第43話 1679
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LC-473-D/arieSta
2048.03.08-Sun 21:00
Location : 秋田県 男鹿半島
MoonAge : 23.5
Sectors : 2/88 fired, 1/88 open
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四人はまだ
最初から三泊の予定だった。午前三時に星を見た同じ日の夜、民宿の座敷は臨時観測室から、そのまま臨時解析室に変わっていた。
開門記録の整理は昼までに終わっていた。
一度目――
二度目――七星を揃えて光だけで撃った二月の分も開かなかった。
開いたのは三度目。光に電波を重ねた三月の分だけ。
男鹿の肉眼と計測、
三鷹の自動判定、
さらに複数の
開門ログでは、最初の光が通ってから数分だけ透過域が外へ拡がり、その後は止まった。開門は、始まれば数分で終わる。
そして、その後の信号は、世界を二度目のパニックに叩き込んだ。
一度目は壁が現れた夜。
二度目は壁の外から信号が来た夜。
テレビもSNSも「異星人からの応答」と騒いでいた。
NASAやJAXAを含む各国宇宙機関は、世界各地で同一信号が受信された事実の確認にとどめた。
送信者の正体、意図、壁との関係については判断を保留。各地の電波天文台も、自然現象だけでは説明しにくい規則性がある、としか言わなかった。
その空白を、ネットが埋めた。
「既接触説」
「静かな侵略説」
「動物園説」
「保護区説」
「友好返信説」
侵略してこないのではなく、もう終わっている――という投稿まで流れた。
どれにも証拠はなかった。世界中で同じ信号が繰り返し受信されたことだけは、事実だった。
民宿の座敷に四人が集まったのは、朝から続いた騒ぎが少しだけ整理された夜だった。ダイチのノートPCが座卓の真ん中にある。
おばちゃんが「また仕事してる」と言って、延長コードだけ置いていった。
「これが生の受信波形」とダイチ。
「周波数は水素線付近。短く点くパルスと、その三倍の長さで点くパルスがある。記号の間には、短い方と同じ長さの沈黙が一つずつ入る」
ダイチが波形を拡大した。
短、長、短、短、長。強弱ではない。
同じ周波数の電波が、二種類の長さで点いている。
「最初はモールスを疑った。世界中で試された。でも文字として区切れない。どの言語にも対応しない。モールスじゃない」
「二種類?」とユキ。
「二進数とかじゃないの?」
「今はそう呼ぶのが正確だ。便宜上、短を0、長を1で表示してる。二進数かどうかはまだ分からない」
画面が切り替わった。同じ短長列が、何度も並んでいる。
「一つの塊が1679個の記号。毎回、内容は完全一致」とダイチ。
「だが、塊と塊の受信間隔は一定じゃない」
「どれくらいなの?」
「一つの塊を送る時間をTとすると、無信号が2T、3T、5T、7T、11T。次以降も素数で続いてる」
「素数を絡めて、人工的な規則性だと気づかせる意図にも見えますね」
「秒じゃないんだ?」
「秒を共有できる保証がない」とダイチ。
「こいつ、自分自身を時計に、基準にしてる」
ハルの顔が上がった。
「……ダイチ、1679って言ったか?」
「知ってるの?」
「アレシボ・メッセージ。一九七四年に人類が宇宙へ送った電波メッセージだよ。総数が1679ビット。素因数分解すると解は23と73」
「で、長方形に並べるなら23×73か73×23の二通りしかない」
「宇宙人への手紙?」
「まあ、そうだね」
「それと同じ数が、今度は向こうから来たってこと?」
ハルはすぐには頷かなかった。
「まだ。同じ数ってだけだけど。でも、試す価値はあるよ。本家と同じ配置の23×73から試そう」
「先にネットで確認するか」ダイチがフォーラムを検索した。受信から十二時間後には、横23×縦73のグリッドがRedditにいくつも上がっていた。
世界中の天文オタクが、本家と同じ並べ方から試している。
「早いな」
「1679の数字を知っていれば、最初に試す」とハル。
ダイチがフォーラムの画像ではなく、自分のデータで表示し直した。本家のアレシボメッセージは、横23×縦73の縦長だった。
横23×縦73。グリッドが画面に現れた。
「……これ、ゼロとイチだと見辛くない? もっと見やすくできない?」
「表示だけなら変えられる」とダイチ。
「0を『.』、1を『#』。元データはそのまま」
画面のゼロとイチが、記号に切り替わった。
「うん、こっちの方が見える」
「けど……なんか……。違うっぽいね」とユキ。
規則的な塊は見える。でも、意味のありそうな絵としては成立しない。
「じゃあ、もう一方」とダイチが言った。
「元の列を、今度は73個ごとに改行する」
横73×縦23。画面が横長に組み直された。
今度は、明らかな区画と図形が現れた。
四人が黙った。
「向きは?」とユキが言った。
図形は出た。でも、宇宙に上下はない。
「一応、回転と鏡映は全部見る。0と1を逆にした表示も」
ダイチは九十度回転と鏡映を組み合わせた八通りを順に試した。さらに、短と長の対応を逆にした表示も確認した。
そして元の向きへ戻した。
「止めてください。そこです」とタキが言った。
タキがグリッドの右下を指した。
「この並び、本家のアレシボメッセージの太陽系図に似ていませんか」
ハルが、太陽系に見える区画だけを拡大した。
本家と並べる。
太陽を示す三行三列の塊。そこから続く惑星列。並びそのものはよく似ていた。
本家の太陽系部分。
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受信データの同じ部分。
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「そう見える。本家では第三惑星だけが、人間の図の側へずらされてる」
「第三ってことは、すい、きん、ち、……地球?」
ユキが二つを見比べた。
「本家は上にズレて、こっちは下にズレてて逆じゃない?」
ハルの指が止まった。
「逆だ。太陽やほかの惑星が同じ並びにある。第三惑星だけが、反対側へ出てる」
回転と鏡映を含む候補の中で、本家の配置と最も素直に対応するのは、最初の向きだった。
ただし、地球だけが逆方向へ出ている。意図があるように見えた。
「あと、これ」ユキが左下の別の区画を指した。
「北斗七星っぽいのない? あ、いや、今朝見た小柄杓に見えない?」
「形だけなら北斗七星と小柄杓は似てるからね」ハルの声が静かになった。
「でも、星七つだけじゃ断定はできないかな。ただ──受信のタイミングを考えると」
「そう! ポラリスの夜に来たんだから、こぐま座の方じゃない?」とユキ。
ハルが小さく頷いた。
ダイチが中段下段二つの区画を重ねた。
長く横へ伸びる帯はほぼ一致している。
左側の七点も。
右側の太陽系らしい並びも。
違うのは、一箇所だった。
「似た図が中段下段にあるんだが」とダイチ。
「状態の比較でしょうか」とタキ。
「ビフォー・アフターみたいな? なるほど……。あ、下の方だけ、こぐま座のとこ欠けてない?」
ユキが顔を近づけた。
三人が見直した。
中段は閉じている。
下段は、その箇所だけ欠落している。
ダイチが、差のある部分だけを拡大した。
中段。
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下段。
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「……壁に見える」とハル。
「中段と下段は同じ構成だ。左に七点、右に太陽系らしい図。それぞれに長い帯がある。下段側だけ、その帯の一部が欠けてる」
「うちらが開けた場所?」
ダイチが腕を組んだ。
「そう読める。ただし、まだそう読めるだけだ」
ハルが続ける。
「現状、敵意のあるデータには見えない。今読めてる範囲は、壁らしい構造と、こぐま座周辺の変化、それに太陽系らしい位置情報。まだ上側の数値と化学組成らしい区画が残ってる。あれを読まないと、全体の意味は決められないかな」
「でもさ」とユキ。
「壁と、こぐま座の絵が入ってたんだよ。世界中の研究者は壁に穴を開けたことないけど、うちらはあるんだよ。無関係なわけないじゃん」
誰も反論しなかった。
「数値データ、並行で見る」とダイチ。
「時間はかかりそうですが、見ましょう」とタキ。
「上側も、アレシボ・メッセージを踏襲した書き方だとしたら、話は早そうだよね」
ハルは、ワクワクを隠しきれていなかった。