カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「っっ……!!」
……忘れていたわけじゃない、そのことを。
一ノ瀬が使うクロスがそうであるように、青のレジェンドは自身や味方ユニットに特殊な状態を付与する戦法を使う。
青のレジェンドになったミリーもその例に漏れず、『崇拝状態』という特殊状態を活用して戦うようだ。
しかし、ここまでの動きだけではもう一人の心愛の脅すような口ぶりに相応しい能力だとは思えなかった私は、勇気を振り絞って彼女へと反論する。
「好き勝手言ってくれちゃって……! あんたたちがその幸せをぶち壊そうとしてくるからこうして戦ってるんじゃない! 私たちが悪いみたいに言わないでよ! それに、味方ユニットを行動不能にするような効果なんて怖くないんだからね!」
「……そうね。あなたにもわかるように教えてあげるわ、ミリーの恐ろしさを……!」
静かにそう言ったもう一人の心愛が、レジェンドデッキへと手を伸ばす。
そこから一枚のカードを手に取った彼女は、『崇拝状態』になり、裏返された【行方知れずの船人】のカードを指でなぞりながら言う。
「『崇拝状態』になったユニットは名前やパワー、能力といった全ての情報を失い、攻撃をはじめとした全ての行動が不可能になる。同時に、このカードは場に存在していない扱いにしても良くなるの」
「場に存在していない……?」
「セイレーンの歌声に魅了された者の耳に、警告は届かない。ただただその声に聞き惚れ、暗い水底に沈んで息絶えるのを待つだけ……海に沈んでしまったら、姿も見えなくなるでしょう? 誰が沈んだのかも、いつの間に消えたのかもわからない……そういうことよ」
どうやら裏向きになったカードは何も行動できなくなる上に、名前も属性も何もかもを失ってしまうようだ。
それは恐ろしいが、その状態になっているのは私ではなく相手のカード。今の時点では恐れる必要はない。
だがしかし、もう一人の心愛はそんな私の考えを見抜いているかのように、手に取ったカードをミリーの上に重ねる。
「『崇拝状態』のユニットを場に存在していない扱いにすることで、進化条件達成。レベル2【
「なっ……!?」
深海を思わせる暗い青色の髪を靡かせたミリーが歌を口ずさんだその瞬間、私のユニットである【ムキムキお化けのデイビス】の足元に海が広がり始めた。
その中に誘われるように沈んでいったデイビスの姿に私が唖然とする中、何が起きたのかをもう一人の心愛が説明する。
「【呼ぶ歌声 ミリー】が場に出た時、自分の場の『崇拝状態』ユニットの数だけ、相手のユニットを選び、同じく『崇拝状態』にできる。これでこのターンの間、デイビスは何もできなくなった」
「ぐっ……!」
「さあ、いきましょうか。前列に【強欲な女海賊】を召喚し、効果発動。場のユニット一体をドロップゾーンに送ることで、カードを二枚ドローできる。私は『崇拝状態』になっている【行方知れずの船人】を破壊し、ドロー。【行方知れずの船人】が効果で破壊された時、カードを一枚ドローできる。これで合計、三枚ドローね」
何も行動できない『崇拝状態』のユニットを破壊することでそのデメリットを帳消しにした上で、カードをドローするもう一人の心愛。
どうやら『崇拝状態』として扱われるのはバトルゾーンに出ている間のみで、ドロップゾーンに送られた際には情報全てを取り戻すようだ。
少しズルいように見えるが、全ての能力を活用して手札を補充しつつ、私のユニットの動きを縛った彼女は、次々とユニットを展開していく。
「【魔霧海域の骸骨剣士】と【悲鳴叫びのバンシー】を召喚、バトルに入るわ。全ユニットで総攻撃」
「くっ……! 【強欲な女海賊】の攻撃はデイビスで護衛して――あっ!?」
手札を確認した私は、ガードに必要な値が最も低い攻撃を護衛能力を使って防ごうとしたのだが、そこでその能力を持つデイビスが裏向きになっていることに気付いた。
「デイビスは『崇拝状態』になってる。当然、護衛能力は使えないわよ」
「しまっ……! きゃあああっ!?」
予定していた防御を使えなくなった私とルルリカに対して降り注ぐ、怒涛の連続攻撃。
一気に三のダメージを与えられたしまった私は、ダメージゾーンにカードを置きながら自身のミスを悔やむ。
(経験の無さからくる動揺が出ちゃった。稼がれたダメージを、どうにか取り戻さなきゃ……!!)
デイビスの護衛が使えなくても、他に使える手段はあったはずだ。
焦っていたせいでそれを忘れ、全ての攻撃を受けてしまった。これでダメージは四対二、このターンで差を埋めないと厳しくなる。
「私のターン終了時、『崇拝状態』になっているユニットたちは全て元に戻る……デイビスも戻ってくるわよ、良かったわね」
「よし、これなら……!!」
海の底に沈められていたデイビスが場に戻ってきたことに安堵した私は、再度自分の盤面と手札を確認しながら心を落ち着けていった。
ターンをもらい、カードをドローした私は、最高の引きに大きく頷くと共にそのカードをプレイする。
「私は【スイートメイド パルフェ】を召喚! その後、ダメージブラスト①でルルリカの効果を発動し、デッキトップから三枚を見て、手札、ハーツ、ドロップゾーンに一枚ずつ割り振る! この時点でルルリカのハーツは八枚! 既に進化条件は達成してる! さあ、おいで!! レベル3! 【暴食の姫 ルルリカ】!!」
自分を奮い立たせるように切り札を場に出した私は、対戦相手であるもう一人の心愛を睨む。
そして、どこまでも無表情を貫く彼女が放つ圧に負けて堪るかと、大声で効果の発動を宣言した。
「【暴食の姫 ルルリカ】の効果、発動! ダメージブラスト①でデッキトップをハーツイン! これで合計ハーツ枚数は十枚! ルルリカと前列のユニットたちのパワーは+10000される!!」
受けたダメージをコストとして活用し、ユニットたちのパワーを上昇させた私は勢いだけで突っ走らず、冷静に手札を確認した。
このターン、ほとんど手札を使っていないおかげで次の相手の攻撃を防げるだけのガード値は揃っている。『無敵』カードも握っているし、守りも疎かになっていないはずだ。
「バトルフェイズ! さっきのお返しよ! 全員で攻撃っ!!」
ここで勝負の流れを掴む……そんな思いを抱きながら私は攻撃を宣言した。
ルルリカに率いられた魔族ユニットたちの攻撃が迫る中、ちらりと手札を一瞥したもう一人の心愛は静かに息を吐くと……なんてことでもないように言う。
「ノーガード。その攻撃、全て受けるわ」
「っっ……!?」
あまりにも平然と攻撃を受けることを宣言した相手の反応に、こちらが面食らってしまった。
確かにこの攻撃を全て受けてもダメージは五。敗北こそしないが、ギリギリまで追い込まれてしまう。
だというのにもう一人の心愛はまるで焦る様子はなく、不気味なくらい平静を保っている。
自分と妹の人生が懸かっている勝負だというのに、ここまで冷静に擁立戦を進められる彼女の思考が読めずにいる私が不気味さを感じる中、もう一人の心愛が言った。
「……どうして防がないんだって、そう思ってるんでしょ? 別にあなたを舐めているわけじゃないのよ。ただ必要だったから、そうしたってだけ」
そう言いながら、彼女はカードをドローした。
どこか冷たさを感じさせる無機質なその所作から目を離せなくなっている私の前で、もう一人の心愛は手札からユニットを召喚する。
空いている場にユニットを出し、盤面を埋めた彼女であったが……驚くべきことに、召喚したのはパワーが0のマーカー持ちユニットだった。
攻撃の際にはほとんど役に立たず、本来ならば高いガード値を活かすために手札に抱えておくことが定石のマーカー持ちユニットを召喚するプレイングの意味がわからずにいる私の前で、もう一人の心愛は先ほどのターンと同じようにレジェンドデッキへと手を伸ばす。
「レジェンドデッキからこのカードを公開することで、私は自分の場のユニットを好きな枚数選び、『崇拝状態』にできる。私は五体のユニット全てを選択するわ。これで、全ての条件が揃った」
女海賊が、骸骨剣士が、亡霊が……一人、また一人と海の底に沈んでいく。
最後に残されたミリーも自ら海に潜り、不気味なほどの静寂が私たちを包む中……不意にあの妖艶で聞く者の心を掴んで離さない、だけど背筋を凍らせる恐ろしさを持った歌声が足元から響き始めた。
「……絶海に響く歌声に魅了されし者よ。深淵に沈み、敗北という名の絶望を知れ。
――派手なエフェクトも、演出もなかった。
ただ静かに歌いながら海底から浮上してきたミリーが、底知れぬ闇を宿した眼で私を見つめる。
仲間たち全員を水底に沈め、ただ一人だけ海に浮かぶ怪物となった人魚を従えるもう一人の心愛は、彼女と同じくらいに深い闇を瞳に宿しながら言った。
「このターンで終わりにしましょう。冷たい絶望の海の底に沈めてあげる」