ロスト・コズミック   作:シグワン

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第16話 四人目

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LC-138-H/arieSta

2046.03.09-Fri 14:30

Location : 中野区 東京都

MoonAge : 1.5

Sectors : 1/88 fired

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 りゅう座の石版設計書が届いたのは、照射の翌日のことであり、同時にそれは、ポラリスに向けて放った光がまだ一光年の道のりの百分の一も進んでいない頃だった。

 

 ハルは珈琲を淹れながらダイチに届いたメールを見ていた。豆を挽く音がグラインダーの中で砕ける音と混じり、送り主の名前が画面に浮かんだ時には、珈琲の苦い香りがマルイチの空気を変えていた。

 

 橋田。

 

 機構の公式ルートではなく、ダイチへの個人メッセージだった。公式を迂回してくる人間は、だいたい本気であり、ハルは自分もかつてそうだったことを思い出していた。

 

 ダイチがファイルを開いて、しばらく黙って見ていた。それからユキとハルを呼んだ。

 

「見てくれ」

 

 画面には石版の設計図が表示されていた。

 

 くぼみの配置精度が機構の公式設計を超えており、りゅう座のα(アルファ)星トゥバンからω(オメガ)星までの主要星十六個の相対角度を、現代の天体カタログの精度で再現していた。橋田はこぐま座の不完全照射から積み上がったデータも含め、一週間かけて咀嚼した上で、この設計を仕上げたことになる。

 

「なんで個人で送ってきたの?」とユキが聞いた。

 

「機構の設計承認に時間がかかるから、先に共有したかったんだと思う。手続きより結果を優先したってことだよ」とハルが言った。

 

「橋田さんに連絡する」とユキは言った。

 

「何を聞くんだ?」とダイチ。

 

「アリエスタに入らないか、って聞く」

 

 ユキは思いつきで動いているように見えるが、この半年間、その直感は一度も外していない──恒星の核融合が偶然ではなく物理法則に従っているように、ユキの判断にも何かの法則があるのだろうが、ハルにはまだそれを数式にできていなかった。

 

 珈琲に口をつけた。少し苦い。考えごとをしている時の珈琲は、いつもより苦く感じる。

 

「機構の人間を引き抜きか……」とハルが言った。反射で出た問いであり、同時に答えはわかっていた。

 

「引き抜きじゃない。兼任で良い。機構の仕事を続けながら、アリエスタとも動いてほしいって話をする。協定の延長線上として」

 

「自分は賛成だ」

 

「理由は?」

 

「技術者が二人いると、検証の精度が上がる。自分一人だと確認できないことがある。橋田さんは自分より施設設計に詳しい。補い合える」

 

 ダイチが「自分より詳しい」と言った。

 

 ハルは珈琲を一口飲んで、その一口の間に半年分の記憶を遡った。ダイチが計測機器を黙々と組み上げてきた夜、一人で校正データを取り直していた朝、誰にも見せずに精度を上げ続けてきた半年間──その半年の全部が、たった一言の「自分より」に圧縮されて出てきた。

 

 ハルはそういう圧縮を知っている。

 

 恒星が数百万年の核融合を一瞬の超新星爆発に圧縮するのと、構造としては同じだった。

 

「じゃあ決まり! 連絡するね」

 

 三コールで電話に橋田が出た。

 

「アリエスタと一緒に動きませんか?」

 

「機構を辞めなくていいです。兼任で」

 

 しばらく間があった。

 

「ダイチさんは何と言ってますか」

 

「賛成だって。自分より施設設計に詳しいって言ってた」

 

「ダイチさんがそれを言ったんですか」

 

「うん。そう言ってた」

 

 今度は短い沈黙だった。

 

「わかりました。許可が下りたら、機構との兼任という形で、やらせてください」

 

「あと一点だけ。アリエスタのログ、私の識別子はどうなりますか」

 

 ユキは一瞬だけ考えた。電話越しに決めることではない気がした。

 

「それは今度、四人で揃った時に決めよ。名前も、その時にちゃんと聞く」

 

「わかりました」

 

 四人目が加わることは、恒星が連星系になるようなものであり、ハルは珈琲を飲みながらその軌道変化を頭の中で計算していた。

 

 三人で始めて、四人になる。

 

 四人目の呼び名と識別子は、全員が同じ場所に揃う夜まで保留になった。それでいい、とハルは思った。名前は、本人のいる場所で呼ばれて初めて意味を持つ。

 

 村上への説明は橋田が自分で行い、兼任が承認された。

 

 村上は前にも「アリエスタなら護衛を付けてもらえると思う」と言っていた——橋田から、同じ言葉が改めて伝えられた。

 

 まもる。何を。ハルにはわかっていた、だが聞かなかった。

 

 珈琲が冷めていた。冷めた珈琲の底に残る酸味は、何か大事なことを言い損ねた時の味に似ている。

 

 四杯目を開けた。新しい珈琲は温かく、温かいものが喉を通る安堵は、四人目が加わった安堵と区別がつかなかった。

 

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LC-144-AI/arieSta

2046.03.11-Sun 00:00

Location : –

MoonAge : 2.9

Sectors : 1/88 fired

メンバー更新

Y/arieSta : Yuki 現場・採集

H/arieSta : Haru 天文・情報

D/arieSta : Daichi 技術・機器

Member 4 : Hashida 施設・設計(識別子と名前は初の四人セッションで決定予定)

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