ロスト・コズミック   作:シグワン

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第12話 技術者の言語

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LC-097-D/arieSta

2046.01.29-Mon 14:22

Location : 中野区 東京都

MoonAge : 22.0

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 橋田からデータが届いた。セッションから三日後。

ファイルを開いた。データ量が多い。パラメータが四十七項目。各項目に計算の根拠がついている。想定の三倍。許容範囲を超える精度だ。

 

「どう?」とユキが聞いた。

 

「……四十七項目」とダイチが言った。

 

「良い意味で?」

 

「良い意味で」

 

「石版の増幅効率の計算、ここまで細かく出してくれるとは思わなかった。くぼみの深さごとに出力が変わるデータまで入ってる」

 

「くぼみの深さが等級に対応してるって言ってたやつだよね」

 

「それが効率に直結してるってこと?」

 

「そう」

 

「明るい星のくぼみほど深くて、入れるクリスタルが大きい。大きいクリスタルは蓄積光量が多い。増幅器に入る光が多い分、出力が上がる。橋田さんはその関係を数式で整理してくれてる」

 

「つまり」

 

「りゅう座で一番重要なクリスタルはγ(ガンマ)星のエルタニンだ。二等星で座標の基準になる。ここのクリスタルが大きくて質が良いほど、施設全体の照射出力が上がる」

 

 ユキはアリエスタが持っているγ(ガンマ)星のクリスタルを思い浮かべた。北海道の採石場で確定した、透明度の高い石英。サイズは中程度だ。

 

「もっと大きいのを探した方がいい?」

 

「探せるなら、そうした方がいい」ハルが言った。

 

「橋田さんに返信しよう。りゅう座γ(ガンマ)星のクリスタルの最適サイズを教えてもらえるか聞いてみる」

 

「自分が連絡する」

 

 二人が顔を見合わせた。ダイチから「自分が連絡する」と言うのは珍しい。

 

「え、熱でもあるの?」とユキが聞いた。

 

「技術の話は、技術者同士の方が早い」

 

 それだけだった。

 

 感情を言語化する手続きが不要な相手がいる。それは効率の問題だ。

 

 

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LC-098-AI/arieSta

2046.02.01-Thu 03:47

Location : 豊島区 東京都

MoonAge : 24.6

自動記録 / 異常気象によりセッション中断

降雨検知:23:58

撤収完了:00:31

クリスタル確定数:3(中断前)

詳細ログは次回セッションに引き継ぎ

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LC-099-Y/arieSta

2046.02.03-Sat 22:08

Location : 豊島区 東京都

MoonAge : 27.4

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 二月最初のやり直しセッションは、快晴だった。

屋上に出た瞬間、冬の空気が頬を刺した。東京の冬の夜は乾燥していて、都市の光がよく通る。月も惑星も沈んだ、底の深い夜だった。

 

「改めてよろしく」とユキは北の空に向かって言った。

 

「誰に言ってるの」とハルが荷物を下ろしながら言った。

 

「りゅう座に」

 

「見えないよ」

 

「わかってる」

 

 ダイチが機器を設置しながら言った。

 

「橋田さんから返信来た。γ(ガンマ)星。エルタニンのクリスタルの最適サイズ、直径三センチ以上で透明度A級以上が理想らしい」

 

「今うちらが持ってるのは」

 

「二・四センチ。透明度はA級だから悪くない。でも三センチ以上があれば出力が二割上がる計算だ」

 

「探しに行こっか。どこが可能性高そ?」

 

「橋田さんが情報を持ってるかもしれない。機構のデータベースに採石場ごとのクリスタルサイズの統計がある。アクセス権を使えば……。頼める?」

 

「うん。頼んでおくね」

 

 今夜のクリスタルは二十二個。一月末の雨のセッションで中断した分の積み残しもある。ダイチがAIのログを開いて確認した。

 

「AIが中断記録してくれてた。三個確定してたのに、雨で記録が不完全になってた。座標データは残ってる」

 

「自動記録、役に立ってるじゃん」

 

「記録だけは正確だ。判断はしない。判断は人間がやる」とダイチが言った。

 

 セッションを始めた。

 最初の一個。反応なし。

 二個目。反応なし。

 三個目、りゅう座κ(カッパ)星が反応した。

 

「κ(カッパ)星、初確定」とハルが記録しながら言った。

 

「りゅう座集まってきたね。今何個あるの?」

 

「主要星十六個のうち十一個」とダイチが答えた。

 

「あと五個か」

 

「あと五個だね」

 

 ユキは次のクリスタルをかざした。反応なし。

 次。反応なし。

 次。反応した。

 

「座標は」とダイチが言った。

 

 少し間があった。

 

「……こぐま座β(ベータ)星。コカブ」

 

 全員が止まった。

 

「こぐま座」とユキは繰り返した。

 

「β(ベータ)星。ポラリスの次に明るいこぐま座の星だ。反応自体は三度目。一度目はユキの一個目——手のひらサイズで、くぼみに入らない。二度目は北海道——原盤の条件外。今回のは直径も透明度も条件内だ。交換できる個体は持ってなかったと思う」とハルが言っって、タブレットを素早く確認する。

 

「うん。今入ってるβ(ベータ)星は出力が基準ぎりぎりだ。これは差し替えられるよ」

 

 ユキは手の中のクリスタルを見た。

 

 中野のマルイチ近くの古道具屋で見つけた一個だ。

 

 ユキが「なんとなく良さそう」と思って百円で買った石が、こぐま座β(ベータ)星。コカブのクリスタルだった。

 

「田中さんに連絡するね」

 

 スマホを取り出して、田中に短いメッセージを送った。

 

ユキ:こぐま座β(ベータ)星コカブ、交換候補を確定しました。

 原盤への差し替え調整をお願いしたいです。

 明日の午前中に連絡ください。

 

「これでζ(ゼータ)星とβ(ベータ)星は交換できる」とハルが言った。

 

「七つのくぼみは、η(イータ)星を入れたら全部埋まってる」とダイチが言った。

 

「出力が基準ぎりぎりなのは、残りγ(ガンマ)星だけだ」

 

「あと一個、強いのが見つかれば」とユキは呟いた。

 

 北の空に、ポラリスのあるはずの方向がある。見えない。でもある。こぐま座の形を、ユキは頭の中で描いた。七つの星。柄杓(ひしゃく)の形。全部揃っている。そのうち一つだけが、まだ弱い。

 

「なあ」とダイチが言った。

 

「何?」

 

「こぐま座原盤、七つ全部でもう一度照射するんだよな?」

 

 ユキは少し考えた。

 

 最初の照射は不完全だった。η(イータ)星が空いたままだった。その結果は二年後、二〇四七年の終わり頃に出る。完全な原盤(石版)で照射できれば、そのデータと比較できる。

 

「するよ。最初はη(イータ)星がなかった。今度は七つ全部で、もう一度引き金を引きたい」

 

 ダイチが頷いた。

 

「次の新月に合わせよう」とハルが言った。

 

「それまでにγ(ガンマ)星の交換候補を探す。見つからなくても七つは揃ってる。でも、撃つなら少しでも強い方がいいから……」

 

「間に合わせる」

 

 冬の空は、何も答えなかった。

 

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