STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7957.040 アンバラ星系、銀河平面座標 P-10、グレート・キャッシーク・ブランチ、補給泊地、《セレリタス》、格納区画
ロナン・ベックは、燃料計の針が正しい位置で止まるのを三度確かめた。三度目は必要がなかった。指が先に動いただけだった。
艦の腹の大きな開口部から、泊地の光が差し込んでいた。その中にPTB-625が並んでいる。細長い胴体の両側に大きな推進器を抱え、一機に五人が乗る大型の爆撃機だった。格納区画の床はまだ半分近く空いていたが、整備員にも搭乗員にも余裕はない。機体を置けるだけ集めても、飛ばせる者が足りなかった。
ベックの第三班は六人で八機を受け持っていた。今は若い班員が吊り具の鎖を引き、開いた爆弾倉へ陽子爆弾を上げている。六発ずつ四列、二十四発。信管と安全装置を確かめる声に、鎖の鳴る音が重なった。
その脇で、ベックは燃料配管を点検した。航法装置には新しい星図が入り、生命維持の備えも二日分から三日分へ増やされている。前の攻撃より長く飛ぶ。帰るまでに使うものを考え始めると、どれだけ積んでも足りない気がした。
「まだ直ってない」
機長のカイル・ハーランが、自分の襟を引いていた。縫い付けられたラベルには、後部銃座員のノエル・バーネスの名がある。
「洗濯区画で三日前から取り違えてるの。だから私は、あなたの名前の服を着てる」
「袖が余ってる」
「折ればいいの。昨夜の上映会、ちゃんと見た?」
「見た。三回目の扉が一番面白い」
「二回目よ。三回目は予想できるから」
上官が扉に頭をぶつけ続ける、古い喜劇の話だった。二人は食堂の隅で三晩続けて見ている。ベックにはどこがそれほど面白いのか分からなかったが、機の下でいつもの会話を聞くのは嫌いではなかった。
この機を担当して三か月になる。副操縦士のニール・ロスと機関員のダヴ・レム、前部火器担当のサラ・ヴィンが反対側で箱を積み込む間に、ベックは後部銃座の座席を合わせた。背当てを一段下げ、留め具を左へ半目盛り寄せる。バーネスが肩を回して落ち着く位置だった。頼まれたことはなかったが、毎回そうしていた。
バーネスが座席へ上がり、肩を回した。留め具を直すことなく照準装置を起動したのを見て、ベックは機の下へ降りた。
「班長はいつも、行ってこい、って言いませんね」
ハーランに声をかけられた。
「言わない。帰ってきたら、お帰りを言う。それが仕事だ」
ハーランは笑った。そこへ当直士官が、飛行計画の案を持ってきた。
護衛隊の割当ては、三つある中継点の二番までだった。目標宙域の欄には何もない。
「まだ埋まっていないのか」
「護衛は二番までです。そこから先は爆撃隊だけで。帰りには、二番へ別の隊を出します」
ハーランも隣から読んでいた。ベックは承認前の印を見て、端末を返した。壁の割当表にある長距離護衛隊も、部隊名と責任者が空白のままだった。
作業へ戻ると、ベックは棚から予備の連結器を一つ取り出した。使うかどうかは分からない。座面を拭いて確かめ、ほかの予備品と一緒に積んだ。
*
C.R.C. 7957.041 アンバラ星系、補給泊地、《ハービンジャー》、会議区画
エレナの返信は、一語だった。了解。メタロンの攻撃が終わったと知らせた時のものだった。
シーアは私用端末を伏せ、卓の星域図へ向き直った。ソーンが用意したムルカナ攻撃の案は三つある。どの案でも、母艦は補給と整備を済ませてメタロン外縁へ移る。その先をどう進むかが問題だった。
「A案は、長距離護衛隊を待ちます。ARC-170の長距離型を配属調整中ですが、合同訓練まで終えるのは最短で071日。最初の交換装置が出る065日には間に合いません」
待つ間も、メタロン行きの輸送船を哨戒することはできた。シーアが次を促すと、ソーンは母艦の位置を敵防衛線の内側へ動かした。
「B案なら、現有の護衛隊が目標まで届きます。ただし空母と補給艦を守り、帰投の中継点も押さえなければなりません」
「メタロンの二群を使えれば?」
「引継ぎが終わるのは051日です。それから航行と補給が要ります。加わっても、この位置を維持できるとは限りません」
C案では母艦が安全な側へ戻り、爆撃隊の航路だけが防衛線の奥へ延びた。往路の途中までと帰路の合流点以降には護衛を付けられる。目標付近と、その前後は爆撃隊だけで飛ぶことになる。
「出荷までは二十四日ある」
マドックはC案を見たまま言った。
「待てば、今ここにいる搭乗員を失わずに済む。輸送船を捕まえる手も残るだろう」
「ただ、ムルカナはほかの三つの工業星系にも装置を送っています。メタロン行きの一便を止めても、そちらへの供給は続きます」
ソーンが示した一覧には、四つの星系の生産規模が並んでいた。供給元を撃てば、まとめて遅らせられる。シーアはC案の損害見積りを求めた。
「未帰還は六から十五パーセント。護衛付き任務の実績に補正を掛けています。護衛が離れても編隊の相互防御を保つ前提です。無護衛区間の実績はありません」
「幅と前提を、両方載せてください」
計画では九十六機を出す。シーアはその数と見積りを見比べてから、セルトが用意した退避予告を読んだ。工業地区の外へ出る道は二本あり、片方は貨物道と共用だった。車列が詰まった場合に歩いて抜けられる場所を加えさせる。
「予告は出すのですね」
マドックが訊いた。
「十二時間前に」
「敵にも十二時間あります」
「承知しています。中継を禁じられても、一覧を貼り出す港はあります。メタロンの港がそうでした」
マドックは答えなかった。待つ案にも、今出す案にも代償がある。シーアには、護衛隊を待つ間に四つの工業星系へ装置が渡るのを見過ごせなかった。
「今回は、届く機を出します。護衛の離れる所と合流する所を、全搭乗員に説明してください。進入した機の二割を超えて失った時点で、現地指揮官が離脱を命じる。故障機は引き返させます」
シーアがC案を承認すると、マドックは自分の群が担当する帰投支援の時刻を確かめた。
*
C.R.C. 7957.044 銀河平面座標 S-7、パーレミアン・トレード・ルート支線、ムルカナ方面進出航路、第二中継点
発進から十三時間。カイル・ハーランは、肩が固まっているのに気づいた。
短い跳躍と実空間での確認を繰り返してきた。跳躍中はロスへ操縦を渡し、休憩区画の寝台で目を閉じたが、狭い通路を誰かが通るたびに肘が当たる。ほとんど眠れないまま操縦席へ戻り、また肩を留め具へ押し付けていた。
「水」
後部銃座へ向かうバーネスが、ボトルを置いた。
「ありがとう」
「二番に着いたら、ちゃんと動いて。足も」
第一中継点では八機が引き返していた。冷却材の漏れ、航法異常、生命維持の警報。故障機を責める者はいなかったが、空いた位置へ別の機が入ると、ハーランは呼出し符号を間違えそうになった。隣にいるのが誰か、確かめながら飛ばなければならなかった。
第二中継点で実空間へ降りると、ARC-170が周囲を見張っていた。岩のほとんどない暗い空間を、護衛機の推進光が横切った。
『こちら護衛隊長。護衛はここまでだ。帰路は別の隊が出る。合流はこの二番、045日の一七〇〇。そちらが遅れても二十分は待たせる』
ハーランは膝の板を見た。出撃前の説明で二度書き写した時刻がある。
『爆撃隊、了解』
『行ってこい』
ARC-170はひとかたまりずつ反転し、来た方角へ跳んでいった。残ってほしいと思っても、彼らの燃料では行って帰れない。ハーランは最後の護衛機が消えるまで見送った。
残った八十八機を三列に組み直した。外側の銃座が内側の死角を受け持ち、隣の機がその尾を覆う。訓練で何度も組んだ形なのに、機と機の間が広く見えた。後部銃座の照準表示は、まだ護衛機の去った方角を向いていた。
「帰りも、ここだな」
「一七〇〇」
ハーランはそう答え、次の跳躍の確認に入った。ロスが座標を復唱し、レムが機関の状態を告げる。ヴィンが爆弾架の固定を確かめる間に、バーネスは銃座を左右へ振った。彼女の語尾の上がる返事と、砲の充電音を聞いていると、いつもの飛行に戻った気がした。
第三中継点には、岩塊をくり抜いた前哨があった。砲台が二つ。岩肌の穴に係留された戦闘機をロスが三十まで数えたところで、十二機が滑り出してきた。
『接敵。右上』
ヴァルチャー・ドロイドが上から落ちてくる。ハーランは隣との間隔を保ちながら機首を左へ振った。敵は手前で制動し、横へ流れたところを後部銃座に撃たれた。翼の付け根から火を噴き、岩の影へ回りながら消えていく。
『ツー、一機』
『ファイブ、翼端をやられた。飛べる』
外側の機が撃つ間、その後ろを隣の銃座が払った。二度襲われても編隊は割れず、ヴァルチャーは二機を失って引き返した。前哨の砲台も撃ってきたが、射線は編隊の後方を通った。
『母艦より爆撃隊。想定の範囲。続行せよ』
脱落した機はなかった。回線の端で誰かが笑い、いけるな、と言った。ハーランも少し安心していた。相互防御が働いたのを、自分の目で見たからだった。
「通信が多い」
ヴィンが受信の表示を転送してきた。事前資料の三倍だった。母艦へ報告すると、受領の応答が返った。
ハーランはもう一度前哨を見た。穴の中にはまだ敵機が残っている。次の座標へ機首を揃えても、その穴が気になった。
*
C.R.C. 7957.045 ムルカナ星系、銀河平面座標 S-6、パーレミアン・トレード・ルート支線、ムルカナⅡ周回軌道、同盟防衛隊旗艦《リクイディティ》、艦橋
B1-2716の計時器は、〇〇・一二・〇〇で止まっていた。メタロンから後退して八日になるが、表示を消す命令は出ていない。
《リクイディティ》を旗艦とする防衛隊六隻は、ムルカナの軌道の影にいた。艦橋では、昨日着任した戦術ドロイドTM-62が前哨の交戦記録を読んでいた。
「第三中継点ノ十二機、戻リマシタ。二機、足リマセン」
B1-4093の報告に、TM-62は頭を上げなかった。
「十機デ足リル。数字ハ持チ帰ッタ」
表示には、三列に並ぶ共和国の爆撃機が映っていた。互いの死角を銃座で覆っている。護衛は第二中継点で引き返し、その先には付いていなかった。
「目標デハ遅レタ機ヲ狙エ。一機ヲ助ケニ出タ機ガ、次ノ獲物ニナル。帰路ノ第三中継点ニハ、補給ヲ済マセタ別ノ隊ヲ置ク」
「行キノ十二機ハ、捨テ札デシタカ」
「記録上ハ、偵察ダ」
「ラジャー、ラジャー」
黄色い指揮官型が、防衛艦の配置を尋ねた。
「軌道ノ影デ待機。爆撃隊ニハ近ヅクナ。艦隊保全令ガアル」
「マタ、見テルダケデスカ」
B1-4093が言った。指揮官型は、記録は残る、と答えた。
帰還したヴァルチャーのうち三機が、交換部品を求めていた。B1-4093は一覧を調べ、発注先を見つけた。
「コノ部品、メタロンノ工場製デス。モウ届キマセン」
「ダカラ、一機モ無駄ニシナイ」
TM-62は防空の配置へ戻った。
共和国は十二時間前に攻撃を予告していた。工業地区から出る二本の道と、除外施設の座標まで付いている。TM-62は対空砲を除外施設から離れた場所へ移し、周辺基地からヴァルチャーを集めていた。その準備を終えたところへ、共和国機の跳躍反応が現れた。
「記録ヲ始メロ」
指揮官型の命令で、B1-2716はようやく計時器をゼロに戻した。
*
ムルカナⅡ、工業地区上空
ムルカナの空は混んでいた。
実空間へ出た途端、警報の印が画面を囲んだ。防衛プラットフォームが四、軌道の影に防衛艦が六。ヴァルチャーの反応は四十を越えてなお増えていた。ハーランは地表へ機首を下げた。上には味方の艦が一隻もいない。
防衛プラットフォームが撃ち始めた。編隊の左端で一機の遮蔽が白く光り、後ろの機が姿勢を崩す。隊長は間隔を詰めるよう命じたが、固まれば重砲にまとめて捉えられる。離れれば銃座の火線が届かない。ハーランは前の機の尾を追い、広がりかけた距離を戻した。
『先導隊、目標標識を投下』
十二機が低く入った。雲の下では朝になっていて、遮光した工場の窓も、白い屋根も見えていた。組立・検査施設の上に三つの標識が開くと、地表から対空砲の光が一斉に上がった。
先導隊の二機が同じ光に呑まれた。もう一機が火を噴いて列を外れ、四機目は翼の片方を上にして回りながら落ちた。地面へ達する前に、煙で見えなくなった。
『目標進入。続ける』
隊長機は搬送路沿いの谷筋を選んだ。三列の編隊が縦へ伸び、ハーランも前の機に続いて降下した。
「左下、二連」
バーネスの声で機体を傾けた。砲火が風防の脇を通り、遮蔽を削った青い光に谷の壁が隠れた。
「右、塔」
「見えてる」
そう答えた時には、煙突の頭が機体の下を抜けていた。手袋の中で掌が滑る。前の機の後部銃座が撃った光が頭上をかすめ、その先でヴァルチャーが火を噴いた。ヴィンも前部銃座から撃ち返していた。機内回線で声が重なり、ハーランはロスの読む高度だけを拾いながら飛んだ。
照準環に目標の屋根が入ると、ヴィンが爆弾倉を開いた。三枚の屋根が二枚になり、最後の一枚が機首の下へ迫る。
「投下」
二十四発の陽子爆弾が列になって離れ、機体が段々に軽くなった。最後の一発を送り出してから、ハーランは操縦桿を引いた。
「入った。中央」
バーネスが叫んだ。
屋根を貫いた爆弾の列が、棟の内側を端から順に白く染めた。棟全体が膨らみ、屋根板と梁がまとめて跳ね上がる。壁は足元から外へ押し倒され、検査棟へ続く渡り廊下が両端を失って火の中へ落ちた。
続く機が、露出した組立線へ落とした。二度目の爆発で残った柱が吹き飛び、出荷待ちのコンテナが次々と跳ね上がった。試験用推進剤の保管区画に炎が達すると、工場の奥にさらに大きな火球が開いた。
圧力に機尾を持ち上げられ、ハーランは操縦桿を押し戻した。姿勢を立て直した時には、越えてきた煙突が途中から折れていた。搬送路も、そこに停まっていた運搬車も土煙に呑まれていった。
『命中。目標中央、炎上』
「右上、六。近い」
「撃て」
「撃ってる」
谷の上からヴァルチャーが降ってきた。火を避けて旋回した爆撃機へ二機が付き、それを助けようとした機が列を離れる。銃座の火線が途切れた所へ、次の敵が入った。
尾を失った僚機が、ハーランの前を横向きに通った。風防の中に人影があった。脱出を確かめる余裕はなく、ハーランは次に迫る敵へ機首を向けた。
隊長が応答を数えていた。八十八。八十一。七十三。ハーランは自分の符号を送り続けた。押すのをやめたら、いなくなったことにされそうだった。
『六十九。損耗が二割を超えた。全隊、離脱』
投下前の編隊が爆弾倉を閉じて上昇した。ハーランも続いたが、煙の中からはまだ対空砲の光が伸びてきた。
『母艦より攻撃隊。後続の発進を停止。帰路の護衛は二番で待つ』
防衛プラットフォームの砲火が、編隊の中央を横切った。
三機の反応が重なって消えた。風防いっぱいに白い光が広がり、前の機が見えなくなった。ハーランは目を凝らした。いた。まだいる。追いつこうとすると、バーネスが近すぎると叫んだ。
跳躍まで七十秒。
敵機は後ろから追いつき、撃っては左右へ離れた。ハーランは時計から目を離した。回線では僚機が自分の位置を繰り返していた。隊長が別の機へ呼びかけても、同じ位置ばかりが返ってくる。
四十秒。
左の機の外板が剥がれた。破片の向こうへバーネスが撃ち、ロスが次の座標を読み上げた。警報が二つ重なった。ハーランは片方だけを消した。
ようやく跳躍の許可が出た。
星が線に変わっても、耳には敵機警報が残っていた。ハーランは息を吐いたまま、吸うのを忘れていた。
「カイル。吸って」
バーネスの声がして、隣のロスが腕を叩いた。ハーランは頷いた。後ろの彼女には見えないと気づき、了解、と答えた。まだ帰り道の半分も来ていなかった。
第三中継点で実空間へ降りた時には、前哨の敵機反応が五十に増えていた。
行きの十二機とは違った。上で待っていた敵が、間隔を揃えて一斉に降りてくる。
『上だ。散開』
編隊が割れた。ハーランは一機をかわし、次の一機へ撃ち返したが、光は翼の間を抜けた。その下で僚機の翼が折れる。破片を避けようと機首を押し下げた瞬間、右側が白くなった。
航法装置の表示が消えた。機体が右へ引かれ、ハーランは夢中で押し戻した。推進と姿勢制御は生きている。生命維持も動いていたが、後部銃座の気密表示が点滅していた。
『こちらツー。座標を送る。それで行け』
僚機から補助表示へ数値が入った。
「ノエル」
応答はなかった。後部銃座の音も止まっている。レムが留め具を外して後ろへ走った。
「ノエル。聞こえるか」
振り向こうとして、機を傾けてしまった。ロスが操縦を支え、前の岩塊を指す。これ以上寄れば、前哨の砲台の正面へ入る。ハーランは前へ向き直った。
『ドライブが回らない。五人とも生きてる。座標を送る』
知らない声が回線へ割り込んできた。読み上げられた位置は、すぐ近くだった。
『誰か、寄れないか』
別の機が信号を中継し、救難担当が受領を返した。それでも声は続いた。
『五人とも生きてる』
ハーランには止まることができなかった。後ろのノエルを早く母艦へ連れ帰らなければならない。もう一度呼ぶと、小さく息のような音がした。彼女の声なのか、機から漏れる空気の音なのか分からなかった。
レムが戻ってきた。後部区画の隔壁が閉じ、枠ごと歪んで開かないという。予備の酸素を送ったが、中には入れなかった。
僚機がそばへ来て、敵の射線に割って入った。転送された座標をハーランが読み、ロスが確かめる。ハーランはその間にも後部銃座を呼んだ。ドライブを失った機の声は、自分たちが跳躍する直前まで聞こえていた。
第二中継点には、ARC-170が待っていた。傷んだ爆撃機の外側へ付いてくる護衛を見て、ハーランはすぐに回線を開いた。
「後部銃座員が負傷。区画が開かない。救護と切断器を。至急」
『了解。母艦へ連絡する。こちらの誘導に従え』
行きの隊長より若く、早口の声だった。護衛機が右側へ寄って被弾箇所を調べ、何かを報告していた。ハーランには医療班という語だけが聞こえた。
「ノエル。あと一回だ」
母艦へ向かう最後の跳躍に入った。後部銃座からは返事がなかった。
*
C.R.C. 7957.046 メタロン星系、銀河平面座標 R-8、パーレミアン・トレード・ルート、星系外縁、《セレリタス》、着艦受入れ区画
最初の帰還機は、着艦脚を出せなかった。
ベックは班の台車を押して走った。機の腹が床を擦り、長い火花を引いて止まった。搭乗口も開かず、整備員が外から解除器を差し込んでいる。その脇へ担架が着くより先に、次の機が入ってきた。
帰還機は計画の順番を崩して降りてきた。尾翼の欠けた機、砲身が溶けた機、爆弾倉の扉が閉まらない機。冷却材が床に広がり、若い班員が足を取られた。ベックは襟を掴んで起こし、漏れを止めるよう怒鳴った。転んだことを気にする暇もなかった。
早く引き返した八機は、前の日に戻って点検を終えていた。今帰ってくる機は、どれもいつもと違う音がした。片方の推進器だけで入った機を止めると、その後ろにまた傷んだ機がいる。担架と工具箱が行き交い、床の誘導線は漏れた液で見えなくなった。
ハーランの機が戻ったのは昼前だった。
右の翼が焦げ、航法装置のある外板に穴が開いていた。停止するとロスとヴィンが降りてきて、レムが後部区画を指して叫んだ。ベックは切断器を持つ班員を回した。救護班も到着し、外板が切り開かれるのを待った。
レムは酸素の供給管を押さえていた。開いた穴からバーネスが運び出されても、その手を離さなかった。ハーランが操縦席から降りてきて、彼の肩越しに診察を見ていた。
「死亡を確認しました」
救護班長の声は小さく、次の機を誘導する声に埋もれた。ハーランは口を開きかけたが、何も言わなかった。
担架が運ばれてから、ベックは後部銃座を覗いた。自分が合わせた背当てと留め具が、そのまま残っていた。これを外せば次の作業へ進める。分かっていたが、手が出なかった。
ハーランが足をもつれさせた。ベックは片膝を付いた彼を支え、立たせた。すぐそばにいるのに、ハーランはこちらを見つけるのに少し時間がかかった。
「整備の人」
「はい」
「あの席、肩を回すんです。座ってから。一度だけ」
「知っています」
ベックは帽子を取り、操縦士の正面へ向き直った。
「お帰りなさい」
ハーランの顔が歪んだ。返事は出なかった。医療班の者が腕を取ると、そのまま付いていった。
帰投予定を過ぎても、ベックの班の三号機は来なかった。機体番号〇四二。上映会でハーランたちの後ろに座り、三回目の扉に笑っていた五人が乗っている。最後に信号を受けたのは、第三中継点の外側だった。
ベックは別の機を直しながら、着艦の報せが来るたびに顔を上げた。夜になって誘導員が交代し、班員が工具を片付け始めても、三号機の台だけはそのままにさせた。
047日の未明から朝にかけて、四機が遅れて帰った。帰投経路の外縁へ出た救難艇も四人を運んできたが、〇四二の搭乗員はいなかった。
同じ朝、ハーランの機は修理不能と判定された。航法装置とハイパードライブの接続部が、骨組みごと歪んでいた。ほかにも五機が同じ判定を受けた。
ベックは部品の回収を始めた。使えるものを外していき、後部銃座に達したところで、先に私物を片付けることにした。留め具を外す作業は後へ回した。
*
C.R.C. 7957.047 メタロン星系外縁、《ハービンジャー》、会議区画
ムルカナの組立・検査施設は、中央部分を失っていた。ソーンが示した写真には、屋根のあった範囲より広く、倒れた壁と部材が積もっていた。
「最初の交換装置の便は延期です。065日には出ません。組立線と検査装置、出荷待ちの資材を破壊しました。ただ、外周の工作設備と倉庫は残っています」
ほかの三つの星系への供給まで止まったかは分からなかった。退避路が使われた形跡はあるが、地上の死傷者も確認できていない。写真の端には運搬車が並んでいた。瓦礫を片付けているのか、残った機械を運んでいるのか、シーアには見分けられなかった。
「航空隊は、出撃九十六機に対し帰艦六十八。早期帰投の八機と遅着四機を含みます。帰艦したうち六機は修理不能、未帰還は二十八機です」
「搭乗員は」
「四百八十名のうち、生存確認三百四十三名、死亡確認一名。所在と生死が不明の者が百三十六名です」
未帰還機からも救難信号が出ていた。帰投経路の外縁へ艇を出しているが、第三中継点の近くへ入るには前哨を押さえなければならない。ソーンは救難担当の報告と、残された機の通信を出した。
『ドライブが回らない。五人とも生きてる』
セルトが再生を止めようとしたのを、シーアは制した。座標の読み上げが終わるまで聞いた。自分が通るよう命じた場所で、彼らは助けを待っていた。
「二割で離脱する条件は、私も呑みました」
マドックが言った。
「八十八機が進入して、六十九機で離脱した。それからも失っています」
「離脱命令は守られました。帰り道を守れませんでした」
ソーンは、上昇中と第三中継点で損失が増えたと説明した。繰り返し迎撃を受け、編隊を立て直せなかったために、相互防御も働かなくなった。行きの十二機は、その火線を調べるために出てきた可能性がある。
出撃数に対する未帰還は二十九パーセント。事前の上限のほぼ倍で、修理不能の六機はそこにも入っていなかった。
「その前提を承認したのは僕です。当初の見積りと今回の結果を、報告に残してください」
シーアは続けて、次に出せる機数を訊いた。他隊から振り替えれば同じ規模でもう一度は出せる。だが、整備と搭乗員の回復が追いつかず、その次は続かないという。同じ条件で出せば、損耗も同程度になる。
「護衛を欠いたままでは、もう出しません」
「ムルカナへの攻撃は」
「続けます。次は帰り道まで護衛を付ける。GFへ、長距離護衛隊と訓練・整備要員の配属を要求してください。追加ヴェクターの受領に合わせます」
「実戦投入は最短で071日です」
「それまでは、メタロンの監視と輸送船の哨戒を続けます。受領日と実戦投入可能日は分けて報告を」
会議が終わっても、シーアは席を立てなかった。修理中の機で早く戻せるものはないかと稼働表を開こうとすると、ソーンが止めた。
「次の判定は明朝です。今の数字は、それが全部です」
シーアは手を引いた。整備の判定が出るまで待たなければならなかった。卓の星図には、第三中継点付近の救難信号が残っていた。
*
C.R.C. 7957.049 メタロン星系外縁、《ハービンジャー》、司令官室
長距離護衛隊を手に入れるだけでは、次の損耗に備えられなかった。整備員も、教官も、補充の搭乗員も継続して育てる必要がある。シーアは基地と訓練空域を含む要求書を作り、自分が出撃を承認した記録を先頭に添えた。
GFは部隊の配属を調整できたが、毎年の予算を約束することはできなかった。シーアは議員との通話を三件申し込み、最初にヴェッロへ要求書を送った。
「艦の値段なら、去年覚えた。今度は搭乗員か」
ヴェッロが費用の頁を開くと、シーアは養成期間から説明した。機長なら二年、後部銃座員でも十か月。教官と訓練空域のほか、訓練中に損耗する機体の分まで見込んだ額だった。
「恒常予算として要求するんだな。毎年、どの星が払う」
「中央で負います。基地を置く星とは個別に契約を結びます」
「その中央の金を、どの星から集める」
「航路の利用料に上乗せします。艦隊が守る交易の量に応じて、負担を決めます」
「なら、いちばん多く払うのはコアの交易星だ。前線から最も遠い」
その点はシーアも承知していた。ヴェッロは計算表を読み進め、やがて彼を見た。
「前線の軍の財布を、彼らに持たせる。それを議場で言うのは私だ。出せるかどうかは、出す側の顔ぶれで決まる。君の顔ではない」
「承知しています。必要な説明には、僕も出ます」
ヴェッロは要求書を預かった。賛成の約束はしなかったが、どこに話を持っていくかは考えてくれるという。
ロジンの返事は早かった。
「攻撃は続けるのだな」
「次は護衛を付けます。そのための要求です」
「それでいい。予算は通す。ムルカナの次も、その次も叩け。叩いて降伏させる。降伏した星は占領する。講和はラクサスとすればいい」
シーアは、星系ごとに戦争を終えられる条件を作ろうとしていた。ロジンとはその点で合わない。だが、今ここで講和の話を始めれば、予算への協力まで失うかもしれなかった。
「予算を通していただけるのは、助かります」
占領については答えず、支援に礼を言った。
最後の回線には、ベイルとモスマが並んでいた。モスマは訓練基地の費用を確かめてから尋ねた。
「戦争が終わったら、この基地は閉じるの?」
「残します。復帰した星を守る艦隊は、戦争の後も要ります。その搭乗員を毎年育てるためです」
「軍を戦争の後も残す理由は、いつも見つかるものよ。戦時の予算なら、私は止めない。恒常、の文字は外して出し直して」
ベイルも彼女に同意していた。二人は戦後の軍解体を望んでおり、その点でシーアと折り合えなかった。
「承認の記録を、先頭に付けたんだな」
ベイルが言った。
「損害の理由を、予算の不足にしなかった」
「護衛なしで出してよいと判断したのは、僕です」
ベイルは頷いた。
通話が終わっても、シーアは要求書を直さなかった。部隊が戦後も残るか決まらなければ、復帰する星系を守る約束はできない。恒常予算の要求として、そのまま送った。
*
C.R.C. 7957.053 アンバラ星系、補給泊地、《セレリタス》、格納区画
ヴェクターが二隻増えた。
《レディトゥス》と《ソレルティア》が、《セレリタス》《ヴィジリア》と並んで泊地へ腹の開口部を向けていた。代わりにヴェネター二隻が転属したので、中核艦の数は二十四隻のままだった。
ARC-170の長距離型も届き、ベックは受入れを手伝っていた。補助燃料槽と航法補助が加わり、生命維持の容量が増えている。三人乗りと後部銃座はそのままで、長い飛行に合わせた交代勤務の手順が付いていた。
まだ合同訓練と評価を終えた隊はなく、整備員も半分ほどしか来ていない。それでも、割当表の長距離護衛隊には部隊名と責任者が入った。ベックは新しい手順を読みながら、燃料槽の接続を一機ずつ調べていた。
昼過ぎ、ハーランが私物を取りに来た。
彼の機はまだ部品の回収中だった。開いた後部区画のそばに外板が置かれ、使える部品には引取り先の機体番号が付いている。ハーランは空になった銃座の前で足を止めた。
ベックは二つの箱を出した。
「こちらがあなたの分です。こちらは遺族へ送るものです」
バーネスの箱の上には、畳んだ作業服が載っていた。襟のラベルはハーランの名前だった。
「これは、あなたへ返しておきます」
ハーランは服を受け取り、ラベルを親指で撫でた。
「まだ逆だ」
それだけ言って自分の箱へ載せた。バーネスの箱には触れなかった。
入口にはレムが待っていた。酸素管を押さえていた手に、新しい包帯が巻かれている。ハーランが箱を持ち上げると、レムは半歩先に扉へ向かった。
二人を見送って、ベックは整備割当表へ次の機体番号を書いた。五人の搭乗員のうち、後部銃座員の欄は空いていた。
遠くで訓練の発艦許可が出た。ベックは工具を持ち直し、まだ外していない留め具のところへ戻った。
艦艇、兵器説明は欲しい?
-
いらない
-
欲しい(文のみ)
-
欲しい(元ネタリンク含め)