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LC-151-T/arieSta
2046.04.07-Sat 16:22
Location : 三鷹市 東京都
MoonAge : 0.8
Sectors : 1/88 fired
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昨夜の新月セッション。橋田がサンシャイン60の屋上に来た。機器を広げる前に、ユキが言った。
「うちら、下の名前で呼び合ってるんだけど、下の名前聞いていい?」
橋田が少し驚いた顔をした。
「滝です。
「タキ?」
「はい」
「じゃあタキで。うちはユキ。こっちがハルで、こっちがダイチ。まー知ってるだろうけど一応ね」
タキが三人を見回し、
「雪、春、大地……。あ」
「気づいた?」
「全員、自然の名前ですね」
「タキも滝だから仲間だよ。うちはひらがなだけど細かいことは言いっこなし」
「タキならTで三人と重複しない。識別子はT/arieStaだ」とダイチが言った。
「T/arieSta、気に入りました」
タキが少し笑った。
その笑い方がどこか安堵したように見えて、ユキは「この人、緊張してたんだ」と思った。
★★★
今日タキから整理されたデータが届いた。機構のデータベースへのアクセス権は、タキの兼任承認と同時に下りていた。手続きとしては最速だった。
機構のデータベースから抽出した採石場リストだ。トゥバンに対応する可能性がある場所として、五件が挙げられていた。
ダイチがリストを開いて、すぐに言った。
「根拠が薄い」
予測通りの反応だ。ダイチは不確実なデータに対して最初に防御線を張る。
「薄いのはわかっています」
タキがオンラインで繋いだ画面越しに言った。
「トゥバンのクリスタルは確定例が全世界でゼロです。どこで取れるかの予測データがありません」
「全世界でゼロなの?」
「ゼロだ」とダイチが言った。
ハルが頷いて、補足する。
「かつての北極星。五千年前に目印にされていた星。対応するクリスタルはディスプレイの焼きつきと同じで今の座標を示さないかも。もう見つけられないかもしれないな」
「見つかるよ」とユキは言った。
「根拠は?」とハルが聞いた。
「ない……。でも見つかると思う」
ハルが小さく笑った。
「照射の夜と同じ順番だ。ないって言ってから、でも、って続ける流れ」
「なんとなく、だけじゃないよ」とユキは言った。
「トゥバンが北極星だったのは五千年前なんでしょ。そこから五千年間も地球上のどこかの石はずっと今のトゥバンの光を受け続けてた。新しく蓄積した石が絶対にあるはずだよね?」
「もしくは、計測器で昔の座標と今の座標でなんかいい感じに計算できたらイケる気がする」
ダイチが少し考えた。
「筋は通ってる」
問題は座標だった。
「計測機器の座標読み取りを調整する」とダイチが言った。
「できる?」
「タキと計算する」
画面のタキを見た。
「やります」と即答だった。
一週間後、ダイチとタキが計算結果を持ってきた。五千年分の地軸のずれを補正した座標変換式。これで計測機器を更新すれば、北極星版のトゥバンに対応したクリスタルが反応した時に正しく読み取れる。
アリエスタと機構の共同リリースとして、歳差補正アップデートを世界中のハンターに配布した。配布にかかったのは四十八時間。配布対象は三百チーム。タキが調整した配信スケジュールの成果だった。
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LC-159-Y/arieSta
2046.04.17-Tue 22:38
Location : 豊島区 東京都
MoonAge : 11.1
Sectors : 1/88 fired
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アップデートを配布してから三日後の夜、ユキは一人でサンシャイン60の屋上にいた。
今夜はセッションではない。一人で、保留クリスタルを見直していた。更新した計測機器を前に、今まで確定できなかったクリスタルを一個ずつかざしていく。
ほとんどは反応しない。次。次。反応しない。
東京の夜景が四方に広がる。
南西に月、南東に赤い火星。
次のクリスタル。かざした。
機器が反応した。でも方向が変だった。
今までに見たことのない方向を示している。北の空ではなく、もう少し傾いた、微妙な角度。
「歳差補正が効いてる」とユキは呟いた。
座標を確認した。AIが照合。少し時間がかかる。
りゅう座
ユキは動けなかった。
一秒。二秒。三秒。
「……あった」
誰もいない屋上で、ユキは言った。
手の中のクリスタルを見た。山梨の骨董市で三百円で買ったやつだ。ずっとポーチの中にあった。何度かざしても反応しなかった石。
歳差補正で、眠りから覚めた。
スマホを取り出した。ダイチに電話する。三コールで出た。
「トゥバン出た」
一瞬の沈黙があった。
「座標を送れ」
「今送る」
電話を繋いだまま、座標データを転送した。ダイチが確認する音がする。タキが何か言っている声が遠くに聞こえる。
「合ってる。トゥバンだ。歳差補正なしでは読めない方向だ。補正が正しく機能してる証明でもある」
「山梨の骨董市の三百円の石だった」
「値段は関係ない」
「わかってるけど言いたかった」
ダイチが少し間を置いた。
「ああ。おめでとう」
珍しい言葉だった。ダイチが「おめでとう」と言うのを、ユキは初めて聞いた気がした。
「ハルさんにも連絡するね」
「自分からかける」
電話が切れた。
ユキは屋上に一人で立っていた。手の中に、トゥバンのクリスタルがある。三百円の石。五千年前の北極星の記憶。
北の空を見上げた。
北の空は暗いままだった。
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LC-171-Y/arieSta
2046.05.18-Fri 20:30
Location : 豊島区 東京都
MoonAge : 12.4
Sectors : 1/88 fired
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新月まで十八日になった夜のセッションは、四人全員が屋上に揃った。
今夜、りゅう座
タキが機構との予算交渉を進め、来月からの予算増額が承認されたことを聞いた。
「そういえば、アリエスタって何て意味ですか?」
タキが聞いた時、ハルが由来を説明した。
単語の組み合わせの造語だということ。それに加えて、スペイン語圏のハンターから教えてもらった話もした。
『
その夜、ハルは新月セッションの後も屋上に残っていた。ずっと夜空の先、見えない壁を見ていた。
三日後、ハルは急用で連絡が取れなくなった。