STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
無護衛
遠い昔、はるか彼方の銀河系で……
STAR WARS: STAR DESTROYER
灰色の艦隊
戦争だ! 銀河を二分する両勢力の艦隊が、各地で激戦を繰り広げている。
共和国大軍のヴァラリアン提督はザイゲリア奴隷帝国を壊滅させ、パルパティーン最高議長の信任を得て強力な艦隊を手にする。
一方、アウターリムでは無謀な爆撃作戦が続く。分離主義勢力の強固な防衛網に阻まれ、共和国の爆撃隊は損害を重ねている……
*
C.R.C. 7957.012 ムルカナ星系、銀河平面座標 S-6、パーレミアン・トレード・ルート支線、ムルカナⅡ、外気圏
実空間へ出た途端、前を飛ぶ機が砲火に包まれた。
カイル・ハーランは操縦桿を引きかけて、こらえた。いま列を外れれば、すぐ後ろの機に腹から突っ込まれる。前の機は遮蔽を白く光らせながらも、まだ飛んでいた。二発目の射撃がハーランのPTB-625をかすめ、右翼の遮蔽が青く弾けた。
――早すぎる。
跳躍から出て、まだ三秒も経っていない。敵の砲がこれほど早く照準を合わせられるのは、こちらの出てくる位置と時刻を前もって知っている時だけだった。
風防の下半分を、ムルカナの曲面が占めていた。雲の渦と大陸の縁ははるかに遠く、工業区は表示が重ねた小さな枠でしか分からない。外気圏へ入ったばかりだった。予定の投下高度までは、まだ長い降下が残っている。
「あれ全部、こっちを待ってたのか」
副操縦士のニール・ロスが、風防に重ねた表示を拡大した。防衛プラットフォームが四基。その間に、ミュニファスント級が四隻とレキューザント級が二隻。ヴァルチャーの反応は四十を越えて、まだ増えている。
「待ってたさ」
ハーランは言った。
「第三中継点の前哨が、行きの俺たちを数えて送ったんだ。何機で何列で、いつ跳ぶか」
「親切な連中だな」
「ああ。礼に、二十四発ずつ置いていこう」
護衛のARC-170は、第二中継点で引き返している。燃料が帰りの分しか残らない地点だった。この空に味方の艦は一隻もいなかった。
『間隔を詰めろ。第一、第二編隊、そのまま降下』
攻撃隊長の命令で、前の列が惑星へ機首を向けた。ハーランも推進器の出力を上げ、空いた間隔を詰めた。後部銃座のレーザー砲が鳴り始める。
「ノエル、来たか」
「二機。そっちは向かなくていいから、まっすぐ飛んで」
ノエル・バーネスの声に、ハーランは後方の画面から目を戻した。彼女が肩を引くたび、機内の映像で袖口が揺れる。洗濯区画で取り違えた、ハーランの作業服だった。
「袖、邪魔になってないか」
「留めたってば。気になるなら、帰ったら自分で取りに来て」
返事の途中から銃座が連射に変わり、バーネスの声は砲声に呑まれた。
二隻のレキューザント級が、編隊と惑星の間へ回り込んできた。その艦腹を抜けようとした先頭の列へ砲火が集まり、爆撃機が左右へ散った。
その間に、ミュニファスント級の四隻は惑星から離れていった。一隻、また一隻と、跳躍の光を残して消えていく。
「四隻、逃げた」
前部火器担当のサラ・ヴィンが言った。
「逃げたんじゃない」
ハーランは言った。言ってから、その理由を自分でも説明できないことに気づいた。ただ、逃げたにしては去り方が揃いすぎていた。
残る二隻だけで、降下進路は塞がれていた。
ハーランはレキューザントの艦尾側へ回り込み、もう一度惑星へ機首を向けた。ヴィンが正面へ撃ち、寄ってきたヴァルチャーを追い払う。進路を戻すと上から別の群れが降ってきて、編隊はまた横へ押し流された。照準画面には工業区の拡大像が出ている。風防の外では、雲の切れ目さえ近づいていなかった。
「ニール、あとどれくらいだ」
「まだ外気圏だ。降下線から外れてる。左へ戻せるか」
左へ向けた先で、地表からの射撃警報が点いた。
重対空砲の光が、はるか下の雲を貫いて伸びてきた。レキューザントの射線を抜けた先導隊が、ちょうどそこへ飛び込んだ。二機の反応が同時に消え、三機目は火を噴いて反転した。その後ろへヴァルチャーが付く。四機目は推進器を失い、回転しながら惑星の方へ遠ざかっていった。
降下線は三本しかない。そのどれにも、もう誰かが砲を向けていた。
「左から上がってくる!」
ロスが叫んだ。ハーランは機を右へ倒した。腹を突き上げられ、留め具が肩へ食い込む。何かが床を転がった。機関員のダヴ・レムが後ろで罵り、警報の一つを止めた。
「ダヴ?」
「飛べる。左の冷却が落ちた。少し出力を下げてくれ」
「いまは無理だ」
「分かってる。だから、少しでいい」
ハーランは右側の推進器で姿勢を支え、機首を戻した。隊長機が射線の隙間を選んで機首を下げると、今度は下から迎撃機が上がってきた。隊長機は腹を見せて引き起こした。その後ろを追っていた一機は、戻ってこなかった。
『降下をやめろ。現高度から投下する。目標標識は使わず、登録座標で取り直せ』
ハーランは歯を食いしばった。
外気圏から落とした陽子爆弾がどこへ行くかは、爆撃機の操縦士なら誰でも知っている。投下の瞬間の傾きが一度ずれれば、地上では何キロにもなる。雲と風が、それをさらに広げる。
「この高さから落とすのか」
「やるしかないでしょう」
ヴィンが砲の操作から投下照準へ切り替えた。画面に地表までの弾道が引かれ、予定の投下位置が後ろへ流れていく。新しい照準は、目標から大きく離れた空間を指していた。
「いま取り直してる。そこへ向けて。そのまま保ってくれれば、合わせられる」
ハーランは前の機を追いながら、姿勢を保った。地表の目標を示す枠と、着弾を予測する帯が別々に動いている。帯が工場へ寄りかけても、砲火を避けるたびに大きく外れた。
左で一機が遅れた。火を噴く推進器へヴァルチャーが二機付き、助けに出た隣の機も列を離れた。銃座の火線がそこで途切れる。途切れた所へ、別の敵機が滑り込んだ。二機とも編隊の下へ追い落とされ、惑星を背に小さくなっていった。
遅れた機を狙え。助けに出た機ごと落とせ。――敵の誰かが、それを教え込んでいる。
ハーランはその姿を目で追ってしまい、ロスに前だと怒鳴られた。
「サラ、まだか」
「いま合わせてる。右へ、もう少し……そこで止めて」
爆弾倉が開いた。投下位置までの数字が減り始める。その先に、地上からの砲火が立ち上がった。
「待って、まだ――」
ハーランは機を左へ倒した。光が右翼の遮蔽を削り、風防いっぱいに青く散った。機を戻した時には、着弾を予測する帯は工業区を外れ、その西を横切っていた。
「戻せるか」
「このままじゃ外れる。右へ回って、もう一度」
右へ回れば、プラットフォームの下へ出る。レキューザント級の砲も、そちらを向いていた。
『投下して抜けろ。後続が来る。進入をやり直すな』
隊長の声に、バーネスが後ろから来る敵機の数を叫ぶ声が重なった。ヴィンは爆弾倉を閉じず、照準を追い続けている。
「カイル、三秒だけ右を保って。三秒でいい」
ハーランは機を起こした。
一秒。二秒。前の機の脇で光が弾け、その機がこちらへ滑ってくる。
「落とせ!」
機を避けた瞬間、腹から陽子爆弾が離れ始めた。二十四発を送り出す間も機体は傾き続け、ハーランは前の機の尾に触れないよう操縦桿を押し続けた。後方の画面で、爆弾の列が惑星へ遠ざかる。その先には、まだ雲しかなかった。
「全部離れたか」
「離れた。倉を閉じる」
ヴィンはもう前部銃座へ戻っていた。次の編隊も腹を開き、機首を起こしてこちらへ来る。着弾の報告は、まだ一つもなかった。
投下から数分の間に、ハーランは三度、敵機を避けて進路を変えた。ロスが後続の位置を読み、バーネスが近づきすぎだと怒鳴る。ヴィンが転送してきた観測画面は、風防の隅に置いたままだった。開く余裕がなかった。
ようやく、下で閃光が続いた。拡大像の中で爆発が広く散り、工業区の外側に煙が上がっている。狙った組立棟は、目標の枠の中にそのまま残っていた。
『工場南端に火災。命中を確認――』
『違う、そこは荷捌き場だ。組立棟はもっと北だぞ』
一機に二十四発。それを八十八機ぶん運んできて、焼けたのは倉庫だった。
「カイル、前!」
ヴィンの声で顔を上げた。ヴァルチャーが一機、正面を横切っていく。ハーランは機首を振り、ヴィンが撃つ間に距離を取った。
編隊はもう、進入した時の形を保っていなかった。隊長が各隊の応答を求めている。八十八機いたはずだった。八十一。七十三。ハーランは呼ばれる前に自分の符号を送った。返事がないので、もう一度送った。
『六十九。損耗が二割を超えた。全隊、離脱』
まだ爆弾を抱えた隊も、惑星から機首を離した。ハーランは前の機に続いたが、上昇経路へプラットフォームの砲火が伸びてきた。三機の反応が重なって消える。風防が白く染まり、思わず目を閉じかけた。
目を開けると、前の機はまだいた。追いつこうとして、バーネスに怒鳴られた。
「近い! そのまま、そんなに寄らないで!」
ハーランは出力を戻した。跳躍できる位置まで、七十秒。
敵機は追いついては撃ち、左右へ離れていく。回線では、同じ座標を繰り返す声が続いていた。隊長が飛べるのかと訊いても、返ってくるのは座標だけだった。ロスがその信号を受け取り、どの機か照合しようとしていた。
四十秒になった時、左の僚機の外板が剥がれた。部品が回転しながら流れ、後部銃座の光がその向こうを走る。ハーランの操縦席でも警報が二つ鳴った。レムが片方を引き受け、ハーランは残る表示から目を離せなくなった。
『跳躍しろ。全隊、行け』
星が線になった。ハーランは長く息を吐き、そのまま呼吸を止めていた。
「カイル。吸って」
機内回線から、バーネスの声がした。隣でロスが腕を叩く。ハーランは息を吸った。手袋の中まで、汗で濡れていた。
「……聞こえてるよ」
「なら、返事して」
その声を聞いて、ハーランはようやく操縦桿を握る力を緩めた。
第三中継点へ出た途端、また警報が鳴った。
岩塊の前哨を囲む敵機の反応が、五十近くに増えている。その手前に、ミュニファスント級が四隻並んでいた。跳躍から出てくる機を、正面から撃っている。
ヴィンが識別符号を照合し、低い声で言った。
「先に消えた奴らだ。ここへ来てたんだ」
ハーランの背筋が冷えた。
逃げたのではなかった。ムルカナで降下を止めるには、レキューザント二隻と地上の砲で足りる。そう計算した誰かが、残る四隻を帰り道へ回したのだ。爆撃隊が一発も落とさないうちに。
ヴァルチャーも上から降ってきた。往路の十二機とは違う。数が多く、間隔が揃っていた。補給を済ませた別の隊だった。隊長が散開を命じるより早く、先頭の機が左右へ逃れ始めた。
ハーランは一機を避け、次の敵へ機首を向けた。ヴィンの撃った光は翼の間を抜けた。その下で僚機の翼が折れ、破片がこちらへ広がる。機首を押し下げた瞬間、右側が白くなった。
航法装置の表示が消えた。機が右へ引かれ、ロスも操縦へ手を出した。二人がかりで姿勢を戻すと、後部銃座の気密表示が赤く点滅していた。
「ノエル?」
応答がなかった。さっきまで聞こえていた後部銃座の砲声も止まっている。
「ノエル、聞こえるか。返事してくれ」
「俺が行く。前を見てろ」
レムが留め具を外し、後ろへ向かった。ハーランも振り向きかけて、ロスに肩を押し戻された。
「カイル、岩だ!」
前哨の岩塊が迫っていた。ハーランは機首を引き起こし、砲台の射線から離れた。前を横切ったヴァルチャーをヴィンが撃つ。敵は翼を畳んで後ろへ逃げた。それを追う銃座の光は、なかった。
回線に、知らない声が割り込んだ。
『ドライブが回らない。五人とも生きてる。座標を送る』
読み上げられた数字は、すぐ近くだった。
『誰か、寄れないか』
僚機が信号を中継した。少し遅れて飛行団司令部から返事が来た。救難艇は第二中継点より先へ出せない。信号を送り続けろ。同じ声が、同じことを繰り返した。
『五人とも生きてるんだ』
「ダヴ、どうなってる」
レムが後部区画から戻ってきた。
「隔壁が開かない。枠が曲がってる」
「中は」
「音はした。呼んでみたけど……酸素を送る。そこの箱を寄越してくれ」
ロスが足元の箱を渡した。レムは非常用の送気口へ管をつなぎ、継ぎ目から漏れる空気を手で塞いだまま、床に膝をついた。
『こちらツー。お前、航法をやられたのか』
「主画面が死んだ。数字をくれれば飛べる」
『送る。右に付くから、離れるなよ』
受信した数値が補助画面へ出た。ハーランが読み、ロスが入力する。ツーは後部銃座をこちらの後ろへ向けていた。左にも、外板の剥がれた機が寄ってくる。三機で三角を作り、残った銃座で互いの後ろを守った。航法の残った機が道を示し、銃座の残った機が背中を守る。三機合わせて、ようやく一機分だった。
ドライブを失った機の声は、跳躍の直前まで聞こえていた。
「ノエル。あと二回だ。戻ったら、すぐ開けてもらうから」
ハーランは返事を待った。
ロスが次の座標を確かめたと言い、もう行こう、と促した。
*
C.R.C. 7957.013 アンバラ星系、銀河平面座標 P-10、グレート・キャッシーク・ブランチ、アンバラ、共和国飛行場、受入れ区画
最初の帰還機は、着陸脚を出せなかった。
投光器が闇の中から爆撃機の腹を照らし出した。ロナン・ベックは台車を押して走った。機体が受入れ区画へ降り、外板を擦って長い火花を引く。停止しても搭乗口が開かない。整備員が外から解除器を差し込み、救護班が脇へ担架を置いた。
「止まったぞ。前へ出ていい。おい、そこは空けろ!」
次の機が、もう降りてきていた。尾翼の欠けた機。後部銃座の風防が割れた機。爆弾倉を閉じられない機。予定の順は、とうに崩れていた。床へ広がった冷却材で若い整備員が足を滑らせ、ベックは襟を掴んで起こした。
「怪我は」
「ありません。すみません」
「なら吸着材を持ってこい。このままじゃ、次の奴も転ぶ」
早くに引き返した八機は、昨日のうちに戻って点検を終えていた。今降りてくる機は、どれも違う音がした。整備を二十年やっていれば、音で分かる。冷却の落ちた推進器。歪んだ外板が風を切る音。片側だけで支えている姿勢制御。どの機も、どこかを失って帰ってきていた。
担架に札が付き、医務棟へ送られていく。ベックは通り過ぎる顔を一つずつ見た。第三班の担当は八機。まだ半分も帰っていなかった。
基地の時計が十一時を回った頃、ハーランの機が降りてきた。
右の翼が焦げ、航法装置を覆っていた外板に穴が開いている。停止の合図を出すと、搭乗口からロスとヴィンが降りてきた。レムは機内に残ったまま、後部区画を指して叫んでいた。
「こっちだ! 中からじゃ開かない。切ってくれ!」
ベックは切断器を持つ班員を回し、自分も機へ上がった。レムは床に膝をつき、酸素の供給管を押さえている。代わろうとして手を伸ばすと、強く首を振られた。
「動かすと漏れる。いま、ここで止まってるんだ」
「分かった。そのまま頼む」
外板を切り開いた穴へ、救護班が入った。バーネスの身体を持ち上げた時、腕が銃座の縁に当たった。操縦席から降りてきたハーランが、レムの肩越しにそれを見ていた。
救護班長は診察を終えると、仲間へ短く指示を出した。それから記録を付けようとして、作業服の襟を読んだ。
「ハーラン……」
「それ、俺の名前だ」
ハーランが言った。
「服を取り違えてたんです。ノエル・バーネス。後部銃座の。まだ、返してもらってなくて」
救護班長は搭乗員表で確かめ、担架の札を書き直した。それからハーランへ向き直り、亡くなっています、と告げた。次の機を誘導する声に埋もれそうな声だった。ハーランは口を開きかけ、救護班長の顔を見たまま立っていた。
ベックはレムの手から管を受け取った。今度は抵抗されなかった。外した継ぎ目から、残っていた空気が細く漏れた。
担架が離れると、ベックは後部銃座を覗いた。
背当ては一段下がり、留め具は左へ半目盛り寄っている。出撃前に、ベック自身が合わせた位置だった。バーネスは座ると決まって肩を回す。その時に背当てのどこが当たるか、毎回整備をしているうちに覚えた。頼まれたことは一度もない。気づかれていたかどうかも、知らなかった。
――気づいていたのだろう、とベックは思った。気づいていて、何も言わなかった。言えばこちらがやめると思ったのかもしれない。
留め具へ手を伸ばしたところで、隣のハーランが膝をついた。ベックは腕を支えたが、ハーランは立とうとせず、銃座を見上げていた。
「班長。あいつ、座ると肩を回すでしょう」
自分の肩を動かしかけて、やめた。
「こう、一度だけ」
「ええ。いつも見てました」
ロスがそばへ来て、一緒にハーランを立たせた。ベックは帽子を取った。
出撃の時には行ってこいとは言わない。帰ってきた時にだけ言う。そう決めたのは何年も前のことだった。その理由が、今になってようやく分かった気がした。
「お帰りなさい」
ハーランの顔が歪んだ。何か答えようとして口が動いたが、声にはならなかった。医療班の者が来るまで、ロスが腕を支えていた。
帰投予定を過ぎても、第三班の三号機は来なかった。
機体番号〇四二。出撃前の夜に古い喜劇を上映した時、その搭乗員たちはハーランの後ろに座っていた。上官が三回目に扉へ頭をぶつけたところで、一人だけ先に笑った。それにつられて、隣の四人も笑った。
ベックは別の機を整備しながら、帰投の表示を見ていた。〇四二への照会は何度も出たが、到着の知らせには変わらなかった。最後に信号を受けた位置は、第三中継点の外側だった。
二十時に誘導員が交代した。班員が工具を片付け始めると、ベックは三号機の台だけ、そのままにさせた。
*
C.R.C. 7957.014 アンバラ、共和国飛行場、整備区画
日付が変わってから六時までに、四機が遅れて帰ってきた。第二中継点の外で待っていた救難艇も、四人を運んだ。〇四二の搭乗員は、その中にいなかった。
正午の集計が壁の表示板へ出る頃にも、受入れ区画の投光器は点いたままだった。アンバラの空は、この季節には明るくならない。誘導灯の列の向こうで機の音がするたび、ベックは工具を置いて顔を上げた。
第11爆撃飛行団の七十二機に、他隊の二個スコードロン二十四機を加えて送り出した九十六機。帰還したのは、そのうち六十八機だった。早くに引き返した八機と、遅れて戻った四機を含めての数だ。
六機は修理不能。未帰還は二十八機。帰還率の欄には、七十一パーセントと出ていた。
搭乗員四百八十名のうち、生存確認三百四十三名、死亡確認一名。所在と生死の分からない者が、百三十六名。
ベックはその数を二度読んだ。死亡確認一名。担架の札を書き直された名前が、その一の中にいる。残りの百三十六は、まだどこにも書かれていなかった。
表示板の下に、第14爆撃飛行団の集計が続いた。別の工業星系を攻撃して、帰還率は六十六パーセント。その隣で、次の出撃予定が延期に変わった。搭乗員が足りない、と書かれていた。
「また次も、ここから行くんですか」
若い整備員が訊いた。ベックは機の下で冷却管を外していた。
「まだ聞いてない」
「護衛は……」
「その話もだ。そっちを持ってくれ」
二人で管を台へ下ろした。手を離してから、ベックも表示板を見上げた。
次の攻撃目標は、まだ消えていなかった。
ハーランの機も、修理不能の六機に入っていた。航法装置とハイパードライブをつなぐ区画が、骨組みごと歪んでいる。ベックは部品回収の判定を上げ、使えるものを外し始めた。後部銃座まで来ると、留め具は後回しにして、先に足元の箱を取り出した。
*
C.R.C. 7957.020 クワット星系、クワット・ドライブ・ヤード、受領泊地、《セレリタス》、主格納庫
「奥まで行って戻ると、何分くらいかかるかな」
シーアは主格納庫の入口で足を止めた。
床の誘導線が、艦首の方まで延びている。ずっと先の整備台は、立っている人と同じくらいに小さく見えた。受領前の発着試験に使ったZ-95の隊は、もう元の母艦へ戻っていた。残っているのはシャトルが二機と、台車が数台だけだ。整備台の脇では、造船所の技師と艦の航空担当が試験記録を突き合わせていた。
空の格納庫は、満ちた格納庫よりも多くを教えてくれる。どこに人が溜まり、どこを機が横切り、どこで詰まるか。機体を並べる前の今しか、それは見えない。
「歩いて確かめなくて結構です」
声の方へ振り向くと、技師たちの間からリラ・ブリセックスが出てきた。作業服の袖を折り返し、端末を片手に抱えている。シーアは笑って歩み寄った。
「リラ。来てたんだ」
「ええ。さっき手を振ったんですが、ずっと格納庫を見ていたでしょう」
「ごめん。こんなに広いとは思ってなくて。コルサントで話してた時には、まだ図面だったね」
「あなたが見るのを楽しみにしていました。この艦の担当も」
リラは一緒に記録を見ていた技師を紹介した。彼女が主任を務めるインペレーターとは別の設計班だったが、共通船体をどこまで違う艦にできるか、受領試験を見に来ていたのだという。
「そっちの艦も、見られる?」
「まず、今日受け取る艦を見てください。まだ二隻目にも行っていませんよ」
「その二隻目の担当が、先ほどからお待ちです」
入口からヴェリオン・カースが来た。KDYの理事は随員から引渡しの書類を受け取り、シーアを見ると足を止めた。
「お久しぶりです、殿下」
「カース。二隻とも、ありがとう。外から見た時は、ここまで違うと思わなかった」
「真っ先に格納庫をご覧になりたいと伺いましたので、こちらでお待ちしていました」
昔から、カースはシーアが何を見たがるかを本人より先に知っていた。それを隠そうともしない人だった。
カースは開口部の外へ目を向けた。造船架台の手前に、シーアが連れてきた艦が並んでいる。幼いシーアにプロクラメイターを見せた時と同じように、彼は隣へ立った。シーアもつられて外を見た。
「初めて来た時は、あの辺りから見たんだったね」
「ええ。今度は、ご自身の艦隊が場所を取っています」
「もう二隻、増えるよ」
「存じています。私どもの予定表にも入っていますから」
カースが書類を開くと、追加の二隻の引渡しは038日になっていた。ソーンが覗き込み、乗組員を送る日と試験の日を確かめる。シーアがその先の頁へ手を伸ばすと、カースは書類ごと渡した。
「残りは当直室で。ここにいると、次々に気になるものが出てきますからね」
「見学は一時間で終えると仰いました。もう半分です」
ソーンが先に当直室へ向かった。誰に向けた言葉なのかは、訊くまでもなかった。
シーアは時計を見て、もう一度奥を見た。腹部の大きな開口部からは、泊地に並ぶ艦と、その向こうに連なる造船架台が見える。縁に近い側には、斜めに切られた小さな発着口が二つあった。発進と帰還が重なる時にも、救難艇や傷んだ機を別に通せる口だった。
そこへ通信少尉が走ってきた。立ち止まって敬礼したものの、息が続かず、端末だけを先に差し出した。着任して三日の少尉だった。
「ヴァラリアン少将――失礼しました、中将。グランド・フリートからです」
「ありがとう。急がなくても大丈夫だよ」
ソーンも戻ってきた。命令書には、十二艦隊法の施行に伴う第3艦隊の発足と、アレクシアール・ヴァラリアン中将の司令官任命が記されていた。末尾は艦隊提督ホーンの署名だった。
シーアは宛先を読み直した。第3合同任務群の名が第3艦隊に変わり、その下に第32から第37まで、六つの任務群が並んでいる。第31は欠番のままだった。
「中将」
口にしてみると、少尉がまた背を伸ばした。
「ああ、呼んだんじゃないよ。……僕も慣れなくて」
横でセルトが口元を隠した。カースが中将昇任の祝いを述べ、リラも、今度は中将ですね、と言った。シーアは二人へ礼を言い、受領の印を付けて端末を返した。署名の下の添え書きだけは、自分の端末へ残した。
目標表の様式を、全艦隊の標準とする。
ホーンらしい、とシーアは思った。祝いの言葉より先に、仕事を一つ付けてくる。
外の泊地には、灰色の船体に赤い線を一本引いた艦が集まっていた。スターデストロイヤー二十四隻を中核に、クルーザー、フリゲート、補給艦を合わせて百隻を超える。他の十一の艦隊は、まだどこも中核の二十四隻を揃えていなかった。
第3艦隊では、受領したばかりの《セレリタス》と《ヴィジリア》との交代で、ヴェネター二隻が転属していく。配属表の総数は変わらない。それでも二隻のフリート・キャリアが加わったことで、載せられる航空隊の数は大きく増えた。
『第33任務群、点呼終了。今度は全艦、新しい符号で返しました』
マドックからの報告だった。回線表では、名前の前が准将になっている。
「こっちも、中将と呼んでもらえたよ。配置の報告も新しい符号で頼む」
『承知しました。そちらのフリート・キャリアは、いかがです』
「広いよ。まだ端まで――」
ソーンと目が合った。シーアは咳払いをした。
「航空隊の受入れは、これからだよ」
『なるほど。端までは、まだ歩いておられない』
マドックの声には笑いが混じっていた。回線を閉じると、ソーンが昨夜の試験記録を差し出した。
受領前の試験で出た不具合は、造船所が直していた。だが艦隊側で試した機体の移動と発着には、予定の倍の時間がかかっている。リラが同じ時刻の映像を開き、機体が止まった所を示した。
シーアは続きを読みながら、床の線へ目を向けた。答えは映像より、床の方に書いてあった。
「整備へ回す機が、発艦する列を横切ってるね」
「はい。ここで一機止まると、後ろまで動けなくなります」
「戻った機を、外側へ回せる? あの整備台をもう少し寄せれば、通路を二本取れそうだ」
リラは整備台の脇まで歩き、壁の前で立ち止まった。シーアもその隣へ行くと、壁に消火器材の収納口があった。
「ここは空けておきたいんです。機を寄せすぎると、器材を出せなくなる」
「じゃあ、戻った機を待たせる列をずらそう。台は、この先へ動かせる?」
技師が給電の口を確かめ、移せると答えた。リラは隔壁脇の通路へ入り、シーアを呼んだ。火災で隣の区画を閉めても、作業員が器材を持って戻れる幅があった。
「あの時、食事の卓で描いてくれた通路だ」
「この艦の班とも、同じ話をしました。実物を歩けると、やっぱり違いますね」
シーアは入口を振り返った。格納庫を横切らなくても、ここまで来られる。戻った機が床を埋めた時、この通路が整備員の逃げ道になる。シーアは整備台を置き直す位置を、技師と一つずつ確かめた。
「次の試験は、台を動かしてからにしますか」
カースが訊いた。
「はい。元の配置との比較も残します」
技師の返事を聞くと、カースは随員へ引渡し作業の順を変えるよう伝えた。艦隊側の航空担当も、その場で試験の時刻を直した。
「この記録、私の班へも送ってください。機を積む数は違っても、詰まる場所は見ておきたいので」
リラが技師へ頼む横で、ソーンがシーアを呼んだ。アンバラの報告を読む時間だった。
「先に済ませてきてください。こちらは担当と詰めておきます」
リラが言った。シーアは頷いてから、二人へ振り返った。
「昼は、一緒に食べられる?」
「席を取っておきましょう」
カースが答え、リラが、私が案内します、と付け加えた。
「今度は、器具の少ない店にしますね」
「まだ覚えてたの」
彼女の笑い声を背に、シーアはソーンと当直室へ入った。
ムルカナのヴァルチャー組立施設を攻撃した、第11爆撃飛行団を基幹とする攻撃隊の報告だった。帰還率、七十一パーセント。その前の三回は、八十一、七十九、七十四。
下がり続ける数字だった。下がり方が揃っているのは、誰かがそう下げているからだった。
被弾箇所を記した図の次に、攻撃後の写真があった。組立棟も検査棟も、屋根が残っている。焼けていたのは荷捌き場の倉庫一棟で、周囲の空き地と搬送路には爆発痕が散っていた。
「ほとんど外れています」
ソーンが言った。
「二隻のレキューザントと地上の重対空砲に阻まれて、外気圏から投下しました」
ソーンが飛行経路を重ねた。予定の降下線に沿った軌跡は一本もない。上方で横へ逸れた線が、幾重にも重なっていた。
「下りられないまま、投下を命じたのか」
「はい。やり直す余裕もありませんでした。倉庫の火災を組立棟への命中と報告した隊がありましたが、映像と照合して訂正しています」
シーアは写真を拡大した。荷捌き場を迂回する運搬車が写っていた。道は途中で切れているが、車列は工場の裏手へ続いている。
工場は、もう次の出荷の準備をしていた。
「……次も、同じ所を撃たなきゃならない」
「その命令は残っています。第14は別の工業星系を受け持っていましたが、人が足りず、次の出撃を延期しました。第11も補充を待っています」
シーアは交戦記録へ戻った。一つだけ、引っかかるものがあった。
「敵の四隻は、どこへ行った?」
ソーンは記録を巻き戻した。ムルカナの軌道を離れる四隻のミュニファスント級に、時刻が付いていた。
「レキューザントが降下進路を塞いだ頃には、もう跳躍しています。こちらの投下を待たずに、第三中継点へ向かった。迎撃機も、そこで補給を済ませた別の隊に替えています」
シーアは時刻を見比べた。
四隻が跳んだのは、爆撃隊が投下位置に着くずっと前だった。工場を守る艦を、守る前に半分以上手放している。それで足りると知っていなければ、できない判断だった。
「二隻残せば足りる、と読まれたのか」
「そういうことです」
「降下を止めるのは、二隻と地上の砲。帰り道を塞ぐのが、四隻」
シーアは時刻の列を指でたどった。自分の声が少し高くなっているのに気づいた。
「爆弾を落とさせないことより、帰さないことに多く艦を使ってる。工場の屋根より、爆撃隊の数を削りに来たんだ。帰らない機は次に来ないから」
「ヘルムート・ゲーリン元帥の防衛艦隊です」
ソーンが言った。
「前哨も迎撃隊も、元帥の指揮下にあります。往路に出てきた十二機は、こちらの編隊を調べていたのでしょう」
見事だ、とシーアは思った。そう思ったことを、ソーンに気取られたくはなかった。
記録を先へ送ると、目標から離れた後も損失の印が増えた。末尾の音声を開いた途端、男の声が当直室へ流れた。
『ドライブが回らない。五人とも生きてる。座標を送る』
セルトが音量へ手を伸ばしかけた。シーアは首を振り、最後まで聞いた。救難艇は第二中継点より先へ出せず、送られた座標には敵の艦がいた。
録音が止まってからも、シーアは航路図を見ていた。ソーンが次の資料を送ろうとするのを手で止め、自分で第3艦隊の配置を開いた。
「キャリアをここへ出せば、Z-95も目標まで往復できるね」
「出せれば、です。今は敵の防衛線の内側です」
「そのために僕らが行くんだ。テクターとヴァリアントで、レキューザントを退かせる。プラットフォームと重対空砲も叩いて、投下位置まで下りられる道を作る」
シーアは母艦の位置を動かし、帰路にも艦を置いた。ソーンが補給艦の位置を直し、救難艇を通せる範囲を加えた。
「そこで一隊ずつ送れば、敵も順に迎撃できます」
「だから、集めたいんだ」
シーアはムルカナの八十八機を示す印を消した。
「元帥は爆撃機を数えて迎え撃ってる。数えきれないほど来たら、どうなる? 最初の隊を迎え撃ったヴァルチャーが、弾と燃料を積み直す前に次を入れる。その次も、まだ来るように。艦隊で道を開けている間に、工場をまとめて壊してしまいたい」
「何機を考えていますか」
「二千を超えて」
ソーンの手が止まった。窓の外の格納庫を見てから、受領予定の二隻を表へ加えた。
「四隻とも、爆撃機に使うんですね」
「護衛と対艦攻撃隊は、ヴァリアントと残るヴェネターから出す。向こうにも格納庫がある。全部をヴェクターへ押し込まなくていい」
「その配分なら、航空の担当と詰められます。ただ、機体だけ寄越されても出せませんよ。整備員も搭乗員も、部隊ごとです」
「ホーン提督に会ってくる。ソーンも――」
「私まで行ったら、誰がここを直すんです」
ソーンは、さっき話していた通路の図を出した。シーアは言いかけたまま口を閉じた。それから、椅子を寄せた。
「じゃあ、持っていくものを一緒に考えて。抜けていたら、また首都まで行くことになる」
「そうならないようにしましょう」
ソーンは新しい頁を開いた。
「まず、運ぶ船からです」
*
《ハービンジャー》、司令官室
リラとカースとの昼食を終えて旗艦へ戻ると、ソーンから追加の要求が届いていた。整備台と牽引車だけで二頁ある。
さすがに速い、とシーアは思った。昼食の間に、格納庫をもう一周してきたのだろう。
シーアは端末を肘掛けに置き、頁を送りながら立っていた。セレナが新しい階級章の留め具を直している。肩が動くたびに指で押し戻されるので、端末の方を持ち上げた。
「お姫様。いったん置いてください」
「今、足りないものを見てる」
「読み上げましょうか。その方が早く終わります」
何が早く終わるのか、とは訊かなかった。階級章か、要求書か。たぶん両方だった。
「……頼む」
セレナは留め具を押さえたまま、画面を覗いた。牽引車の項目を読み上げると、シーアが口を挟んだ。
「予備は、この数に入ってる?」
「別に請求するとあります」
「それも同じ船で運ぶように、追記しておいて。壊れてから取り寄せていたら、また詰まる」
「分かりました。左肩を、もう少しこちらへ」
最後の留め具がはまり、セレナは上衣の肩を撫でた。それから机にあった封筒を渡した。公王宮からの私信だった。
兄アウレリアンの祝いの言葉と、家の者たちの名が並んでいた。シーアは読み終え、ありがとうございます、元気にしています、と返信を打った。
兄の名を見ているうちに、画面が暗くなった。続きを打とうとして触れた指を、シーアはそのまま送信へ動かした。
言葉が見つからなかったから暗くなったのだとは、思わないことにした。画面は触れずにいれば暗くなる。それだけのことだった。
公王宮の事務局から来ていた港の照会には、必要な添付を付けて返した。こちらは迷わなかった。私信は模型の横へ伏せ、ソーンの要求をもう一度開いた。
「首都へは、セレナも来て」
「そのつもりで荷物を用意しています。上衣は二着です」
「そんなに泊まらないよ」
「会議室へ行く前に、格納庫へ寄られるでしょう」
シーアは袖を見た。灰色の布に、さっき触った手摺の汚れが付いていた。反論の材料は、袖の上には見つからなかった。
ケレンが夕食を運んできた時には、シーアは上衣を脱いで椅子へ掛けていた。ソーンへの返事を口述していると、セレナが食事の皿を空いている方へ寄せた。シーアも椅子を動かし、話しながら匙を取った。
「ケレン、首都から戻ったら、航空隊の人数がずいぶん増えると思う」
「ええ。泊地の補給担当から、もう相談が来ています」
「早いな」
「食べる人数だけ先に増やされては困りますから。こちらの要求も、お持ちください」
シーアは差し出された一枚を受け取り、ソーンの要求の後ろへ足した。二千機の作戦も、最後は誰かが食事を作る話になる。それを先に言いに来る人がいるのは、ありがたいことだった。
*
C.R.C. 7957.024 コルサント星系、銀河平面座標 L-9、パーレミアン・トレード・ルート起点、宇宙軍グランド・フリート司令部、配属局
「二十八個飛行団」
ホーンは要求書の数字を指で押さえ、シーアを見た。
「全部を定数へ戻して、二千十六機か」
「はい。欠けている分の機体と、搭乗員の補充もお願いします」
「それは次の頁で見た」
ホーンの声には驚いた様子がなかった。驚いてみせる必要のない相手だと思われているのか。会う前に最後の頁まで読むことにしているのか。どちらにせよ話は速く進む。
配属局の壁には、各戦線の航空部隊が映っていた。第3艦隊へ移すよう求めた部隊の色が変わるたび、離れた基地が一つずつ暗くなる。シーアは、その数を数えていた。
「四隻へ七個飛行団ずつ。載るのは確かなんだな」
「実際の駐機図で確認しています。小型機なら一隻二十個飛行団ですが、PTBは場所を取ります。通路と整備場所を確保して、五百四機を運用します。護衛機と対艦攻撃機の主な母艦は、別に置きます」
「では、その別の母艦を含めて、どこから抜くかだ」
配属局長が北辺を拡大した。
「第14はこの結節点を受け持っている。第9は東の補給線だ。君の作戦が終わるまで、同盟の船がここを通らないでいてくれるわけではない」
「頼めば、待ってくれるかもしれませんが」
「頼み方を教えてくれるなら、喜んで送ろう」
局長はにこりともしなかった。シーアは基地へ残す部隊の表を開いた。哨戒と輸送船への攻撃を優先させ、工業星系への深部攻撃を休止する案だった。局長は二つの基地を囲み、最新の稼働機数を重ねた。
「この隊は、もう半分しか出せない。第14まで抜けば、哨戒も止まる」
「こちらの資料より減っていますね。更新は」
「今朝だ」
シーアは手元の数字を消した。
出撃を重ねるたびに、予定は古くなっていく。ゲーリンは数字を一つずつ削り、こちらはそのたびに計画を書き直す。この競争に勝つ方法は、たぶん一つしかない。削られる前に、まとめて使うことだ。
「第14を後ろへずらします。隣の基地から交代を出せませんか」
「その隊をこちらへ動かすと、今度はここが空く」
「全部を残したままでは、集められません」
思ったより強い声が出た。局長は手を止めた。シーアは言葉を続けた。
「各隊へ少しずつ補充して、また同じ工場へ送り出している。ムルカナでは二十八機戻らず、組立棟は動いています。今のやり方で止められるなら、僕も他の戦線から抜こうとは言いません」
「止めるべき工場が君の目標だけなら、楽なんだがな」
局長は要求書を閉じなかった。それが答えだった。別の基地の整備予定を開き、部隊を一つ動かしては戻す。ホーンが補給船の航路を出し、その寄港地を指した。
「ここで人員を拾える。第14の交代は、その前に入れろ。深部攻撃を止める方面には、本部から理由を伝える」
三人で移動の順を変えた。第11は近いアンバラから上げる。損耗した隊を定数へ戻すため、補充を受け取る基地も集約する。整備班と担当機は同じ艦に載せ、荷物だけ後から追いかける手配は避けた。
シーアが予定を送るたび、クワットに残ったソーンから返事が入った。最後の一通には、受入れを一日に重ねすぎです、とあった。
「怒られたか」
ホーンが覗いた。
「まだです。ここを直さずに帰ったら、たぶん」
局長が椅子を寄せ、二隊の出発日を入れ替えた。シーアはそれを送り返した。三十秒後に、了解、とだけ返ってきた。
「最初に叩くのはメタロンだったな」
「造船所と艦載機工場、動力設備です。艦隊で防衛艦と砲台を抑え、爆撃隊を続けて通します。主要設備だけでなく、残った工場へ部材を回せる所も壊す。次の攻撃までに、生産を戻させません」
「艦隊が道を開けなかった場合は」
「発艦を待たせます。進出路と帰投点を取れなければ、その日の攻撃は中止します。護衛を途中で帰して、爆撃機だけ先へ出すことはしません」
ホーンは配置図へ目を落とした。前へ出る砲戦群の旗艦に、《ハービンジャー》の名があった。
「第5と第8にもフリート・キャリアが入る。いつまでも航空隊を独占はさせないぞ」
「承知しています。最初の作戦は、この数でやらせてください。続けて飛ばせる形まで作ります」
ホーンは要求書を局長へ渡した。
「四隻目を受領した日に発令する。基地には今日から準備させろ。戦果だけでなく、帰還率と次に出せる数も毎回報告すること。一度で部隊を使い果たしたら、成功とは認めん」
「はい」
シーアは頷き、署名された文書を受け取った。
――一度で使い果たしたら。ホーンも、ゲーリンと同じものを数えている。次に出せる数を。
廊下で待っていたセレナを見つけると、端末を持ち上げた。
「通ったよ。四隻を受領した日に、二十八個飛行団だ」
「では、次はお金ですね」
「……うん。ヴェッロ議員には、つながる?」
「五分後に。お食事は、その後です」
借りた小部屋から回線を開くと、ヴェッロは委員会へ向かう途中だった。歩きながら要求書を読み、陽子爆弾の数のところで足を止めた。
「五万発近い。一回でこれを使うのか」
「予備も含めて、定数二千十六機に二十四発ずつです。訓練用と次回の分は、別に載せました」
「別の頁を見ても減らんな」
「減らないように書きましたから」
ヴェッロは鼻を鳴らした。燃料、部品、傭船料へ目を移し、手元の随員へ一言告げる。随員が先へ行き、廊下の扉を開けて待った。
「続けるなら、毎年これだけ要るのか」
「規模と回数を決めて、恒常の枠を作りたいと思っています。毎回、船から集め直していては遅すぎます」
「その話は、今回の結果を持ってこい。今一緒に出せば、戦後も残すかどうかでもめる。まず、準備と作戦の分を委員会へ出す」
「ありがとうございます。次の分も、計算を始めます」
「金額だけでは駄目だ。誰が払うかまで考えておけ」
回線が切れた。
誰が払うか。シーアはその問いを、要求書の最後の頁の余白に書き留めた。答えはまだない。ヴェッロがそう訊いたということは、次は答えを持ってこいということだった。
次に、軍需調達局へ連絡した。補給船三隻の傭船契約は二隻までまとまり、最後の船主と損失時の補償を詰めているという。
「決まった二隻は、先に積込みを始められますか」
「契約を分ける必要がありますので、確認を――」
「お願いします。全部揃うまで待つ必要がなければ、近い隊から運べます」
シーアはGFで直したばかりの予定を送った。担当者も輸送の欄を開き、二隻を先に使う場合の手続を別の部署へ問い合わせた。六日後には三隻とも契約をまとめられる見込みだ、という返事が来た。シーアは出発日を入れ直した。
セレナが食事を頼もうとしたところへ、ソーンから回線が入った。二十八個飛行団の内示を受け取ったという。シーアは署名の入った文書を見せた。
「人も整備班も一緒だよ。補給船は、二隻を先に動かせそうだ」
『それなら、格納庫の方は間に合わせます。首都では何を食べました?』
「まだ」
『でしょうね。セレナさん、先にどうぞ。続きは送っておきます』
シーアが抗議する前に、回線は切れた。セレナはもう、店の予約を取っていた。
*
C.R.C. 7957.041 アンバラ星系、銀河平面座標 P-10、グレート・キャッシーク・ブランチ、補給泊地、《セレリタス》、主格納庫
飛行場から持ってきた工具台が、違う飛行団の機の後ろにあった。
ベックは荷物を運ぶ班員を呼び止め、台に結ばれた札を見た。第三班。自分たちの札だった。
「これ、うちのだ。そっちで使うのか」
「第三班の場所だと言われましたけど」
若い整備員が駐機図を見せた。隣の飛行団にも、第三班があった。
当然だ、とベックは思った。どの飛行団にも第一班から第六班まである。二十八個集めれば、第三班は二十八ある。札を書いた誰かはそれを考えなかった。考える暇がなかったのだろう。
ベックは白墨を借り、札の上へ大きく第11と書き足した。
「全部に飛行団の番号も入れてくれ。箱を開けてから違うと分かるのは、もう勘弁だ」
奥では次の隊が機を降ろしていた。新しいヴェクター級二隻、《レディトゥス》と《ソレルティア》をクワットで受領したのは三日前で、その日に集中配属の命令が出ていた。受領試験を終えた四隻はアンバラへ進み、第11と第14を最初に乗せた。各方面から来る隊も、機と整備班をまとめて四隻へ移ってくる。
台を置き直しても、すぐには作業を始められなかった。ベックの班は担当機を最後まで見る。隣の隊は燃料、武装、機関で人を分け、順に機を回していた。どちらのやり方にも理屈がある。だが二つのやり方が同じ床に並ぶと、どちらのものでもない隙間ができた。
その隙間を通って、武装の確認を終えた機が一機、発進待機の列へ動きかけた。
「待て。誰が機関を見た」
「そちらの担当が来るんじゃないんですか」
ベックは牽引車を止め、相手の班長を呼んだ。二人で点検表を開いている間にも、後ろへ次の機が入ってくる。相手の班長が誘導員に手を振り、いったん脇へ寄せろと叫んだ。
「済んだつもりだった」
「分かってる。受渡しの印を揃えよう。次も同じことになる」
二人で記録を直した。棚と工具箱の番号も揃えることになり、ほかの班長が集まってきた。遠くの開口部では、また新しい機が誘導員の前へ降りていた。
補給船は三隻とも着いていた。だが荷を開けると、交換用の推進器に違う型が混じっていた。部品担当を呼んで数を確認しているうちに、昼の交代時刻を過ぎた。
その頃に、ハーランが来た。
ベックは工具を置き、部品回収用の作業台の前へ出た。飛行場で機体から外した後部銃座と、その覆いが載っている。ハーランは札に書かれた元の機体番号を見て、自分の機のものだと確かめていた。
「上げてあったんですね」
「使える部品だけ、持ってきました。箱もあります」
棚から二つの箱を下ろした。一つはハーランの私物で、もう一つはバーネスの家族へ送るものだった。その上に、畳んだ作業服を置いていた。
「これは、先にお返ししようと思って」
ハーランは服を受け取り、襟のラベルを撫でた。そこには自分の名前がある。次に、着ている服の襟へ指を当てた。
「まだ逆だ」
ベックは答えられなかった。答えのある言葉ではなかった。ハーランは服を自分の箱へ載せ、もう一つの箱には触れずに立っていた。
通路の入口で待っていたレムが、そばへ来た。酸素管を押さえていた手には、まだ包帯がある。
「持とうか」
「これくらい大丈夫だ」
「じゃあ、扉を開ける」
レムは先へ行き、ハーランが通るまで扉を押さえていた。出ていく時にこちらへ頭を下げたので、ベックも手を上げた。
整備割当表では、新しい機体へハーランたちの名が移されていた。実戦搭乗の許可は、まだ出ていない。後部銃座員の欄も空いたままだった。
午後の発艦訓練は、二隻目で詰まった。先に出た隊が集合位置で待たされ、戻ってきた機長は、使った燃料の量を見せながら文句を言った。ベックは記録を取り、航空の担当へ渡した。文句は正しかった。正しい文句は、記録にしておけば次の日の役に立つ。
帰ってきた機を整備へ回すと、さっき動かした工具台がまた邪魔になった。隣の班長も同じ所で立ち止まり、二人で台を持ち上げた。
「明日は、ここを空けよう」
「ああ。床にも書いておく」
*
C.R.C. 7957.042 アンバラ星系、補給泊地、《ヴァリアント》、格納庫
十二機のYウィングが、格納庫の奥に並んでいた。
シーアは先頭の機の前にいる操縦士を見つけ、歩くのを早めた。相手もこちらに気づき、話していた整備員へ端末を返した。被っていた帽子を取り、髪を直してから、また被り直した。
その仕草で、間違いないと分かった。
「トレン」
「ヴァラリアン中将。マイ・トレン少佐以下、一個スコードロン十二機、着任しました」
敬礼へ返したところで、シーアは階級章を見た。
「少佐になったんだね」
「はい。おかげさまで」
「おめでとう。来てくれて嬉しいよ。ディム艦長は元気? 《レゾナンス》の方は――」
「元気です。ご挨拶を、と。あの、中将」
マイは後ろを見た。操縦士たちが並び、二人の話が終わるのを待っていた。
「先に、部下を紹介してもいいですか」
「あ……そうだね。ごめん」
シーアは足を揃え直した。少尉だった頃のマイなら、司令官の話の途中で口を挟みはしなかっただろう。今の彼女には、待たせている十一人がいる。この格納庫で順番を決めるのは、彼女の方だった。
マイが順に名を呼ぶと、操縦士たちが敬礼した。紹介を終えた者から機へ戻っていく。若い中尉だけが、司令官と自分の隊長を交互に見ていた。
「あとで話す。先に受入れの確認を」
マイに促され、中尉も駆けていった。シーアは声を落とした。
「邪魔しちゃったね」
「いえ。ただ、私より先に機を見つけると思っていました」
「そんなことは――新型だね」
マイが笑った。
機体の脇には、BTL-A4と書かれていた。BTL-Bの後継として配備が始まった艦載攻撃機だった。シーアは機首の方へ回り、マイが渡した機体資料と見比べた。彼女がかつて飛ばしていたBTL-Bを思い出しながら質問を重ねると、マイは途中で端末を取り返し、整備中の箇所を指して説明し始めた。質問の順番まで、彼女が決めることになったらしかった。
「機は揃いました。でも、この十二機で飛ぶようになってからは、まだ日が浅いんです。艦隊の隊と合わせる時間をいただきたい」
「訓練はここでできるよ。コーヴィンにも伝えてある。トレンたちには対艦攻撃を任せたい。Z-95の隊にも付いてもらう」
「ミュニファスントとレキューザントですね。ムルカナの記録は読みました」
マイは機体資料を閉じた。
「雷撃を始める位置までに、味方の砲戦群と前後を揃えたいんです。敵機を避けるためにこちらが散ると、艦もこちらへ砲を向けられます。艦砲が当たっているうちに入りたい」
シーアはその言葉を、ムルカナの記録に重ねた。二隻のレキューザントが降下進路を塞いでいた、あの時間。そこへ艦砲と雷撃を同時に入れていれば、あの二隻は砲をどちらへ向ければよかったのか。
――向ける先を、二つ与えればいい。一つしか向けられない砲に。
「ソーンと詰めよう。前へ出る群の予定を渡すよ」
「お願いします。帰投先が動く時の連絡も。今度は、私が十二機を連れて戻らないと」
隣で整備員が点検口を閉じ、マイへ確認を求めた。彼女はそこへ手を入れて確かめ、記録に署名した。若い中尉が持ってきた受入れ票には、一か所書き足して返した。
シーアはその間、邪魔にならない所へ退いていた。《レゾナンス》で燃料配管の修理を見ていた少尉の顔を覚えている。マイは今も、整備員が作業を終えるまで機のそばを離れなかった。変わったところがあり、変わらないところがあった。
「お待たせしました」
「急がなくていいよ。僕こそ、挨拶だけのつもりだったのに」
「機体資料、お持ちになりますか」
「もう送ってもらった」
マイは自分の端末を見て、また笑った。
格納庫を出るところに、ケレンが来ていた。シーアがマイの配属を知らせると、自分も会いたいと言って、今日の連絡艇に乗ったのだった。
「ケレンさん」
「お久しぶりです。お顔を見られてよかった」
マイは近づき、差し出された手を両手で握った。二人でヤン・コルデスの家へ行った時には、荷物を受け取る母親を前に、ほとんど話せなかった。ケレンは手を握り返し、マイの階級章へ目を向けた。
「今度は少佐とお呼びした方がいいでしょうか」
「トレンでいいです。そちらまで変わると、落ち着きませんから」
「では、トレンさん。お時間ができたら食堂へ来てください。第3艦隊の食事がどうなったか、見てもらいたいんです」
シーアが、今夜でも、と口を挟んだ。マイはすぐには頷かず、格納庫へ戻る通路を見た。
「今日は、部下と一緒に行きます。まだ艦内で迷う者がいますので。そちらへは、明日伺っても?」
「もちろん。明日の晩、空けておくよ」
約束して別れると、マイはさっきの中尉を呼び止め、同じ方へ歩いていった。途中でこちらを振り返り、敬礼をした。
司令官の誘いを、その場で一日延ばせる少佐になっていた。シーアは敬礼を返してからも、その姿が通路の向こうへ消えるまで見送った。
*
C.R.C. 7957.045 アンバラ星系、補給泊地、《ハービンジャー》、司令官室
「少尉だったんだよ。初めて会った時は」
エレナとの回線が開くなり、シーアはマイの話を始めた。途中で向こうの稽古場が見え、まだ終わっていなかったのかと訊いた。
「休憩。続けて。今は何になったの?」
「少佐。自分のスコードロンを連れてきた。十二機」
「あなたも、その間に中将でしょう」
「そうなんだけど。こっちが話してる間にも、部下が次々に訊きに来るんだ。挨拶しに行ったつもりが、ずっと邪魔をしてた」
話しながら、シーアは自分がずいぶん早口になっているのに気づいた。気づいたが、止める理由は見つからなかった。
エレナは膝の台本を伏せて笑った。シーアも笑い、一昨日の夕食にはケレンが普段より長く席にいたことを話した。いつも機や艦の名前ばかりだったマイの話に、今は部下の名前が混じっていた。
「また、一緒に出るのね」
「うん」
シーアは机の端の出撃予定を見た。画面に出ている名前は、会ってから読むと違って見えた。名前の横には機体番号と発艦の順番がある。その順番を決めたのは、自分だった。
エレナがパンをかじり、飲み込むのを待ってから、シーアは今日の訓練の話へ移った。
「四隻から出す順番が、ようやく揃ってきた。最初は、先に出た隊が待っているうちに燃料を使ってしまって」
「それは文句を言われたでしょう」
「言われた。いまは、後ろが遅れたら前も艦の中で待たせてる」
セレナが翌日の予定を持ってきた。シーアは画面を開いたまま椅子を寄せ、エレナへ明日の見通しを話しながら、面会の時刻を直した。
「この打合せ、航空の担当にも入ってもらおう。ソーンに伝えておいて」
「承知しました。終わった後のお食事も、同じ方々で?」
「うん。そこで続きを話せる」
エレナの肩が揺れた。シーアが画面へ戻ると、彼女は、こちらも椅子一脚で止まっているのよ、と稽古場の奥を指した。二人が座る場面へ三人が別の椅子を持ってきて、まだ決まらないのだという。
「全部並べて、好きなのに座れば」
「あなたが演出家に言って。私はもう言った」
シーアが吹き出すと、エレナも笑った。模型の屋根を青く塗った写真を送ると、そのままでは水と同じ色に見える、と言われた。
「一軒だけにしておけばよかった」
「全部塗ったの?」
「三軒」
「どうして、一軒塗ったところで見せてくれなかったの」
セレナまで頷いたので、シーアは二人を交互に見た。二対一だった。言い返そうとして、机の下に置いた塗料を足で寄せた。
「明るい色を買ってくる。今度は一軒にする」
「ええ。その一軒の写真を見せて」
エレナが呼ばれるまで、港の家をどこへ置くか話した。回線を閉じると、シーアは模型を机の中央へ戻した。ソーンから届いていた明日の訓練の変更を開き、返事を送りながら、青い屋根の一つを外した。
*
C.R.C. 7957.058 アンバラ星系、補給泊地、《ハービンジャー》、会議区画
「出撃予定は二千四機。ほかに十二機、発艦時の故障に備えて残します」
ソーンが最後の訓練結果を卓へ出すと、シーアは椅子から身を起こした。二十八個飛行団、定数も搭載数も二千十六機。予備の十二機も、その中から選んであった。
「この十二機は、すぐ飛べるんだね」
「点検を終えています。各艦に三機ずつ。発艦前に故障した機があれば、搭乗員を移します」
受入れの時点では、定数のうち六十四機が整備や部品を待っていた。ベックたちが修理を進め、間に合わない機は飛行場へ下ろして補充機と入れ替えた。交換用の推進器が揃ったのは、最後の訓練の二日前だった。
「乗り換える時間は取ってある?」
「昨日、実際にやらせました。故障機の乗員が予備へ移っても、集合には間に合います」
ソーンは発艦順を開き、最後の列を示した。
「ただ、出た後で引き返した機までは追いかけさせません。合流を急がせると、また隊がばらけます」
シーアは集合までの時刻を追ってから、頷いた。
「うん。それでいこう。残った機は、次に使えばいい」
爆撃隊に付く戦闘機は、百個スコードロン千二百機になっていた。大半を占めるZ-95が爆撃機の周囲を固め、遠い帰投点まで迎えに出る隊にはARC-170を割り当てていた。ヴァリアント四隻とヴェネター二隻を主な母艦とし、BTL-A4の対艦攻撃隊もそちらから出る。ヴェクター四隻にはPTB-625を七個飛行団五百四機ずつ割り当て、そのうち三機を予備の待機位置へ回していた。
「艦の上に残す隊は?」
「アルファ3です。直掩と交代の機は、今の千二百機に含めていません」
ソーンはキャリア群の周囲を示した。Vウィングの哨戒位置が、爆撃隊の帰還中にも途切れないように組まれている。その外側には、ARC-170が向かう遠方の帰投点があった。
「ARCには、こちらの前哨への攻撃も割り当てています。制圧後に救難艇を入れます」
「救難艇を待たせすぎないように、そこの攻撃を先に。帰ってきた隊にはZ-95を付けて、母艦まで連れてくる」
ソーンが帰投支援の時刻を開き、前哨の攻撃と照らし合わせた。
ムルカナで帰り道を塞いだのは、四隻のミュニファスントだった。今度はその帰り道を先に取る。ゲーリンはそれも読んでくるだろうか、とシーアは考えた。読んでくるだろう。読まれても構わない。読めることと止められることは別の話だった。
マイの隊は合同訓練を終えていた。砲戦群の進出に合わせて対艦攻撃隊が先行し、その後に大きな爆撃機の列が続く。シーアは発艦時刻から目標への進入、帰還までを追った。二千機を一度に遠くへ送り出すだけでなく、その機体がまた四隻へ戻ってくるところまで、各隊が順番を確かめていた。
『第32、進出の準備を終えました』
コーヴィンの報告に続いて、マドックがキャリア群の配置を送った。ヘイグは救難艇を前へ出す時刻と、途中の給油について確認した。ソーンが航空担当を回線へ呼び、その場で一つの時刻を動かした。
シーアはメタロンの目標表を開いた。
軌道の造船架台、艦載機の組立・検査施設、部材の集積場、動力設備。ラセルが送ってきた新しい写真では、夜側の工業区は暗く、炉と冷却設備の熱だけが浮かんでいた。目標ごとに必要な攻撃量と、生産が止まる期間の見込みが並んでいる。
「組立棟だけを失っても、外周の工作設備は動きます」
ソーンが工場の敷地を広げた。
「そこへ残った機械を集め、隣の星から部品を入れれば、製造の一部は戻ります。動力と集積場も同じ作戦で失わせる計画です」
「その範囲で進めよう。艦を建て、機を組み立てている所を、動かせなくする」
送電系統の図には、工業区を越えて市街へ延びる線もあった。シーアはそれを拡大した。線の先に何があるかは、民間二次被害の欄に書いてある。シーアはその欄を読み、動力設備の指定を残した。
「燃料の備蓄は、こっちにもあるね。工場の分と一緒に照合して」
ソーンが担当へ回した。シーアは次の目標へ進み、最後に、本部から来た実施指示の署名を確かめた。
「砲戦群が道を開き、帰投点を押さえてから発艦する。こちらが遅れたら、機は艦の中で待たせて」
『承知しました』
各群から返事が来た。シーアは実施命令へ自分の名を入れ、送信した。
回線が閉じると、ソーンが椅子の背へ身体を預けた。
「集まりましたね」
「うん。最初の格納庫、覚えてる? 声が向こうから返ってきた」
「今は誰に呼ばれているのか分からないくらい、うるさいですよ」
シーアは笑いかけ、窓の外へ目を向けた。離れたヴェクターの腹に、機体の列が見えていた。
「ソーン。ありがとう」
「出して、戻してからです。艦橋へ行きましょう」
立ち上がると、セレナが待っていた。ケレンから預かったという包みをシーアへ渡した。
「途中で召し上がってください。食堂へ戻る時間はありません」
「みんなの分も?」
「足りなくなったら、まずお姫様の分を回すように、と」
「そこまで言ったの」
ソーンが先に廊下へ出た。シーアは包みを開きながら追いつき、一つ差し出した。ソーンは少し迷ってから受け取った。
*
《セレリタス》、主格納庫
ベックは点検を終え、爆撃機の腹の下から出た。
同じ班の若い整備員が、工具箱を開いて待っていた。二人で本数を確かめ、最後の工具を戻す。蓋が閉じると、その機の準備完了を送った。
格納庫の奥まで、PTB-625が並んでいた。機体の脇には来た基地の名が残り、新しい駐機位置と整備班の番号が書き加えられている。担当する次の機へ歩くと、機長が搭乗口から顔を出した。
「班長。このへんで、青い鞄を見なかったか」
「後部座席の下にありましたよ」
「あった。ありがとう」
奥から後部銃座員の声がした。二人が降りてくると、ベックは搭乗口を閉じ、点検済みの札を掛けた。
艦内放送が出港を告げた。ベックは班員と一緒に台車を壁際へ寄せ、固定具を掛けた。整備台の下へ落ちていた布を拾い、次の列を見渡した。
アンバラの飛行場から送り出したのは九十六機だった。今この床に並んでいるのは、その何倍になるのか。四隻を合わせれば二千を超える。数がいくら増えても、帰ってきた機を迎える時は一機ずつだった。
開口部の外で、ヴァリアント級が向きを変えていた。泊地の投光器が灰色の船体を照らし、艦首から艦尾へ走る赤い線が見えた。その後を、四隻のテクターが続いていく。
《セレリタス》も動き始めた。床に並ぶ機体はそのままに、外の艦と灯りがゆっくりと位置を変えた。ベックは最後の固定具を引いて確かめ、今度は先へ行く艦隊を、開口部の奥から見送った。
PTB-625
インコム社とサブプロ社が共同開発した大型惑星爆撃機。ARC-170偵察戦闘機やNTB-630爆撃機と同じ共同開発事業から生まれた機体で、惑星地表への爆撃を主要任務とする。ARC-170の単純な改造型ではなく、用途の異なる姉妹機に当たる。乗員は五名で、長距離爆撃任務に備え、機内には寝台や小規模な調理設備なども設けられている。
『Star Wars: Revenge of the Sith — Incredible Cross-Sections』より
https://www.scribd.com/document/851663153/Star-Wars-Incredible-Cross-Sections-Episode-III-Revenge-of-the-Sith
ヴェクター級スター・デストロイヤー
ISD(インペリアル級スターデストロイヤー)の空母型で、主兵装をヴェネター級相当の規模の主砲に統一したもの。
格納庫を段状に拡張して容積を確保しており、機種や地上部隊・降下艇の搭載条件によって変わるが十二~十六個飛行団という数字でも控えめ
fractalsponge作のファノン艦
https://fractalsponge.net/vector-class-star-destroyer/
本作ではインペレーター/インペリアル級と同時並行で開発されたテクターの共通船体による空母型と位置付ける。
艦艇、兵器説明は欲しい?
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いらない
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欲しい(文のみ)
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欲しい(元ネタリンク含め)