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LC-191-DT/arieSta
2046.06.04-Mon 21:40
Location : 豊島区 東京都
MoonAge : 29.9
Sectors : 1/88 fired
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ダイチとタキが設定の見直しを終えたのは約四時間後だった。計器の数値が安定するまで、ダイチは画面から目を離さなかった。
〇・〇一の誤差も許さない。
隣でタキが計算結果をクロスチェックしていた。
二人の技術者が沈黙のまま手を動かす時間。
「完了だ」とダイチが言った。
「ユキさん、エルタニンの出力に対応した入力の安全マージンを設けました。こぐま座の時の一・三倍の入力まで耐えられます」
「耐えるって……。機械が壊れたりするの?」
「いや、壊れないけど、読み取りが雑になる。小さいものにフォーカスしてる時に、想定外に大きいものがあるとそっちはちゃんと把握できなくなることってあるだろ。それのことだ」とダイチが説明した。
「あー。SNSとかの動画フィルターかけてる時に、急な動きやアップしすぎたらフィルターが外れる感じ?」
「そんな感じです。設定と動作確認は、私とダイチさんで二重に確認しましたので大丈夫です」
「うん。信じてます」
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LC-193-Y/arieSta
2046.06.04-Mon 22:22
Location : 三鷹市 東京都
MoonAge : 29.9
Sectors : 1/88 fired
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三鷹の施設に全員が集まったのは、新月直前の夜。新月セッション開始の二時間前だった。
アリエスタ四人、村上、田中が設備担当として操作パネルの前に立つ準備をしていた。記録担当の研究員が三人。合計九人。
こぐま座の照射と比べて、人が増えていた。
「りゅう座は注目度が高いです」と村上が言った。
「世界中のスターハンターネットワークが今夜の結果を待っています」
「プレッシャーをかけるのはやめてください」とユキは言った。
「事実を伝えただけです」と村上は言った。
でも少し笑っていた。
石版が台座に載っていた。
りゅう座の形に、クリスタルが並んでいる。トゥバン、ラスタバン、そして今夜エルタニンが入る。くねくねとした龍の輪郭が、石版の上に浮かんでいる。
「エルタニン、置きます」とユキは言った。
低温保存ケースを開け、クリスタルを取り出した。冷たい。空気に触れた瞬間、うっすら曇った。息をかけたガラスみたいに。すぐに消えた。手のひらの中で、少しずつ温かくなっていく。
一九八三年のフィンマルクから来た石。六十三年間、暗所で眠っていた光。それをくぼみに向けて、そっと置いた。
石版が完成した。
りゅう座の十六の主要星が、全部揃った。
誰も拍手しなかった。でも研究室に満ちた静けさが、拍手より重かった。
セッション準備開始まで、十五分。
ユキは施設の外に出た。一人で空を見たかった。
三鷹の夜空。東京よりは暗い。南に土星が光っていた。
北の暗闇に、りゅう座がある。龍の形が、見えないまま夜空に潜んでいる。
「ユキ」とハルが後ろから来た。
「来たの?」とユキは言った。
「一人かと思って、少しだけいい?」
二人で夜空を見た。南に土星、西の低空に火星。黄道の上に残った二つの光。そのどちらでもない北の暗闇に、りゅう座が潜んでいる。
「こぐま座の結果が出るの、来年だよね」とユキは言った。
「うん。一回目なら来年の十一月頃だね。でも三回目が正解だろうから、二〇四八年の春頃になると思うよ」
「りゅう座の今夜の照射が成功したとして、その結果は」
「二年後! でしょ」
「そう。こぐま座とりゅう座の結果が、同じ年の春と梅雨の時期に出るね」
「その年、どんな空になるんだろう……」
ハルが少し考えた。
「北天の一部が晴れる。こぐま座の区域から北極星の光が届いて、りゅう座の区域から龍の星が見える。小さな穴が二つ開いた空だ。全天からすればほんの一部だけど」
「でも星が見える」
「うん。星が見える。初めて見る星だ。ユキたちの世代が生まれて初めて見る、本物の星の光だ」
ユキは空を見上げた。
暗い空。
土星と火星だけが光っている。でも二年後、あの暗闇の中に、小さな光が生まれる。
「届くといいな」
ハルがユキを見た。
「根拠は?」
「なんとなく」
ハルが笑った。声を出して笑った。
「そう言うと思った」
「うちはいつもこれだから」
「知ってる。でも届くと思う。俺も。なんとなくじゃなくて、ちゃんとした根拠として」
「どんな根拠?」
「三度の照射があった。エルタニンが出た。六十三年間待っていた石が出た。それだけのことが積み重なって今ここにいる。届かない理由がない」
施設の扉が開いて、ダイチが顔を出した。
「始まる」
日付が変わり、時計が〇時二十二分を示し、照射が始まる。施設内の機器が起動した。
石版のクリスタルたちが、共鳴して暗闇の中で一つ一つ灯り、電波のうねりが収束していく。
「最終確認。アリエスタ、問題ありませんか」
「村上さん。問題ありません」とユキは言った。
「機構も、問題ありません」と村上は続けた。
「照射準備を開始します」
タキが操作パネルの前に立ち、ダイチが横で計測機器を構えた。
エルタニンが、他のクリスタルの三倍以上の輝きで光っている。施設の壁にクリスタルの配置が影として映り、龍の形が浮かぶ。
「入力値、正常範囲内です。光増幅器および電波送信機の送信を開始します」
光が増幅され、塔の頂点から光の柱が伸びた。
北の空へ。りゅう座の区域へ。一光年先へ。
「安定しています」とタキが言った。
「出力、想定値の一一四パーセントだ」とダイチが言った。
ユキは塔の頂点を見上げた。
クリスタルをかざした夜から始まった話が、ここにある。湘南の砂浜の沢山のハズレの石から始まった話が、フィンマルクの六十三年の石と繋がって、今夜の光になっている。
「記録を開始します」とタキが言った。
「記録開始」とダイチが繰り返した。
四十六分間、光の柱は揺れずに、りゅう座の方向へ伸び続けた。
照射が終わったのは未明だった。
「照射完了。全パラメータ、正常範囲内で終了しました」
ユキは石版を見ていた。
照射が終わったクリスタルたちは静かだった。エルタニンも、今は普通の透明な石に見える。全部出し切った顔。
お疲れさま、と思った。
「次はケフェウス座ですね」とタキが横に来て言った。
「その前に、少しゆっくりしてもいいかも……」とユキは言った。
「でも私は施設の設計を続けます。ケフェウス座の増幅施設、早めに考えておきたいので」
「休まない人ですね」
タキはネクタイの結び目に指を触れた。機構の制服。
「星が待ってますから」
ユキは少し笑った。
「うん。じゃー休めないですね」
施設の外に出ると、夜風が頬を撫でた。六月の夜。初夏の入口。
南に土星が残り、火星は西の低空へ傾いていた。惑星だけの空に、初夏の夜が静かに更けていく。
その暗闇の向こうで、今夜放たれた光が走り始めた。
秒速三十万キロで。
りゅう座の区域へ向かって。
二年後の初夏まで。
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LC-200-AI/arieSta
2046.06.05-Tue 02:00
Location : 三鷹市 東京都
MoonAge : 0.1
Sectors : 2/88 fired
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第一章「スターフォール」── 了
第二章「ウェイティング・ライト」へつづく