STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7957.073 ムルカナ星系外縁、《ハービンジャー》、司令官室
ソーンの計算は、夕食の盆と同じ時刻に届いた。
ケレンが卓の端へ皿を置き、シーアがそれを脇へ寄せるより先に、回線の表示が開いた。《エンヴォイ》の戦闘指揮所から、ソーンの上半身が卓の上へ浮かぶ。その手元には、昼にシーアが保存した配置図があった。ヴァンデルヘルムの港の前に第32任務群の印が四つ。その下に移動、補給、滞在、交代の欄が新しく並んでいた。
「デノンで一度給油すれば、082日にヴァンデルヘルムの外縁へ入れます。向こうの政府が離脱を発表する前に」
「送れるんだね」
シーアは身を乗り出した。匙が皿の縁に当たって鳴った。
「送れます。戻す日が、まだ決まりません」
ソーンは滞在の欄を指で叩いた。そこだけ数字がなかった。
「敵が来れば追い払います。追い払っても、また来るかもしれない間は離れられません。来なければ、来ないことを確かめるまで離れられない」
「交代を出してもらえばいい。リマには第8艦隊がいる」
「出してもらえれば、です」
シーアは配置図を手元へ引き寄せた。四つの印を港の前から動かすと、元の場所に穴が残った。次の攻撃計画の砲戦配置だった。ムルカナに残った工作棟と倉庫への三度目の攻撃。前衛を受け持つはずの四隻が、そこから抜けている。
抜けたのは前衛だけではなかった。
シーアは航空隊の配属表を重ねた。護衛のZ-95とARC-170の母艦の欄で、ヴァリアントの名が半分以上を占めている。BTL-A4の対艦攻撃隊も同じ欄にいた。四つの印を動かすと、爆撃隊に付く護衛のおよそ三分の二が一緒に港の前へ移っていった。
「ヴェネター二隻へ、ヴァリアントの護衛隊を移せないかな。格納庫の空きは――」
「入りません」
ソーンは言い終わる前に答えた。
「入れても整備員が付いていきません。それに、港を守る四隻こそ戦闘機が要ります。トレン少佐の隊も向こうです」
シーアは口を閉じ、配属表の数字を目で追った。ソーンの言うとおりだった。四隻を出せば、護衛ごと出ていく。護衛を残せば、四隻は港で丸裸になる。
セレナが卓の反対側から、通信の予定表を差し出した。
「ヴァンデルヘルムの通商評議会は、あと二時間で今日の会合を閉じるそうです。コランさんの事務所に確かめました」
「二時間」
「向こうの夜です。返事を明日に回すと、評議会がこちらの答えを聞かずに一日を終えます」
シーアはセレナを見て、それから時刻表を見た。ヴァンデルヘルムの地方時など、考えてもいなかった。
「ありがとう。ソーン、次の攻撃を後ろへ送ろう。第32が戻ってくるまで」
「どのくらい後ろへ」
「分からない。分からないと書いて」
ソーンは攻撃予定の欄を一つ下げた。日付の代わりに、条件が二行入った。第32任務群の帰還と補給完了。または、同等の前衛と航空戦力の第3艦隊への配属。
「GFへの要求も一緒に出します。第32の派遣と、第8艦隊による共同防衛と交代」
「うん。署名は僕で」
延期の命令書は、作戦の変更として艦隊司令官の名を要した。シーアは自分の名を入れ、それからムルカナの攻撃予定の欄を見た。ソーンが入れた二行の条件の下に、承認者としての自分の名があった。
セレナが皿を、もう一度シーアの前へ戻した。シーアは匙を取り、話の続きの間に二口食べた。
コランへの回線は、評議会が閉じる四十分前につながった。
「082日を、最も早い到着の見込みとしてお伝えします」
シーアは言葉を選んだ。
「途中の給油と、本部の正式な割当てが、まだ残っています。ほかの艦隊についても調整を求めていますが、それをここで約束することはできません」
「082日」
コランは手元に数字を書いた。
「その日まで、私たちは何も言わずにいればいいのですね」
「何も変えずにいてください。出荷も、港の当直も、いつもどおりに。止めた日が、そのまま宣言の日になります」
コランは書く手を止めた。
「同盟の船に、いつもどおり荷を積めと」
「積んだ荷は、着いた後でこちらが数えます。積まなかった荷は、着く前に向こうが数えます」
画面の向こうで、コランはしばらく卓の上を見ていた。それから頷き、評議会へ持っていくと言った。
回線が閉じた。シーアは配置図を保存し直した。港の前の四つの印はそのままで、ムルカナの欄には条件の二行が残っていた。
*
C.R.C. 7957.074 ラクサス星系、銀河平面座標 S-5、ティオン交易路、ラクサス・セカンダス、同盟防衛艦隊総司令部
ヘルムート・ゲーリン元帥は、自分の署名のある配置図を三枚並べた。
メタロン。ムルカナの一度目。ムルカナの二度目。三枚とも、命令した日付と元帥の名が隅に入っている。ミュニファスント級とレキューザント級の位置。迎撃隊の三段の配分。地上砲台の射撃と発進の時刻。どの図にも、元帥の考えたとおりの線が引かれていた。
その隣に、現地から届いた報告が積まれていた。メタロンの防空指揮所が最後に送ったものは、撃墜の報告の下に地上の報告が付き、その後ろへ造船所の被害が書き足されていた。頁は途中で終わっている。続きを書いた者がいなかったのか、書く場所がなくなったのかは分からなかった。
元帥は一行ずつ照らし合わせた。
艦は出ていた。迎撃隊は交代していた。予備も投入されている。砲台は最後まで撃っていた。メタロンの報告には、爆撃機の撃墜が六十三、護衛機が四十一とある。命令の欄で、守られていないものは一つもなかった。
それでも、組立棟は残っていない。
「ムルカナの組立棟を、別の角度から出せ」
副官が観測記録を探した。北の高台に置いた観測所の映像が開いた。屋根のあった場所に、黒く焼けた床が広がっている。元帥はその外周へ目を移した。
「稼働中の表示は」
「工作棟の二つが、受電を続けています」
「生産の報告は」
副官は別の頁を開いた。生産の欄は空いていた。代わりに、搬出の申請が並んでいる。加工機、検査装置、冷却器。行き先は西の旧採掘区と、名前の付いていない倉庫だった。
工場は動いていなかった。工場が持ち出されていた。
元帥は観測記録の時刻を戻し、ムルカナの二度目の空襲が始まる前の画像を開いた。星系の外縁に、あの灰色の艦隊が並んでいる。腹の開いた四隻の後ろから、爆撃機の列が出ていた。観測所の担当は、その数を千八百前後と数えていた。
メタロンの時は、二千を超えていた。
十日で、二百。
元帥はメタロンの撃墜の報告をもう一度読んだ。爆撃機が六十三。数え違いがあるとしても、二百には届かない。残りの百余りを、共和国は自分の都合で艦に残してきたことになる。直すため。休ませるため。あるいは、全部を出さなくても足りると判断したため。
どれであっても、ムルカナへ来た数は変わらなかった。
元帥が頼りにしてきたのは、爆撃隊を削ることだった。帰らない機は次に来ない。アンバラから来た爆撃隊は、二十八機を失って次の出撃を延ばした。あの時の数字が正しかったから、元帥は加盟政府の前に出て、工場は守れると言えた。
今度の相手は、削られても次に来た。それも十日後に。
「伯爵からです。優先回線」
副官の声が少し上ずった。元帥は襟の位置を確かめ、勲章の列を指で揃えてから回線を開いた。
ドゥークー伯爵の像は立ったまま浮かんだ。背後には何も映っていなかった。
「元帥。メタロンとムルカナの報告は読んだ」
「迎撃隊は命令どおりに出ています。共和国側にも損害は――」
「工場はどうした」
元帥はムルカナの再開見込みの頁を開こうとした。伯爵はそれを待たなかった。
「加盟政府のうち三つが、防衛艦隊の配置について照会してきた。昨夜のうちにだ。自分たちの星の上に、何隻置かれているのかと」
伯爵の声は低く、平らだった。
「彼らは君の配置図を信じて、工場を建て、税を納めてきた。その配置図が、二度続けて工場を守らなかった」
「防空の配分を改めます。メタロンで得た――」
「改めるのは結構だ。それとは別に」
伯爵は言葉を切った。元帥は口を閉じて続きを待った。
「共和国にも、同じ代価を払わせろ。彼らの工業星系に、同じ火を。報復の作戦案を出したまえ」
「期限は」
「君が決めて、私に報告しなさい。早い方がいい」
像が消えた。
元帥はしばらく、伯爵の立っていた場所を見ていた。それから副官を呼んだ。
「攻撃機と搭乗員。燃料。母艦にできる艦。今、使えるものの一覧を」
「防空の再編の一覧と、別にしますか」
元帥は答えようとして、配置図の三枚目に目を落とした。迎撃隊の欄。補給の欄。燃料の欄。報復に要るものの名前は、どれもそこに書いてあった。
「同じ表で出せ。どこから取るかは、私が決める」
副官が出ていった。元帥は卓の前に残り、三枚の配置図を重ね直した。署名の位置が揃うように、端を指で叩いた。
二十分後、副官が一覧の前半を持ってきた。元帥はそれを受け取ってから、後半はいつ来るかと訊いた。副官は、まだ集計中だと答えた。十分前にも同じことを訊かれていた。
「閣下。今夜は、お休みになった方が」
「後半を見てからだ」
元帥は一覧の一行目から読み始めた。三行目に、メタロンで交代に入った迎撃隊の名があった。元帥はその行の横に、小さく印を付けた。
*
C.R.C. 7957.076 アンバラ星系、銀河平面座標 P-10、グレート・キャッシーク・ブランチ、補給泊地、《ハービンジャー》、司令官室
ベイルの返信には、窓口の名前が一つと条件案の草稿が付いていた。
外交委員会事務局の第二課。課長の名の横に、ベイル自身が一行書き足している。ヴァンデルヘルムの件は、この課だけに扱わせる。草稿の頁数は、シーアが送った要請の三倍あった。
同じ朝にGFの割当ても届いた。第32任務群のヴァンデルヘルム派遣を承認する。第8艦隊はヴィクトリー級二隻を含む八隻の派遣部隊を出し、星系の南の進入路を受け持つ。北は第32。境界を越える射撃と航空隊の進入は、両指揮官が射線と時刻を合わせて行う。どちらの指揮官も相手の艦へ命令を出さない。
シーアは最後の一文を二度読んだ。ホーンの書き方だった。
第3艦隊の残りは、ムルカナの外縁を偵察隊に任せてアンバラへ下がっていた。窓の外ではヴェクターの一隻が補給艦を横付けにしている。次の攻撃の欄には、日付の代わりに条件の二行が残っていた。
コランの委任は、第二課が通商評議会の議事録と照らし合わせて確かめていた。午後の回線には、コランの隣にもう一人が並んだ。通商評議会副議長のベラ・オストラン。今日から政府の正式な代表として交渉に加わるという。
「出荷を止める日と、あなた方の艦が港に入る日を、同じにしていただきたい」
オストランは前置きをしなかった。
「一日でもずれれば、その一日に同盟の艦が来ます」
ソーンが別の画面から答えた。
「第32は港で給油してから配置に就く予定です。デノンからの航程で、燃料に余裕がありません」
「共和国の艦が港で給油していれば、同盟の貨物船の船長が見ます。発表より先に、ラクサスへ知らせが届く」
どちらも正しかった。シーアは港の表示を開き、桟橋の割当てを見た。同盟の貨物船の出港予定が、081日まで並んでいる。
「最後の同盟船は、081日に出ます」
コランが言った。
「その後に入る船の積込みは、港務局の検査で止められます。三日までなら、理由を付けられます」
シーアは顔を上げた。港務局の次長が、自分の権限でできることを最後まで数えてきていた。
「では082日。第32は港へ入らずに、外縁から進入路へ直行します。配置を確かめたところで、政府が発表して、出荷を止める。給油は発表の後に、港で」
「燃料は持ちますか」
コランが訊いた。
「随伴の補給艦から、外縁で半分入れます」
ソーンは答える前に、もう計算を始めていた。数字が画面の隅に並んだ。持つ、という数字だった。
当面の条件は四つに絞った。同盟への軍需の供給と、同盟軍による港の利用を止める。共和国部隊を受け入れる。停戦と防衛のための連絡回線を置く。現地の行政をどこまで続けるか、戦争の責任をどう扱うかは、協議の議題として載せる。正式な共和国への復帰は、元老院の手続を待つ。
「評議会の議員は、責任を問われますか」
オストランが訊いた。
「それを決めるのは元老院です。私に言えるのは、供給を止めた政府と共和国が交渉を続ける、ということだけです」
オストランは頷かなかった。首を横にも振らなかった。
*
C.R.C. 7957.078 アンバラ星系、補給泊地、《ハービンジャー》、司令官室
ロジンの事務所からの意見は、ベイルが転送してきた。そのまま回線もつないできた。
軍事的な降伏を受けた星系は、占領下に置くべきである。現地の政府は全面講和まで停止し、ラクサスとの講和の条件として扱う。
「それでは次の星系が止まりません」
シーアは言った。
「供給をやめた政府が、やめた後も自分たちの政府でいられる。その道がなければ、次に続く星系は離脱を選びません。占領されるなら、爆撃を待つのと同じです」
回線の向こうで、ベイルはすぐには答えなかった。手元の草稿を一枚めくり、また戻した。
「君は、部隊が要るという話をしに来たはずだ」
「はい」
「今の君は、講和の相手を選んで、条件の形まで出している」
ベイルの声は穏やかだった。
「勝っている艦隊の司令官がそれを出せば、議員たちは軍事上の必要として読む。異を唱えれば、前線の足を引っ張ることになる。君にその気がなくても」
シーアは草稿の自分の名前を見た。起案者の欄だった。
「撤回はしません」
少し考えてから、言った。
「判断は、議員と第二課へ渡します。私の名前は、提案者の欄だけにしてください」
ベイルは草稿の欄を書き換えた。それから、ロジンの意見の写しを草稿の後ろへ綴じた。
その日の夜、セルトが同盟の運航表を持ってきた。ヴァンデルヘルムへの寄港が二つ消えていた。軍情報局からも一報が来ている。ヴァンデルヘルムから一跳びの同盟の泊地で、ミュニファスント級とレキューザント級が出港の準備に入った。
「何を見られたんだろう」
「分かりません」
セルトは運航表の二つの空欄を指した。
「港の側は、まだ何も変えていません。交渉の回線か、委任状の照会か。どこから漏れたかは、ここからは見えません。ただ、疑うだけでも近くの部隊は動かせます」
シーアは報告をコーヴィンへ送った。第8艦隊の派遣部隊にも、同じものを。
079日の朝、コランから港の時刻表が届いた。給油桟橋の三番から五番が、082日の午後から空けてあった。
*
C.R.C. 7957.082 ヴァンデルヘルム星系、銀河平面座標 M-15、リマ交易路、星系外縁、《ヴァリアント》
アデル・コーヴィンは、港の灯りを数えた。
跳躍から抜けた四隻の前に、ヴァンデルヘルムの昼の側が広がっていた。軌道の桟橋に貨物船が並び、荷役の起重機が動いている。給油桟橋の灯りも点いていた。メタロンでもムルカナでも、この距離から最初に見えたのは煙だった。
「港の管制から入電。歓迎する、と」
通信席の士官が読み上げた。入港の手順と桟橋の割当てが続いて送られてくる。港務局の書式だった。
港の手前を回っていた民間船が、四隻の針路から大きく外れていった。貨物船が一隻、予定の軌道を捨てて惑星の陰へ回る。歓迎の文面を送ってきたのと、同じ港から出た船だった。
コーヴィンは港へ入らず、四隻を北の進入路へ回した。随伴の補給艦が後ろへ付き、燃料の受渡しを始める。
「GFへ。第32任務群、ヴァンデルヘルム外縁に到着。北進入路の配置に就く」
報告を送って間もなく、南の外縁に別の艦影が現れた。ヴィクトリー級が二隻。クルーザーとフリゲートが六隻。どの船体にも黄色の線が一本ずつ引かれている。第8艦隊の派遣部隊だった。
向こうの指揮官から、配置完了の通知が来た。二つの区域の境界が、両方の表示に同じ座標で並んだ。コーヴィンはそれを確かめて、確認の符号を返した。
四十分後、回線に政府の声が流れた。
通商評議会副議長、ベラ・オストラン。ヴァンデルヘルム政府は、独立星系連合への軍需物資の供給を停止する。同盟軍艦艇の港湾の利用を禁ずる。共和国部隊の受入れを決定し――
艦橋の誰も手を止めなかった。それでも通信席の士官が、音量を一段上げた。
コーヴィンは港の表示を見ていた。桟橋の一つで同盟向けの貨物船の積込みが止まり、起重機が腕を戻していく。止まった貨物船の脇を、港務局の小艇が回っていた。検査の名目で、昨日から足止めされている船だった。
*
C.R.C. 7957.083 ヴァンデルヘルム星系、北進入路、《ヴァリアント》
同盟の艦は、発表から十九時間後に来た。
「跳躍反応、北。レキューザント級二。ミュニファスント級四。後方に大型の輸送船、三」
索敵席の声に、コーヴィンは脇の下から指を抜いた。指揮区画の送風は、アンバラの後で直してあった。癖のほうはまだ直っていない。
輸送船の船体は、腹が膨らんでいた。ドロイド兵を詰めて運ぶ船の形だった。港を撃ちに来たのではない。港へ降りに来ている。
レキューザント級の二隻が先に出た。細長い船体を並べ、第32の正面へ真っ直ぐ進んでくる。主砲が開き、《ヴァリアント》のシールドに光が広がった。
「レキューザント、射程に入ります」
砲術長のオーヴェルが言った。
「撃って。ただし前に出ない」
二十二基の砲塔が回った。斉射が先頭のレキューザントの盾を叩く。敵は撃ち返しながら、それ以上は距離を詰めてこなかった。速度を落として横へ流れ、また撃つ。
コーヴィンはその航跡を目で追った。押し込んでくる艦の撃ち方ではない。こちらに撃たせる位置で、止まっている。
「ミュニファスント、四隻とも左へ。南の第8との間へ寄っています」
表示の上で、四つの印が北の進入路の端を回っていた。第32の直掩の輪と、南にいる第8艦隊の直掩の輪の間に、どちらの機も飛んでいない帯がある。四隻はその帯の縁をなぞっていた。GFの引いた境界の線も、その帯の中を通っている。輸送船の三隻は、ミュニファスントの陰に入って後に続いていた。
正面でこちらを撃たせておいて、二つの部隊の継ぎ目を抜ける。境界の向こうへ撃つなら、第8と射線と時刻を合わせなければならない。合わせている間に、輸送船は大気圏へ入る。
「第8の派遣部隊へ。ミュニファスント四隻と輸送船三隻、境界の上を南へ。こちらから境界の向こうへ撃つ。射線は北から南、今から五分。攻撃隊も同じ五分で入れる」
返事は早かった。向こうも同じ表示を見ていた。
『了解。五分間、こちらは射線の南へ下がって輸送船の下を塞ぐ。北側は任せる』
コーヴィンは受領を返した。相手の艦へは命令を出していない。相手も出してこなかった。
「トレン少佐の隊を出して。目標、輸送船の前のミュニファスント二隻」
BTL-A4の列が格納庫から滑り出し、Z-95の群れがその上へ広がった。直掩の隊は艦の周りに残っている。稼働表のマイの隊の欄で、七番だけが空いていた。
正面のレキューザントの一隻が、艦首を外へ振った。オーヴェルの斉射が、二度続けて同じ舷側へ入っていた。
『こちらトレン。右のレキューザント、左舷のシールドが落ちています。今なら沈められます』
マイの声だった。コーヴィンは表示の上で、その艦と輸送船の距離を比べた。レキューザントは港から離れていく。輸送船は近づいてくる。
「沈めなくていい。輸送船の前の二隻を」
『了解。輸送船の前の二隻』
マイは復唱して隊の向きを変えた。傾いたレキューザントの脇を、BTL-A4の列が素通りしていった。
ミュニファスントの二隻は、輸送船を挟むように並んでいた。対空砲火が攻撃隊の前で幕になる。Z-95がヴァルチャーの群れへ割り込み、撃ち合いの光が輸送船の上で交差した。
一機のZ-95が火を噴いて高度を落とした。救難の符号が出た。境界の向こう側だった。コーヴィンは位置を第8の救難艇へ回し、受領を待たずに表示を戻した。
攻撃隊の魚雷が、先頭のミュニファスントの艦尾へ入った。推進の光が片側だけ消え、艦が輸送船の針路へ横滑りする。後ろの輸送船が舵を切った。もう一隻のミュニファスントがその前へ出ようとする。
そこへ南から側面射撃が届いた。境界へ寄せてきた、黄色い線のヴィクトリー級だった。
「《インヴィオレート》、被弾。第六砲塔、応答なし」
オーヴェルの声が硬くなった。傾いた僚艦の陰から、もう一隻のレキューザントが射角を変えて横から撃っていた。《インヴィオレート》の砲塔の一基から煙が上がり、損害対処班の報告が続いた。負傷者四名。区画を閉鎖。
コーヴィンは《インヴィオレート》を後ろへ下げなかった。残りの砲を輸送船の針路へ向けさせる。四隻のどれかが下がれば、北の進入路にまた隙間ができる。
輸送船が先に向きを変えた。三隻とも大気圏の手前で針路を戻し、北へ上がっていく。艦尾を撃たれたミュニファスントは、片側の噴射だけで後退を始めた。僚艦が曳こうと寄ってきて、途中で離れた。ヴァルチャーの群れが母艦へ吸い込まれていく。
「レキューザント、二隻とも後退。追えます」
オーヴェルが言った。傾いた方のレキューザントは、まだ艦首を戻しきれていなかった。
コーヴィンはその艦を見て、それから港を見た。輸送船は北の外縁へ向かっている。跳躍できる位置まで、まだ時間がかかる。四隻で追えば、北の進入路が空く。
「追わない。進入路に残る」
同盟の艦が一隻ずつ跳躍の光に消えた。最後に輸送船の三隻が消えた。
マイの隊が帰ってきた。二機が被弾していたが、どちらも自分で戻ってきた。落ちたZ-95の操縦士は、第8の救難艇に拾われていた。
*
C.R.C. 7957.084 ヴァンデルヘルム、軌道港、《ヴァリアント》
コランの報告は、感謝の一文から始まっていた。
二行目からは数字だった。同盟向け軍需貨物の出荷、082日から停止。積込みの途中で留め置いた貨物船、二隻。修理ドックで整備中だった同盟の輸送艦一隻は、作業を中断し乗員の退去を確認。
最後に修理ドックの予約表が添えてあった。
先週までの表には、同盟の艦名が並んでいたはずだった。今日の表で、その欄は空いている。三行目に《インヴィオレート》の名が入っていた。
コーヴィンは表を閉じ、第六砲塔の交換部品の手配を書き始めた。
*
C.R.C. 7957.087 アンバラ星系、補給泊地、《ハービンジャー》、司令官室
ヴェッロへ送る要請書の一頁目に、シーアは結果を五行で並べた。
メタロンの造船所。ムルカナの組立棟。十日後の再出撃。ヴァンデルヘルムの離脱と、同盟向け出荷の停止。083日の防衛。
昨日、そこに二行が加わっていた。ベスティーンとキニエンの政府が、共和国の保護の配置を確かめた上で離脱する案を、第二課へ出してきた。キラからは何も来ていない。照会の周波数は開けたままにしてある。
今度こそ次の規模へ進める。シーアはそう思いながら、二頁目の費用の表を開いた。
ソーンが回線に入ってきた。
「欄を三つ増やしました」
攻撃に出ない艦の燃料。保護する港に残る部隊の補給。交代の部隊の移動。ヴァンデルヘルムの欄だけで、メタロンの爆撃一回分の燃料を超えていた。ベスティーンとキニエンの欄には、まだ数字がない。そこに入れる部隊が決まっていなかった。
「離脱する星系が増えるほど、この欄が伸びます」
「うん。分かってる」
シーアは表を下へ送った。073日に港の前へ動かした四つの印が、ここでは艦隊全体の配分の行になっていた。第32が戻るまで、第3艦隊の砲戦配置は前衛を欠いたまま。同じ穴が、同じことをする艦隊ごとにできる。
要求の欄を書き足した。陽子爆弾と新造艦の行の下に、搭乗員。整備員。教官。訓練空域。基地。補給船。損耗の補充。それから、離脱した星系を守る部隊。
「スターファイター軍団の欄は」
「飛行団の補充と、他艦隊への転用を分けてください」
ソーンは言った。
「第3艦隊に集めた二十八個を、他艦隊の増強にもう一度数えると、向こうの計画が崩れます」
シーアは二つの行を分け、飛行団の番号で照合する列を付けた。同じ番号が二つの欄に出ると、そこが赤くなる。最初に赤くなったのは第14だった。
*
C.R.C. 7957.088 アンバラ星系、補給泊地、《ハービンジャー》、司令官室
ヴェッロは今度は歩いていなかった。委員会の小部屋に座り、要請書を最後の頁から読み始めた。
「結果は持ってきたな」
「はい」
「次は、払う者だ」
シーアは財源の頁を開いた。航路利用料への上乗せ。対象はリマとパーレミアンの共和国側の区間。その下に負担の配分の表を付けた。
「離脱した星系の港を通る貨物にも、同じ率を掛けます。守られている港の分は、守られている側が払う。コアの造船星系には、受注額に応じた別の率を」
「コアが黙っていると思うか」
「黙らないと思います。でも、受注表を並べれば、誰の工場に金が流れているかは見えます」
ヴェッロは配分の表を指でなぞった。指が離脱星系の行で止まった。
「戻ってきたばかりの星に払わせるのか」
「同盟にいた時は、同盟へ払っていました」
ヴェッロは顔を上げた。
「その一行は消せ。議場で読まれたら、次に戻ってくる星がなくなる」
シーアは説明の一行を消した。率の欄は残した。ヴェッロはそれを見て、何も言わなかった。
「新しい税を一本の通話で通せると思うな。委員会には、戦時の継続運用の枠として載せる。率は審議で削られる」
「削られる分も、計算してあります」
ヴェッロは鼻を鳴らした。随員を呼び、要請書を委員会の受付へ回すよう告げた。
*
C.R.C. 7957.089 アンバラ星系、補給泊地、《ハービンジャー》、司令官室
要請書は、修正の印を付けて戻ってきた。
ロジンの事務所は、軍備の行に一つも手を付けていなかった。教官と訓練空域の数には、上乗せの提案まで付いている。離脱した星系を守る部隊の行には、注記が一つ。保護は、全面講和までの占領と一体とすること。
ベイルとモスマの修正は、逆の場所に集まっていた。保護の行に印はない。代わりに、基地と恒常の枠の行へ戦時の期限を書き入れるよう求めている。余白にモスマの手で一行あった。戦争が終わった後、この基地は誰が閉じるのか。
シーアは二つの修正を並べ、どちらの印も付いていない行を数えた。半分を超えていた。
エレナからの通話が入ったのは、ベイルとの面会の時刻をセレナが組み直している最中だった。
「議員に直されたんでしょう」
「どうして分かるの」
「台詞を削られた役者と同じ顔をしてる」
シーアは修正の頁をエレナへ向けてみせた。
「ロジン議員は、教官を増やせって。僕が頼んだより多い」
「良かったじゃない」
「その代わり、守った星を占領しろって。モスマ議員は、教官は通すけど基地は戦争が終わったら閉じろって」
「それで、あなたはどっちの議員が好きなの」
「教官を増やしてくれる方」
エレナが笑った。背後で誰かが彼女を呼び、エレナは振り返らずに手だけ上げた。
「こっちは三幕の頭を全部書き直してる。主役が、台詞を減らしてくれって」
「減らせば?」
「減らしたら、何を言いたい役なのか分からなくなるのよ」
シーアは、ヴァンデルヘルムの修理ドックの予約表から同盟の艦の名前が消えた話をした。次は一つの艦隊だけの話ではなくなるかもしれない、とも。エレナは途中で口を挟まず、終わりまで聞いていた。
卓の端で、セレナが面会の時刻を翌日の午後に移した。端末に打ち込みながら、シーアの方は見ずに言った。
「通話は、あと五分です」
通話を切ってから、シーアは委員会の審議日程を開いた。092日の欄に、国防評議会への報告が一行加わっていた。
*
C.R.C. 7957.092 アンバラ星系、補給泊地、《ハービンジャー》、作戦室
国防評議会の席が、作戦室の壁一面に並んだ。
中央に最高議長。右に国防相ハロルド・タッグと、統合作戦本部のケスティン。左にホーン。その先に軍需調達局の局長と、外交委員会から出席したベイル。シーアの画面は、その列の端に小さく映っているはずだった。
「報告は三つです」
一つ目。メタロンの造船所と、ムルカナの組立棟。主要な生産を破壊し、同じ工場で作り続けることを止めた。シーアはラセルの画像を一枚ずつ送った。
二つ目。061日のメタロン。出撃二千四機。帰還千九百五十六機。未帰還四十八機。帰還後に修理不能と判定した機、二十四機。十日後の071日、ムルカナへ千八百機。
「損害を受けた同じ部隊で、二度目を出せました」
三つ目。ヴァンデルヘルムの離脱と、同盟向け出荷の停止。083日の防衛。ベスティーンとキニエンが、同じ手続に入っている。
「ヴァンデルヘルムは、一度も攻撃していない星系です」
シーアは続けた。
「メタロンとムルカナの映像を見て、自分たちの港と工業を失う前に決めました。爆撃した星の外で、同盟への供給が一つ止まっています」
最初に口を開いたのはホーンだった。
「他の艦隊で同じことをするなら、条件がある」
ホーンは第3艦隊の配属表を、評議会の画面へ送った。
「空母を渡しただけでは、メタロンにはならない。砲戦の群で前を開け、航空隊を護衛ごと揃え、補給と回収を艦隊の中に持ち、損耗を埋める先を決めておく。第3艦隊でも、空母を受け取ってから出撃まで四十日かかった。他の艦隊は、まだ中核の二十四隻も揃っていない」
軍需調達局の局長が、手元の表に何か書き込んだ。ハロルドは配属表の補給の行を拡大していた。
「もう一つ、お願いがあります」
シーアは言った。
「離脱を申し出る政府の窓口を、外交委員会の一課ではなく常設の部局に。それから、保護を引き受ける部隊を、攻撃する艦隊とは別に置いてください」
「別に、とは」
ケスティンが訊いた。
「離脱した星を守る間も、攻撃する艦隊が前衛を欠かないように。今、第3艦隊の次の攻撃は、第32が戻るのを待っています」
最高議長は、指を組んだまま話を聞いていた。シーアが話し終えると、少しだけ身を乗り出した。
「見事だ、中将」
声は温かかった。
「工場を焼き、焼かれていない星に次を選ばせた。ヴァンデルヘルムの評議会は、共和国の艦を怖れて共和国へ戻ってきた。そして共和国は、その星を守った」
最高議長は列の左右を見た。
「増強を支持する。予算と再加盟の条件は、委員会と元老院の審議に委ねよう。今日ここで決めるのは、方針だ」
評議会の書記官が、方針の案文を読み上げた。
「軍事、産業、経済システムを段階的に破壊および撹乱させ、分離主義の武力抵抗が致命的に弱体化するまで加盟星系を喪失させる」
異議を述べる者はいなかった。書記官が採択を告げた。ベイルは画面の中で、案文の写しへ目を落としたままだった。
採択の告知が流れると、シーアはホーンの配属表の横へ新しい欄を作った。第5艦隊。第8艦隊。空母の受領予定。飛行団の補充。目標表の様式。
「ソーン。他の艦隊の目標表、うちの様式でそのまま作れるよ」
『作れます。中身を埋める人がいれば』
「いるよ。これから増やす」
ケレンが卓の端に茶を置いていった。シーアは気づかないまま、欄を一つずつ埋めていった。
*
C.R.C. 7957.093 アンバラ星系、補給泊地、《セレリタス》、主格納庫
最初に来たのは、爆撃機ではなく整備員だった。
第5艦隊から十二名。第8艦隊から九名。スターファイター軍団の調整官が名簿を持って先に降り、ロナン・ベックの前で一人ずつ名前を読み上げた。全員、まだ空母を受け取っていない艦隊の者だった。
「受入れの手順を見せてほしい、とのことです。それから、教官を出せるかどうか」
ベックは訪問者たちを受入れ区画へ連れていった。
「帰ってきた機は、ここで止めない。止めると、次の機が降りられない」
床に引いた線を指でたどった。担架の置き場。消火班の待機位置。部品回収の台。
「札の番号の前に、飛行団の番号を書く。第三班は、どの飛行団にもある」
第8艦隊の若い整備員が、その一言を書き留めた。ベックが白墨で札に第11と書き足した日から、まだ二か月も経っていない。
「班長、三号機の冷却管です」
班員が呼びに来た。ベックは訪問者を副班長に預け、機の下へ潜った。冷却管の継ぎ目から細く漏れている。手を動かしながら、名簿の人数を数え直した。
這い出してから、調整官を呼んだ。
「教官を二人出せと言うなら、その二人の代わりが来る日を先に書いてくれ」
「急ぎの要請です」
「急ぎなのは分かる。二人抜けたまま次の出撃に入れば、うちの機が降りる場所で詰まる」
調整官は名簿を開き直した。最初に一人。代わりが着いたら二人目。そう書き直して、ベックに見せた。
格納庫の端で、ハーランが訪問者の一人に爆弾倉の扉を開けて見せていた。飛行服ではなく、作業服を着ていた。
ベックは派遣名簿の一行目に、自分の班の若い整備員の名を書いた。冷却材で足を滑らせて、襟を掴んで起こした男だった。
*
C.R.C. 7957.094 アンバラ星系、補給泊地、《ハービンジャー》、作戦室
コーヴィンの報告には、第8艦隊への引継ぎの日程が付いていた。
北の進入路は、101日に第8艦隊の後続部隊へ渡す。《インヴィオレート》の砲塔の交換は、それまでにヴァンデルヘルムの修理ドックで終える。102日に補給を終えて出発し、八日後の110日にアンバラへ着く。
シーアは次の攻撃予定の表に、各群の帰還予定を重ねた。第32が戻るのは110日。そこから補給を終えるまで、条件の一行目は埋まらない。二行目の同等の戦力の配属には、GFからまだ返事がなかった。
「司令。ムルカナです」
ラセルが画像を卓へ送ってきた。
071日の爆撃の後、ロウランの機が撮った車列の映像が最初にあった。西へ向かう運搬車。ラセルはその先を、偵察艇の画像で追い続けていた。
焼けた組立棟は、焼けたままだった。屋根を掛け直した跡も、瓦礫を退けた跡もない。
「再建はしていません。ただ、こちらを」
ラセルは画像を西へ送った。工場区の外れの倉庫。その裏門の門柱が、片側だけ白く削れていた。
「076日の画像では、門柱はこの幅でした。大型の運搬台は通れません。081日に、削られています」
さらに西へ。旧採掘区へ向かう古い道に、荷を載せた車両が連なっていた。ラセルは熱源の形を、工作機械の登録資料と一つずつ照らし合わせていた。
シーアは日付を遡った。最初の車列は071日の映像にある。門柱が削られたのは081日。国防評議会が方針を決めたのは092日。
向こうは待っていなかった。
攻撃予定の表には、ムルカナの欄が残っていた。工作棟と倉庫への三度目の攻撃。目標の座標は、組立棟の跡の東にある。
シーアはその欄から、承認の印を外した。
「ラセル。運搬台の行き先を追って。倉庫の中と、採掘区の先。新しい場所が分かるまで、毎日」
「熱源の照合も続けます」
シーアはイルマ・ソーヴェンの施設一覧を、ムルカナの欄の隣へ移した。病院へ電気を送る変電所の位置が書いてある。運び出した機械を新しい場所で動かすなら、どこかから電気を引かなければならない。
ラセルが画像の束を次の日付へ送った。
次の画像では、運搬台が倉庫の屋根の下へ半分入っていた。幅の足りない門柱の脇に、削った石が積まれていた。