カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
……静かにファイナルターンを宣言した私のことを、偽物の萌香ちゃんが息を呑みながら見つめる。
その表情に緊張と恐怖が浮かんでいることを見て取りながら、私は淡々と切り札の効果を発動していった。
「【深淵の歌姫 ミリー】、第一の効果。一ターンに一度、手札を二枚捨てることで自分の場の『崇拝状態』のユニットと同じ数まで相手のユニットを選び、同じく『崇拝状態』にする。その後、こうして『崇拝状態』になったユニットの数と同じ枚数、あなたは手札を捨てなければならない」
私の場の『崇拝状態』のユニットは五体。つまり、相手のユニット全てが同じく『崇拝状態』になる。
同時に五枚の手札を捨てなければならないと理解した偽物の萌香ちゃんは、顔を青くしながら信じられないといった表情で呟く。
「そんな……!? 手札もユニットも、奪われるだなんて……!!」
「まだ終わりじゃないわよ。ミリー、第二の効果……このカードがレジェンドゾーンに存在する限り、ユニットの『崇拝状態』が解除されるのは私のターンの終了時ではなく、次の私のターン開始時になる」
「それって、つまり……!?」
「そう。仮にあなたがこのターン、私の攻撃を防ぎ切ったとしても……場には『崇拝状態』のユニットとルルリカしかいないってことよ」
ユニットという攻撃のための剣と手札という防御のための盾を奪い、絶望を与える……それが、【深淵の歌姫 ミリー】の恐ろしさ。
じわじわと自分の体が暗く冷たい海の中に引き摺り込まれていくことを感じているであろう彼女へと、私はさらなる絶望を突き付ける。
「安心して、あなたに次のターンは回らないから、心配する必要なんてないわ。ミリー、第三の効果を発動。ダメージブラスト②で、パワーを場の『崇拝状態』ユニットの数×3000増加させ、『崇拝状態』のユニットの数五体につき一回、攻撃回数を増やす。今、バトルゾーンにはあなたのユニットも含めて、十体の『崇拝状態』ユニットがいる……ミリーのパワーは30000上昇し、攻撃回数は二回増えるわ」
「っっ……!?」
これまでで一番の焦りと動揺が偽物の萌香ちゃんを襲ったことがわかった。
手札を捨てさせられてガード値を狂わされた上にパワーアップしたミリーの攻撃が三回も飛んでくるのだ、それも当然だろう。
彼女のダメージゾーンにあるカードは四枚。二回攻撃を受けたら敗北になる。
少なくなった手札で、護衛能力も使えない状態でその攻撃を凌げるのか? ……答えはもちろん、NOだ。
「終わりにしましょう……バトルフェイズ、ミリーでルルリカに攻撃」
「……ノーガード」
一度目の攻撃、絞り出すような声で偽物の萌香ちゃんが宣言すると同時に、ルルリカに渦を巻いた水流が直撃する。
ダメージゾーンに置かれたカードにマーカーがないことを見て取った彼女が歯を食いしばる中、私は二度目の攻撃を宣告した。
「二度目の攻撃、これはどうする?」
「『無敵』カードでガード……!」
私の問いかけに対し、残された手札を使って防御を宣言する偽物の萌香ちゃん。
彼女はしっかりと防御札を握っていた。普通ならば、このターンも凌げたはずだろう。
でも私は、この擁立戦は、普通じゃない。お互いの存在を賭けた、食うか食われるかの勝負だ。
彼女は何としてでも相手を倒すという殺意にも近しい感情を持つことができなかった。その結果がこれだと思いながら、私は言う。
「この攻撃は防がれちゃったわね。でも、これであなたの手札はゼロ……次の攻撃はどうしようもないでしょ?」
「く、うっ……」
私の指摘を受けて俯いた彼女は、悔しそうに肩をぶるぶると震わせている。
別世界のとはいえ、そんな妹の姿を見て、心がほんの少しだけ痛んだことは事実だ。
それでも……自分自身と萌香ちゃんの幸せのため、私はミリーのカードを
「【深淵の歌姫 ミリー】で攻撃……絶望の海に沈みなさい、アビス・シンドローム」
「きゃああああっ!!」
人も怪物も問わず魅了する魔性の歌声の力が込められた大波が、ルルリカごと偽物の萌香ちゃんを飲み込んだ。
絶望の海に沈んだルルリカが苦しそうにもがく様を見つめながら、私は彼女へと言う。
「これでダメージ六、私の勝ちね」
「あ、ああ……」
勝った。これで萌香ちゃんを取り戻して、この世界で二人で生きていける。
あの日から止まったままの時間を、これまでの人生を、取り戻すことができる。二人で幸せになれるんだ。
掴み取った幸せを、その大きさを噛み締めるように私が自分自身を抱き締め、その幸福に浸ろうとした、その時だった。
「諦めるな、甘木っ!!」