カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
彼女の声だけが響いた静寂の中、私たちが見つめる前で偽物の萌香ちゃんがカードを引く。
静かに、緊張した面持ちで自分が引いたカードを確認した彼女は、一瞬目を見開いた後で視線を泳がせた。
何かを思い付いたように、可能性を見出したように……逡巡する彼女の視線が、私たちの擁立戦を見守る一ノ瀬進弥と交わる。
お互いに見つめ合う中、偽物の萌香ちゃんが考えていることを肯定するように頷いた一ノ瀬進弥を見て、彼女は小さく笑うと共に私へと向き直り、引いたカードを見せつけながら言った。
「コスト、ダメージブラスト①を支払って、コマンドカード【全員集合!
その瞬間、青い霧に包まれていた空間が歪み、光景が変わっていった。
深海を思わせる暗く深い闇の中から、荘厳だが厳格過ぎない城の中……その広い空間の中には無数の丸テーブルの上に置かれた大量の料理が並んでおり、晩餐会が開かれていることを感じさせる。
その中央、巨大なケーキが置かれているテーブルの前に立つルルリカが堂々と腕を組みながら困惑する私とミリーを見つめる中、偽物の萌香ちゃんが発動したコマンドカードの効果を説明した。
「このカードを発動した時、私は自分の場のユニットを全てハーツに入れる! その後、ハーツの中からそれぞれ別名のユニットを好きな数選び、自分の場に召喚できる!!」
「なっ……!?」
暗い海に沈み、裏返しにされていた『崇拝状態』のユニットたち。その全てがルルリカのハーツへと移動していく。
そして、がら空きになった盤面へと再度ユニットが召喚されていく様を目にした私は、予想外の事態に驚くことしかできなかった。
(そんな、まさか……! こんな形であの状況を打開するだなんて……!?)
あり得ないはずだった。たった一枚のカードで封殺された盤面を再展開し、ユニットを並べることなど。
だが、考えてみれば私は、彼女に多くのヒントを与えてしまっていたのだ。
『崇拝状態』のユニットでもカードの効果の対象にできることを、【強欲な女海賊】のドロー効果を発動することで教えてしまっていた。
そして、バトルフィールドから離れたユニットたちは『崇拝状態』から解除され、本来の効果を取り戻すところも見せていた。
必要なカードを引き当てたという運もある。だが、彼女は私のプレイングを見て、初めて見る『崇拝状態』について学んでいたのだ。
絶望的な状況でも諦めず、状況を打開する方法を考え続けて、渾身の一手を繰り出すに至った偽物の萌香ちゃんへの軽視を、見直さざるを得なかった。
「【全員集合!
(マズい、パワーの上昇が止まらない……!!)
さっきのターンの時点でルルリカのハーツは十枚あった。そこにアルティメットマーカーと三枚のカードが加わり、さらに発動されるであろうルルリカの効果で一枚が追加されれば、ハーツの枚数は十五枚になる。
その数を倍として扱うということは……ハーツが合計三十枚になるということだ。
ハーツが増加したことで、パルフェのパワーが上がるだけでもマズい。
だが、それ以上にマズいのは――!!
「【暴食の魔王 ルルリカ】の効果を発動! 私のハーツの枚数×1000、パワーを上昇させる! 私のハーツの枚数は十五枚、【全員集合! 魔王城の晩餐会!!】の効果も合わせて、合計ハーツは三十枚! ルルリカのパワーは30000アップ! そして、ハーツが十五枚以上あることで、追加効果発動! このパワーアップ効果は、私の全ユニットにも適用される!!」
ルルリカを囲む、配下の魔族たち。美味しい料理や酒を手に楽しそうに笑う彼らの力が、ご馳走を食べたことで強まっていく。
一体につき30000のパワー上昇ということは、一列につき60000も攻撃力が上がるということ。
冗談としか思えない馬鹿げたパワーの上昇に目を見開くことしかできない私へと、甘木萌香が叫んだ。
「あなたは私よりもずっと強い。私一人じゃ、絶対に敵わなかった。でも……私は一人じゃない! 一ノ瀬が! 先輩たちが! 心愛が一緒に戦ってくれてる! みんなが支えてくれるから、弱くてちっぽけな私でもあなたを超えられるくらいに強くなれる!」
「ぐ、ぐぅっ……!!」
先頭に立つルルリカに、私と戦う萌香ちゃんの姿が重なる。
同時に、彼女を支えるユニットたちに一ノ瀬進弥をはじめとした仲間たちの姿が重なる光景を目にした私が呻く中、勝負を決める攻撃が宣言された。
「バトルフェイズ! パルフェの援護を受けたルルリカで、ミリーにアタック!!」
(これは、この攻撃だけは受けるわけにはいかない!)
アルティメットマーカーの効果でルルリカのダメージは二に上昇している。
この攻撃を受けてしまったら、私は二枚連続でダメージを回復するカードを引かなければならない。
だから、この攻撃だけは防ぐ。僅かな可能性、奇跡に頼るために、私は手札から『無敵』カードを発動した。
「『無敵』カード! ルルリカの攻撃をガード!!」
「……待ってた。そのカードを使う瞬間を!」
「っっ……!?」
負けられない、負けるわけにはいかない。そんな強い覚悟を胸に攻撃を防ごうとした私へと、萌香ちゃんが叫ぶ。
ハーツからアルティメットマーカーを取り出しながら、彼女はさらなる効果の発動を宣言する。
「【グローリー・シャイニングソウル】の効果! このカードをハーツから除外エリアに置くことで、相手が発動した『無敵』カードの効果を無効にする! これであなたを守る盾はなくなった!」
「そんな、馬鹿な……っ!?」
「……一度、ギリギリで引かれた『無敵』カードで負けたからこそ、その対策カードを心愛がプレゼントしてくれた。この一撃は私だけじゃない。私と、心愛の分っ!!」
紫の魔力で作られた巨大な牙が、眩い輝きを放ち始める。
アメジストのような美しさを持つようになった牙が大きく開き、その光景に目を奪われる私へと襲いかかってきた。
「心愛を、私のお姉ちゃんを、返してっ!! シャイニング・グラトニーバイト!!」
「ああ……そっか、そうだったんだ……!」
迫る牙を見つめながら呟いた私の胸に、込み上げる感情。
それは悔しさでも、怒りでもない。小さくて、弱くて、私が守ってあげなくちゃいけない存在だと思っていた妹が、自分より強くなっていたことを知れたことへの安堵……どこか清々しい気持ちが私を満たしていく。
「萌香ちゃんは、私なんかより……ずっと、強かったんだねぇ……!!」
この世界の萌香ちゃんも、私の世界の萌香ちゃんもそうだ。
あの日、萌香ちゃんを失ってしまってから立ち止まり、自分の世界に引きこもってしまった私より、ずっとずっと強くなっていた。
脚を止めていた私が、私だけが弱かったんだって……そのことにようやく気付いたところで、美しく輝く牙がミリーを襲う。
デッキトップから吹き飛んだカード。ダメージゾーンに落ちたそれにマーカーがないことを見て取った私は、静かに息を吐くと共に言った。
「ダメージ六……私の負けだね、萌香ちゃん」