STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

96 / 97
分散

C.R.C. 7957.119 ムルカナ星系、銀河平面座標 S-6、パーレミアン・トレード・ルート支線、ムルカナⅡ周辺宙域、《ハービンジャー》、艦橋

 

「準備出来次第撃て」

 

『前部反応炉、砲戦出力へ。全砲塔、対地射撃』

 

 砲術長の声が返った。艦橋の床を通して、低い唸りが上がってくる。主砲へ給電する帯が表示の上で伸びていき、背面に並ぶ十二基の砲塔が、頭上の地表へ砲身を揃えた。

 

『出力八十。九十。……百。十二基、目標第二坑口。射撃準備よし』

 

『斉射』

 

 二十四本の光が窓の外へ走った。

 

 旧採掘区の丘の頂に、白い点が重なって開いた。眩しい縁が一瞬見え、光はその奥へ吸い込まれた。丘の輪郭は、まだ残っていた。

 

 その輪郭が持ち上がった。

 

 坑口より上の斜面が岩盤の板になって膨らみ、搬入路が途中で折れた。換気塔が根元から傾き、割れ目から白い光が噴き出す。新しく引いた電線の支柱が、一本ずつ倒れていった。噴き出しの底に坑道の断面が見えた。支柱と床と、並んだ機械の影。持ち上がった岩盤が落ち、坑道の奥へ崩れ込んだ。丘のあった場所が、一段低くなった。

 

『第二坑口、熱源消失。坑道、崩落を確認』

 

 戦闘指揮所からラセルの声が来た。

 

 シーアの画面の隅には、ラセルの追跡図が開いたままだった。門柱を削った倉庫から、運搬台の轍が三本に分かれている。一本は別の倉庫へ。一本はこの坑口へ。残る一本は、町の外れの貨物駅へ。096日から099日までの画像で、坑口へ部材が入り、小さく揃った加工品が出てくるのを、ラセルは一台ずつ数えていた。その坑口が、いま地図から消えた。

 

「第二目標」

 

 ここからは、ソーンの配当どおり各艦の十二基を左右六基ずつに分け、二つの目標へ同時に向ける。《エンヴォイ》が撃った。採掘区の奥で地面が沈み、検査区画の冷却器の熱が消えた。《ヘラルド》が変電所を撃ち、坑道へ向かう電線の束が火の線になって切れる。

 

 三度目の斉射は、町の外れの倉庫群へ落ちた。地上の建屋は小さい。艦砲が狙ったのは、その下だった。倉庫の床が一枚ずつ沈み、地下の加工区画の天井が抜ける。並んでいた屋根が、内側へ折れ込むように消えていった。

 

 雲の下では、航空隊の一隊が搬入口へ降りていた。ARC-170が先に入り、搬入口を守る砲座を機首の砲で黙らせる。その後ろから、PTB-625の小さな列が集積場の上を横切った。積み上げた部材の山が、端から順に火を噴いた。

 

 四隻のテクターは、間隔を開けて背面を惑星へ向けていた。その外側で、ヴァンデルヘルムから戻ったコーヴィンの第32任務群が前衛を張っている。昨日の先遣隊が開いた帰投点の内側に、ヴェクター群とヘイグの救難艇が下がっていた。

 

 テクターがこの高さまで降りてこられたのは、二日前の夜があったからだった。

 

 117日、外縁へ入った第3艦隊を、ムルカナの防衛隊が軌道で待っていた。ミュニファスント級とレキューザント級が軌道の防御プラットフォームの陰に並び、惑星へ近づく艦を正面から撃てる形を作っていた。メタロンでも071日のムルカナでも、テクターが撃ったのは軌道のプラットフォームや造船の架台までで、惑星へ寄って地表を撃つことはなかった。地表へ届いたのは、爆撃隊の爆弾だけだった。

 

 今度は艦隊が入った。コーヴィンの前衛が正面を押さえ、テクターの斉射が防御プラットフォームを一基ずつ落としていった。三時間の撃ち合いの後、防衛隊は損傷した艦を曳いて惑星の陰へ下がった。軌道に残ったのは、プラットフォームの残骸と、共和国の艦だけだった。翌日、先遣隊が外縁の前哨を潰して帰投点を開いた。

 

 防衛隊は沈んではいない。惑星の陰で、まだ待っている。

 

 射撃の直前、コーヴィンから前衛の配置完了が届いていた。四隻とも揃っています、お待たせしました、と付いていた。シーアは、待ってた、とだけ返した。

 

 同盟の反撃は、四度目の斉射の後に来た。

 

「地上から対艦射撃。新しい射点、三」

 

 閉じていた砲台の扉が開いていた。地上から上がる重い光が、前衛のヴァリアントの盾を叩く。射点の一つは、撃った直後に反応が消えた。動かせる砲だった。

 

 四つ目の射点からは、青白い塊が上がってきた。

 

「イオン砲! 《インヴィオレート》へ!」

 

 前衛の二番艦の盾が、表示の上で一瞬消えた。艦の灯りが半分落ちる。主機は止まらなかったが、盾が戻るまでの数十秒、その艦は裸だった。地上の重砲が、その数十秒を狙って撃ってくる。コーヴィンの《ヴァリアント》が前へ出て、自分の盾を僚艦の前に重ねた。

 

「惑星の陰から、ミュニファスント級とレキューザント級。側方から来ます」

 

 防衛艦は前衛の正面に出てこなかった。惑星の縁を回り、テクターの列の横腹へ向かってくる。背面を地表へ向けて撃っている艦の、艦首の盾が向いていない側だった。地下へ移した工程を守るために、向こうは最初からこの形を用意していた。

 

 ミュニファスントの一隻が前衛の砲火をくぐり、列の端の《ヘラルド》へ艦首砲を撃った。盾が明滅する。《ヘラルド》は艦体を戻さなかった。二基だけを旋回させて撃ち返し、残る十基は地表へ向けたままだった。マイの攻撃隊が、そのミュニファスントの後ろへ回り込んでいく。

 

 *

 

ムルカナⅡ周辺宙域、《ヴァリアント》

 

 アデル・コーヴィンは、惑星の縁を見ていた。

 

 防衛艦は、地平線の向こうから一隻ずつ出てきた。ミュニファスント級が二隻、レキューザント級が一隻。惑星の陰に入っている間は、索敵に引っかからない。出てきた時には、もうテクターの列の横腹へ向いていた。

 

「《インヴィオレート》、盾の回復は」

 

『六割。第六砲塔、射撃可能』

 

 アンバラで俯仰の駆動を替えた砲塔だった。コーヴィンはその報告に受領を返し、二隻を並べ直した。前衛の線を前へ出す。テクターの列と防衛艦の間に、自分たちの盾を置く。

 

 レキューザント級が一隻、前衛の正面へ寄ってきた。主砲を開き、《ヴァリアント》の盾へ撃ち込んでくる。撃ちながら、ゆっくり後退する。追えば、テクターの横腹が空く。ヴァンデルヘルムで見た形だった。

 

「追わない。オーヴェル、正面のレキューザントは撃つだけ撃て。位置は動かすな」

 

「了解。二十二基、射撃開始」

 

 砲術長のサイラス・オーヴェルが答えた。斉射がレキューザントの盾を叩き、艦首の砲座が一列、光の中で消えた。レキューザントはそれでも後退をやめなかった。こちらが動かないと分かると、今度は艦首を横へ振り、惑星の縁の方へ戻り始めた。

 

 その間に、ミュニファスントの一隻が《ヘラルド》へ撃ちかけていた。マイの攻撃隊が、その艦尾へ回り込んでいる。

 

『こちらトレン。ミュニファスントの艦尾、推進器を狙います』

 

「やって。テクターから引き剥がせればいい」

 

 BTL-A4の列が、ミュニファスントの艦尾へ魚雷を放した。推進の光が二つ消え、艦の向きが《ヘラルド》から逸れた。もう一隻のミュニファスントが割り込んできて、マイの隊へ対空砲火を浴びせる。一機が翼を焼かれて列を外れた。救難の符号が出て、ヘイグの救難艇へ回った。

 

 ヴァルチャーの群れが、前衛の上を越えようとしていた。テクターの列へ向かう爆撃機を、その後ろに抱えている。ハイエナだった。Z-95の隊が上から割り込み、群れを二つに割った。割れた片方が、それでも前衛の内側へ抜けた。《ヴァリアント》の近接防御が、その列の先頭を撃ち落とした。

 

 地上の射点は、まだ生きていた。

 

 ARC-170の三個小隊が、移動する砲を追っていた。砲は撃つと、軌条の上を走って別の掩体へ入る。掩体の扉が閉じると、上からは見えなくなる。ARC-170は扉が開く瞬間を待って、機首の砲を撃ち込んだ。一門が掩体の入口で止まり、炎を上げた。残る二門は別の掩体へ入った。

 

 イオン砲の射点は、その奥にあった。三重の掩体の下で、撃つ時だけ天井が開く。

 

 撃たれるたびに、射点の地図には新しい印が増えていった。最初の三つとイオン砲のほかに、扉を開けて撃ってきた掩体がさらに二つあった。コーヴィンは射点の地図を数え直した。分かっているのは六つ。黙らせたのは二つ。残りは四つ。掩体を一つ潰すたびに、ARC-170の隊は一度上がって、次の扉が開くのを待たなければならない。

 

 コーヴィンは回線を開いた。

 

『こちら32。防衛艦は押さえます。地上の射点を全部黙らせるには、二十分を見てください』

 

 *

 

ムルカナⅡ周辺宙域、《ハービンジャー》、艦橋

 

 コーヴィンの声だった。シーアは前衛の盾の表示を見た。負荷は上がっていたが、線は崩れていない。採掘区の東の倉庫から、貨物車が出始めていた。煙の下を、別の道へ向かっている。

 

 二十分あれば、坑道の中のものも車に積める。全部ではない。だが、検査装置の一台は積める。

 

 ソーンの見積りでは、今朝出港を確認した同盟の増援が、ムルカナへ着くまで三時間。撃ち終えて航空隊を収容し、跳ぶまでを、その中に収めなければならない。二十分は、まだその中に入る。

 

「射点の制圧と並行して、対地射撃を続けて。回避が要る艦は、その艦だけ外して」

 

『32、了解』

 

 ソーンからも受領が来た。次の斉射で、東の倉庫の前の積替え場が消えた。荷を吊ったクレーンが根元からなくなり、出かけていた貨物車の列が止まった。

 

 《ハービンジャー》の盾に、地上からの光が当たった。艦橋の床が一度だけ跳ね、卓の上のカップが受け皿の上で鳴った。

 

「左舷後部、盾に負荷。損害なし」

 

 コルヴェンが読み上げた。シーアはカップを押さえず、地上の射点の表示を見た。今撃ってきたのは、ARC-170が追っていた二門のうちの一門だった。掩体を出て、軌条の上を走りながら撃っている。

 

『射点、移動中。北東へ四百。次の掩体まで、およそ九十秒』

 

 ラセルが読んだ。コーヴィンの前衛から、二隻分の砲火がその軌条の先へ置かれた。砲は掩体の手前で止まった。止まったところへ、ARC-170が降りていった。

 

「第五目標」

 

 ソーンの配当が次の行へ進んだ。部材加工の第二区画。坑道の入口から二百メートル奥、岩盤の下にある。《エンヴォイ》の左舷六基が撃ち、地表に細い亀裂が走った。亀裂が広がり、坑口の上の斜面が内側へ落ち込んだ。

 

『第五目標、熱源低下。完全には消えていません』

 

「もう一斉射」

 

 《エンヴォイ》がもう一度撃った。今度は斜面ごと沈み、熱源の印が地図から消えた。

 

 地上の基地から、新しいヴァルチャーの群れが上がってきた。雲の下から縦に昇り、テクターの列の下面を狙ってくる。Z-95の隊が下へ回り込み、雲の上で撃ち合いが始まった。その光の中を、救難艇が一隻、翼を焼かれたBTL-A4の操縦士を拾いに降りていった。

 

 シーアは時刻を見た。射撃開始から四十分。コーヴィンの二十分の見積りまで、残りは十二分だった。増援の到着の見込みまでは、まだ二時間以上ある。

 

「残りの目標は」

 

『第六、第七、第八。第七は東倉庫群の地下検査区画。《プレカーサー》の左舷六基へ配当済み』

 

 ソーンが答えた。

 

「GFへ。第3艦隊、ムルカナ攻撃継続中。交戦継続」

 

 セルトが定時の報告を送った。《プレカーサー》の砲術の声が、共通回線で次の目標を読み上げていた。

 

 *

 

C.R.C. 7957.120 コルサント星系、銀河平面座標 L-9、パーレミアン・トレード・ルート起点、宇宙軍グランド・フリート司令部、作戦指揮所

 

 作戦盤の上で、「第3艦隊/ムルカナ」の行は一晩のうちに二度書き換わっていた。

 

 攻撃開始。それが攻撃継続中、交戦継続になり、夜半に、攻撃完了、離脱と変わった。ウィルハフ・ターキンが朝の当直で指揮所へ入った時には、その行の隣に、もう別の艦隊の報告が届いていた。

 

 作戦盤には三本の行が並んでいた。第3艦隊/ムルカナ。第5艦隊/トラヴォス。第8艦隊攻撃部隊/サレック。国防評議会が方針を決めてから二十八日。一つの艦隊の作戦だったものが、三つの行になっていた。どの行も、まだ全力の出撃ではない。第5と第8には、第3艦隊のようなフリート・キャリアはまだ届いていなかった。

 

 ターキンはセスウェナ総督として、大将待遇の提督の席をこの指揮所に持っていた。国防評議会で決まった方針を、各艦隊の次の目標へ渡していく。艦隊を動かす命令を出すのは、GF司令のホーンだった。

 

「第3艦隊、主要五施設の機能停止を確認」

 

 作戦参謀が読み上げた。

 

「地下の切削工程、検査区画二か所、変電所、積替え場。《プレカーサー》被弾。火器管制と姿勢基準を損傷し、戦列を離脱。修理見込み二十四日。残る三隻で攻撃を完了しています」

 

「残る艦で、次はいつ出せる」

 

 ターキンは訊いた。

 

「テクター三隻。第32任務群は、帰還後の補給を終えています。航空隊は118日の前哨攻撃の損耗が残っています」

 

 参謀は表を送った。PTB-625、未帰還六。ARC-170、未帰還四。搭乗員四十二名のうち三十三名回収、九名未確認。

 

「アンバラへの帰着が122日。補給と整備を挟んで、早くて十日後です」

 

「十日」

 

 ターキンは作戦盤のムルカナを拡大した。シーアの報告には、ラセルという兵曹の追跡図が添えてあった。焼けた組立棟から、倉庫と坑口と貨物駅へ散った機械の行き先。工場を一つと数えず、工程ごとに目標が並べてある。今朝の戦果は、その表のうち、停止を確認できた五か所に印を付けたものだった。

 

 印の付いていない行が、まだ表の下の方に並んでいた。

 

「第5艦隊、トラヴォスより」

 

 別の参謀が新しい報告を開いた。

 

「組立施設への攻撃は成功。ただし、事前に運び出された設備が別の倉庫で稼働しているとの観測があります。全工程の停止は未確認」

 

 ターキンはムルカナの表とトラヴォスの報告を並べた。焼いた組立棟と、外で動いている機械。同じ形だった。

 

「トラヴォスの偵察の更新はいつだ」

 

「第5の偵察艇は、三日後の予定です」

 

「明日にさせろ。動いている倉庫の位置と、そこへ何が運ばれているかを。次の攻撃先はそれで決める」

 

 ホーンが顔を上げた。

 

「第5の偵察艇は二隻しかない。明日に回せば、その次の更新が空く」

 

「今回は明日を優先する。第3の追跡図も送れ。建物だけでなく、出入りする車列を見させる」

 

 ホーンは偵察の予定を開いた。

 

「以後の間隔は、第5に組み直させる」

 

 第3艦隊の追跡図の写しが、第5艦隊の宛先へ送られていった。

 

 ターキンはムルカナの行へ戻った。《プレカーサー》の欄に、修理見込みの数字だけが入っている。

 

「修理の着手日は」

 

「124日、アンバラの工作艦で。完了見込みは148日です」

 

「完了見込みと、戦列に戻る日は別にしておけ」

 

 参謀が欄を二つに分けた。射撃の記録と姿勢基準の異常は、修理と復帰の項目として技術局へ回っている。作戦盤の上では、《プレカーサー》は少なくとも148日まで使えない砲戦艦の一隻だった。

 

 *

 

C.R.C. 7957.122 グランド・フリート司令部、作戦指揮所

 

 交代の士官が、二件を同じ机に置いていった。

 

 一件は第3艦隊の詳報だった。アンバラに帰着したシーアの艦隊から、ムルカナの戦果と損傷を整理したものが届いている。もう一件は、第8艦隊の攻撃部隊からの速報だった。

 

「第8の攻撃隊は、港の手前で反転しています」

 

 参謀が速報を開いた。

 

「サレックの軍需港です。進入路で同盟の防衛艦と迎撃隊に阻まれ、攻撃を中断。損傷艦が出ています。投下に入れた隊は一つもありません」

 

「港は動いているのか」

 

「動いています。防衛艦が残っています」

 

 ターキンは港の図を出させた。第8艦隊が想定していた進入路の上に、迎撃隊の待機位置が三つ重なっている。ムルカナにもトラヴォスにもなかった密度だった。同盟はこの港に、ほかから寄せた艦と機を集めていた。

 

 集めた艦は、ほかの港にはいない。

 

「サレックへ集めた艦は、どこから来た」

 

「観測では、少なくとも二隻がトラヴォスの方面から。残りは識別できていません」

 

「では、トラヴォスの防御は薄くなっている」

 

 ターキンはトラヴォスの行を指で叩いた。第5艦隊が焼いた組立施設の外で、運び出した設備が動いている倉庫。そこを守るはずの艦が、サレックへ回っている。

 

「もう一度だ。次はどの部隊を出せる」

 

「第8は収容と補給に入っています。損傷艦の修理もあります」

 

 ホーンが言った。

 

「第5の次の出撃を回せます。トラヴォスの偵察の結果次第ですが、倉庫を叩くのは航空隊の一部で足りる。砲戦艦と残りの航空隊を、サレックへ」

 

「では第5に。防衛艦の配置と、第8が見た迎撃の位置を送れ。攻撃案を出させろ」

 

「同じ進入路を使わせるわけにはいかない」

 

 ホーンが言った。

 

「第8が止められた所に、向こうはまだ迎撃隊を置いている。同じ飛び方をさせれば、同じ所で止められる」

 

「港を対象から外さなければ、それでいい。進入路は第5に選ばせろ」

 

 ホーンは頷き、第8の速報から迎撃位置の頁を抜いて、第5艦隊の宛先へ付けた。

 

「第8の残りから、ヴァンデルヘルムの防衛部隊を抜けば、もう少し厚くできますが」

 

 若い参謀が言いかけた。ホーンが先に首を振った。

 

「あの部隊は第3の第32から引き継いだばかりだ。抜けば、港を守るという約束の方が先に空く」

 

 ターキンはその遣り取りに口を挟まなかった。ヴァンデルヘルムが離脱したことで、ベスティーンとキニエンが続こうとしている。守った港を空ければ、次の星系は離脱を選ばなくなる。ホーンの言う約束は、ターキンにとっても作戦盤の上の資産だった。

 

 トラヴォスの偵察結果が届いたのは、その一時間後だった。動いている倉庫は二つ。そこへ部材を運ぶ車列が一本。第5艦隊への命令が書き直された。倉庫二つは航空隊の一部で。主力はサレックへ。出発は124日。

 

 ちょうど命令が出た時、リマ沿いの星系の一つから、離脱の条件の照会が入った。まだ一度も攻撃していない星系だった。

 

「外交委員会の第二課へ回します」

 

「回せ。GFの欄には、その星系の港を守るなら、どこから艦を出すかを書いておけ」

 

 参謀が欄を作った。第8艦隊の残り。第3艦隊の帰還後。どちらの行にも、まだ数字は入らなかった。

 

 ターキンは第3艦隊の詳報を開いた。

 

 戦果の頁の後ろに、ムルカナの戦闘経過が付いていた。前衛から二十分の報告。射撃の継続。《プレカーサー》の被弾。損傷艦を外し、残る三隻で目標を振り分け直した記録。シーアはどの判断にも時刻を付け、自分の命令には自分の名前を付けていた。射撃ごとの記録は、付属書として後ろに綴じてあった。ターキンは付属書の頁数だけを確かめ、所見の頁へ進んだ。

 

 詳報の最後の頁に、ヴァラリアン中将の所見があった。分散した工程の間を、部材と冷却材と燃料が運ばれている。工場を追う攻撃を続ける一方で、その輸送の結節点を調べ始めた、と。

 

 ターキンはその行に印を付けた。

 

 *

 

C.R.C. 7957.125 グランド・フリート司令部、作戦指揮所

 

 第3艦隊から、輸送経路の報告が届いた。

 

 ラセルの追跡図が更新されていた。ムルカナの焼けた積替え場の手前で、燃料の輸送車が別の道へ曲がる。その先に、また小さな熱がある。輸送車の来た道を遡ると、採掘区の外の燃料の集積所へ着いた。

 

 同じ日、第5艦隊のトラヴォスの偵察にも、似た線が出ていた。倉庫へ部材を運ぶ車列とは別に、冷却材と燃料の車が毎日同じ道を通っている。

 

 昼前には、第5艦隊の航空隊の一部がトラヴォスの倉庫二か所を叩いた報告が来た。

 

「機能停止を確認。航空隊の損耗は軽微です」

 

「倉庫を出た車列は」

 

「一本が、攻撃の前に隣の町へ向かっています」

 

 ターキンは頷いた。倉庫を焼くたびに、車列が一本ずつ先へ逃げる。逃げた先でも、機械を動かすには電気と燃料と冷却材が要る。

 

 ターキンは二つの図を並べ、その隣に第8艦隊が見たサレックの港を置いた。港から積み出される荷の半分は燃料だった。

 

「工場は動かせる」

 

 ターキンは言った。

 

「燃料は、どこかで作って、どこかに溜めて、運ばなければならない」

 

 ホーンは作戦盤を見たまま答えた。

 

「精製所と貯蔵所は、工場より大きい。隠しにくい。ただし、民間の暖房も交通も同じ燃料で動いている」

 

「承知している」

 

 ターキンは参謀に、次の計画の照合表へ欄を足させた。精製。貯蔵。配送。積出し。輸送の結節点。各艦隊の偵察が見た燃料の流れを、ここへ集める。どの艦隊が、どの日に、どこを担当するかは、まだ入れない。

 

 ヴァンデルヘルムの評議会が離脱を決めたのは、壊された工場の映像を見たからだった。ターキンはその事実を、方針を通した時から忘れていなかった。燃料が止まれば、壊されていない星の工場も止まる。止まった星の政府は、次に何を選ぶか。

 

 シーアも同じものを見ている、とターキンは思った。詳報の所見の書き方で分かった。あの若い中将は、工場の向こうにある政府の判断まで数えていた。

 

 夕方の当直が、新しい予定を配った。

 

 第5艦隊、127日、サレック軍需港。第3艦隊、132日以降、ムルカナの残存工程、偵察の結果による。第8艦隊、補給と修理、ヴァンデルヘルムの防衛を継続。

 

 作戦盤のムルカナでは、戦果を確かめた五つの印の隣に、まだ動いている小さな熱が三つ残っていた。参謀がその印を、第3艦隊の次の欄へ移した。

 

 *

 

C.R.C. 7957.126 ラクサス星系、銀河平面座標 S-5、ティオン交易路、ラクサス・セカンダス、同盟防衛艦隊総司令部

 

「――サレック防衛隊は、共和国の攻撃部隊を進入路で迎撃。爆撃機の投下を一つも許さず、攻撃を断念させました」

 

 副官の読み上げる声は、いつもより少し高かった。

 

 ヘルムート・ゲーリン元帥は詳報の頁をめくった。迎撃隊の三段の待機位置。防衛艦の配置。ムルカナとメタロンの記録から組み直した形が、そのまま効いていた。来たのは共和国の第8艦隊だった。識別した艦名が、共和国の報道に出ていた編成と合っている。第8艦隊は損傷した艦を曳いて、跳んでいった。

 

 久しぶりに、良い報告だった。

 

 元帥は防衛隊の指揮官の名前を探した。表彰の欄に、自分で一言書き添えるつもりだった。端末に手を伸ばしたところで、副官の端末が鳴った。

 

「トラヴォスです。移転先の倉庫二か所が、再び攻撃されました。設備の一部は搬出できましたが、両区画とも稼働を停止しています」

 

 元帥は手を止めた。

 

 腹の奥が引き攣った。昨夜から続いている痛みだった。元帥は椅子へ深く座り直そうとして、途中でやめた。背を預けると、痛みが前へ寄ってくる。浅く腰掛けたまま、片手を腹へ当てた。

 

「続けろ」

 

「トラヴォスの政府から、防衛艦と迎撃隊の増派要請です。サレックの部隊を回してほしいと」

 

 元帥はムルカナの報告も並べた。共和国のテクター級を一隻、損傷させて戦列から外した。砲台の扉を閉じて隠し、撃ち始めてから開けたのが当たった。それでも、地下へ移した切削と検査の工程は失われていた。撃破と損傷の欄は埋まっている。稼働の欄は空いていた。

 

 撃破の欄には、テクター級一隻撃沈とあった。元帥はその行で止まった。

 

「撃沈ではない」

 

「現地の報告では――」

 

「観測の記録を見ろ。被弾した艦は自分で射撃位置を外れ、ほかの艦と一緒に跳んでいる。損傷して離脱、だ。沈んでいない艦を沈んだと書けば、次に来た時に数が合わなくなる」

 

 副官が欄を書き直した。

 

 サレックは守れた。工場も残った。その防衛艦と迎撃隊を、守れなかった星が欲しがっている。

 

 サレックから引けば、共和国がもう一度来た時に港は空く。残せば、トラヴォスとムルカナへ送るものがない。

 

 元帥は制服の腰の留め具を一つ緩めた。楽にはならなかった。

 

「ムルカナとトラヴォスの政府と企業から、移転先の防御要請が、合わせて十一件」

 

 副官が次の一覧を開いた。工場の名は同じで、座標が別だった。前にも見た形だった。数が増えている。

 

「十一に配れば、どこも守れん」

 

 元帥は一覧に順位を付け始めた。代わりのない検査工程。まとまった部材。燃料の集積所。トラヴォスの残る三つの倉庫には、現地の守備隊と砲台を寄せる。艦は、サレックから二隻だけ。迎撃隊は動かさない。

 

 トラヴォスの守備隊の指揮官を回線へ呼び出した。砲台を何門、どの倉庫へ回せるか。指揮官は、残る三つの倉庫のうち二つまでなら、と答えた。三つ目は、と元帥が訊くと、指揮官はそこの搬出を続け、離れた空き倉庫に偽の熱源を置くと言った。元帥はそれを許可した。

 

 残る八件には、移転と秘匿を続けるよう返した。返しながら、その八件の座標を見た。守る艦は、そこへは行かない。

 

「大洋艦隊司令部からも、照会が来ています」

 

 副官が言った。

 

「補給の燃料を受け取る港の防御を、防衛艦隊で引き受けられないかと。星系防衛軍からも、同じ趣旨の要請が三件」

 

 元帥は顔を上げた。大洋艦隊も星系防衛軍も、指揮系統が違う。これまでは、それぞれの持ち場をそれぞれで守ってきた。その両方が、同じ港と同じ燃料を守ってくれと言ってきている。

 

「受け付けたと返せ。配分はこちらで検討する、と」

 

「検討、で返してよろしいのですか」

 

「今は、それしか書けん」

 

 副官が返信を作っている間に、もう一通が届いた。伯爵の事務局からだった。報復の作戦に要る攻撃機と燃料の抽出は、いつ終わるのか。

 

 元帥は二つの一覧を並べた。サレックの迎撃隊は、報復の一覧にも名前があった。燃料の行も重なっている。

 

 元帥は燃料の行の半分を報復の欄へ移した。迎撃隊はサレックに残した。伯爵の事務局へは、抽出の第一陣の日付を返した。残りの日付は、空けたままにした。

 

 *

 

C.R.C. 7957.127 ラクサス・セカンダス、同盟防衛艦隊総司令部

 

 トラヴォスへ回す二隻の移動命令は、署名を待っていた。

 

 元帥はペンを取った。サレックの防衛隊から二隻。出発は今夜。署名の欄へペン先を下ろしかけたところで、副官が戻ってきた。

 

「サレックから。共和国艦隊、接近」

 

 元帥はペンを止めた。

 

「また来たのか」

 

「はい。ですが現地は、前回とは別の部隊らしいと。識別できた艦名は、第5艦隊のものです」

 

 第8艦隊は損傷艦を曳いて帰ったはずだった。それなのに、もう別の艦隊が同じ港へ来ている。

 

 腹の痛みが強くなった。元帥は机に手をつき、体を支えた。立ったまま、移動命令の二隻の行を消した。サレックの防衛隊は全艦、現地に残す。トラヴォスへは、別の星系の守備隊から砲台を回す。

 

「署名を」

 

 副官が差し出した命令書に、元帥は名前を書いた。字が少し右へ流れた。

 

 机の上の端末が、また鳴った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。