STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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ボンバー・ストリーム

C.R.C. 7957.060 メタロン星系、銀河平面座標 R-8、パーレミアン・トレード・ルート、星系外縁、《ハービンジャー》、作戦室

 

 工場は、まだ動いていた。

 

 ラセルが送ってきた偵察映像の中で、メタロンⅢの夜側は黒く沈んでいた。灯火管制は四か月前から続いている。それでも赤外線の画面を重ねると、工業区だけが白く浮かぶ。炉と冷却設備の熱だった。軌道の造船架台では、建造中の船体の脇を小艇が出入りしている。

 

 艦隊が星系の外縁に現れてから、もう六時間が経つ。工場の裏手では資材を積んだ車が動いていたが、炉を止める気配はなかった。

 

 ――ムルカナと同じだ、とシーアは思った。屋根の残った組立棟の脇を、運搬車が迂回して走っていた写真。爆撃隊から二十八機を奪った後で、あの工場は次の出荷の準備をしていた。

 

「移された資材があります」

 

 回線の向こうで、ソーンが画像を拡大した。《エンヴォイ》の戦闘指揮所では、彼の後ろでも同じ画像が開かれている。

 

「集積場の北側に、三日前にはなかった山が二つ。おそらく造船所の部材です。対艦砲も一基、射点を変えています」

 

「北まで運んだのに、そこで置いていったのか。倉庫へ入らなかったのかな」

 

「屋根のない所です。覆いは掛けていますが、運び出すところから写っています」

 

 シーアは二つの山を見比べた。

 

 倉庫が足りないのか。運ぶ時間が足りないのか。どちらにせよ向こうは予告より前から工場を動かし始めている。そして間に合っていない。

 

「そこも集積場の攻撃に加えよう。南側の最後の隊に回せる? 砲台は――」

 

「第32が抑えます。コーヴィン准将の予定に入れました」

 

 言う前に済んでいた。シーアは承認済みの目標表に、新しい画像を重ねた。造船架台。艦載機の組立・検査施設。部材の集積場。動力設備。燃料の貯蔵。移された資材にも担当が付き、攻撃の順が一つ後ろへずれた。

 

 狙うのは、艦を建て、機を組み立て、それをまた動かし直すために要るもの全部だった。組立棟を失っても、動力と部材が残れば別の建屋へ設備を移せる。動力設備の行には、市街への給電と燃料の配送も止まると書いてあった。シーアはその欄を読み、指定を残した。

 

「予告を出します」

 

 セルトが文面を回した。十八時間後に攻撃する区域。退避路が三本。民間軌道港、医療施設、浄水施設、救難通信の除外。工場を出れば安全だとは、どこにも書いていなかった。

 

 シーアは退避路の案内を確かめ、送信を許可した。セルトが現地の放送と港へ予告を流す間、シーアは窓の外へ目を向けた。

 

 後方で待機していた艦が、集結の位置へ動いていた。遠くの一隻は《エンヴォイ》だと思ったが、艦腹をこちらへ向けた時、大きな開口部が見えた。《ヴィジリア》だった。灰色の楔形も、その上に重なる上部構造も、テクターとよく似ている。開口部の奥では、誘導灯に照らされた爆撃機が列を作っていた。

 

 自分の艦隊の艦を司令官が見間違えた。クワットの設計班が聞けば喜ぶだろう、とシーアは思った。敵の観測員が聞けば、もっと喜ぶかもしれない。

 

 放送から一時間後、ラセルが同じ区域の新しい画像を送ってきた。退避路の一本に、車両の列ができ始めている。同じ画像の端で、地上の発着場から機体が引き出されていた。炉の熱は、少しも下がっていなかった。

 

「《ハービンジャー》を、もう少し前へ出せないかな。第32の後ろまで」

 

 シーアは砲戦群の位置を動かした。ソーンがキャリア群と帰投点を同じ画面へ出す。

 

「前衛はコーヴィンに任せましょう。こちらが近づけば、第32の動ける範囲も狭くなります。射程は今の位置で足ります」

 

「敵が前衛を抜けてきた時に、横から撃てる位置にはいたい」

 

「では、ここまで。キャリア群への回線も保てます」

 

 ソーンが示した位置は、シーアが望んだ所より一歩後ろで、ソーンが最初に言った所より一歩前だった。

 

「うん。そこで待つ。進出路と帰投点が揃うまでは、発艦させない」

 

「その予定で、各群へ送ります」

 

 セレナが交代表を持って入ってきた。明日の打合せが三つ、短くまとめてある。最後の欄には、休養と書かれていた。

 

「この前の打合せ、延びそうだね」

 

「航空の担当からも、同じお話がありました。確認事項を先に送っていただければ、時間内に終えられるそうです」

 

「じゃあ、今の配置も付けておいて。ソーンの交代は?」

 

「私も、その後に下がります。呼ばれなければ」

 

 ソーンが自分の予定表を見せた。シーアは笑って、交代の時刻を確かめた。

 

「呼ぶ用事は、起きている間に済ませよう」

 

 当直の画面に、前進していた偵察艇の報告が入った。

 

『外縁の第四航路付近に反応。ミュニファスント級と思われる艦影、四。航路を外れて移動中』

 

 ソーンが位置を拡大した。工業区でも、惑星の軌道でもない。攻撃計画で選んだ進入路の、側方だった。

 

 四隻。ムルカナで帰り道を塞いだのと同じ数だった。偶然だとは、シーアには思えなかった。

 

「その四隻を追って。見失ったら、最後の位置だけでもすぐに」

 

 シーアは休養の欄の手前へ、新しい報告を待つ時刻を書き込んだ。

 

 *

 

C.R.C. 7957.061 メタロンⅢ周辺宙域、《ハービンジャー》、艦橋

 

 最初に撃たれたのは、艦隊の方だった。

 

『第32、接触。ミュニファスント級二、レキューザント級一』

 

 コーヴィンの声が平らに入った。前衛のヴァリアント四隻が射線を開く。敵のミュニファスントは艦首の射界へ入らず、斜めに回り込みながら撃ってきた。その間をヴァルチャーの群れが抜け、ヴァリアントの盾に取り付いて光を散らす。

 

 艦首砲の正面には入らない。重い砲の前に艦を並べて沈めてもらうほど、向こうの指揮官は親切ではなかった。

 

 前衛からの映像が入った。遮蔽へ砲火が当たるたび、敵艦の輪郭が白く滲む。その光の間を、対艦攻撃隊が通っていた。シーアは味方機が抜けるまで映像を見てから、砲戦群の位置へ戻した。

 

 テクター群は外側から射線を取った。《ハービンジャー》の砲塔が回り、惑星の軌道に並ぶ防衛プラットフォームへ斉射を送る。プラットフォームの盾が白く膨らみ、二度目で一角が崩れた。

 

『《フォーティチュード》、被弾。前部遮蔽、四割低下』

 

 シーアが回線を選んだ時には、コーヴィンが損傷艦を僚艦の後ろへ下げていた。空いた射線を別の艦が埋め、その艦首砲がミュニファスントを追う。

 

「コーヴィン、こちらは外側を取る。下げた艦の後ろを空けておくよ」

 

『助かります。まだ前へは出さないでください。敵の雷撃機も混じっています』

 

 まだ、という一語にシーアは苦笑しかけた。作戦室でソーンと交わした話が、もうコーヴィンにも伝わっているらしい。シーアはコルヴェンへ頷き、敵の航空隊を表示させた。

 

 前衛の向こうで、ヴァリアントの艦首砲が一斉に光った。長い砲身から出た光の束が、回り込もうとしたミュニファスントの遮蔽を正面から叩く。敵艦は遮蔽を白く膨らませたまま横へ逃げ、その腹へ二隻目のヴァリアントの斉射が追いついた。外板が剥がれ、艦腹の砲の列が一つずつ消えていく。

 

「左舷の敵艦、遮蔽喪失。主砲、続けて」

 

 コルヴェンが砲術へ命じた。《ハービンジャー》の砲塔群が首を振り、プラットフォームから敵艦へ照準を移す。十二基の砲塔が順に光り、そのうち三発が逃げる敵艦の艦尾へ入った。推進器が一つ消え、敵艦は惰性のまま惑星の影へ流れていった。

 

『敵の一部が方位を変えた。キャリア群へ向かう』

 

 マドックの報告だった。シーアは後方の画面を見た。ミュニファスント級が二隻、前衛から離れて大きく回り込んでいる。昨日、偵察艇が拾った四隻のうちの二隻だった。

 

 ――母艦を下げさせたいのだ、とシーアは気づいた。母艦が下がれば、Z-95は帰りの燃料を数え始める。救難艇は前へ出られなくなる。ムルカナの形へこちらを押し戻そうとしている。

 

『第33、迎え撃つ』

 

「追わないで、マドック」

 

『追いません。キャリアの周りに残ります。アルファ-3も上げました』

 

 マドックの艦はキャリア群の外縁に並び、近づく敵艦へ射線を向けた。ミュニファスントが横へ逃れても、その場を離れなかった。アルファ-3の小さな反応が母艦の周囲へ広がり、敵機を追う隊と交代を待つ隊に分かれた。

 

 遠方では、ARC-170の隊が第三中継点の前哨へ取り付いていた。ヘイグの第34任務群がその後ろで帰投点を押さえる。救難艇は、まだ待機位置から動いていない。報告が来るまで出すな、とヘイグが命じていた。

 

 時刻表の針が、発艦の予定を指した。

 

 惑星への進入路は三本。そのうち二本は開いていた。最後の一本に、レキューザント級が一隻居座っている。艦首を前衛へ向け、主砲を撃ち続けながら、退こうとしない。

 

『PTB、発艦準備完了。許可を待つ』

 

 四隻のヴェクターの航空グループから、同じ報告が届いた。格納庫で二千機が待っている。シーアは発艦の予定時刻を見た。それから、進入路の最後の一本を見た。

 

「発艦は待たせる」

 

『了解。待機継続』

 

 ソーンの声が入った。

 

『各隊の間隔は、そのまま後ろへずらします。発艦を急がせても、集合で待つことになりますから』

 

「うん。目標までの時刻も直そう。先導隊だけ先へ行かないように」

 

 レキューザントは被弾していた。艦腹から破片を散らしながらも、惑星へ下りる空域に艦首を向け続けている。地表から伸びる砲火が、その向こうを通った。

 

 あの艦の艦長は、自分が何を止めているかを分かっている、とシーアは思った。たった一隻で二千機を格納庫に留めている。沈められるまで、そこを動く理由がない。

 

 そのレキューザントの側方に、小さな反応が並んだ。十二。艦砲の射線とは別の方向から、低く近づいてくる。

 

 BTL-A4だった。

 

 *

 

メタロンⅢへの進入路

 

 マイ・トレンは照準の中のレキューザント級を一度だけ見て、隊の位置を確かめた。

 

 左右の列とも、間隔は保たれていた。後ろにはZ-95の護衛が四機いる。《ヴァリアント》航空グループから次の攻撃隊の位置が送られてきたので、マイは自分たちの離脱経路を確かめた。別のスコードロンが通るまで、そう長くはない。仕事を終えたらすぐに道を空けなければならない。

 

『トレン少佐、こちら《ヴァリアント》射撃。三十秒後に第二斉射。目標遮蔽の左舷側』

 

「了解。左舷側が薄くなったところで入ります」

 

 レキューザント級は前衛へ主砲を向けたまま、近づく攻撃機にも迎撃火器を振り始めた。マイが隊を下方へ滑らせると、細長い艦体の腹が見えた。砲座から飛び出す光の間隔が、距離を詰めるにつれて狭くなっていく。

 

「ヴァルチャー、上。六機」

 

 三番機が言った。

 

「見えてる。護衛が行くから、こちらはそのまま」

 

 護衛のZ-95が上へ出て、ヴァルチャーの列に割り込んだ。撃ち合いの光が、隊のすぐ上で交差する。マイは目標と時計を見比べた。上を見るのは、Z-95の仕事だった。

 

 《ヴァリアント》の第二斉射が、レキューザントの左舷へ入った。遮蔽が白く膨らみ、一点で破れる。

 

「全機、雷撃位置。私の合図で」

 

 艦砲が削った側から、艦砲では狙いにくい角度へ回り込む。レキューザントは主砲を前衛へ向けている。こちらを向けば、その間もヴァリアントの斉射を受ける。向かなければ、魚雷を受ける。

 

 どちらを選んでも、あの艦は損をする。マイが自分の機で作れる選択肢としては、悪くなかった。マイは艦尾寄りの照準点へ機首を揃えた。

 

「七番、被弾!」

 

 右の列で一機が火を噴いた。推進器の片方が止まり、隊から離れていく。

 

「ノード、聞こえる?」

 

『聞こえます。舵が半分。射出は……まだしなくていい』

 

「位置を救難へ送る。後ろに艦がいる。待てる?」

 

『待てます』

 

 マイは座標を救難の回線へ流した。ヘイグの救難担当から受領が返り、迎えに出す艇の符号が告げられた。ノードへ伝えると、返事の途中に金属を叩く音が混じった。

 

「何をしてるの」

 

『やられた方を止めようと。スイッチが……ああ、切れた』

 

「触りすぎないで。迎えが行く」

 

 ノードは了解と返した。

 

 触るなと言われて素直に手を止める男なら、少尉の頃の自分の隊にはいなかった、とマイは思った。今の隊にも、たぶんいない。マイは彼の反応を画面の端へ残し、照準へ目を戻した。十一番機が遅れかけていたので、隊の間隔を戻すよう呼びかける。自分の機首も、いつの間にか目標からずれていた。

 

「残り十一機。雷撃、用意」

 

 距離の数字が減っていく。レキューザントの迎撃火器が、隊の先頭を捉え始めた。マイは照準点を外さず、発射可能の表示が点くのを待った。

 

「放て」

 

 十一機の腹から魚雷が離れた。マイは機首を上げ、味方の射線の外へ抜けた。後方の画面で、白い航跡がレキューザントの艦腹へ吸い込まれていく。一本。二本。三本目で、艦の姿勢が変わった。

 

 レキューザント級は傾いたまま、進入路の外へ退いていった。まだ魚雷を残していると二番機が告げたが、マイは集合を命じた。敵艦の向こうでは味方の砲塔が回り、新しい射線が引かれようとしていた。

 

『第三進入路、開放』

 

 航空指揮の声が入った。別の攻撃隊がプラットフォームの一角を崩したという報告が続く。

 

 ヘイグからも、帰投点の確保を終えたと報告が入った。救難艇を前へ出せるという。

 

 それから少し間があって、旗艦の回線が開いた。

 

『爆撃隊、発艦』

 

 シーアの声だった。

 

 マイは隊を引き返させ、味方の射線を外して大きく回った。その途中で、四隻のフリート・キャリアの方角から新しい反応が現れ始めた。先頭の列の後ろに次が続き、表示の尺度を変えても、まだ奥から増えてくる。

 

『帰投する攻撃隊、爆撃隊の集合空域を空けろ』

 

「了解。十一機、外側を通る」

 

 十二と言いかけて、マイは数を直した。救難の回線は、開いたままにしておいた。

 

 *

 

《セレリタス》、主格納庫からメタロンⅢの投下空域

 

 ガレス・ロウランは、新しい発艦時刻を膝の板へ書き込んだ。三度目の訂正で、最初に書いた数字はほとんど見えなくなっていた。

 

「それ、読めます?」

 

 隣から副操縦士が覗き込んだ。

 

「最後に書いたところだけ読めればいい」

 

「最後は、どれです」

 

 ロウランは数字を丸で囲んだ。

 

 時刻が三度変わったのは、上で誰かが待っているからだ。ムルカナの時、発艦の時刻は一度も変わらなかった。代わりに帰ってくる機の数が変わった。

 

 航空グループから発艦許可が来た。端末に出た時刻も、丸で囲んだ数字と同じだった。副操縦士へ板を見せてから脇へ挟み、操縦桿を握った。

 

『〇九一から〇九六、発艦。続いて――』

 

 隣の列で、一機の推進器が咳き込んだ。整備員が走り、機長が手を振る。五人が搭乗口から降り、抱えた荷物をぶつけ合いながら予備機へ走っていった。牽引車が故障機を脇へ寄せる間も、こちらの列は前へ動いている。ロウランが誘導灯の下まで出た時には、乗り換えた機の推進器が回り始めていた。

 

 訓練で一度やった手順だった。訓練の時は、誰も荷物をぶつけ合わなかった。

 

「行くぞ」

 

 副操縦士が復唱し、機関員が推進器の状態を読み上げた。ロウランは《セレリタス》の開口部から出た。

 

 外は、混んでいた。

 

 自分の母艦の列だけではなかった。《レディトゥス》から、《ヴィジリア》から、《ソレルティア》から、それぞれの列が別々の集合位置へ向かっている。高度と進路を分けた帯が、惑星へ向かって何本も重なっていく。間隔を保った隊が、短い時刻の幅に次々と入っていた。

 

 表示を絞らなければ、味方の符号が重なって読めなかった。ロウランは自分の編隊と近くの護衛を残し、ほかを消した。風防の外には、消したはずの機が何列も飛んでいる。前の隊が惑星へ向きを変えると、その上を横切る別の隊の腹まで見えた。

 

 画面から消せても、空からは消えない。ロウランはそれが妙に心強かった。

 

 右にZ-95がいた。翼を軽く振って、位置を知らせてくる。前方ではテクターの砲火が、惑星の軌道を照らしていた。ムルカナでは、この空に味方の艦は一隻もいなかった。

 

『中央進入隊、降下開始』

 

 前の隊が外気圏へ入っていった。ロウランの隊がその後を埋め、さらに後ろを別の飛行団が埋める。

 

 ヴァルチャーが来た。上から、遅れた隊を狙って降ってくる。一機が撃たれ、もう一機が煙を引いた。撃墜の報告が回線に流れる。

 

 それでも、列は途切れなかった。

 

 ヴァルチャーの群れが一つの隊を襲い、護衛と撃ち合いながら離れていく。その群れがまだ空域にいるうちに、次の爆撃隊が降下線へ入った。敵の一部が引き返そうとしたが、Z-95が後ろへ付いて追い払った。

 

 ロウランの左で、別の飛行団の一機が火を噴いた。推進器の後ろから噴いた炎が尾を引き、機は列の外へ傾いていく。Z-95が二機、すぐにその両脇へ付いた。一機が敵を払い、もう一機が傷んだ機の前へ出て進路を示す。三機は列から外れ、帰投点の方角へ下がっていった。

 

『左へ離れる機、そのまま行け。こちらで引き受ける』

 

 護衛からの声に、傷んだ機が了解を返した。ロウランは自分も左へ向きかけていたことに気づき、前の機との間隔を戻した。

 

 ムルカナでは、傷んだ機を助けに出た機ごと落とされた。体はまだ、それを覚えていた。

 

「高度、二万。まだ下りられます」

 

 副操縦士が読んだ。ロウランは機首を下げたまま、前の機との間隔を保った。

 

 雲の内側が光った。

 

 下から伸びてきた砲火が編隊を抜け、頭上へ消えた。次の光は左の列に当たった。一機の遮蔽が白く膨らみ、もう一発がその翼を根元から折る。機体は横倒しになって雲へ入り、機関員の呼びかけにも返事をしなかった。

 

「左へ寄るな。そのまま」

 

 副操縦士が左手を伸ばし、風防の隅を指した。火を噴いた機の後ろから、もう別の機が降りてきている。ロウランは自分の位置を確かめ、下げた機首を戻さずに飛んだ。次の砲火が機体の下を通り、前部火器担当の声が途切れた。

 

「いま何て言った」

 

「標識が出た。雲を抜ければ見える」

 

「分かった。見えたら教えてくれ」

 

 雲を抜けると、川沿いに延びる工業区が見えた。長い建屋が幾列も並び、その間を搬送路と配管がつないでいる。先導隊の爆撃で、北側の一角から煙が上がっていた。その煙の手前に、標識が二つ見えた。

 

「標識、確認。照準、合致」

 

 爆弾倉が開いた。ロウランは風防の下を流れる屋根を見ていた。対空砲の光が、建屋の間から斜めに上がってくる。右の遮蔽に当たり、警報が鳴った。

 

「あと五秒。保って」

 

 前部火器担当の声に、ロウランは短く返した。

 

「分かってる」

 

 ムルカナでは、投下の数秒を保てずに外した機がいくつもあった。今日は五秒ある。前に味方の艦がいて、横に護衛がいるからだった。

 

 照準の数字が減った。

 

「投下」

 

 二十四発が腹から離れた。機体が軽くなっても、ロウランは引き起こすのを待った。最後の弾が架を離れたという声を聞いてから、操縦桿を引いた。

 

 後方の画面で、組立棟の屋根に穴が並んだ。

 

 棟の内側が白く光り、屋根が梁ごと持ち上がった。壁が外へ倒れ、生産設備の列が露出する。その列へ、次の機の爆弾が入った。残っていた支柱が折れ、組立途中の機体も、吊ったままの部材も、床から噴き上がる火の中へ落ちていく。

 

 右の列は検査棟を撃っていた。左の列は集積場だった。建屋の間に積まれていたコンテナが跳ね上がり、崩れた山へ次の爆発が重なった。爆風で飛んだ屋根板が搬送路を横切り、停まっていた運搬車の列へ降り注ぐ。車両も道路も、すぐに土煙の下へ隠れた。

 

「倉、閉じた。後ろは空いてる」

 

 ロウランは離脱経路へ機首を向けた。

 

 その下を、次の飛行団が通っていった。

 

 開いた爆弾倉が続いている。先頭が落とし、隣が落とし、その後ろも落とした。黒い点の列が幾筋も地表へ延び、先ほどまで屋根の並んでいた場所へ吸い込まれていく。火の中で新しい閃光が走るたび、立っていた壁が減った。

 

 煙が標識を隠し始めた。先導隊の報告が入り、後続の隊は、まだ見える工場東端を確かめながら進んでいた。

 

『東の標識が見えない。北の搬送路から取り直す』

 

『もう搬送路はないぞ。川を見ろ、川の曲がりだ』

 

 砲火を避けて列を外れた機が、腹を開いたまま煙を横切った。その機の後ろにも、爆弾の列が残った。工場を囲んでいた塀が途中からなくなり、その先の道路に閃光が並んだ。煙が薄れた時には、塀のどちら側だったのか、見分けがつかなかった。

 

 ロウランはそれを撃った機の符号を探そうとした。符号を確かめる前に、次の機が煙を横切った。ロウランは前の編隊へ目を戻した。

 

『南側攻撃隊、投下』

 

 動力区画が光った。

 

 変圧器の列が爆発に呑まれ、隣の配電施設の壁がめくれた。太い送電線が支柱ごと倒れ、地面を叩く。冷却塔の根元から土煙が噴き出し、傾いた塔の上半分が、まだ立っているもう一本へぶつかった。

 

 二本の塔が崩れる途中で、その奥の燃料貯蔵区画に爆弾が入った。

 

 火球が画面いっぱいに膨らんだ。露出の補正が追いつかず、風防の表示から工場の輪郭が消える。次に映った時には、貯蔵槽の一つが上蓋を失い、その周囲へ燃える燃料を撒いていた。火は配管に沿って走り、隣の槽の下へ入った。

 

「後方の映像、明るさを落としてくれ」

 

 ロウランが言い終わる前に、隣の槽も破裂した。機体が下から押し上げられ、座席の留め具が肩を引いた。副操縦士も操縦へ手を伸ばし、二人で姿勢を戻す。水平を示す線の向こうで、燃える塊が雲の中まで昇っていた。

 

 雲の底が赤く照らされた。その下で、爆弾の閃光がまだ続いている。燃料の区画だけではなかった。川向こうの工作施設でも、組立棟の南に広がる倉庫街でも、別の隊が投下を始めていた。画面を引くと、工業区の端から端まで、煙の柱が立っていた。

 

 川沿いの積込み施設が崩れた。クレーンの腕が傾き、岸壁へ倒れ込む。跳ね上がった水と土砂が、上空から降り続ける破片を呑み込んだ。道路の交差点が煙の下へ沈み、工場から外へ続いていた車列が、その手前で止まった。

 

 市街に近い建物の屋根へも、燃える破片が落ちていた。工場との間の通りを、土煙が渡っていく。窓の列が一斉に白く光り、消えた。運搬車とは違う小さな車が何台も、工業区から離れる道へ向かっていたが、先の交差点は崩れた壁に塞がれている。車列の後ろへ、さらに車が入ってきた。

 

 予告にあった退避路の一本だ、とロウランは気づいた。地図で見た時には、あの交差点はまだ道の真ん中にあった。

 

 ロウランが映像を拡大しかけた時、敵機警報が鳴った。

 

「右上!」

 

 ヴァルチャーが二機、煙の上から降ってきた。後部銃座が撃ち、Z-95がその間へ入る。ロウランは前の機を追って機首を振った。別の砲火が雲を突き抜け、少し後ろを飛んでいた爆撃機の腹に当たった。その機は爆弾倉を閉じられないまま、下へ滑っていった。

 

『離脱中の各隊、北へ寄るな。東側攻撃隊が進入する』

 

 ロウランは指定された方へ戻した。

 

 後続はまだ来ていた。煙に隠れた工場へ向け、腹を開いた機が次々に下りていく。さっき自分が通った空域を、もう別の機長が飛んでいる。編隊の尾を見つけようとして後方の画面を広げたが、雲の上にも、さらにその上にも味方の反応が続いていた。

 

 軌道の映像が、画面の隅へ入った。

 

 テクターの斉射を受けた造船架台が、中ほどから折れていた。建造中の船体が固定具を引き千切り、ゆっくりと腹を見せる。その腹へ次の光が入り、内部を艦首の方まで走った。外板が何枚も剥がれ、架台から離れた船体が、二つに分かれていった。

 

 あの船も、どこかの格納庫で誰かが点検の印を付けるはずの船だった。ロウランはその考えを、次の進路と一緒に脇へ置いた。

 

「二番集合点、見えた」

 

 副操縦士に言われ、ロウランは前へ目を戻した。迎えの戦闘機が、こちらへ向きを変えていた。

 

 投下から、まだ六分しか経っていなかった。

 

 後方の画面には、もう標識も屋根の列も見えない。川の曲がりだけを頼りに、自分が撃った場所を探した。その辺りは一続きの煙に覆われ、下から赤く明滅していた。

 

 そこへ、また爆弾の列が落ちていった。

 

 *

 

メタロンⅢ、現地防空指揮所

 

 最初に訂正が入ったのは、識別の欄だった。

 

「外縁ノ大型艦、四。テクター級ト識別」

 

 軌道の観測所が送ってきた識別を、通信席のB1が読み上げた。灰色の楔形が四隻、星系の外縁で止まっている。輪郭も、上に重なる艦橋の塔も、テクター級の記録と同じだった。

 

「輪郭ダケデ判定シタナ。熱源ヲ数エロ」

 

 戦術ドロイドが言った。B1は観測所の記録を開き直した。

 

「……一隻ニ、一ツ。テクター級ナラ、二ツデス」

 

「下面ハ」

 

「観測所ガ捉エマシタ。艦腹ニ大型ノ発着口。中カラ、爆撃機ガ出テイマス」

 

「ヴェクター級ダ。資料ヲ出セ」

 

 B1は情報部の資料を開いた。頁は厚かった。クワットの造船所での受領の報道。共和国の報道に出た四隻の艦名と、第3艦隊への配属。元老院の委員会で公表された陽子爆弾の調達数と、そこから逆算した一隻あたりの搭載数の推定。テクター級と同じ船体で、二次反応炉を降ろし、空いた容積を格納庫へ回した艦だった。どれも共和国が自分で公にした記録から拾い集めたものだった。

 

「一隻ニツキ、爆撃機五百前後。四隻デ二千」

 

「来ル数ハ、モウ分カッテイル」

 

 戦術ドロイドは外縁の表示へ目を戻した。四隻の後ろに、同じ楔形がもう四隻、惑星の側へ進んでくる。こちらの熱源は二つずつだった。

 

「分カラナイノハ、ドノ楔形ガ、ドレカダ。砲戦艦ナラ砲台デ受ケル。キャリアナラ、出テクル機ヲ迎撃機デ受ケル。輪郭ダケデハ、ソノ順番ガ決メラレナイ。熱源ト下面ヲ、全部ノ楔形ニツイテ取リ直セ」

 

 戦術ドロイドは配置を組み直し始めた。

 

 それから、B1は報告を読み上げながら、次々に回線を開いていった。

 

「中央上空デ三機。南側デ一機、撃墜確認」

 

「予備隊ヲ東ヘ回セ。次ノ列トノ間ニ入レル」

 

 背後の戦術ドロイドが指示を出した。B1は待機中の隊へ発進先を送り、三つの受領を確かめる。最初の隊はすぐに上がった。残る隊には、まだ弾薬を積んでいた。

 

「全機ノ補給完了マデ四分デス」

 

「出セル機ハ」

 

「八機」

 

「ソノ八機ヲ出セ。残リハ後ヲ追ワセル」

 

 戦術ドロイドの頭部の光が、共和国の列の間隔を測っていた。

 

「敵ノ列ノ間隔、平均四十秒。我々ガ再攻撃ノ位置ニ戻ルマデ、平均九十秒。一隊ヲ迎撃スル間ニ、二隊ガ通過スル」

 

「計算ガ合イマセン」

 

「合ワナイノハ、計算デハナイ。機数ダ」

 

 B1は返事に迷い、ラジャー、ラジャー、とだけ言った。

 

 基地の映像では、給弾装置から外れたヴァルチャーが走り始めていた。脚を折り畳み、地面を離れる。その上空を、共和国の爆撃機の列が横切った。B1は映像を小さくして、別の回線から来た射撃時刻を入力した。

 

 東へ回した迎撃隊が、爆撃機の列へ入った。先頭の三機に攻撃が集中し、後ろの機が左右へ逃れる。そこへ地上砲台の射撃が重なった。破片が落ち始め、残った機も進路を変えた。

 

「東側、三機ヲ撃墜。編隊、分散シマシタ」

 

「交代隊ハ、ソノ下ヘ。上ガッテクル護衛ヲ押サエロ」

 

 戦術ドロイドは次の目標を示していた。B1が命令を送る間に、迎撃隊はZ-95と交戦し始めた。旋回する機の下を、別のPTB-625の列が通っていく。散った隊の機も、そちらへ合流しようとしていた。

 

 崩した列が、次の列に吸い込まれていく。B1は撃墜の数を一つ足し、それから足した数の意味を考えるのをやめた。考えるのは、後ろの戦術ドロイドの仕事だった。

 

 地上からの呼出しが二つ重なった。一つは砲台から、もう一つは組立施設の管理区画からだった。B1は砲台を先にした。照準器を失ったという。隣の射点から目標情報を送るよう手配し、管理区画へ切り替えた時には、呼出しが途切れていた。

 

「組立施設、応答シテクダサイ」

 

 雑音の向こうで何かが崩れる音がした。B1は受信の出力を変え、もう一度呼んだ。窓のない指揮所の床にも、振動が伝わってきた。

 

 軌道から新しい交戦記録が届いた。側方へ回したミュニファスント級の斉射が、共和国のフリゲートを捉えていた。船体から炎が伸び、近くの艦が回収艇を出している。

 

「敵フリゲート一隻、大破。帰投点ヘノ射撃ハ――」

 

 記録の続きで、ミュニファスントの遮蔽が光った。共和国の艦がこちらへ艦首を向けていた。敵の砲火を避けるたびに、爆撃機への照準が外れている。交代の戦闘機も来ていた。帰投点へ送った迎撃隊から、護衛を引き離せないという報告が続いた。

 

「ムルカナデハ、帰リ道ニハ爆撃機シカイナカッタ」

 

 戦術ドロイドが言った。誰に聞かせるためでもない声だった。

 

「今日ハ、帰リ道ニ艦ガイル」

 

「補給基地、北区画ニ着弾!」

 

 隣の席のB1が声を上げた。さっき八機を発進させた基地だった。給弾を待っていた機が、倒れた給油設備の下へ隠れている。発着場の端へ走り出した機のうち、二機が浮く前に爆発へ呑まれた。

 

「帰還中ノ隊ハ西ノ基地ヘ回セ」

 

 戦術ドロイドが言った。

 

「到着スルマデニ、次ノ爆撃隊ガ来マス」

 

「西ニハ燃料ガアル。ココニハ、モウナイ」

 

 B1は行先を変更した。帰投する機と発進する機の時刻が入れ替わり、工業区の上に迎撃隊のいない時間ができた。地上砲台は撃ち続けていたが、その間にも爆弾が落ちていた。

 

 途絶えていた工場の回線が戻った。中央の組立棟へは入れない。検査設備は全停止。燃料の火災へ回す車両が足りない。呼びかけているのは、さっきまでの管理担当者とは別の声だった。

 

 B1は受領を返し、施設の状態を更新した。まだ連絡のつく工場もあったが、生産中と答えるところはなかった。

 

「残ル艦ヲ外側ヘ下ゲル。航空隊ノ回収ヲ優先」

 

 戦術ドロイドの命令で、艦隊の配置が変わった。ミュニファスントは撃ちながら離れ、損傷したレキューザントがその後ろへ続いた。

 

「工場ハ、守ラナイノデスカ」

 

 B1が訊いた。

 

「守ルモノガ、モウナイ。艦ト機ヲ残セバ、次ノ工場ヲ守レル」

 

 B1は最新の配置と撃墜報告をまとめ、その下に地上の報告を付けた。

 

 送付先は、ラクサスの同盟防衛艦隊総司令部だった。

 

 受領の符号が返る頃、軌道の造船所からも被害報告が来た。B1は送信を終えた頁を開き直し、続きを加え始めた。

 

 *

 

メタロン星系外縁、《セレリタス》、主格納庫

 

 ベックたちの作業は、帰還機の到着に追いつかなかった。

 

 受入れの線から整備の線へ走り、また受入れの線へ戻る。開口部から、PTB-625が次々に入ってきた。誘導員の腕が止まる暇がない。発艦と帰還の経路を分けたのは、正しかった。分けていなければ、最初の十機で床が詰まっていた。

 

 それでも、壊れた機は予定どおりには曲がれない。

 

 推進器を片方失った機が、整備へ回る角を曲がりきれずに止まった。後ろに三機が溜まる。ベックは隣の飛行団の班長を呼んだ。第14の班長だった。工具台の件以来、顔を見ればそれで話が通じる。

 

「そっちの台、動かせるか」

 

「動かす。こっちの機を先に右へ入れろ」

 

 二人で工具台を押し、止まった機を牽引車で引き出した。航空グループの受入れ担当が、後ろの三機を別の区画へ回すよう指示した。隣の班長が自分の隊の者を呼び、まだ空いている列へ案内する。

 

 工具台一つで格納庫が詰まる。七個の飛行団が一つの床で働くというのは、そういうことだった。そして工具台一つで、また流れ出す。

 

 無傷に見える機が降りた後から、銃座の風防を割られた機が入ってきた。爆弾倉の扉に破片を挟み、閉じられない機もある。搭乗員が点検表より先に故障箇所をまくしたてるので、ベックは機関の停止を確かめながら聞いた。

 

「分かった。まず、全員降りてください」

 

「右の脚が引っかかったんだ。飛んでる間は収納の表示が消えなくて」

 

「ここでロックします。お帰りなさい」

 

 機長はようやく話を止め、ああ、ただいま、と言った。後ろから降りてきた銃座員が彼の肩を押し、通路を空けさせる。ベックは脚の下へ入り、頼まれた箇所を確かめた。

 

 ただいま、と返ってきた。ベックはそれを脚の留め具を締めながら聞いた。言葉の返ってこない「お帰りなさい」を、これまで何度言ったかは数えていなかった。

 

 受入れの表示板では、帰還の数が一つずつ増えていった。十。五十。二百。ムルカナの時は、帰ってくる機を一機ずつ数えて待った。今日は、数える暇がなかった。

 

 縁に近い緊急の着艦口には、傷んだ機と救難艇が入っていた。救難艇から、機を失った搭乗員が降りてくる。煤で顔の分からない男が、自分で歩けると言って担架を断った。

 

 男の後ろから降りた救難員が、拾った場所の座標を渡した。帰投点の向こうだった。ムルカナでは、艇を出せなかった方角だ。ベックは場所を確かめてから、救護班へ案内した。

 

 回線では、他艦の収容状況も流れていた。《ヴァリアント》の攻撃隊、トレン隊十一機帰艦。被弾した一機の操縦士も回収済み。受入れ担当が救難艇の行先を確かめ、別の隊の照会へ移った。

 

 工具を渡しに来た若い整備員が、いまのは全員ですか、と訊いた。

 

「十二人だそうだ」

 

「よかった」

 

 ベックも頷いた。返された工具を箱へ戻す前に、隣の機から呼ばれた。

 

 未帰還機の照会欄には、〇四二も残っている。ベックはその横へ新しい照会を加え、次の機の点検口を開けた。

 

 *

 

C.R.C. 7957.062 メタロン星系外縁、《セレリタス》、主格納庫

 

 昼の交代が来た頃、受入れ区画の混雑がようやく引いた。整備へ回した機は、機首を揃えて奥まで並んでいる。床に落ちていた外板の切れ端を拾いながら、ベックは次に使う台車を引き出した。

 

 ハーランが来たのは、その頃だった。実戦搭乗の許可は、まだ出ていない。制服の袖を留め、作業の邪魔にならないよう壁際に立っていた。ベックが気づいて工具を置くより先に、点検を終えた機の陰から、一人の機長が顔を出した。

 

 ガレス・ロウランだった。ムルカナで、航法を失ったハーランの機に座標を送り続けた「ツー」の機長だった。

 

「ハーラン」

 

「ロウラン」

 

 二人はそれ以上の挨拶をしなかった。ロウランは自分の機の外板を指した。翼端が焦げているだけだった。

 

「昨日は、下りられた」

 

「……どこまで」

 

「標識が見えるところまで。照準と光が重なった。外気圏から落とせとは、誰も言わなかった」

 

 ハーランは黙って聞いていた。訊きたいことは、もう一つあるように見えた。ベックは工具を置いたまま、その続きを待った。

 

「帰りに、隣の隊が一機やられた。航法が死んでた。Z-95が二機付いて、母艦まで連れて帰った」

 

「救難は」

 

「出てきてた。敵のいる側まで」

 

 ハーランはロウランの機の後部銃座を見上げた。

 

「後ろの奴は?」

 

「無事だ。先に寝かせた」

 

「そうか」

 

 ハーランは頷いた。搭乗口に手を掛けたが、中へは入らなかった。

 

「食堂へ行くところだったんだ。何か食ったか」

 

 ロウランが訊くと、ハーランは首を振った。

 

「じゃあ、一緒に来いよ」

 

「……後で行く」

 

 ロウランは頷き、通路へ出た。後で、が今日のうちに来るかどうかを、ロウランは訊かなかった。ハーランは搭乗口から手を離し、壁際へ戻った。そこに立っていたレムと何かを話してから、二人で食堂とは逆の方へ歩いていった。

 

 夕方、集計が出た。

 

 PTB-625、出撃二千四機。帰還千九百五十六機。未帰還四十八機。帰還機のうち修理不能、二十四機。帰還率、九十七・六パーセント。

 

 四十八は、小さな数ではなかった。四十八の機に、二百四十人が乗っていた。救難艇が連れ帰った者の照合も、まだ続いている。それでも飛行団は、次の作戦を組める数で残っていた。ムルカナでは九十六機のうち二十八機が戻らず、次の出撃が延期になった。

 

 戻らない機の割合は、ムルカナの十分の一を下回った。

 

 ベックは戻らない機の照会を残したまま、明日も使う機の点検へ戻った。

 

 *

 

《ハービンジャー》、作戦室

 

 造船架台は、もう架台の形をしていなかった。

 

 ラセルが送ってきた写真では、軌道の三つの架台がどれも中ほどで折れ、建造中だった船体は固定具ごと破片の帯になっていた。地上の写真では、組立棟と検査棟のあった区画が瓦礫に覆われ、その外側の部材の集積場も黒く焼けている。動力設備の変圧器の列は、半分が溶けて傾いていた。燃料の貯蔵区画は、まだ燃えていた。

 

 《エンヴォイ》から移ってきたソーンが、卓の向かいへ座った。報告が揃うまで待っていたシーアは、椅子ごと近づきかけ、セルトの置いた端末を避けて止まった。

 

「主要工程、停止を確認」

 

 ソーンが言った。

 

「迂回して生産を続けられる損害ではありません。造船所の再開には、架台を一から組み直す必要があります」

 

 シーアは写真を一枚ずつ送った。送るたびに、口元が緩むのを止められなかった。

 

「成功だ」

 

「成功です」

 

 ソーンも認めた。認めてから、夕方にまとまった航空隊の集計を開いた。認めた直後に次の頁を開くのは、ソーンなりの祝い方だった。

 

「次のムルカナですが、整備中の機と休養中の隊を戻して出すなら、073日まで待ちたいところです。機体だけ直しても、人が戻りません」

 

「071日には出たい。メタロンの交代部隊が着くのは068日だね」

 

「はい。ただ、修理不能の二十四機に加えて、整備待ちが九十機あります。搭乗員をまとめて休ませたいスコードロンも六個。艦の引継ぎより、そちらに時間が要ります」

 

 シーアは稼働表を手元へ寄せた。修理の完了予定と、その機を使う搭乗員の復帰予定が、別々の列に出ている。

 

 機は直せば飛ぶ。人は直す方法がない。休ませて待つしかない。ゲーリンが削っていたのは、結局この二つ目の列だった。

 

「この六個スコードロンは残そう。071日に出せるのは、何機?」

 

「今の見込みで千八百です。艦に残す機から、発艦の予備も確保できます」

 

 シーアはムルカナの配分表を開き、進入路ごとに機数を入れ直した。ソーンが護衛の交代と帰投支援を重ねる。

 

「千八百で組もう。整備の遅れが出たら、この数も見直す。時刻に合わせて人を戻すのは、なしで」

 

「その条件で、航空の担当に詰めさせます」

 

 セルトが《ヴァリアント》からの報告を持ってきた。マイの隊の初戦の記録だった。十一機帰艦。被弾した七番機の操縦士は救難艇で回収、負傷は軽い。

 

 シーアは読み終えてから、もう一度最初から読んだ。

 

「全員か」

 

「全員です」

 

「トレン、今つながるかな」

 

「本人の報告は終わっています。呼びますか」

 

 セルトが回線を選ぼうとすると、シーアは手を上げた。

 

「休んでいたら起こさなくていい。あとで話したいとだけ、伝えておいて」

 

 報告を閉じる前に、負傷した操縦士の名をもう一度確かめた。ノード。マイが紹介してくれた時、自分の返礼が終わるまで敬礼を続けていた男だった。シーアは軽傷という記載まで読み、それからホーンへの報告を開いた。

 

 帰還数に修理の状況を添え、次の出撃の見込みを先頭へ置いた。ホーンに求められた項目は揃っていた。戦果の写真を付けて送り、飛行団ごとの損耗と補充要求は、共和国スターファイター軍団へも回した。

 

 戦果より先に、次に出せる数を書く。ホーンはそれを見て、たぶん何も言わないだろう。何も言われないことが、この報告の合格の印だった。

 

 民政班から、別の照会が回ってきた。

 

 メタロンⅢの民間軌道港。港務官トーレン・バスク。今度の文面は長かった。住宅区の暖房が止まり、交通が止まり、病院の発電機の燃料が足りない。搬送用の艇。携帯暖房器。発電機。医療資材。道路の寸断を示す地図と、工場の火災を映した映像が添えてあった。

 

 確認された死者の数は、照会が届くたびに書き換わっていった。推計は民政班がまとめている途中で、まだ幅が定まらない。

 

 シーアは動力設備の行を、もう一度開いた。民間二次被害の欄には、住宅区の給電が止まると書いてある。承認した時に読んで、残した行だった。バスクの照会には、その給電を失った病院の名と、発電機を動かせる残り時間が並んでいた。

 

 シーアは民間便の通行と、住宅と医療向けの物資の搬入を許可した。補給艦の在庫から出せるものを民政班へ回し、残りは後続の部隊と本部へ引き継ぐ。工場を元へ戻す仕事は、そこに入っていなかった。

 

 翌日から始める補給の予定へ、救援に回す分も加えた。燃料と医療資材の受渡しを続ける艇は、攻撃隊の帰投経路から外へ出してある。セルトが後続部隊へ引継ぎを送り、シーアは出せる物資の残量を確かめて署名した。

 

 *

 

C.R.C. 7957.070 メタロン星系外縁、《ハービンジャー》、食堂

 

 六十八日に着いた交代部隊が、メタロンの監視と救援の受渡しを引き継いでいた。第3艦隊では修理と弾薬の積込みが続き、補給を終えた群からムルカナへの進出位置へ移り始めている。食堂の入口には、今夜が最後の連絡艇になる艦の名が出ていた。

 

 ケレンは作業班の交代に合わせて、食堂の時刻を組み替えていた。帰還の夜に続き、整備が夜中までかかった者にも温かいものが出る。シーアが様子を見に行くと、食堂の奥で整備員と搭乗員が同じ卓を囲んでいた。マイもいる。隣の操縦士が両手で何かを示すたび、向かいの整備員が違うと首を振っていた。

 

「司令官もどうぞ」

 

 ケレンが皿を差し出した。

 

「ありがとう。向こうに座ってもいい?」

 

「ええ。連絡艇の最終便まではいられるそうです。明日は、食堂を開けておく時刻も先に教えてください。戻ってきた方から食べられるようにしますから」

 

「予定がまとまったら、航空の担当から渡してもらうよ」

 

「航空の担当の方は、まとまる前に教えてくださいます」

 

 ケレンは笑って厨房へ戻った。シーアは反論の材料を探し、見つけられなかった。

 

 卓の端で、マイが椅子を引いた。シーアは礼を言って座り、立ちかけた操縦士たちにも食事を続けるよう手を振った。

 

「さっきは、何の話?」

 

「降りた機を、誰がどこまで直せるかという話です。整備の方と意見が合わなくて」

 

 マイが答えると、向かいの整備員が笑った。

 

「外から見えない所もありますからね。飛べそうだ、と言われても」

 

「私じゃありませんよ。ここにいる人たちです」

 

 シーアは笑ってから、マイの方へ身体を向けた。

 

「十二人戻ったと聞いたよ。よかった」

 

「はい。ノードも歩いて戻ってきました。最初に、あの機はもう駄目ですか、って」

 

「彼らしいね」

 

「まだ痛むそうで、今日は医務区画です。迎えの艇には、本人から礼を言わせました」

 

 言わせた、という言い方にシーアは少佐の顔を見た。少尉だった頃のマイなら、自分で礼を言いに行っていただろう。

 

 マイは卓へ置いていた連絡艇の時刻表を畳んだ。シーアが手元の端末を見せると、彼女は次の出撃に必要な確認を二つ挙げた。一つは帰投先を変える場合の連絡で、もう一つは攻撃隊の整備に使う時間だった。シーアは航空担当へ送り、返事が来たところでマイへ画面を渡した。

 

 隣の若い中尉が、皿の上の焼き菓子を一つ譲ってきた。

 

「いいの?」

 

「はい。さっき取ってきたところです」

 

 その時、端末が鳴った。《ソレルティア》の弾薬積込みが終わったという知らせだった。シーアは菓子を口に入れたまま返事を打ち、飲み込んでから中尉に礼を言った。中尉は自分の皿の残りを見て、それから司令官の皿を見た。

 

「もう一つ、取ってきましょうか」

 

「僕が行くよ。君も同じのでいい?」

 

 中尉は少し迷い、お願いします、と答えた。司令官に菓子を取りに行かせた中尉は、たぶん艦隊でも彼が最初だった。

 

 連絡艇を見送って司令官室へ戻ると、エレナから通話できるという知らせが来ていた。セレナと翌朝の予定を確かめ、回線を開いた。エレナは台本を片手に、いつもの稽古場の隅へ座っていた。

 

「明日は、出るんでしょう」

 

「うん。さっき、四隻目の積込みが終わった」

 

「トレンさんには会えた?」

 

「食堂で一緒だった。操縦士たちと整備員が、飛べるかどうかで言い合っててね。トレンは、自分じゃないって」

 

 エレナが笑った。シーアは卓での話を続け、明日の出撃もマイと一緒になると話した。

 

「今度も、あの数で?」

 

「千八百。休ませる隊を残していくことにした」

 

「それでも、随分な数ね」

 

「最初は、格納庫が余ってると思ったんだけどね。今は、どこへ行っても機か部品が置いてある」

 

 エレナが机の方を覗き込んだ。

 

「そっちも?」

 

「ここは、片付けた」

 

 片付けたのはセレナだったが、そこまで言う必要はなかった。シーアは模型の写真を一枚送った。一軒だけ、明るい青に塗り直した家だった。

 

「その色なら、水と違って見える」

 

「でしょう」

 

 エレナは台本を持った人が画面の端へ来るまで、その一軒の置き場所を話していた。回線を閉じてから、シーアは模型の家を桟橋のそばへ寄せた。横から覗こうとして、セレナの置いた翌朝の予定を肘で押してしまい、慌てて拾い上げた。

 

 *

 

C.R.C. 7957.071 ムルカナ星系、銀河平面座標 S-6、パーレミアン・トレード・ルート支線、ムルカナⅡ、投下空域

 

 降下線は、三本とも開いていた。

 

 ガレス・ロウランは前を行く隊の後ろについて、外気圏を抜けた。前方では、テクター群の砲撃がプラットフォームの残骸を照らしている。進出路を塞いでいたレキューザント級とミュニファスント級は、攻撃開始の二時間前に退いていた。偵察を更新し、艦隊と攻撃隊で経路をもう一度取り直している。

 

 今日の出撃は千八百機。メタロンより少ない。壊れた機と、休ませる搭乗員と、次に備える予備を艦に残してきたからだった。

 

 敵の待ち方も、メタロンとは違った。

 

 ヴァルチャーは先頭へ集まらなかった。列の後半へ側方から入り、一撃を加えて離れる。ロウランの隊の二つ前で編隊が崩れ、離脱する敵を護衛が追おうとしたところへ、下方から別の群れが上がってきた。

 

 追わせて、空けさせる。向こうも学んでいる、とロウランは思った。それも、十日で。

 

 崩された隊の外側で、Z-95の列が向きを変えた。ARC-170の一隊が遠方から戻ってきて、ずらされた迎撃点の方へ回り込む。ヴァルチャーの群れは、補給へ戻る道を塞がれる前に散っていった。

 

 護衛隊長の声が回線に入った。深く追うな、爆撃隊へ戻れ。旋回したZ-95がロウランの横へ戻ってきた時には、その翼端から破片が散っていた。

 

 二か月近く前、ロウランはこの星で爆弾を落とし、その帰りに、航法を失ったハーランの機へ座標を送り続けた。投下の時に見ていたのは雲ばかりだった。進入した時の高さを思い出そうとすると、ハーランが後部銃座を呼んでいた声まで戻ってきた。

 

「降下率、そのままでいい」

 

 副操縦士の声に頷き、ロウランは高度を確かめた。前には、まだ味方の機がいた。

 

 雲を抜けた。ムルカナの工業区が見えた。荷捌き場の焼け跡の北に、組立棟の屋根がまだ並んでいる。前の空襲を生き延びた屋根だった。

 

 二十八機を失って、あの屋根に一つの穴も開けられなかった。ロウランはその屋根を、照準の中で一度だけまっすぐに見た。

 

 地上からの砲火が編隊の間を抜けた。ロウランは機首をわずかにずらし、先導隊の標識を探した。

 

「標識、確認。照準、合致」

 

「投下」

 

 二十四発が離れた。

 

 組立棟の屋根が、端から順に裂けた。梁が持ち上がり、壁が外へ倒れる。隣の検査棟にも次の隊の爆弾が入り、二つの棟の間を火が走った。壁際に立っていた柱が折れると、屋根の残る部分も内部へ落ち、白い外板が見えなくなった。

 

 ロウランは機首を上げ、後方の映像を見た。露出した床へ後続の爆弾が入り、組立途中の機体が部材と一緒に吹き上がる。荷捌き場の古い焼け跡まで、新しい煙に覆われていた。

 

 画面の端には、まだ屋根のある工作棟と倉庫が映っていた。その裏手の道を、運搬車が何台か動いている。覆いの下に何があるかは見えなかった。車列は工場の中央へ戻らず、西へ向かっていた。

 

 逃げる車なのか、運び出す車なのか。この高さからは区別がつかない。ロウランはその映像を報告の束へ付けた。

 

 帰路にも敵は来た。ずらした迎撃点から、ヴァルチャーが帰投中の隊へ食い付く。撃墜の報告が回線に流れた。護衛機が反転し、傷んだ機を列の内側へ戻していく。帰投点では、交代の隊が待っていた。

 

 *

 

C.R.C. 7957.072 ムルカナ星系外縁、《ハービンジャー》、司令官室

 

 ムルカナの攻撃翌日の照会の中に、施設の一覧があった。

 

 病院。浄水場。救難回線へ給電する施設。それぞれの位置と、給電の経路。発信者はムルカナの市営電力局の系統運用主任、イルマ・ソーヴェン。共和国の周波数へ、自分の判断で送ってきたものだった。

 

 シーアは受領を返し、一覧を民政班へ回した。次の攻撃の除外施設と照合させる。施設の名前だけでなく、そこへ給電する設備にも、イルマは位置を書き添えていた。

 

 病院を除外しても、病院へ電気を送る変電所を撃てば、病院は止まる。この女はそれを知っていて、変電所の位置まで書いてきた。

 

 *

 

C.R.C. 7957.073 ムルカナ星系外縁、《ハービンジャー》、司令官室

 

 セルトが私用ではない回線を、司令官室へつないできた。相手が他の窓口を挟まず、艦隊司令官との会話を求めているという。

 

 発信元は、リマ沿いの星系、ヴァンデルヘルムだった。攻撃の予定に一度も入れたことのない星系だった。

 

 画面に出たのは、港務局の次長を名乗る女だった。エディス・コラン。名前の後に、政府の通商評議会の委任を受けている、と付け加えた。

 

「メタロンとムルカナの映像を、見ました」

 

 コランは前置きを短くした。

 

「私たちの政府は、同盟への供給を止めることを検討しています。共和国へ戻る場合の条件を、伺いたい」

 

 シーアは、すぐには答えなかった。手元へ記録用の画面を開いてから、相手へ向き直った。

 

「条件を示す権限は、本部と元老院にあります。お申し出は、今日のうちにそちらへ渡します」

 

「承知しています。ただ、その回答より先に、確かめたいことがあります」

 

 コランは言葉を選んだ。

 

「同盟に残っても、共和国の爆撃から港を守ってもらえる保証はありません。メタロンとムルカナで、それは分かりました。ですが供給を止めれば、今度は同盟の艦が来ます。私たちには、それを止める艦がありません」

 

 シーアは星域図にヴァンデルヘルムを出した。同盟向けの貨物が通る港には印があったが、自分たちの目標表には一度も載せていない。

 

 GFへの要求を開いた。ヴァンデルヘルム方面への部隊の割当てと、交渉の窓口。ベイルへの連絡も開き、コランから来た政府の委任状を添えた。

 

「本部へは、返答を急がせます。それまで、こちらから連絡を切らないでください」

 

「一つだけ、先に伺えますか」

 

 コランは画面の向こうで、手元の何かを握り直した。

 

「離脱を発表する前に、共和国の艦は来るのでしょうか」

 

 シーアは、その問いにまだ答えられなかった。配置表には、メタロンへの引継ぎを終えた群と、ムルカナで補給を待つ群が並んでいた。

 

「艦を出せるか、今から移動と補給を確かめます。本日中に、到着の見込みも含めてお返事します」

 

 コランは頷いた。回線が切れた。

 

「ソーン」

 

 シーアは別の回線を開いた。

 

「ヴァンデルヘルムの政府から、共和国へ戻る条件を訊かれた。離脱を発表する前に、こちらの艦を置けるかとも」

 

『同盟の報復を恐れているんですね』

 

「うん。移動と補給の所要を出して。今の艦隊から、どれだけ割けるかも」

 

『いつまでに』

 

「今日中に。向こうにも、そう伝えた」

 

『先に約束してから、こちらに訊くんですね』

 

「……うん」

 

『分かりました。夕食の前に出します。次の攻撃に使う群を外す案も、含めていいですね』

 

「それも出して。本部へ増援を求める案と、一緒に見る」

 

 ソーンが引き受けた。シーアはGFへの要求の最初の行を書き始めた。

 

 送信を終えると、シーアは次の攻撃へ向けていた配置図を開いた。コランの港を表示し、その前へ第32任務群の印を動かしてみる。次の砲戦配置から、ヴァリアント四隻の印が外れた。

 

 四隻分の穴は、ひどく大きく見えた。

 

 シーアは印を元へ戻さず、ソーンの計算を待つ図として保存した。

艦艇、兵器説明は欲しい?

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