。何をお持ちになりますか」

 

「必要な時に、撃てる軍隊を作るための資料を」

 

 セレナが予定表から顔を上げた。シーアは、畳んで置かれた新しい制服へ目をやった。

 

「今回の命令は、必要でした。次の指揮官にも、その判断を実行できる部隊と指揮権が要る。残れるなら残る。撃つと決めたら、撃てる。それを、ジェダイの一人が認めるかどうかで変わらない形にします」

 

 セレナは予定表を机の端へ置いた。櫛を取り、シーアの椅子の後ろへ回る。

 

「面会先には、私から連絡いたします」

 

「また、忙しくさせます」

 

「承知しております」

 

 後ろ髪に櫛が入った。シーアは頭を動かしかけ、セレナの手に押さえられた。

 

「お姫様。私は、あなたと行きます。公王宮を出る時に、そう決めました」

 

 シーアは膝に手を戻した。櫛が髪を通り、襟に掛かった毛先が持ち上がる。セレナは新しい制服の襟元も確かめ、椅子の背へ掛けてあった上衣と並べた。

 

「私も参ります。茶器の箱は、もう用意しています」

 

 ケレンが言った。シーアが顔を向けると、彼は小卓の上のカップを持ち上げた。

 

「あちらでも、いつものお茶をお淹れします」

 

 シーアはカップを受け取った。湯気が顔の前へ上がり、両手で持った。

 

「二人とも、ありがとう」

 

「では、誰に何を頼むかは、お休みになってから。今は召し上がってください」

 

 セレナは櫛を片づけた。

 

 シーアはカップを盆へ戻し、明日の欄へ要求書の番号だけを入れた。

 

「分かりました。今は、食べます」

 

「温かいうちに」

 

 セレナは答えた。

 

 シーアはパンを手に取った。硬い端をちぎって口へ入れ、茶は何も加えずに飲んだ。ケレンは空いているカップを持ち上げ、盆の端へ寄せた。

 

 端末の下書きへ、シーアはもう一行入れた。

 

 今日、ザイゲリアを撃った。僕が命令した。必要だと判断して、議長に命令を求めた。帰ったら、話したい。

 

 送信の印を押した。画面へ戻った二人の帰還便の下で、新しい私信にも送信時刻が付いた。

 

 窓の外に、惑星はまだ見えていた。町の灯りがあった場所を、朝の光が照らし始めていた。

艦艇、兵器説明は欲しい?

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