カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「【
「【
セットしたカードを表にした瞬間、私たちの前にそれぞれのレジェンドたちが姿を現す。
私は獣人の姫、ルルリカ。そして心愛は物憂げな雰囲気の人魚だ。
そのレジェンドの名前がかつての擁立戦でも使われたミリーであることを確認した私は静かに呼吸を整えた後、プレイングを開始した。
「私のターン、ドロー! 【スイートメイド クッキー】を召喚し、デッキトップから一枚をハーツイン。これで進化条件達成! ルルリカをレベル1【
いつも通りにハーツを溜め、進化条件を達成させる。
手堅いプレイングですべきことをした私がターンを終えれば、もう一人の心愛が静かに動き始めた。
「……私のターン開始時、場に【ミリー】以外のカードがなければ、このカードの進化条件は達成される。レベル1【
霧に包まれたミリーが、それを切り裂いて再び姿を現す。
妖しさを増した美しき怪物として成長を遂げた彼女の姿を目にした私は、その色気にゾクリとした寒気を覚えてしまった。
「【行方知れずの船人】を召喚。そのまま攻撃」
「ミリーの攻撃はガード。もう一発は受ける」
特に動きは見せず、召喚したユニットとの連続攻撃を仕掛けてくるもう一人の心愛。
その静けさに不気味なものを感じながらも、私は自分のプレイングを続けていく。
「私のターン……【ランタンお化けのトーマス】を召喚。その効果で、ドロップゾーンのカードをハーツインできる。これでハーツは三枚、進化条件達成! レベル2【
デッキトップから三枚を見て、一枚を手札、一枚をハーツ、一枚をドロップゾーンに割り振るという強力なルルリカの効果を発動し、状態を整える。
それだけでは終わらず、私は次々とカードの効果を発動していった。
「今、ドロップゾーンに置かれた【ゴーストフラワー】の効果で、デッキトップから一枚をハーツイン。さらに【ムキムキお化けのデイビス】と【スイートメイド クッキー】を召喚し、ハーツインしつつ攻撃だ!!」
「ノーガード」
私のユニットたちの攻撃がミリーに直撃する。
ダメージゾーンにカードが二枚置かれる中、それでも平静を崩さない相手の態度に私の不安はどんどん大きくなっていった。
(ダメージは私がリードしてる。なのに、焦るどころか動揺する様子すら見せない……まだまだ余裕ってことなの……?)
私が知っている心愛は、いつも明るくて感情が表情や行動に出やすい、賑やかな人間だ。
だけど、目の前にいる心愛は違う。不気味なくらい静かで、何を考えているのか全くわからない。
強いて挙げるのならば、私に絶対に勝つという覚悟だろう。妹を取り戻し、この世界で二人でやり直す……そのために必ず、この擁立戦に勝利するのだという決意が痛いほどに伝わってきている。
(いけない。相手に飲まれないようにしなくちゃ。こういう時は――)
こういう時は、相手のペースに飲まれないように気を付ける。一ノ瀬から教えてもらったことだ。
マナーの悪い相手と当たった時にも相手の雰囲気に呑まれると実力が発揮できなくなり、プレイングミスも多くなってしまう。だから、相手に関係なく自分自身のできることをやるという意識を強く持て……そう教えてくれた彼の言葉を思い返しながら、私は深く息を吐く。
(わかっていることを整理しよう。そうすれば、相手の戦法もわかってくるはず)
もう一人の心愛が使っているレジェンドは、こちらの心愛と同じ【ミリー】だ。
私ともう一人の私が使っていた【ルルリカ】にも似通っている点と正反対な部分があった。それはきっと、ミリーだって変わらないはず。
少し前に心愛と戦った時のことを思い返しながら、私はここまで確認できた情報と照らし合わせ、相手の効果を予測していく。
(本来のミリーの進化条件は自分の場のライブステージカードの枚数。ステージが場に出た時と裏返しになった際に発動する効果で自分と味方ユニットを強化して戦うデッキだった。でも、もう一人の心愛が使ってるミリーはその逆。場に自分のユニットが少なければ進化できる。ってことは――)
心愛が使っていたミリーは、場にライブステージを出して自分たちを強化したり、そのライブステージを手札に持ってくるための効果を持つユニットを場に出したりと、早い段階から盤面を埋めて戦う動きが基本のデッキだった。
本物のライブ会場のように、アイドルやスタッフ、お客さんで賑わっている状態を表現しているのだろう。使い手の心愛と同じく、騒がしいデッキだ。
だけど、もう一人の心愛が使っているミリーはその真逆。場にユニットを出さないことでレジェンドを進化させていくデッキだ。
ということはつまり、序盤からユニットを展開してガンガン攻めてきたりはしない、守りのデッキである可能性が高い。
それならば、こちらは相手が動く前にダメージを稼ぎ、有利を作り切ってしまうのがいいのではないだろうかと……そう、私が考えた時だった。
「ねえ、あなたはセイレーンって怪物を知っているかしら?」
不意にもう一人の心愛が発した言葉に、私は思わず彼女を見つめ返す。
何を考えているかわからない彼女の発言に私がただ口を閉ざす中、心愛は静かに話を続ける。
「神話に登場する化物。その歌声で船乗りを魅了し、静かに水底へと誘う人魚……暗い、暗い海の底に、あなたも沈んでみる?」
「っっ……!?」
もう一人の心愛がそう言い終わった直後、美しい歌声が響き始めた。
気を抜けば、意識を持っていかれそうになる不思議な歌声……美しくもどこか恐ろしいその歌声を発しているのは、相手の場にいるミリーだ。
「【
その歌声に紛れてもう一人の心愛の声が響く中、相手の場のユニットに異変が起きる。
屈強な船乗りである男の目が、幸せな夢でも見ているかのようにとろんと蕩け、ふらふらとふらつき始めた。
ミリーの歌声によって意識をかき乱されているであろう彼の姿に私が息を呑む中、【行方知れずの船人】の足元が暗い海の水面に変わる。
そのまま、自分に何が起きているのかわからないままに水底へと沈んでいった彼の姿が見えなくなる中、状況が理解できずにいる私へともう一人の心愛が言った。
「……これがセイレーンになったミリーの効果。その歌声でユニットを魅了し、『崇拝状態』にすることができる」
静かなその声に込められた、ゾッとするような冷たさ……まるで氷で作られたナイフを首筋に当てられているかのような錯覚に陥る私へと、底知れぬ敵意を込めた視線を向けた彼女が言う。
「何の不満もなく、ぬくぬくと幸せに生きてきたあなたに刻み込んであげるわ。暗く冷たい孤独の海の中で培った、私の力を……!!」