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LC-095-H/arieSta
2046.01.22-Mon
Location : 中野区 東京都
MoonAge : 15.3
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オーラフから木箱が届いたのは、一月の下旬であり、最初に撃ったこぐま座の光が壁に届くまであと十ヶ月足らずという頃だった。
木箱の中には、クリスタルが六個と、手書きのメモが入っていた。六個のクリスタルは、それぞれ異なる恒星の光を蓄えており、六つの星の歴史が掌に収まる重さで届いた。
ノルウェー語で書かれた文章の下に、英語で注釈がある。ハルが翻訳しながら読み上げた。
「りゅう座
「オーラフさんて良い人だね」とユキは言った。
「良い人だよ」とハルが笑った。
「機構に弾かれた組は、みんなどこかで繋がってる気がする」
ダイチがクリスタルを一個ずつ取り出して、光にかざした。無言で観察している。
「AIに照合かけてみた?」とユキが聞いた。
「かけた」とダイチが言った。
「二個は北天の座標と一致する反応パターンがある。でも確定は夜に外で試すまでわからない」
「AIでも判断できないんだ」
「クリスタルの反応はアナログすぎる。データとして処理できるのは反応後の座標だけで、反応するかどうか自体はAIに予測できない。現地で、夜に、空の下でやるしかない」
ハルが珈琲を持ってきて言った。
「そういうものって、結局残るよね。どれだけAIが発達しても、クリスタルを持って夜空の下に立つ必要がある限り、人間の仕事だ」
「不便でもある」
「不便だね」とハルが同意した。
「でも、だからこそアリエスタが必要とされてる」
ユキは木箱のメモを眺めた。オーラフの手書きの文字。ノルウェー語はわからないけど、丁寧な筆跡だということはわかった。
「そういえば」とハルが唐突に言った。
「何?」
「アリエスタって、スペイン語で意味があるの知ってた?」
ユキが顔を上げた。
ダイチも手を止めた。
「何て意味?」
「Ahí está」とハルは言った。
珈琲が少し冷めていた。冷めた珈琲の苦味は、何か面白いことを見つけた時の味に似ている。
「『そこだ!』って意味だよ。発音がアリエスタに近い」
しばらく沈黙が流れた。
「……何でそんなこと知ってんの」とユキは言った。
「スペイン語圏のハンターのネットワークと連絡取ってたら、向こうから教えてもらった。『そちらのチーム名、面白いですね』って」
「面白いって、心外なんだけどー」と言ってユキは笑った。
「アリエス+スターで作った造語だから、スペイン語は全然関係ないし」
「でも」とハルは笑った。
「星を探してるチームが、知らずに『そこだ!』って名乗ってたんだよ。悪くないかもな」
ユキはしばらく考えた。
「……悪くない、か」
「むしろ完璧だと思う」
ダイチがクリスタルを布に包みながら、ぼそりと言った。
「名は体を表す」
「ダイチまで」
「事実だ」
ユキは笑うのをこらえながら、もう一度メモを見た。オーラフの文字の一番下に、英語で一行だけ追加されていた。
The name suits you.
「その名前似合ってるねって……。オーラフさんも知ってたんじゃん」
「スペイン語圏の人から聞いて、伝えてくれたんじゃないかな」とハルが言った。
「良いチームだと思ってくれてるんだよ、きっと」
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LC-096-AI/arieSta
2046.01.26-Fri 00:14
Location : 豊島区 東京都
MoonAge : 18.5
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サンシャイン60の屋上でのセッション。橋田がデータ収集のために参加した。
ダイチと橋田が並んで機器を設置した。技術者同士の無言の協調。
ユキがファントムクリスタルを取り出した。前回のセッションで曖昧な反応を見せた、あの層を重ねた石だ。
「もう一回試す」
ダイチの新フィルターを通して、ゆっくり角度を変えながらかざした。
反応した。明瞭に。
「ケフェウス座の方向。前回確認できた方向だ」とダイチが読み上げた。
そして角度を変えると──
「こぐま座の方向。同じクリスタルから、別の座標だ」
四人とも動きが止まった。
「層ごとに違う星の光を蓄積してる」とハルが静かに言った。
「一個のファントムクリスタルが、二つの星座に対応してる。前回の仮説が正しかった」
「ものすごいことだ」とダイチが言った。珍しく即答だった。
ユキは手の中のクリスタルを見た。透明の中に層が重なっている。それぞれが、別の星の記憶を抱えていた。何百年もかけて積み重ねた層の中に、失われた空の欠片が眠っていた。
セッション中、未確定クリスタルの反応が一件確認された。橋田がデータを確認して、自分のタブレットに記録する。
「増幅器の設計に使えるデータです。クリスタル単体の反応強度と、石版での共鳴後の出力の比較をずっと取りたかった。機構内では石版ありのデータしか集められなくて」
「今夜のデータを渡します」とユキは言った。
「代わりに、石版の増幅効率の計算結果を教えてください。ダイチが設計に使うと思うので」
橋田が少し驚いた顔をしてから頷いた。
「わかりました」
東京の夜景が四方に広がっていた。欠け始めた月が南東に高く、火星が東の低空で赤く光っていた。
「あと十個だよ」とハルが言った。
「うん」
夜空に向かって、クリスタルをかざし続けた。
どこかで、星が燃えている。
そこだ、とユキは思った。