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LC-328-H/arieSta
2047.07.20-Sat 15:30
Location : 中野区 東京都
MoonAge : 26.8
Sectors : 2/88 fired
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ケフェウス座の石版は、ダイチとタキが設計した。
二人の技術者が共同で作る石版は、これが初めてであり、アリエスタが自前の設計能力を持った証でもあった。こぐま座は、海底から引き揚げられた原盤をそのまま使った。りゅう座の石版はタキが設計して、ダイチが改良した。
ケフェウス座は、最初からDTコンビの仕事だった。
土曜の午後。マルイチにダイチとタキが設計図を広げていた。ユキはソファに座って、二人の作業を見ていた。
「くぼみの配置精度が石版の性能を決める」とダイチが言った。
「こぐま座原盤の加工精度は高かった。でも裏面も固定規格も人間の設備向けじゃない。接続部で照射出力に3%のロスが出てた」
「りゅう座の石版は私の設計をベースにダイチさんが改良して、ロスが0.8%まで下がりました」とタキ。
「今回はゼロを目指す」
「符号のない星は、どうします?」とタキが言った。
「こぐま座も、りゅう座も、IAUの公開資料の星図に引かれている線上の星には全部符号がありました。でも今後、符号のない星が線に入ってきます。くぼみに割り振る名前がありません」
「座標がある」とダイチ。
「石版は座標で作る。名前は人間の都合だ」
二人の会話は技術者の言語だった。ユキには半分くらいしかわからない。でもいい。二人が本気で作っているのは見ていればわかる。
「もう一つ、逆の問題があります」とタキが言った。
「ケフェウス座の
ダイチが座標一覧をスクロールした。
ケフェウス座の線を作るのは十個。
「くぼみがない」
「はい」
ここはユキにもわかった。
「え。ニュー星って、一番最初に見つけたやつじゃん」
「そうだ」とダイチ。
「使えないの?」
「石版には載らない」
「でも本物だよ。あの夜、光ったもん」
「本物だ」とダイチは言った。
「線を引いたのは人間だ。
ダイチは設計図の余白に、
「保管する」
名前はある。場所がない。
ユキはその一行を、しばらく見ていた。
ハルがマルイチの奥から古い資料を持ってきた。紙の資料を選ぶ時のハルは、デジタルでは見えない何かを探している。タブレットではなく、紙の束。
「これ、こぐま座原盤を解析した時の資料。三回使ったあの石版は、二〇三六年前後にスウェーデンの海底から引き揚げられたものだ」
「前に、作り直せないまま使ってるって言ってたやつだ」
「そう。機構は表面の配置とクリスタルの反応は解析できた。でも、内部で何をしてるかまでは分からないまま、照射に使った」
「だから電波も必要だって、二回目まで気づけなかった」
「そういうこと。りゅう座以降は、原盤から読み取れた仕組みを元に別の石版を設計した。でも、原盤を誰が作ったのかは、わかっていない」
沈黙。
「それでも、なんで海底にあったのかは分からない?」とユキ。
「素材の分析では、暗黒星雲出現の前後に製造されたと推定されています。古いものではないはずです。──ただ、公式に出ている分析結果は一部だけですが」
「暗黒星雲が現れた頃に、誰かが星の位置を縮尺で彫った石版(原盤)を作って、海に沈めた」
ユキは腕を組んだ。暗黒星雲が現れた頃。星が消えようとしていた時代。その時代の誰かが、わざわざ星の位置を石に彫った。なぜ?
「ハル、その石版(原盤)って
「直接の関係はないよ。O.L.A.F.が発足したのは二〇三四年前後だから。でもオーラフ……組織のトップが石版(原盤)の発見に興味を持っていたのは確かだ。元地質学者だからね」
「石版(原盤)を作った人が、クリスタルのことも知ってたってことはない?」
「可能性はある。でも証拠はない」
タキが静かに口を開いた。
「機構の内部資料で、石版(原盤)の発見に関する報告書を読んだことがあります。ただ、分析結果の一部が黒塗りにされていました」
四人の目が集まった。
「黒塗り」とユキ。
「はい。石版(原盤)の素材分析と、くぼみの加工痕に関するセクションです。理由は記載されていませんでした」
「壁の周期性ノイズを握りつぶした時と同じパターンだ」とハルが低い声で言った。
「同じ人物ですか」とダイチ。
「確認できていません。でも、機構の中で情報を制限する判断をした人間がいることは間違いない」
ユキは窓の外を見た。七月の午後。日が長い。外はまだ明るい。
石版の設計者。壁の周期性ノイズ。握りつぶされた報告。黒塗りの分析結果。
点と点が、まだ線にならない。でも点は増えている。
「今はケフェウス座の石版を作る。それが最優先だ」とダイチが言って、設計図に視線を戻した。
「うん。そうしよ」とユキは頷いた。
「点を繋ぐのは後にして、目の前の石版を完成させよっか」
タキとダイチが作業に戻った。
技術者の言語が再び部屋を満たした。
ハルが珈琲を淹れに立った。キッチンに向かう背中を、ユキは見ていた。
珈琲の匂いが部屋に届くころには、設計図の余白がまた少し減っていた。
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LC-329-T/arieSta
2047.07.20-Sat 22:40
Location : 中野区 東京都
MoonAge : 27.1
Sectors : 2/88 fired
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タキとダイチが帰ったのは、夜の九時過ぎだった。
ユキは帰りそびれていた。
ソファの端で膝を抱えている。テーブルには丸めた図面と、紙コップ。何個あるかは見ないようにした。数えるのはダイチの役目だ。
キッチンでは、ハルがまた珈琲を淹れている。
通知が鳴った。グループチャット。タキからだった。
タキ : 却下者の正式な特定が完了しました
タキ : 機構の観測データ管理部門の上級研究員。現在も在籍中です
タキ : 却下理由はどちらも「総合的に判断し有意性は認められない」──数値的根拠の添付なし
タキ : 根拠を示さないということは、示せないか、示したくないかのどちらかです
ユキはスマホの画面を見つめた。
「正しいんだろうけど……足りない」とユキは呟いた。
「機構は間違ってないかもだけど、でも隠してる人がいるのは事実だよね……」
タキ : もう一点。昼にお話しした黒塗りの件です
タキ : 伏せられた範囲が二つのセクションに限定されている点は、偶然ではないと思います。前にダイチさんが言っていた「加工精度が今の技術でも難しい」という件と、関係があるかもしれません
ダイチ: 昼の解析資料、ハルから借りる。加工痕の記述だけ拾う
別々の場所で、同じ文面を読んでいる。ハルだけが、まだ画面を見ていない。
ハルは何か知っている。
石版のことも、
壁のことも、
握りつぶされた情報のことも。
一光年先にある真実を、珈琲を飲みながら黙って抱えている。
全部じゃないけど、ユキより多く知っている。
そして全部は話さない。
今はいい。でもいつか聞く。
いつか。