フロム脳式ダンボール戦機ウォーズ   作:ダルマ

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もちっとだけ続けてみるんじゃ。


かみの門にて

 LBXプレイヤーの聖地である神威大門統合学園。その所在地である神威島は、日本の本土から数キロ程度の海域に設けられた人工島である。

 島には空港もなく橋も整備されていない為、移動手段は船を使う他ない。

 

「はぁ~、やっぱ船上の潮風は浜辺よりも格段に気持ちいいなぁ!」

「ん、陸では感じられない解放感、別格……」

「それな!」

 

 そんな数少ない移動手段である神威島行きのフェリーの甲板に、船上の人となった睦美と黒鵜の二人の姿があった。

 雄大な海と空のコントラスト、潮の香り、波の音色、そして時折聞こえるカモメの鳴き声に頬を撫でる潮風。

 二人は遮るもののない洋上という圧倒的な開放感を味わいながら、話に花を咲かせる。

 

「船旅ってこんないいものだったんだな」

「うん、新発見」

「そうだ睦美!」

「何?」

「神威大門統合学園を卒業したらさ、卒業旅行で船旅しようぜ! 勿論、ウォルターも一緒にさ!」

「あなたがガチTANか*1」

 

 こうして少々気の早い卒業後の予定も決まった所で、ふと船内アナウンスが聞こえてくる。

 

「ご乗船のお客様へご連絡いたします。本船は間もなく、神威島へ到着いたします。繰り返します──」

 

 刹那、同船していた他の転入生が声を上げた。

 その声に反応し睦美と黒鵜の二人が視線を向ける。そこで目にしたのは、大海原にぽつんと浮かんだ島。神威島の雄姿であった。

 

「おぉ、あれが!」

「神威島」

「いよいよだな、睦美!」

「うん!」

 

 神威島の雄姿を目に焼き付けながら、二人は刻一刻と迫るその瞬間に胸を躍らせる。

 程なく、神威島の玄関口である神威港に到着したとの船内アナウンスが船内に響き渡るのであった。

 

 

 

 

 用意されたタラップを使い、乗船客達が次々と神威港へと降り立っていく。

 睦美と黒鵜の二人も、私物の入ったキャリーケースとバックパックを持って、乗組員の案内に従い神威港へと降り立つ。

 

「ねぇ、黒鵜……」

「ん、どうした?」

「あれ」

 

 睦美の声に黒鵜は軽めのストレッチを中断すると、彼女の指差した方に視線を向ける。

 そこで彼が目にしたのは、神威島の中央に存在するなだらかな山、その山頂に存在する神威大門統合学園の雄姿。レンガ造りの時計塔をはじめとする学校施設は、島内に高層建築物等がない事も相まって、離れた港からでもその姿を目にする事が出来た。

 

「あれが、神威大門統合学園……」

「ここからでも見える位だから、結構大きそう」

「そりゃ現状世界唯一のLBXプレイヤー養成学校だからな。確か生徒数は二千人以上だったか……文字通りのマンモス校、施設の広さも半端ないな」

 

 今日から学び舎となる神威大門統合学園の雄姿を目にしながら、二人は各々の感想を零す。

 刹那、不意に転入生達に呼びかける女性の声が響き、二人の視線は声の主の方に向けられる。

 

「神威大門統合学園への転入生の皆さん、お集まりください!」

 

 女性の招集に応えるように、睦美と黒鵜を含めた数十人の転入生たちが集まる。

 

「皆さんお集まりになりましたね? それでは、学園にご案内しますのでついて来て下さいね」

 

 程なく、黒のスーツをきっちりと着こなした学校職員の女性の指示に従い、数十人の転入生たちは移動を開始する。

 神威港から道なりに歩く事数分。一行の目の前に神威島の街並みが姿を現した。

 

「こちらが島のメインストリートに設けられた神威商店街になります。商店街には食品から日用品、更には喫茶店や書店、更には映画館や遊技場など。様々な店舗があるのでお楽しみいただけますよ」

 

 女性職員の説明を他所に、転入生たちは神威商店街をまじまじと観察する。

 神威商店街には本土の様な見た目などを意識したデザイン建築や高層建築物等が存在せず、木製やコンクリート造りの古風な外観の建造物が建ち並んでいる。更には、オート三輪などのレトロな車等が行き交っており、その風景はまるで映画のワンシーンを彷彿とさせた。

 

「ね、黒鵜。こういう古めかしいけど懐かしい感じ、なんて言うんだっけ?」

「ノスタルジーだな。確か、神威島の街並みは昭和の時代の日本をモデルに整備されてるってどこかで見たな……」

 

 刹那、黒鵜の言葉を補足する様に女性職員の説明が行われる。

 

「ご覧の通り、神威商店街を含めた島の街並みは日本の高度経済成長期並びに安定成長期をモデルとして整備されています。この時代、日本は戦後の復興を経て目覚ましい発展を遂げました。同時に、当時の日本には向上心や困難に立ち向かう闘争心が溢れていました。そんな時代の環境を再現する事で、生徒達の意欲を掻き立てる。その様な理由から、この街並みが整備されたのです」

「へー、徹底してるね」

「だな」

 

 文字通り島全体で行われている学習環境づくりに、睦美と黒鵜の二人を含めた何人かの転入生たちは感嘆の声を漏らした。

 

 

 そんな一幕を挟みつつ、神威商店街を通り抜け更に道なりに歩き続ける事暫く。

 一行の目の前に、目的地である神威大門統合学園の校門が姿を現した。

 やはり間近で見るとその迫力や感動は一段と増す様で、転入生たちは口々に感嘆の声を漏らしている。

 

 そんな中、睦美と黒鵜の二人は、ある違和感を感じていた。

 

「ね、黒鵜。何だか、変な感じ」

「あぁ、歓迎……にしては妙に物々しいな」

 

 校門前には数人の学校職員、並びに十数人の屈強な警備員が立っており、一行を出迎えている。

 しかし、笑顔で出迎える学校職員に対し、警備員達の眼光は何れも鋭く、その雰囲気はさながら移送された受刑者を受け入れる刑務官の様であった。

 

「それではこれより守衛室で手続きを行いますので、皆さん二列に並んでくださーい!」

 

 結局違和感の正体を突き止める事は出来ぬまま、睦美と黒鵜の二人は列に混ざると、自分達の順番が回ってくるのを待つ。

 

「……照合確認。転入生の渡 黒鵜だな」

「はい!」

「ではこちらが君の学生証になる。くれぐれも紛失しない様に」

「はい、ありがとうございます!」

 

 職員の手から自身の学生証を受け取った黒鵜は、学生証に目を通しつつ、改めて神威大門統合学園の一員となった事実を噛みしめる。

 

(これが俺の学生証……。えっと学籍番号は……0824-FK3203、か)

 

 こうして自身の学籍番号を確認し終えた所で、再び職員が口を開いた。

 

「では最後に、LBXとCCM、携帯端末などは全てここで預からせてもらうので提出するように」

「……へ?」

 

 刹那、職員の口から飛び出した言葉に、黒鵜は面食らう。

 

「あ、あの、LBXとかって学校でも使うんじゃ……」

「必要なものは学園側から支給される」

「あ、そうですか……(格差が生じない為の措置か? マジで徹底してるなぁ……)」

 

 少々腑に落ちない部分もあるが、黒鵜は言われた通り自身のLBXとCCMを取り出すと、職員に手渡す。

 

「では、これで手続きは終了だ」

「ありがとうございます」

 

 こうして手続きを終えた黒鵜は、その後同じく手続きを終えた睦美と合流。それから暫く雑談した後、全員の手続きが終わったタイミングで体育館へと移動する事となった。

 

 

 

 

 二千人以上もの生徒を収容可能という事もあり、黒鵜達が案内された体育館はちょっとしたコンサートホール並みの広さであった。

 

「何が始まるのかな?」

「そりゃ、体育館にこれだけの転入生を集めてやることは一つだろ。……校長の有難くもながーーーい、挨拶だよ」

「あぁ、成程」

 

 刹那、案の定というべきか、体育館の壇上にとある男性が姿を現した。

 

「転入生の皆さん、ご機嫌麗しゅう。そして、よ・う・こ・そ、神威大門統合学園へ! 歓迎するわ、成大にね!」

 

 身に纏った衣服の上からでも分る体格の良さ、反面、その声は中性的で髪は艶やか、更に顔には個性的ながらも洗練された華やかなメイクを施している。文字通り、男性の肉体と女性の心を併せ持つ人物。

 この者こそ、神威大門統合学園の長である学園長の肩書きを持つ、大門(だいもん) ジョセフィーヌその人である。

 

(っ!!)

 

 刹那、両手を広げ歓迎の意を示すジョセフィーヌ学園長の視線が黒鵜に向けられるや否や、ウィンクが贈られる。

 次の瞬間、黒鵜は背筋に冷たいものが走るのを感じずにはいられなかった。

 

 因みに、どうやら同様の悪寒は隣にいた睦美も感じていたらしく、二人は暫く顔を青ざめさせていた。

 

「ミーは大門 ジョセフィーヌ、この神威大門統合学園の学園長を務めているわ。けれども、ミーが学園長だからって固くならないで、皆気軽に"ジョセちゃん"って呼んで頂戴」

 

 その後、ジョセフィーヌ学園長は転入生たちに歓迎の挨拶を行い。やがて、挨拶も終わった所で、再び口火を切る。

 

「では最後に、ミーから転入生の皆に訓示を一つ。……ここ(神威大門統合学園)は学び舎などではありません。ここは名も無きLBXプレイヤー達の戦場。誰もが、生きる為に戦っている。故に、戦って! 戦って! 戦い抜いて! 最後まで勝ち残りなさい。卒業を告げる、評決の日まで」

(はは、学園長NICE JOKE……。なんて雰囲気でもなさそうだな)

 

 ジョセフィーヌ学園長の口から飛び出した訓示の内容を聞き、転入生たちは耳を疑った。

 当然黒鵜もその一人で、冗談であると思いたかったが、ジョセフィーヌ学園長の表情は真剣そのものであった。

 

「それでは、チャオ!」

 

 最後にウィンクを残して壇上を去るジョセフィーヌ学園長。

 一方、残された転入生たちも、職員の指示に従い各々のクラスに向かう事となる。

 

 その胸中に、一抹の不安を抱いて。

 

 

 

 

 木の温もりが新鮮でもあり懐かしい、そんな校舎内を職員に案内され移動する事数分。睦美と黒鵜の二人を含めた数人の転入生たちは、とある教室の前で足を止めた。

 

「こちらが、皆さんの所属する高等部1年8組の教室になります。それでは」

 

 そう言い残し、職員は足早にその場を去る。

 扉の上に取り付けられたルームプレートには、職員の説明通り1年8組と書かれている。

 自分達がこれからお世話になる教室、同時に、扉の向こうには新しいクラスメイト達が様々な感情を込めた眼差しと共に待っている事だろう。

 睦美と黒鵜の二人を含めた数人の転入生たちは一様に深呼吸を行う。程なく、黒鵜が意を決して、代表として扉に手をかけた。

 

「来たか」

 

 扉を開けて飛び込んできたのは、廊下と同じく木の温もりに溢れた教室の中、教壇に立ちホームルームを進めていた一人の女性教師の姿。

 スラリとした、それでいてメリハリのある長身が黒のスーツとタイトスカートを一層引き立てる。ウルフカットに整えられた桜色の髪、鋭い吊り目も相まって、クールビューティーと称するに相応しい。

 

「私はセレン・ヘイズ。1年8組の担任と、現代文を担当している」

「「はじめまして、ヘイズ先生!」」

「挨拶はいい。それより、いつまでも扉の所で突っ立ってないでこっちに来い」

「「は、はい!!」」

 

 黒鵜達の担任となるセレン先生の指示に従い、彼らはぞろぞろと教壇の前まで移動する。

 そこで彼らが目にしたのは、黒を基調とした制服や作業服を着こなし、興味の視線を向ける1年8組の生徒達の姿であった。

 

「皆に紹介する。彼らが、今日からこのクラスに転入する転入生たちだ。では、手前から自己紹介を行ってもらう」

「は、はじめまして、渡 黒鵜です! クラスの一員として、これからよろしくお願いします!」

「両見 睦美。よろしくお願いします」

「皆さん、僕の名前はリトルベア、これから──」

 

 それから程なくして転入生全員の自己紹介が終わり、セレン先生が再び口を開く。

 

「では席についてもらうが……。そうだな、各々空いている席を使ってくれ」

 

 セレン先生の指示を聞き、黒鵜達は各々好きな空席へと移動する。

 その中で黒鵜が向かったのは、窓側の後ろから二番目にある空席であった。

 

「全員着席したな? では、授業を始める」

「「えぇっ!?」」

 

 無事全員が着席した所でセレン先生の口から飛び出した言葉を聞き、黒鵜達転入生はこぞって驚きの声を上げる。

 

「へ、ヘイズ先生! 僕達まだ教科書を支給されていないんですけど!?」

「必要な教科書は机の中に入っている、それを使え」

「あ、本当だ……」

「では改めて、授業を始める。今日は教科書の──」

 

 セレン先生の言う通り、机の中を確認すると各教科の教科書がきっちり用意されていた。

 その中から現代文の教科書を取り出した黒鵜は、急いで指示されたページをめくり始める。

 

「顔見せだけかと思ってたらいきなり授業に参加しろだなんて、誰でも驚くよね」

「え、あぁ、そうだな」

 

 刹那、不意に黒鵜の前の席に座っていた、綺麗な黒髪をポニーテールにした女子生徒が振り返りながら声をかける。

 

「あ、私はスミカ・ユーティライネン。よろしくね」

「こちらこそ、ユーティライネンさん。よろしく」

「今日からクラスメイトなんだし、そんなに畏まらないで。私の事はスミカって呼んで頂戴」

「了解だ、スミカ。なら俺も、気軽に黒鵜って呼んでくれ」

「分かったわ」

 

 こうして自己紹介を終え短い握手を交わした所で、不意に隣の席に座る、絹のような白髪に紅い瞳が魅力的な作業着姿の女子生徒から声をかけられる。

 

「二人とも、今は授業中ですよ」

「でもエア、待望の転入生よ、早く仲良くなりたいでしょ?」

「それはそうですけれど……」

「黒鵜、彼女は私の親友で、長井(ながい) エアって言うの」

「はぁ……。スミカ、自己紹介位自分で出来ます。改めまして、長井 エアです。今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく、長井さん」

「……あの、御迷惑でなければ、私の事も気軽にエアとお呼びください」

「了解、エア」

 

 更にエアとも短い握手を交わし終えた所で、不意に、黒鵜は鋭い視線を感じ取る。

 

「私の授業でお喋りとは……。いい度胸だな、貴様ら」

 

 その視線の主はセレン先生であり、ドスの効いた声からも分かる通り、授業に集中できていない三人に対して立腹の様子であった。

 

「渡!」

「は、はいぃ!!」

 

 刹那、自身の名前を呼ばれた黒鵜は、反射的に立ち上がる。

 

「問題だ。夜目を覚ましたメロスは起きてすぐ妹の花婿の家を訪れた。そして事情があるので結婚式を明日行って欲しいと頼んだ。これに対し花婿はぶどうの季節まで待ってくれと答えた。これに対して、メロスは何と言って押して頼んだ?」

「友の名はセリヌンティウス。……彼の命が狙われている!」

「では、それに対して描写された花婿の心情は?」

「誰か説明してくれよぉー!!」

「正解だ。座ってよし」

 

 文豪である高橋治*2の短編小説『走れメロス ~LONELY WAY~』。主人公であるアルバトロ・ナル・メロス・アスカが人質にされた竹馬の友の為、村に戻り妹の結婚式を挙げ、道中死鬼隊など様々な困難に行く手を阻まれつつも、約束の刻限までに戻る物語。

 今や教材の定番ともなった同小説からの問題を何とか答える事が出来た黒鵜は、安堵のため息を漏らしつつ着席した。

 

 その後は、先ほどの一件でセレン先生を怒らせると不味い事が骨身に染みた為、真面目に授業に取り組むのであった。

*1:
ガチでThat's Awesome! Niceの略で、プランC、所謂誉め言葉ですね。

*2:
主な作品に『異能生存体失格』や『斜陽界ガリアン』がある。

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