ロスト・コズミック   作:シグワン

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第13話 北斗七星の在処

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LC-100-Y/arieSta

2046.02.04-Sun 16:40

Location : 中野区 東京都

MoonAge : 28.1

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 ハルが地図を広げた。いつものデジタル地図じゃなくて、紙だった。古い星座図と、手書きのメモが書き込まれた日本地図が重なって、机の上に広がっている。

 

「γ(ガンマ)星の交換候補を探すのに、一回整理したくて」

 

「紙で?」とユキが聞いた。

 

「AIで整理すると、データの外側が見えなくなることがある。手を動かした方が気づくことがあるから」

 

 ダイチが画面から顔を上げた。珍しく異論を唱えなかった。

 

 ハルが星座図を指さした。こぐま座の区域だ。七つの星が柄杓(ひしゃく)の形に並んでいる。先端にポラリス。その隣にδ(デルタ)星。枡(ます)の縁にβ(ベータ)星コカブと、γ(ガンマ)星。

 

「北斗七星の形に似てるよね」とユキは言った。

 

「似てるというか。北斗七星って本当はおおぐま座の星なんだよ」

 

「「え」」

 

 ユキが固まった。

 

 ダイチも手を止めた。

 

「えっと……北斗七星ってこぐま座じゃないの?」

 

「おおぐま座の尻尾の部分。有名な七つ星はこぐま座じゃなくておおぐま座に属してる。こぐま座の方は小北斗(しょうほくと)って呼ばれてる。北極星はこぐま座の方の先端にある」

 

 沈黙があった。

 

「……それ、もっと早く言ってほしかった」とユキは言った。

 

「言ったよ? 最初の設定整理の時に」

 

「聞いてなかった」

 

「自分も知らなかった」静かに言った。

 

「え、ダイチも?」

 

「恥ずかしくないよ。有名な話じゃないから」

 

 少し救われた気がした。

 

「つまり」と気を取り直して言った。

 

「今うちらが進めてるのは、小北斗の方のこぐま座。北斗七星はまた別の話ってことかー」

 

「そう。おおぐま座は主要星が多いし一等星もある。今はこぐま座を優先してる。北天の基準点はポラリスだから」

 

「じゃあおおぐま座は後だね」

 

「後で」とハルが頷いた。

 

「北斗七星ごと取り戻す日が来るよ」

 

 ユキは少し笑った。

 

「なんか燃えてきた」

 

「今は一個に絞る。γ(ガンマ)星だ」とダイチが言った。

 

 地図を眺めながら三人で話した。

 

γ(ガンマ)星は三等星だ。δ(デルタ)星より一等級ほど明るい。新潟でδ(デルタ)星が出たなら、同じ条件の場所で、より明るいγ(ガンマ)星も出る可能性がある。

 

 問題は新潟でγ(ガンマ)星が出なかったことだ。同じ採石場で二種類揃うなら楽だったが、δ(デルタ)星しか出なかった。

 

 フェルカド、とハルが教えてくれた。アラビア語で「二頭の子牛」って意味らしい。昔の船乗りが北極星を探す時に目印にしてた星だって。

 

「フェルカドか。うちが見つけてみせる。明日! 見つけ出してみせる」

 

 ダイチがふと手を止めた。机の上に広げた星座図を見つめている。

 

「どうしたの?」とユキが聞いた。

 

「いや、石版(原盤)の加工精度のことを考えてた。あのくぼみの位置精度、今の自分たちの技術でも再現が難しい。誰が、どうやって作ったんだろう」

 

「ハルも前に同じこと言ってたね。設計者がいるって」

 

 ダイチは何も答えなかった。

 

 ただ、星座図の上に並べたクリスタルを、少しだけ丁寧に整えた。

 

 

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LC-101-D/arieSta

2046.02.05-Mon 08:55

Location : 秋田県 大仙市

MoonAge : 28.8

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 秋田も雪だった。

 

「また雪か」とユキは言った。

 

「東北の二月だから、想定内だよ」とハルが言った。

 

「新潟の時も想定内って言ってたよね」

 

「想定内だったよ。対策してきた」

 

 今回はスコップを持ってきていた。ダイチのリュックに入っている。

 

 大仙市の採石場は、田畑の広がる平野の端にあった。空が広く開けている。その向こうに白い山が見えた。

 

 採石場のオーナーは四十代の女性だった。

 

「クリスタルハンター、最近よく来るけど、何かあったんですか」と彼女は言った。

 

「スタークリスタルの研究が進んでて……。いろんな場所のを調べたくて」とユキは言った。

 

「星と関係があるんでしょう? 来た人がみんなそう言う」と彼女は言った。

 

「夜空、戻るといいですね。うちの子たちに見せてやりたいから」

 

 ユキは少し止まった。

 

 この人も、星を知らない子供がいる。

 

「絶対に戻します」

 

 気づいたら言っていた。

 

 女性が少し目を細めた。

 

「頼もしいですね」

 

 夜、オーナーの小屋の裏手に出た。

 

 雪が止んでいた。雲が切れていた。山裾の夜空は、東京とは全く違った。都市の光も月明かりもない。暗さが、白い雪原まで深く降りていた。

 

「空が近い」とユキは言った。

 

「都市の光がないからね。空気も澄んでるし、東京よりずっと暗い。クリスタルの反応が上がるかもしれない」とハルが言った。

 

 ダイチが機器を設置した。雪の上にケースを広げる。息が白い。指先がかじかむ。

 

 木箱から出したクリスタルを一個ずつ試し始めた。

 

 反応なし。反応なし。

 次。反応した。

 

「座標は、こぐま座γ(ガンマ)星フェルカドだ」とダイチ。

 

 ユキは息を飲んだ。

 

「本当に?」

 

「本当に」

 

 雪の上に膝をついて、クリスタルを見た。透明度は高くない。薄い曇りがある。でもダイチの機器は確かにこぐま座γ(ガンマ)星フェルカドを示している。

 

 原盤に残っていた、最後の弱い個体を交換できる。

 

「フェルカドが出た」とユキは言った。誰に言うわけでもなく。

 

 北の暗闇の中に、こぐま座がある。見えない柄杓の形。その中でいちばん弱かった一個の代わりが、いま、手の中にある。

 

「言ったでしょ。見つけ出してみせるって」

 

 雪の夜に、その声が白く消えた。

 

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