ロスト・コズミック   作:シグワン

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第19話 エルタニン

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LC-182-H/arieSta

2046.05.29-Tue 10:30

Location : 中野区 東京都

MoonAge : 22.9

Sectors : 1/88 fired

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 ハルが戻った翌朝から動き始めて、三日目の朝。

 

 五日間の不在で溜まった珈琲の在庫は無傷だったが、情報は五日分の遅れを抱えていた。

 

 五日間。

 

 三月に照射した光は、その間に千三百億キロ進んでいた。マルイチの情報は、一歩も進んでいなかった。

 

 ノルウェーの地質調査機関への問い合わせ。

 一九八〇年代の採掘記録の原本請求。

 オーラフへの座標確認の督促。

 

 三つを同時に進めながら、ハルは三杯目の珈琲を飲んだ。

 

「話せないことって?」とユキは聞いた。

 

 昼過ぎ、二人だけになった時に。

 

「今はまだ」

 

「いつか話してくれる?」

 

「話すよ。ただ、もう少し整理してから……」

 

 ユキはそれ以上聞かなかった。ハルが何かを抱えているのはわかる。でも今は、次の新月まで七日だ。

 

「わかった。でも一個だけ確認させて。アリエスタに関係することなの?」

 

 ハルが少し間を置いた。

 

「関係するかもしれない。でも今すぐじゃない」

 

「わかった」

 

 それだけでいい。

 

★★★

 

 問い合わせの返事が来たのは四日後だった。

 

 ノルウェーの地質調査機関から直接。

 

 一九八三年、ノルウェー北部フィンマルク県の採掘記録に、通常と異なる光学的反応を示したクリスタルの記録がある。

 

 当時の担当者のメモには「特定方向への紫外線反応・原因不明」とある。現物は地質標本として保管されている可能性があるという。

 

 一九八三年から六十三年。標本として密封保管されていたことで、放電が遅かった可能性がある。

 

「タキさん」とユキは言った。

 

「機構の公式輸送ルートが使えます」とタキが話を聞く前に即答した。ただ、声は少し落としていた。マルイチの壁は薄い。

 

「外交扱いで通関優先。二日以内。ただし、これは私の裁量の範囲ギリギリです」

 

「お願いできますか?」

 

「村上部長に今すぐ連絡します」

 

 三分後、村上から返信が来た。

 

「承認されました。明日の午前中に発送してもらいます。明後日の夕方には届きます」

 

「ありがとうございます」

 

「村上部長が『間に合わせなさい』と言っていました」

 

 ユキは笑った。村上らしい言い方だ。

 

 

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LC-188-AI/arieSta

2046.06.04-Mon 17:34

Location : 中野区 東京都

MoonAge : 29.2

Sectors : 1/88 fired

自動記録 / 荷物受領

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 荷物は夕方に届いた。

 

 マルイチに四人が集まった。タキは三鷹から直接来た。

 

 ユキが箱を開けた。緩衝材の中に、標本ケースが収まっている。蓋を外すと、写真で見たクリスタルがあった。

 

 取り出して、手のひらに乗せた。

 

「思ったより重いね」

 

「サイズがある」とダイチが言った。

 

「三・二センチ。トゥバンより大きい」

 

「夜まで待てない?」とハルが言った。

 

「待てない」とユキは言った。

 

 深夜の新月まで、あと数時間だ。今夜確認できなければ、もし反応しなければ、代替案を考える時間が消える。

 

「ほら! 今すぐ屋上に行くよ。準備して」とユキが言った。

 

 サンシャイン60の屋上は夕暮れだった。西の空が暗くなるにつれ、水星が低空に浮かび始めていた。

 

「まだ明るい」とダイチが言った。

 

「待てないけど、待つ」

 

 四人で空が暗くなるのを待った。だんだんと夕焼けが薄れていく。オレンジが紺に変わっていく。水星がはっきりしてくる。南の空には、火星の赤い光も浮かび始めた。

 

 空が完全に暗くなった。

 

 ユキがクリスタルをかざす。

 

 機器が反応した。

 

 強い反応だった。ダイチの機器のランプが点いた。タキの機器も同時に点いた。

 

「座標」とダイチが言った。読み上げる声が、いつもより少し速かった。

 

「りゅう座γ(ガンマ)星。エルタニン」

 

 誰も何も言わなかった。

 

 水星が西の低空で白く光っている。

 

 火星が南の空で赤く輝いていた。

 

 東京の夜景が四方に広がっていた。

 

「出力値は……」とタキが言った。声が少し震えている。

 

「通常の固有名クリスタルの……四・七倍です」

 

「四・七」とダイチが繰り返す。

 

「りゅう座で一番明るい星だよ」とハルが言った。

 

「増幅器の設定を見直す必要がある」とダイチが言った。

 

「深夜までに間に合いそう?」とユキが聞いた。

 

「今すぐ、やります」とタキが言った。

 

 即答だった。

 

「ダイチさん、一緒にやってもらえますか」

 

「やる」

 

 二人がその場でタブレットを出して、設定の見直しを始めた。

 

 ハルは夜景越しの空を見上げていた。

 

 ユキも見上げた。

 

 しばらく、何も言わなかった。

 

 

 言葉はいらなかった。

 

 

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